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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1285411
審判番号 不服2013-3438  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-22 
確定日 2014-03-05 
事件の表示 特願2008-513509「ポリオレフィン添加剤組成物のブレンド及び物品」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月30日国際公開、WO2006/127235、平成20年11月27日国内公表、特表2008-542470〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成18年5月5日(パリ条約による優先権主張 2005年5月24日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成23年10月20日付けで拒絶の理由が通知され、平成24年1月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年2月22日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成24年1月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面(以下、「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は、以下のとおりのものである。
「(a)ポリプロピレン樹脂、該ポリプロピレン樹脂はASTM1238-04で測定して少なくとも20のMFR値を有する;
(b)ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール;及び
(c)ジベンジリデンソルビトール
を含有し
前記ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールは、前記ポリプロピレン樹脂中に含まれるジベンジリデンソルビトールとビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールとの組合せの総質量に対して15乃至60質量%を有するポリオレフィン組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,次の理由2を含むものである。
理由2:本願発明1乃至4は、引用文献2(特開平7-278362号公報)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(審決注:以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-278362号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】 下記のA成分及びB成分を含有することを特徴とする核剤組成物。
A成分:1,3-O-3,4-ジメチルベンジリデン-2,4-O-ベンジリデンソルビトール及び/又は1,3-O-ベンジリデン-2,4-O-3,4-ジメチルベンジリデンソルビトール
B成分:ビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール
【請求項3】 更に、C成分として、1,3:2,4-ビス(O-ベンジリデン)ソルビトールを配合してなる核剤組成物。
【請求項5】 ポリオレフィン系樹脂及び請求項1?4の何れかの請求項に記載の核剤組成物を含有してなるポリオレフィン系樹脂組成物。」

(2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、核剤組成物及び当該核剤組成物を含有してなるポリオレフィン系樹脂組成物に関する。」

(3)「【0004】具体的には、1,3:2,4-ビス(O-ベンジリデン)ソルビトール(以下「DBS」と略称する。)を用いると、得られるポリオレフィン系樹脂成形物から得られる成形物の光学的特性、特にその透明性が大幅に改善され得るが、より高い透明性を必要とする分野に対しては充分その要望を満足するものではない。」

(4)「【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、より少ない配合量でポリオレフィン系樹脂に対する優れた透明化効果を有し、且つ250℃以下の低融点で、臭気の発生及び核剤組成物の未分散に起因するフィッシュアイが発生しない新規有用な核剤組成物並びに当該核剤組成物を配合してなるポリオレフィン系樹脂組成物を提供することを目的とする。」

(5)「【0016】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、ポリオレフィン系樹脂の核剤としての各種の対称型、非対称型のDBS化合物の置換基の位置、置換基の種類、置換基の数及びそれらの組み合わせと、それらの核剤特性について深く検討した結果、従来の核剤の組み合わせによる予測を越えて、特定の構造を有する非対称型DBS系化合物と特定の構造を有する対称型DBS系化合物との混合系のみが、他の単独系及び混合系と比較して特に際だった所定の効果、即ち、低融点で、少量添加で高活性な透明化核剤特性を示し、無臭性、低飛散性等の効果をポリオレフィン系樹脂に対して奏することを見いだし、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0017】即ち、本発明に係る核剤組成物は、下記の非対称型DBS系化合物(A成分)及び対称型DBS系化合物(B成分)、要すれば更に下記のC成分を含有することを特徴とする。
【0018】A成分:1,3-O-3,4-ジメチルベンジリデン-2,4-O-ベンジリデンソルビトール及び/又は1,3-O-ベンジリデン-2,4-O-3,4-ジメチルベンジリデンソルビトール
【0019】B成分:ビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール
【0020】C成分:DBS」

(6)「【0021】本発明によれば、次の如き優れた利点が達成される
・・・中略・・・
(2)結晶化温度の向上により成形サイクル時間が短縮される。
(3)上記本発明の核剤組成物の融点が低いため、低温での成形が可能であり、しかも、核剤の不完全な融解に基づくフィッシュアイの成形が防止される。
・・・中略・・・
(6)本発明樹脂組成物から得られる成形物は、透明性が大幅に向上している。
・・・後略・・・」

(7)「【0031】本発明に係る核剤が適用されるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂が例示され、より具体的には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、エチレン含量50重量%以上のエチレンコポリマー、プロピレンホモポリマー、プロピレン含量50重量%以上のプロピレンコポリマー、ブテンホモポリマー、ブテン含量50重量%以上のブテンコポリマー、メチルペンテンホモポリマー、メチルペンテン含量50重量%以上のメチルペンテンコポリマー、ポリブタジエン等が例示される。」

