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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1285070
審判番号 不服2013-15261  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-07 
確定日 2014-03-13 
事件の表示 特願2008- 46254「粘着剤層付き透明導電性フィルムおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月16日出願公開、特開2008-251529、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年 2月27日(優先権主張 平成19年 3月 2日)の出願であって、平成25年 2月 4日付けで特許請求の範囲についての手続補正がされ、同年 3月 1日付けで拒絶理由が通知され、同年 4月10日付けで意見書が提出されたが、同年 5月 8日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年 8月 7日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、平成25年 2月 4日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載される事項によって特定される、以下のとおりのものである。(以下、請求項1?12に係る発明を、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明12」という。)

「【請求項1】
透明プラスチックフィルム基材の一方の面にアモルファス透明導電性薄膜が設けられたアモルファス透明導電性積層体と、前記透明プラスチックフィルム基材の他方の面に粘着剤層を介して設けられた、少なくともフィルム基材を有する離型フィルムとを有し、
前記離型フィルムの厚みが、前記アモルファス透明導電性積層体の厚みより大きく、
前記透明プラスチックフィルム基材の厚みが、10?40μmであり、
前記離型フィルムの厚みが、50?100μmであり、
前記アモルファス透明導電性積層体のMD方向の熱収縮率から前記離型フィルムのMD方向の熱収縮率を引いた値が、-0.3?0.45%であることを特徴とする粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項2】
アモルファス透明導電性薄膜は、少なくとも1層のアンダーコート層を介して、透明プラスチックフィルム基材の一方の面に設けられていることを特徴とする請求項1記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項3】
アモルファス透明導電性薄膜は、酸化インジウム90?99重量%および酸化スズ1?10重量%を含有する金属酸化物により形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項4】
離型フィルムの曲げ弾性率が、1500?8000MPaであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項5】
離型フィルムは、離型フィルムのフィルム基材が粘着剤層に配置される側に、剥離層および/またはオリゴマーの移行防止層を有することを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項6】
粘着剤層の厚みが、5?50μmであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項7】
粘着剤層が、アクリル系粘着剤層であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項8】
離型フィルムのフィルム基材の材料と、透明プラスチックフィルム基材の材料が、同種材料であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項9】
粘着剤層付き透明導電性フィルムは、140℃で1.5時間加熱した後のカールが25mm以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項10】
粘着剤層は、離型フィルムを剥離した後に、他の基材に貼り合わせるものであることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項11】
アモルファス透明導電性薄膜は、結晶化加工処理がなされた後において、粘着剤層から離型フィルムを剥離して、他の基材に貼り合わせるものであることを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載の粘着剤層付き透明導電性フィルム。
【請求項12】
請求項1?11のいずれかに記載の粘着剤層付き透明導電性フィルムの製造方法であって、
透明プラスチックフィルム基材の一方の面にアモルファス透明導電性薄膜が設けられたアモルファス透明導電性積層体における前記透明プラスチックフィルム基材の他方の面に、
離型フィルムに設けた粘着剤層を貼り合わせる工程を有することを特徴とする粘着剤層付き透明導電性フィルムの製造方法。」


第3 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、本願発明1?2は、下記の引用文献1?7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願発明3?12は、下記の引用文献1?9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。

引用文献1:特開2001-332132号公報
引用文献2:特開2002-150842号公報
引用文献3:特開2007-042473号公報
引用文献4:特開平7-297591号公報
引用文献5:特開2005-144858号公報
引用文献6:特開2006-261091号公報
引用文献7:特開2006-179274号公報
引用文献8:特開2005-141981号公報
引用文献9:特開2004-149884号公報


第4 当審の判断
1.刊行物の記載事項
(1) 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された、特開2001-332132号公報には、次の事項が記載されている。
(1a)「【0016】
【実施例】-実施例1-
片面にITO蒸着膜からなる透明導電膜を有する、厚さ125μmのPETからなる透明フィルムと、片面に0.15g/m^(2)になるように調整したシリコン系離型剤(信越化学工業株式会社製KS847T)を塗布した、厚さ38μmのPETからなる保護フィルムとを準備した。透明フィルムと保護フィルムの熱収縮率差は、MD方向0.1%、TD方向0.0%である。透明フィルムの透明導電膜形成面と反対側の面にアクリル系粘着剤(日東電工株式会社製)を25μmの厚さに塗布し、その塗布面に保護フィルムの離型剤塗布面を貼り合わせることにより、保護フィルム付き透明導電性フィルムを製造した。」

