• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1285335
審判番号 不服2012-20292  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-15 
確定日 2014-03-06 
事件の表示 特願2007-290275「蒸散量計測装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月28日出願公開,特開2009-115671〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年11月8日に特許出願されたものであって,平成23年9月29日付けで拒絶理由が通知され,同年12月1日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正書が提出されたが,平成24年7月9日付けで拒絶査定がなされたのに対し,同年10月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。
その後,当審において平成25年8月6日付けで審尋がなされ,回答書が同年10月16日付けで請求人より提出された。

第2 平成24年10月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年10月15日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,補正前の特許請求の範囲について,
「【請求項1】
葉表面から蒸散する葉の水分を計測する蒸散水蒸気量センサと,該蒸散水蒸気量センサの測定信号を変換する測定信号変換回路と,該測定信号変換回路の出力信号を必要な測定データにするために処理する信号処理装置からなる蒸散量計測装置であって,
前記蒸散水蒸気量センサは,
少なくとも水分の存在に対して電子特性を変化させる半導体材料が付着した多孔質状の薄膜上に対向電極を有し,
空隙率75%以上の高分子多孔質薄膜に,ポリチオフェンまたはポリフルオレンを主鎖とし側鎖としてヘキシル基,オクチル基などの直鎖アルキル基を持つパイ共役高分子からなる分子状半導体材料を分子が表面に一層均一に付着させたフィルム状の感応膜と,該感応膜上に設けた対向電極からなることを特徴とする蒸散量計測装置。
【請求項2】
前記測定信号変換回路は,オペアンプを有し,前記蒸散量水蒸気量センサの出力電流を電圧信号に変換し,該電圧信号を前記オペアンプにより増幅して計測することを特徴とする請求項1記載の蒸散量計測装置。
【請求項3】
前記オペアンプを負帰還動作するように接続したことを特徴とする請求項2記載の蒸散量計測装置。」を

「【請求項1】
葉表面から蒸散する葉の水分を計測するフィルム状蒸散水蒸気量センサと,該フィルム状蒸散水蒸気量センサの測定信号を変換する測定信号変換回路と,該測定信号変換回路の出力信号を必要な測定データにするために処理する信号処理装置からなる蒸散量計測装置であって,
前記フィルム状蒸散水蒸気量センサは,
少なくとも水分の存在に対して電子特性を変化させる半導体材料が付着した多孔質状の薄膜上の片方の表面に対向電極を有し,
表面親水性処理が施された膜厚200ミクロン以下,平均孔径0.1ミクロン?1ミクロン,空隙率75%以上の柔軟性を有するフィルム状の高分子多孔質薄膜に,ポリチオフェンまたはポリフルオレンを主鎖とし側鎖としてヘキシル基,オクチル基などの直鎖アルキル基を持つパイ共役高分子からなる分子状半導体材料を分子が表面に一層均一に付着させたフィルム状の感応膜と,該感応膜上に設けた対向電極からなり,該対向電極間に電圧を印加した状態で対向電極を有する片方の表面とは反対側の表面から蒸散する水蒸気を透過させることで,蒸散する水蒸気量の時間的変化を対向電極間電流値の変化として示すフィルム状蒸散水蒸気量センサであって,
前記分子状半導体材料を分子が表面に一層均一に付着させたことにより,表面に部分的に付着させた場合に生じる未付着部の新(「親」の誤記と認められる。)水性表面への水分の吸着が起こりオフセット電流が上昇し水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,かつ,表面に多層に付着させた場合に生じる多孔質薄膜中の水蒸気密度とは関係なく流れる電流が支配的となり水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,いずれの場合よりも蒸散量の変化に対する電流変化のダイナミックレンジを大きくしたことを特徴とする蒸散量計測装置。
【請求項2】
前記測定信号変換回路は,オペアンプを有し,前記蒸散量水蒸気量センサの出力電流を電圧信号に変換し,該電圧信号を前記オペアンプにより増幅して計測することを特徴とする請求項1記載の蒸散量計測装置。
【請求項3】
前記オペアンプを負帰還動作するように接続したことを特徴とする請求項2記載の蒸散量計測装置。」
と補正するものである。(なお,下線は補正箇所を示す。)

