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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01F
管理番号 1285095
審判番号 無効2012-800121  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-08-09 
確定日 2014-03-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第4241900号発明「R-Fe-B系希土類焼結磁石およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
(1)本件特許第4241900号は、2007年3月1日(優先権主張:2006年3月3日、日本国、2006年7月27日、日本国、2006年7月27日、日本国、2006年9月4日、日本国、2006年12月28日、日本国)を国際出願日として出願され、平成21年1月9日に特許の設定登録がなされた。
(2)平成24年8月9日付けで特許無効の審判請求がなされ、これに対して、平成24年10月22日付けで被請求人から答弁書が提出された。
(3)平成24年12月6日付けで審理事項を通知した。
(4)平成25年1月10日付けで請求人から口頭審理陳述要領書が提出された。
(5)平成25年1月10日付けで被請求人から口頭審理陳述要領書が提出され、平成25年1月22日付けで被請求人から上申書が提出された。
(6)平成25年1月24日に口頭審理を行った。
(7)平成25年1月30日付けで請求人から上申書が提出された。


第2.特許請求の範囲
本件特許第4241900号の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(以下、請求項1,2,・・・10に係る各発明を、「本件発明1」,「本件発明2」,・・・「本件発明10」という。)

「【請求項1】
軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR_(2)Fe_(14)B型化合物結晶粒を主相として有するR-Fe-B系希土類焼結磁石体を用意する工程(a)と、
重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有するバルク体を、前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体とともに処理室内に配置する工程(b)と、
前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる工程(c)と、
を包含するR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明1」)

「【請求項2】
前記工程(c)において、前記バルク体と前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体は接触することなく前記処理室内に配置され、かつ、その平均間隔を0.1mm以上300mm以下の範囲内に設定する、請求項1に記載のR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明2」)

「【請求項3】
前記工程(c)において、前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の温度と前記バルク体の温度との温度差が20℃以内である、請求項1に記載のR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明3」)

「【請求項4】
前記工程(c)において、前記処理室内の雰囲気ガスの圧力を10-5?500Paの範囲内に調整する、請求項1に記載のR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明4」)

「【請求項5】
前記工程(c)において、前記バルク体および前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の温度を700℃以上1000℃以下の範囲内に10分?600分保持する請求項1に記載のR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明5」)

「【請求項6】
前記焼結磁石体は、0.1質量%以上5.0質量%以下の重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有する、請求項1に記載のR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明6」)

「【請求項7】
前記焼結磁石体は、重希土類元素RHの含有量が1.5質量%以上3.5質量%以下である請求項6に記載のR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明7」)

「【請求項8】
前記バルク体は、重希土類元素RHおよび元素X(Nd、Pr、La、Ce、Al、Zn、Sn、Cu、Co、Fe、Ag、およびInからなる群から選択された少なくとも1種)の合金を含有している、請求項1に記載のR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明8」)

「【請求項9】
前記元素XはNdおよび/またはPrである請求項8に記載のR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明9」)

「【請求項10】
前記工程(c)の後、前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体に対する追加熱処理を施す工程を含む、請求項1に記載のR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」(「本件発明10」)

<構成要件の分説>
本件発明1について、便宜上、その構成要件を次のとおり(1-a)?(1-d)のように分説する(以下、この分説に従って、「構成要件(1-a)」などという。なお、このように分説することについて当事者間に争いはない。)。

(1-a)軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR_(2)Fe_(14)B型化合物結晶粒を主相として有するR-Fe-B系希土類焼結磁石体を用意する工程(a)と、
(1-b)重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有するバルク体を、前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体とともに処理室内に配置する工程(b)と、
(1-c)前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる工程(c)と、
(1-d)を包含するR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。


第3.請求人の主張
1.請求の趣旨
特許第4241900号の登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求める。

2.請求の理由
(1)無効理由1(29条1項3号29条2項)
本件の請求項1ないし請求項10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、ないしは甲第1号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当するから、本件特許は無効とすべきものである。

(2)無効理由2(29条1項3号29条2項)
本件の請求項1ないし請求項10に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、ないしは甲第5号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当するから、本件特許は無効とすべきものである。

3.証拠方法

甲第1号証:特開平10-64746号公報
甲第2号証:特開2001-77386号公報
甲第3号証:特開2004-296973号公報
甲第4号証:IEEE TRANSACTIONS ON
MAGNETICS,VOL.26,NO.5,
SEPTEMBER 1990の1376-1378頁
(なお、甲第4号証につき、審判請求書では、「IEEE TRANSACTION ON MAGNETICS,VOL.26,NO.5, SEPTEMBER 1990」と記載され、また、頁については記載されていないが、正しくは、上記のとおりであることは、提出された証拠から明らかであるので、上記のとおりとした。)
甲第5号証:特開2005-11973号公報
参考文献1:JAPANESE JOURNAL OF APPLIED
PHYSICS,VOL.26,NO.6,JUNE,
1987,pp.785-800
(なお、参考文献1につき、口頭審理陳述要領書では、「JAPANESE JPIRNAL OF APPLIED PHISICS, VOL.26,NO.6,JUNE,1987,pp.785-800」と記載されているが、正しくは、上記のとおりであることは、提出された証拠から明らかであるので、上記のとおりとした。)

4.無効理由1の要点(本件発明1について)
特に争点となっている本件発明1についてのみ、無効理由1の要点を以下に記す。
なお、以下、原文では、丸付き数字のところを「○1」,「○2」等と表記している。

(1)甲第1号証に記載された発明について
請求書の18頁5-36行に記載のとおりであるから、甲第1号証には、以下の発明が記載されていることは明らかである。
(1-a)Ndを主たる希土類元素Rとして含有するR-Fe-B系合金粉末を主相として有するR-Fe-B系希土類焼結磁石を用意する工程(a)と、
(1?b)Dyを含有する原料合金粉末を、R-Fe-B系希土類焼結磁石とともに処理室内に配置する工程(b)と、
(1-c)’処理室内を800℃に加熱することにより、Dyを含有する原料合金粉末からDyをR-Fe-B系希土類焼結磁石の表面に供給する工程(c)と、
(1-d)を包含するR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。(請求書の6.(4)○3i)イ))

(2)本件請求項1に係る発明について
ア.本件請求項1に係る発明における「バルク体」について
ア-a.甲第1号証の実施例1で、焼結体の周囲に置かれた原料合金粉末は、焼結体と同じ原料、つまりDyを含有する合金粉末である。ここで、本件請求項1に係る発明における「バルク体」とは、本件明細書の段落0065の記載「RHバルク体の形状・大きさは特に限定されず、板状であってもよいし、不定形(石ころ状)であってもよい。RHバルク体に多数の微小孔(直径数10μm程度)が存在してもよい。」から、甲第1号証に記載された合金粉末が本件請求項1に係る発明における「バルク体」に相当することは明らかである。(請求書の6.(4)○3i)イ))

ア-b.「バルク」なる用語は、乙第2号証を引用しその通常の語義からして「粉末」を含まないとしているが、本件発明1では「バルク」なる用語ではなく、「バルク体」なる用語をあえて用い、その用語を本件特許の明細書において「形状・大きさは特に限定されず」と積極的に定義しているのであるから、「バルク体」を「バルク」と同一視して同義に解釈することは誤りであることは明らかであり、本件発明1の「バルク体」が甲第1号証の「粉末」を含むことは明らかである。(口頭審理陳述要領書の6.(1)A)○1、口頭審理陳述要領書の6.(3))

ア-c.
・本件発明1の「バルク体」も甲第1号証の「粉末」も焼結磁石体表面への重希土類元素の供給源であることは明らかである。すなわち、本件発明1の「バルク体」とは、焼結磁石体への重希土類元素の供給源であればよく、まさに本件明細書の段落0067の記載「RHバルク体の形状・大きさは特に限定されず、板状であってもよいし、不定形(石ころ状)であってもよい。RHバルク体に多数の微小孔(直径数10μm程度)が存在してもよい。」のとおり、いかなる形態であってもよく、焼結磁石体表面への重希土類元素の供給量は、温度、その形態の表面積或いは空間内の分子の平均自由行程、距離など様々なパラメータによって制御することができ、当然ながらこのような供給量の制御は設計事項であることは明らかである。従って、甲第1号証の発明において、「粉末」を「バルク体」とする動機付けが存在することは明らかである。(口頭審理陳述要領書の6.(1)A)○1)
・仮に「バルク体」なる物体が「粉末」を排除するとの見解を採用したとしても、本件発明1と甲第1号証に記載の発明との差異が、「バルク体」なる物体と「粉末」とにすぎない場合には、これらは単に重希土類元素の供給源としては共通であり、しかもこれらの形態の選択は単なる設計事項にすぎず、その差異によって進歩性が認められるものではないことは明らかである。(口頭審理陳述要領書の6.(1)A)○3)
・本件発明1における「バルク体」なる物体と甲第1号証における「粉末」とは重希土類元素の供給源として共通である。つまり、「バルク体」なる物体と「粉末」とでは作用が共通する。ここで、甲第1号証は「粉末」以外を使用することを否定しているわけではない。そのため、当業者は、甲第1号証を参照し、例えば、粉末が取り扱いにくい、もしくは、粉末を細かくする手間を省きたいなどの理由により、少し大きな粒子状(石ころ状)、板状、棒状、固形状の物体を使用することができる。つまり、当業者は、使用する物体の形状を適宜選択することが可能である。したがって、甲第1号証における「粉末」は、その作用の観点からも、本件発明1における「バルク体」に相当する。(口頭審理陳述要領書の6.(3))

イ.本件請求項1に係る発明における「(前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に)供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」工程について
イ-a.甲第1号証に記載された発明が本件請求項1に係る発明と同じ対象物に対して同じ条件で加熱処理を行っている、つまり処理室内で、Dyを含有するR-Fe-B系合金粉末および焼結体を加熱することにより、Dyを含有するR-Fe-B系合金粉末からDyを焼結体の表面に供給しているので、そのような供給と共に、つまりそのような供給をしつつ、Dyを焼結体の内部に拡散させるように構成されていることは明らかである。(請求書の6.(4)○3i)イ))

イ-b.しかも、そのような作用効果は、この種の分野において既に公知である。例えば、甲第2号証の明細書段落0013?段落0014(図3参照)には、「炉心管4」内に「半導体基板1」と「固体拡散源36」とを対向配置し、「炉心管4」内を減圧・加熱処理することで、「半導体基板1」への不純物の拡散処理を行うことが記載されており、甲第2号証の図5、図7及び図8を参照すればその拡散処理の際には「半導体基板1」の表面には膜が形成されずにその表面からそのまま拡散層になっていることが確認できる。すなわち、加熱により、拡散物を対象物の表面に供給しつつ、拡散物を対象物の内部に拡散する作用効果は既に公知であることは明らかである。(請求書の6.(4)○3i)イ))

イ-c.そもそも、本件請求項1に係る発明の構成要件(1-c)は、加熱を行った際のいわば「作用効果」を構成としたにすぎない。本来ならば、「方法」の発明として把握するためには、加熱を行った際の「作用効果」を奏するための「方法」としての構成を構成要件として明示すべきである。よって、本来ならば、構成要件(1-c)のうちの上記の「作用効果」に相当する部分を外した上で、本件請求項1に係る発明の新規性進歩性を判断すべきであろう。そうすると、本件請求項1に係る発明は、構成要件(1-c)のうちの上記の「作用効果」に相当する部分を議論するまでもなく、甲第1号証に記載された発明であり、ないしは甲第1号証に記載された発明に基づき当業者により容易になされたものである。(請求書の6.(4)○3i)イ))

イ-d.参考文献1を参照しながら、R_(2)Fe_(14)B系の焼結磁石体における周知事項について説明すると、図11のNd-Fe-Bの擬二元系の相図によれば、主相(T_(1)(Nd_(2)Fe_(14)B))の融点は1155℃(1428K)であり、主相(T_(1))の隙間に存在するNdの比率が高い粒界相は、混合相(T_(2)(Nd_(1+ε)Fe_(4)B_(4))+Nd)であり、融点が665℃(938K)である。
参考文献1に記載の周知事項を参酌すると、Nd_(2)Fe_(14)B系の焼結磁石体は、本件発明1の記載中の「700℃以上1000℃以下」の温度範囲において、主相が固相であり、かつ粒界相に液相が含まれる、ということが一般に知られているものと認められる。
以上の周知事項を甲第1号証の記載に組み合わせると、甲第1号証に記載の発明は、上記の如く焼結磁石体の粒界相内にDyが拡散していることは明らかであり、実質的には「供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」工程を含むことは明らかである。(口頭審理陳述要領書の6.(1)A)○2)

イ-e.甲第1号証の明細書の表4(段落0060)より、「本発明」のバインダーが「ロ」の場合及びバインダーがない「比較例」の「なし」の場合に、それらの「A」と比べて「B」の方が保磁力(iHc)が向上していることが分かる。
従って、甲第1号証に記載された発明は、Dyが焼結体の内部に拡散していること、すなわちDyを含有するR-Fe-B系合金粉末からDyを焼結体の表面に供給しつつ、Dyを焼結体の内部に拡散させるように構成されていることは明らかであり、ないしはそのような構成は甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に想到できたものである。(口頭審理陳述要領書の6.(1)A)○2)

