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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1285218
審判番号 不服2012-17972  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-14 
確定日 2014-02-26 
事件の表示 特願2007-551599「アリマキ種(腹吻亜目(Sternorrhyncha))の昆虫を防除するためのテトラミン酸誘導体の使用」拒絶査定不服審判事件〔2006年7月27日国際公開、WO2006/077071、平成20年7月31日国内公表、特表2008-528454〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2006年1月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年1月22日 ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって、平成23年8月29日付けの拒絶理由に対し、平成24年1月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月14日に審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、平成25年1月23日付けの審尋に対し、同年7月26日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年9月14日付けの手続補正についての却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年9月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容及び適否
平成24年9月14日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、
補正前の請求項1、3、4、12、13、16?20を削除し、
補正前の請求項2の「虫瘤を作るアブラムシ類(タマワタムシ科(Pemphigidae))」を、「リンゴ類における虫瘤を作るアブラムシ類(タマワタムシ科(Pemphigidae))」に限定して新請求項1とし、
補正前の請求項5の「軟殻介殻虫類(カタカイガラムシ科(Coccidae))」を、「柑橘類における軟殻介殻虫類(カタカイガラムシ科(Coccidae))」に限定して新請求項2とし、
補正前の請求項6の「マルカイガラムシ類(マルカイガラムシ科(Diaspididae))」を、「柑橘類、リンゴ類及び核果におけるマルカイガラムシ類(マルカイガラムシ科(Diaspididae))」に限定して新請求項3とし、
補正前の請求項7の「ハカマカイガラムシ類(ハカマカイガラムシ科(Ortheziidae))」を、「柑橘類におけるハカマカイガラムシ類(ハカマカイガラムシ科(Ortheziidae))」に限定して新請求項4とし、
補正前の請求項8の「コナカイガラムシ類(コナカイガラムシ科(Pseudococcidae))」を、「柑橘類、ブドウ及び熱帯作物におけるコナカイガラムシ類(コナカイガラムシ科(Pseudococcidae))」に限定して新請求項5とし、
補正前の請求項9の「コナジラミ類(コナジラミ科(Aleyrodidae))」を、「果菜におけるコナジラミ類(コナジラミ科(Aleyrodidae))」に限定して新請求項6とし、
補正前の請求項10の「タバコ、穀類、核果、小果樹、果菜、葉菜、塊茎菜及び根菜、メロン類、ジャガイモ類、ビート、アブラナ、観賞植物におけるミズス属種(Myzus spp.)」を、「ジャガイモ類及び果菜におけるミズス属種(Myzus spp.)」に限定して新請求項7とし、
補正前の請求項11の「タバコ、柑橘類、リンゴ類、核果、穀類、メロン類、ビート、小果樹、アブラナ、果菜、葉菜、アブラナ属野菜、塊茎菜及び根菜、観賞植物、ジャガイモ類、ウリ科植物におけるアフィス属種(Aphis spp.)」を、「リンゴ類及び果菜におけるアフィス属種(Aphis spp.)」に限定して新請求項8とし、
補正前の請求項14を新請求項9とし、
補正前の請求項15の「観賞植物、穀類、ジャガイモ類、葉菜、アブラナ属野菜及び果菜、イチゴ類におけるマクロシフム属種(Macrosiphum spp.)」を、「果菜におけるマクロシフム属種(Macrosiphum spp.)」に限定して新請求項10とするものであって、
補正前の請求項2、5?11、14、15に記載された発明と新請求項1?10に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号に係る改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」及び第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そこで、新請求項8に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについてさらに検討する。

(1)発明の明確性について(理由1)
この出願は、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項8に記載された発明(本件補正発明)は、「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫が、リンゴ類及び果菜におけるアフィス属種(Aphis spp.)である、請求項1に記載の式(I)の化合物の使用」についての発明である。
しかしながら、請求項1に記載の「式(I)の化合物の使用」とは、「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫を防除するため」のものであって、当該昆虫は「リンゴ類における虫瘤を作るアブラムシ類(タマワタムシ科(Pemphigidae))」であるから、上記腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫が「リンゴ類及び果菜におけるアフィス属種(Aphis spp.)である」ことと矛盾する。
してみると、本件補正発明は明確であるとはいえないから、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。