(1b)「【0007】…透明導電膜を保護フィルム積層より後で形成した場合でも、後工程で保護フィルムの付いたまま配向膜形成などの熱処理をすることができる。
【0008】前記透明フィルム及び保護フィルムは、その150℃30分間加熱後の熱収縮率差がMD方向、TD方向共に0.2%以下であると好ましい。これにより熱処理工程でのカール量が減るからである。」(なお、「…」は記載の省略を表す。以下、同様。)

(1c)「【0009】
【発明の実施の形態】透明フィルムとしては、パネル形成時の作業性や性能を考慮して厚さが通常3?300μm、好ましくは5?250μm、特に好ましくは10?200μm程度の薄い樹脂フィルムが適用可能である。…

【0014】保護フィルムは、透明フィルムが波長板や偏光板などの他のフィルムと積層される際に剥がされて廃棄されるので、透明性を備える必要はないが、ロールによる巻き取りなどの取り扱い性や上記の熱収縮性を考慮して、5?100μmの厚さが好ましく、材質としては前記透明フィルムに適用可能なものであればよい。また、透明フィルム、保護フィルム及び粘着剤は、タッチパネル組立時や導電膜形成時に加熱されることから、100℃以上特に200℃以上の耐熱性を備えているのが好ましい。」

(2) 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された、特開2002-150842号公報には、次の事項が記載されている。
(2a)「【0005】…結晶化した透明導電性層は、例えば特開昭61-79647号公報に記載されているように、ITO(インジウム、スズの酸化物)などのアモルファス性の透明導電性層を加熱することによって得られる…」

(3) 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された、特開2007-042473号公報には、次の事項が記載されている。
(3a)「【0047】
(導電性フィルムの作成)
第二透明基材として、厚さ25μm、幅1000mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポン社製,品番F13)を準備し、その片面に、シロキサン系樹脂(東芝シリコーン社製,Siコート801)により厚さ40nmのアンカー層を設けた後、透明導電性薄膜としてITO蒸着膜(厚さ20nm)を有する、導電性フィルムを作成した。ITO蒸着膜は非結晶性(結晶の割合は0面積%)であった。」

(3b)「【請求項1】
第一透明基材の第一面にハードコート層を形成したハードコートフィルムと、第二透明基材の第一面に1層のアンカー層を介して透明導電性薄膜を有する導電性フィルムとを、第一透明基材の第二面と第二透明基材の第二面とが対向するように配置し、粘着剤層を介して接着した導電性積層フィルムであって、
第一透明基材および第二透明基材はいずれも二軸延伸フィルムであり、
導電性フィルムにおける第二透明基材を基準とする縦方向の熱収縮率(S1)と、導電性積層フィルムにおける第二透明基材を基準とする縦方向の熱収縮率(S3)との差(S1-S3)が、-0.10?0.25%の範囲であることを特徴とする導電性積層フィルム。」

(3c)「【0001】
本発明は、2枚の透明基材を、粘着剤層を介して積層しており、かつハードコート層を有する導電性積層フィルムに関する。…」

(3d)「【0021】
以下に本発明の導電性積層フィルムを、図1を参照しながら説明する。図1に示す通り、導電性積層フィルムは、片面に透明導電性薄膜11を設けた第二透明基材12からなる導電性フィルム1と、粘着剤層2と、第一透明基材31の片面にハードコート層32を設けたハードコートフィルム3とを備え、第二透明基材12の他面と第一透明基材31の他面とが粘着剤層2で接着されたものである。図1の導電性フィルム1では、第二透明基材12にアンカー層13を介して透明導電性薄膜11が設けられている場合の例である。」