5.無効理由2の要点(本件発明1について)
特に争点となっている本件発明1についてのみ、無効理由2の要点を以下に記す。

(1)甲第5号証に記載された発明について
請求書の26頁3-37行に記載のとおりであるから、甲第5号証には、以下の発明が記載されていることは明らかである。
(1-a)NdおよびPrを主たる希土類元素Rとして含有するR2Fe14B型化合物結晶粒を主相として有するR-Fe-B系希土類平板状磁石を用意する工程(a)と、
(1-b)Tbを含有するスパッタリングターゲットを、R-Fe-B系希土類平板状磁石とともにスパッタリング装置内に配置する工程(b)と、
(1?c)’スパッタリングターゲットを保持するSUS基板を加熱することにより、R-Fe-B系希土類平板状磁石を約800℃に加熱し、スパッタリングターゲットからTbをR-Fe-B系希土類平板状磁石の表面に供給しつつ、TbをR-Fe-B系希土類平板状磁石の内部に拡散させる工程(c)と、
(1-d)を包含するR-Fe-B系希土類平板状磁石の製造方法。(請求書の6.(4)○3ii)イ))

(2)本件請求項1に係る発明について
ア.本件請求項1に係る発明における「処理室内の温度を700℃以上1000℃以下に加熱する」について
ア-a.甲第5号証に記載された実施例5では「基板加熱と併行して成膜中での磁石試料の温度上昇を利用して成膜と同時に拡散を行うことを目的とし、RF出力を150W、DC出力を600Wまで上げてスパッタリングを開始した結果、磁石試料が赤熱するのが観測され、色調より温度は約800℃に達していると推測された。」(同明細書段落0078)と記載され、そこにはスパッタリング装置内を800℃程度に調整することが当業者ならば当然に理解され、このことは本件請求項1に係る発明の「処理室内の温度を700℃以上1000℃以下に加熱する」に相当することは明らかである。(請求書の6.(4)○3ii)イ))

ア-b.
・甲第5号証には、「スパッタリング」に代えて、「合金ターゲット」を用いて「蒸着」を採用してもよいことが記載されていることは事実である。そして、「蒸着」に際して、「加熱手段により、重希土類元素を含む被蒸着対象物及び平板状磁石を実質的に同じ温度に加熱するために処理室の温度を調節すること」は、以下にも例示するとおり、磁石に対して蒸着を行う技術分野における常套手段であることは明らかである。
例えば、甲第1号証の明細書の段落0054には、次のような記載がある。
「焼結体の周囲にジェットミル粉砕した原料合金粉末を置き、真空中で800℃の温度で、2時間保持する熱処理」
また、甲第3号証の明細書の段落0033には、次のような記載がある。
「実施例5
外径0.9mm、内径0.3mm、長さ10mmの円筒状のNd-Fe-B系焼結磁石成形体を、25重量%となるようにYb金属粉末と共に石英ガラス管に真空封入し、710℃で90分間Yb金属を収着した。」(口頭審理陳述要領書の6.(1)B)○1)
・一般的に、当業者は、蒸着による成膜を適切なレート、つまりコストと生産性に見合った実用的な成膜レートで行うためには、Dyの場合でいうと処理室の圧力が10^(-2)Torr程度であればその処理室の温度を1117℃程度に調節するだろうが、甲第5号証の明細書の段落0040に「実質的に成膜させながら同時に拡散を行う」との記載からわかるとおり、甲第5号証に記載の発明は、成膜が主目的ということではないので、そこには適切なレートで成膜を行うという目的は存在せず、つまり上記の如く実用的な成膜レートを確保する必要もなく、さらに甲第5号証に記載の発明は、その明細書の段落0043に「膜の一部が拡散処理後に拡散されずに磁石表面に残存しても構わないが、M元素を節減して十分な効果を得るためには、完全に拡散させることが望ましい。」と記載されているように、拡散についても完全に拡散すること、つまり最終的には磁石表面に膜が残存しないようにすること、換言すると成膜が目的でないことも明らかであるから、当業者がこのような意図をもって処理室の温度をあえて1117℃にしようとすることはなく、それ以下の温度、例えば700℃以上1000℃以下程度に調節しようとすることは当たり前であり、よって処理室の温度を700℃以上1000℃以下に調節することは設計事項にすぎないことは明らかである。(口頭審理陳述要領書の6.(1)B)○1)

イ.本件請求項1に係る発明において、バルク体から重希土類元素RHをR-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、重希土類元素RHをR-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させるときに、バルク体(およびR-Fe-B系希土類焼結磁石体)を加熱していることについて
イ-a.甲第5号証に記載された発明は「合金ターゲットをスパッタリング」しているので一応相違するが、甲第5号証の明細書段落0047の記載「磁石表面への希土類金属Mの供給法については特に限定されるものではなく、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーデポジション等の物理的成膜法や、CVDやMO-CVD等の化学的気相蒸着法、及びメッキ法等の適用が可能である。」から、甲第5号証に記載された発明は、「合金ターゲットをスパッタリング」するばかりでなく、「合金ターゲットを蒸着」すること、すなわち「合金ターゲットを加熱」することもその技術思想の範囲に含んでいることは明らかである。
本件請求項1に係る発明は、甲第5号証に記載された発明と実質的に同一であり、従って、本件請求項1に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であることは明らかである。(請求書の6.(4)○3ii)イ))

イ-b.バルク体から重希土類元素RHをR-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給するときに「バルク体を加熱」している点については、甲第4号証に同一の発明が明示されている。ここで、甲第4号証に記載された発明は、処理室としての石英チューブ(Quartz Tube)内に磁石としてのリボンとバルク体(Ribbons)としてのMoを含む合金(Sm Metal)とを配置し、700度?900度で加熱処理するもので、これにより高い飽和保磁力を得ている(甲第4号証の第1376頁左欄第33行?同頁右欄第8行及びFig.1参照)。すなわち、甲第4号証に記載された発明は、Moを含む合金からMoをリボンの表面に供給するときに「加熱手段によってMoを含む合金を加熱処理」していることは明らかである。
従って、本件請求項1に係る発明は、甲第5号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたことは明らかである。(請求書の6.(4)○3ii)イ))


第4.被請求人の主張
1.答弁の趣旨
本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。

2.答弁の理由
(1)本件特許請求項1(発明1)が、無効理由1により新規性進歩性を否定されることはない。また、請求項2?10の発明については、発明1が新規性進歩性を有する以上、当然に有効である。

(2)発明1が、無効理由2により新規性進歩性を否定されることはない。また、請求項2?10の発明については、発明1が新規性進歩性を有する以上、当然に有効である。

3.証拠方法

乙第1号証:意見書(特願2008-290899号審査手続にて提出)
乙第2号証:岩波理化学辞典第5版(岩波書店、1998年刊)1068頁
乙第3号証の1:特開2000-315611号公報
乙第3号証の2:特開2002-20803号公報
乙第4号証:特開2002-220661号公報
乙第5号証:Handbook of Thin Film Technology
(マグローヒル、1970年刊)
1-16頁、1-17頁、1-36頁

4.無効理由1に対する答弁の理由の要点(本件発明1について)
特に争点となっている本件発明1についてのみ、答弁の理由の要点を以下に記す。

(1)発明1と甲第1号証は以下の点で相違し、発明1と甲第1号証の相違が実質的であることは明らかであり、甲第1号証は無効理由とならない。
ア.相違点1-1について
ア-a.発明1はDy等のRHを含有するバルク体の使用を必須とするが、甲第1号証は同バルク体を使用しない点。
甲第1号証の「Dyを含有するR-Fe-B合金粉末」は、発明1のRHバルク体に該当しない。(答弁書の6.(4)(4.3))

ア-b.通常の語義として、バルクとは、「塊状の結晶・固体など、3次元的な拡がりをもち、かさばった状態の物質。薄膜、粒体、粉末に対して用いられ、表面、界面、端の効果が無視できる状態にあるものをさす」(乙第2号証)。
この通常の語義は、本件明細書に記載されたバルク体の状態と一致する。(答弁書の6.(4)(4.4))

ア-c.甲第1号証の合金粉末は、発明1のRHバルク体とは使用目的も使用態様もまったく異なる。合金粉末と焼結磁石体の化学組成が同じである以上、合金粉末から焼結磁石体にDyが供給されることはないのであるから、相違点1-1は本質的な相違点である。
・甲第1号証の合金粉末は焼結磁石体の原料合金粉末であるから、化学組成は焼結磁石体と同一である。同一の化学組成の物体を同じ温度に加熱した場合、両者から発生する気体の組成も一致する。そして、Dyは含有されると言っても微量であるから、発生する気体の大部分はNdである。
そうである以上、加熱しても、合金粉末のDyが焼結磁石体に移動して焼結磁石体のDy含有率が変わるということは起こり得ない。固相の組成が同じであれば、気相における濃度差は生じないから、Dyの移動も生じ得ないことは当然である。
この点において、発明1のRHバルク体と甲第1号証の合金粉末は本質的に異なる。(答弁書の6.(4)(4.4))
・甲第1号証の記載を文字通り読むと、合金粉末から金属原子が焼結磁石体へ飛来して、焼結磁石体表面を還元するごとくである。しかし、技術常識に基づいて検討すると、このような現象は起きないであろうと考えられる。加熱中に気化した(焼結磁石体からか合金粉末からかを問わず)金属原子は焼結磁石体表面とも合金粉末とも平衡状態にあるから、気相中の金属原子が焼結磁石体表面に付着することは起こり得るが、その際に焼結磁石体の表面の酸化された金属原子を還元したとしても、今度は飛来した原子が酸化物になってしまうから意味がない。焼結磁石体上の酸化物の量は変わらない。(答弁書の6.(4)(4.4))

イ.相違点1-2について
イ-a.発明1は、RHバルク体からDy等を焼結磁石体に供給しつつ、Dy等を焼結体内部に拡散することが必須であるが、甲第1号証はそうしていない点。(答弁書の6.(4)(4.3))

イ-b.甲第1号証のR-Fe-B系の合金粉末は、焼結磁石体と組成が同一の原料合金粉末であるから、両者を同じ処理室内で加熱しても合金粉末からDyが焼結磁石体に供給されることはない。甲第1号証は、合金粉末の機能につき、技術常識上明らかに誤った記載をしたにすぎない。
甲第1号証では、重希土類元素が焼結磁石体表面に供給されることはないのであるから、構成要件(1-c)の後半である「・・・供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」ことも起こり得ないのである。(答弁書の6.(4)(4.5))

(2)甲2号証について
甲第2号証は、太陽電池用の半導体基板に不純物を拡散させる技術を開示しているにすぎない。本件発明とも甲第1号証とも技術分野が異なる。甲第2号証に開示されている拡散処理装置は、半導体分野で使用される装置であるため、単結晶半導体基板の表面のごく薄い領域に微量の不純物拡散を行えばよく、焼結磁石体内部に重希土類元素を拡散させるための拡散処理装置に適用可能であるとは、当業者に想到し得るものではない。
そして、甲第2号証には、発明1の特徴である希土類元素の中でも気化しにくいRH元素を、蒸着に使用できないと考えられる700℃以上1000℃以下の温度領域で使用し、R-Fe-B系焼結磁石体の粒界相を通じて主相の外殻部分にRHを拡散せしめるという技術につき、何らの示唆も含んではいない。
甲第2号証を参照したからといって、甲第1号証と発明1の相違点は何ら解消されないのであり、発明1の新規性進歩性に影響する理由がない。(答弁書の6.(4)(4.6))

(3)甲第1号証におけるDyの供給・拡散について
ア.甲第1号証ではDyの焼結磁石体内部への拡散が認められないのかの理由については、甲第1号証の処理では、合金粉末から焼結磁石体へ実質的な量のDyが供給されることは起こり難いからである。
・甲第1号証において合金粉末と焼結磁石体は化学組成が同一であり、同じ処理室内において同じ温度に加熱されるのであるから、それぞれから発生する蒸気の組成も同じである。合金粉末から生じた蒸気と焼結磁石体から生じた蒸気のDy濃度は同じである以上、Dyが濃度の差に基づいて焼結磁石体へ移行することは起こり難い。しかも、甲第1号証実施例における合金粉末及び焼結磁石体のDyの含有量は0.28%であり、Ndの13.3%に比べて極めて少量である。したがって、仮にDyの合金粉末から焼結磁石体への供給が皆無ではないとしても、その量は極めて微量であり、焼結磁石体の磁気特性に影響するような量ではあり得ない。(口頭審理陳述要領書の6.(1)(1.4))
・合金粉末から蒸発したDy原子が焼結磁石体表面に飛来したとしても、焼結磁石体表面は酸化されているから、甲第1号証に明記されているように、金属Dyの原子は酸化物を還元して、自らは酸化物となると考えられる。酸化物となったDyは拡散することができない。焼結磁石体を構成する元素の大部分はDyではないから、飛来したDy原子によって還元される焼結磁石体表面の酸化物はDy以外の元素の酸化物がほとんどのはずであり、拡散することができる金属Dyは焼結磁石体表面に実質的には存在しない。(口頭審理陳述要領書の6.(1)(1.4))

イ.合金粉末と焼結磁石体の組成が同一であり、かつ同じ温度に加熱される以上、Dyに限らず合金粉末側から蒸発したR原子が焼結磁石体に蒸着されることは考えにくいのであるが、甲第1号証の発明者が、この技術常識に反するような記載をしたのは、おそらく、誤解したのであろう。
甲第1号証の【0015】における「熱処理時に製品の周囲にR-Fe-B系の合金粉末を置き、熱処理時に製品表面に希土類元素(R)を蒸着または吸着させて」等の記載における「蒸着または吸着」は、本件発明における焼結磁石体表面への「供給」とは、文言それ自体としては共通するが、技術的意味は異なるものと言わざるを得ない。本件発明1における「供給」は、拡散をもたらし、磁気特性の向上をもたらす量の供給を意味するが、甲第1号証の「蒸着または吸着」は拡散による磁気特性の向上をもたらし得ない程度の供給にすぎない。(口頭審理陳述要領書の6.(1)(1.4))

