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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1285410
審判番号 不服2013-2282  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-06 
確定日 2014-03-05 
事件の表示 特願2007- 8223「液体圧スプリング及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月31日出願公開、特開2008-175266〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年1月17日の出願であって、平成24年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年2月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.平成25年2月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年2月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
少なくとも一端にねじ部を有した円筒状のシリンダと、このシリンダの一端のねじ部に螺合すると共にシリンダの一端を閉塞する一方の閉塞手段と、シリンダの他端に設けられていると共にシリンダの他端を閉塞する他方の閉塞手段と、シリンダの内部に隙間なしに封入されていると共に所定の圧力に加圧された可圧縮性の液体と、一方の閉塞手段を軸方向に移動自在に貫通すると共にシリンダの内部への進入によりシリンダの内部の液体に圧力上昇を生じさせるロッドとを具備しており、シリンダの内部に隙間なしに封入された可圧縮性の液体は、一方の閉塞手段のシリンダのねじ部への螺入により所定に加圧されており、シリンダのねじ部は、シリンダの一端の内周面に形成された雌ねじからなり、一方の閉塞手段は、シリンダの一端の内周面に形成された雌ねじに螺合した雄ねじを外周面に有すると共に貫通孔を有した円筒状の閉塞部材と、この閉塞部材の貫通孔を規定する内周面に固着された円筒状のシール部材とを具備しており、閉塞部材の貫通孔は、当該閉塞部材の軸方向の一方の端面において開口する一方の開口端と当該閉塞部材の軸方向の他方の端面において開口する他方の開口端とを有して軸方向に伸びており、円筒状のシール部材は、貫通孔の一方の開口端から他方の開口端まで軸方向に伸びて当該貫通孔を規定する閉塞部材の内周面に固着されており、ロッドは、その外周面でシール部材の内周面に軸方向に摺動自在に接触してシール部材を貫通しており、閉塞部材とシール部材とは、シール部材を軸方向に摺動自在に貫通したロッドと協同してシリンダの一端を閉塞している液体圧スプリング。
【請求項2】
他方の閉塞手段は、シリンダの他端に一体に形成された閉塞部又はシリンダの他端に螺合された閉塞部材を具備している請求項1に記載の液体圧スプリング。
【請求項3】
シリンダの内部に配されていると共にロッドの一端に取付けられたピストンを更に具備しており、ピストンは、シリンダの内周面との間に可圧縮性の液体が流動できる隙間を形成する外周面を有している請求項1又は2に記載の液体圧スプリング。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「閉塞部材」に関して、「閉塞部材の貫通孔は、当該閉塞部材の軸方向の一方の端面において開口する一方の開口端と当該閉塞部材の軸方向の他方の端面において開口する他方の開口端とを有して軸方向に伸びており、円筒状のシール部材は、貫通孔の一方の開口端から他方の開口端まで軸方向に伸びて当該貫通孔を規定する閉塞部材の内周面に固着されており、」という事項を追加して限定するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2001-277809号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ベビーカー、車椅子等の台車に取り付けられる緩衝器付きキャスターに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、キャスターに加わる衝撃を吸収する構造として、車体側に結合されるブラケットと、ブラケットに回動可能に連結され車輪を支持するリンクと、ブラケットとリンクの間に介装されるクッションゴムを備えるものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来のキャスターにあっては、クッションゴムのバネ特性によって載せられる荷重および衝撃吸収効果が決まり、クッションゴムが堅すぎて初期作動が悪化したり、クッションゴムが柔らかすぎて沈み込みを起こす等の問題点があった。