(3e)
【図1】



(4) 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された、特開平7-297591号公報には、次の事項が記載されている。
(4a)「[実施例1]厚さ12μmのポリエステルフィルム(ルミラー:東レ社製)上に、アクリル系粘着剤(アロンタックSCL-200:東亜合成化学社製)10重量部、トルエン10重量部、酢酸エチル10重量部からなる粘着剤層用塗布液をバーコーティング法により塗布、乾燥して膜厚2μmの粘着剤層を得た。上記粘着剤層上に厚さ38μmのセパレーター(セラピール:東洋メタライジング社製)を貼り合わせて基材を作成した。上記基材の粘着剤層とは反対の面にイオンプレーティング法にて厚さ30nmのITO膜を形成した。基材の熱変形、シワの発生もなく、正常にITO膜を形成することができた。また、この時の透明導電性薄膜の表面電気抵抗値350Ω/□で、全体の透過率は全光線透過率で85%であった。更に、塩ビ-酢ビ共重合体樹脂(MPR-TM:日信化学製)をアセトンに混合して固形分濃度4重量%の透明化樹脂層用塗布液を調整し、グラビアロールコーティング法により塗布、乾燥して膜厚100nmの透明化樹脂層を形成し、本発明の透明電磁波シールドフィルムを得た。この時の全体の透過率は全光線透過率で94%であった。次に、この透明電磁波シールドフィルムのセパレーターを剥離し、露出した粘着剤層を厚さ100μmの光拡散部材である光拡散フィルム(ライトアップSH:きもと社製)にラミネーターを用いて貼り合わせて、透明電磁波シールドフィルムを有する光拡散材を得た。」(第5欄第15?39行))

(4b)「【請求項1】実質的に透明なプラスチックフィルムの一方の面に粘着剤層及びセパレーターを順次積層した基材の前記プラスチックフィルムの他方の面に、透明導電性薄膜及び透明化樹脂層を順次積層したことを特徴とする透明電磁波シールドフィルム。」

(4c)「【産業上の利用分野】本発明は、透明電磁波シールドフィルムおよびそれを用いた光拡散材の製造方法に係わり、特に、透過型液晶表示装置のバックライトから発生する雑音電波や静電誘導等のノイズを効率良く防止するための光拡散部材に展着される透明電磁波シールドフィルムに関する。」(第1欄第18?23行)

(4d)「図1に示すように、本発明において使用される基材7は、実質的に透明なプラスチックフィルム1(以下、透明フィルムとする)の一方の面に、粘着剤層2及びセパレーター3を順次積層したものであり、このような多層構造の基材7を使用することにより、最終的に残る透明フィルム1の厚みを薄くすることができる。…透明導電性薄膜4上に積層される透明化樹脂層5は、透明導電性薄膜4を保護すると共に、電磁波シールド特性を阻害することなく、透明性を向上させる性質を持ち、透明導電性薄膜4を構成する金属酸化物の屈折率より低い屈折率の樹脂が用いられる。…上述のように、本発明による透明化樹脂層5は、有機物樹脂が薄く成膜されているので軟らかく、その表面に導電性金属箔テープを貼付すると、容易に透明導電性薄膜4との導通がとれ、透明導電性薄膜4からアースすることにより優れた電磁波シールド機能を持たせることができる。」(第2欄第38行?第4欄第23行)

(4e)
【図1】



(5) 引用文献5
原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された、特開2005-144858号公報には、次の事項が記載されている。
(5a)「【0044】
(実施例1)

【0046】
厚さ23μmのPETフィルム(第2基材)の第1面にITO蒸着膜を形成しITOフィルム(第2フィルム)を作成し、両端部に幅10mmのPETフィルムをスペーサーとしてITO蒸着膜が形成されていない面(第2面)に挿入しながら巻き取った。」

(5b)「【0001】
本発明は、ハードコート層及び/又はアンチグレア層を有する透明導電性フィルムの製造方法に関し、具体的にはアナログ方式タッチパネルの電極板などに好適な透明導電性フィルムロールの製造方法に関するものである。」