(2)進歩性について(理由2)
本件補正発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:国際公開第2004/007448号(原審における「刊行物7」)
刊行物2:佐藤仁彦編,「生活害虫の事典」,第2刷,株式会社朝倉書店,2004年3月10日,256?257頁,「7.14 ワタアブラムシ」の項(当審で新たに引用した文献)
刊行物3:稲泉三丸,ワタアブラムシの生活環と奇主を異にするバイオタイプ,昆蟲,1981年3月25日,49巻,1号,219?240頁(当審で新たに引用した文献)

ア 本件補正発明の認定
本件補正発明は、上記1で示したとおり明確であるとはいえないものの、仮に「請求項1に記載の式(I)の化合物の使用」という特定事項が、「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫を防除するための、異性体混合物の形態又は純粋な異性体の形態にある式(I)

[式中、
WはHであり;
XはCH_(3)であり;
YはHであり;
ZはCH_(3)であり;
RはOCH_(3)であり;および
GはCO_(2)C_(2)H_(5)である]
の化合物の使用」を意味するものと認め、すなわち、本件補正発明は次のとおりのものであるとして、さらに検討する。

「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫が、リンゴ類及び果菜におけるアフィス属種(Aphis spp.)である、腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫を防除するための、異性体混合物の形態又は純粋な異性体の形態にある式(I)

[式中、
WはHであり;
XはCH_(3)であり;
YはHであり;
ZはCH_(3)であり;
RはOCH_(3)であり;および
GはCO_(2)C_(2)H_(5)である]
の化合物の使用。」

イ 刊行物に記載された事項及び発明
(ア)刊行物に記載された事項
I 原査定の「刊行物7」に相当する上記刊行物1には、当審による和訳にして、以下の事項が記載されている。

(I-1)「全ての植物及び植物部分は、本発明に従って処理できる。植物とは、本明細書では全ての植物及び植物群、例えば…作物植物…を意味すると理解されるべきである。」(第57頁第7?10行)
(I-2)「実施例(I-c-1)

」(第86頁の実施例(I-c-1))
(I-3)「実施例A
ワタアブラムシ(Aphis gossypii)試験
溶媒: ジメチルホルムアミド7重量部
乳化剤:アルキルアリールポリグリコールエーテル2重量部
活性化合物の適切な製剤を製造するために、活性化合物1重量部を前記の量の溶媒及び乳化剤と混合し、得られた濃厚物を乳化剤含有水で所望の濃度に希釈した。
ワタアブラムシ(Aphis gossypii)を多数寄生させたワタの葉(Gossypium hirsutum)を、所望濃度の活性化合物の製剤に浸漬することにより処理した。
所望の期間後に、殺虫率(%)を調べた。100%は、アブラムシ全部が死んだことを意味し;0%は、アブラムシが全く死ななかったことを意味する。
この試験において、例えば、製造実施例の下記の化合物は、従来技術の化合物よりも優れた効果を示した。

表A
植物に害を与える昆虫
ワタアブラムシ(Aphis gossypii)試験
活性化合物 活性化合物の濃度(ppm) 6日後の殺虫率(%)
実施例I-1-c-4 40 70
(WO98/0563
8号の公知化合物)
実施例I-c-1 20 90
(本発明の化合物)
」(第91頁第1行?第92頁の表A)

II 優先日前の技術常識を示すために当審で新たに引用する上記刊行物2には、以下の事項が記載されている。

(II-1)「ワタアブラムシは,多くのバイオタイプに分化している.すなわち,…2マル[当審注:「2マル」は2をまるで囲んだ記号を表す。]春から秋に草本植物で無性生殖し,秋にムクゲに受精卵を産み越冬する完全生活環であるもの…などである.…2マルでは草本植物に寄生して無性世代をくり返し,11月頃産性雌が出現して,ムクゲ,ワタなどの冬寄主に移住し,両生世代に移行,両生雌が産卵し卵態で越冬する.」(第257頁左欄第8?26行)
(II-2)「摂食植物
ナス,トマト,トウガラシ,ピーマン,キュウリ…など,多くの植物に寄生する.」(第257頁左欄第27?41行)

