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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1285381
審判番号 不服2010-20938  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-16 
確定日 2014-03-03 
事件の表示 特願2005-109277「糖転移酵素遺伝子の導入による生体内糖鎖伸長の技術」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月26日出願公開、特開2006-288210〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年4月5日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成25年9月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という)。
「植物において、2個以上の複数の糖転移酵素遺伝子が導入され、かつラクトシルセラミドLacCerからセラミドトリヘキソシドCTHを合成する代謝経路が形成された形質転換植物細胞であって、
上記糖転移酵素遺伝子が、ヒト又は動物由来のβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子のアイソフォームの中から選択されたβ4GALT5、及びα1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子であり、上記植物細胞において、ラクトシルセラミドLacCerからセラミドトリヘキソシドCTHを合成するセラミドトリヘキソシド生産能力を有する植物体を再生しうることが実証されたこと、を特徴とする形質転換植物細胞。」

2.当審における拒絶理由
一方、当審において平成25年7月18日付けで通知した拒絶理由の概要は、補正前の本願請求項1?7に係る発明は、本願出願日前に頒布された刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用例の記載事項
当審の拒絶理由で引用例1として引用した、本願出願日前に頒布された刊行物である化学・バイオつくば財団 ニュース 平成16年度 第60号(2005.Jan.)p.2-3(以下、「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による)。

ア.「動物型スフィンゴ糖脂質はシグナル因子としてホルモン、酵素、抗体、レクチン等の結合に関与するばかりでなく、インフルエンザ等の各種ウイルスやバクテリアがヒトに感染する際のレセプターとなることが知られている。例えばラクトシルセラミドは淋菌やプロピオン酸菌(皮膚炎の原因菌)が細胞に感染する際のレセプターであり、セラミドトリヘキソシドはベロ毒素(大腸菌O-157が生産する毒素)や志賀毒素(赤痢菌が生産する毒素)が細胞表面に結合するためのレセプターである(図1)。」(第2頁左欄第1行?第10行)

イ.「本研究では、動物由来の糖転移酵素遺伝子を植物に導入することにより脂質代謝系を改変し、本来植物では生産されない動物型スフィンゴ糖脂質を生合成する植物体を新規に創製する系を確立した。」(第2頁左欄第20行?第23行)

ウ.「動物においてラクトシルセラミドはグルコシルセラミド(Glcβ1-Cer)へのガラクトース付加(β1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性:β1,4-GTase)により合成される(図1)。しかし植物にグルコシルセラミドは有るが、グルコシルセラミドを基質とするβ1,4-GTaseの遺伝子を欠いているためラクトシルセラミド及びそれ以降全ての動物型糖脂質を合成することが出来ない。そこで我々はラクトシルセラミドを生産する植物の作出を試みた。」(第2頁左欄第26行?右欄第7行)

エ.「ヒトのβ1,4-GTaseは小胞体またはゴルジに局在するタイプ2型膜貫通タンパク質であり、現在までに7つの遺伝子ファミリーが単離されている。・・・・・・本研究ではヒト心臓由来のpolyA+RNAを鋳型にhβ1,4GT5遺伝子を単離し、植物発現ベクターを構築して植物に導入し発現させることによりラクトシルセラミドを合成する組換えタバコ(Nicotiana tabacum cv.Blight Yellow)を作出した。」(第2頁右欄第8行?第17行)

オ.「また、組換えタバコの葉1gあたりのラクトシルセラミド含量を調べたところ、株により変動はあるものの1gあたり約200μg(157?265μg)であることが分かった。・・・・・・また、この組換えタバコに更に異なる糖転移酵素遺伝子を組込むことにより、多種類の動物型スフィンゴ糖脂質を組換えタバコで生産させる系を確立したいと考えている。」(第3頁左欄第7行?第16行)

カ.「

」(図1)

そして、形質転換植物が形質転換植物細胞から再生されて製造されるものであることは本願出願日前技術常識であるから、上記記載事項ア.?カ.によると、引用例1には、
「植物において、糖転移酵素遺伝子が導入され、かつグルコシルセラミドから動物型スフィンゴ糖脂質であるラクトシルセラミドを合成する代謝経路が形成された形質転換植物細胞であって、
上記糖転移酵素遺伝子が、ヒト由来のβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子の遺伝子ファミリーの中から選択されたhβ1,4GT5遺伝子であり、上記植物細胞において、動物型スフィンゴ糖脂質であるラクトシルセラミドを生産する能力を有する植物体を再生しうることが実証された形質転換植物細胞。」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