(5c)「【0030】
図5には、透明導電性フィルム70を、その幅方向両端部にスペーサーを供給しながら第4圧着ロール69にて接着し、スペーサー付き透明導電性フィルム80とするスペーサー接着工程を斜視図にて示した。スペーサー76は、第4圧着ロールを使用することなく、巻き取り時に直接ロール体に供給して巻き重ねてもよい。
【0031】
図4はスペーサー付き透明導電性フィルム80のB-B断面を示した断面図である。透明導電性フィルム70は、第1基材42の第1面に形成されたハードコート層40を有する第1フィルム16と、第2基材50の第1面に透明導電層52が形成された第2フィルム(導電フィルム)62とが、第1基材42、第2基材50の第2面同士を接着剤層44にて接着、積層された構造を有している。スペーサー付き透明導電性フィルム80のB-B断面においては、スペーサー76が接着剤層77を介して積層されている。透明導電性フィルムの幅方向中央部では、スペーサー76が存在せず、ロール体82として巻き重ねた際に空隙ないしフィルム間に圧力がかからない部分が形成される。」

(5d)
【図4】



(5e)
【図5】



(6) 引用文献6
原査定の拒絶の理由で引用文献6として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された、特開2006-261091号公報には、次の事項が記載されている。
(6a)「【0073】
(実施例1)
[導電性薄膜の形成]
厚さが25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)からなるフィルム基材の一方の面に、SiO_(x)膜(相対屈折率1.80、厚さ15nm)を真空蒸着法により形成した。
【0074】
次いで、SiO_(x)膜上に、SiO_(2)膜(相対屈折率1.46、厚さ30nm)を真空蒸着法により形成した。次に、SiO_(2)膜上に、アルゴンガス80%と酸素ガス20%とからなる4×10^(-3)Torrの雰囲気中で、酸化インジウム95wt%、一酸化スズ5wt%の焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚さ25nmのITO膜(導電性薄膜、相対屈折率2.00)を形成した。また、ITO膜は150℃×1hrの加熱処理により結晶化させた。」

(6b)「【0047】
…セパレーターを用いて粘着剤層5を転写する場合、その様なセパレーターとしては、例えばポリエステルフィルムの少なくとも粘着剤層5と接着する面に移行防止層及び/又は離型層が積層されたポリエステルフィルム等を用いるのが好ましい。
【0048】
前記セパレーターの総厚は、30μm以上であることが好ましく、75?100μmの範囲内であることがより好ましい。粘着剤層5の形成後、ロール状態にて保管する場合に、ロール間に入り込んだ異物等により発生することが想定される粘着剤層5の変形(打痕)を抑制する為である。」

(6c)「【請求項1】
透明なフィルム基材と、
前記フィルム基材の一方の面に、ドライプロセスにより設けられ、厚さが1?30nm、相対屈折率が1.6?1.9のSiO_(x)膜(xは1.5以上2未満)と、
前記SiO_(x)膜上に設けられ、厚さが10?50nmのSiO_(2)膜と、
前記SiO_(2)膜上に設けられ、厚さが20?35nmの透明な導電性薄膜とを有することを特徴とする透明導電性積層体。

【請求項3】
請求項1…に記載の透明導電性積層体に於いて、
前記フィルム基材の反対側の面には、透明な接着剤層を介して、透明基体が貼り合わされていることを特徴とする透明導電性積層体。」

(6d)「【0001】
本発明は、可視光線領域に於いて透明性を有し、かつフィルム基材上に導電性薄膜を備えた透明導電性積層体及びそれを備えたタッチパネルに関する。…」

(6e)「【0021】
図1は、本実施の形態に係る透明導電性積層体の一例を示す断面模式図である。即ち、透明導電性積層体10は、透明なフィルム基材1の一方の面に、SiO_(x)膜2、SiO_(2)膜3、透明な導電性薄膜4が順次積層され、他方の面に透明な粘着剤層5を介して透明基体6が貼り合わされた構造である。この様な構造とすることにより、例えばフィルム基材上にITO膜が積層された構造や、フィルム基材上にSiO_(2)膜及びITO膜が順次積層された構造の従来の透明導電性積層体よりもペン入力耐久性を向上させることができる。」