【0004】本発明は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、キャスターに適した緩衝機構を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、車体側に結合されるブラケットと、ブラケットに回動可能に連結されるリンクと、リンクに回転可能に連結される車輪と、リンクの回動に伴って伸縮作動する油圧ダンパとを備え、油圧ダンパに作動油として高粘度作動油を封入し、高粘度作動油の圧力によりブラケットに懸かる荷重を支持するものとした。
【0006】第2の発明は、第1の発明における油圧ダンパとして、…」
(い)「【0012】
【発明の作用および効果】第1と6の発明において、車体に加わる荷重に応じて油圧ダンパが高粘度作動油、例えばシリコンオイルを圧縮しながら収縮し、リンクの傾きが決まる。車体に加わる荷重が大きい場合、油圧ダンパが収縮するのに伴ってシリコンオイルの圧縮特性により圧力が急上昇し、キャスターの沈み込みが抑えられ、リンクの動きを確保できる。シリコンオイルの初期圧縮比を変えると油圧ダンパの圧力上昇カーブも変わり、種々の減衰特性が得られる。
【0013】シリコンオイルは一般の油圧機器に用いられる作動油に対して圧縮率が高いため、油圧ダンパの内部にガス室等を設ける必要がなく、構造の簡素化がはかれる。」
(う)「【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】図1に示すように、キャスター1は台車等の車体に締結されるブラケット2と、ブラケット2に回動可能に支持されるリンク3と、リンク3の先端部に回転可能に支持される車輪4とを備える。車輪4はリンク3の先端部に締結されるボルト6により図示しないベアリングを介して回転可能に支持される。
【0022】図2に示すように、ブラケット2はコの字形断面を持ち、その上部を貫通するボルト5によりベアリング7を介して車体に締結される。ブラケット2は垂直軸まわり(左右方向)に回動して車輪4が進行方向を向くようになっている。
【0023】リンク3はボルト10を介してブラケット2に対して水平軸回り(上下方向)に回動可能に支持される。リンク3の回動基端部にはスリーブ11が固着され、スリーブ11はボルト10を介してブラケット2に回転可能に連結される。
【0024】ブラケット2とリンク3の間には片ロッド型油圧ダンパ20が介装され、油圧ダンパ20はリンク3の回動に伴って伸縮するようになっている。
【0025】図3に示すように、油圧ダンパ20は、ブラケット2にピン25を介して連結されるシリンダチューブ21と、リンク3にピン26を介して連結されシリンダチューブ21に摺動可能に嵌合するピストンロッド22と、ピストンロッド22に結合されるピストン23とを備える。
【0026】シリンダチューブ21の開口端内面にねじ部21aが設けられて、円筒状のエンド部材29が螺合され、エンド部材29の内側にピストンロッド22が摺動可能に嵌合する。エンド部材29とピストンロッド22の間にはシールリング34が介装され、シリンダチューブ21内の密封がはかられる。
【0027】ピストン23はシリンダチューブ21内を二つの油室27,28に仕切り、シリンダチューブ21とピストン23の間に各油室27,28を連通する環状隙間24が画成され、ピストン23の外周面はシリンダチューブ21の内周面に対して全周に渡って非接触となっている。
【0028】そして本発明の要旨とするところであるが、油圧ダンパ20のシリンダチューブ21内に作動油として高粘度作動油、例えばシリコンオイルを充填する。シリコンオイルはジメチルポリシロキサン構造を持った合成油で、圧力を受けると粘度が急速に増加し、有機系オイルに比べて非常に大きな圧縮率を示す。シリコンオイルの圧縮率が高いため、油圧ダンパ20の内部にガス室等を設ける必要がなく、構造の簡素化がはかれる。
【0029】油圧ダンパ20が収縮するのに伴ってピストンロッド22の侵入体積分だけシリンダチューブ21内のシリコンオイルが圧縮され、シリンダチューブ21内の圧力が上昇する。これにより、図4に実線で示すように、油圧ダンパ20が静止状態で支持する荷重はストローク(収縮量)に応じて増大し、この荷重のストロークに対する増加率はシリコンオイルの圧縮比に応じて高まる。
【0030】油圧ダンパ20の収縮作動時に、環状隙間24を通るシリコンオイルが剪断と粘性抵抗を付与し、油圧ダンパ20の支持荷重が静特性の値より増大する。一方、油圧ダンパ20の伸張作動時に、環状隙間24を通るシリコンオイルが剪断と粘性抵抗を付与し、油圧ダンパ20の支持荷重が静特性の値より減少する。