当審の拒絶理由で引用例3として引用した、本願出願日前に頒布された刊行物である平成14年度 科学技術振興調整費 試験研究実施計画 継続課題(2002)p.93(以下、「引用例3」という)には、β1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子によりタバコを形質転換して、ラクトシルセラミド合成タバコを作出し、作出したラクトシルセラミド合成タバコをα1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子により形質転換して、セラミドトリヘキソシド合成タバコを作出することが記載されている。

当審の拒絶理由で引用例4として引用した、本願出願日前に頒布された刊行物である特開2001-224377号公報(以下、「引用例4」という)には、ヒト由来のα1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が記載されており、また、該遺伝子を植物細胞に導入することも記載されている(特許請求の範囲、【0040】参照)。

当審の拒絶理由で引用例5として引用した、本願出願日前に頒布された刊行物であるProc.Natl.Acad.Sci.USA.,Vol.95,No.2(1998)p.472-477(以下、「引用例5」という)には、ヒト由来のβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子のアイソフォームであるhβ1,4GT5遺伝子が記載されている(図1参照)。

4.対比
次に、本願発明(以下、「前者」という)と引用発明(以下、「後者」という)とを対比すると、後者における「遺伝子ファミリー」は、前者における「アイソフォーム」に相当し、後者における「hβ1,4GT5遺伝子」は、前者における「β4GALT5遺伝子」に相当し、また、セラミドトリヘキソシドが動物型スフィンゴ糖脂質であることは、上記3.ア.より明らかであるから、両者は、
「植物において、糖転移酵素遺伝子が導入され、かつ動物型スフィンゴ糖脂質を合成する代謝経路が形成された形質転換植物細胞であって、
上記糖転移酵素遺伝子が、ヒト由来のβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子のアイソフォームの中から選択されたβ4GALT5遺伝子であり、上記植物細胞において、動物型スフィンゴ糖脂質を生産する能力を有する植物体を再生しうることが実証されたこと、を特徴とする形質転換植物細胞。」である点で一致し、前者は、動物型スフィンゴ糖脂質がセラミドトリヘキソシドであり、糖転移酵素遺伝子として更にヒト由来のα1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が導入され、ラクトシルセラミドからセラミドトリヘキソシドを合成する代謝経路が形成された形質転換植物細胞であって、セラミドトリヘキソシド生産能力を有する植物体を再生しうることが実証された形質転換植物細胞であるのに対し、後者は、動物型スフィンゴ糖脂質がラクトシルセラミドであり、グルコシルセラミドからラクトシルセラミドを合成する代謝経路が形成された形質転換植物細胞であって、ラクトシルセラミド生産能力を有する植物体を再生しうることが実証された形質転換植物細胞である点で相違する。

5.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
引用例1には、ラクトシルセラミドを合成する組換えタバコに、更に異なる糖転移酵素遺伝子を組込むことにより、セラミドトリヘキソシドなどのラクトシルセラミド以降の多種類の動物型スフィンゴ糖脂質を組換えタバコで生産させる系を確立したいと記載されている(上記記載事項ウ.、オ.及びカ.)。
そして、引用例3には、ラクトシルセラミド合成タバコをα1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子により形質転換して、セラミドトリヘキソシド合成タバコを作出することが記載されているから、引用発明のヒト由来のβ4GALT5遺伝子(その配列は、引用例5に記載されている)を導入したラクトシルセラミドを合成する代謝経路が形成された形質転換植物細胞に、引用例4記載の配列情報を基にクローニングしたヒト由来のα1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を導入することにより、ラクトシルセラミドからセラミドトリヘキソシドを合成する代謝経路が形成された形質転換植物細胞を製造し、該形質転換植物細胞から植物体を再生し、該植物体がセラミドトリヘキソシドを生産する能力を有することを確認することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明が、引用例1及び3?5の記載から当業者が予測出来ない程の格別顕著な効果を奏するとは認められない。
したがって、本願発明は、引用例1及び3?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年9月24日付け意見書において、以下のア.?ウ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア.「植物は、セラミドヘキソシド(CTH)の前駆体であるラクトシルセラミド(LacCer)を持っていないので、引用例1の「系を確立したいと考えている」との記載を含めて、実験計画として、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子及びα1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が導入されることが計画されているとしても、実際に、セラミドヘキソシド(CTH)が産生されるかどうかは全く未知であり、実際に、通常のルーチンの検討をはるかに上回る過度の研究及び実験を実施して、セラミドヘキソシド(CTH)の産生が確認できて、はじめて、その有効性が実証されたことになる。」

