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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G10L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G10L
管理番号 1285433
審判番号 不服2013-2106  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-04 
確定日 2014-03-25 
事件の表示 特願2009-539594「符号化方法、符号化器、および、コンピュータ読み取り可能な媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月14日国際公開、WO2009/059513、平成22年 4月15日国内公表、特表2010-511901、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年9月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年11月5日、中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成23年11月4日付けで拒絶理由が通知され、平成24年3月2日付けで手続補正がされたが、同年9月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年2月4日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされ、同年5月21日付けで当審より審尋がなされ、同年8月19日に回答書が提出されたものである。

第2 平成25年2月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
補正前の平成24年3月2日付け手続補正書の特許請求の範囲は、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
入力信号の特性パラメータを取得する過程と、
前記特性パラメータに従って、前記入力信号のタイプを判定する過程と、を有し、前記入力信号のタイプは周期的特性および白色雑音特性を含み、
前記特性パラメータに従って、量子化されるベクトルを取得する過程と、
前記入力信号のタイプが周期的特性であるとき第1類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行し、前記入力信号のタイプが白色雑音特性であるとき第2類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行する過程と、をさらに有し、前記第1類符号帳探索アルゴリズムの計算量は前記第2類符号帳探索アルゴリズムの計算量より少ない符号化方法。
【請求項2】
前記白色雑音特性のタイプを有する入力信号は、一般フレームおよび無声フレームのうち少なくとも1つを含み、
前記一般フレームまたは前記無声フレームによって使用される符号帳探索アルゴリズムは、深さ優先ツリー探索アルゴリズムである請求項1に記載の符号化方法。
【請求項3】
前記周期的特性のタイプを有する入力信号は、有声フレームおよび過渡フレームのうち少なくとも1つを含み、
前記有声フレームまたは前記過渡フレームによって使用される符号帳探索アルゴリズムは、パルス位置置換に基づく符号帳探索アルゴリズムである請求項1または2に記載の符号化方法。
【請求項4】
前記パルス位置置換に基づく符号帳探索アルゴリズムは、
M個のトラック上のN個のパルスの位置情報を含む基本符号帳を取得する過程を有し、NおよびMは正の整数であり、
探索パルスとしてn個のパルスを選択し、探索符号帳を取得するために、前記n個の探索パルスの位置情報を、それぞれ前記トラック上の他の位置情報と置換する過程をさらに有し、前記n個のパルスは前記N個のパルスの一部であり、nはNより小さい正の整数であり、
K回の探索処理を実行する過程をさらに有し、Kは2以上の正の整数であり、K回の探索処理のうち1つにおいて少なくとも2個以上の探索パルスが選択され、前記K回の探索処理の各々において選択される探索パルスは異なり、
予め設定された基準に従って前記基本符号帳および前記探索符号帳から最適符号帳を取得する過程をさらに有する請求項3に記載の符号化方法。
【請求項5】
前記探索パルスとしてn個のパルスを選択する過程は、
前記探索パルスとしてN_(S)個のパルスからn個のパルスを選択する過程を有し、前記N_(S)個のパルスは前記N個のパルスの全部または一部であり、N_(S)はN以下の正の整数であり、nはN_(S)より小さい正の整数であり、
