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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C23C 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C23C |
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管理番号 | 1285122 |
審判番号 | 不服2013-20571 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-23 |
確定日 | 2014-03-18 |
事件の表示 | 特願2011- 82885「スパッタリングターゲットとそれを用いたTi-Al-N膜および電子部品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月15日出願公開、特開2011-179123、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯と本願発明 本願は、平成13年8月28日に出願した特願2001-257763号の一部を平成23年4月4日に新たな特許出願としたものであって、平成25年4月22日付けの拒絶理由が通知され、同年7月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月12日付けで拒絶査定がされたので、同年10月23日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 本願発明は、平成25年7月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1?6に記載された特許を受けようとする発明を、項番に従い、「本願発明1」、「本願発明2」などといい、これらをまとめて「本願発明」という。またその明細書を「本願明細書」という。)。 「 【請求項1】 Alを5?50原子%の範囲で含有するTi-Al合金の溶解材からなるスパッタリングターゲットであって、 前記ターゲットのZr含有量およびHf含有量がそれぞれ100ppb以下であり、かつターゲット全体としての前記Zr含有量およびHf含有量のばらつきがそれぞれ20%以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。 【請求項2】 請求項1記載のスパッタリングターゲットにおいて、前記ターゲットはバッキングプレートと接合されていることを特徴とするスパッタリングターゲット。 【請求項3】 請求項1または請求項2記載のスパッタリングターゲットを用いて、Ti-Al-N膜を成膜することを特徴とするTi-Al-N膜の製造方法。 【請求項4】 請求項1または請求項2記載のスパッタリングターゲットを用いて、Ti-Al-N膜を成膜する工程を具備することを特徴とする電子部品の製造方法。 【請求項5】 請求項4記載の電子部品の製造方法において、前記Ti-Al-N膜は拡散防止層であることを特徴とする電子部品の製造方法。 【請求項6】 請求項4または請求項5記載の電子部品の製造方法において、前記電子部品は半導体メモリであることを特徴とする電子部品の製造方法。」 第2 原査定の拒絶理由の概要 この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明であるか、あるいは、該記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号あるいは同条第2項の規定により特許を受けることができない。 刊行物 1 特開2000-273623号公報 2 特開2000-328242号公報 3 特開2000-100755号公報 第3 当審の判断 1 刊行物の記載事項 (1) 刊行物1について ア 刊行物1の記載事項 刊行物1には、次の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 Al5?65wt%を含有するTi-Al合金スパッタリングターゲットであって、U、Th等のそれぞれの放射性元素の含有量が0.001ppm以下、Na、K等のそれぞれのアルカリ金属の含有量が0.1ppm以下、遷移金属であるFe10.0ppm以下、Ni5.0ppm以下、Co2.0ppm以下、Crの含有量が2.0ppm以下であり、その他の不純物を含め99.995%以上の純度を有することを特徴とするTi-Al合金スパッタリングターゲット。」 (イ)「【0008】 【発明が解決しょうとする課題】本発明は、上記の諸問題点の解決、特に積層薄膜を構成する物質の相互拡散により発生する汚染防止のためのバリヤー膜としての機能を効果的に発揮するとともに、このバリヤー膜から発生する汚染物質または影響を極力低減させ、緻密な膜を形成することができるTi-Al合金スパッタリングターゲットを提供することを目的としたものである。」 (ウ)「【0010】本発明のスパッタリングターゲットは・・・成分調整したTi-Al合金を、真空アーク溶解、プラズマ溶解、電子ビーム溶解、水冷銅るつぼを使用した誘導溶解等により均一に溶解、鋳造して作製する。・・・。」 (エ)「【0014】TiAlNバリヤ膜としてはAl5?65wt%が必要であり、U、Th等のそれぞれの放射性元素の含有量を0.001ppm以下とする。0.001ppmを超えると、放射性元素による放射線のMOSへの影響がでるので好ましくない。また、Na、K等のそれぞれのアルカリ金属含有量を0.1ppm以下とする。この量を超えると、バリヤ膜からのアルカリ金属の影響を受け、例えばゲート絶縁膜中を移動するアルカリ金属によるMOS界面特性の劣化が無視できないものとなる。さらに、遷移金属または高融点金属であるFeを10.0ppm以下、Niを5.0ppm以下、Coを2.0ppm以下、Crの含有量を2.0ppm以下とする。これによって、界面準位の発生や接合リークを効果的に抑制することができる。そして、その他の不純物を含め99.995%以上の純度を有するように成分調整したTi-Al合金ターゲットとする。これによって、バリヤー膜から発生する汚染物質または影響を極力低減させることができるとともに、バリヤー膜として有効に機能する緻密な膜を形成することができる。」 イ 刊行物1に記載された発明 記載事項(イ)によれば、刊行物1には、バリヤ膜を形成するためのTi-Al合金スパッタリングターゲットに関する発明が記載されており、同(ア)によれば、このターゲットは、Alを5?65wt%含有し、不純物としてのU、Th等の放射性元素の含有量を0.001ppm以下、Na、K等のアルカリ金属含有量を0.1ppm以下、Feを10.0ppm以下、Niを5.0ppm以下、Coを2.0ppm以下、Crを2.0ppm以下含有するものであり、その他の不純物を含め99.95%以上の純度を有するもので、同(ウ)によれば、該ターゲットは成分調整されたTi-Al合金を溶解・鋳造して製造される。 そして、同(エ)によれば、これらの不純物の含有量が特定値以下であることにより、形成されたバリヤ層が発生する放射線や汚染物質の影響を少なくし、バリヤ特性が優れたバリヤ層を形成できる。 したがって、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 「溶解・鋳造により製造され、Alを5?65wt%含有し、放射性元素の含有量を0.001ppm以下、アルカリ金属含有量を0.1ppm以下、及びFeを10.0ppm以下、Niを5.0ppm以下、Coを2.0ppm以下、Crを2.0ppm以下で含有するTi-Al合金スパッタリングターゲット。」 (2)刊行物2について ア 刊行物2の記載事項 同じく、刊行物2には、次の事項が記載されている。 (カ)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 Alを15?40原子%含有し、残部が実質的にTiからなるTi-Al合金スパッタリングターゲットであって、Ti_(3)Al 金属間化合物の面積率が30%以上である金属組織を有し、かつ、径が0.1mm 以上の欠陥が10個/100cm_(2)以下であることを特徴とするTi-Al合金スパッタリングターゲット。 ・・・ 【請求項3】 酸素濃度が200質量ppm 以下であり、炭素、窒素及び水素の濃度が合計で100質量ppm 以下である請求項1又は2記載のTi-Al合金スパッタリングターゲット。 【請求項4】 TiおよびAl原料を不活性ガス雰囲気で溶解した後、該溶解により得られた溶湯を1×10^(-2)Torr超の真空雰囲気にて鋳造し、該鋳造により得られたインゴットを型枠に装填し、1273?1573Kの温度において歪み速度を5mm/分以下にして総圧下率が30%超となるように加工することを特徴とする請求項1、2又は3記載のTi-Al 合金スパッタリングターゲットの製造方法。」 (キ)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、Ti-Al合金スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する技術分野に属し、特には、LSIやFeRAM等に代表される多層薄膜構造を有する電子デバイス装置の製造、中でもスパッタリングによる拡散防止層の形成に用いられるTi-Al合金スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する技術分野に属する。 ・・・・ 【0007】 上述したTi-Al合金ターゲットには、素子特性の劣化原因やダストの発生原因などとなる不純物量を低減することが求められることから、高純度材が得られやすい溶解法が主に用いられている。」 (ク)「【0029】本発明に係るTi-Al合金ターゲットにおいて酸素濃度が 200質量ppm 以下であり、炭素、窒素及び水素の濃度が合計で 100質量ppm 以下である場合には、ガス穴や化合物相(酸化物等)等の欠陥が極めて少なく、このためアーキングやパーティクル、スプラッシュ等のスパッタ不良がより確実に発生し難くなる(第3発明)。」 (ケ)「【0035】これらに対し、本発明に係るTi-Al合金ターゲットの製造方法(第4発明及び第5発明)においては、第4発明の場合も第5発明の場合も、Ti-Al合金インゴットを得る際に、一旦Ti及びAl原料を不活性ガス雰囲気で溶解するものの、この後、該溶解により得られた溶湯を1×10^(-2)Torr超という高真空度の真空雰囲気にて鋳造して、インゴットを得るようにしている。従って、前記溶解後鋳造前に溶湯を真空雰囲気にさらすことができ、それにより溶湯中の酸素、炭素、窒素及び水素等のガス成分を除去し得、ひいてはガス穴や化合物相(酸化物等)等の欠陥が少ないインゴットを得ることができる。・・・。」 (コ)「【0048】(実施例1?9)純度4NのAl原料および純度5NのTi原料を不活性ガス雰囲気で溶解した後、該溶解により得られた溶湯を1×10^(-2)Torr超の真空雰囲気にて鋳造して、実施例1?9に係るTi-Al 合金インゴットを得た。」 イ 刊行物2に記載された発明 記載事項(キ)によれば、刊行物2には、不純物量を低減したTi-Al合金スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する発明が記載されており、該スパッタリングターゲットは、同(カ)によれば、 Alを15?40原子%含有し(【請求項1」】)、Ti及びAl原料の溶解・鋳造により製造され(【請求項4】)、不純物として、酸素濃度が200質量ppm 以下であり、炭素、窒素及び水素の濃度が合計で100質量ppm 以下のもの(【請求項3】)である。 したがって、刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。 「Alを15?40原子%含有し、Ti及びAl原料の溶解・鋳造により製造され、不純物としての酸素濃度が200質量ppm 以下であり、炭素、窒素及び水素の濃度が合計で100質量ppm 以下であるTi-Al合金スパッタリングターゲット。」 (3)刊行物3について ア 刊行物3の記載事項 同じく、刊行物3には、次の事項が記載されている。 (サ)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 O:15?900ppmを含有することを特徴とする半導体装置のバリア膜形成用Ti-Al合金スパッタリングターゲット。 【請求項2】 重量%でAl:1?30%、O:15?900ppmを含有し、残部Tiおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする半導体装置のバリア膜形成用Ti-Al合金スパッタリングターゲット。」 (シ)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】・・・この発明は、窒素含有雰囲気中でスパッタして(Ti,Al)N膜を形成しても、粗大パーティクルが発生することの少ないTi-Al合金スパッタリングターゲットを提供するものである。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、窒素含有雰囲気中でスパッタして(Ti,Al)N膜を形成する際の粗大パーティクルの発生を抑制する研究を行なっていたところ、(a)・・・、(b)重量%でAl:1?30%(好ましくは3?18%)を含有し、残部Tiおよび不可避不純物からなる組成を有するTi-Al合金ターゲットにおいて、酸素含有量を15?900ppmの範囲に抑えたTi-Al合金ターゲットを用いて窒素含有雰囲気中でスパッタすると、パーティクルの発生を一層少なくすることができ、また得られた(Ti,Al)N膜は半導体装置の酸素拡散防止用バリヤ膜として優れたものとなる、という研究結果が得られたのである。」 (ス)「【0006】この発明のTi-Al合金スパッタリングターゲットは、高純度のAlを1?30%、残部を高純度のTiとなるように配合し、この配合原料をインダクションスカル溶解炉を用いて通常より低い2×10^(-4)?2×10^(-3)Torrの高真空雰囲気中で溶解し、同じ真空雰囲気中で鋳造してインゴットを作製し、得られたインゴットを1000?1200℃の範囲内の所定の温度で熱間加工することにより製造する。」 (セ)「【0010】 【発明の実施の形態】原料粉末として、純度:99.99%以上の高純度Tiおよび純度:99.99%以上の高純度Alを用意し、これら高純度Tiおよび高純度Alを表1に示される真空雰囲気中でインダクションスカル炉にて溶解し鋳造することにより表1に示される組成を有し、直径:200mm、厚さ:200mmの寸法を有するインゴットを作製した。」 イ 刊行物3に記載された発明 記載事項(サ)によれば、刊行物3には、 重量%でAlを1?30%含有するTi-Al合金スパッタリングターゲットに関する発明が記載されている。