(6f)
【図1】



(7) 引用文献7
原査定の拒絶の理由で引用文献7として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された、特開2006-179274号公報には、次の事項が記載されている。
(7a)「【0063】
粘着剤層7を前記セパレーターを用いて転写する場合、そのセパレーターとしては、例えばポリエステルフィルムの少なくとも粘着剤層7と接着する面に移行防止層および/または離型層が積層されたポリエステルフィルム等を用いるのが好ましい。
【0064】
前記セパレーターの総厚は、30μm以上であることが好ましく、75?100μmの範囲内であることがより好ましい。粘着剤層7を形成後、ロール状態にて保管する場合に、ロール間に入り込んだ異物等により発生することが想定される粘着剤層7の変形(打痕)を抑制する為である。」

(7b)「【0022】
図1は、本実施の形態に係る透明導電性積層体の一例を示す断面模式図である。即ち、透明導電性積層体10は、透明なフィルム基材1の一方の面に、凹凸構造層2、第1誘電体薄膜3、第2誘電体薄膜4、透明な導電性薄膜5が順次積層され、他方の面に透明な粘着剤層7を介して透明基体8が貼り合わされた構造である。…」

(7c)「【0052】
このような透明な第1誘電体薄膜3および第2誘電体薄膜4と、透明な導電性薄膜5とが順次形成されたフィルム基材1の他方の面には、透明な粘着剤層7を介して透明基体8が貼り合わされる。この貼り合わせは、透明基体8の方に前記の粘着剤層7を設けておき、これに前記のフィルム基材1を貼り合わせるようにしてもよい。…また、セパレーター上に粘着剤層7を予め形成し、透明基体8またはフィルム基材1に粘着剤層7を転写することもできる。」

(7d)
【図1】



(8) 引用文献8
原査定の拒絶の理由で引用文献8として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された、特開2005-141981号公報には、次の事項が記載されている。
(8a)「【0019】
本発明の結晶性ITO膜は、基材上に形成された結晶性ITO膜であって、該結晶性ITO膜は、基材上に形成されたITO膜にマイクロ波が照射されることにより選択的に加熱されて結晶化されたものである…」

(8b)「【0042】
本発明において、ITO膜は、SnO_(2)含有割合が10重量%以下であることが好ましい。即ち、ITO膜のSnO_(2)含有割合が10重量%を超えると、ITO薄膜が後処理により結晶化しにくくなるため、好ましくない。ITO膜のSnO_(2)含有割合は過度に低いと、ターゲットの焼結密度の低下など生産性の問題が生じることから、ITO膜のSnO_(2)含有割合は1重量%以上、特に1?5重量%であることが好ましい。」

(9) 引用文献9
原査定の拒絶の理由で引用文献9として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された、特開2004-149884号公報には、次の事項が記載されている。
(9a)「【0016】
…SnO_(2)比率が10%のITOターゲットを用いてスパッタリング法により成膜されたSnO_(2)比率が10%のITO薄膜は30分の短時間アニールで結晶化させるには220℃以上の高温を要し、高分子フィルムを基材とするものには不適当であった。これに対して、SnO_(2)比率6%以下のITOターゲットを用いる本発明によれば、成膜されたSnO_(2)比率6%以下のアモルファスITO薄膜は150℃の低温、30分の短時間のアニールにより、結晶化を行うことができ、生産性を大幅に向上させることができる。
【0017】
本発明において、ITOターゲット又はITO透明導電薄膜のSnO_(2)比率は1?5%であることが好ましい。」


2. 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記(1a)によれば、「片面にITO蒸着膜からなる透明導電膜を有する、厚さ125μmのPETからなる透明フィルムの透明導電膜形成面と反対側の面にアクリル系粘着剤を塗布し、その塗布面に、片面にシリコン系離型剤を塗布した厚さ38μmのPETからなる保護フィルムの離型剤塗布面を貼り合わせることにより製造した、保護フィルム付き透明導電性フィルムであって、透明フィルムと保護フィルムの熱収縮率差が、MD方向0.1%、TD方向0.0%である、保護フィルム付き透明導電性フィルム」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


