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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1285132
審判番号 不服2011-19339  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-07 
確定日 2014-02-27 
事件の表示 特願2006-542892「フィルム粒子パターンのデータベースを用いてフィルム粒子のシミュレーションを行う技術」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月23日国際公開、WO2005/057936、平成19年 5月24日国内公表、特表2007-513434〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」と記す。)は、
2003年12月5日のアメリカ合衆国での出願を基礎とするパリ条約に基づく優先権主張を伴った、
2004年12月1日を国際出願日とする出願であって、
平成18年6月2日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面が提出され、
平成18年7月24日付けで特許法第184条の4第1項の規定による翻訳文が提出されると共に、
同日付けで2005年6月20日付けの特許協力条約第34条に基づく補正の翻訳文が提出され、
平成19年11月20日付けで審査請求がなされると共に、
同日付けで特許請求の範囲を変更する手続補正書が提出され、
平成22年8月18日付けで拒絶理由通知(平成22年8月20日発送)がなされ、
平成23年2月18日付けで意見書が提出されると共に、
同日付けで特許請求の範囲を変更する手続補正書が提出され、
平成23年5月2日付けで拒絶査定(平成23年5月11日謄本送達、発送)がなされたものである。
本件審判請求は「原査定を取り消す。本願は特許をすべきものである、との審決を求める。」との請求の趣旨で、
平成23年9月7日付けでなされたもので、
同日付けで図面を変更する手続補正書が提出され、
平成24年1月4日付けで特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされ、
平成24年1月23日付けで当該報告に対する意見を求める旨の審尋(平成24年1月25日発送)がなされ、
平成24年7月24日付けで回答書が提出され、
平成25年2月5日付けで拒絶理由通知(平成25年2月6日発送。以下「当審拒絶理由通知」と記す。)がなされ、
平成25年8月6日付けで意見書が提出されると共に、
同日付けで手続補正書が提出されたものである。


第2.当審拒絶理由通知時の発明の詳細な説明
当審拒絶理由通知時の発明の詳細な説明は、上記平成18年7月24日付けの明細書の翻訳文記載の、概略次のとおりのものである。(下線は当審付与。)

<当審拒絶理由通知時の発明の詳細な説明>
「【技術分野】

・・・(中略)・・・

【0004】
粒子(グレイン)のサイズおよび形状は様々である。フィルムが高感度になるほど、形成される銀の凝集塊および生成される染料のブロブは大きくなり、且つ不規則なパターンで互いに集まりやすくなる傾向がある。「粒状度(granularity:粒度)」という用語は、通常はこの粒子パターンを指す。個々の粒子は0.0002mmから約0.002mmの範囲であり、裸眼で識別することはできない。しかし、裸眼でも、粒子の集まりを見分けることはでき、これを「ブロブ」と呼ぶ。これらのブロブの集まりがフィルム粒子として識別される。画像の解像度が高くなると、フィルム粒子の知覚度も高くなる。フィルム粒子は映画および高解像度(HD)画像でははっきりと目に付くが、標準解像度(SD)では次第に重要でなくなり、フォーマットが小さくなるにつれて知覚できなくなる。
【0005】
動画フィルムは、通常、写真フィルムの露光および現像という物理的プロセス、またはその後の画像編集によって生じる画像依存ノイズを含んでいる。写真フィルムは、写真の感光乳剤の物理的粒状度によって生じる、特徴的な擬似ランダム・パターン、即ちテクスチャを有する。或いは、計算によって生成した画像において同様のパターンのシミュレーションを行って、これらを写真フィルムとブレンドすることもできる。何れの場合も、この画像依存ノイズは、「フィルム粒子(film grain:フィルム・グレイン)」と呼ばれる。適度な粒子テクスチャが、動画に望ましい特徴を与えることは非常にしばしばある。場合によっては、フィルム粒子は、2次元ピクチャを正しく知覚することを容易にする視覚的なキュー(cue)を提供することもある。1枚のフィルムの中でフィルムのグレードが変化し、時間参照や視点などに関する様々な手がかりを提供することも多い。映画産業では、その他にも、粒子テクスチャの制御に関する多くの技術的、芸術的要求がある。従って、映画産業においては、一連の画像処理および配信の間に、画像が持つ粒状の外観を保存することが必要となっている。
【0006】
幾つかの市販製品は、しばしばコンピュータで生成したオブジェクトを自然の光景に組み込むために、フィルム粒子をシミュレートする機能を有する。米国ニューヨーク州Ro
chesterのEastman Kodak社製のCineon(米国登録商標)は、粒子シミュレーションを実施する最初のディジタル・フィルム・アプリケーションの1つであり、多くの粒子タイプに対して非常に写実的な結果が得られる。しかし、Cineonアプリケーションは、粒子サイズを高く設定すると顕著な斜めの縞が発生するので、多くの高速フィルムで良好な性能が得られない。更に、Cineonアプリケーションは、例えば画像を複製またはディジタル処理する場合など、画像に前処理を施す場合には、十分な忠実度で粒子をシミュレートすることができない。

・・・(中略)・・・

【0010】
本発明の別の態様によれば、複数のピクセルからなる画像ブロックにおいてフィルム粒子をシミュレートする方法が提供される。この方法は、予め設定されたフィルム粒子値のプールから、フィルム粒子のブロックが選択されたときに開始される。フィルム粒子のブロックの選択は、画像ブロックの輝度(luma:ルマ)平均値に対応する輝度強度間隔に対して、それらのブロックの間で乱数に従って無作為に行われる。選択されたフィルム粒子ブロックに対して、デブロッキングを行う。デブロッキングされたフィルム粒子ブロックの少なくとも一部分を、画像ブロックの個々のピクセルとブレンドして、フィルム粒子をシミュレートし、その結果得られたブレンド済みのピクセルを、表示などのために出力する前にクリッピングする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
導入
本発明の原理によれば、フィルム粒子のシミュレーションは、シミュレートした粒子をブレンドする画像と共に伝送されるフィルム粒子情報に従って行われる。実際には、伝送される画像は、H.264圧縮方式など様々な周知の圧縮方式の1つによって、伝送される前に圧縮(符号化)されるのが普通である。H.264圧縮方式を用いて圧縮された伝
送画像では、フィルム粒子情報は、付加拡張情報(SEI:Supplemental Enhancement Information)メッセージを介して伝送される。H.264規格を公表した標準化団体が最近採用している提言によれば、SEIメッセージは、現在では、様々なフィルム粒子属性を指定する様々なパラメータを含むことができる。

・・・(中略)・・・

【0015】
【表3】
・・・(中略)・・・
フィルム粒子SEIメッセージのその他の全てのパラメータについては、標準仕様に関する制約はない。
【0016】
フィルム粒子シミュレーションのビット・アキュレートな(bit-accurate)実施
本発明の原理によるフィルム粒子シミュレーションは、2ステップ・プロセスで行われる。最初に、図1を参照して更に詳細に述べるように、Iピクチャの前に拡張付加情報(SEI)メッセージを受信した後で行う初期化の間に、フィルム粒子ブロックのプールを生成する。このフィルム粒子ブロックのプールから、特定の値のブロックを選択する。その後、図2を参照して述べるように、選択したブロックの複数の部分を、復号した各ピクチャの各輝度ピクセルに付加する。
【0017】
図1は、本発明の原理の例示的な実施形態による、フィルム粒子シミュレーションに使用されるフィルム粒子ブロックのプールを生成する装置10を示す図である。フィルム粒子情報を含むフィルム粒子拡張付加情報(SEI)メッセージを受信すると、初期化プロセスが行われ、8個までの異なる輝度強度間隔のそれぞれに対して4096(512×8)個のフィルム粒子ピクセル値のプールが作成される。輝度(ルマ)強度間隔の数は、SEIメッセージのフィールドnum_intensity_intervals_minus1[0]に1を加えた数で示される。フィルム粒子サンプルの生成は、最も下の輝度強度間隔から始まる。
【0018】
フィルム粒子ノイズのビット・アキュレートなシミュレーションは、通常、特定の一様擬似乱数発生多項式および特定のフィルム粒子パターン・データベース12を使用して行われる。実際には、フィルム粒子パターン・データベース12は、4096(512×8)個のフィルム粒子の値を26組含む(13組は丸い粒子、13組は細長い粒子)。これらの値は、2の補数の形態で記憶され、[-127、127]の範囲となる。各組の値のリストは、予め規定して、システムがアクセスできる固定記憶装置に記憶してもよいし、或いはシステムの初期化またはリセット時にビット・アキュレートな方法を用いて作成してもよい。
【0019】
データベース12に記憶されたフィルム粒子パターンについて、選択ブロック14で選択が行われ、その後スケーリング・ブロック16でスケーリングが行われて、フィルム粒子ブロックのプール18が得られる。フィルム粒子パターンのデータベース12に対するアクセス、ブロック16による値のスケーリング、およびその後のブロックのスケーリング済みの値のプール18への記憶は、以下のルーチンに従って行われる。
(i=0..4095)として
【0020】
【数1】
・・・(中略)・・・
ここで、nは、comp_model_value[0][s][2]-3に等しい。mは、num_param_minus1[0]が1であるときには0に等しく、そうでないときには1に等しい。因数6は、データベースに記憶されたフィルム粒子値をスケーリングする。このプロセスは、SEIメッセージのフィールドnum_intensity_intervals_minus1[0]に1を加えた数で示される回数だけ実行される。
【0021】
ピクセル表示前のブロック演算およびピクセル演算
図2は、復号したピクチャにブロック・レベルおよびピクセル・レベルでフィルム粒子を付加するのに必要な演算を実行する装置20を示す図である。輝度平均化ブロック22は、復号画像の8×8ブロックのそれぞれを処理し、輝度ピクセル値の平均を計算し、SEIメッセージのパラメータintensity_interval_lower_bound[0][i]およびintensity_interval_upper_bound[0][i]と比較して、当該ブロックに対する正しい輝度強度間隔を決定する。一様乱数発生器24は、原始多項式のモジュロ2演算子x18+x5+x2+x1+1を用いて、選択ブロック26に入力するための乱数を生成する。選択ブロック26は、フィルム粒子プール18にアクセスして、乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する。