そして、同(シ)によれば、酸素含有量を抑制することにより、スパッタリング中のパーティクルの発生を抑え、優れた特性の酸素拡散防止用バリヤ膜を形成することができるので、ターゲット中の酸素は不純物であり、この発明はターゲット中に不純物としての酸素を15?900ppm含有すると規定するものである。 また、その製造方法は、同(ス)(セ)によれば、4N以上のTi及びAlを原料として用い、真空雰囲気中で溶解・鋳造することにより製造されている。 したがって、刊行物3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。 「重量%でAlを1?30%含有し、溶解・鋳造により製造され、不純物として酸素を15?900ppm含有するTi-Al合金スパッタリングターゲット。」 2 対比と判断 (1)引用発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1におけるTi-Al合金スパッタリングターゲットのAl含有量は、5?65wt%であるが、該ターゲットの残部はTiであるとして原子比に換算すると8.8?76.8原子%であり、このため、本願発明1におけるAl含有量である5?50原子%を包含する。 また、引用発明1では、成分調整したTi-Al合金を溶解・鋳造して製造しているので、製造されたTi-Al合金スパッタリングターゲットは「溶解材」であるといえ、本願発明1におけるスパッタリングターゲットと共通する。 とすると、本願発明1と引用発明1とは、「Alを5?50原子%の範囲で含有するTi-Al合金の溶解材からなるスパッタリングターゲット」に関する発明である点で一致し、次の点で相違する。 本願発明1では、「ターゲットのZr含有量およびHf含有量がそれぞれ100ppb以下であり、かつターゲット全体としての前記Zr含有量およびHf含有量のばらつきがそれぞれ20%以下である」(以下、「ターゲットのZr含有量、Hf含有量及びそのばらつきが特定値以下」と言い換えることもある。)のに対し、引用発明1では、Zr、Hfの含有量及びそのばらつきがどの程度か明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。 イ 判断 a 新規性要件について 相違点1に係る構成が刊行物1に記載されているといえるかに関し、刊行物1には、ターゲットのZr含有量、Hf含有量及びそのばらつきが特定値以下である点について明示の記載はない。そこで、これについての実質的な記載があるか、すなわち、記載事項(ア)によれば、引用発明1のターゲットは、その他の不純物を含め99.995%以上の純度を有するとされているが、ターゲットの製造方法からみて、その他の不純物としてZr含有量、Hf含有量及びそのばらつきが特定値以下であるといえるかを検討する。 これに関し、同(ウ)によれば、引用発明1のターゲットの製造は溶解法により行われるが、その溶解手段として電子ビーム溶解、すなわちEB溶解が記載されている。 そして、本願明細書の段落【0056】の記載によれば、4N以上のTi材を用意しEB溶解を3回以上繰り返すことで、Ti材中のZr及びHf含有量を所定値以下にすることができるとし、同段落【0104】の【表6】には、EB回数を6回以上とすることで、所定のZr及びHf量とすることができることが確認できる。 しかし、引用発明1においては、EB溶解は、記載事項(ウ)によればいくつかの溶解方法の1つとして記載されているに過ぎず、また、溶解を複数回繰り返すことについては記載も示唆もされていない。 したがって、製造方法に着目したとしても、ターゲットのZr含有量、Hf含有量及びそのばらつきを特定値以下とすることは、刊行物1に実質的に記載されているとすることはできない。 したがって、相違点1に係る構成が刊行物1に実質的に記載されているとすることはできないので、本願発明1と引用発明1は、上記相違点1の構成で相違する。このため、本願発明1は、刊行物1に記載された発明とすることはできない。 b 進歩性要件について 次に、相違点1に係る構成に想到することが、当業者が容易になし得るかを検討する。 本願発明1は、溶解法でTi-Al合金ターゲットを作製する際に、熱間加工時に発生する合金材のクラックやカケの発生を抑えて製造歩留まりを高めることを課題とし(本願明細書の段落【0009】、【0014】)、これを解決する手段として、ターゲットのZr含有量、Hf含有量及びそのばらつきを特定値以下とするものである(以下、「本願発明1の課題及び解決手段」という。)から、ターゲット作製時の課題に着目した発明である。 これに対し、刊行物1には、ターゲット中のZr、Hf含有量を所定値以下にすることについて記載されていない。むしろ、引用発明1では、記載事項(イ)(エ)によれば、該ターゲットにより製造したバリヤ膜から発生する汚染物質が、該バリヤ膜を有する電子部品に対して及ぼす影響を極力低減させることを目的としているから、ターゲットから作製されたバリヤ膜が有する課題に着目している。 このため、ターゲットの製造歩留まりの向上を目的として、ターゲットのZr含有量、Hf含有量及びそのばらつきを低減することについて、刊行物1には示唆するところはないといえる。 