【0031】以上のように構成され、車体に加わる荷重に応じて油圧ダンパ20がシリコンオイルを圧縮しながら収縮し、リンク3の傾きが決まる。車体に加わる荷重が大きい場合、油圧ダンパ20が収縮するのに伴ってシリコンオイルの圧力が急上昇することにより、キャスター1の沈み込みが抑えられ、リンク3の動きを確保できる。
【0032】車輪4が路面から受ける入力に応じて油圧ダンパ20が伸縮作動し、環状隙間24を通過するシリコンオイルの粘性抵抗が作動速度に応じて発生することにより、リンク3の揺動が有効に減衰される。
【0033】こうして、油圧ダンパ20が車体に加わる荷重を支持するスプリングの機能と、リンク3の振動を減衰するダンパ機能を果たすため、キャスター1の部品点数を削減し、コンパクト化がはかれる。
【0034】次に第2の実施の形態について説明する。
【0035】シリコンオイルが充填された油圧ダンパ20の開口端内面にねじ部21aを設け、ここにエンド部材29を螺合し、油室容積調整機構を構成する。この場合、エンド部材29をねじ部21aに沿って進退することができ、油室の容積を変更し、シリコンオイルの初期圧縮比を可変とすることができる。」
(え)(a)引用例1の上記記載及びその機能からすると、シリンダチューブ21のねじ部21aに螺合するエンド部材29と、エンド部材29とピストンロッド22の間に介装されたシールリング34は、シールリング34を軸方向に摺動自在に貫通したピストンロッド22と協同してシリンダチューブ21の一端を閉塞しており、その意味で、シリンダチューブ21のねじ部21aに螺合するエンド部材29と、エンド部材29とピストンロッド22の間に介装されたシールリング34は、シリンダチューブ21の開口する一端側を閉塞する閉塞手段(すなわち、一方の閉塞手段)を構成すると捉えることができる。
(b)引用例1の図3等をみると、シリンダチューブ21の一端側は開口してエンド部材29等が設けられている一方、その他端側は有底状であり、したがって、他端側にも閉塞手段(すなわち、他方の閉塞手段)が設けられているといえる。
(c)引用例1の【0035】等の「油室の容積を変更し、シリコンオイルの初期圧縮比を可変とすることができる。」の記載から、シリンダチューブ21内にはシリコンオイルが空隙なしに充填されていると共に、所定の圧力に加圧されているといえる。
(d)引用例1の「発明の名称」の欄、各請求項の末尾には「緩衝器付きキャスター」と記載されているが、【0004】には「キャスターに適した緩衝機構」と、また、【0006】には「第2の発明は、第1の発明における油圧ダンパとして、…」と記載されており、これらの記載からすると、引用例1には、キャスターに適した緩衝器(または緩衝機構、油圧ダンパ等)に係る発明が記載されているということができ、また、そのような発明を把握することができる。
以上の事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「一端側である開口端の内面にねじ部21aが設けられたシリンダチューブ21と、このシリンダチューブ21の開口端側に設けられた一方の閉塞手段と、シリンダチューブ21の他端側に設けられていると共にシリンダチューブ21の他端側を閉塞する他方の閉塞手段と、シリンダチューブ21内に空隙なしに充填されていると共に所定の圧力に加圧されたシリコンオイルと、一方の閉塞手段の内側に摺動可能に嵌合するピストンロッド22とを具備しており、シリンダチューブ21の内部に空隙なしに充填された可圧縮性のシリコンオイルは、一方の閉塞手段のシリンダチューブ21のねじ部21aへの螺入により所定に加圧されており、シリンダチューブ21のねじ部21aは、シリンダチューブ21の一端の内周面に形成された雌ねじからなり、シリンダチューブ21の開口端側に設けられた一方の閉塞手段は、シリンダチューブ21の一端の内周面に形成された雌ねじに螺合した雄ねじを外周面に有すると共に貫通孔を有した円筒状のエンド部材29と、エンド部材29とピストンロッド22の間に介装されたシールリング34とを具備しており、エンド部材29の貫通孔は、当該エンド部材29の軸方向の一方の端面において開口する一方の開口端と当該エンド部材29の軸方向の他方の端面において開口する他方の開口端とを有して軸方向に伸びており、ピストンロッド22は、その外周面でシールリング34の内周面に軸方向に摺動自在に接触してシールリング34を貫通しており、エンド部材29とシールリング34とは、シールリング34を軸方向に摺動自在に貫通したピストンロッド22と協同してシリンダチューブ21の一端を閉塞している、キャスターに適した緩衝器。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、