前記基本符号帳において前記n個の探索パルス以外のパルスの位置を固定する過程をさらに有する請求項4に記載の符号化方法。
【請求項6】
前記探索パルスとしてN_(S)個のパルスからn個のパルスを選択する過程は、
2以上である値nを決定し、各探索処理において順次またはランダムに、重複のない全ての
【数1】
式(略)
個の可能な組み合わせのうち1つを選択する過程を有し、
【数2】
式(略)
である請求項5に記載の符号化方法。
【請求項7】
新たな基本符号帳として元の基本符号帳を前記最適符号帳と置換し、新たなN_(S)個のパルスとしての役割を果たすために、前記最適符号帳において固定された位置のパルスであって元のN_(S)個のパルスに属すパルスを取得し、次のラウンドの最適符号帳の探索を継続する過程と、
探索のラウンド番号Gが上限に到達するまで、前記元の基本符号帳を前記最適符号帳と置換する処理を繰り返す過程と、
をさらに有する請求項5に記載の符号化方法。
【請求項8】
前記基本符号帳を取得する過程は、
M個のトラックの各々に配分されるパルス数を取得する過程を有し、前記M個のトラック上にN個のパルスが存在し、
各トラック上の既知の基準信号のうちいくつかの極値に従って各トラックの集中探索範囲を決定する過程をさらに有し、前記集中探索範囲は前記トラック上の少なくとも1つの位置を含み、
前記M個のトラックの各々に配分されるパルス数に従ってM個の集中探索範囲において全ての探索を実行し、前記設定された評価基準に従って全ての位置の組み合わせから前記基本符号帳を選択する過程をさらに有する請求項5に記載の符号化方法。
【請求項9】
入力信号の特性パラメータを取得する特性パラメータ取得部と、
前記特性パラメータに従って、前記入力信号のタイプを判定する信号タイプ判定部と、を備え、前記入力信号のタイプは周期的特性および白色雑音特性を含み、
前記特性パラメータに従って、量子化されるベクトルを生成するベクトル生成部と、
第1類符号帳探索部および第2類符号帳探索部と、をさらに備え、各符号帳探索部は異なる符号帳探索アルゴリズムを提供し、前記第1類符号帳探索部によって提供される符号帳探索アルゴリズムの計算量は前記第2類符号帳探索部によって提供される符号帳探索アルゴリズムの計算量より少なく、
前記信号タイプ判定部によって判定された入力信号のタイプに対応する符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行する決定部をさらに備え、前記決定部は前記周期的特性を有するタイプによって第1類符号帳探索部を選択し、前記白色雑音特性を有するタイプによって第2類符号帳探索部を選択する符号化器。
【請求項10】
前記信号タイプ判定部によって判定された前記白色雑音特性のタイプを有する入力信号は、一般フレームおよび無声フレームのうち少なくとも1つを含み、
前記第2類符号帳探索部は深さ優先ツリー探索アルゴリズムを提供する深さ優先探索部を備え、
前記決定部は前記白色雑音特性を有するタイプによって前記第2類符号帳探索部を選択し、前記一般フレームまたは前記無声フレームによって前記深さ優先探索部を選択する請求項9に記載の符号化器。
【請求項11】
前記信号タイプ判定部によって判定された前記周期的特性のタイプを有する入力信号は、有声フレームおよび過渡フレームのうち少なくとも1つを含み、
前記第1類符号帳探索部はパルス位置置換に基づく符号帳探索アルゴリズムを提供するパルス置換探索部を備え、
前記決定部は前記周期的特性を有するタイプによって前記第1類符号帳探索部を選択し、前記有声フレームまたは前記過渡フレームによって前記パルス置換探索部を選択する請求項9または10に記載の符号化器。
【請求項12】
コンピュータによって実行されるとき、
入力信号の特性パラメータを取得する処理と、
前記特性パラメータに従って、前記入力信号のタイプを判定する処理と、を前記コンピュータに実行させ、前記入力信号のタイプは周期的特性および白色雑音特性を含み、
前記特性パラメータに従って、量子化されるベクトルを取得する処理と、
前記入力信号のタイプが周期的特性であるとき第1類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行し、前記入力信号のタイプが白色雑音特性であるとき第2類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行する処理と、を前記コンピュータに実行させ、前記第1類符号帳探索アルゴリズムの計算量は前記第2類符号帳探索アルゴリズムの計算量より少ないコンピュータプログラムコードを含むコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。」