2 本件補正の目的
本件補正は,補正前の請求項1?3に係る発明を特定する事項である「蒸散水蒸気量センサ」を「フィルム状」に限定し,補正前の請求項1?3に係る発明を特定する事項である「薄膜上に対向電極」を「薄膜上の片方の表面に対向電極」と限定し,補正前の請求項1?3に係る発明を特定する事項である「空隙率75%以上の高分子多孔質薄膜」を「表面親水性処理が施された膜厚200ミクロン以下,平均孔径0.1ミクロン?1ミクロン,空隙率75%以上の柔軟性を有するフィルム状の高分子多孔質薄膜」に限定し,また,発明特定事項として「該対向電極間に電圧を印加した状態で対向電極を有する片方の表面とは反対側の表面から蒸散する水蒸気を透過させることで,蒸散する水蒸気量の時間的変化を対向電極間電流値の変化として示すフィルム状蒸散水蒸気量センサであって,前記分子状半導体材料を分子が表面に一層均一に付着させたことにより,表面に部分的に付着させた場合に生じる未付着部の新(親)水性表面への水分の吸着が起こりオフセット電流が上昇し水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,かつ,表面に多層に付着させた場合に生じる多孔質薄膜中の水蒸気密度とは関係なく流れる電流が支配的となり水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,いずれの場合よりも蒸散量の変化に対する電流変化のダイナミックレンジを大きくした」点を追加するものであるから,補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものである。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的するものに該当する。

3 独立特許要件
そこで,本件補正後の請求項2に係る発明(以下「補正発明」という)が,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか,すなわち,本件の特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-214858号公報(以下「刊行物」という)には,図面の図示と共に,次の事項が記載されている(下線は当審で付した)。

「【0008】
発明の実施形態を,図面を用いて説明する。
図1は,本発明で提案する水蒸気センサ120を用いて,葉110の裏側(気孔がある側)に水蒸気センサ120を取りつけ,葉の気孔から蒸散される水分を検出する装置構成の概略を示す図である。
葉110の裏側に取り付けられた水蒸気センサ120からの信号を,電圧源と電流測定とが一体となっている計測器140により検出する。そのデータをコンピュータ150で記録する。同時に,周囲環境の温度・湿度センサ130からのデータを,コンピュータ150に記録し,2つのデータの相関解析から,葉110からの蒸散量を求める。」

「【0010】
図3は,水蒸気センサ120の用いられ方を示す図である。水蒸気センサ120は,葉の裏側(気孔がある側)に,電極126を作成していない面を密着するように取りつける。水蒸気センサ120は,多孔質である半導体基板124を通り抜けた蒸散水分を,電極126間の電導度の変化として,電圧を印加して電流を検出することで測定する。」

「【0011】
図5は,溶媒溶解性を有する有機半導体を用いた水蒸気センサ120の作製方法を示す図である。
まず,図5(a)に示すように,基板122と,溶媒溶解性を有する有機半導体材料を溶解した有機半導体溶液(半導体インク)とを用意する。
基板122は,多孔質で,耐溶媒性があり,かつ柔軟性を有する材料が用いられる。この候補として,側鎖にフッ素置換基を有する高分子材料が望ましい。例えば,ポリビニリデンフルオライドや,ポリテトラフルオロエチレンなどによる多孔質フィルムなどがあげられる。 多孔質の薄膜基板を,有機半導体溶液に浸漬させることで,この孔の内壁を半導体材料でコーティングしているが,内壁の表面が親水性であると,有機半導体材料の親水部(電気が通る部分)が内壁側に,疎水部(例えばアルキル基の部分:電気は通らないが,半導体膜の構造を形成させる役割をなしている)が,内壁表面の外側を向いて,半導体材料が孔の内壁に付着する。これにより,孔の内壁は,有機半導体のコーティングにより疎水性を示すようになる。これで,孔の内壁が疎水性であるがために,その上に水分が付着したとしても離脱しやすくなり,孔の中を通った水分が,孔の中で停滞してしまわず,通り抜けていく。水分が,孔の表面に吸着してしまうと,水蒸気ではなく,センサへの水分吸着量を計測してしまうことになるので,水蒸気センサ(蒸散量センサ)として用いることが難しい。このため,多孔質の薄膜基板の孔の内壁は親水性であることが望ましい。
基材122を親水性を有するようにするための親水処理は特に限定されない。親水性を有する水酸基のようなものを表面に結合させることや,ポリビニルアルコールなどの親水性を有する高分子で表面をコーティングしておくことなどの方法,オゾン処理を施す方法などが考えられる。」