ウ.甲第1号証では、焼結磁石体と同一組成の原料粉末を、焼結磁石体と同じ装置内で同じ温度に加熱するのである。同一組成の2個の物を同じ温度に保持した場合に、2個の物の間で組成の偏りを生ずるというのは、熱力学の法則に反するから、焼結磁石体の組成が変動することは起こり得ない。
また、原料粉末から飛来したR原子は、焼結磁石体表面の酸化物を還元するのであり、自らは酸化物となるのであるから、粒界相内部に拡散することはできない。(上申書の6.(1))

5.無効理由2に対する答弁の理由の要点(本件発明1について)
特に争点となっている本件発明1についてのみ、答弁の理由の要点を以下に記す。

(1)発明1と甲第5号証は以下の点で相違し、相違点は重要な技術的意義があり、そして、甲第4号証を参照しても容易に想到することができない。
ア.相違点2-1及び相違点2-2について
ア-a.相違点2-1:発明1は加熱による処理室を使用するのに、甲第5号証はスパッタリング装置を使用する点。(答弁書の6.(5)(5.3))

ア-b.相違点2-2:発明1は、RHバルク体と焼結磁石体を実質的に同じ温度に加熱するために処理室を700℃以上1000℃以下とするのに対し、甲第5号証は平板状磁石のみを約800℃に加熱し、合金ターゲットは加熱しない点。(答弁書の6.(5)(5.3))

ア-c.
・スパッタリングは成膜の材料である金属を高温加熱しなくてよいことを利点とするのであるから、甲第5号証には、合金ターゲットを加熱しようという動機を生ずる理由がまったく存在しない。(答弁書の6.(5)(5.4))
・一般的にスパッタリング装置のターゲットは加熱せず、むしろ冷却することが必要であり、甲第5号証のスパッタリング装置もそうであると解される。
したがって、甲第5号証のターゲット(バルク体に相当)を焼結磁石体と同じ温度に加熱する動機がないに止まらず、加熱することには阻害事由が存する。(口頭審理陳述要領書の6.(2)(2.2))

ア-d.本件の重希土類元素RHを、700℃以上1000℃以下という温度領域で気化させ蒸着させることは、誰も思いつかない。
技術常識として蒸着のためには、蒸気圧10^(-2)Torrが必要とされている(乙第5号証)。乙第5号証から、本件に関係する希土類元素につき、蒸着に適する10^(-2)Torrとなる温度を列挙すると以下のとおりである。

甲第5号証請求項1の元素
Pr 1700K(1427℃)
Dy 1390K(1117℃)
Tb 1700K(1427℃)
Ho 1450K(1177℃)
甲第4号証記載の元素
Sm 1015K(742℃)
本件発明に関するその他の元素
Nd 1575K(1302℃)
甲第3号証に関する元素
Yb 830K(557℃)
Eu 884K(611℃)
Sm、Yb、Euを除き、1000℃以下で蒸着法を適用しようとは考えられないことが明らかである。(答弁書の6.(5)(5.4))

ア-e.甲第3号証実施例3はYbを収着させた例である。甲第3号証の〔0015〕には、高沸点であるDy等については、同じ方法が適用できず、Dy等を加熱するための高周波加熱用のコイルを設置し、磁石については誘導加熱されないようにすることを教示している。
すなわち、Dyを蒸着させる場合に、Dy供給源を磁石より高温に加熱する必要があることを教示している。(上申書の6.(3))

ア-f.甲第4号証は課題においても手段においても、発明1及び甲第5号証と共通性がなく、発明1の無効理由とは関係のない文献である。
・甲第4号証はSmFe_(10)(Ti_(1-x)M_(x))(M=V、Cr、Mn及びMo)という磁石に関する文献であって、RHはどこにも記載されていない。
焼結磁石体に焼結磁石体の金属とは異なる金属を供給し、拡散させようという技術思想はまったく存在しない。(答弁書の6.(5)(5.4))
・審判請求書26頁12?14行の「甲第4号証に記載された発明は、Moを含む合金からMoをリボンの表面に供給するときに『加熱手段によってMoを含む合金を加熱処理』していることは明らかである。」との記載は、審判請求書15頁の甲第4号証の引用部分(訳文)に含まれておらず、甲第4号証の他の個所にも記載されていないので、何かの間違いであろう。(答弁書の6.(5)(5.4))

イ.相違点2-3について
イ-a.発明1は焼結磁石体表面に、RHを供給しつつ拡散するので、焼結磁石体表面にRHが実質的に成膜されることはないのに対し、甲第5号証は成膜しつつ(Tb‐Coの膜の存在する状態で)、内部に拡散させる点。(答弁書の6.(5)(5.3))

イ-b.発明1は、通常の蒸着がなされるための蒸気圧よりもはるかに蒸気圧が低い温度でRHバルク体を加熱するので、重希土類元素RHが焼結磁石体表面に供給される速度は小さく、焼結磁石体表面に飛来したRHは速やかに焼結磁石体の粒界内部に拡散するので、実質的に表面にRHの膜を生ずることがない。
これに対し、甲第5号証では、通常の成膜速度でスパッタリングしながら、焼結磁石体においてRHの拡散が起きるようにしている。
甲第5号証と発明1では、焼結磁石体における重希土類元素RHの存在状態が全く異なる。(答弁書の6.(5)(5.5))


第5.当審の判断

1.本件発明
本件特許第4241900号の請求項1ないし10に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのもの(上記「第2.」)と認める。

そして、本件発明1について、その構成要件を上記「第2.」のとおり分説する。

<本件発明1の分説(再掲)>
(1-a)軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR_(2)Fe_(14)B型化合物結晶粒を主相として有するR-Fe-B系希土類焼結磁石体を用意する工程(a)と、
(1-b)重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有するバルク体を、前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体とともに処理室内に配置する工程(b)と、
(1-c)前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる工程(c)と、
(1-d)を包含するR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。

2.甲第1ないし5号証、参考文献(以下、「甲第6号証」という。)の記載(摘示)
(1)甲第1号証(特開平10-64746号公報)(以下、「甲1」という。)

(甲1-ア)
「【請求項1】 R-Fe-B系合金粉末(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種)にバインダーと水を添加、撹拌してスラリー状となし、これをスプレードライヤー装置によって造粒した粉末を原料粉末として、該粉末を磁場中で成形後、脱脂、焼結した後、0.3mm以下の研磨量で研磨加工が施され、一対の加工対向面間の寸法が3mm以下の焼結体に、研磨加工による磁気特性の劣化を回復させるための熱処理を施すことを特徴とする薄肉R-Fe-B系焼結磁石の製造方法。」

(甲1-イ)
「【請求項3】 熱処理が、焼結体の周囲にR-Fe-B系合金粉末を配置して500℃?900℃の温度で1?2時間保持する還元熱処理である請求項1記載の薄肉R-Fe-B系焼結磁石の製造方法。」

(甲1-ウ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、薄肉形状、小型形状でかつ高磁気特性を有するR-Fe-B系異方性焼結永久磁石を得る製造方法に係り、R-Fe-B系合金粉末の1次粒子またはそれを2次粒子に造粒したスプレー造粒粉末を用いて寸法精度を向上させた薄肉の焼結体に、高精度化のためにごく少量の研磨量で研磨加工を施した後に、該研磨加工によって劣化した磁気特性を特定の種々雰囲気の熱処理にて、回復させることにより、高精度かつ高磁気特性を維持した薄肉、小型の焼結永久磁石を得ることが可能な薄肉R-Fe-B系焼結磁石の製造方法に関する。」

(甲1-エ)
「【0015】
【発明の実施の形態】この発明は、スプレー造粒したR-Fe-B系合金粉末を用いて粉末冶金方法にて高寸法精度の薄肉の焼結体を得た後、寸法精度をさらに向上させるために0.3mm以下の研磨量で研磨加工を施し、一対の加工対向面間の寸法が3mm以下となった焼結体にさらに研磨加工後の加工歪みにより劣化した磁気特性を回復する方法として、機械加工後の取代の大きさあるいは加工歪みやヘアークラック等の大きさによって、研磨加工後に真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で熱処理したり、また熱処理時に製品の周囲にR-Fe-B系の合金粉末を置き、熱処理時に製品表面に希土類元素(R)を蒸着もしくは吸着させて還元して磁気特性を回復させたり、さらに熱処理前に製品に水素を吸蔵させた後、真空引きして脱水素し、真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で再焼結した後、熱処理することにより低下した磁気特性を加工前の特性に回復させることを特徴とする。」

(甲1-オ)
「【0016】R-Fe-B系合金粉末
この発明におけるR-Fe-B系合金粉末とは、少なくともR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)とFeとBとを含有する特公昭61-34242号に代表されるような公知のR-Fe-B系組成を全て適用でき、R以外の元素を別の元素で置換したもの、例えば、FeをCo等の遷移金属で置換したものや、BをCやSi等の半金属で置換したもの、あるいは、後述のごとく、保磁力や製造性を改善するために種々の添加元素を添加した合金粉末を含む。好ましい組成範囲の一例を以下に挙げる。
【0017】希土類元素Rは、Nd、Pr、Dy、Ho、Tbのうち少なくとも1種、あるいはさらに、La、Sm、Ce、Er、Eu、Pm、Tm、Yb、Yのうち少なくとも1種を含むものが好ましい。また、通常Rのうち1種をもって足りるが、実用上は2種以上の混合物(ミッシュメタル、ジジム等)を入手上の便宜等の理由により用いることができる。なお、このRは純希土類元素でなくてもよく、工業上入手可能な範囲で製造上不可避な不純物を含有するものでも差支えない。」

(甲1-カ)
「【0023】また、上記のR-Fe-B系合金粉末は、平均粒度が1?10μmの範囲が好ましい。合金粉末の平均粒径が1μm未満では、スプレー造粒法の場合特に酸化しやすく、焼結後の焼結体の焼結密度が95%程度と低下するため好ましくなく、また、10μmを超える平均粒径では粒径が大きすぎて焼結密度が95%程度で飽和し、該密度の向上が望めないため好ましくない。特に望ましい平均粒度の範囲は1?6μmである。」

(甲1-キ)
「【0042】この発明において、一対の加工対向面間の寸法を3mm以下とするのは、薄肉、小型で寸法精度が高くかつ磁気特性の高い焼結磁石が要求される中で、従来、得難いとされていた厚みが3mm以下の薄肉磁石を対象とするためである。すなわち、一対の加工対向面間の寸法が3mmを超えると、研磨加工により加工歪などを生じても、体積に対する加工歪の割合が減少するため、比較的磁気特性の劣化が少なく、この発明による熱処理を施す必要がなくなるためである。」

(甲1-ク)
「【0047】熱処理としては、
1)真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で500℃?700℃の温度で1?2時間程度保持する、
2)加工時の製品表面の酸化による熱処理時の磁気特性劣化防止のために、製品の周囲にR-Fe-B系合金粉末を置き、500℃?900℃で熱処理して製品の表面層を還元して磁気特性を回復させる、
3)熱処理前に製品に室温から850℃までの任意の温度で水素を吸蔵させた後、真空引きして脱水素し、真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で1000℃?1180℃の温度範囲で1?2時間再焼結した後、500?700℃の温度で1?2時間保持する熱処理をする、の3方法が好ましく、いずれも加工歪みやヘアークラック等により低下した磁気特性を加工前のそれとほぼ同等まで回復させることができる。特に、上記の2),3)の方法は、厚み1.0mm?0.5mm程度に加工した薄物については非常に有効である。
【0048】上記1)の熱処理において、熱処理温度を500℃?700℃にしたのは、500℃未満では、焼結体の粒界部に存在する希土類を多く含む相(Rリッチ相)が液相状態にならないため、欠陥部を修復することができず、また、700℃を超えると、加工表面に存在する酸素が焼結体内部に拡散してRリッチ相を酸化させ、その結果、欠陥部を修復することができず、磁気特性を回復させることができないためである。また、熱処理時間を1?2時間としたのは、1時間未満では主相となるR_(2)Fe_(14)B相とRリッチ相との濡れ性が不十分であり、また2時間を超えるとRリッチ相が酸化し、保磁力が低下するためである。
【0049】上記2)の熱処理において、焼結体の周囲にR-Fe-B系合金粉末を置くのは、焼結体の表面層を還元することにより磁気特性を回復させるためである。その際の熱処理温度を500℃?900℃にしたのは、500℃未満では、R-Fe-B系合金粉末のR成分が蒸発せず、900℃を超えると加工表面に存在する酸素が焼結体内部に拡散するため、蒸着されたR成分による還元効果がなくなるためである。また、熱処理時間を1?2時間としたのも、上記と同様な理由による。
【0050】上記3)の熱処理において、焼結体に室温から850℃までの任意の温度で水素を吸蔵させた後、真空引きして脱水素処理した後、再度焼結、熱処理を行なうのは、結晶組織を分解して、再焼結によって再結晶化を図ることにより、ヘアークラック等の大きな加工歪みを除去するためである。なお、上述した熱処理は、時効処理のための熱処理を兼ねることもできる。」