3. 本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比するに、引用発明における「PETからなる透明フィルム」、「ITO蒸着膜」、「アクリル系粘着剤の塗布面」、「片面にシリコン系離型剤を塗布したPETからなる保護フィルム」は、それぞれ、本願発明における「透明プラスチックフィルム基材」、「透明導電性薄膜」、「粘着剤層」、「離型フィルム」に相当し、また、引用発明における「透明フィルムと保護フィルムの熱収縮率差が、MD方向0.1%である」ことは、透明導電性薄膜自体は熱収縮しないとの技術常識に照らせば、透明導電性積層体のMD方向の熱収縮率から離型フィルムのMD方向の熱収縮率を引いた値が、-0.3?0.45%であること」に相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
透明プラスチックフィルム基材の一方の面に透明導電性薄膜が設けられた透明導電性積層体と、前記透明プラスチックフィルム基材の他方の面に粘着剤層を介して設けられた、少なくともフィルム基材を有する離型フィルムとを有し、
前記透明導電性積層体のMD方向の熱収縮率から前記離型フィルムのMD方向の熱収縮率を引いた値が、-0.3?0.45%である、粘着剤層付き透明導電性フィルム。

<相違点1>
透明導電性薄膜が、本願発明では「アモルファス」であるのに対し、引用発明では、アモルファスであるのか否か不明である点。

<相違点2>
本願発明では、「離型フィルムの厚みが、アモルファス透明導電性積層体の厚みより大きく、透明プラスチックフィルム基材の厚みが、10?40μmであり、前記離型フィルムの厚みが、50?100μmであ」るのに対して、引用発明では、離型フィルムの厚みが38μm、透明プラスチックフィルム基材の厚みが125μmである点。


4. 相違点についての検討
(1)相違点1についての検討
ア. 引用発明における透明導電性薄膜は、上記(1c)によれば、熱処理をすることができるところ、透明導電性薄膜をアモルファス状態で形成し、熱処理をすることにより、結晶化することは周知の技術的事項である(例えば、上記(2a)、上記(6a))。

イ. してみると、引用発明における透明導電性薄膜をアモルファス状態で形成して、相違点1を解消することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2についての検討
ア. 引用文献1には、上記(1d)によれば、透明プラスチックフィルム基材の厚みは、パネル形成時の作業性や性能を考慮して、通常3?300μmであり、離型フィルムの厚みは、ロールによる巻き取りなどの取り扱い性や熱収縮性を考慮して、5?100μmが好ましいとの記載があるが、引用発明についての、離型フィルムの厚みが38μm、透明プラスチックフィルム基材の厚みが125μmであるとの記載以外には、透明プラスチックフィルム基材の厚みと離型フィルムの厚みの具体例は全くない。

イ. ここで、引用文献3には、上記(3a)によれば、アモルファス透明導電性薄膜を設ける第二透明基材の厚みを25μmとすることが記載され、引用文献4には、上記(4a)によれば、透明導電性薄膜を設ける透明プラスチックフィルム基材の厚みを12μmとし、離型フィルムの厚みが38μmとして、離型フィルムの厚みを透明導電性積層体の厚みよりも大きくすることが記載され、引用文献5には、上記(5a)によれば、透明導電性薄膜を設ける透明プラスチックフィルム基材の厚みを23μmとすることが記載され、引用文献6には、上記(6a)によれば、アモルファス透明導電性薄膜を設ける透明プラスチックフィルム基材の厚みを25μmとすることが記載され、また、引用文献6?7には、離型フィルムの厚みを、粘着剤層5の形成後、ロール状態にて保管する場合に、ロール間に入り込んだ異物等により発生することが想定される粘着剤層5の変形(打痕)を抑制する為に、75?100μmの範囲内とすることが記載されていることから(上記(6b)、上記(7a))、引用文献3?6には、一方の面に透明導電性薄膜が設けられた透明プラスチックフィルム基材の厚みを、10?40μmの範囲内とすることが記載され、また、引用文献6?7には、離型フィルムの厚みを75?100μmの範囲内とすることが記載され、さらに、引用文献4、6には、離型フィルムの厚みを透明導電性積層体の厚みよりも大きくすることが記載されている。