後者の「一端側である開口端の内面にねじ部21aが設けられたシリンダチューブ21」は前者の「少なくとも一端にねじ部を有した円筒状のシリンダ」に相当し、同様に、「シリンダチューブ21の他端側に設けられていると共にシリンダチューブ21の他端側を閉塞する他方の閉塞手段」は「シリンダの他端に設けられていると共にシリンダの他端を閉塞する他方の閉塞手段」に、「シリンダチューブ21内に空隙なしに充填されていると共に所定の圧力に加圧されたシリコンオイル」は「シリンダの内部に隙間なしに封入されていると共に所定の圧力に加圧された可圧縮性の液体」に、「一方の閉塞手段の内側に摺動可能に嵌合するピストンロッド22」は「一方の閉塞手段を軸方向に移動自在に貫通すると共にシリンダの内部への進入によりシリンダの内部の液体に圧力上昇を生じさせるロッド」に、「エンド部材29」は「閉塞部材」に、「シールリング34」は「シール部材」に、それぞれ相当する。
後者の「シリンダチューブ21の開口端側に設けられた一方の閉塞手段」と前者の「シリンダの一端のねじ部に螺合すると共にシリンダの一端を閉塞する一方の閉塞手段」は、「シリンダの一端を閉塞する一方の閉塞手段」という点で一致する。
引用例1の【0028】等には、シリコンオイルが可圧縮性である旨が記載されていること、同様に、【0033】等には、シリンダチューブ21、ピストンロッド22等からなる油圧ダンパ20が車体に加わる荷重を支持するスプリングの機能を果たす旨が記載されていること等からすると、後者の「キャスターに適した緩衝器」は「液体圧スプリング」に相当するといえる。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「少なくとも一端にねじ部を有した円筒状のシリンダと、このシリンダの一端を閉塞する一方の閉塞手段と、シリンダの他端に設けられていると共にシリンダの他端を閉塞する他方の閉塞手段と、シリンダの内部に隙間なしに封入されていると共に所定の圧力に加圧された可圧縮性の液体と、一方の閉塞手段を軸方向に移動自在に貫通すると共にシリンダの内部への進入によりシリンダの内部の液体に圧力上昇を生じさせるロッドとを具備しており、シリンダの内部に隙間なしに封入された可圧縮性の液体は、一方の閉塞手段のシリンダのねじ部への螺入により所定に加圧されており、シリンダのねじ部は、シリンダの一端の内周面に形成された雌ねじからなり、一方の閉塞手段は、シリンダの一端の内周面に形成された雌ねじに螺合した雄ねじを外周面に有すると共に貫通孔を有した円筒状の閉塞部材と、シール部材とを具備しており、閉塞部材の貫通孔は、当該閉塞部材の軸方向の一方の端面において開口する一方の開口端と当該閉塞部材の軸方向の他方の端面において開口する他方の開口端とを有して軸方向に伸びており、ロッドは、その外周面でシール部材の内周面に軸方向に摺動自在に接触してシール部材を貫通しており、閉塞部材とシール部材とは、シール部材を軸方向に摺動自在に貫通したロッドと協同してシリンダの一端を閉塞している液体圧スプリング。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明の「一方の閉塞手段」は、
「シリンダの一端のねじ部に螺合すると共にシリンダの一端を閉塞する一方の閉塞手段」であって、
「一方の閉塞手段は、シリンダの一端の内周面に形成された雌ねじに螺合した雄ねじを外周面に有すると共に貫通孔を有した円筒状の閉塞部材と、この閉塞部材の貫通孔を規定する内周面に固着された円筒状のシール部材とを具備しており、」、さらに、
「円筒状のシール部材は、貫通孔の一方の開口端から他方の開口端まで軸方向に伸びて当該貫通孔を規定する閉塞部材の内周面に固着されて」いるのに対し、
引用例1発明の「一方の閉塞手段」は、
「シリンダチューブ21の開口端側に設けられた一方の閉塞手段」であって、
「一方の閉塞手段は、シリンダチューブ21の一端の内周面に形成された雌ねじに螺合した雄ねじを外周面に有すると共に貫通孔を有した円筒状のエンド部材29と、エンド部材29とピストンロッド22の間に介装されたシールリング34とを具備して」いる点。
(4)判断
(4-1)相違点について
引用例1発明において、シリンダチューブ21内に充填されているシリコンオイルのシール性向上が望ましいことは当業者に自明であり、技術常識であって、シールリング34の形状・構造・材質等は、用途や使用環境等に応じた所要性能・特性を考慮して適宜設計する事項にすぎない。
