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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B22D
管理番号 1285225
審判番号 不服2013-1028  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-21 
確定日 2014-02-26 
事件の表示 特願2008-239923号「鋳片の精整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年4月2日出願公開、特開2010-69505号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成20年9月18日の出願であって、平成24年7月9日付けの拒絶理由に対して、同年8月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月18日付けで拒絶査定され、これに対して、平成25年1月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日に手続補正書が提出され、そして、同年4月9日付けの当審審尋に対して、同年5月22日に回答がなされ、さらに、同年9月18日付けの当審における拒絶理由に対して、同年11月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年11月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりものである。
「【請求項1】
連続鋳造機で製造した鋳片の表面をスカーフィングすることにより発生する該鋳片の表面の色むらを抑制する鋳片の精整方法であって、
前記鋳片は炭素濃度が50ppm以下の極低炭素鋼であり、該鋳片の温度を400℃以上1000℃以下の範囲内にした後に、該鋳片の表面をスカーフィングし、スカーフィングした前記鋳片の表面を光学式疵検査装置により検査した後、検出した該鋳片の疵を疵除去装置により除去することを特徴とする鋳片の精整方法(但し、スカーフィング後かつ検査する前に、水圧100kgf/cm^(2)以上の高圧水噴射によって鋳片表面のスケールを除去する場合を除く)。」

2.引用例記載の発明
当審における拒絶理由において引用文献として引用された特開平8-257627号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。
(a)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記のごとく連続鋳造後の鋼片を加熱後、熱間圧延-冷延工程で処理して鋼成品を製造すると、鋼成品の表面に欠陥として、表面疵、二枚板(一般にヘゲという)等が発生して品質、歩留りを低下させる等の課題がある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の特徴とするところは、連続鋳造鋼片表面の欠陥部を除去した後、高圧水を噴射して鋼片表面のスケールを除去し、次いで加熱炉へ装入し、熱間圧延温度に加熱して熱間圧延ラインへ導くことを特徴とする熱間圧延鋼片の処理方法に関するものである。」

(b)「【0008】上記のごとく高圧水により除去するスケールは、薄く剥離(除去)しにくいことがある。このように除去が困難である鋼片と比較的容易に除去できる鋼片がある。このことについて調査した結果、鋼片中のSが約0.015%以上の濃度含有していると、スケールの除去が比較的容易であり、約0.015%未満とSが低濃度であるとスケールの除去が困難になることが明らかになった。この理由は明らかではないが、鋼片中のSはホットスカーフ中に鋼片(鋳片)表面部に濃化することから、濃化したSが界面活性作用を発揮してスケール除去に影響があり、従ってSが0.015%以上と高濃度になるスケールの除去が容易になるものと推定できる。しかして、例えば鋼片中のS量によってスケールを除去するための高圧水の圧力、水量を制御することにより確実にスケールを除去することができる。即ちS量が約0.015%以上含有している鋼片のスケール除去においては、高圧水の圧力を高め、また水量も増加し、S量が0.015%未満の鋼片のスケール除去においては、高圧水の圧力を若干低圧とし、また水量も減少させるものである。
【0009】具体的には、例えば制御器(計算器)に鋼片のS量と水圧、水量の関係を記憶しておき、スケール除去すべき鋼片のS量を制御器へ導入して水圧、水量を計算し、ノズルの弁を調整することにより自動的にスケールを確実に除去することができる。
【0010】次にスケールを確実に除去することのできる鋼片中のS量に基づく水圧、水量の計算式の一例を挙げる。
【数1】P≧a×Q^(b)
P:水圧(kgf/cm^(2))、Q:水量(l/m^(2)) 、a、b:係数
〔S〕:〔S濃度(%)〕×10^(3)
a:92.3×〔S〕^(1.2)、 b:-0.17〔S〕+0.59」