「【0018】
(実施例1)
厚さ125ミクロン,平均孔径0.45ミクロン,空隙率約75%の表面親水性のフッ素樹脂製多孔質膜(ミリポア社製親水性デュラポア膜)を重量濃度0.01%のポリ(3-n-ヘキシルチオフェン)のクロロホルム溶液に浸漬した後,クロロホルムを乾燥除去することで,高分子半導体をコートした多孔質膜を作製した。この膜の片方の表面に金属製のシャドウマスクを介し,20ミクロンの間隔で平行に幅100ミクロン,長さ5ミリメートル,厚さ0.3ミクロンの金電極対(対向電極)を真空蒸着で形成することで水蒸気センサ1を作製した。
このようにして作製した水蒸気センサ1を,上述のろ紙及び平均孔径0.45ミクロンの疎水性多孔質樹脂膜を積層したシートの疎水性多孔質樹脂膜上に金電極を形成した面と反対の面を接触させるように配置した。
【0019】
水蒸気センサ1の金電極対(対向電極)に1Vの電圧を連続的に印加しながら,ろ紙に極少量の水滴を滴下し湿潤させ,疎水性多孔質樹脂膜を介して上昇する水蒸気に対する水蒸気センサの出力電流値の変化,およびろ紙の湿潤の程度を示すろ紙電気伝導度の時間変化を一定の時間間隔で同時測定した。その結果,図7(a),(b)に示すように,ろ紙の湿潤の程度に対応した電流値の変化が確認され,水蒸気非暴露と暴露時で二桁以上の出力電流値の比が得られた。
次に,水蒸気センサ1の金電極対に1Vの電圧を連続的に印加しながら室内大気中に暴露し,室内の温湿度の変化と水蒸気センサ1の出力電流値の変化を測定した。図8(a),(b)にその結果を示す。
水蒸気センサ1の出力電流は,室内温湿度の変化(図8(b)参照)に対して10pA程度の僅かな電流値の変化しか示さなかった(図8(a)参照)。このことから,上述の図6で示した水蒸気センサ1の電流値変化が,湿潤したろ紙から蒸散する水蒸気がセンサ裏面から金電極の間隙を透過した量に対応したものであることを確認した。」

「【0025】
(実施例4)
厚さ80ミクロン,平均孔径0.45ミクロン,空隙率約80%の表面親水性のフッ素樹脂製多孔質膜(ミリポア社製オムニポア膜)を,実施例1と同様に重量濃度0.01%のポリ(3-n-ヘキシルチオフェン)のクロロホルム溶液に浸漬した後,クロロホルムを乾燥除去することで,高分子半導体をコートした多孔質膜を作製した。この膜の片方の表面に金属製のシャドウマスクを介し,20ミクロンの間隔で平行に幅100ミクロン,長さ5ミリメートル,厚さ0.3ミクロンの金電極対(対向電極)を真空蒸着で形成することで水蒸気センサ4を作製した。
実施例1と同様に,作製した水蒸気センサ4を,ろ紙及び平均孔径0.45ミクロンの疎水性多孔質樹脂膜を積層したシートの疎水性多孔質樹脂膜上に,金電極を形成した面と反対の面を接触させるように配置した。水蒸気センサ4の金電極対に,1Vの電圧を連続的に印加した状態で,ろ紙に極少量の水滴を滴下し湿潤させ,疎水性多孔質樹脂膜を介して上昇する水蒸気に対する水蒸気センサ4の出力電流値の変化,およびろ紙の湿潤の程度を示す伝導度の時間変化を一定の時間間隔で同時測定した。
【0026】
その結果を図11に示す。水蒸気センサ4は,実施例1で作製した水蒸気センサ1と同様に,図11(b)に示されるろ紙の湿潤の程度に対応した電流値の変化が確認され(図11(a)参照),水蒸気非暴露-暴露時の出力電流値の比は2桁以上が得られた。また,実施例1で作製した厚さ125ミクロンの表面親水性フッ素樹脂膜を用いた水蒸気センサ1(図7(a)参照)に比べて,水蒸気センサ4は,水蒸気量に対する出力電流変化の応答時間が早いことが確認された。」