一方、補正後の平成25年2月4日付け手続補正書の特許請求の範囲は、以下のとおりである。

(補正後)
「【請求項1】
入力信号の特性パラメータを取得する過程と、
前記特性パラメータに従って、前記入力信号のタイプを判定する過程と、を有し、前記入力信号のタイプは周期的特性および白色雑音特性を含み、
前記特性パラメータに従って、量子化されるベクトルを取得する過程と、
前記入力信号のタイプが周期的特性であるとき第1類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行し、前記入力信号のタイプが白色雑音特性であるとき第2類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行する過程と、をさらに有し、前記第1類符号帳探索アルゴリズムの計算量は前記第2類符号帳探索アルゴリズムの計算量より少ない符号化方法。
【請求項2】
前記白色雑音特性のタイプを有する入力信号は、一般フレームおよび無声フレームのうち少なくとも1つを含み、
前記一般フレームまたは前記無声フレームによって使用される符号帳探索アルゴリズムは、深さ優先ツリー探索アルゴリズムである請求項1に記載の符号化方法。
【請求項3】
前記周期的特性のタイプを有する入力信号は、有声フレームおよび過渡フレームのうち少なくとも1つを含み、
前記有声フレームまたは前記過渡フレームによって使用される符号帳探索アルゴリズムは、パルス位置置換に基づく符号帳探索アルゴリズムである請求項1または2に記載の符号化方法。
【請求項4】
前記パルス位置置換に基づく符号帳探索アルゴリズムは、
M個のトラック上のN個のパルスの位置情報を含む基本符号帳を取得する過程を有し、NおよびMは正の整数であり、
探索パルスとしてn個のパルスを選択し、探索符号帳を取得するために、前記n個の探索パルスの位置情報を、それぞれ前記トラック上の他の位置情報と置換する過程をさらに有し、前記n個のパルスは前記N個のパルスの一部であり、nはNより小さい正の整数であり、
K回の探索処理を実行する過程をさらに有し、Kは2以上の正の整数であり、K回の探索処理のうち1つにおいて少なくとも2個以上の探索パルスが選択され、前記K回の探索処理の各々において選択される探索パルスは異なり、
予め設定された基準に従って前記基本符号帳および前記探索符号帳から最適符号帳を取得する過程をさらに有する請求項3に記載の符号化方法。
【請求項5】
前記探索パルスとしてn個のパルスを選択する過程は、
前記探索パルスとしてN_(S)個のパルスからn個のパルスを選択する過程を有し、前記N_(S)個のパルスは前記N個のパルスの全部または一部であり、N_(S)はN以下の正の整数であり、nはN_(S)より小さい正の整数であり、
前記基本符号帳において前記n個の探索パルス以外のパルスの位置を固定する過程をさらに有する請求項4に記載の符号化方法。
【請求項6】
前記探索パルスとしてN_(S)個のパルスからn個のパルスを選択する過程は、
2以上である値nを決定し、各探索処理において順次またはランダムに、重複のない全ての
【数1】
式(略)
個の可能な組み合わせのうち1つを選択する過程を有し、
【数2】
式(略)
である請求項5に記載の符号化方法。
【請求項7】
新たな基本符号帳として元の基本符号帳を前記最適符号帳と置換し、新たなN_(S)個のパルスとしての役割を果たすために、前記最適符号帳において固定された位置のパルスであって元のN_(S)個のパルスに属すパルスを取得し、次のラウンドの最適符号帳の探索を継続する過程と、
探索のラウンド番号Gが上限に到達するまで、前記元の基本符号帳を前記最適符号帳と置換する処理を繰り返す過程と、
をさらに有する請求項5に記載の符号化方法。
【請求項8】
前記基本符号帳を取得する過程は、
M個のトラックの各々に配分されるパルス数を取得する過程を有し、前記M個のトラック上にN個のパルスが存在し、
各トラック上の既知の基準信号のうちいくつかの極値に従って各トラックの集中探索範囲を決定する過程をさらに有し、前記集中探索範囲は前記トラック上の少なくとも1つの位置を含み、
前記M個のトラックの各々に配分されるパルス数に従ってM個の集中探索範囲において全ての探索を実行し、前記設定された評価基準に従って全ての位置の組み合わせから前記基本符号帳を選択する過程をさらに有する請求項5に記載の符号化方法。
【請求項9】
入力信号の特性パラメータを取得する特性パラメータ取得部と、
前記特性パラメータに従って、前記入力信号のタイプを判定する信号タイプ判定部と、を備え、前記入力信号のタイプは周期的特性および白色雑音特性を含み、
前記特性パラメータに従って、量子化されるベクトルを生成するベクトル生成部と、
第1類符号帳探索部および第2類符号帳探索部と、をさらに備え、各符号帳探索部は異なる符号帳探索アルゴリズムを提供し、前記第1類符号帳探索部によって提供される符号帳探索アルゴリズムの計算量は前記第2類符号帳探索部によって提供される符号帳探索アルゴリズムの計算量より少なく、
前記信号タイプ判定部によって判定された入力信号のタイプに対応する符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行する決定部をさらに備え、前記決定部は前記周期的特性を有するタイプによって第1類符号帳探索部を選択し、前記白色雑音特性を有するタイプによって第2類符号帳探索部を選択する符号化器。
【請求項10】
前記信号タイプ判定部によって判定された前記白色雑音特性のタイプを有する入力信号は、一般フレームおよび無声フレームのうち少なくとも1つを含み、
前記第2類符号帳探索部は深さ優先ツリー探索アルゴリズムを提供する深さ優先探索部を備え、
前記決定部は前記白色雑音特性を有するタイプによって前記第2類符号帳探索部を選択し、前記一般フレームまたは前記無声フレームによって前記深さ優先探索部を選択する請求項9に記載の符号化器。
【請求項11】
前記信号タイプ判定部によって判定された前記周期的特性のタイプを有する入力信号は、有声フレームおよび過渡フレームのうち少なくとも1つを含み、
前記第1類符号帳探索部はパルス位置置換に基づく符号帳探索アルゴリズムを提供するパルス置換探索部を備え、
前記決定部は前記周期的特性を有するタイプによって前記第1類符号帳探索部を選択し、前記有声フレームまたは前記過渡フレームによって前記パルス置換探索部を選択する請求項9または10に記載の符号化器。
【請求項12】
コンピュータのプロセッサによって実行されるとき、請求項1に記載の方法を前記コンピュータのプロセッサに実行させるコンピュータプログラムコードを含むコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。」