(c)「【0011】次に本発明方法の一例を図面によって説明する。図1において、連続鋳造後の鋼片1の表面温度を放射温度計2で測定し、この値を制御器3へ導き、測定温度に基づきホットスカーフ速度、即ち鋼片1の移動速度を決定し、このように決定した移動速度によってホットスカーフ装置4により表面溶削を行い、次いでホットスカーフ時と同一速度でスケール除去用水噴射ノズル5、5a位置へ移動通過する。
【0012】しかして、制御器3には例えば前記のごとき鋼片1中のS量に基づく水圧、水量の関係式が記憶してあり、鋼片1のS量を制御器3へ導入することによって、制御器3でノズル5、5aへの水圧及び水量を供給するようにポンプ6に指示するとともに、ノズルの電磁弁7を操作して鋼片1を移動しつつ表面のスケールを除去した後、表面疵検査を行い疵の無い鋼片は加熱炉(図示せず)へ、疵の有る鋼片はハンドスカーフ等で疵を除去した後加熱炉(図示せず)へ装入して熱間圧延温度に加熱するものである。特にスケール除去後の検査については、光学的な検査装置を用いることにより精度が向上し好ましい。」

(d)「【0013】
【実施例】次に本発明方法の実施例を比較例とともに挙げる。
実施例
1)鋼片組成(%):C:0.003%、Mn:0.20%、Si:0.01%、P:0.01%、Ti:0.015%、Nb:0.015%、残り不可避的不純物及びFe
2)鋼片サイズ:厚み245mm、巾1500mm、長さ7000mm。
このような鋼片(鋳片表面温度800℃)をホットスカーフにより表面疵を除去した後、水圧100kgf/cm^(2)、水量80l/m^(2)の水(常温)を鋼片表面に噴射し、鋼片移動速度18m/分で鋼片表面のスケールを除去し、次いで鋼片(表面温度700℃)を加熱炉(炉内温度1250℃)へ導き、180分で1160℃に加熱して熱間圧延ラインへ導入し、以降通常工程の熱間圧延-酸洗-冷間圧延-焼鈍-調質圧延して0.6mm厚の絞り用冷延鋼板を製造したところ表面疵、二枚板(ヘゲ)による成品格落率はなく、0.5%の歩留りを向上し、また後述の比較例に比べ加熱時間も20分短縮することができた。」

(e)「【0015】
【発明の効果】本発明方法によれば、成品の歩留りを向上し、かつ品質も高めることができる。また加熱時間も短縮することができ、省エネルギーをはかることができるとともに、生産性をも向上することができる等の優れた効果が得られる。」

(f)上記(a)(e)より、引用例には、「連続鋳造機で製造した鋼片の表面に発生する表面疵、ヘゲ等による品質、歩留りの低下を抑制する」ことが記載されているということができる。

上記記載事項(a)ないし(e)及び上記検討事項(f)より、引用例には、
「連続鋳造機で製造した鋼片の表面に発生する表面疵、ヘゲ等による品質、歩留りの低下を抑制する鋼片の処理方法であって、
鋼片の炭素濃度は0.003%(30ppm)であり、鋼片表面温度を800℃にしてホットスカーフし、ホットスカーフの後に水圧100kgf/cm^(2)の常温水を噴射して鋼片表面のスケールを除去し、スケール除去後に光学的な検査装置を用いて鋼片表面の疵を検査した後、疵の有る鋼片はハンドスカーフ等を用いて疵を除去する、鋼片の処理方法。」(以下、「引用例に記載された発明」という。)が記載されているものと認める。

3.対比・判断
本願発明と引用例に記載された発明とを対比する。
○引用例に記載された発明の「鋼片」、「ホットスカーフ」、「表面欠陥部」、「ハンドスカーフ等」、「疵の有る鋼片はハンドスカーフ等を用いて疵を除去する」及び「処理方法」は、本願発明の「鋳片」、「スカーフィング」、「疵」、「疵除去装置」、「検出した鋳片の疵を疵除去装置により除去する」及び「精整方法」にそれぞれ相当する。