(甲1-ケ)
「【0051】
【実施例】
実施例1
Rとして、Nd13.3原子%、Pr0.31原子%、Dy0.28原子%、Co3.4原子%、B6.5原子%、残部Fe及び不可避的不純物からなる原料を、Arガス雰囲気中で高周波溶解して、ボタン状溶製合金を得た。次に、該合金を粗粉砕した後、ジョークラッシャーなどにより平均粒度約15μmに粉砕し、さらに、ジェットミルにより平均粒度3μmの粉末を得た。
【0052】該粉末に表1に示す種類及び添加量のバインダー、水、滑剤等を添加して室温で混練してスラリー状となし、該スラリーをディスク回転型スプレードライヤー装置により、不活性ガスに窒素を用い、熱風入口温度を100℃、出口温度を40℃に設定して造粒を行った。
【0053】上記造粒粉を圧縮磁場プレス機を用いて、磁場強度15kOe、圧力1ton/cm^(2)で10mm×15mmの金型で、表2?表4に示すように厚み寸法(磁場方向)を変えてプレス成形した後、水素雰囲気中で室温から300℃までを昇温速度100℃/時で加熱する脱バインダー処理を行い、引き続いて真空中で1100℃まで昇温し1時間保持する焼結を行い、さらに焼結完了後、Arガスを導入して7℃/分の速度で800℃まで冷却し、その後100℃/時の速度で冷却して550℃で2時間保持して時効処理を施して異方性の焼結体を得た。
【0054】焼結体の厚み方向に両面ラップで表2?表4に示すような寸法に研磨加工した後、真空中で500℃の温度で2時間保持する熱処理(A工程)、また加工した焼結体の周囲にジェットミル粉砕した原料合金粉末を置き、真空中で800℃の温度で、2時間保持する熱処理(B工程)、さらに加工した焼結体に600℃で30分間水素を吸蔵させた後、真空引きして脱水素し、真空中で1100℃まで昇温し、2時間再焼結した後、500℃で2時間保持して熱処理(C工程)の3通りの熱処理を行った。
【0055】成形時の造粒粉の流動性を表1に、また焼結体の厚み寸法バラツキ、加工前後および熱処理後の磁気特性を表2?表4に示す。なお、流動性は、内径8mmのロート管を100gの原料粉が自然落下し、通過するまでに要した時間で測定した。また、得られた全ての焼結体および熱処理品には、ワレ、ヒビ、変形などは全く見られなかった。」

(甲1-コ)
【0058】の【表2】には、焼結後磁気特性としてiHc(kOe)が13.3?13.6であることが記載されている。

(甲1-サ)
【0060】の【表4】には、熱処理方法としてB工程を行った場合の焼結後磁気特性としてiHc(kOe)が11.4?13.5であることが記載されている。

(甲1-シ)
「【0061】
【発明の効果】この発明によれば、薄肉形状や小型形状のR-Fe-B系異方性焼結永久磁石を製造する方法において、焼結体における寸法精度をできる限り高くし、寸法出しなどのための研磨加工による研磨量を極力少なくして加工による磁気特性の劣化を最小限に抑え、さらに、熱処理によって劣化した磁気特性をほぼ完全に回復させることにより、従来、作製が極めて困難であった厚みが3mm以下、さらには2mm以下の薄肉、小型形状で、しかも寸法精度が高く、磁気特性の優れた薄肉R-Fe-B系焼結磁石を得ることができる。」

(2)甲第2号証(特開2001-77386号公報)(以下、「甲2」という。)

(甲2-ア)
「【0013】実施例3
図3に本発明の実施例3の背中合わせ拡散を用いた作製法を示す。この実施例では、不純物の拡散に減圧拡散法を用いている。この方法は、バルブ12を用いて導入ガス7の炉心管4への流入を完全に止めるか、ごく微量とし、パッキン13等でキャップ6と炉心管4との間を気密封止し、排気チューブ33に排気ポンプ(図示せず)を接続して炉心管内の気圧を減圧しながら不純物を導入する方法である。この実施例では固体拡散源36を用いているが、固体拡散源を用いずに不純物を含むキャリヤガスを導入ガス7として用いることにより不純物を拡散してもよい。これらの方法では、炉心管内が減圧されているため不純物が炉心管内にまんべんなく行き渡り、半導体基板1表面での不純物拡散の均一性が増す。また、不純物拡散源に含まれる重金属など、半導体基板に欠陥を発生させたり、少数キャリヤライフタイムを低下させたりする原因となる有害な不純物が半導体基板内に拡散することを防止、または低減することが出来る。特に、不純物としてボロンを用いる場合は拡散温度が1000℃から1100℃前後と高く、有害な不純物の拡散による半導体基板品質の低下が発生しやすいが、本方法を用いることにより太陽電池作製後も半導体基板品質、特にキャリヤライフタイムを高く保つことが出来るため、太陽電池の光電変換効率を高くすることが出来る。
【0014】特にボロンを不純物として拡散した場合には、拡散後に熱処理を行うとキャリヤライフタイムが大きく低下することがある。これを防止するためには、熱酸化膜などの拡散防止膜を必要としない本発明の背中合わせ拡散法と上記減圧拡散法を組み合わせることにより不純物拡散以外の熱処理を完全に無くすことが出来るため、太陽電池の変換効率を高めることが出来る。」

(3)甲第3号証(特開2004-296973号公報)(以下、「甲3」という。)

(甲3-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低融点金属であるYbの蒸気をNd-Fe-B系焼結磁石バルク体および粉末へ収着し、磁化および保磁力を向上または回復させることで、高性能永久磁石を製造する技術に関する。」

(甲3-イ)
「【0014】
一方、希土類金属の場合、Yb、EuおよびSmは沸点が、それぞれ1193℃、1597℃および1791℃と比較的気化し易く、特にYbの場合はガラスまたはステンレス容器中550℃程度の温度域で収着を行うことができる。しかしながら、十分な収着を行うためには石英ガラス製の容器を使用することが望ましい。すなわち、Yb、EuおよびSmとも、800から850℃で良好に収着が進行し、最も良い磁気特性が観察される。
【0015】
一方、上記以外の希土類金属の場合、沸点が2000℃付近またはそれ以上となり、通常の抵抗加熱による外部加熱では十分に加熱することができない。そこで、図1に示す減圧容器の外側に高周波加熱用のコイルを設置し、これによりDy, Tb, Nd, Pr等の高沸点希土類金属の収着を行う。この場合、容器としては石英ガラスの他にアルミナなどのセラミックスがもちいられるが、真空漏れ等を考慮すると石英ガラスが望ましい。なお、この場合、収着される希土類金属は塊状のものが使用され、減圧容器の中心部に設置される。また、Nd-Fe-B系金属間化合物磁石は誘導加熱されない粉末または微小なバルク形状のものが好ましく、容器外周部に沿って導入される。
【0016】
次に、容器へ導入するNd-Fe-B系金属間化合物磁性材料であるが、収着の効率の点では表面粗度が高いもの程効率よく金属が被着される。従って、粉末の場合は収着時間も短縮でき、Yb金属の場合は60?90分程度の加熱で十分必要量のYb金属が収着でき、所望む磁気特性を実現できる。しかしながら、粉末の場合が粒子同士が凝集するため、鋼球などを入れると共に容器を回転させることが望ましい。他方、高沸点希土類金属に適用される高周波加熱方式の場合は、収着金属ののみを所定の温度まで加熱し、Nd-Fe-B系金属間化合物磁性材料は700?850℃に保つことが望ましい。また、容器内へ鋼球をいれることは望ましくない。
【0017】
一方、減圧容器内の真空度は10^(-2)Torr程度でも十分であるが、願わくば真空度は高い方が望ましい。また、容器内の残存雰囲気には、酸素、水、窒素、二酸化炭素等の酸素源、窒素源および炭素源となるガスが極力含まれないことが望ましく、通常、減圧容器等は清浄雰囲気(例えばArガス)に保たれたグローブボックス中で取り扱うとよい。」

(甲3-ウ)
「【0020】
作製したNd-Fe-B系磁性微粉末に対して25重量%程度のYb金属を混合し、石英容器に導入する。この際、これらの混合粉末と共に鋼球を石英容器内に導入することで、収着処理過程で生じる粉末間の凝集を効果的に抑制することができ、より均一な被膜を磁石粉末表面に形成することが可能となる。石英容器内は10^(-2) Torr程度の真空度でもYb金属の収着に問題はないが、1×10^(-6) Torr程度まで真空排気した後、封管するのが望ましい(図1参照)。この場合、排気により実現する真空の質、すなわちより高い真空度ならびに残存雰囲気中への酸素および水素蒸気濃度が低い程、収着処理時に磁性材料が酸化劣化されることを回避できる。」

(甲3-エ)
「【0021】
真空封管した石英容器全体を電気炉中に入れ(図1参照)、550から850℃の種々の温度で、90分間均一に加熱することでYb金属を気化させ、このYb蒸気中にNd-Fe-B系磁性微粉末を曝すことで、その表面へのYb金属の析出および内部へのYb拡散を促す。また、その後ひき続き請求項4に記載の手法に従い610℃において60分間均一化処理することで、Yb金属成分の更なる粒界への拡散を促進せしめる。」

(甲3-オ)
「【0033】
実施例5
外径0.9mm、内径0.3mm、長さ10mmの円筒状のNd-Fe-B系焼結磁石成形体を、25重量%となるようにYb金属粉末と共に石英ガラス管に真空封入し、710℃で90分間Yb金属を収着した。更に、この試料を取り出し、酸素および水分濃度を数ppm以下に調整したAr雰囲気の真空グローブボックス中、900℃で10分間熱処理後、610℃で20分間アニール処理を行なった(この試料を試料10とする)。得られた試料10の磁気特性を未処理の試料(比較試料)のそれと共に表4に示す。」

(4)甲第4号証(IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,VOL.26,NO.5,SEPTEMBER 1990)(以下、「甲4」という。)

(甲4-ア)
「The compositions of studied alloys were selected as SmFe_(10)(Ti_(1-X)M_(X))_(2)(M=V,Cr,Mn,and Mo). The quenched ribbons were prepared by a single wheel technique under Argon atomosphere. The substrate surface velocity (Vs) of Cu wheel varies from 20m/s to 40m/s. The size of the fabricated ribbon in flake form is (10-70)μmx(1-1.4)mmx(15-100)mm. In our previous study[3,4], it was shown that the optimum wheel speed for giving the high coercivities is 20m/s, and that the ribbons quenched excessively at 40m/s are suitable for further annealing. Over-quenched ribbons were annealed at 700℃-900℃ for 30min in Sm atmosphere asu shown in Fig.1. The ribbons were placed with small blocks of Sm in a quartz tube and were sealed in the vacuum of 10^(-2) Torr. The ribbons were ground into powders(under 0.15mm). The powders mixed with molten parafin were solidified in a magnetic field of 12 kOe. The magnetic properties were measured with a vibrating sample magnetometer with tha maximum applied field of 1.2 MA/m(15 kOe). The magnetic properties of some samples were measured after applying the pulse field of 4.0 MA/m(50 kOe). The crystal structures were studied by X-ray diffraction using FeKa radiation.」(第1376頁左欄第33行?同頁右欄第8行)
<訳文>
「研究対象の合金の組成として、SmFe_(10)(Ti_(1-X)M_(X))_(2)(M=V、Cr、Mn、及びMo)を選択した。焼入れしたリボンをアルゴン雰囲気下での単一ホイール技法(single wheel technique)によって用意した。銅ホイールの基板表面流速(Vs)は、20m/秒から40m/秒まで変化する。作製した薄片状のリボンのサイズは、(10-70)μmx(1-1.4)mmx(15-100)mmである。我々の以前の研究[3,4]では、高い飽和保磁力を与えるのに最適なホイール速度は20m/秒であり、40m/秒の速度で過剰に焼入れしたリボンがさらなるアニーリングに適していることが分かっている。図1に示すように、過剰に焼入れしたリボンをサマリウム雰囲気において700度?900度で30分間アニーリングした。リボンは、サマリウムから成る小ブロックと共に石英チューブ内に配置し、10^(-2)トールの真空で封止した。リボンを粉砕して(0.15mm未満の)粉末にした。溶融パラフィンと混合した上記粉末を12kOeの磁場で固化した。最大印加磁場が1.2MA/m(15kOe)である試料振動型磁力計を用いて磁気特性を測定した。いくつかの試料の磁気特性は、4.0MA/m(50kOe)のパルス磁場を印加した後に測定した。FeKa放射を用いたX線回折によって結晶構造を調べた。」(訳文は請求人によるもの)

(5)甲第5号証(特開2005-11973号公報)(以下、「甲5」という。)

(甲5-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、Nd-Fe-B系又はPr-Fe-B系等の希土類-鉄-ホウ素系磁石において、特にDy等の希少金属を有効活用した高性能磁石とその製造方法に関する。」

(甲5-イ)
「【0022】
本発明では、M元素(但し、Mは、Pr,Dy,Tb,Hoから選ばれる希土類元素の一種又は二種以上)を表面に成膜して拡散することにより、M元素を結晶粒界部に富化させることによりDy等の希土類金属を磁石内部側に薄く、表面側に濃く分布させることができる。
【0023】
Nd-Fe-B系焼結磁石において、大きな保磁力を得るためには異方性磁界の大きい希土類元素を含有元素として利用すること、及び磁石の内部組織を均一微細に制御することが特に有効である。Rを希土類元素とした場合に、R_(2)Fe_(14)B化合物の中ではNdよりPr、Dy、Tb、Hoが室温での異方性磁界が大きく、特にTbはNdのおよそ3倍であることから保磁力向上にとって好適である。
【0024】
ただし、これらの元素はいずれもNdより飽和磁化が小さいために、所望のエネルギー積を確保するためにはその添加量を極力少なくする必要がある。さらに、結晶組織内のNd_(2)Fe_(14)B主相のNd元素と置換すると磁束密度の低下が著しいために、結晶組織内ではなくNdリッチ粒界相に存在させるのが望ましい。」