III 優先日前の技術常識を示すために当審で新たに引用する上記刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(III-1)「(1)春季移住型有翅虫の出現期

一方,ムクゲ…で卵越冬したものは、4月上・中旬に孵化し,4月下旬に成虫(幹母)となる.幹母の子孫は,1・2世代は無翅型で,5月中旬に出現する第3世代の大部分は有翅虫となる.有翅虫の発生期間は,ムクゲ…で6月10日前後までの約1か月間…である.この間,有翅虫は急激に増加し,盛んに中間寄主へと飛散を続ける.」(第220頁第4?14行)
(III-2)「(2)中間奇主植物上に有翅虫の飛来する時期

畑作物…キュウリ,ナス…では,露地に定植された直後の5月20日すぎに有翅虫の飛来が増加していくが,同時に,すでに本種の無翅の成・幼虫のコロニーも見られる.」(第220頁第19?31行)
(III-3)「(1)秋季の移住型有翅虫の出現
夏季の間,多くの植物に拡散して寄生生活を続けていた本種は,秋季に入って,越冬奇主への移動を開始する.」(第221頁第35?37行)
(III-4)「(2)産卵植物
秋に本種の産卵雌虫(oviparous female)が見られる植物は,ムクゲ…ワタ…であった.」(第227頁第12?14行)

(イ)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「ワタアブラムシ(Aphis gossypii)を多数寄生させたワタの葉(Gossypium hirsutum)を、所望濃度の活性化合物…により処理」(摘示(I-3))すること、活性化合物が「実施例I-c-1

」(摘示(I-2)及び(I-3))のとき、「6日後の殺虫率(%) 90」(摘示(I-3))であることが記載されている。
すると、刊行物1には、
「ワタの葉に寄生したワタアブラムシ(Aphis gossypii)を処理するための、

の化合物の使用」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

ウ 対比・判断
(ア)対比
本件補正発明と引用発明を対比すると、
引用発明における「ワタアブラムシ(Aphis gossypii)」は、本件補正発明における「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫」であって、「アフィス属種(Aphis spp.)」に相当し、そうであれば、引用発明における「ワタアブラムシを処理」し、「6日後の殺虫率(%) 90」とすることは、本件補正発明における「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫を防除する」ことに相当する。
また、引用発明における「

の化合物」(以下「引用化合物」という。)は、本件補正発明の「異性体混合物の形態又は純粋な異性体の形態にある式(I)

[式中、
WはHであり;
XはCH_(3)であり;
YはHであり;
ZはCH_(3)であり;
RはOCH_(3)であり;および
GはCO_(2)C_(2)H_(5)である]
の化合物」(以下「式(I)化合物」という。)に相当し、そうであれば、引用発明における「引用化合物の使用」は、本件補正発明における「式(I)化合物の使用」に相当する。
してみると、本件補正発明と引用発明は、
「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫が、アフィス属種(Aphis spp.)である、腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫を防除するための、異性体混合物の形態又は純粋な異性体の形態にある式(I)

[式中、
WはHであり;
XはCH_(3)であり;
YはHであり;
ZはCH_(3)であり;
RはOCH_(3)であり;および
GはCO_(2)C_(2)H_(5)である]
の化合物の使用。」
という点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点1
アフィス属種の昆虫が、本件補正発明では、「リンゴ類及び果菜における」ものであるのに対して、引用発明では、「ワタの葉に寄生した」ものである点