・・・(中略)・・・

【0025】
デブロッキング・フィルタ28
上述のように、デブロッキング・フィルタは、変換サイズが小さいために生じるブロッキング・アーティファクトを平滑化するために、ブレンドを行う前にフィルム粒子ブロックをデブロッキングする動作を行う。例示的な実施形態では、デブロッキング・フィルタ28は、8×8ブロックの左側縁部および右側縁部に隣接する全てのピクセルに適用される3タップ・フィルタを含んでいる。一行のピクセルが隣接する2つの8×8ブロックに属する場合には、ブロック間の移行位置はピクセルbとピクセルcの間にある。

・・・(後略)・・・』


第3.当審拒絶理由通知時の特許請求の範囲
当審拒絶理由通知時の特許請求の範囲は上記平成23年2月18日付けの手続補正書の特許請求の範囲記載のとおりのものであり、これは概略次のとおりのものである。

<補正前の特許請求の範囲>
「 【請求項1】
フィルム粒子を備えたピクセルのブロックを作成する方法であって、
画像ブロック中に現れるフィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータを含むフィルム粒子情報を受信するステップと、フィルム粒子ブロックを、フィルム粒子を含む予め設定された複数のブロックのセットからランダムに選択するステップと、
前記フィルム粒子を特徴付ける少なくとも1つのパラメータが示すブロック中の全てのピクセル値をスケーリングするステップと、
作成されたフィルム粒子ブロックをフィルム粒子ブロックのプールに記憶するステップと、
を含む、前記方法。

・・・(中略)・・・

【請求項6】
複数のピクセルからなる画像ブロックにおいてフィルム粒子をシミュレートする方法であって、
前記画像ブロックの輝度特性に対応する輝度値に対して、予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子のブロックを無作為に選択するステップと、
前記選択されたフィルム粒子ブロックをデブロッキングするステップと、
前記デブロッキングされたフィルム粒子ブロックの少なくとも一部分を、前記画像ブロックの各ピクセルとブレンドして、フィルム粒子をシミュレートするステップと、
その結果得られたブレンド済みのピクセルを、出力する前にクリッピングするステップと、
を含む、前記方法。

・・・(中略)・・・

【請求項11】
ピクセルからなるブロックを作成する装置であって、
フィルム粒子を含む予め設定されたピクセル・ブロックのセットを記憶する第1の記憶リポジトリと、
フィルム粒子ブロックを、前記第1のリポジトリからランダムに選択するセレクタと、
それが受信したフィルム粒子情報の少なくとも1つのパラメータに従って、前記選択されたフィルム粒子ブロック中の全てのピクセル値をスケーリングするスケーリング・ブロックと、
前記スケール化フィルム粒子ブロックを記憶する第2の記憶リポジトリと、を含む、前記装置。

・・・(中略)・・・

【請求項15】
複数のピクセルからなる画像ブロックにおいてフィルム粒子をシミュレートする装置であって、
予め設定されたフィルム粒子値のプールと、
前記画像ブロックの輝度特性に対応する輝度値に対して、前記予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子のブロックを無作為に選択するセレクタと、
前記選択されたフィルム粒子ブロックをデブロッキングするデブロッキング・フィルタと、
前記デブロッキングされたフィルム粒子ブロックの少なくとも一部分を、前記画像ブロックの各ピクセルとブレンドして、フィルム粒子をシミュレートする加算器と、
その結果得られたブレンド済みのピクセルを、出力する前にクリッピングするクリッパと、
を含む、前記装置。」


第4.当審拒絶理由通知
上記当審拒絶理由通知で通知された拒絶理由は、概略以下のとおりのものである。
『 理 由

この出願は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)本願請求項1の「フィルム粒子を備えたピクセルのブロック」、「フィルム粒子を含む予め設定された複数のブロックのセット」との記載や、本願請求項11の「フィルム粒子を含む予め設定されたピクセル・ブロックのセット」との記載は、「ピクセルのブロック」や「ブロックのセット」が「フィルム粒子」の何(「パターン」? 「ピクセル値」? あるいは他のもの?)を備える旨を意味するのかが不明である。(「ピクセルのブロック」や「ブロックのセット」が「フィルム粒子」自体を備えることは技術常識に反するので、この記載は「フィルム粒子」に関連する何らかのものを備える旨を記載しようとしていることは明らかであるものの、該「何らかのもの」が何であるのかは、本願請求項1、11の記載からは不明である。また、本願の発明の詳細な説明を参酌しても該「何らかのもの」が何であるのかを明確に特定できない。)
したがって、本願請求項1?5、11?14に係る発明は明確でない。
また、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1?5、11?14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1?5、11?14に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものである。


(2)本願請求項1に「画像ブロック中に現れるフィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータを含むフィルム粒子情報を受信するステップ」と、本願請求項7に「前記画像ブロック中に現れるフィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータを含むフィルム粒子情報を受信するステップ」と、本願請求項11に「それが受信したフィルム粒子情報の少なくとも1つのパラメータに従って」とあるが、ここでの「受信」との用語は如何なることを意味するのか(何処からどのようにして受信することを意味するのか? 遠隔の装置や再生装置から送信され通信ネットワークや放送網などを介して映像本体と共に「受信」することのみを意味するのか? 単に操作手段からの配線を通じて電子回路に入力するための「受信」(原審での引用文献1の「グレイン強度」が「バス954」を介して「ディジタル加算器回路614」に入力されるような「受信」)をも含むのか? 請求人の主張等を参酌すると、前者のみに限定解釈すべきものと思われるが、特許請求の範囲の記載はそのようなものに限定されていないため、後者とも解釈できる。)が明確でない。
したがって、本願請求項1?5、7?10、11?14に係る発明は明確でない。
また、このため、本願請求項1の記載は本願の発明の詳細な説明に記載の範囲を超えて特許を請求するものであり、本願請求項1?5、7?10、11?14に係る発明は本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないとも言える。
またこのため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1?5、7?10、11?14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1?5、7?10、11?14に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。


(3)本願請求項1の「フィルム粒子ブロックを、フィルム粒子を含む予め設定された複数のブロックのセットからランダムに選択するステップ」、本願請求項7の「擬似乱数に応じて、フィルム粒子ブロックを、フィルム粒子を含む予め設定された複数のブロックのセットから選択するステップ」、本願請求項11の「フィルム粒子ブロックを、前記第1のリポジトリからランダムに選択するセレクタ」との記載について

ア.当該ステップ、セレクタに相当する記載が本願の発明の詳細な説明にはない。(段落【0018】に「フィルム粒子ノイズのビット・アキュレートなシミュレーションは、通常、特定の一様擬似乱数発生多項式および特定のフィルム粒子パターン・データベース12を使用して行われる。」とあり、段落【0019】に「データベース12に記憶されたフィルム粒子パターンについて、選択ブロック14で選択が行われ」る旨の記載はあるものの、ここでの選択が「ランダムに」あるいは「擬似乱数に応じて」なされる旨の記載は無い。また、当該ステップ、セレクタを段落【0021】の「選択ブロック26は、フィルム粒子プール18にアクセスして、乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する。」との記載に対応付けると「プール」「第2の記憶リポジトリ」に相当するものが見当たらなくなる。)
したがって、本願請求項1?5、7?10、11?14に係る発明は本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないとも言える。
また、このため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1?5、7?10、11?14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1?5、7?10、11?14に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。
さらに、このため、当該ステップ、セレクタは本願の発明の詳細な説明を参酌しても技術的意味が不明なものであり、本願請求項1?5、7?10、11?14に係る発明は明確でない。

イ.本願請求項1、7の「選択するステップ」と上記(2)で摘記した「受信するステップ」との関係、特に当該ステップでの「選択」と上記(2)で「受信した」パラメータの関係が不明である。
したがって、本願請求項1?5、7?10に係る発明は明確でない。
また、本願請求項1の記載は、該「選択」と該「パラメータ」が無関係なものとの解釈も可能であるところ、そのような発明は本願の発明の詳細な説明で説明されているものではない。
したがって、本願請求項1?5、7?10に係る発明は本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないとも言える。
また、このため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1?5、7?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1?5、7?10に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。


(4)本願請求項1の「前記フィルム粒子を特徴付ける少なくとも1つのパラメータが示すブロック中の全てのピクセル値をスケーリングするステップ」、本願請求項7の「前記受信したフィルム粒子情報中の1つのパラメータが示すブロック中の全てのピクセル値をスケーリングするステップ」との記載について

・・・(中略)・・・

イ.本願請求項1、7の「・・・のパラメータが示すブロック中の全てのピクセル値をスケーリングする」との記載は、技術的に意味不明のものであり、また、本願の発明の詳細な説明の記載内容とも矛盾するものである。(「パラメータが示す」は「パラメータが示すように」等とすべきものなのでは?)
したがって、本願請求項1?5、7?10に係る発明は明確でなく、また、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、このため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1?5、7?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1?5、7?10に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。


(5)本願請求項1、請求項7の「作成されたフィルム粒子ブロックをフィルム粒子ブロックのプールに記憶するステップ」との記載について、

ア.当該ステップと上記(4)で摘記した「スケーリングするステップ」との関係、特に「作成されたフィルム粒子ブロック」と「スケーリング」して得られたものとの関係が不明である。
したがって、本願請求項1?5、7?10に係る発明は明確でない。
また、本願請求項1の記載は、該スケーリングして得られたものと「作成されたフィルム粒子ブロック」が無関係なものとの解釈も可能であるところ、そのような発明は本願の発明の詳細な説明で説明されているものではない。
したがって、本願請求項1?5、7?10に係る発明は本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないとも言える。
また、このため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?5、7?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1?5、7?10に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

・・・(中略)・・・

(9)本願請求項5の「擬似乱数および入来画像の輝度特性に従って前記フィルム粒子ブロックのプールからフィルム粒子ブロックをランダムに選択するステップ」、本願請求項6の「前記画像ブロックの輝度特性に対応する輝度値に対して、予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子のブロックを無作為に選択するステップ」、本願請求項15の「予め設定されたフィルム粒子値のプールと」「前記画像ブロックの輝度特性に対応する輝度値に対して、前記予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子のブロックを無作為に選択するセレクタ」との記載について、