上記の記載事項から,刊行物には,以下の発明が記載されていると認められる。

「葉110の裏側に取り付けられた水蒸気センサ120からの信号を,電圧源と電流測定とが一体となっている計測器140により検出し,そのデータをコンピュータ150で記録し,同時に,周囲環境の温度・湿度センサ130からのデータを,コンピュータ150に記録し,2つのデータの相関解析から,葉110からの蒸散量を求める,葉の気孔から蒸散される水分を検出する装置であって,
水蒸気センサ120は,葉の裏側(気孔がある側)に,電極126を作成していない面を密着するように取りつけ,多孔質である半導体基板124を通り抜けた蒸散水分を,電極126間の電導度の変化として,電圧を印加して電流を検出することで測定するものであり,
基板122は,多孔質で,耐溶媒性があり,かつ柔軟性を有する,側鎖にフッ素置換基を有する高分子材料,例えば,ポリビニリデンフルオライドや,ポリテトラフルオロエチレンなどによる多孔質フィルムが用いられ,多孔質の薄膜基板を,有機半導体溶液に浸漬させることで,この孔の内壁を半導体材料でコーティングしているが,内壁の表面が親水性であると,有機半導体材料の親水部が内壁側に,疎水部が,内壁表面の外側を向いて,半導体材料が孔の内壁に付着することにより,孔の内壁は,有機半導体のコーティングにより疎水性を示すようになるものであり,
厚さ125ミクロン,平均孔径0.45ミクロン,空隙率約75%の表面親水性のフッ素樹脂製多孔質膜(ミリポア社製親水性デュラポア膜)を重量濃度0.01%のポリ(3-n-ヘキシルチオフェン)のクロロホルム溶液に浸漬した後,クロロホルムを乾燥除去することで,高分子半導体をコートした多孔質膜を作製し,この膜の片方の表面に金属製のシャドウマスクを介し,20ミクロンの間隔で平行に幅100ミクロン,長さ5ミリメートル,厚さ0.3ミクロンの金電極対(対向電極)を真空蒸着で形成することで作製した水蒸気センサ1,または,
厚さ80ミクロン,平均孔径0.45ミクロン,空隙率約80%の表面親水性のフッ素樹脂製多孔質膜(ミリポア社製オムニポア膜)を,同様に重量濃度0.01%のポリ(3-n-ヘキシルチオフェン)のクロロホルム溶液に浸漬した後,クロロホルムを乾燥除去することで,高分子半導体をコートした多孔質膜を作製し,この膜の片方の表面に金属製のシャドウマスクを介し,20ミクロンの間隔で平行に幅100ミクロン,長さ5ミリメートル,厚さ0.3ミクロンの金電極対(対向電極)を真空蒸着で形成することで作成した水蒸気センサ4
を有する葉の気孔から蒸散される水分を検出する装置。」(以下「引用発明」という)