(甲5-ウ)
「【0032】
【作用】
M元素を磁石表面に成膜後に熱処理を行うと、M元素は焼結磁石内の浸透しやすい結晶粒界に多く、主結晶内に少し拡散浸透する。M元素の拡散する深さは3ミクロン?1000ミクロン位であり、この拡散領域はM元素が主に拡散した結晶粒界層内にM-Nd-Fe-O成分の相が形成され、一部M元素が拡散した主結晶粒内にNd-Fe-B-M成分の相が形成される。この結晶粒界層の厚さは数十ナノメートル?1ミクロン位である。
【0033】
そして、M元素を多く含んだ結晶粒界層が形成されることによって保磁力が増加する。従来のNd-Fe-B系焼結磁石においても、主結晶粒(Nd-Fe-B)と結晶粒界層(数?数百ナノメートルの厚さで、主にNd,Fe,Oから構成されてNdリッチ相と呼称されている)があり、磁石が原料に加えられた少量のM元素を含む場合には、磁石のあらゆる部位の粒界層に均等にM元素が富化しているが、粒界の主成分がNdのためと、粒界層で完全には主結晶を包囲しきれていない等の理由により、高い保磁力が得られない。
【0034】
本発明では、焼結磁石や、原料粉末を成形後に熱間で塑性加工をした磁石に既に存在する結晶粒子間の薄いNdリッチな粒界層にM元素を多く存在させると共に、主結晶を完全に取り囲むほどの厚さの結晶粒界層を形成するため、保磁力の大幅な増加が果たされるものと推察される。」

(甲5-エ)
「【0038】
磁石表面に供給して堆積又は成膜する金属は、Ndよりも磁気異方性が大きく、且つ磁石を構成するNdリッチ粒界相等に容易に拡散浸透することを目的とするため、希土類金属のPr、Dy、Tb、Hoから選ばれるM元素の一種以上の単独又は上記のM元素を相当量含有する合金や化合物、例えば、Tb-Fe合金やDy-Co合金、又はTbH2等を用いることができる。
【0039】
上記のM元素は、磁石表面に単に被覆されているだけでは磁気特性の向上が認められないため、成膜した金属成分の少なくとも一部が磁石内部に拡散して構成元素の一部であるNd等の希土類金属リッチ相と反応した結晶粒界層を形成するようにすることが必須である。
【0040】
このため、通常は成膜した後に500?1000℃における熱処理を行って成膜金属を拡散させる。スパッタリングの場合には、磁石試料を保持具と共に熱しておくか、又はスパッタリング時のRF及びDC出力を上げて成膜することにより成膜中の磁石を上記温度範囲、例えば800℃位にまで上昇させることができるため、実質的に成膜させながら同時に拡散を行うこともできる。」

(甲5-オ)
「【0043】
なお、熱処理によってM元素は磁石内部に浸透するが、相互拡散によって元の磁石表面に存在するNdやFe元素の一部が、成膜したM元素にも取り込まれる。ただし、M元素の膜内でのこの種の反応量はわずかであるために磁石特性にほとんど悪影響を及ぼさない。膜の一部が拡散処理後に拡散されずに磁石表面に残存しても構わないが、M元素を節減して十分な効果を得るためには、完全に拡散させることが望ましい。」

(甲5-カ)
「【0047】
磁石表面への希土類金属Mの供給法については特に限定されるものではなく、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーデポジション等の物理的成膜法や、CVDやMO-CVD等の化学的気相蒸着法、及びメッキ法等の適用が可能である。ただし、成膜ならびに後の加熱拡散の各処理においては、希土類金属の酸化や磁石成分以外の不純物を防止するために、酸素や水蒸気等が数十ppm以下の清浄雰囲気内で行うことが望ましい。」

(甲5-キ)
「【0050】
図4に、本発明の製造方法を実施するのに好適な三次元スパッタ装置の概念を示す。図4において、輪状をした成膜金属からなるターゲット1及びターゲット2を対向させて配置し、その間に水冷式の銅製高周波コイル3を配置する。円筒形状磁石4の筒内部には、電極線5が挿入されており、該電極線5はモータ6の回転軸に固定されて円筒形状磁石4を回転できるように保持している。穴のない円柱や角柱形状磁石の場合は、複数個の磁石製
品を金網製の籠に装填して転動自在に保持する方法を採用できる。」

(甲5-ク)
「【0077】
(実施例5)
Nd_(10)Pr_(2)Fe_(77.5)Co_(3)B_(7.5)組成の原料合金を溶解し、粉砕、成形、焼結工程を経て、縦20mm、横60mm、厚さ2mm、体積が2400mm^(3)の平板状磁石を準備した。この磁石を、アネルバ(株)製のL-250S型スパッタリング装置内のSUS基板上に載せ、その上部に、80質量%Tb-20質量%Co組成の合金ターゲットを、SUS304製のバックプレートに固定して配置した。
【0078】
装置内を真空排気後、高純度Arガスを導入して圧力を5Paに維持し、抵抗加熱によってSUS基板を約550℃に加熱したまま、逆スパッタを行って磁石表面の酸化膜を除去した。ここでは、基板加熱と併行して成膜中での磁石試料の温度上昇を利用して成膜と同時に拡散を行うことを目的とし、RF出力を150W、DC出力を600Wまで上げてスパッタリングを開始した結果、磁石試料が赤熱するのが観測され、色調より温度は約800℃に達していると推測された。この基板加熱と試料加熱を維持した状態で30分間成膜を行い、一旦スパッタを中断して試料を表裏反転させた後、再度、同1条件で30分間成膜作業を行って、本発明試料(22)を製作した。
【0079】
EPMAによる試料観察の結果、磁石最表面におよそ20μmのTb-Co層と、その下部の80μmの深さまで結晶粒界に表面側ほど高濃度のTbとCo元素が分布していることが明らかになった。また、ICP分析結果による磁石中のTb量は、2.7質量%であった。そこで、出発合金中のNdとPr比率を変えず、Co量を微調整してTbを2.4質量%添加した合金を別途溶解し、同一寸法形状の磁石を製作して比較例試料(10)とした。比較例試料(10)のEPMA観察によれば、TbとCo元素とも磁石全体にほぼ均一に分布しており、結晶粒界と主相におけるTb濃度差は×2000倍の画像で見分けることが困難であった。
【0080】
各試料を切断して3枚を重ね合わせ、BHトレーサによって磁気測定を行った結果、比較例試料(10)のHcjが1.47MA/mに対して、本発明試料(22)のHcjは1.88MA/mであり、同一Tb量で大きな保磁力を示し、車等の耐熱用途向けに好適な保磁力が得られた。本実施例により、成膜と拡散処理を同一工程で行っても本発明の効果があることが明白になった。なお、本発明試料を60℃で90%RHの湿度試験に供した結果、耐食性が向上し、磁石内部の結晶粒界へのCo元素の拡散浸透が好影響を及ぼしていると推察された。
【0081】
【発明の効果】
本発明によれば、希土類磁石表面にDy,Tb等の希土類金属を成膜し、拡散して磁石内部よりも表面側の希土類濃度を高くすることによって、従来の焼結磁石より少ない希土類金属含有量で大きな保磁力を出現させることができるか、又は従来と同等のDy含有量においては残留磁束密度を向上させることができる。これにより、磁石のエネルギー積の向上、及び希少なDy等の資源問題の解決に寄与するものである。」

(6)参考文献1(JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,VOL.26,NO.6,JUNE,1987,pp.785-800)(以下、「甲6」という。)

(甲6-ア)
「In Nd-Fe-B ternary system, three ternary compounds(designated by tentative symbols T_(1),T_(2) and T_(3)) have been identified. T_(1) corresponds to Nd_(2)Fe_(14)B, which is the main phase in the commercially available Nd-Fe-B permanent magnet. Recently, the crystal structure of Nd_(1+ε)Fe_(4)B_(4)(T_(2)) was determined by Givord et al.」(792頁左欄17行?22行)
<訳文>
「Nd-Fe-B三元系では、(仮の符号T_(1)、T_(2)、及びT3によって示される)3つの三元混合物が確認される。T_(1)は、商業的に利用可能なNd-Fe-B永久磁石の主相であるNd_(2)Fe_(14)Bに対応する。近年、Nd_(1+ε)Fe_(4)B_(4)(T_(2))の結晶構造がギボードらによって見出された。」(訳文は請求人によるもの)

(甲6-イ)
「Figure 11 shows a vertical section along a line which ties Fe and T_(1) and an extraporated line of this tie line. In Fig.11, the high performance magnet properties are obtained in the aera with a slightly richer Nd content than the composition of T_(1). When the alloy with tne composition of the Nd-Fe-B permanent magnet is cooled down from the temperature above the melting point, firstly Fe is crystallized as primary crystal. However, in the sintering temperature, 1353 K, Fe primary crystal disappers and two phases, T_(1) and liquid exist in the alloy. In a cooling process after sintering, T_(1) is formed from the liquid and the liquid composition varies on a line extrapolated from the line which ties T_(1) with the composition of the magnet. On cooling, the composition of the liquid goes down to the monovariant curve, e_(5)E_(2). When the liquid reaches the monovariant curve, T_(1) and T_(2) are simultaneously formed from the liquid. Next, the composition of the liquid changes along this curve toward E_(2) and the liquid is depleted at point E_(2). As observed in the commercial sintered magnet, the metallographical structure of the sintered magnet consists of three phases, T_(1),T_(2), and Nd.」(793頁左欄9行?794頁左欄6行)
<訳文>
「図11は、FeとT_(1)とを結ぶ線分と、この線分の外挿線とに沿った垂直断面を示している。図11において、T_(1)の成分よりもNdの量がやや多い領域で高性能の磁気特性が得られる。Nd-Fe-B永久磁石の組成を持つ合金が融点より高い温度から冷却されるとき、まずFeが初晶として結晶化する。しかしながら、焼結温度である1353Kでは、Feの初晶が消失し、T_(1)相及び液相の2相が合金中に存在する。焼結の後の冷却プロセスでは、液相からT_(1)が形成され、T_(1)を磁石の組成と結ぶ線から推定される線上で液相の組成が変化する。冷却時に、液相の組成はモノバリアントな曲線e_(5)E_(2)に沿って下降する。液相がそのモノバリアントな曲線に到達するとき、液相からT_(1)及びT_(2)が同時に形成される。次に、液相の組成は、この曲線に沿ってE_(2)に向けて変化し、液相はE_(2)点で枯渇する。商業的な永久磁石に見られるように、焼結磁石組成の金属構造は、T_(1)、T_(2)及びNdの3相を含む。」(訳文は請求人によるもの)

(甲6-ウ)
「Temperature(K)」(図11の縦軸)、
「Fig.11. A vertical section of the Nd-Fe-B phase diagram along the tie-line between Fe and T_(1)」
<訳文>
「温度」、
「図11 FeとT_(1)との間の線分に沿ったNd-Fe-B相の垂直断面」(訳文は請求人によるもの)

3.無効理由1について
まず、本件発明1について検討する。

(1)甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という)
甲1には、上記(甲1-ア)ないし(甲1-シ)に摘示する記載が認めれるところ、「熱処理が、焼結体の周囲にR-Fe-B系合金粉末を配置して500℃?900℃の温度で1?2時間保持する還元熱処理である」(甲1-イ)、「加工した焼結体の周囲にジェットミル粉砕した原料合金粉末を置き、真空中で800℃の温度で、2時間保持する熱処理(B工程)」(甲1-ケ)とあり、真空中での熱処理には処理室を要することは明らかであるから、R-Fe-B系合金粉末を、焼結体とともに処理室内に配置する工程を有することが実質的に記載されていると認められる。
この点をふまえ、上記(甲1-ア)ないし(甲1-シ)の記載を総合すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という)が記載されているものと認められる。

<甲1発明>
R-Fe-B系合金粉末(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種)にバインダーと水を添加、撹拌してスラリー状となし、これをスプレードライヤー装置によって造粒した粉末を原料粉末として、該粉末を磁場中で成形後、脱脂、焼結した後、0.3mm以下の研磨量で研磨加工が施され、一対の加工対向面間の寸法が3mm以下の焼結体を用意する工程と、
前記焼結体の周囲に前記R-Fe-B系合金粉末を処理室内に配置する工程と、
前記焼結体の周囲に前記R-Fe-B系合金粉末を配置して500℃?900℃の温度で熱処理を施すことにより、前記焼結体表面にR(希土類元素)を蒸着もしくは吸着させて還元して、研磨加工による磁気特性の劣化を回復させる工程と、
を包含するR-Fe-B系焼結磁石の製造方法であって、
R-Fe-B系合金粉末が、Nd13.3原子%、Pr0.31原子%、Dy0.28原子%、Co3.4原子%、B6.5原子%、残部Fe及び不可避的不純物からなる原料を、Arガス雰囲気中で高周波溶解して、ボタン状溶製合金を得て、次に、該合金を粗粉砕した後、ジョークラッシャーなどにより平均粒度約15μmに粉砕し、さらに、ジェットミルにより平均粒度3μmとした原料合金粉末であり、
加工した焼結体の周囲にジェットミル粉砕した原料合金粉末を置き、真空中で800℃の温度で熱処理を施す、
R-Fe-B系焼結磁石の製造方法。

(2)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(2-1)構成要件(1-a)について
甲1発明の「R-Fe-B系合金粉末」を「焼結し」て製造される「焼結体」は、「R-Fe-B系合金粉末」が「Nd13.3原子%、Pr0.31原子%、Dy0.28原子%、Co3.4原子%、B6.5原子%、残部Fe及び不可避的不純物からなる原料」から得られるものであるから、その主たるRとしてNd(及びPr)を含有するといえ、また、主相となるR_(2)Fe_(14)B相を有する磁石であることは明らかである((甲1-ク))、つまり、「Nd」(「及びPr」)を主たるR(希土類元素)として含有するR_(2)Fe_(14)B相を主相として有する「R-Fe-B系」「焼結」磁石「体」であるから、本件発明1の「軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR_(2)Fe_(14)B型化合物結晶粒を主相として有するR-Fe-B系希土類焼結磁石体」といい得るものである。