ア.本願請求項15の「フィルム粒子値」の意味(フィルム粒子のサイズや形状を意味するのか?フィルム粒子ブロックに関する何らかの数値を意味するのか?フィルム粒子ブロック自体を意味するのか?フィルム粒子ブロック中のピクセル値を意味するのか?式【数1】のvを意味するのか?)が本願の発明の詳細な説明を参酌しても明確でない。(段落【0010】【0020】で「フィルム粒子値」との用語が用いられているが、この用語を明確に定義する説明が見当たらない。)
したがって、本願請求項15に係る発明は明確でない。
また、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項5に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

イ.「輝度特性」とは如何なる特性を意味するのか(「平均輝度値」を意味するのか、「輝度」の変化などを意味するのか?)が該請求項の記載からは明確でない。また本願の発明の詳細な説明では「輝度特性」なる用語は用いられておらず、本願の発明の詳細な説明を参酌してもその意味を把握できない。
したがって、本願請求項5、6?10、15に係る発明は明確でない。
また、このため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項5、6?10、15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項5、6?10、15に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

ウ.本願請求項5の「入来画像の輝度特性に従って」「ランダムに選択する」とは如何なる選択を意味するのか(輝度特性に対応付けられた値の範囲内でランダムに選択すると言う意味なのか? 輝度特性に対応付けられた乱数系列にしたがってランダムに選択すると言う意味なのか? 特定の輝度特性のときにランダムに選択し他の輝度特性のときにはランダムに選択しないと言う意味なのか?)が明確でない。
したがって、本願請求項5に係る発明は明確でない。
また、これら全ての意味を包含する「選択」が本願の発明の詳細な説明に開示されているわけではない。
したがって、本願請求項5に係る発明は本願の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、このため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項5に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

エ.本願請求項6、15の「前記画像ブロックの輝度特性に対応する輝度値」とは如何なる値を意味するのか(「画像ブロックの輝度特性」を表す「値」を意味し、該「値」に「輝度値」と言う名称を付けただけなのか? 「画像ブロックの輝度特性」の算出の基となった各ピクセルの「輝度値」と言う意味か? 「色」に関連する「値」は含むのか否か?)が明確でない。
したがって、本願請求項6?10、15に係る発明は明確でない。
また、このため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項6?10、15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項6?10、15に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

オ.本願請求項6、15の「輝度値に対して」「無作為に選択する」とは如何なる「選択」を意味するのか(輝度値に対応付けられた値の範囲内で無作為に選択すると言う意味なのか? 輝度値に対応付けられた乱数系列にしたがって無作為に選択すると言う意味なのか? 「選択」によって「ブロック」と「輝度値」の対応付けがなされると言う意味なのか? 選択されたブロックが単に「輝度値」の処理に用いられると言う意味なのか?)
したがって、本願請求項6?10に係る発明は明確でない。
また、これら全ての意味を包含する「選択」が本願の発明の詳細な説明に開示されているわけではない。
したがって、本願請求項6?10に係る発明は本願の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、このため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項6?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項6?10に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

・・・(中略)・・・

(13)本願請求項11に「前記スケール化フィルム粒子ブロック」とあるが、「スケール化フィルム粒子ブロック」なる用語は前記されておらず、また該用語は本願の発明の詳細な説明においても用いられていないため、本願の発明の詳細な説明を参酌してもその意味が明確でない。
したがって、本願請求項11?14に係る発明は明確でない。
また、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項11?14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項11?14に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものである。


(14)本願請求項15には「複数のピクセルからなる画像ブロックにおいてフィルム粒子をシミュレートする装置であって」との記載と「前記デブロッキングされたフィルム粒子ブロックの少なくとも一部分を、前記画像ブロックの各ピクセルとブレンドして、フィルム粒子をシミュレートする加算器と」との記載があり、「フィルム粒子をシミュレートする」主体が「装置」である旨と「加算器」である旨の記載が混在しており合理的な解釈ができない。またこのため、「シミュレート」の意味が不明確となっている。
したがって、本願請求項15に係る発明は明確でない。


(15)本願の発明の詳細な説明にも意味の不明・不明確な記載(下記ア.?シ.に例示する。)が散見される。
このため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1?15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1?15に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものである。

・・・(中略)・・・

イ.段落【0004】の『粒子(グレイン)のサイズおよび形状は様々である。フィルムが高感度になるほど、形成される銀の凝集塊および生成される染料のブロブは大きくなり、且つ不規則なパターンで互いに集まりやすくなる傾向がある。「粒状度(granularity:粒度)」という用語は、通常はこの粒子パターンを指す。』(この記載では「粒状度」は「不規則なパターン」を指すものになってしまう。)

ウ.段落【0004】の「フォーマットが小さくなるにつれて知覚できなくなる。」。(「フォーマットが小さくなる」は技術的に意味不明の記載。)

エ.段落【0006】の「写実的な結果」

・・・(中略)・・・

ク.段落【0010】の「フィルム粒子のブロックの選択は、画像ブロックの輝度(luma:ルマ)平均値に対応する輝度強度間隔に対して、それらのブロックの間で乱数に従って無作為に行われる。」(「輝度強度間隔」とは何を意味するのか(輝度の量子化ステップのことか? 輝度範囲のことか? 輝度の差のことか? 差分符号化された輝度のことか?)不明。「選択は」「輝度強度間隔に対して」「それらのブロックの間で」「行われる。」とは如何なる処理を意味しているのか不明。)

ケ.段落【0017】の「8個までの異なる輝度強度間隔のそれぞれに対して4096(512×8)個のフィルム粒子ピクセル値のプールが作成される。」(「8個までの」は何(「輝度強度間隔」? 「フィルム粒子ピクセル値」? 「プール」?)を修飾しているのか不明。)

コ.段落【0017】の「輝度(ルマ)強度間隔の数は、SEIメッセージのフィールドnum_intensity_intervals_minus1[0]に1を加えた数で示される。フィルム粒子サンプルの生成は、最も下の輝度強度間隔から始まる。」(「フィルム粒子サンプル」とは何を意味するのか不明。「最も下の輝度強度間隔」とはどの(何が最小の)輝度強度間隔を意味するのか不明。)

サ.段落【0020】の「因数6は、データベースに記憶されたフィルム粒子値をスケーリングする。」(「因数6」とは何を意味するのか(文言通りに因数6という技術的手段がスケーリングと言う処理を行うと言う意味なのか? 【数1】の「>>6」のことを意味しているのか?)不明。「フィルム粒子値」とは何を意味するのか(「フィルム粒子」の大きさか? 「フィルム粒子」の明るさか? 「フィルム粒子」にふられた番号か?)が不明。)

シ.段落【0025】の「変換サイズが小さいために生じるブロッキング・アーティファクト」(何の「変換サイズ」と何故なる因果関係で生じる「ブロッキング・アーティファクト」のことを意味しているのか不明)』


第5.平成25年8月6日付け手続補正
上記平成25年8月6日付けの手続補正(以下「本件補正」と記す。)は特許請求の範囲を下記本件補正後の特許請求の範囲のとおりに補正するとともに、明細書の段落【0001】【0009】【0010】を削除し、段落【0010】を下記本件補正後の段落【0010】に補正するものである。(下線は該手続補正書記載のとおりのもの。)

<本件補正後の特許請求の範囲>
「 【請求項1】
フィルム粒子ブロックを作成する方法であって、
画像ブロック中に現れるフィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータを含むフィルム粒子情報を受信するステップと、フィルム粒子ブロックを、フィルム粒子を含む予め設定された複数のブロックのセットからランダムに選択するステップと、
前記フィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータが示すブロック中の全てのピクセル値をスケーリングするステップと、
作成されたフィルム粒子ブロックをフィルム粒子ブロックのプールに記憶するステップと、
を含む、前記方法。
【請求項2】
複数のピクセルからなる画像ブロックにおいてフィルム粒子をシミュレートする方法であって、
前記画像ブロックの輝度強度レベルに対応する輝度値に対して、予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子ブロックを無作為に選択するステップと、
前記選択されたフィルム粒子ブロックをデブロッキングするステップと、
前記デブロッキングされたフィルム粒子ブロックの少なくとも一部分を、前記画像ブロックの各ピクセルとブレンドして、フィルム粒子をシミュレートするステップと、
その結果得られたブレンド済みのピクセルを、出力する前にクリッピングするステップと、
を含む、前記方法。
【請求項3】
ピクセルからなるブロックを作成する装置であって、
フィルム粒子を含む予め設定されたピクセル・ブロックのセットを記憶する第1の記憶リポジトリと、
フィルム粒子ブロックを、前記第1のリポジトリからランダムに選択するセレクタと、
それが受信したフィルム粒子情報の少なくとも1つのパラメータに従って、前記選択されたフィルム粒子ブロック中の全てのピクセル値をスケーリングするスケーリング・ブロックと、
前記スケール化フィルム粒子ブロックを記憶する第2の記憶リポジトリと、を含む、前記装置。
【請求項4】
複数のピクセルからなる画像ブロックにおいてフィルム粒子をシミュレートする装置であって、
予め設定されたフィルム粒子値のプールと、
前記画像ブロックの輝度強度レベルに対応する輝度値に対して、前記予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子ブロックを無作為に選択するセレクタと、
前記選択されたフィルム粒子ブロックをデブロッキングするデブロッキング・フィルタと、
前記デブロッキングされたフィルム粒子ブロックの少なくとも一部分を、前記画像ブロックの各ピクセルとブレンドして、フィルム粒子をシミュレートする加算器と、
その結果得られたブレンド済みのピクセルを、出力する前にクリッピングするクリッパと、
を含む、前記装置。」

<本件補正後の段落【0010】>
「【0010】
本発明の別の態様によれば、複数のピクセルからなる画像ブロックにおいてフィルム粒子をシミュレートする方法が提供される。この方法は、予め設定されたフィルム粒子値のプールから、フィルム粒子のブロックを選択するステップで開始する。フィルム粒子のブロックの選択は、画像ブロックの輝度(luma:ルマ)平均値に対応する輝度強度間隔に対して、それらのブロックの間で乱数に従って無作為に行われる。選択されたフィルム粒子ブロックに対して、デブロッキングを行う。デブロッキングされたフィルム粒子ブロックの少なくとも一部分を、画像ブロックの個々のピクセルとブレンドして、フィルム粒子をシミュレートし、その結果得られたブレンド済みのピクセルを、表示などのために出力する前にクリッピングする。」