(2)補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「葉の裏側(気孔がある側)に」「取りつけ,多孔質である半導体基板124を通り抜けた蒸散水分を」「測定する」「水蒸気センサ120」は,「基板122」に「多孔質フィルムが用いられ」るからフィルム状といえ,補正発明の「葉表面から蒸散する葉の水分を計測するフィルム状蒸散水蒸気量センサ」に相当する。

イ 引用発明の「葉110の裏側に取り付けられた水蒸気センサ120からの信号を」「検出」する「電圧源と電流測定とが一体となっている計測器140」は,補正発明の「該フィルム状蒸散水蒸気量センサの測定信号を変換する測定信号変換回路」に相当する。

ウ 引用発明の「計測器140」の「データを」「記録し,同時に,周囲環境の温度・湿度センサ130からのデータを」「記録し,2つのデータの相関解析から,葉110からの蒸散量を求める」「コンピュータ150」は,補正発明の「該測定信号変換回路の出力信号を必要な測定データにするために処理する信号処理装置」に相当する。

エ 引用発明の「葉の気孔から蒸散される水分を検出する装置」は,補正発明の「蒸散量計測装置」に相当する。

オ 引用発明の「多孔質である半導体基板124を通り抜けた蒸散水分を,電極126間の電導度の変化として,電圧を印加して電流を検出することで測定するものであり」「高分子半導体をコートした多孔質膜」「の片方の表面に」「対向電極」を「形成することで」「作成した水蒸気センサ」は,補正発明の「少なくとも水分の存在に対して電子特性を変化させる半導体材料が付着した多孔質状の薄膜上の片方の表面に対向電極を有」する「フィルム状蒸散水蒸気量センサ」に相当する。

カ 引用発明の「柔軟性を有する」「多孔質フィルム」が用いられる「基板122」であって「厚さ125ミクロン,平均孔径0.45ミクロン,空隙率約75%の表面親水性のフッ素樹脂製多孔質膜」または「厚さ80ミクロン,平均孔径0.45ミクロン,空隙率約80%の表面親水性のフッ素樹脂製多孔質膜」は,補正発明の「表面親水性処理が施された膜厚200ミクロン以下,平均孔径0.1ミクロン?1ミクロン,空隙率75%以上の柔軟性を有するフィルム状の高分子多孔質薄膜」に相当する。

キ 引用発明の「ポリ(3-n-ヘキシルチオフェン)のクロロホルム溶液に浸漬した後,クロロホルムを乾燥除去することで,高分子半導体をコートした多孔質膜」は,補正発明の「ポリチオフェンまたはポリフルオレンを主鎖とし側鎖としてヘキシル基,オクチル基などの直鎖アルキル基を持つパイ共役高分子からなる分子状半導体材料」のうちの「ポリチオフェン」「を主鎖とし側鎖としてヘキシル基」「の直鎖アルキル基を持つパイ共役高分子からなる分子状半導体材料」に相当する。

ク 引用発明の「高分子半導体をコートした多孔質膜」と補正発明の「分子状半導体材料を分子が表面に一層均一に付着させたフィルム状の感応膜」とは,「分子状半導体材料を表面に付着させたフィルム状の感応膜」の点で共通する。

ケ 引用発明の「高分子半導体をコートした多孔質膜」「の片方の表面に」「形成」された「対向電極」は,補正発明の「該感応膜上に設けた対向電極」に相当する。

コ 引用発明「葉の裏側(気孔がある側)に,電極126を作成していない面を密着するように取りつけ,多孔質である半導体基板124を通り抜けた蒸散水分を,電極126間の電導度の変化として,電圧を印加して電流を検出することで測定するものであり,」「高分子半導体をコートした多孔質膜」「の片方の表面に」「対向電極」を「形成することで作成した水蒸気センサ」は,補正発明の「該対向電極間に電圧を印加した状態で対向電極を有する片方の表面とは反対側の表面から蒸散する水蒸気を透過させることで,蒸散する水蒸気量の時間的変化を対向電極間電流値の変化として示すフィルム状蒸散水蒸気量センサ」に相当する。ここで,引用発明も「蒸散する水蒸気量の時間的変化」を示すものであることは,例えば,上記刊行物の「【0019】水蒸気センサ1の金電極対(対向電極)に1Vの電圧を連続的に印加しながら,ろ紙に極少量の水滴を滴下し湿潤させ,疎水性多孔質樹脂膜を介して上昇する水蒸気に対する水蒸気センサの出力電流値の変化,およびろ紙の湿潤の程度を示すろ紙電気伝導度の時間変化を一定の時間間隔で同時測定した。」に記載されているように自明の事項である。