(2-2)構成要件(1-b)について
・「重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有するバルク体」について
甲1発明の「焼結体の周囲に」「配置」される「R-Fe-B系合金粉末」は、「Nd13.3原子%、Pr0.31原子%、Dy0.28原子%、Co3.4原子%、B6.5原子%、残部Fe及び不可避的不純物からなる原料を、Arガス雰囲気中で高周波溶解して、ボタン状溶製合金を得て、次に、該合金を粗粉砕した後、ジョークラッシャーなどにより平均粒度約15μmに粉砕し、さらに、ジェットミルにより平均粒度3μmとした原料合金粉末」である、つまり、「Dy」を含有する「粉末」であるから、「重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有する」物体といい得るものである点において、本件発明1の「重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有するバルク体」と一致する。

・「ともに処理室内に配置する」について
甲1発明の「処理室」は、本件発明1の「処理室」と一致する。
そして、甲1発明は「処理室内」で「前記焼結体の周囲に前記R-Fe-B系合金粉末を」「配置する」のであるから、R-Fe-B系合金粉末を、焼結体とともに処理室内に配置するといえる。

(2-3)構成要件(1-c)について
・「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱する」について
甲1発明の「前記焼結体の周囲に前記R-Fe-B系合金粉末を処理室内に配置」して、「800℃の温度で熱処理を施す」ことは、合金粉末と焼結体が配置された処理室内の温度を800℃に加熱するといえるから、本件発明1の「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱する」といい得るものである。

・「前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」について
甲1発明の「前記焼結体の周囲に前記R-Fe-B系合金粉末を配置して」「熱処理を施すことにより、前記焼結体表面にR(希土類元素)を蒸着もしくは吸着させ」ること、「R-Fe-B系合金粉末」が「Nd13.3原子%、Pr0.31原子%、Dy0.28原子%、Co3.4原子%、B6.5原子%、残部Fe及び不可避的不純物からなる原料」から得られるものであること、つまり、熱処理を施すことにより、R(Nd,Pr,Dy)-Fe-B系合金粉末から希土類元素R(Nd,Pr,Dy)をR(Nd,Pr,Dy)-Fe-B系焼結磁石体表面に蒸着もしくは吸着させることは、熱処理を施すことにより、合金粉末からDyをR-Fe-B系焼結磁石体の表面に供給しているといえるから、本件発明1の「加熱することにより、」「重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有する」物体「から重希土類元素RHを」「軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR_(2)Fe_(14)B型化合物結晶粒を主相として有するR-Fe-B系希土類焼結磁石体」「の表面に供給」するといい得るものである。

<被請求人の主張についての検討>
この点について、被請求人は、甲1において、R-Fe-B系合金粉末と焼結体の化学組成が同一であるから、これらを同じ処理室内において同じ温度に加熱した場合、R-Fe-B系合金粉末から焼結体にDyが供給されることはない旨を主張している(上記「第4.」の「4.」「(1)」「ア-c.」、「4.」「(1)」「イ-b.」、「4.」「(3)」)。
しかしながら、甲1には、「熱処理時に製品の周囲にR-Fe-B系の合金粉末を置き、熱処理時に製品表面に希土類元素(R)を蒸着もしくは吸着させて」いるとあり((甲1-エ))、合金粉末から希土類元素(R)を焼結磁石体の表面に供給すると理解される。
また、技術常識からして、合金粉末と焼結磁石体の化学組成が略同じであり、同じ処理室内において同じ温度に加熱され、それぞれから発生する蒸気の組成が略同じであっても、気相中では合金粉末由来の金属原子と焼結磁石体由来の金属原子とが入り交じっていると考えられ、気相中の金属原子が焼結磁石体の表面に付着すると考えられるから、気相中の合金粉末由来の金属原子が焼結磁石体の表面に付着すること、すなわち、合金粉末から焼結磁石体にDyが供給されることは起こり得るのであって、上記の記載内容が誤りであるとも認められない。(なお、甲1において、合金粉末から焼結磁石体にDyが供給されることが起こり得ることは、答弁書において、「加熱中に気化した(焼結磁石体からか合金粉末からかを問わず)金属原子は焼結磁石体表面とも合金粉末とも平衡状態にあるから、気相中の金属原子が焼結磁石体表面に付着することは起こり得る」(上記「第4.」の「4.」「(1)」「ア-c.」)とあり、口頭審理陳述要領書において、「仮にDyの合金粉末から焼結磁石体への供給が皆無ではないとしても、その量は極めて微量であり」、「合金粉末から蒸発したDy原子が焼結磁石体表面に飛来したとしても」、「甲第1号証の「蒸着または吸着」は拡散による磁気特性の向上をもたらし得ない程度の供給にすぎない」(上記「第4.」の「4.」「(3)」「ア.」及び「イ.」)などとあり、被請求人も認めるところである。)
また、乙第3号証の1及び2には、甲1において合金粉末から希土類元素を焼結磁石体の表面に供給することが起こり得ないことは、記載も示唆もされていない。
よって、被請求人の上記主張は採用することができない。

(2-4)構成要件(1-d)について
甲1発明の「R-Fe-B系焼結磁石の製造方法」は、本件発明1の「R-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法」と一致する。

(3)一致点、相違点
以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

[一致点]
「(1-a)軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR_(2)Fe_(14)B型化合物結晶粒を主相として有するR-Fe-B系希土類焼結磁石体を用意する工程(a)と、
(1-b)’重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有する物体を、前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体とともに処理室内に配置する工程(b)’と、
(1-c)’前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記物体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給する工程(c)’と、
(1-d)を包含するR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」である点。

[相違点]
(相違点1)
「重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有する」「物体」が、
本件発明1では、「バルク体」であるのに対して、
甲1発明では、「粉末」(原料合金粉末)である点。

(相違点2)
「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記物体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給する工程」が、
本件発明1では、「前記物体」「から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」であるのに対して、
甲1発明では、「前記物体」「から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給する」ものの、「供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」ようにしていない点。

(4)判断(本件発明1について)
ア.29条1項3号
ア-a.相違点1の存在について
甲1発明の「粉末」は、本件発明1の「バルク体」と相違する。
「バルク」なる用語は、「塊状の結晶・固体など、3次元的な拡がりをもち、かさばった状態の物質」を意味し、「薄膜、粒体、粉末に対して用いられ」る用語(粉末に対比して用いられる用語)とされ、「表面、界面、端の効果が無視できる状態にあるものをさす」(乙第2号証)から、その通常の語義からして「粉末」を含まないことは明らかであり、また、本件発明1の「バルク体」は、本件特許明細書及び図面全体を精査しても、「バルク」(である物体)を意味するのであって、「粉末」を含むとは解し得ないものである。
よって、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1で相違する。

<請求人の主張についての検討>
この点について、請求人は、次の主張をしているが、以下に示すとおり、採用することができず、本件発明1と甲1発明には、上記相違点1が存在する。

請求人は、本件特許明細書の段落【0067】の記載から、本件発明1の「バルク体」を「バルク」と同一視して同義に解釈することは誤りであり、本件発明1の「バルク体」が甲1の「粉末」を含むことは明らかであるとし、甲1に記載された「粉末」が本件発明1の「バルク体」に相当することは明らかである旨を主張している(上記「第3.」の「4.」「(2)」「ア-a.」及び「ア-b.」)。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0067】の記載「RHバルク体の形状・大きさは特に限定されず、板状であってもよいし、不定形(石ころ状)であってもよい。RHバルク体に多数の微小孔(直径数10μm程度)が存在してもよい。」は、上記「バルク」の語義と何ら矛盾するものではなく、上記「バルク」の語義に合致する範囲で、形状・大きさは特に限定されないことを記載しているにすぎないと解することが妥当である。
さらに、甲1の「粉末」は、R-Fe-B系焼結磁石の原料合金粉末であって、ジェットミル粉砕して得られ、粒径が数μm程度のものである((甲1-カ)、(甲1-ケ))ところ、これは、本件特許明細書の「微粉末」に相当する(例えば、段落【0079】には、「次に、粗粉砕粉に対してジェットミル粉砕装置を用いて微粉砕を実行する。・・・こうして、0.1?20μm程度(典型的には3?5μm)の微粉末を得ることができる。」とあり、段落【0110】には、「ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、粉末粒径が約3μmの微粉末を作製した。」とある。)ものであって、本件特許明細書において、当該「微粉末」は「バルク体」と明確に区別して記載されていることからも、本件発明1の「バルク体」は甲1発明の「粉末」(及び本件特許明細書の「微粉末」)と相違すると解することが妥当である。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

ア-b.相違点2の存在ついて
甲1には、原料合金粉末からDyを供給しつつ、焼結磁石体の内部に拡散させることは直接的には記載されていない。
一方で、甲1には、「焼結体にさらに研磨加工後の加工歪みにより劣化した磁気特性を回復する方法として、機械加工後の取代の大きさあるいは加工歪みやヘアークラック等の大きさによって、・・・(中略)・・・熱処理時に製品の周囲にR-Fe-B系の合金粉末を置き、熱処理時に製品表面に希土類元素(R)を蒸着もしくは吸着させて還元して磁気特性を回復させ」((甲1-エ))、「熱処理としては、・・・(中略)・・・2)加工時の製品表面の酸化による熱処理時の磁気特性劣化防止のために、製品の周囲にR-Fe-B系合金粉末を置き、500℃?900℃で熱処理して製品の表面層を還元して磁気特性を回復させる、・・・(中略)・・・いずれも加工歪みやヘアークラック等により低下した磁気特性を加工前のそれとほぼ同等まで回復させることができる。・・・(中略)・・・上記2)の熱処理において、焼結体の周囲にR-Fe-B系合金粉末を置くのは、焼結体の表面層を還元することにより磁気特性を回復させるためである。」((甲1-ク)などととあることらすると、甲1において、熱処理によりR-Fe-B系合金粉末から、焼結体の表面に供給されたR成分は、焼結体の表面のみに還元作用をもたらすのであるから、焼結体の内部に拡散していないと認められる。
さらに、甲1における熱処理は、焼結体の加工によって劣化した磁気特性(保磁力など)を加工前の磁気特性とほぼ同等まで回復させるものであって、焼結体の磁気特性を(加工前の磁気特性に比べて)向上させるものではない((甲1-ア)、(甲1-ウ)、(甲1-エ)、(甲1-ク)、(甲1-コ)、(甲1-サ)、(甲1-シ))ことからも、甲1において、熱処理により(Nd,Pr,Dy)-(Fe,Co)-B合金粉末から、焼結体の表面に供給されたDyは、焼結体の内部に拡散していないと解するのが相当であり、少なくとも、焼結体の磁気特性の向上をもたらすように、Dyを焼結体の内部に拡散させているとは認められない。
よって、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点2で相違する。

<請求人の主張についての検討>
この点について、請求人は、次の主張をしているが、以下に示すとおり、いずれも採用することができず、本件発明1と甲1発明には、上記相違点2が存在する。

まず、請求人は、構成要件(1-c)のうちの加熱を行った際のいわば「作用効果」に相当する部分を外した上で、本件発明1の新規性進歩性を判断すべきである旨を主張している(上記「第3.」の「4.」「(2)」「イ-c.」)。
確かに、構成要件(1-c)「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」は、作用的な表現形式を用いて本件発明1の「R-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法」を特定したものであると認められる。
しかしながら、作用的な表現形式を用いて方法の発明を特定したからといって、これを除いて本件発明1を認定することは許されないのであって、請求人の上記主張は採用することができない。

次に、請求人は、甲1に記載された発明が本件発明1と同じ対象物に対して同じ条件で加熱処理を行っているので、Dyを含有するR-Fe-B系合金粉末からDyを焼結体の表面に供給しつつ、Dyを焼結体の内部に拡散させるように構成されていることは明らかである旨を主張している(上記「第3.」の「4.」「(2)」「イ-a.」)。
しかしながら、甲1発明と本件発明1とは、上記相違点1で相違しており、「同じ対象物」に対して加熱処理を行っているのではなく、また、減圧の範囲が明示されていないので、「同じ条件」で加熱処理を行っているとも認められないので、これに基づく請求人の上記主張は採用することができない。

ここで、請求人は、甲1に記載された発明のDyを含有するR-Fe-B系合金粉末からDyを焼結体の表面に供給しつつ、Dyを焼結体の内部に拡散させる作用効果は、この種の分野において既に公知であるとし、例えば、甲2を参照しながら、加熱により、拡散物を対象物の表面に供給しつつ、拡散物を対象物の内部に拡散する作用効果は既に公知であることは明らかである旨を説明している(上記「第3.」の「4.」「(2)」「イ-b.」)。
しかしながら、加熱により、拡散物を対象物の表面に供給しつつ、拡散物を対象物の内部に拡散する作用効果が既に公知であるとしても、上記のとおり、甲1発明は、原料合金粉末からDyを供給しつつ、焼結磁石体の内部に拡散させるとは認められないので、甲1発明が当該公知の作用効果を有しているとすることはできず、請求人の上記説明は意味をなさない。