第6.平成25年8月6日付け意見書
上記平成25年8月6日付け意見書における意見の内容は以下のとおりのものである。(下線は該意見書記載のとおりのもの。)

<意見の内容>
『1.審判長殿は平成25年2月6日(発送日)付けの拒絶理由通知書において、本願請求項1?15の記載が特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない、と認定されました(理由)。

これに対して、本願特許出願人は、本書と同日付で提出いたしました手続補正書により本願発明について補正いたしましたので、再度のご審理のうえ、特許すべき旨の審決を賜りたくお願い申し上げます。

2.補正の内容について
同日に提出した手続補正書により、請求項2?5、7?10、12?14を削除し、独立請求項1、6、11及び15を残し、番号を振り直し、これらの請求項にも必要な補正を行いました。

3.理由(特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号)について
記(1)について
審判官殿は、出願人が使用している「ピクセルのブロック」、「予め設定された複数のフィルム粒子ブロック」、および「パターン」という表現に関し、明確でないと指摘している。
用語「ピクセルのブロック」は、個々の画素(ピクセル)からなるマクロブロックを簡略化した表現であり、ディジタル画像が概ねマクロブロック(「ブロック」)の形態の個々の要素を含み、これらの各々は、「ピクセル」と一般的に呼ばれる個々の画素から形成される。各ピクセルは、画像の中の極小さな正方形であり、各マクロブロックは、複数のピクセルを集めたものである。マクロブロックやピクセルは、ディジタル画像分野で良く知られている用語であり、本願明細書で使用されているが、フィルム粒子に特に関連するものではない。
本願明細書において説明されているように、フィルム粒子は、光学フィルム画像に存在するノイズの特定の形態を構成する。フィルム粒子は、通常、「パターン」を有する。換言すれば、光学フィルム画像におけるフィルム粒子は、均一に見えるものではなく、むしろ、本願明細書の段落「0004」に説明されているように、粒子のランダムな(不規則な)パターンを有する。光学フィルム画像がディジタル画像に変換されると、このディジタル画像は、MPEG-2やH.264のようなブロック・ベースの圧縮技術を使用して圧縮(符号化)され、圧縮(符号化)処理は、元のフィルム粒子を減少させるか、除去させることさえある。結果として得られるビデオ画像は、粒子が残っていたとしても、少なく、平坦に見えるようになる。出願人の発明は、圧縮解除された(復号された)ビデオ画像にフィルム粒子を追加して圧縮解除されたビデオ画像の元となる光学フィルム画像の元の「見た目(look)」を復元するものである。
特に、本願は、圧縮解除された(復号された)画像の画像ピクセルのブロックとブレンドするフィルム粒子の値のブロックを作成して、フィルム粒子をこの画像に追加する技術を請求項に記載している。本願においては、画像圧縮解除処理の間にフィルム粒子値のブロックを作成するのではなく、画像の圧縮解除に先立って、フィルム粒子の値のブロックのセットを設定(例えば、計算)する。換言すれば、フィルム粒子の値のブロックを「予め計算(pre-compute)」する。
フィルム粒子の各ブロックにおける個々の値は、画像ピクセルのブロックにおける画素に対応する。画像ピクセルのブロックにフィルム粒子を加えるために、本願発明は、まず、圧縮解除された(復号された)画像ブロック中に現れるフィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータを含むフィルム粒子情報を輝度処理ブロック22から受信する。その後、フィルム粒子ブロックを、輝度値および乱数発生器によって生成された乱数に従ってフィルム粒子を含む予め設定された複数のブロックのセットからランダムに選択する。選択されたブロックにおけるフィルム粒子値の全ては、フィルム粒子を特徴付ける少なくとも1つのパラメータに従ってスケーリングされ、スケーリングの後、選択されたフィルム粒子ブロックは、後続するブレンド処理のために記憶される。
上述した説明に鑑み、本願の残った請求項1、6、11及び15は、日本の特許法第36条第4項に従って出願人の発明を明確に示し、記載している。

記(2)について
審判官殿は、さらに、「フィルム粒子情報を受信する」という表現の記載について指摘している。特に、審判官殿は、このような情報のソース(情報が何処から受信されるのか)が明確でないと指摘している。
この指摘に応答し、本願明細書の段落「0011」に、圧縮された(符号化された)画像と共にフィルム粒子情報が伝送されることが記載されている。
出願人のフィルム粒子シミュレーション技術では圧縮に先立ってフィルム粒子情報の生成が必要である。上述したように、ビデオ画像の圧縮(符号化)は、完全ではないにせよ、画像の中のフィルム粒子を取り除く。従って、圧縮解除されたビデオ画像とブレンドするためのフィルム粒子をシミュレートするために、出願人は、周知の技術を使用して元の画像内のフィルム粒子についての情報を取得する。本願発明は、このようなフィルム粒子情報を圧縮された(符号化された)ビデオ画像とは別の情報として伝送する。H.264のような今日の圧縮方式は、圧縮されたビデオ画像に付加される別個の付加拡張情報(SEI)を提供する。上述した本願明細書の段落「0011」に記載されているように、本願発明は、H.264圧縮方式において提供されたSEIメッセージを利用してフィルム粒子情報を搬送する。本願明細書の段落「0021」に記載されているように、図2の輝度ブロック(輝度平均化ブロック)22は、フィルム粒子情報を搬送するSEIメッセージを受信する。
上述した説明内容に鑑み、本願発明の請求項に記載された「フィルム粒子情報を受信する」という表現は、明確且つ定義された意味を有し、日本の特許法第36条4項の下で、本願発明の請求項は明確であると思料する。

記(3)について
審判官殿は、フィルム粒子ブロックをランダムに選択するステップを支持する対応する記載が本願明細書に存在しないと指摘している。
出願人は、明細書の段落「0021」には以下の記載がある点を示す。「一様乱数発生器24は、原始多項式のモジュロ2演算子x18+x5+x2+x1+1を用いて、選択ブロック26に入力するための乱数を生成する。選択ブロック26は、フィルム粒子プール18にアクセスして、乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する。」
本願明細書は、乱数に従ってフィルム粒子ブロックが選択されることを明確に記載している。まさに、この定義の通り、乱数は、ランダムに変化する。従って、乱数に従ってフィルム粒子ブロックを選択することは、フィルム粒子ブロックをランダムに選択するステップを構成する。よって、本願明細書には、フィルム粒子ブロックをランダムに選択するステップに対応する十分な記載が存在すると思料する。

記(4)について
審判官殿は、ピクセル値のスケーリングについて幾つかの点を指摘している。
特に、審判官殿は、この表現は、本願の請求項1に記載された表現「前記フィルム粒子を特徴付ける少なくとも1つのパラメータ」および表現「画像ブロック中に現れるフィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータ」が同じものを意味しているのかが不明であると指摘している。
これらの表現は、同じものを意味しているので「フィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータ」で統一する補正を行った。
さらに、審判官殿は、出願人が全てのピクセル値をスケーリングする技術的な方法が不明であると指摘している。
スケーリングの点については、出願人は、本願明細書の段落「0019」および「0020」に関連する記載がある点を主張する。
本願明細書の記載によれば、フィルム粒子スケーリング・ブロック(16)でフィルム粒子パターン(即ち、フィルム粒子値の記憶されたブロック)のスケーリングを反復的な方法で行うことにより、SEIメッセージにおいて提供されるフィルム粒子を特徴付ける情報に従って個々のフィルム粒子値がスケーリングされるようにする。
従って、本願明細書には、出願人の請求項に記載されたスケーリングするステップを明確且つ明白に支持する対応する記載がある。

記(5)について
審判官殿は、「フィルム粒子ブロック」と「フィルム粒子を備えたピクセルのブロック」との違いが不明であると指摘している。
これらの表現「フィルム粒子ブロック」および「フィルム粒子を備えたピクセルのブロック」は、同じものであるので「フィルム粒子ブロック」で統一する補正を行った。

・・・(中略)・・・

記(9)について
項目(A)に関し、用語「フィルム粒子値」は、本願明細書の段落「0018」および「0019」に記載されたフィルム粒子のブロックの各々に記憶された個々のフィルム粒子値を指す(「フィルム粒子を有するピクセル」と呼ばれることもある)。従って、出願人は、用語「フィルム粒子値」が明確であるとの主張を維持する。
項目(B)に関し、用語「輝度(ルマ)」は、用語「ルミナンス」を簡略化して表現したものであり、一般的に、画像の強度を指す。従って、用語「輝度特性」は、画像強度に関連する画像の特性を指す。この点に関し、出願人は、審判官殿に対し、本願明細書の段落「0015」?「0017」の記載を示す。この箇所は、ビデオ画像における複数の異なる輝度強度間隔(レベル)のそれぞれに対してフィルム粒子値の複数の異なるセット(組)を記憶することを記載している。ビデオ復号器で受信される圧縮されたビデオ・メッセージに加えられる付加拡張情報(SEI)メッセージに含まれるフィルム粒子を特徴付ける情報は、輝度強度レベルを指定する。本願明細書に記載されているような、ビデオ画像の輝度強度レベルは、「輝度特性」と同じものを構成する。
今回の補正により残った請求項注の「輝度特性」を「輝度強度レベル」で置き換えました。
ランダムな選択の処理についての項目(9)(C)に関し、出願人は、本願明細書の段落「0021」には以下の記載がある点を示す。「図2は、復号したピクチャにブロック・レベルおよびピクセル・レベルでフィルム粒子を付加するのに必要な演算を実行する装置20を示す図である。輝度平均化ブロック22は、復号画像の8×8ブロックのそれぞれを処理し、輝度ピクセル値の平均を計算し、SEIメッセージのパラメータintensity_interval_lower_bound[0][i]およびintensity_interval_upper_bound[0][i]と比較して、当該ブロックに対する正しい輝度強度間隔を決定する。一様乱数発生器24は、原始多項式のモジュロ2演算子x18+x5+x2+x1+1を用いて、選択ブロック26に入力するための乱数を生成する。選択ブロック26は、フィルム粒子プール18にアクセスして、乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する。」
上述したように、データベース12は、複数の異なる輝度強度値に対してフィルム粒子値の複数のセットを記憶する。当業者であれば、特定の輝度強度値と一致するフィルム粒子値のセットをまず選択することにより、乱数および輝度強度値に従ったフィルム粒子ブロックの選択が行われることが容易に理解できるであろう。その値のセットからのランダム選択は、乱数を使用して所与の輝度強度レベルのフィルム粒子値のブロックのうちからフィルム粒子の特定のブロックをランダムに選択することによって行われる。
項目(D)については、出願人は、上記項目(9)(B)関し、既に用語「輝度」および「輝度特性」の説明を行っている。用語「輝度値」は、上述したように、輝度強度レベルを指す。
無作為に(ランダムに)選択するとは如何なる選択を意味するのかという項目(E)に関しては、出願人は、この点を項目(9)(C)に対する回答でコメントしている。上述したように、乱数および輝度強度値に従ったフィルム粒子ブロックの選択は、まず、輝度強度値と一致したフィルム粒子値のセットを選択することによって行われる。ランダム選択は、フィルム粒子ブロックをランダムに選択するために、乱数を使用して輝度強度レベルと一致したブロックのうちからフィルム粒子の特定のブロックをランダムに選択することによって行われる。
項目(F)については、用語「フィルム粒子のブロック」および「フィルム粒子ブロック」は同じものを指すので、「フィルム粒子ブロック」で統一する補正を行った。