○引用例に記載された発明の「連続鋳造機で製造した鋼片(鋳片)の表面に発生する表面疵、ヘゲ等による品質、歩留りの低下を抑制する鋼片の処理方法(精整方法)」と、本願発明の「連続鋳造機で製造した鋳片の表面をスカーフィングすることにより発生する該鋳片の表面の色むらを抑制する鋳片の精整方法」とは、「連続鋳造機で製造した鋳片の表面を処理する鋳片の精整方法」という点で共通する。

○引用例に記載された発明の「鋼片(鋳片)の炭素濃度は0.003%(30ppm)であり」と、本願発明の「鋳片は炭素濃度が50ppm以下の極低炭素鋼であり」とは、「鋳片は炭素濃度が30ppmの極低炭素鋼であり」という点で共通する。

○引用例に記載された発明の「鋼片(鋳片)表面温度を800℃にしてホットスカーフし」と、本願発明の「鋳片の温度を400℃以上1000℃以下の範囲内にした後に、鋳片の表面をスカーフィングし」とは、「鋳片の温度を800℃にした後に、該鋳片の表面をスカーフィングし」という点で共通する。

○引用例に記載された発明の「スケール除去後に光学的な検査装置を用いて鋼片表面の疵を検査した後」と、本願発明の「スカーフィングした鋳片の表面を光学式疵検査装置により検査した後」とは、「スカーフィングした鋳片の表面を光学式疵検査装置により検査した後」という点で共通する。

上記より、本願発明と引用例に記載された発明とは、
「連続鋳造機で製造した鋳片の表面を処理する鋳片の精整方法であって、前記鋳片は炭素濃度が30ppmの極低炭素鋼であり、該鋳片の温度を800℃にした後に、該鋳片の表面をスカーフィングし、スカーフィングした前記鋳片の表面を光学式疵検査装置により検査した後、検出した該鋳片の疵を疵除去装置により除去する、鋳片の精整方法。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明では、「(但し、スカーフィング後かつ検査する前に、水圧100kgf/cm^(2)以上の高圧水噴射によって鋳片表面のスケールを除去する場合を除く)」のに対して、引用例に記載された発明では、「ホットスカーフの後に水圧100kgf/cm^(2)の常温水を噴射して鋼片表面のスケールを除去し、スケール除去後に光学的な検査装置を用いて鋼片表面の疵を検査」するものである点。

<相違点2>
本願発明では、「連続鋳造機で製造した鋳片の表面をスカーフィングすることにより発生する該鋳片の表面の色むらを抑制する鋳片の精整方法」であるのに対して、引用例に記載された発明では、「連続鋳造機で製造した鋼片(鋳片)の表面に発生する表面疵、ヘゲ等による品質、歩留りの低下を抑制する鋼片の処理方法(精整方法)」である点。

上記両相違点について検討する。
<相違点1>について
本願発明の「(但し、スカーフィング後かつ検査する前に、水圧100kgf/cm^(2)以上の高圧水噴射によって鋳片表面のスケールを除去する場合を除く)」との事項の技術的意味は、スカーフィング後のスケールを除去するかどうか(スケールの存否)に関して、実質的に「スカーフィング後かつ検査する前に、水圧100kgf/cm^(2)未満の高圧水噴射またはこれ以外の手段(高圧気体噴射など)によって鋳片(スラブ)表面のスケールを除去する場合※1」または「スカーフィング後かつ検査する前に、鋳片(スラブ)表面のスケールを除去しない場合※2」であると認める。(当審注:「※1」、「※2」は、当審において付与した。)