(8)「【0037】又、本発明に係る樹脂組成物を成形するに際しては、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、圧空成形、回転成形、フィルム成形等、従来公知の成形方法のいずれをも採用できる。」

(9)「【0044】製造例1
粉末ソルビット36.4g(0.2モル)、3,4-ジメチルベンズアルデヒド26.8g(0.2モル)、ベンズアルデヒド21.2g(0.2モル)、シクロヘキサン300ml、ジメチルホルムアミド20ml、濃硫酸0.7gをデカンター付き冷却器、温度計、ガス導入口、攪拌器を備えた3リットルの4ツ口フラスコに仕込み、系内を窒素置換する。攪拌しながら加熱して全系を70?80℃に保ちながら、縮合生成水を系外に留去する。反応を4時間で停止し、中和、水洗後、乾燥して、第1表に示される組成(ガスクロマトグラフィーによる。)を有する核剤組成物(核剤組成物1)を85%の収率で得た。
【0045】ちなみに、このときのA成分は1,3-O-3,4-ジメチルベンジリデン-2,4-O-ベンジリデンソルビトールと1,3-O-ベンジリデン-2,4-O-3,4-ジメチルベンジリデンソルビトールとの混合物(核剤A-1)であり、B成分はビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール(核剤B-1)である。又、C成分はDBS(核剤C)である。
【0046】実施例1
エチレン含有量3.0重量%のアイソタクチックランダムポリプロピレン樹脂(以下「ポリプロピレンA」と略記する。)に対し、製造例1で得た核剤組成物(核剤組成物1)、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(商品名、イルガノックス1010、チバ・ガイギー社製)及びステアリン酸カルシウムを下記の組成で加えて、5分間ヘンシェルミキサーにより混合し、次いで、245℃でラボプラストミル押出機により混練して押し出し、水冷法によりペレットを得た。このペレットを230℃で射出成形して、厚み1.5mmのシートを得て試料に供し、その特性を評価した。得られた結果を第2表に示す。
【0047】
ポリプロピレンA 100 重量部
核剤組成物1 0.2 重量部
イルガノックス1010 0.05重量部
ステアリン酸カルシウム 0.03重量部
【0048】実施例2?5
核剤組成物の構成成分である化合物を夫々別個に製造し、所定比率で調合することにより、第1表に表される組成を有する核剤組成物(核剤組成物2?5)を得、このものを配合した樹脂組成物の特性を実施例1に準じて評価した。得られた結果を第2表に示す。」

(10)「【0060】
【発明の効果】本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物は、最高度の透明性を有するばかりでなく、成形加工時における熱分解による臭気の発生も認められない。しかも、当該核剤組成物の融点は250℃以下と、従来の優秀な性能を有するDBS類の融点と比較して著るしく低いため、成形温度を低減することができる。」

(11)「【表1】



第5 引用文献に記載の発明
引用文献には、摘示(1)及び(2)より、「ポリオレフィン系樹脂並びにA成分、B成分およびC成分を配合してなる核剤組成物を含有してなるポリオレフィン系樹脂組成物」が記載されている。
そして、B成分はビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールであり(摘示(1))、C成分はDBSであり(摘示(1)、(3)及び(5))、ポリオレフィン系樹脂はポリプロピレン樹脂を含む(摘示(7)、(9))ことは明らかである。
さらに、摘示(11)より、実施例の核剤組成物である核剤組成物3は、B成分20重量%、C成分30重量%であるから、B成分は、B成分とC成分の総質量に対して40重量%(20*100/(20+30))である。
してみると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「(a)ポリプロピレン樹脂;
(b)ビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール;及び
(c)DBS
を含有し
前記ビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールは、前記ポリプロピレン樹脂中に含まれるDBSとビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールとの組合せの総質量に対して40質量%を有するポリオレフィン系樹脂組成物。」

第6 対比
引用発明の「ビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール」は、本願発明の「ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール」に相当し、引用発明の「DBS」は、本願発明の「ジベンジリデンソルビトール」に相当することは明らかである。また、引用発明の組成物は、ビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールは、前記ポリプロピレン樹脂中に含まれるDBSとビス(O-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールとの組合せの総質量に対して40質量%であり、本願発明が特定する15乃至60質量%の数値と重複一致している。
よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、本願発明の用語を用いて表現すると、以下のとおりである。