ウ. しかしながら、引用発明における積層構造は、透明プラスチックフィルム基材の一方の面に、熱処理をすることができる、透明導電性薄膜が設けられた透明導電性積層体と、前記透明プラスチックフィルム基材の他方の面に粘着剤層を介して設けられた、少なくともフィルム基材を有する離型フィルムとを有するとの構造であるところ、引用文献3に記載されているのは、一方の面にハードコート層32を有することから、離型フィルムとはいえない、第一透明基材31を有する構造の導電性積層フィルムに関する発明であるし(上記(3b)?(3e))、引用文献4に記載されているのは、その上に透明化樹脂層5を積層することから、後工程で熱処理されることのない、透明導電性薄膜4が形成された構造の透明電磁波シールドフィルムに関する発明であるし(上記(4b)?(4e))、引用文献5に記載されているのは、一方の面にハードコート層及び/又はアンチグレア層40を有することから、離型フィルムとはいえない、第1透明フィルム42を有する構造のスペーサー付き透明導電性フィルム80に関する発明であるし(上記(5b)?(5e))、引用文献6に記載されているのも、ペン入力耐久性を向上させたタッチパネル用の、離型フィルムではない、透明基体6を有する構造の、透明導電性積層体に関する発明であり(上記(6c)?(6f))、引用文献3?6に記載されている、いずれの発明においても、その積層構造は、引用発明における積層構造とは異なっている。

エ. してみると、引用発明における積層構造とは異なることを前提とする、引用文献3?6に記載される技術的事項から、一方の面に透明導電性薄膜が設けられた透明プラスチックフィルム基材の厚みの数値を抜き出して、引用発明に適用することに合理性はないといわざるを得ない。

オ. また、上記(6b)、(7a)?(7d)によれば、引用文献6?7に記載されている離型フィルムは、粘着剤層のみが形成された離型フィルムにすぎず、引用発明における、粘着剤層付き透明導電性フィルムにつけたまま熱処理してもカール量が抑制されている、離型フィルムとは異なる。

カ. してみると、引用文献6?7に記載される技術的事項から、離型フィルムについての厚みの数値を抜き出して、引用発明に適用することにも合理性はないといわざるを得ない。

キ. さらには、ウ.で検討としたとおり、引用文献4、6に記載されている、いずれの発明においても、その積層構造は、引用発明における積層構造とは異なっており、引用発明における積層構造とは異なることを前提とする、引用文献4、6に記載される技術的事項から、離型フィルムの厚みと透明導電性積層体の厚みの大小関係を抜き出して、引用発明に適用することも合理的なこととはいえない。

ク. したがって、引用発明に引用文献3?7に記載された発明を適用しても、相違点2を解消することはできない。

ケ. そして、本願発明1は、相違点2に係る発明特定事項を備えることにより、粘着剤層付き透明導電性フィルムの製造工程や、被着体へ貼り合わせる際に、作業性を向上させることができると共に、透明導電性積層体を薄型化でき、最終的には廃棄される、離型フィルムが粘着剤層付き透明導電性フィルムの加工性が良好な範囲で有効に用いられるとの、発明の効果を奏するものである(【0031】、【0035】、【0061】)。

5. 小括
よって、本願発明1は、引用文献1?7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


第5 本願発明2について
本願発明2も、上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記「第4 当審の判断」と同様の検討により、引用文献1?7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 本願発明3について
本願発明3で特定されている、「アモルファス透明導電性薄膜を、酸化インジウム90?99重量%および酸化スズ1?10重量%を含有する金属酸化物により形成する」ことが、引用文献8?9の開示(上記(8a)、(8b)、(9a))から、周知の技術的事項であるとしても、本願発明3も、上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記「第4 当審の判断」と同様の検討により、引用文献1?9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 本願発明4?12について
本願発明4?12も、上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記「第4 当審の判断」と同様の検討により、引用文献1?9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-28 
出願番号 特願2008-46254(P2008-46254)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 増山 慎也  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 大橋 賢一
小川 進
発明の名称 粘着剤層付き透明導電性フィルムおよびその製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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