そして、本願発明1は、該解決手段を採用することにより、ターゲットのワレ・カケを抑えて製造歩留まりを向上するという顕著な効果を達成するものであり(段落【0104】の【表1】)、このことは、引用発明1から予測できない効果であるといえる。 したがって、本願発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をなしえたものとすることはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるので、本願発明1は、刊行物1に記載された発明ではなく、引用発明1に基づいて当業者が容易に想到しえたものとすることはできない。また、本願発明2?6は、本願発明の特定事項を全て有し、さらに本願発明1の特定事項を限定・具体化したものであるので、同様の理由から、刊行物1に記載された発明であるとも、また、引用発明1に基づいて当業者が容易に想到しえた発明であるとすることもできない。 (2)引用発明2について ア 対比 本願発明1と引用発明2とを対比する。 引用発明2におけるTi-Al合金スパッタリングターゲットは、Alを15?40原子%含有するが、これは、本願発明1におけるAl含有量である5?50原子%に包含される。 また、引用発明2では、Ti及びAl原料を溶解・鋳造することにより製造されているので、製造されたTi-Al合金スパッタリングターゲットは「溶解材」であるといえ、本願発明1におけるスパッタリングターゲットと共通する。 このため、本願発明1と引用発明2とは、「Alを5?50原子%の範囲で含有するTi-Al合金の溶解材からなるスパッタリングターゲット」に関する発明である点で一致し、次の点で相違する。 本願発明1では、「ターゲットのZr含有量およびHf含有量がそれぞれ100ppb以下であり、かつターゲット全体としての前記Zr含有量およびHf含有量のばらつきがそれぞれ20%以下である」が、引用発明2では、Zr、Hfの含有量及びそのばらつきがどの程度であるか明らかではない点(以下、「相違点2」という。)。 イ 判断 a 新規性要件について 相違点2に係る構成が刊行物に記載されているといえるかに関し、刊行物2には、ターゲットのZr含有量、Hf含有量及びそのばらつきが特定値以下である点について、明示の記載はない。そこで、この点について、刊行物2に実質的な記載があるかを検討する。 これに関し、引用発明2は、酸素濃度が200質量ppm 以下であり、炭素、窒素及び水素の濃度が合計で100質量ppm 以下にするものであるが、これは、記載事項(ケ)によれば、溶解により得られた溶湯を真空雰囲気にさらすことでガス成分を除去することによりなされる。また、同(コ)によれば、原料として純度4NのAl原料と純度5NのTi原料を使用しており、本願発明1におけると同様の高純度の原料を使用している。 しかし、本願発明1のZr及びHfの除去手段として、その実施例で採用されている複数回のEB処理が行われていないので、引用発明2において、実質的にZr及びHf含有量が100ppb以下となっているとすることはできない。 したがって、相違点2に係る構成が刊行物2に実質的に記載されているとすることはできないので、本願発明1と引用発明2は、上記相違点2の構成で相違する。このため、本願発明1は、刊行物2に記載された発明とすることはできない。 b 進歩性要件について 次に、相違点2に係る構成に想到することが、当業者が容易になし得るかを検討する。 引用発明2において酸素濃度が200質量ppm 以下であり、炭素、窒素及び水素の濃度が合計で100質量ppm 以下にするのは、記載事項(ク)によれば、ターゲットのガス穴や化合物相等の欠陥の発生を抑え、もってスパッタ不良の発生を抑制するところにあり、上記(1)、イ、bで検討した本願発明1の解決する課題と解決手段については、刊行物2には記載も示唆もない。 そして、本願発明1は、該解決手段を採用することにより、ターゲットのワレ・カケを抑えて製造歩留まりを向上するという顕著な効果を達成するものであり(段落【0104】の【表1】)、このことは、引用発明2から予測できない効果であるといえる。 したがって、本願発明1は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をなしえたものとすることはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるので、本願発明1は、刊行物2に記載された発明ではなく、引用発明2に基づいて当業者が容易に想到しえたものとすることはできない。また、本願発明2?6は、本願発明の特定事項を全て有し、さらに本願発明1の特定事項を限定・具体化したものであるので、同様の理由から、刊行物2に記載された発明であるとも、また、引用発明2に基づいて当業者が容易に想到しえた発明であるとすることもできない。 (3)引用発明3について ア 対比 本願発明1と引用発明3とを対比する。 引用発明3におけるTi-Al合金スパッタリングターゲットは、Alを1?30重量%含有するが、これは、残部がTiからなるとして原子比に換算すると、Al含有量は1.9?43.2原子%であり、このため、本願発明1におけるAl含有量である5?50原子%に包含される。 