・・・(中略)・・・

記(13)について
審判官殿は、「前記スケール化フィルム粒子ブロック」を支持する対応する記載が本願明細書に存在しないと主張している。
出願人は、上記項目(4)に関してフィルム粒子ブロックのスケーリングについて説明している。特に、出願人は、フィルム粒子ブロックのスケーリングについての記載として、明細書の段落「0019」および「0020」の部分を既に提示している。審判官殿は、本願明細書に記載されたスケーリングがフィルム粒子ブロックに対してなされると、そのブロックがスケール化フィルム粒子ブロックとなることを理解されたい。

記(14)について
審判官殿は、フィルム粒子をシミュレートするステップを行うことができないと主張している。
出願人は、以下の通り反論する。
項目(1)に関して上述したように、出願人の発明は、圧縮解除された(復号された)ビデオ画像に対してフィルム粒子を加えることに関する。ビデオ画像の圧縮(符号化)処理は、圧縮された(符号化された)画像内に存在するフィルム粒子を除去させないまでも、減少させる。従って、圧縮された(符号化された)画像を圧縮解除する(復号する)と、結果として得られる圧縮解除された(復号された)画像に含まれるフィルム粒子は、存在したとしても、極わずかである。出願人の請求項に記載された発明は、圧縮解除された(復号された)画像とブレンドされるフィルム粒子ブロックを提供してこのような画像におけるフィルム粒子を「シミュレート」する機構を提供する。出願人の発明は、従って、画像内に元々存在していたが、画像圧縮の間に除去されてしまったフィルム粒子を真似る(シミュレートする)ものである。よって、出願人の発明は、確かにフィルム粒子を「シミュレート」する。

記(15)について
項目アに関し、段落「0001」を削除した。
項目イでは、審判官殿は、光学フィルム画像のフィルム粒子のランダムな分布(不規則な分布)に関する段落「0004」の記載に関して指摘している。特に、審判官殿は、光学フィルム画像におけるフィルム粒子との関連で使用される単語「粒状度(granularity:粒度)」の使用を挙げている。出願人は、光学フィルム画像におけるフィルム粒子との関連で粒状度に言及した後、粒子のサイズの説明をこの記載の後に続けている。本願明細書を読んだ当業者であれば、画像内のフィルム粒子との関連での出願人の用語「粒状度」の使用が実際のフィルム粒子のサイズの変化を指していることは容易に理解できるであろう。従って、出願人は、用語「粒状度」を正しく使用している。
項目ウに関し、出願人は、用語「フォーマットが小さくなる」を当該技術分野で良く知られているHDフォーマットおよびSDフォーマットとの関連で使用している。従って、当業者であれば、本願明細書において使用されている用語「フォーマットが小さくなる」が良く知られているHDフォーマットおよびSDフォーマットを下回るピクセル・マトリクス・サイズなどのパラメータを有する画像フォーマットを指していることが理解できるであろう。
項目エに関しては、本願明細書の段落「0005」において使用されている用語「写実的」は、光学画像中の実際のフィルム粒子を真似または模倣する傾向を有する結果を生じさせる、説明した従来技術の機能に関するものである。このように、結果は写実的であり、即ち、(フィルム粒子が加えられた)結果として得られる画像は、本来のフィルム粒子を有する原画像に類似する見た目を有する傾向がある。

・・・(中略)・・・

項目クに関しては、出願人は、項目(9)(C)に関して既にフィルム粒子ブロックをランダムに選択することについて説明している。繰り返して述べると、本願発明は、まず、特定の輝度強度レベルと一致するフィルム粒子値(フィルム粒子ブロック)のセットを選択することにより、乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する。特定の輝度強度レベルに関連付けられたそのフィルム粒子ブロックのセットから、本願発明は、乱数を使用して特定のブロックをランダムに選択する。
項目ケについては、出願人は、項目(7)に関連して表現(512×8)について説明している。値4,096の後の括弧付の表現(512×8)は、4,096個のフィルム粒子値が512行×8列の格子状に配列されていることを示している。
項目コに関し、本願明細書の段落「0017」に記載された用語「輝度強度間隔」は、複数の輝度強度レベルのセットを指している。上述したように、出願人は、幾つかの異なる輝度強度レベルの各々について、フィルム粒子ブロック(即ち、フィルム粒子値のブロック)のセットを生成し、これは、本願明細書の段落「0021」に輝度強度間隔と定義されている。圧縮されたビデオ画像に加えられる付加拡張情報は、上述したようなフィルム粒子を特徴付ける情報を含む。このフィルム粒子を特徴付ける情報は、SEIメッセージ・パラメータ・フィールドnum_intensity_intervals_minus1[0]によって特定される輝度強度レベルに関するデータを含む。出願人は、このSEIメッセージ・パラメータに1を加えた数に輝度強度レベルの数を設定する。
項目サについては、本願明細書中で言及されているスケール・ファクタ(因数)6は、6に値を乗じた数(6×値)のような、スケーリング・ファクタ(倍率)としての数値6を指している。
項目シに関し、デブロッキング・フィルタに関して記載されている小さな変換サイズは、そのフィルタの「タップ」またはフィルタリング段の数を指す。

6.まとめ
以上ご説明しましたように、本願の補正後の請求項に係る発明は特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしております。
よって、再度のご審理のうえ、本願に対して特許すべき旨の審決を賜りたく、お願い申し上げます。』


第7.当審判断
そこで、上記本件補正後の特許請求の範囲及び明細書の記載が上記当審拒絶理由通知において指摘した不備を解消しているものであるか否かについて検討する。

1.当審拒絶理由通知の記(1)で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(1)で指摘の本件補正前の請求項1の「フィルム粒子を備えたピクセルのブロック」との記載は、それぞれ本件補正後の請求項1における「フィルム粒子ブロック」との記載に変更されたものの、同じく当審拒絶理由通知の記(1)で指摘の本件補正前の請求項1の「フィルム粒子を含む予め設定された複数のブロックのセット」との記載及び同請求項11の「フィルム粒子を含む予め設定されたピクセル・ブロックのセット」との記載は本件補正後の請求項1、3においては何ら変更されておらず、この記載における「ブロックのセット」が「フィルム粒子」の何(「パターン」? 「ピクセル値」? あるいは他のもの?)を備える旨を意味するのかが発明の詳細な説明を参酌しても依然として不明なままである。
この点について、意見書では上記第6.の「記(1)について」のとおり釈明し、「本願の残った請求項1、6、11及び15は、日本の特許法第36条第4項に従って出願人の発明を明確に示し、記載している。」と主張しているが、拒絶理由で指摘した「ブロックのセット」が「フィルム粒子」の何を備える旨を意味するのかについては全く釈明されておらず、また、これが本件補正後の請求項1や3に明確に記載されているとの主張もされてはいない。
したがって、当審拒絶理由通知の記(1)で指摘したように、本願請求項1、3に係る発明は明確でなく、しかも、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1、3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1、3に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものである。

2.当審拒絶理由通知の記(2)で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(2)で指摘の本件補正前の請求項1の「画像ブロック中に現れるフィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータを含むフィルム粒子情報を受信するステップ」との記載、及び同請求項11に「それが受信したフィルム粒子情報の少なくとも1つのパラメータに従って」との記載は、本件補正後の請求項1、3においては何ら変更されておらず、ここでの「受信」との用語は如何なることを意味するのか(何処からどのようにして受信することを意味するのか? 遠隔の装置や再生装置から送信され通信ネットワークや放送網などを介して映像本体と共に「受信」することのみを意味するのか? 単に操作手段からの配線を通じて電子回路に入力するための「受信」(原審での引用文献1の「グレイン強度」が「バス954」を介して「ディジタル加算器回路614」に入力されるような「受信」)をも含むのか?)が依然として明確でない。
この点について、意見書では上記第6.の「記(2)について」のとおり「本願明細書の段落「0011」に、圧縮された(符号化された)画像と共にフィルム粒子情報が伝送されることが記載されている」ことをもって、「本願発明の請求項に記載された「フィルム粒子情報を受信する」という表現は、明確且つ定義された意味を有し、日本の特許法第36条4項の下で、本願発明の請求項は明確であると思料する。」と主張しているが、本件補正後の請求項1、3には「フィルム粒子情報」が「圧縮された画像と共に」「伝送される」旨の記載は全くないのであるから、この主張をもって、本願請求項1、3に係る発明が「フィルム粒子情報」が「圧縮された画像と共に」「伝送される」ものであると限定解釈すべきものであると認めることは到底できない。
したがって、当審拒絶理由通知の記(2)で指摘したように、本願請求項1、3に係る発明は明確でなく、このため、本願請求項1、3に係る発明は本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないとも言える。さらにこのため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1、3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1、3に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものである。

3.当審拒絶理由通知の記(3)で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(3)で指摘の本件補正前の請求項1の「フィルム粒子ブロックを、フィルム粒子を含む予め設定された複数のブロックのセットからランダムに選択するステップ」、同請求項11の「フィルム粒子ブロックを、前記第1のリポジトリからランダムに選択するセレクタ」との記載は、本件補正後の請求項1、3においては何ら変更されていない。またこの点に関する明細書の補正もなされていない。

