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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1285116
審判番号 不服2010-24925  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-05 
確定日 2014-02-25 
事件の表示 特願2004-568922「スタチンおよびスタチン中間体の合成のための酵素化学的方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 1日国際公開、WO2004/027075、平成18年 4月13日国内公表、特表2006-512086〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年8月19日(パリ条約による優先権主張 2002年9月20日、2003年5月9日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年6月3日付けで拒絶理由が通知され、同年10月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月30日付けで最後の拒絶理由が通知された後、平成22年6月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月25日付けで、平成22年6月7日付け手続補正書でした補正を却下する決定及び拒絶査定がされたところ、同年11月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年11月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年11月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、本件補正前の請求項1(平成21年10月13日付け手続補正書により補正された請求項1)と本件補正後の請求項1の記載は次のとおりである。

本件補正前:
「【請求項1】 以下の工程を含む、下記の式を有する化合物を調製する方法:

(a)アルドール供与基質を提供する工程;
(b)アルドール受容基質を提供する工程;
(c)アルドラーゼを提供する工程;
(d)工程(a)のアルドール供与基質、工程(b)のアルドール受容基質、工程(c)のアルドラーゼを、前記アルドラーゼが工程(a)および(b)の基質間の縮合を触媒し得る条件下で混合する工程。」

本件補正後:
「【請求項1】 以下の工程を含む、下記の式を有する化合物を調製する方法:

(a)アルドール供与基質を提供する工程;
(b)アルドール受容基質を提供する工程;
(c)アルドラーゼを提供する工程であって、
前記アルドラーゼが
(i)配列番号14記載の配列と少なくとも95%、97%、98%、99%または完全な(100%)配列同一性を有するポリペプチド若しくはそれらの酵素的に活性な断片をコードする核酸によってコードされ、;または、
(ii)配列番号14記載の配列と少なくとも95%、97%、98%、99%または完全な(100%)配列同一性を有する配列を有する、前記工程;
(d)工程(a)のアルドール供与基質、工程(b)のアルドール受容基質、工程(c)のアルドラーゼを、前記アルドラーゼが工程(a)および(b)の基質間の縮合を触媒し得る条件下で混合する工程。」

2.補正の適否
上記補正後の請求項1は、補正前の請求項1における「アルドラーゼ」を「(i)配列番号14記載の配列と少なくとも95%、97%、98%、99%または完全な(100%)配列同一性を有するポリペプチド若しくはそれらの酵素的に活性な断片をコードする核酸によってコードされ、;または、(ii)配列番号14記載の配列と少なくとも95%、97%、98%、99%または完全な(100%)配列同一性を有する配列を有する」ものに限定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。

(2)実施可能要件について
本願補正発明は、配列番号14のアミノ酸配列と完全な(100%)配列同一性を有するポリペプチド(すなわち、配列番号14のアミノ酸配列を有するポリペプチド)をアルドラーゼとして使用して、請求項1記載の式を有する化合物を調製する方法の発明であるが、その方法の発明を当業者が実施をすることができるとは、上記アルドラーゼを使用する方法により上記化合物を調製することができること、すなわち、作ることができることであるから、配列番号14のアミノ酸配列を有するポリペプチドをアルドラーゼとして使用して、当業者が上記化合物を作ることができるように発明の詳細な説明が記載されているといえるかどうかについて検討する。

(2-1)当審の判断
本願明細書には、本願補正発明に関して以下の事項が記載されている。

ア.「本発明は、図7に中間体(II)として示される式を有する化合物の製造方法を提供する。前記方法は以下の工程を含む:(a)アルドール供与基質を提供する工程;(b)アルドール受容基質を提供する工程;(c)アルドラーゼを提供する工程;(d)工程(a)のアルドール供与基質、工程(b)のアルドール受容基質および工程(c)のアルドラーゼを、前記アルドラーゼが工程(a)および(b)の基質間のアルドール縮合を触媒する条件下で混合する工程。それによって図7に中間体(II)として示される構造を含む化合物を生成することができる。・・・・・・・・・ある特徴では、前記アルドラーゼは2-デオキシリボース-5-ホスフェートアルドラーゼ(DERA)、例えば組換え2-デオキシリボース-5-ホスフェートアルドラーゼ(DERA)である。ある特徴では、前記アルドラーゼは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30で示されるポリペプチドを含む。」(段落【0005】?【0006】)