以下、上記「※1」について検討する。
引用例の上記(b)「高圧水により除去するスケールは、薄く剥離(除去)しにくいことがある。このように除去が困難である鋼片と比較的容易に除去できる鋼片がある。このことについて調査した結果、鋼片中のSが約0.015%以上の濃度含有していると、スケールの除去が比較的容易であり、約0.015%未満とSが低濃度であるとスケールの除去が困難になることが明らかになった。・・・
具体的には、例えば制御器(計算器)に鋼片のS量と水圧、水量の関係を記憶しておき、スケール除去すべき鋼片のS量を制御器へ導入して水圧、水量を計算し、ノズルの弁を調整することにより自動的にスケールを確実に除去することができる。
次にスケールを確実に除去することのできる鋼片中のS量に基づく水圧、水量の計算式の一例を挙げる。
【数1】P≧a×Q^(b)
P:水圧(kgf/cm^(2))、Q:水量(l/m^(2)) 、a、b:係数
〔S〕:〔S濃度(%)〕×10^(3)
a:92.3×〔S〕^(1.2)、 b:-0.17〔S〕+0.59」との記載がある。
上記記載から、鋼片中のSの濃度に応じて必要とする水圧が変わってくることが読み取れる。
一般に、鋼には不純物としてS(イオウ)が含まれており、引用例の上記(d)「【実施例】・・・鋼片組成(%):C:0.003%、Mn:0.20%、Si:0.01%、P:0.01%、Ti:0.015%、Nb:0.015%、残り不可避的不純物及びFe・・・水圧100kgf/cm^(2)、水量80l/m^(2)の水(常温)を鋼片表面に噴射」するものにおいても、Sが含まれているものとみることができ、不純物としてのSの濃度は明示されていないが、仮に、0.01%、0.009%、0.008%、0.007%、0.006%とし、上記【数1】を用いて、S濃度に応じて必要とされる水圧を80l/m^(2)の水量(実施例の水量)で求めてみると、以下のようになる。

S=0.01%の場合 P≧11.29(kgf/cm^(2))
S=0.009%の場合 P≧20.96
S=0.008%の場合 P≧38.33
S=0.007%の場合 P≧68.78
S=0.006%の場合 P≧120.41

してみると、特に、S(イオウ)の濃度が0.007%、0.006%であるときの水圧の下限値は、引用例の実施例(上記(d))の水圧の100kgf/cm^(2)前後の数値であり、引用例の実施例において水圧を100kgf/cm^(2)にしているとしても、実際には許容される水圧に幅があり、S(イオウ)の濃度が変わればそれに応じて水圧を増減させる必要のあることが引用例から読み取れる。
よって、引用例には、「水圧100kgf/cm^(2)の常温水を噴射して鋼片(鋳片)表面のスケールを除去」することのみならず、S(イオウ)の濃度によっては、水圧100kgf/cm^(2)以上の場合も、水圧100kgf/cm^(2)未満の場合も選択し得ることが開示されているとみるのが妥当であり、上記「※1」における「水圧100kgf/cm^(2)未満の高圧水噴射によって鋳片(スラブ)表面のスケールを除去する場合」を実質上包含するものということができる。
したがって、上記「※2」について検討するまでもなく、引用例には、上記相違点1に係る構成が、実質的に記載されているとみることができるので、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

なお、請求人は、平成25年11月12日付け意見書において、「本願発明は、・・・鋳片表面にスケールが存在する状態で、鋳片表面の検査を行うものである。」(4頁17?23行)として引用例に記載されたものと異なることを主張しているが、特許請求の範囲では、単に、「(但し、スカーフィング後かつ検査する前に、水圧100kgf/cm^(2)以上の高圧水噴射によって鋳片表面のスケールを除去する場合を除く)」としているのみであり、「鋳片表面にスケールが存在する状態で、鋳片表面の検査を行う」場合に限定されていないから、上記請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり、失当と言わざるを得ない。

<相違点2>について
上記「<相違点1>について」の検討からして、本願発明と引用例に記載された発明は、連続鋳造機で製造した鋳片の精整方法において同等であるということができるので、その作用効果についても同等である、つまり、両者は「連続鋳造機で製造した鋳片の表面をスカーフィングすることにより発生する該鋳片の表面の色むらを抑制する鋳片の精整方法」であるというべきである。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

よって、本願発明は、引用例に記載された発明である。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。
したがって、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-13 
結審通知日 2013-12-24 
審決日 2014-01-07 
出願番号 特願2008-239923(P2008-239923)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀧澤 佳世  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 井上 茂夫
石川 好文
発明の名称 鋳片の精整方法  
代理人 来田 義弘  
代理人 中前 富士男  

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