そうすると,両者は,次の点で一致し,以下の点で相違するといえる。

(一致点)
「葉表面から蒸散する葉の水分を計測するフィルム状蒸散水蒸気量センサと,該フィルム状蒸散水蒸気量センサの測定信号を変換する測定信号変換回路と,該測定信号変換回路の出力信号を必要な測定データにするために処理する信号処理装置からなる蒸散量計測装置であって,
前記フィルム状蒸散水蒸気量センサは,
少なくとも水分の存在に対して電子特性を変化させる半導体材料が付着した多孔質状の薄膜上の片方の表面に対向電極を有し,
表面親水性処理が施された膜厚200ミクロン以下,平均孔径0.1ミクロン?1ミクロン,空隙率75%以上の柔軟性を有するフィルム状の高分子多孔質薄膜に,ポリチオフェンまたはポリフルオレンを主鎖とし側鎖としてヘキシル基,オクチル基などの直鎖アルキル基を持つパイ共役高分子からなる分子状半導体材料を表面に付着させたフィルム状の感応膜と,該感応膜上に設けた対向電極からなり,該対向電極間に電圧を印加した状態で対向電極を有する片方の表面とは反対側の表面から蒸散する水蒸気を透過させることで,蒸散する水蒸気量の時間的変化を対向電極間電流値の変化として示すフィルム状蒸散水蒸気量センサである蒸散量計測装置。」

(相違点1)
「分子状半導体材料を付着させたフィルム状の感応膜」が,本願発明では「分子が表面に一層均一に付着させた」ものであり,「前記分子状半導体材料を分子が表面に一層均一に付着させたことにより,表面に部分的に付着させた場合に生じる未付着部の新(親)水性表面への水分の吸着が起こりオフセット電流が上昇し水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,かつ,表面に多層に付着させた場合に生じる多孔質薄膜中の水蒸気密度とは関係なく流れる電流が支配的となり水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,いずれの場合よりも蒸散量の変化に対する電流変化のダイナミックレンジを大きくした」ものであるのに対し,引用発明では不明である点。

(相違点2)
本願発明が「前記測定信号変換回路は,オペアンプを有し,前記蒸散量水蒸気量センサの出力電流を電圧信号に変換し,該電圧信号を前記オペアンプにより増幅して計測する」のに対し,引用発明は「電流を検出することで測定するもの」であるが,それを電圧信号に変換しオペアンプにより増幅して計測するか不明である点。

(3)相違点についての検討・判断
(相違点1について)
引用発明に関して,刊行物には「【0011】多孔質の薄膜基板を,有機半導体溶液に浸漬させることで,この孔の内壁を半導体材料でコーティングしているが,内壁の表面が親水性であると,有機半導体材料の親水部…が内壁側に,疎水部…が内壁表面の外側を向いて,半導体材料が孔の内壁に付着する。これにより,孔の内壁は,有機半導体のコーティングにより疎水性を示すようになる。これで,孔の内壁が疎水性であるがために,その上に水分が付着したとしても離脱しやすくなり,孔の中を通った水分が,孔の中で停滞してしまわず,通り抜けていく。水分が,孔の表面に吸着してしまうと,水蒸気ではなく,センサへの水分吸着量を計測してしまうことになるので,水蒸気センサ(蒸散量センサ)として用いることが難しい。」と記載されている。
そして,この記載のとおりに有機半導体材料の親水部が内壁側に,疎水部が内壁表面の外側を向いて半導体材料を孔の内壁に付着させるようにするには,単分子膜を累積させて複数層にすると,その層数にしたがって外側に疎水性分子膜と親水性分子膜が交互にあらわれることから,層数が奇数になるように膜厚をコントロールする必要がある。また,部分的なコーティングでは,親水性の孔の内壁が露出することになり好ましくないことは自明である。
そうすると,親水部が内壁側に,疎水部が内壁表面の外側を向いて付着するのを確実にするために,単純に,分子を表面に一層均一に付着させるように構成することは当業者が容易になし得たものというべきである。