(1)同記(3)のア.で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(3)ア.での指摘については、意見書では上記第6.の「記(3)について」のとおり、段落【0021】の記載を根拠に「本願明細書には、フィルム粒子ブロックをランダムに選択するステップに対応する十分な記載が存在すると思料する。」と主張しているが、『当該ステップ、セレクタを段落【0021】の「選択ブロック26は、フィルム粒子プール18にアクセスして、乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する。」との記載に対応付けると「プール」「第2の記憶リポジトリ」に相当するものが見当たらなくなる』との指摘に対する釈明は何らなされていない。
これらの点について、本願の発明の詳細な説明の記載や図面の記載を検証すると、段落【0017】?【0020】では、「フィルム粒子シミュレーションに使用されるフィルム粒子ブロックのプールを生成する装置10」(段落【0017】)が説明されており、ここでは「選択ブロック14で選択が行われ、その後スケーリング・ブロック16でスケーリングが行われて、フィルム粒子ブロックのプール18が得られる」(段落【0019】)旨の説明がなされているが、当審拒絶理由通知の記(3)ア.で指摘したとおり、この選択が「ランダムに」あるいは「擬似乱数に応じて」なされる旨の記載はどこにも無い。
また、当審拒絶理由通知の記(3)ア.で指摘した「選択するステップ」、「セレクタ」での選択を、意見書での主張のとおりに段落【0021】での「選択」即ち【図2】の選択ブロック26における選択に相当するものと仮定すると、当該選択の後になされる「プールに記憶するステップ」や「第2の記憶リポジトリ」への記憶に相当する記載は発明の詳細な説明にも図面にも見当たらない(なお、選択ブロック26の後段の「デブロッキングフィルタ」や「輝度ピクセルの表示」などの工程においてフィルム粒子ブロックに対応する情報の一時的な記憶がなされる可能性はあるが、このような一時的記憶を発明の構成要件である「プールに記憶するステップ」や「第2の記憶リポジトリ」への記憶としてとらえる技術思想を示唆する記載も何処にも見当たらない。)ので、段落【0021】での「選択」を「選択するステップ」、「セレクタ」での選択に対応付けることも妥当でない。
したがって、当審拒絶理由通知の記(3)ア.で指摘したように、本願請求項1、3に係る発明は、依然として本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないと言える。また、このため、本願の発明の詳細な説明は、依然として、当業者が本願請求項1、3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1、3に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。さらに、このため、当該ステップ、セレクタは本願の発明の詳細な説明を参酌しても技術的意味が不明なものであり、本願請求項1、3に係る発明は依然として明確でない。

(2)当審拒絶理由通知の記(3)イ.で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(3)イ.で指摘したとおり請求項1の「選択するステップ」と「受信するステップ」との関係、特に当該ステップでの「選択」と「受信した」パラメータの関係との記載も、依然として不明のままである。また、このことは本願請求項1の記載は、該「選択」と該「パラメータ」が全く無関係なものをも請求の範囲に含むものと解釈されるところ、そのような発明は本願の発明の詳細な説明で説明されているものではない。
そして、この点については、意見書では何らの釈明もされていない。
したがって、当審拒絶理由通知の記(3)イ.で指摘したように、本願請求項1に係る発明は依然として明確でなく、しかも、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでもないとも言える。また、このため、本願の発明の詳細な説明は、依然として、当業者が本願請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

4.当審拒絶理由通知の記(4)で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(4)で指摘の本件補正前の請求項1の「前記フィルム粒子を特徴付ける少なくとも1つのパラメータが示すブロック中の全てのピクセル値をスケーリングするステップ」との記載は、本件補正後の請求項1における「前記フィルム粒子の属性を指定する少なくとも1つのパラメータが示すブロック中の全てのピクセル値をスケーリングするステップ」との記載に変更された。
しかしながら、依然として、「パラメータが示すブロック中の全てのピクセル値をスケーリングする」との表現が残っているため、当審拒絶理由通知の記(3)イ.で指摘した不備は何ら解消されていない。
この点について、意見書では上記第6.の「記(4)について」のとおり、明細書の段落【0019】及び【0020】の記載を根拠に「本願明細書には、出願人の請求項に記載されたスケーリングするステップを明確且つ明白に支持する対応する記載がある。」と主張している。
しかしながら、当該「パラメータが示すブロック中の全てのピクセル値をスケーリングする」との記載は、該「パラメータが示す」との修飾節をこれに続く体言であるところの「ブロック」又は「ピクセル値」を修飾する連体修飾節として解釈せざるを得ないものである。一方、請求人が挙げる明細書の段落【0019】及び【0020】には当審拒絶理由通知の記(4)イ.で示唆したとおりの「パラメータが示すように」スケーリングするものが開示されているものの、「パラメータが示すブロック」あるいは「パラメータが示す」「ピクセル値」は明細書の何処にも記載されてはおらず、技術的にも合理的解釈が不可能なものである。
したがって、当審拒絶理由通知の記(4)イ.で指摘したように、本願請求項1に係る発明は依然として明確でなく、また、依然として本願の発明の詳細な説明に記載されたものではない。また、このため、本願の発明の詳細な説明は、依然として当業者が本願請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

5.当審拒絶理由通知の記(5)で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(5)で指摘した本件補正前の請求項1の「作成されたフィルム粒子ブロックをフィルム粒子ブロックのプールに記憶するステップ」との記載は本件補正後の請求項1においては何ら変更されていない。またこの点に関する明細書の補正もなされていない。
したがって、依然として当審拒絶理由通知の記(5)ア.で指摘したように、当該ステップと上記「スケーリングするステップ」との関係、特に「作成されたフィルム粒子ブロック」と「スケーリング」して得られたものとの関係が依然として不明なままである。またこのことは、本願請求項1の記載は、該「スケーリング」して得られたものと該「作成されたフィルム粒子ブロック」が全く無関係なものをも請求の範囲に含むものと解釈されるところ、そのような発明は本願の発明の詳細な説明で説明されているものではない。
そして、この点については、意見書では何らの釈明もされていない。
したがって、当審拒絶理由通知の記(5)ア.で指摘したように、本願請求項1に係る発明は依然として明確でなく、しかも、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでもないとも言える。また、このため、本願の発明の詳細な説明は、依然として、当業者が本願請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

6.当審拒絶理由通知の記(9)で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(9)で指摘の本件補正前の請求項6の「前記画像ブロックの輝度特性に対応する輝度値に対して、予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子のブロックを無作為に選択するステップ」、同請求項15の「予め設定されたフィルム粒子値のプールと」「前記画像ブロックの輝度特性に対応する輝度値に対して、前記予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子のブロックを無作為に選択するセレクタ」との記載は、それぞれ本件補正後の請求項2における「前記画像ブロックの輝度強度レベルに対応する輝度値に対して、予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子ブロックを無作為に選択するステップ」との記載および同請求項4の「予め設定されたフィルム粒子値のプールと、」「前記画像ブロックの輝度強度レベルに対応する輝度値に対して、前記予め設定されたフィルム粒子ブロックのプールから、フィルム粒子ブロックを無作為に選択するセレクタ」との記載に変更された。

(1)当審拒絶理由通知の記(9)ア.で指摘の不備について
しかしながら、該補正後の請求項4においては依然として「フィルム粒子値」との用語が何らの定義も無く用いられており、「フィルム粒子値」の意味(フィルム粒子のサイズや形状を意味するのか?フィルム粒子ブロックに関する何らかの数値を意味するのか?フィルム粒子ブロック自体を意味するのか?フィルム粒子ブロック中のピクセル値を意味するのか?式【数1】のvを意味するのか?)が本願の発明の詳細な説明を参酌しても依然として明確でない。
上記第6.の「記(9)について」の、「項目(A)に関し、用語「フィルム粒子値」は、本願明細書の段落「0018」および「0019」に記載されたフィルム粒子のブロックの各々に記憶された個々のフィルム粒子値を指す(「フィルム粒子を有するピクセル」と呼ばれることもある)。従って、出願人は、用語「フィルム粒子値」が明確であるとの主張を維持する。」との主張は、該当審拒絶理由通知の記(9)ア.の指摘に対するものと考えられるが、明細書の段落【0018】および【0019】では「フィルムの粒子値」「フィルム粒子値」との用語を用いてはいるものの、これを定義する記載は見当たらない。また、「ピクセル」は種々の属性をもっているため「フィルム粒子値」との用語を当該釈明のとおり「フィルム粒子を有するピクセル」と解しても、該ピクセルの何の値を意味するのかは依然として不明である。
したがって、当審拒絶理由通知の記(9)ア.で指摘したように、本願請求項4に係る発明は明確でなく、また、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項4に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

(2)当審拒絶理由通知の記(9)イ.で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(9)イ.での指摘の「輝度特性」との用語は「輝度強度レベル」との用語に変更され、上記第6.の「記(9)について」の『項目(B)に関し、用語「輝度(ルマ)」は、用語「ルミナンス」を簡略化して表現したものであり、一般的に、画像の強度を指す。従って、用語「輝度特性」は、画像強度に関連する画像の特性を指す。この点に関し、出願人は、審判官殿に対し、本願明細書の段落「0015」?「0017」の記載を示す。この箇所は、ビデオ画像における複数の異なる輝度強度間隔(レベル)のそれぞれに対してフィルム粒子値の複数の異なるセット(組)を記憶することを記載している。ビデオ復号器で受信される圧縮されたビデオ・メッセージに加えられる付加拡張情報(SEI)メッセージに含まれるフィルム粒子を特徴付ける情報は、輝度強度レベルを指定する。本願明細書に記載されているような、ビデオ画像の輝度強度レベルは、「輝度特性」と同じものを構成する。
今回の補正により残った請求項注の「輝度特性」を「輝度強度レベル」で置き換えました。』との釈明は、該当審拒絶理由通知の記(9)イ.での指摘に対するものと考えられる。
しかしながら、本件補正後の「輝度強度レベル」との用語も当該用語自体からはその定義(「平均輝度値」を意味するのか? 個々のピクセルの「輝度」を意味するのか? 「輝度値」をレベル分けし「強度」と言う名称を付した値なのか?)が明確なものではなく、また「輝度強度レベル」との用語も本願の発明の詳細な説明では用いられておらず、本願の発明の詳細な説明を参酌してもその意味を把握できるものではない。
したがって、当審拒絶理由通知の記(9)イ.で指摘したように、本願請求項2、4に係る発明は依然として明確でない。また、このため、本願の発明の詳細な説明は、依然として当業者が本願請求項2、4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項2、4に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