(イ)相違点1についての検討
刊行物2には、「ワタアブラムシは,多くのバイオタイプに分化し…春から秋に草本植物で無性生殖し,秋にムクゲに受精卵を産み越冬する完全生活環であるもの…は草本植物に寄生して無性世代をくり返し,11月頃産性雌が出現して,ムクゲ,ワタなどの冬寄主に移住し,両生世代に移行,両生雌が産卵し卵態で越冬する」(摘示(II-1))こと、「ナス,トマト,トウガラシ,ピーマン,キュウリ…など,多くの植物に寄生する」(摘示(II-2))ことが記載され、刊行物3には、「ムクゲ…で卵越冬したものは…1・2世代は無翅型で…第3世代の大部分は有翅虫となる…急激に増加し,盛んに中間寄主へと飛散を続け」(摘示(III-1))、「畑作物…キュウリ,ナス…では…有翅虫の飛来が増加し…同時に…本種の無翅の成・幼虫のコロニーも見られ」(摘示(III-2))、「夏季の間,多くの植物に拡散して寄生生活を続けていた本種は,秋季に入って,越冬奇主への移動を開始する」(摘示(III-3))こと、「秋に本種の産卵雌虫(oviparous female)が見られる植物は,ムクゲ…ワタ」(摘示(III-4))であることが記載されているように、ムクゲ、ワタなどで越冬するタイプのワタアブラムシが、夏季にキュウリ、ナスなどの多くの植物に拡散し寄生することは、当業者の優先日前の技術常識である。
そして、引用発明におけるワタアブラムシはワタの葉に寄生するタイプであって、上記技術常識からすれば、当該ワタアブラムシが夏季の間はキュウリ、ナスなどの果菜にも寄生し得ることは当業者に明らかであるし、刊行物1には、「全ての植物及び植物部分は、本発明に従って処理でき…植物とは…例えば…作物植物…を意味する」(摘示(I-1))と記載されている以上、ワタの葉に寄生したものだけでなく、ワタで越冬し、夏季の間にキュウリ、ナスなどの果菜に拡散した段階のもの、すなわち、「果菜における」ワタアブラムシにも引用発明の方法を適用し、その防除を行うことは、当業者にとって容易に想到できたことである。

(ウ)効果について
本件補正発明の効果について、この出願の明細書(以下「本願明細書」という。)の段落0006には、「テトラミン酸誘導体が、さらなる一年生作物、例えば…果菜…などにおけるアブラムシ類(アブラムシ科(Aphididae))に対しても優れた活性を示すことが見いだされ、また驚くべきことに、多年生作物、例えば…リンゴ類…などにおけるアブラムシ類(アブラムシ科(Aphididae))に対しても優れた活性を示すことが見いだされ…た」と記載され、段落0220?0222には、実施例52として、「メロンを含んでいる15m^(2)の大きさの区画を、ワタアブラムシ(Aphis gossypii)に対して処理」した場合に、式(I)化合物に相当する化合物(実施例(I-4))は、標準的なイミダクロプリドよりも少ない施用量で同等の殺虫率を示すことが記載されている。
一方、刊行物1には、摘示(I-3)の表Aのとおり、ワタの葉に寄生したワタアブラムシに対して処理した場合に、引用化合物に相当する化合物(実施例I-c-1)が、公知化合物よりも少ない施用量で同等以上の殺虫率を示すことが記載されている。
そして、上記(イ)で示したように、キュウリ、ナスなどの果菜に拡散した段階のワタアブラムシに引用発明の方法を適用した場合でも、その防除対象は、ワタの葉に寄生したワタアブラムシとタイプが異なるわけではないから、摘示(I-3)の表Aの結果と同様、公知化合物よりも少ない施用量で同等の殺虫率を示すであろうことは、当業者の予測できた範囲内のことである。
すなわち、本件補正発明の効果は、当業者の予測できた範囲内のことである。