イ.「文献に最初に記載されたDERAプロセスの重大な限界は高いパーセンテージの触媒が必要であること(酵素装荷)であった。例えば、10gの3R,5S-6-クロロ-2,4,6-トリデオキシ-エリスロ-ヘキソースの生成に約2gのDERAが必要であった(20%の酵素負荷)。前記の高い酵素要求の原因は、基質のクロロアセトアルデヒドによる阻害であると特定された。本発明は流加バッチプロセスを用いることによってこの要件を克服するプロセスを提供する。ある特徴では、基質は、数時間、例えば2から3時間(例えば室温で)にわたって基質が添加されるのと同じような速さでそれらが消費され、さらにクロロアセトアルデヒドが阻害濃度に達しないような速度で前記反応に補給される。これらの条件下では、大腸菌のDERAの酵素負荷は20%から約5%に減少した。この改善はまた任意のDERA、例えば配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30(本発明のポリペプチド、例えば配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22を含む)に適用することができる。ある特徴では、前記プロセスは2から4%の範囲の酵素負荷で実施される。基質は、クロロアセトアルデヒド約600から800mMおよびアセトアルデヒド約1.2から1.6Mの最終濃度で補給される。前記反応は大規模、例えば1リットル(またはそれ以上の)スケールで実施され、75グラムの粗生成物が単離される。」(段落【0052】)

ウ.「実施例3 スタチン中間体合成のための典型的な方法
スタチン中間体(例えばアトルバスタチン(LIPITOR(登録商標))、ロスバスタチン(CRESTOR(登録商標))、フルバスタチン(LESCOL(登録商標))および関連化合物)の合成のための一つの例示的な方法は図21に示されている。前記は図14に示した工程の例示的なものである。第一の工程は、例えば本発明のアルドールを用いたDERA触媒アルドール縮合を含む。6-クロロ-2,4,6-トリデオキシ-エリスロ-ヘキソノラクトンは、NaOCl水溶液およびHOAcを含む条件下で生成される。ある特徴では、収量は99.9%eeより高く、2工程で45%であった。」(段落【0180】)

上記ア.、イ.の記載には、複数のポリペプチドから選択される選択肢の中の1つとして、配列番号14のアミノ酸配列を有するポリペプチドをアルドラーゼとして使用して、請求項1記載の式を有する化合物を製造するとの一般的な記載があるだけであり、また、上記ウ.の記載も、どのアミノ酸配列を有するポリペプチドを使用して行われる実験であるのか明らかであるとはいえない。よって、本願明細書には、配列番号14のアミノ酸配列を有するポリペプチドがアルドラーゼ活性を有することを裏付ける実施例等による具体的な記載が示されているとはいえない。また、本願明細書には、配列番号14のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子がアルドラーゼを産生する生物から単離され、配列番号14のアミノ酸配列が既知のアルドラーゼと高い配列同一性を示すなどの、配列番号14のアミノ酸配列を有するポリペプチドがアルドラーゼ活性を有することを推認できるだけの記載が何ら示されておらず、配列番号14のアミノ酸配列を有するポリペプチドがアルドラーゼ活性を有するとの技術常識があるとも認められない。
そうすると、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願明細書の発明の詳細な説明は、配列番号14のアミノ酸配列を有するポリペプチドをアルドラーゼとして使用して、請求項1記載の式を有する化合物を作ることができるように記載されているとはいえない。
したがって、本願補正発明について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

(2-2)審判請求人の主張
審判請求人は、平成22年12月15日付け手続補正書により補正された審判請求書において、「資料1の実験ノートには本番の配列番号14記載の配列からなるポリペプチド(アルドラーゼBD11546)および他のDERAアルドラーゼを用いたアルドール縮合によって各ロールを製造したことが記載されております。本願は実験ノートに記載された結果に基づいて出願された特許出願です。」、「資料1の実験ノート第1、2および6頁には本発明の方法を用いた結果であるラクトールの合成、ラクトール収量および、酵素量の低減について記載されております。この情報は明細書第0052段落に取り込まれております。また実験ノートの第8頁には配列番号14記載の配列からなるポリペプチド(BD11546)による縮合反応が、得られたラクトールの収量(「乾燥後12.63gのラクトールが得られた」)と共に記載されております。実験ノート第9頁には、本発明のラクトン合成反応(酸化反応を含む)が記載されております。この情報は本明細書の第0053段落と対応いたします。さらに、実験ノートの第10頁では配列番号14記載の配列からなるポリペプチド(BD11546)を用いたラクトン(図14、化合物1)の生成が確認されております(構造式参照)。」と主張しているが、上記実験ノートをみても、「アルドラーゼBD11546」が配列番号14のアミノ酸配列からなるポリペプチドに該当することが明らかであるとはいえず、また、審判請求人が指摘する本願明細書の段落【0052】、【0053】の記載をみても、上記実験ノートの記載内容に対応する事項が記載されていることが明らかであるとはいえないから、審判請求人の上記主張は採用することができない。