(3)当審拒絶理由通知の記(9)エ.で指摘の不備について
当審拒絶理由通知の記(9)エ.で指摘の本件補正前の請求項15の「前記画像ブロックの輝度特性に対応する輝度値」との記載は、上記(2)で述べたように「輝度特性」との用語を「輝度強度レベル」と変更することで、本件補正後の請求項4の「前記画像ブロックの輝度強度レベルに対応する輝度値」との記載に変更されたが、これが如何なる値を意味するのか(「画像ブロックの輝度強度レベル」を表す「値」を意味し、該「値」に「輝度値」と言う名称を付けただけなのか? 「画像ブロックの輝度強度レベル」の算出の基となった各ピクセルの「輝度値」と言う意味か? 「色」に関連する「値」は含むのか否か?)は依然として明確でない。
上記第6.の「記(9)について」における『項目(D)については、出願人は、上記項目(9)(B)関し、既に用語「輝度」および「輝度特性」の説明を行っている。用語「輝度値」は、上述したように、輝度強度レベルを指す。』との釈明は、該当審拒絶理由通知の記(9)エ.で指摘に対するものと考えられるが、「輝度値」と「輝度強度レベル」を同一視する記載は、上記(2)で摘記した意見書の「項目(9)(B)」に係る記載には見当たらず、しかも「輝度値」が「輝度強度レベル」を指すのであれば「輝度強度レベルに対応する輝度値」との記載における「対応する」の意味も不明なものとなり、当該意見書の釈明によって当審拒絶理由通知の記(9)エ.で指摘の不備が解消されるものではない。
したがって、当審拒絶理由通知の記(9)エ.で指摘したように本願請求項4に係る発明は依然として明確でない。また、このため、本願の発明の詳細な説明は、依然として当業者が本願請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項4に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

(4)当審拒絶理由通知の記(9)オ.で指摘の不備について
本件補正後の請求項4においては依然として当審拒絶理由通知の記(9)オ.で指摘の「輝度値に対して」「無作為に選択する」との記載があり、これが如何なる「選択」を意味するのか(輝度値に対応付けられた値の範囲内で無作為に選択すると言う意味なのか? 輝度値に対応付けられた乱数系列にしたがって無作為に選択すると言う意味なのか? 「選択」によって「ブロック」と「輝度値」の対応付けがなされると言う意味なのか? 選択されたブロックが単に「輝度値」の処理に用いられると言う意味なのか?)が明確でなく、しかも、これら全ての意味を包含する「選択」が本願の発明の詳細な説明に開示されているわけではない。
記第6.の「記(9)について」における『無作為に(ランダムに)選択するとは如何なる選択を意味するのかという項目(E)に関しては、出願人は、この点を項目(9)(C)に対する回答でコメントしている。上述したように、乱数および輝度強度値に従ったフィルム粒子ブロックの選択は、まず、輝度強度値と一致したフィルム粒子値のセットを選択することによって行われる。ランダム選択は、フィルム粒子ブロックをランダムに選択するために、乱数を使用して輝度強度レベルと一致したブロックのうちからフィルム粒子の特定のブロックをランダムに選択することによって行われる。』との釈明は、該当審拒絶理由通知の記(9)オ.の指摘に対するものと考えられ、また『ランダムな選択の処理についての項目(9)(C)に関し、出願人は、本願明細書の段落「0021」には以下の記載がある点を示す。「図2は、復号したピクチャにブロック・レベルおよびピクセル・レベルでフィルム粒子を付加するのに必要な演算を実行する装置20を示す図である。輝度平均化ブロック22は、復号画像の8×8ブロックのそれぞれを処理し、輝度ピクセル値の平均を計算し、SEIメッセージのパラメータintensity_interval_lower_bound[0][i]およびintensity_interval_upper_bound[0][i]と比較して、当該ブロックに対する正しい輝度強度間隔を決定する。一様乱数発生器24は、原始多項式のモジュロ2演算子x18+x5+x2+x1+1を用いて、選択ブロック26に入力するための乱数を生成する。選択ブロック26は、フィルム粒子プール18にアクセスして、乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する。」
上述したように、データベース12は、複数の異なる輝度強度値に対してフィルム粒子値の複数のセットを記憶する。当業者であれば、特定の輝度強度値と一致するフィルム粒子値のセットをまず選択することにより、乱数および輝度強度値に従ったフィルム粒子ブロックの選択が行われることが容易に理解できるであろう。その値のセットからのランダム選択は、乱数を使用して所与の輝度強度レベルのフィルム粒子値のブロックのうちからフィルム粒子の特定のブロックをランダムに選択することによって行われる。』との釈明は当審拒絶理由通知の記(9)ウ.の指摘に関する主張と考えられる。
しかしながら、本件補正後の請求項4においては「輝度値に対して」「無作為に選択する」と記載されているのであり、これは段落【0021】記載の如き「乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する」ことに限定する記載でないことは明らかである。
したがって、当審拒絶理由通知の記(9)オ.で指摘したように、本願請求項4に係る発明は依然として明確でなく、また本願の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、このため、本願の発明の詳細な説明は、依然として当業者が本願請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項4に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものでもある。

7.当審拒絶理由通知の記(13)で指摘の不備について
本件補正後の請求項3においては依然として当審拒絶理由通知の記(13)で指摘の「前記スケール化フィルム粒子ブロック」との記載があり、しかもこれより前に「スケール化フィルム粒子ブロック」との用語の記載はない。さらに、該用語は本願の発明の詳細な説明においても用いられていないため、本願の発明の詳細な説明を参酌してもその意味が明確でない。
この点について、意見書では上記第6.の「記(13)について」のとおり明細書の段落【0019】および【0020】の記載を根拠にした主張をしているが、これは「スケール化フィルム粒子ブロック」なる用語が前記されていない旨の記載不備を解消している根拠になるものではなく、また、明細書の段落【0019】【0020】にはスケーリングに関する記載はあっても「スケール化フィルム粒子ブロック」なる用語を説明したり定義したりする記載はもとより、そもそも「スケール化フィルム粒子ブロック」なる用語がないのであるから、これが当審拒絶理由通知の記(13)で指摘の不備を解消していることの根拠になるものではない。
したがって、当審拒絶理由通知の記(13)で指摘したように、本願請求項3に係る発明は依然として明確でない。また、このため本願の発明の詳細な説明は、依然として当業者が本願請求項3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項11?14に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものである。

8.当審拒絶理由通知の記(14)で指摘の不備について
本件補正後の請求項4には、依然として「複数のピクセルからなる画像ブロックにおいてフィルム粒子をシミュレートする装置であって」との記載と「前記デブロッキングされたフィルム粒子ブロックの少なくとも一部分を、前記画像ブロックの各ピクセルとブレンドして、フィルム粒子をシミュレートする加算器と」との記載があり(すなわち、「フィルム粒子をシミュレートする」主体が「装置」である旨と「加算器」である旨の記載が混在しており)、依然として合理的な解釈ができない。またこのため、「シミュレート」の意味が不明確となっている。
この点に関して、意見書では上記第6.の「記(13)について」のとおり「審判官殿は、フィルム粒子をシミュレートするステップを行うことができないと主張している。」との前提で『出願人の発明は、確かにフィルム粒子を「シミュレート」する』もので有る旨を主張しているが、当審拒絶理由通知の記(14)は「フィルム粒子をシミュレートするステップを行うことができない」旨を指摘するものではないのであるから、この主張は等を得ないものであり、これによって当審拒絶理由通知の記(14)で指摘した不備が解消されていると認めることは到底できない。
したがって、当審拒絶理由通知の記(14)で指摘したように、本願請求項4に係る発明は依然として明確でない。

9.当審拒絶理由通知の記(15)で指摘の不備について
(1)当審拒絶理由通知の記(15)イ.で指摘の不備について
本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0004】には、『粒子(グレイン)のサイズおよび形状は様々である。フィルムが高感度になるほど、形成される銀の凝集塊および生成される染料のブロブは大きくなり、且つ不規則なパターンで互いに集まりやすくなる傾向がある。「粒状度(granularity:粒度)」という用語は、通常はこの粒子パターンを指す。』との記載、すなわち「粒状度」が「不規則なパターン」を指す旨の、明らかに技術常識に反し、意味不明の記載が依然としてある。
この点について、意見書では『項目イでは、審判官殿は、光学フィルム画像のフィルム粒子のランダムな分布(不規則な分布)に関する段落「0004」の記載に関して指摘している。特に、審判官殿は、光学フィルム画像におけるフィルム粒子との関連で使用される単語「粒状度(granularity:粒度)」の使用を挙げている。出願人は、光学フィルム画像におけるフィルム粒子との関連で粒状度に言及した後、粒子のサイズの説明をこの記載の後に続けている。本願明細書を読んだ当業者であれば、画像内のフィルム粒子との関連での出願人の用語「粒状度」の使用が実際のフィルム粒子のサイズの変化を指していることは容易に理解できるであろう。従って、出願人は、用語「粒状度」を正しく使用している。』と主張されているが、当審拒絶理由通知の記(15)イ.では「粒状度」が「不規則なパターン」を指す旨の記載を意味の不明・不明確な記載として指摘したのであって、「粒状度」なる用語の使用を問題視するものではないのであるから、この主張によって当審拒絶理由通知の記(15)イ.で指摘した不備が解消されていると認めることは到底できない。