さらに、請求人は、参考文献1に記載の周知事項を参酌すると、Nd_(2)Fe_(14)B系の焼結磁石体は、本件発明1の記載中の「700℃以上1000℃以下」の温度範囲において、主相が固相であり、かつ粒界相に液相が含まれる、ということが一般に知られているものと認められ、参考文献1に記載の周知事項を甲1の記載に組み合わせると、甲1に記載の発明は、焼結磁石体の粒界相内にDyが拡散していることは明らかであり、実質的には「供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」工程を含むことは明らかである旨を主張している(上記「第3.」の「4.」「(2)」「イ-d.」)。
しかしながら、参考文献1((甲6-ア)ないし(甲6-ウ))には、「主相(T_(1))の隙間に存在するNdの比率が高い粒界相は、混合相(T_(2)(Nd_(1+ε)Fe_(4)B_(4))+Nd)」であることは示されていないので、参考文献1に記載の事項を参酌しても、「Nd_(2)Fe_(14)B系の焼結磁石体は、本件発明1の記載中の「700℃以上1000℃以下」の温度範囲において、主相が固相であり、かつ粒界相に液相が含まれる、ということが一般に知られている」とは認められず、上記主張はその前提を欠く。したがって、甲1発明は、焼結磁石体の粒界相内にDyが拡散していることは明らかであって、実質的には「供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」工程を含むことは明らかである、とはいえない。
また、仮に、「Nd_(2)Fe_(14)B系の焼結磁石体は、本件発明1の記載中の「700℃以上1000℃以下」の温度範囲において、主相が固相であり、かつ粒界相に液相が含まれる、ということが一般に知られている」としても、参考文献1の組成は、Nd-Fe-Bであり、甲1発明の組成は、(Nd,Pr,Dy)-(Fe,Co)-Bであって、両者の組成が相違する。磁石体の組成が相違すると、主相や粒界相の融点が相違するのが普通であるから、結局のところ、甲1発明は、焼結磁石体の粒界相内にDyが拡散していることは明らかであって、実質的には「供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」工程を含むことは明らかである、とはいえない。
よって、いずれにせよ、請求人の上記主張は採用することができない。

また、請求人は、甲1の表4より、「本発明」のバインダーが「ロ」の場合及びバインダーがない「比較例」の「なし」の場合に、それらの「A」と比べて「B」の方が保磁力(iHc)が向上していることが分かるので、甲1に記載された発明はDyを含有するR-Fe-B系合金粉末からDyを焼結体の表面に供給しつつ、Dyを焼結体の内部に拡散させるように構成されていることは明らかである旨を主張している(上記「第3.」の「4.」「(2)」「イ-e.」)。
しかしながら、甲1において、B工程により焼結体の保磁力の向上がもたらされているかどうかは、表2のB工程を行う前の保磁力と表4のB工程を行った後の保磁力から伺い知れるのであって、表4のA工程を行った後の保磁力とB工程を行った後の保磁力を比較しても、これを知ることができず、そのような比較は意味をなさない。
補足すると、A工程とB工程とでは、原料合金粉末の使用の有無だけでなく、熱処理の温度が相違するので、A工程を行った後の保磁力とB工程を行った後の保磁力の相違が、原料合金粉末の使用の有無のみに起因すると結論づけることはできない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

イ.29条2項
上記相違点について、検討する。

イ-a.相違点1について
甲1発明において、RとしてDyを含有するR-Fe-B系原料合金粉末を、RとしてDyを含有するR-Fe-B系バルク体とすることの動機付けを見出すことができず、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

以下、甲1発明の「粉末」を「バルク」(バルク体)に変更することが、当業者にとって甲1から容易想到とはいえないことを、詳述する。
物質を蒸発させて、被対象物に蒸着もしくは吸着させるにあたり、物質の供給源となる物体として、「粉末」を用いること、「バルク」(バルク体)を用いること、は何れも周知ではある。
しかしながら、甲1には、R-Fe-B系焼結体の周囲に当該焼結体の原料であるR-Fe-B系原料合金粉末を配置することが記載されており、「当該R-Fe-B系原料合金粉末」とあるとおり、R-Fe-B系焼結体の原料である「粉末」のみが記載され、かつ、「粉末」のみが想定され、「粉末」以外のもの、例えば「バルク」(バルク体)は全く想定されていない、というべきである。(甲1には、R-Fe-B系焼結体の原料として、粉末以外を用いること(例えば、R-Fe-B系焼結体(バルク(バルク体))を用いること)は、記載も示唆もされていない。)
すると、甲1から、その「粉末」を「バルク」(バルク体)に変更しようとする動機付けが存在しないというほかない。
したがって、蒸発物質の供給源として、「粉末」、「バルク」(バルク体)が単に周知であるからといって、甲1発明の「粉末」を「バルク」(バルク体)に変更することが、当業者にとって容易想到とはいえない。

<請求人の主張についての検討>
この点について、請求人は、次の主張をしているが、以下に示すとおり、採用することができず、甲1発明の「粉末」を「バルク体」とすることが、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

請求人は、(i)本件発明1の「バルク体」と甲1の「粉末」とは焼結磁石体表面への重希土類元素の供給源である点で共通する、(ii)本件発明1の「バルク体」とは、焼結磁石体への重希土類元素の供給源であればよく、形状・大きさは特に限定されず、いかなる形態であってもよい、(iii)甲1は「粉末」以外を使用することを否定しているわけではない、とのことから、甲1の発明において、「粉末」を「バルク体」とする動機付けが存在することは明らかであり、「粉末」とするか「バルク体」とするかの選択は単なる設計事項にすぎず、その差異によって進歩性が認められるものではない旨を主張している(上記「第3.」の「4.」「(2)」「ア-c.」)。
しかしながら、甲1発明の「粉末」と本件発明1の「バルク体」とが、重希土類元素の供給源として共通すれば、それだけで、甲1発明の「粉末」を「バルク体」に変更するに足る動機付けが存在するとまではいえないし、上記のとおり、甲1では「粉末」以外のものは全く想定されていないので、同変更が設計事項であるともいえない。
請求人の上記主張は、本件発明1を知った上での後知恵であるといわざるをえないのであって、採用することができない。

イ-b.相違点2について
甲1には、(Nd,Pr,Dy)-(Fe,Co)-B原料合金粉末から供給される希土類元素(Nd,Pr,Dy)を(Nd,Pr,Dy)-(Fe,Co)-B焼結磁石体の内部に拡散させるようにすること、これによって焼結磁石体の保磁力の向上をもたらすこと、は記載も示唆もされておらず、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

<補足:容易想到とはいえない更なる理由>
本件発明1は、さらに以下に示す理由からみても、甲1発明から当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

甲1発明は、厚みが3mm以下の薄肉磁石を対象とするものである。
一方、本件発明1は、本件特許明細書の段落【0017】の記載「本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、少ない量の重希土類元素RHを効率よく活用し、磁石が比較的厚くとも、磁石全体にわたって主相結晶粒の外殻部に重希土類元素RHを拡散させたR-Fe-B系希土類焼結磁石を提供することにある。」、段落【0066】の記載「本発明によれば、例えば厚さ3mm以上の厚物磁石に対しても、僅かな量の重希土類元素RHを用いて残留磁束密度B_(r)および保磁力H_(cJ)の両方を高め、高温でも磁気特性が低下しない高性能磁石を提供することができる。このような高性能磁石は、超小型・高出力モータの実現に大きく寄与する。粒界拡散を利用した本発明の効果は、厚さが10mm以下の磁石において特に顕著に発現する。」によれば、請求項1に焼結磁石体の厚みについての限定はないが、実質的に厚みが3mm以上の厚物磁石を対象とするものであるということができる。
ここで、甲1には、「この発明において、一対の加工対向面間の寸法を3mm以下とするのは、薄肉、小型で寸法精度が高くかつ磁気特性の高い焼結磁石が要求される中で、従来、得難いとされていた厚みが3mm以下の薄肉磁石を対象とするためである。すなわち、一対の加工対向面間の寸法が3mmを超えると、研磨加工により加工歪などを生じても、体積に対する加工歪の割合が減少するため、比較的磁気特性の劣化が少なく、この発明による熱処理を施す必要がなくなるためである。」((甲1-キ))とあり、甲1発明は厚みが3mmを超える磁石(厚物磁石)に対して有効でないことが記載されているところ、厚物磁石に対して甲1発明を適用することには阻害要因があるというべきである。
すると、実質的に厚物磁石を対象とする本件発明1は、甲1発明から当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

(5)まとめ(本件発明1について(無効理由1))
ア.29条1項3号
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明である、とすることはできない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とすることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

イ.29条2項
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とすることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

(6)本件発明2ないし10についての判断・まとめ(無効理由1)
ア.29条1項3号
本件発明2ないし10は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1に限定事項を付加する発明であるところ、上記(1)ないし(5)で検討したとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないのであるから、本件発明2ないし10も、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
したがって、本件発明2ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とすることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

イ.29条2項
本件発明2ないし10は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1に限定事項を付加する発明であるところ、上記(1)ないし(5)で検討したとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないのであるから、本件発明2ないし10も、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、本件発明2ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とすることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

4.無効理由2について
まず、本件発明1について検討する。

(1)甲第5号証に記載された発明(以下、「甲5発明」という)
甲5には、上記(甲5-ア)ないし(甲5-ク)に摘示する記載が認めれるところ、「この磁石を、アネルバ(株)製のL-250S型スパッタリング装置内のSUS基板上に載せ、その上部に、80質量%Tb-20質量%Co組成の合金ターゲットを、SUS304製のバックプレートに固定して配置した。」、「装置内を真空排気後、・・・(中略)・・・ここでは、基板加熱と併行して成膜中での磁石試料の温度上昇を利用して成膜と同時に拡散を行う」((甲5-ク))とあり、スパッタリング装置内には、真空排気後、加熱および成膜をおこなうための処理室を有することは明らかであるから、合金ターゲットを、磁石とともに処理室内に配置する工程を有することが実質的に記載されていると認められる。
この点をふまえ、上記(甲5-ア)ないし(甲5-ク)の記載を総合すると、甲5には次の発明(以下、「甲5発明」という)が記載されているものと認められる。

<甲5発明>
Nd_(10)Pr_(2)Fe_(77.5)Co_(3)B_(7.5)組成の原料合金を溶解し、粉砕、成形、焼結工程を経た平板状磁石を用意する工程と、
80質量%Tb-20質量%Co組成の合金ターゲットを、前記磁石とともに処理室内に配置する工程と、
前記磁石を約800℃に達するように加熱することにより、Tb-Co層の成膜と同時にTbとCo元素のNdPr-Fe-B系焼結磁石内部への拡散を行う工程と、
を包含する希土類-鉄-ホウ素系磁石の製造方法。

(2)対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。

(2-1)構成要件(1-a)について
甲5発明の「Nd_(10)Pr_(2)Fe_(77.5)Co_(3)B_(7.5)組成の原料合金を溶解し、粉砕、成形、焼結工程を経た平板状磁石」、すなわち、「Nd(Pr)-Fe-B系焼結磁石」は、その主たる希土類元素としてNd(及びPr)を含有するといえ、また、主相となるR_(2)Fe_(14)B化合物を有する磁石であることは明らかである((甲5-イ))、つまり、「Nd」(「及びPr」)を主たる希土類元素Rとして含有するR_(2)Fe_(14)B化合物を主相として有するNd(Pr)-Fe-B系焼結磁石であるから、本件発明1の「軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR_(2)Fe_(14)B型化合物結晶粒を主相として有するR-Fe-B系希土類焼結磁石体」といい得るものである。

(2-2)構成要件(1-b)について
甲5発明の「80質量%Tb-20質量%Co組成の合金ターゲット」は、本件発明1の「重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有するバルク体」といい得るものである。
甲5発明の「処理室」は、本件発明1の「処理室」と一致する。

(2-3)構成要件(1-c)について
・「700℃以上1000℃以下に加熱する」について
甲5発明の「磁石を約800℃に達するように加熱する」は、磁石を「700℃以上1000℃以下に加熱する」といい得るものである。

・「前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」について
甲5発明の「磁石を」「加熱することにより、Tb-Co層の成膜と同時にTbとCo元素のNdPr-Fe-B系焼結磁石内部への拡散を行う」ことは、Tb-Co層の成膜とは、Tbを含有する合金ターゲットからTbをNdPr-Fe-B系焼結磁石の表面に供給することにほかならないから、加熱することにより、Tbを含有する合金ターゲットからTbをNdPr-Fe-B系焼結磁石の表面に供給すると同時に、TbをNdPr-Fe-B系焼結磁石の内部に拡散させるといえるから、本件発明1の「加熱することにより、前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる」といい得るものである。

(2-4)構成要件(1-d)について
甲5発明の「希土類-鉄-ホウ素系磁石の製造方法」は、本件発明1の「R-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法」と一致する。

(3)一致点、相違点
以上のことから、本件発明1と甲5発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

[一致点]
「(1-a)軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR_(2)Fe_(14)B型化合物結晶粒を主相として有するR-Fe-B系希土類焼結磁石体を用意する工程(a)と、
(1-b)重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を含有するバルク体を、前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体とともに処理室内に配置する工程(b)と、
(1-c)’700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる工程(c)’と、
(1-d)を包含するR-Fe-B系希土類焼結磁石の製造方法。」である点。

[相違点]
「700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記バルク体から重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる工程」が、
本件発明1では、「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱する」のに対して、
甲5発明では、磁石を加熱するのであって、「前記処理室内を」加熱するとはしていない点。

(4)判断(本件発明1について)
ア.29条1項3号
上記相違点の存在について、検討する。
甲5には、処理室内を加熱することは記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1と甲5発明とは、上記相違点で相違する。

<請求人の主張についての検討>
この点について、請求人は、次の主張をしているが、以下に示すとおり、いずれも採用することができず、本件発明1と甲5発明には、上記相違点が存在する。