緩衝器等において、ピストンロッドがシリンダ壁等の油室を画成する部材を貫通する部位のシールとして、該部材の貫通孔に沿って延びる円筒状のシール部材を設けたものは、例えば、特開平9-217775号公報(特に図1等のシール部材8)、実願平1-69996号(実開平3-12032号)のマイクロフィルム(特に第1図等のシール部材13)、特開平9-33822号公報(特に図9のパッキン11)、実願昭46-116900号(実開昭48-70089号)のマイクロフィルム(特に第1図のパッキング8)等に示されているように広く知られており、格別のものではない。シール性を考慮すると、円筒状のシール部材が上記部材の貫通孔の略一端から略他端まで延びていることが望ましいことは明らかであり、また、上記に例示した文献では、円筒状のシール部材はそのように描かれている。さらに、このような円筒状のシール部材が貫通孔内面に固定されるべきことは当然のことであり、また、技術合理的である。実際、上記に例示した実願平1-69996号(実開平3-12032号)のマイクロフィルム(特に明細書第7ページ第9?10行)、特開平9-33822号公報(特に第3ページ左欄第1?2行)には、その旨が記載されている。
引用例1発明のシールリング34として上記の周知のシール部材を採用することに格別の創作性・困難性があるとは認められない。そして、このようにしたとき、シール部材はエンド部材29に固定されているから、該シール部材とエンド部材29とを具備する「一方の閉塞手段」は、シリンダチューブ21の一端のねじ部21aに螺合するということができる。
(4-2)効果について
本願補正発明の効果についても、それは、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものではない。
(4-3)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成25年2月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年6月25日付け手続補正、及び平成24年10月5日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも一端にねじ部を有した円筒状のシリンダと、このシリンダの一端のねじ部に螺合すると共にシリンダの一端を閉塞する一方の閉塞手段と、シリンダの他端に設けられていると共にシリンダの他端を閉塞する他方の閉塞手段と、シリンダの内部に隙間なしに封入されていると共に所定の圧力に加圧された可圧縮性の液体と、一方の閉塞手段を軸方向に移動自在に貫通すると共にシリンダの内部への進入によりシリンダの内部の液体に圧力上昇を生じさせるロッドとを具備しており、シリンダの内部に隙間なしに封入された可圧縮性の液体は、一方の閉塞手段のシリンダのねじ部への螺入により所定に加圧されており、シリンダのねじ部は、シリンダの一端の内周面に形成された雌ねじからなり、一方の閉塞手段は、シリンダの一端の内周面に形成された雌ねじに螺合した雄ねじを外周面に有すると共に貫通孔を有した円筒状の閉塞部材と、この閉塞部材の貫通孔を規定する内周面に固着された円筒状のシール部材とを具備しており、ロッドは、その外周面でシール部材の内周面に軸方向に摺動自在に接触してシール部材を貫通しており、閉塞部材とシール部材とは、シール部材を軸方向に摺動自在に貫通したロッドと協同してシリンダの一端を閉塞している液体圧スプリング。」

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」にという。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、及び、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「閉塞部材の貫通孔は、当該閉塞部材の軸方向の一方の端面において開口する一方の開口端と当該閉塞部材の軸方向の他方の端面において開口する他方の開口端とを有して軸方向に伸びており、円筒状のシール部材は、貫通孔の一方の開口端から他方の開口端まで軸方向に伸びて当該貫通孔を規定する閉塞部材の内周面に固着されており、」という事項を削除して拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、実質的に同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-16 
結審通知日 2013-12-24 
審決日 2014-01-08 
出願番号 特願2007-8223(P2007-8223)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16F)
P 1 8・ 121- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 島田 信一
森川 元嗣
発明の名称 液体圧スプリング及びその製造方法  
代理人 高田 武志  

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