3.小括
以上検討したところによれば、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成22年11月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年10月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記第2 1.に「本件補正前」として記載したとおりのものである。

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶理由に引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるJ.Am.Chem.Soc.,Vol.116,No.18(1994)p.8422-8423(以下、「引用例」という)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。

ア.「酵素2-デオキシリボース-5-ホスフェートアルドラーゼ(DERA、EC4.1.2.4)は、アセトアルデヒド及びD-グリセルアルデヒド3-ホスフェートの可逆的アルドール反応を触媒してD-2-デオキシリボース-5-ホスフェートを生成させる。」(第8422頁左欄第1行?第4行)

イ.「この発見は、様々なC2置換アセトアルデヒドを開始の受容基質とし、アセトアルデヒドを供与基質としてさらに調べて、対応する6-置換2,4-ジデオキシヘキソースを生成させることに我々を導いた。結果は、表1に要約した。」(第8422頁左欄第25行?第28行)

ウ.「表1 DERAによって触媒されるタンデムアルドール縮合

」(第8422頁右欄、表1)

エ.「反応は、100mMのトリエタノールアミン、1mMのEDTA、300mMのアセトアルデヒド、100mMの受容基質及び1000UのDERAを含む20mL溶液中で行われた。混合物は、6日間アルゴンの存在下暗中において室温で攪拌された。」(第8422頁右欄、表1脚注)

上記イ.?エ.の記載によると、アセトアルデヒドがアルドール供与基質として、表1記載のC2置換アセトアルデヒドがアルドール受容基質として、DERAがアルドラーゼとしてそれぞれ提供されているといえる。
また、上記ウ.、エ.の記載から、アルドラーゼがアルドール供与基質およびアルドール受容基質の基質間の縮合を触媒し得る条件下で、アルドール供与基質、アルドール受容基質、アルドラーゼが混合されていることは明らかである。
よって、上記ア.?エ.の記載によれば、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。
「以下の工程を含む、下記の式を有する化合物を調製する方法:

式中のRは、水素、メトキシ、塩素、臭素およびアジドから成る群から選択される基である
(a)アルドール供与基質を提供する工程;
(b)アルドール受容基質を提供する工程;
(c)アルドラーゼを提供する工程;
(d)工程(a)のアルドール供与基質、工程(b)のアルドール受容基質、工程(c)のアルドラーゼを、前記アルドラーゼが工程(a)および(b)の基質間の縮合を触媒し得る条件下で混合する工程」(以下、「引用発明」という)

3.対比・判断
本願発明は、式中の「R」について定義が記載されていないが、本願明細書に「図7のアルデヒド(III)のRは、水素基、C1-C4アルコキシ基、ハロゲン、シアン基およびアジド基から成る群から選択される。」(【0005】)と記載されていることから、本願発明の式中の「R」は、水素基、C1-C4アルコキシ基、ハロゲン、シアン基およびアジド基から成る群から選択される基であるものと認められ、引用発明の式中の「R」と重複している。
そうすると、本願発明と引用発明は、
「以下の工程を含む、下記の式を有する化合物を調製する方法:

(a)アルドール供与基質を提供する工程;
(b)アルドール受容基質を提供する工程;
(c)アルドラーゼを提供する工程;
(d)工程(a)のアルドール供与基質、工程(b)のアルドール受容基質、工程(c)のアルドラーゼを、前記アルドラーゼが工程(a)および(b)の基質間の縮合を触媒し得る条件下で混合する工程」である点で一致し、相違点はない。

4.小括
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-26 
結審通知日 2013-09-30 
審決日 2013-10-11 
出願番号 特願2004-568922(P2004-568922)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 113- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 植原 克典
高堀 栄二
発明の名称 スタチンおよびスタチン中間体の合成のための酵素化学的方法  
代理人 箱田 篤  
代理人 滝澤 敏雄  
代理人 浅井 賢治  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 小川 信夫  

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