(エ)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成25年7月26日付けの回答書の【回答の内容】2.において、「一般に、本願発明の属する害虫防除剤の分野においては…ある化合物を特定の作物に施用した場合に、当該作物における化合物の吸収率や分解率の程度は当該具体的な作物によって相違することが知られており、したがって、専門家であっても上記吸収率や分解率を予測することは不可能で…ある化合物が特定の作物における昆虫に対して実際に防除効果をもたらすか否かもまた、唯一実際の試験によってのみ明らかになる」(2.(1)参照)こと、「参考資料1の表から明らかな通り、所望の濃度の本願化合物をワタアブラムシに著しく感染させた各植物の葉表面に噴霧した場合、その防除効果は植物によって顕著に相違した」(2.(1)参照)ことから、「刊行物7における実施例I-c-1が、ワタ以外の作物、特に、リンゴ類又は果菜におけるアフィス属種に対して実際に防除効果をもたらすか否かは、唯一実際の試験によってのみ明らかになるのであ…って、当該刊行物7における実施例Aを参照したところで、本願発明に係る具体的な化合物、作物、及び昆虫の組合せが真に所期の防除効果を奏するか否かを予測することはできなかったのである」(2.(3)を参照)と主張している。
そこで、上記審判請求人の主張について検討する。
審判請求人が主張するように、化合物の吸収率や分解率の程度は具体的な作物によって相違するため、害虫防除剤の分野では、具体的な作物に応じて化合物の施用量を調整し、薬害や害虫防除効果を最適化することが一般的である。
そうすると、上記(イ)で示したようにキュウリ、ナスなどの果菜に拡散した段階のワタアブラムシに、引用発明の方法を適用した場合に、適用する果菜に応じて、同等の防除効果を奏するための施用量が増減することは当業者にとって明らかである。
審判請求人は、上記参考資料1の表からみて、式(I)化合物による防除効果の植物による差異が顕著であると主張しているものの、当該防除効果の差異は、本願明細書に記載されたものでも本願明細書の記載全体から推認されるものでもないから、参酌できない。
また、仮に参酌できるとしても、参考資料1には、ワタ植物及び4種類の果菜について葉面噴霧による特定の施用条件で処理した場合に、同一の施用量ではワタ植物よりも4種類の果菜における防除効果が比較的高いことが示唆されるのみで、ワタ植物において4種類の果菜の場合と同等の防除効果を発揮するための施用量のデータが示されていない以上、参考資料1からでは、防除効果の植物による差異が認められるとしても、その差異が当業者の予測できた範囲を超える程度に顕著なものであるとまではいえない。
さらに、仮に参考資料1からみて、防除効果の植物による差異が顕著であると認められるとしても、上記4種類以外の果菜やリンゴ類について処理する場合や、葉面噴霧以外の施用条件で処理する場合についてまで、ワタ植物よりも防除効果が顕著に高いことが裏付けられているとは認められない。
してみると、上記審判請求人の主張は採用できない。

(オ)小括
したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)並びに刊行物2及び3に記載された優先日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(3)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないし、当該要件を満たすとしても、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)並びに刊行物2及び3に記載された優先日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。

2 まとめ
上記1で示したとおり、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないから、上記特許請求の範囲の減縮を目的とする補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余の事項を検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、この出願の発明は、平成24年1月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものであると認める。

「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫を防除するための、異性体混合物の形態又は純粋な異性体の形態にある式(I)

[式中、
WはHであり;
XはCH_(3)であり;
YはHであり;
ZはCH_(3)であり;
RはOCH_(3)であり;および
GはCO_(2)C_(2)H_(5)である]
の化合物の使用であって、ただし、アブラナ属野菜上のモモアカアブラムシ(Myzus persicae)、ワタ上のワタアブラムシ(Aphis gossypii)、及びワタ上のタバココナジラミ(Bemisia tabaci)に対する使用を除く、使用。」

2 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成23年8月29日付けの拒絶理由通知書に記載した理由IIによって、拒絶すべきものです。」という理由によるものであって、平成23年8月29日付けの拒絶理由通知書からみて次の理由を含むものである。

「…
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・理由・・IIについて
・請求項:1?14
・引用文献等:1?9
・備考:

刊行物7には、式(I)の化合物及び有害生物を防除するための前記化合物の使用が記載され(【特許請求の範囲】)、有害生物として、同翅目のErisoma lanigerum、Macrosiphum avenae、Myzus spp.、Phorodon humli、hopalosiphum padi、Saissetia oleae、Aspidiotus Hederae、Pstlla spp等が記載されている。具体的には、実施例番号I-c-1、I-c-4、I-b-1等が記載され、ワタアブラムシやモモアカアブラムシを防除した旨記載されている(実施例A及びF)。

…請求項1?24に係る各発明は、刊行物1?9に記載された各発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

引 用 文 献 等 一 覧

7.国際公開第2004/007448号[当審注:上記第2 1(2)イ(ア)で示した刊行物1]
…」

3 刊行物1に記載された発明
上記第2 1(2)イ(ア)に示した刊行物1?3には、上記第2 1(2)イ(ア)で示したとおりの事項が記載されている。
また、刊行物1には、上記第2 1(2)イ(イ)で示したとおりの引用発明が記載されている。