請求人は、甲5の実施例5では「基板加熱と併行して成膜中での磁石試料の温度上昇を利用して成膜と同時に拡散を行うことを目的とし、RF出力を150W、DC出力を600Wまで上げてスパッタリングを開始した結果、磁石試料が赤熱するのが観測され、色調より温度は約800℃に達していると推測された。」((甲5-ク))と記載され、そこにはスパッタリング装置内を800℃程度に調整することが当業者ならば当然に理解され、このことは本件発明1の「処理室内の温度を700℃以上1000℃以下に加熱する」に相当することは明らかである旨を主張している(上記「第3.」の「5.」「(2)」「ア-a.」)。
しかしながら、甲5において、磁石を約800℃に調整することが記載されているものの、当該記載からスパッタリング装置内を約800℃に調整することまでは当然に理解されないので、本件発明1の「処理室内の温度を700℃以上1000℃以下に加熱する」ことが記載されているとは認められない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

さらに、請求人は、甲5に記載された発明は「合金ターゲットをスパッタリング」しているので、一応相違するものの、甲5には、「磁石表面への希土類金属Mの供給法については特に限定されるものではなく、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーデポジション等の物理的成膜法や、CVDやMO-CVD等の化学的気相蒸着法、及びメッキ法等の適用が可能である。」((甲5-カ))と記載されているから、甲5に記載された発明は、「合金ターゲットをスパッタリング」するばかりでなく、「合金ターゲットを蒸着」すること、すなわち「合金ターゲットを加熱」することもその技術思想の範囲に含んでいることは明らかでり、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明であることは明らかである旨を主張している(上記「第3.」の「5.」「(2)」「イ-a.」)。
確かに、甲5には、「磁石表面への希土類金属Mの供給法については特に限定されるものではなく、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーデポジション等の物理的成膜法・・・(中略)・・・等の適用が可能である。」((甲5-カ))とあることから、甲5の実施例5において、スパッタリングに代えて蒸着を適用することが記載されているに等しい事項であるとはいい得るものである。
しかしながら、甲5には蒸着に関する具体的記述は皆無であるから、甲5の実施例5において、スパッタリングに代えて蒸着を適用する発明が記載されていると認められるとしても、
(i)蒸着源として、Tb-Co組成の合金粉末やバルク体などを用いることが想定される状況にあっては、当該発明が、Tb-Co組成のバルク体を用いるとまではいえない。
(ii)当該発明が、蒸着源として、Tb-Co組成のバルク体を用いるといい得たとしても、蒸着のためには、蒸気圧10^(-2)Torrが必要であることが技術常識であって、Tbの蒸着に適する10^(-2)Torrとなる温度は1427℃である(乙第5号証)ことから、当業者であれば、蒸着に際してTb-Co組成のバルク体を少なくとも1427℃以上に加熱すると解するのが普通である。そうすると、当該発明は、Tb-Co組成のバルク体およびNdPr-Fe-B系焼結磁石である平板状磁石を約800℃の同じ温度に加熱するものとはいえない。
したがって、甲5の実施例5において、スパッタリングに代えて蒸着を適用する発明が記載されているとしても、Tb-Co組成の合金ターゲットおよびNdPr-Fe-B系焼結磁石である平板状磁石を実質的に同じ温度に加熱するために処理室の温度を約800℃に加熱することまでは記載されているとは認められず、本件発明1の「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱する」ことが記載されているとは認められない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

イ.29条2項
上記相違点について、検討する。

(a)甲4をふまえての検討
甲4には、バルク体から重希土類元素RHをR-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給するときに、加熱手段によってバルク体を加熱処理していることは、記載も示唆もされておらず、甲5及び甲4に記載された発明に基づいて、上記相違点を克服することが、当業者にとって容易であるとすることはできない。

<請求人の主張についての検討>
この点について、請求人は、次の主張をしているが、以下に示すとおり、採用することができず、甲5発明において、「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱する」ことが、甲5及び甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

請求人は、本件発明1の構成要件(1-c)のうち、バルク体から重希土類元素RHをR-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給するときに「バルク体を加熱」している点については、甲4に同一の発明が明示されている、「甲第4号証に記載された発明は、処理室としての石英チューブ(Quartz Tube)内に磁石としてのリボンとバルク体(Ribbons)としてのMoを含む合金(Sm Metal)とを配置し、700度?900度で加熱処理するもので、これにより高い飽和保磁力を得ている(甲第4号証の第1376頁左欄第33行?同頁右欄第8行及びFig.1参照)。すなわち、甲第4号証に記載された発明は、Moを含む合金からMoをリボンの表面に供給するときに「加熱手段によってMoを含む合金を加熱処理」していることは明らかである。」、とのことから、本件発明1は、甲5及び甲4に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたことは明らかである旨を主張している(上記「第3.」の「5.」「(2)」「イ-b.」)。
しかしながら、甲4には、「Moを含む合金からMoをリボンの表面に供給するときに「加熱手段によってMoを含む合金を加熱処理」している」ことは全く記載されておらず、明らかであるともいえないので、上記主張はその前提を欠く。
また、甲4には、バルク体から重希土類元素RHをR-Fe-B系希土類焼結磁石体の表面に供給するときにバルク体を加熱していることは、記載も示唆もされていない。
してみれば、本件発明1が、甲5及び甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた、とすることはできないことは明らかであり、請求人の上記主張は採用することができない。

(b)甲5をふまえての検討
本件発明1における「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱する」とは、前記バルク体および前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体の温度を700℃以上1000℃以下の実質的に同じ温度に加熱することを意味する(本件特許明細書の段落【0039】,【0047】,【0048】,【0053】,【0083】,【0113】等)。
したがって、甲5発明において、「前記R-Fe-B系希土類焼結磁石体」といえるNdPr-Fe-B系焼結磁石である平板状磁石のみならず、「前記バルク体」といえるTb-Co組成の合金ターゲットをも、平板状磁石と実質的に同じ温度である約800℃に加熱することが容易想到であれば、上記相違点は容易に克服されるということができる。
以下、検討する。
甲5には、「磁石表面への希土類金属Mの供給法については特に限定されるものではなく、蒸着、スパッタリング・・・(中略)・・・等の適用が可能である。」((甲5-カ))とあることから、甲5の実施例5において、スパッタリングに代えて蒸着を適用することは、当業者が容易に想到し得たといえる。
そして、蒸着に際して、蒸着源を加熱することは、ごく普通のことである。
また、蒸着源にバルク体を用いることは周知であるから、甲5の実施例5において、スパッタリングに代えて蒸着を適用するにあたり、蒸着源として、Tb-Co組成の合金ターゲットを引き続き用いることも、当業者が容易に想到し得たといえる。
しかしながら、甲5発明は、Tbを成膜と同時に拡散させるものであるところ、蒸着のためには、蒸気圧10^(-2)Torrが必要であることが技術常識であって、Tbの蒸着に適する10^(-2)Torrとなる温度は1427℃である(乙第5号証)ことから、当業者であれば、蒸着に際してTb-Co組成の合金ターゲットを少なくとも1427℃以上に加熱することを想定するのが普通である。すなわち、当業者であれば、Tb-Co組成の合金ターゲットおよびNdPr-Fe-B系焼結磁石である平板状磁石を約800℃の同じ温度に加熱することは想定しないから、甲5発明から、Tb-Co組成の合金ターゲットおよびNdPr-Fe-B系焼結磁石を実質的に同じ温度である約800℃に加熱することが、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、甲5発明から、本件発明1の「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱する」ことが、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

<被請求人の主張についての検討>
この点について、被請求人は、スパッタリングは成膜の材料である金属を高温加熱しなくてよいことを利点とするのであるから、甲5には、合金ターゲットを加熱しようという動機を生ずる理由がまったく存在しないし、加熱することには阻害事由が存する旨を主張している(上記「第4.」の「5.」「(1)」「ア-c.」)。
確かに、スパッタリングにおいては、合金ターゲットを加熱する動機付けはないが、上記のとおり、甲5には、スパッタリングに代えて蒸着を適用することが示唆されており、蒸着を適用した際には、蒸発源を加熱することはごく普通のことであるから、合金ターゲットを加熱する動機付けは存在するといえる。

<請求人の主張についての検討>
この点について、請求人は、次の主張をしているが、以下に示すとおり、採用することができず、甲5発明において、「前記処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱する」ことが、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

請求人は、(i)蒸着に際して、加熱手段により、重希土類元素を含む被蒸着対象物及び平板状磁石を実質的に同じ温度に加熱するために処理室の温度を調節することは、例示のとおり、磁石に対して蒸着を行う技術分野における常套手段であることは明らかである、(ii)甲5に記載の発明は、成膜が目的ではないから、そこには適切なレートで成膜を行うという目的は存在せず、実用的な成膜レートを確保する必要もないので、処理室の温度を700℃以上1000℃以下に調節することは設計事項にすぎないことは明らかである、とのことから、本件発明1は、甲5号証に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得たものである旨を主張している(上記「第4.」の「5.」「(1)」「ア-b」)。
(i)確かに、請求人が例示した甲1の(甲1-ケ)や甲3の(甲3-エ)には、蒸着に際して、重希土類元素を含む蒸着源及び磁石を実質的に同じ温度に加熱することが記載されているといい得るものである。
しかしながら、重希土類元素を含む蒸着源及び磁石を実質的に同じ温度に加熱することを意図して、処理室の温度を当該温度に加熱することまでは、記載されていないので、「蒸着に際して、加熱手段により、重希土類元素を含む被蒸着対象物及び平板状磁石を実質的に同じ温度に加熱するために処理室の温度を調節すること」が「磁石に対して蒸着を行う技術分野における常套手段」であるとまではいえない。
さらに、例えば、甲3には、「一方、上記以外の希土類金属の場合、沸点が2000℃付近またはそれ以上となり、通常の抵抗加熱による外部加熱では十分に加熱することができない。そこで、図1に示す減圧容器の外側に高周波加熱用のコイルを設置し、これによりDy, Tb, Nd, Pr等の高沸点希土類金属の収着を行う。」、「また、Nd-Fe-B系金属間化合物磁石は誘導加熱されない粉末または微小なバルク形状のものが好ましく、容器外周部に沿って導入される。」、「他方、高沸点希土類金属に適用される高周波加熱方式の場合は、収着金属ののみを所定の温度まで加熱し、Nd-Fe-B系金属間化合物磁性材料は700?850℃に保つことが望ましい。」((甲3-イ))とあるように、重希土類元素を含む蒸着源及び磁石を実質的に同じ温度に加熱しないことが記載されているので、「蒸着に際して、加熱手段により、重希土類元素を含む被蒸着対象物及び平板状磁石を実質的に同じ温度に加熱するために処理室の温度を調節すること」が「磁石に対して蒸着を行う技術分野における常套手段」であるとはいえない。
そして、仮に、「蒸着に際して、加熱手段により、重希土類元素を含む被蒸着対象物及び平板状磁石を実質的に同じ温度に加熱するために処理室の温度を調節すること」が「磁石に対して蒸着を行う技術分野における常套手段」であるといえたとしても、当業者であれば、甲5の実施例5から、Tb-Co組成の合金ターゲットおよびNdPr-Fe-B系焼結磁石である平板状磁石を約800℃の同じ温度に加熱することは想定しないことは、上記のとおりであるから、甲5の実施例5から当該常套手段を用いることは容易に想到し得ないというべきである。
(ii)また、甲5には、M元素(Tb-Co層)を成膜して拡散することが記載されている((甲5-イ)、(甲5-ウ)、(甲5-エ)、(甲5-ク))のであるから、甲5発明が成膜は目的でないと解することは失当であるというほかなく、適切な条件で成膜を行うことは当然である。なお、甲5の(甲5-オ)には、最終的には磁石表面に膜が残存しないように成膜することは記載されているものの、膜を全く成膜しないことが記載ないし示唆されているとは解し得ない。
そして、適切な条件で成膜を行うことを考慮すれば、当業者であれば、甲5の実施例5から、Tb-Co組成の合金ターゲットおよびNdPr-Fe-B系焼結磁石を実質的に同じ温度である約800℃に加熱することを想定しないことは、上記のとおりであり、処理室の温度を約800℃に加熱することは容易に想到し得ないというべきであるから、処理室を700℃以上1000℃以下に加熱することは設計事項にすぎないことは明らかであるとはいえない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

(5)まとめ(本件発明1について(無効理由2))
ア.29条1項3号
以上のとおり、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明である、とすることはできない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とすることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

イ.29条2項
以上のとおり、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とすることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

(6)本件発明2ないし10についての判断・まとめ(無効理由2)
ア.29条1項3号
本件発明2ないし10は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1に限定事項を付加する発明であるところ、上記(1)ないし(5)で検討したとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないのであるから、本件発明2ないし10も、本件発明1と同様に、甲第5号証に記載された発明であるとすることはできない。
したがって、本件発明2ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とすることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

イ.29条2項
本件発明2ないし10は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1に限定事項を付加する発明であるところ、上記(1)ないし(5)で検討したとおり、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないのであるから、本件発明2ないし10も、本件発明1と同様に、甲第5号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、本件発明2ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とすることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。


第7.むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし10に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-28 
結審通知日 2013-03-04 
審決日 2013-03-25 
出願番号 特願2008-503806(P2008-503806)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 倍司  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 山田 洋一
馬場 慎
登録日 2009-01-09 
登録番号 特許第4241900号(P4241900)
発明の名称 R-Fe-B系希土類焼結磁石およびその製造方法  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 齋藤 誠二郎  
代理人 水野 浩司  
代理人 増井 和夫  
代理人 松下 亮  
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