イ.「β1,4-ガラクトース転移酵素については、7遺伝子のアイソフォームが知られている。・・・・・・これらのアイソフォームのうち、本願発明で有効なものは、審判請求書の請求の理由で説明したように、β4GalT1、β4GalT5及びβ4GalT6の3つであり、特に、β4GalT5をタバコに導入した場合に、LacCerが大量に生産されることが分かった(258ug/1g葉・生重量)。 β1,4-ガラクトース転移酵素の7つのアイソマー自体は公知であるが、当該7つのアイソマーのうち、特定のアイソフォームが有効であることの知見は、本願発明において初めて明らかになったことであり、このことは、引用例1?5には記載も示唆もされていない本願発明の特徴的部分というべきものである。 審判請求書の(e)?(f)に記載の「実験成績証明書」及び「本願発明の予測困難性」の項に詳しく示したように、実施例4で用いたヒトβ1,4GTを裏付けるβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼβ4GALT5をタバコに導入したところ、LacCerが大量生産されるという格別の効果を示すことが分かった。」

ウ.「糖脂質の専門家は、植物では、LacCerやCTHが生産できないと予測するのが通常であるが、その根拠は、植物に、GlcCerのフリッパーゼがないからである。・・・・・・組換えタバコには、(ヒトの)ガラクトース転移酵素を導入したが、フリッパーゼは入れていない。また、植物には、LacCerがないため、フリッパーゼの有無を含めて情報がない。GlcCerが、内腔側に反転しなければ、糖転移酵素を導入しても、LacCerや、CTHは、合成できないと予測するのが普通であり、従来の知見から、本願発明を予測することは困難である。」

主張ア.について
引用例1には、ヒト由来の糖転移酵素遺伝子であるβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を植物に導入し発現させることにより、セラミドヘキソシド(CTH)の前駆体であるラクトシルセラミド(LacCer)を合成する組換え植物を作出したことが記載されているから、「ラミドヘキソシド(CTH)の前駆体であるラクトシルセラミド(LacCer)を持ってい」る植物は本願出願日前公知のものであり、また、ヒト由来の糖転移酵素遺伝子を植物に導入し発現させることができた引用例1の記載から、β1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子と同じヒト由来の糖転移酵素遺伝子であるα1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を組換え植物に導入した場合にも、該組換え植物においてα1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼが機能して、組換え植物内にあるラクトシルセラミド(LacCer)からセラミドヘキソシド(CTH)を合成できることは、当業者であれば十分に予測可能な範囲のことである。
また、審判請求人は、「通常のルーチンの検討をはるかに上回る過度の研究及び実験」がどうような研究及び実験を意味しているのか何ら具体的に示していない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。

主張イ.について
引用例1には、ヒト由来のβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子のアイソフォームであるhβ1,4GT5遺伝子をタバコに導入し発現させることによりラクトシルセラミドを合成する組換えタバコを作出したこと、組換えタバコの葉1gあたりのラクトシルセラミド含量が約200μg(157?265μg)であったことが記載されているから、審判請求人の上記主張は当を得たものとはいえない。

主張ウ.について
引用例1には、組換えタバコにフリッパーゼを入れていなくても、組換えタバコでラクトシルセラミド(LacCer)を合成することができたことが記載されているから、審判請求人の上記主張は採用できない。

したがって、審判請求人の上記主張はいずれも採用できない。

7.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例1及び3?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-27 
結審通知日 2014-01-06 
審決日 2014-01-17 
出願番号 特願2005-109277(P2005-109277)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 高堀 栄二
田中 晴絵
発明の名称 糖転移酵素遺伝子の導入による生体内糖鎖伸長の技術  
代理人 須藤 政彦  

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