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比すると、
引用発明における「ワタアブラムシ(Aphis gossypii)」は、本件補正発明における「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫」に相当し、そうであれば、引用発明における「ワタアブラムシを処理」し、「6日後の殺虫率(%) 90」とすることは、本願発明における「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫を防除する」ことに相当する。
また、引用発明における「引用化合物」は、本願発明の「式(I)化合物」に相当し、そうであれば、引用発明における「引用化合物の使用」は、本願発明における「式(I)化合物の使用」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明は、
「腹吻亜目(Sternorrhyncha)の昆虫を防除するための、異性体混合物の形態又は純粋な異性体の形態にある式(I)

[式中、
WはHであり;
XはCH_(3)であり;
YはHであり;
ZはCH_(3)であり;
RはOCH_(3)であり;および
GはCO_(2)C_(2)H_(5)である]
の化合物の使用。」
という点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点
化合物の使用が、本件補正発明では、「アブラナ属植物上のモモアカアブラムシ(Myzus persicae)、ワタ上のワタアブラムシ(Aphis gossypii)、及びワタ上のタバココナジラミ(Bemisia tabaci)に対する使用を除く」のに対して、引用発明では、ワタの葉に寄生したワタアブラムシを処理するための使用である点

(2)相違点についての検討
上記第2 1(2)ウ(イ)で示したとおり、刊行物2及び3に記載されているように、ムクゲ、ワタなどで越冬するタイプのワタアブラムシが、夏季にキュウリ、ナスなどの多くの植物に拡散し寄生することは、当業者の優先日前の技術常識である。
そして、引用発明におけるワタアブラムシはワタの葉に寄生するタイプであって、上記技術常識からすれば、当該ワタアブラムシが、ムクゲに寄生し得ること、又は、夏季の間にキュウリ、ナスなどの植物にも寄生し得ることは当業者に明らかであるし、刊行物1には、「全ての植物及び植物部分は、本発明に従って処理でき…植物とは…例えば…作物植物…を意味する」(摘示(I-1))と記載されている以上、ワタの葉に寄生したものだけでなく、ムクゲに寄生したワタアブラムシ、又は、ワタで越冬し、夏季の間にキュウリ、ナスなどの植物に拡散したワタアブラムシにも引用発明の方法を適用すること、すなわち、「アブラナ属植物上のモモアカアブラムシ(Myzus persicae)、ワタ上のワタアブラムシ(Aphis gossypii)、及びワタ上のタバココナジラミ(Bemisia tabaci)に対する使用を除く」場合にも引用発明の化合物の使用を行うことは、当業者にとって容易に想到できたことである。

(3)効果について
本願発明の効果は、本件補正発明の効果と同様である。
そして、上記第2 1(2)ウ(ウ)で示したとおり、ムクゲに寄生したワタアブラムシ、又は、キュウリ、ナスなどの果菜に拡散したワタアブラムシに引用発明の方法を適用した場合でも、その防除対象は、ワタの葉に寄生したワタアブラムシとタイプが異なるわけではないから、摘示(I-3)の表Aの結果と同様に、公知化合物よりも少ない施用量で同等の殺虫率を示すであろうことは、当業者の予測できた範囲内のことである。
また、平成25年7月26日付けの回答書の【回答の内容】2.における審判請求人の主張が採用できないことは、上記第2 1(2)ウ(エ)で示したとおりである。
なお、ムクゲはワタと同様にアオイ科の植物であるから、ムクゲに寄生したワタアブラムシに対する防除効果が、ワタの葉に寄生したワタアブラムシに対する防除効果から予測できない顕著なものとは認めがたい。
してみると、本願発明の効果は、当業者の予測できた範囲内のことである。

(4)小括
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)並びに刊行物2及び3に記載された優先日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

5 まとめ
上記4で示したとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)並びに刊行物2及び3に記載された優先日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余の事項について検討するまでもなく、この出願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-30 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-15 
出願番号 特願2007-551599(P2007-551599)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A01N)
P 1 8・ 575- Z (A01N)
P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂崎 恵美子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 村守 宏文
中田 とし子
発明の名称 アリマキ種(腹吻亜目(Sternorrhyncha))の昆虫を防除するためのテトラミン酸誘導体の使用  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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