[一致点]
「(a)ポリプロピレン樹脂;
(b)ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール;及び
(c)ジベンジリデンソルビトール
を含有し
前記ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールは、前記ポリプロピレン樹脂中に含まれるジベンジリデンソルビトールとビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールとの組合せの総質量に対して15乃至60質量%を有するポリオレフィン組成物。」

[相違点]
本願発明は、ポリプロピレン樹脂がASTM1238-04で測定して少なくとも20のMFR値を有するのに対し、引用発明は、ポリプロピレン樹脂のMFRが特定されていない点。

第7 判断
引用発明の組成物を成形するに際しては、「射出成形、押し出し成形、ブロー成形、圧空成形、回転成形、フィルム成形等、従来公知の成形方法のいずれをも採用できる。」(摘示(8))ところ、成形品の成形方法、成形サイクル時間等によって好適な樹脂のMFRは変わるものである。
ここで、ポリプロピレン樹脂の成形において採用される樹脂のMFRとして、20以上のものを用いることは、通常に行われており(特開平9-194652号公報(原査定における引用文献1に同じ。)【表1】参照。)、かかる数値範囲にMFR値を特定することに格別の困難性があるとは認められない。
また、かかるMFR値の特定により奏される効果については、本願明細書等において、「減少された量の熱エネルギー及び減少された成形サイクル時間で低へイズの物品を製造を容易にする必要性がある。高MFR樹脂は粘稠性が低く、低温で処理できるので、高MFR樹脂に適用するのに有用な組成物も望ましい。」(段落【0011】)、「図2に示されたデータ及び表3は、かなり低い処理温度(約190度Cの配合温度及び約190度Cの成形温度)で操業するときに得られた。樹脂はビスブレーキングして粘度を減少した。グラム/10分で測定して50-60MFRを有した。ブレンドの仕込みは1800ppmであった。従って、樹脂は、図1において上述した通常方法に用いた樹脂より粘稠さが非常に少なかった。本発明は、製品の製造において減少したサイクル時間及び減少したエネルギー消費を容易にする。」(段落【0029】)との記載からみて、低ヘイズのものを減少された量の熱エネルギー及び減少された成形サイクル時間で得られ、エネルギー消費が少なくて済むということと解されるところ、引用文献にも成形サイクル時間の低減等について記載(摘示(6))されているように、エネルギー消費を少なくしようとすることは、周知の技術的事項にすぎず、そして、かかるMFR値の特定により、格別予期しがたい効果が奏されているとも認められない。
よって、相違点に係る本願発明の構成は、引用発明に基いて当業者が、容易に想到し得たものである。

第8 請求人の主張について
請求人は、「引用文献2(引用発明)は、…本願発明の必須かつ重要な要件である樹脂のMFR値を開示していない。 (b)成分と(c)成分との特定の配合割合での組合せが、高MFRの樹脂(a)成分に対して、意義ある技術的効果を発揮するのであり、これが本願発明である。」と主張する。
しかしながら、MFR値及びその技術的効果については、上記第7において検討したとおりである。
また、請求人は、「高MFR値の樹脂に対して比較的良好なクラリファイア(例えばジベンジリデンソルビトール)に、高MFRの樹脂に対して悪名高き劣性のクラリファイア(例えばビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール)を混合することにより、ヘイズが改良されることは、当業者といえども、全く予想ができないことであり、かつ、驚くべきことである。」とも主張する。
しかしながら、引用発明においても、「低融点で、少量添加で高活性な透明化核剤特性を示し」(摘示(5))、「本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物は、最高度の透明性を有する」(摘示(10))と記載されており、ヘイズの改良ということは引用発明も奏する効果である。
したがって、請求人の上記各主張を採用することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、原査定における拒絶の理由2により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-02 
結審通知日 2013-10-08 
審決日 2013-10-21 
出願番号 特願2008-513509(P2008-513509)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阪野 誠司柴田 昌弘  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 加賀 直人
蔵野 雅昭
発明の名称 ポリオレフィン添加剤組成物のブレンド及び物品  
代理人 河野 直樹  
代理人 峰 隆司  
代理人 岡田 貴志  
代理人 竹内 将訓  
代理人 中村 誠  
代理人 白根 俊郎  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 福原 淑弘  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 砂川 克  
代理人 佐藤 立志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 野河 信久  

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