また,「表面に部分的に付着させた場合に生じる未付着部の新(親)水性表面への水分の吸着が起こりオフセット電流が上昇し水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,かつ,表面に多層に付着させた場合に生じる多孔質薄膜中の水蒸気密度とは関係なく流れる電流が支配的となり水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,いずれの場合よりも蒸散量の変化に対する電流変化のダイナミックレンジを大きくした」点は,本願明細書の段落【0024】の記載からみて,「前記分子状半導体材料を分子が表面に一層均一に付着させたことによ」る作用効果といえるから,分子を表面に一層均一に付着させるように構成することにより,必然的に得られるものといえる。

さらに,引用発明に関して,刊行物の段落【0019】の記載及び図7,並びに,段落【0026】の記載及び図11を参照すれば,低域での計測分解能の低下を発生させることなく,蒸散量の変化に対する電流変化のダイナミックレンジが十分大きいものと認められるから,上記作用効果が格別顕著のものとはいえない。

(相違点2について)
測定信号変換回路として,オペアンプを有し,センサの出力電流を電圧信号に変換し,該電圧信号を前記オペアンプにより増幅して計測することは,例えば,原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開平2-309237号公報(第2頁右下欄第12行?第3頁左上欄第17行,第3図参照。)に開示されているように慣用手段であり,引用発明の測定信号変換回路に適用することは当業者が容易になし得たものというべきである。

そして,本願明細書に記載された補正発明の効果も,当業者であれば刊行物及び慣用手段から予測し得る範囲内のものであり,格別顕著なものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり,補正発明は,引用発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明に対する判断
1 本願発明の認定
平成24年10月15日付けの手続補正は,上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1?3に係る発明は,平成23年12月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであると認められ,その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という)は,前記のとおりのものである。

2 刊行物
原査定の拒絶理由で引用された刊行物,及び,その記載事項は,前記「第2」の「3」の「(1)刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

3 判断
本願発明は,前記「第2」の「1 本件補正の内容」及び「第2」の「2 本件補正の目的」で検討した補正発明における「フィルム状」,「片方の表面」,「表面親水性処理が施された膜厚200ミクロン以下,平均孔径0.1ミクロン?1ミクロン」,「柔軟性を有するフィルム状の」及び「「該対向電極間に電圧を印加した状態で対向電極を有する片方の表面とは反対側の表面から蒸散する水蒸気を透過させることで,蒸散する水蒸気量の時間的変化を対向電極間電流値の変化として示すフィルム状蒸散水蒸気量センサであって,前記分子状半導体材料を分子が表面に一層均一に付着させたことにより,表面に部分的に付着させた場合に生じる未付着部の新(親)水性表面への水分の吸着が起こりオフセット電流が上昇し水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,かつ,表面に多層に付着させた場合に生じる多孔質薄膜中の水蒸気密度とは関係なく流れる電流が支配的となり水蒸気流速が低速域での計測分解能の低下を発生することなく,いずれの場合よりも蒸散量の変化に対する電流変化のダイナミックレンジを大きくした」とする限定事項を省いたものである。
そうすると,本願発明の特定事項を全て含み,他の特定事項を付加したものに相当する補正発明が,前記「第2」の「3 独立特許要件」に記載したとおり,引用発明及び慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項号の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-25 
結審通知日 2014-01-07 
審決日 2014-01-20 
出願番号 特願2007-290275(P2007-290275)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柏木 一浩  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 三崎 仁
藤田 年彦
発明の名称 蒸散量計測装置  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