(2)当審拒絶理由通知の記(15)ウ.で指摘の不備について
本件補正後の発明の詳細な説明の
ウ.段落【0004】には、「フォーマットが小さくなるにつれて知覚できなくなる。」との記載、すなわち「フォーマットが小さくなる」との技術的に意味不明の記載を含む記載が依然としてある。
この点について、意見書では上『項目ウに関し、出願人は、用語「フォーマットが小さくなる」を当該技術分野で良く知られているHDフォーマットおよびSDフォーマットとの関連で使用している。従って、当業者であれば、本願明細書において使用されている用語「フォーマットが小さくなる」が良く知られているHDフォーマットおよびSDフォーマットを下回るピクセル・マトリクス・サイズなどのパラメータを有する画像フォーマットを指していることが理解できるであろう。』と主張されているが、当業者と言えども「フォーマットが小さくなる」が良く知られているHDフォーマットおよびSDフォーマットを下回るピクセル・マトリクス・サイズなどのパラメータを有する画像フォーマットを指していると理解することは不可能であり、この主張によって当審拒絶理由通知の記(15)ウ.で指摘した不備が解消されていると認めることは到底できない。(なお、明細書の記載不備が誤訳に起因するものであっても、これが是正されない以上、明細書の記載不備が解消されるものではない。)

(3)当審拒絶理由通知の記(15)エ.で指摘の不備について
本件補正後の発明の詳細な説明の
エ.段落【0006】には、「写実的な結果」との記載が依然としてある。
この点について、意見書では上記第6.の「記(15)について」において、『項目エに関しては、本願明細書の段落「0005」において使用されている用語「写実的」は、光学画像中の実際のフィルム粒子を真似または模倣する傾向を有する結果を生じさせる、説明した従来技術の機能に関するものである。このように、結果は写実的であり、即ち、(フィルム粒子が加えられた)結果として得られる画像は、本来のフィルム粒子を有する原画像に類似する見た目を有する傾向がある。』と主張されているが、「写実」とは事物の実際をありのままに写すことを意味するのであって、「本来のフィルム粒子を有する原画像に類似する見た目を有する」と言う、ありのままではない画像を表現する用語としては不適切なものであり、この主張によって当審拒絶理由通知の記(15)エ.で指摘した不備が解消されていると認めることはできない。

(4)当審拒絶理由通知の記(15)ク.で指摘の不備について
本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0010】には、「フィルム粒子のブロックの選択は、画像ブロックの輝度(luma:ルマ)平均値に対応する輝度強度間隔に対して、それらのブロックの間で乱数に従って無作為に行われる。」との記載があり、すなわち(「輝度強度間隔」とは何を意味するのか(輝度の量子化ステップのことか? 輝度範囲のことか? 輝度の差のことか? 差分符号化された輝度のことか?)不明。「選択は」「輝度強度間隔に対して」「それらのブロックの間で」「行われる。」とは如何なる処理を意味しているのか不明。)
この点について、意見書では上記第6.の「記(15)について」において、『項目クに関しては、出願人は、項目(9)(C)に関して既にフィルム粒子ブロックをランダムに選択することについて説明している。繰り返して述べると、本願発明は、まず、特定の輝度強度レベルと一致するフィルム粒子値(フィルム粒子ブロック)のセットを選択することにより、乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する。特定の輝度強度レベルに関連付けられたそのフィルム粒子ブロックのセットから、本願発明は、乱数を使用して特定のブロックをランダムに選択する。』と釈明されているが、これは「輝度強度間隔」とは何を意味するのか(輝度の量子化ステップのことか? 輝度範囲のことか? 輝度の差のことか? 差分符号化された輝度のことか?)を釈明するものではなく、また「選択は」「輝度強度間隔に対して」「それらのブロックの間で」「行われる。」との表現が「まず、特定の輝度強度レベルと一致するフィルム粒子値(フィルム粒子ブロック)のセットを選択することにより、乱数および輝度強度値に従ってフィルム粒子ブロックを選択する。特定の輝度強度レベルに関連付けられたそのフィルム粒子ブロックのセットから、本願発明は、乱数を使用して特定のブロックをランダムに選択する。」との手順を意味するとは到底認め得るものではなく、この釈明によって当審拒絶理由通知の記(15)ク.で指摘した不備が解消されていると認めることはできない。

(5)当審拒絶理由通知の記(15)ケ.で指摘の不備について
本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0017】には、「8個までの異なる輝度強度間隔のそれぞれに対して4096(512×8)個のフィルム粒子ピクセル値のプールが作成される。」との記載、すなわち「8個までの」は何(「輝度強度間隔」? 「フィルム粒子ピクセル値」? 「プール」?)を修飾しているのか不明な記載が依然としてある。
この点について、意見書では上記第6.の「記(15)について」において、『項目ケについては、出願人は、項目(7)に関連して表現(512×8)について説明している。値4,096の後の括弧付の表現(512×8)は、4,096個のフィルム粒子値が512行×8列の格子状に配列されていることを示している。』と釈明されているが、これは「8個までの」が何を修飾しているのかを釈明するものではなく、この釈明によって当審拒絶理由通知の記(15)ケ.で指摘した不備が解消されていると認めることはできない。

(6)当審拒絶理由通知の記(15)コ.で指摘の不備について
本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0017】には、「輝度(ルマ)強度間隔の数は、SEIメッセージのフィールドnum_intensity_intervals_minus1[0]に1を加えた数で示される。フィルム粒子サンプルの生成は、最も下の輝度強度間隔から始まる。」との記載、すなわち「フィルム粒子サンプル」「最も下の輝度強度間隔」との意味不明な用語を含む記載が依然としてある。
この点について、意見書では上記第6.の「記(15)について」において、『項目コに関し、本願明細書の段落「0017」に記載された用語「輝度強度間隔」は、複数の輝度強度レベルのセットを指している。上述したように、出願人は、幾つかの異なる輝度強度レベルの各々について、フィルム粒子ブロック(即ち、フィルム粒子値のブロック)のセットを生成し、これは、本願明細書の段落「0021」に輝度強度間隔と定義されている。圧縮されたビデオ画像に加えられる付加拡張情報は、上述したようなフィルム粒子を特徴付ける情報を含む。このフィルム粒子を特徴付ける情報は、SEIメッセージ・パラメータ・フィールドnum_intensity_intervals_minus1[0]によって特定される輝度強度レベルに関するデータを含む。出願人は、このSEIメッセージ・パラメータに1を加えた数に輝度強度レベルの数を設定する。』と釈明されているが、「フィルム粒子サンプル」とは何を意味するのかの釈明も、「最も下の輝度強度間隔」とはどの(何が最小の)輝度強度間隔を意味するのかの釈明もなされておらず、この主張によって当審拒絶理由通知の記(15)コ.で指摘した不備が解消されていると認めることは到底できない。(なお、ここでの釈明は「間隔」と「セット」を同一視する不合理なものであり当業者と言えども到底理解しうるものではない。また、本願明細書の段落【0021】では「輝度強度間隔」との用語が用いられてはいるが、その定義をする記載は見当たらない。)

(7)当審拒絶理由通知の記(15)サ.で指摘の不備について
本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0020】には、「因数6は、データベースに記憶されたフィルム粒子値をスケーリングする。」との記載が依然としてあり、この「因数6」とは何を意味するのか(文言通りに因数6という技術的手段がスケーリングと言う処理を行うと言う意味なのか? 【数1】の「>>6」のことを意味しているのか?)不明。「フィルム粒子値」とは何を意味するのか(「フィルム粒子」の大きさか? 「フィルム粒子」の明るさか? 「フィルム粒子」にふられた番号か?)が不明。)
この点について、意見書では上記第6.の「記(15)について」において、『項目サについては、本願明細書中で言及されているスケール・ファクタ(因数)6は、6に値を乗じた数(6×値)のような、スケーリング・ファクタ(倍率)としての数値6を指している。』と釈明されているが、「6に値を乗じ」るような演算を行うことは段落【0020】の【数1】にも他の箇所にも見当たらず、これは「因数6」とは何を意味するのかをより一層不明確とする釈明であり、また、ここでも「フィルム粒子値」とは何を意味するのか(「フィルム粒子」の大きさか? 「フィルム粒子」の明るさか? 「フィルム粒子」にふられた番号か?)の釈明はなされておらず、この主張によって当審拒絶理由通知の記(15)サ.で指摘した不備が解消されていると認めることは到底できない。

(8)当審拒絶理由通知の記(15)シ.で指摘の不備について
本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0025】には、「変換サイズが小さいために生じるブロッキング・アーティファクト」との記載が依然としてある。
この点について、意見書では上記第6.の「記(15)について」において、『項目シに関し、デブロッキング・フィルタに関して記載されている小さな変換サイズは、そのフィルタの「タップ」またはフィルタリング段の数を指す。』と釈明されているが、段落【0025】の記載によれば、「デブロッキング・フィルタ」は「ブロッキング・アーティファクトを平滑化するために」「フィルム粒子ブロックをデブロッキングする動作を行う」のであり、この「ブロッキング・アーティファクト」は「変換サイズが小さいために生じる」ものである。ここで「変換サイズ」を意見書の当該釈明のとおり「デブロッキング・フィルタ」の「タップ」または「フィルタリング段の数」と仮定すると、「デブロッキング・フィルタ」の構造に起因して生じた「ブロッキング・アーティファクト」を同じ「デブロッキング・フィルタ」が「平滑化する」ことになり、不合理である。したがって、当業者がこの釈明を参酌しても、段落【0025】の「ブロッキング・アーティファクト」が何の「変換サイズ」と何故なる因果関係で生じる「ブロッキング・アーティファクト」のことを意味しているのかを理解することはできず、この釈明によって当審拒絶理由通知の記(15)シ.で指摘した不備が解消されていると認めることは到底できない。

(9)当審拒絶理由通知の記(15)で指摘の不備についてのまとめ。
以上のように、本願の発明の詳細な説明には依然として意味の不明・不明確な記載が散見され、当審拒絶理由通知の記(15)で指摘したように、本願の発明の詳細な説明は、依然として当業者が本願請求項1?4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるとともに、本願請求項1?4に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものである。


第8.
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が、依然として特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、原査定を取り消し、本願は特許をすべきものであるとの審決をすることができるものではない。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-26 
結審通知日 2013-10-02 
審決日 2013-10-16 
出願番号 特願2006-542892(P2006-542892)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G06F)
P 1 8・ 537- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 幸雄  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 酒井 伸芳
原 秀人
発明の名称 フィルム粒子パターンのデータベースを用いてフィルム粒子のシミュレーションを行う技術  
代理人 木越 力  
代理人 吹田 礼子  
代理人 石井 たかし  
代理人 倉持 誠  

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