また、引用発明3では、高純度のTi及びAlを溶解・鋳造して製造しているので、製造されたTi-Al合金スパッタリングターゲットは「溶解材」であるといえるので、本願発明1におけるスパッタリングターゲットと共通する。 とすると、本願発明1と引用発明3とは、「Alを5?50原子%の範囲で含有するTi-Al合金の溶解材からなるスパッタリングターゲット」に関する発明である点で一致し、次の点で相違する。 本願発明1では、「ターゲットのZr含有量およびHf含有量がそれぞれ100ppb以下であり、かつターゲット全体としての前記Zr含有量およびHf含有量のばらつきがそれぞれ20%以下である」のに対し、引用発明3では、Zr、Hfの含有量及びそのばらつきがどの程度か明らかではない点(以下、「相違点3」という。)。 イ 判断 a 新規性要件について 相違点3に係る構成が刊行物3に記載されているかに関し、刊行物3には、ターゲットのZr含有量、Hf含有量及びそのばらつきが特定値以下である点について、明示の記載はない。そこで、この点について、刊行物3に実質的な記載があるかを検討する。 これに関し、引用発明3は、不純物としての酸素を15?900ppm含有するスパッタリングターゲットに関するものであるが、記載事項(ス)によれば、配合原料をインダクションスカル溶解炉を用いて通常より低い2×10^(-4)?2×10^(-3)Torrの高真空雰囲気中で溶解し、同じ真空雰囲気中で鋳造してインゴットを作製し、得られたインゴットを1000?1200℃の範囲内の所定の温度で熱間加工することで、酸素含有量を特定値以下としている。また、同(セ)によれば、Ti原料として4N以上の高純度Ti及び高純度Alを使用しており、本願発明1におけると同様の高純度の原料を使用している。 しかし、本願発明1でZr及びHfの除去手段として、その実施例で採用されている複数回のEB処理が行われていないので、引用発明3において、実質的にZr及びHf含有量が100ppb以下となっているとすることはできない。また、本願発明においてZrやHfの含有量のばらつきを制御するために所定の熱処理温度と保持時間で熱間加工することについては、刊行物3には記載されていない。 したがって、相違点3に係る構成が刊行物3に実質的に記載されているとすることはできないので、本願発明1と引用発明3は、上記相違点3の構成で相違する。このため、本願発明1は、刊行物3に記載された発明とすることはできない。 b 進歩性要件について 次に、相違点3に係る構成に想到することが、当業者が容易になし得るかを検討する。 引用発明3は、同(シ)によれば、窒素雰囲気中でスパッタしても粗大パーティクルが発生することの少ないTi-Al合金スパッタリングターゲットを提供することを目的としており、上記した本願発明1の解決する課題と解決手段について、刊行物3には記載も示唆もない。 そして、本願発明1は、該解決手段を採用することにより、ターゲットのワレ・カケを抑えて製造歩留まりを向上するという顕著な効果を達成するものであり(段落【0104】の【表1】)、このことは、引用発明3から予測できない効果であるといえる。 したがって、本願発明1は、引用発明3に基づいて当業者が容易に発明をなしえたものとすることはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるので、本願発明1は、刊行物3に記載された発明ではなく、引用発明3に基づいて当業者が容易に想到しえたものとすることはできない。また、本願発明2?6は、本願発明の特定事項を全て有し、さらに本願発明1の特定事項を限定・具体化したものであるので、同様の理由から、刊行物3に記載された発明であるとも、また、引用発明3に基づいて当業者が容易に想到しえた発明であるとすることもできない。 第4 まとめ 本願発明1?6は、刊行物1?3に記載された発明とすることはできず、また、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しえたものとすることもできないので、本願については、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する |
審決日 | 2014-03-03 |
出願番号 | 特願2011-82885(P2011-82885) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(C23C)
P 1 8・ 121- WY (C23C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 植前 充司 |
特許庁審判長 |
真々田 忠博 |
特許庁審判官 |
川端 修 吉水 純子 |
発明の名称 | スパッタリングターゲットとそれを用いたTi-Al-N膜および電子部品の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人サクラ国際特許事務所 |