2.補正の適否
本件補正は、独立形式であった補正前の請求項12を請求項1に従属する従属形式に変更して補正後の請求項12とするとともに、請求項12に記載した発明を特定するために必要な事項である「コンピュータ」について、「コンピュータのプロセッサ」との限定を付加するものであって、補正前の請求項12に記載された発明と補正後の請求項12に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
また、請求項1ないし11に記載された発明は補正されていない。
そこで、まず、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
A 原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-146599号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【請求項8】 入力した音声信号から一定時間ごとにスペクトルパラメータを求めて量子化するスペクトルパラメータ計算部と、前記スペクトルパラメータを用いて前記音声信号の音源信号を量子化して出力する音源量子化部とを有する音声符号化装置において、音源が複数個の非零のパルスから構成され、前記パルスの振幅をまとめて量子化するコードブックと、前記音声信号から特徴量を抽出してモードを判別するモード判別回路とを有し、あらかじめ前記モード判別回路の判別結果が予め定められたモードの場合に前記パルスの位置を少なくとも1セット分計算し、予め与えられた式の値を最大および最小のいずれか一方とする位置を持つセットの位置に対し前記コードブックを探索し、良好な位置のセットとコードベクトルとの組合せを選択することにより音源信号を量子化し、あらかじめ定められた他のモードでは、音源を複数個のパルスと音源コードブックから選択した音源コードベクトルの線形結合で表し、前記パルスと音源コードベクトルを探索して量子化することを特徴とする音源量子化部を有する音声符号化装置。」(2頁2欄)

ロ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は音声符号化装置に関し、特に音声信号を低いビットレートで高品質に符号化するための音声符号化装置に関する。」(3頁3欄)

ハ.「【0036】第8の発明では、モードにより音源信号を切替える。即ち、予め定められたモードでは、第6の発明と同様に、音源を複数個のパルスで表し、予め定められた他のモードでは、音源信号を複数個のパルスと音源コードブックから選択した音源コードベクトルとの線形結合で表す。例えば下式のように表せる。
【0037】式(6)(略)
【0038】ここで、c_(j)(n) は、音源コードブックに格納されているj番目の音源コードベクトルである。また、G_(1) ,G_(2) はそのぞれのゲインである。Rは音源コードブックのビット数である。」(6頁9?10欄)

ニ.「【0042】図1は本発明の第1の実施の形態を示すブロック図である。
【0043】本発明の第1の実施の形態の音声符号化装置1は、入力した音声信号を予め定める時間長のフレームに分割するフレーム分割回路2と、フレームの音声信号をフレームよりも短い時間長のサブフレームに分割するサブフレーム分割回路3と、フレーム分割回路2の出力する一連のフレームの音声信号を受信し少なくとも1つのサブフレームの音声信号に対してサブフレームの時間長よりも長い窓をかけて音声信号を切り出してスペクトルパラメータを予め定められた次数まで計算するスペクトルパラメータ計算回路4と、線スペクトル対パラメータコードブック(以下LSPコードブックと記す)6を用いてスペクトルパラメータ計算回路4の計算した予め定めるサブフレームで量子化したLSPパラメータをベクトル量子化するスペクトルパラメータ量子化回路5と、スペクトルパラメータ計算回路4の計算した複数のサブフレームの線形予測係数を受け各サブフレームの音声信号に対して聴感重み付けを行い聴感重み付け信号を出力する聴感重み付け回路7と、スペクトルパラメータ計算回路4の計算した複数のサブフレームの線形予測係数とスペクトルパラメータ量子化回路5が復元した線形予測係数とを、サブフレームごとに入力し、応答信号を1サブフレーム分計算し減算器8に出力する応答信号計算回路9と、スペクトルパラメータ量子化回路5が復元した線形予測係数を受け、聴感重み付けフィルタのインパルス応答を予め定める点数計算するインパルス応答計算回路10と、出力側から帰還する過去の音源信号と減算器8の出力信号と聴感重み付けフィルタのインパルス応答とを入力しピッチに対応する遅延を求め遅延を表すインテックスを出力する適応コードブック回路11と、音源を構成するパルスの振幅のパラメータの一方をまとめて量子化するための振幅コードブック13を用いて複数個の非零のパルスの他方のパラメータを求め量子化する音源量子化回路12と、ゲインコードブック15からゲインコードベクトルを読みだし振幅コードベクトルと位置とから1つのゲインコードベクトルを選択し、この選択したゲインコードベクトルを表すインデックスをマルチプレクサ16に出力するゲイン量子化回路14と、ゲイン量子化回路14の出力を入力しインデックスからこれに対応するコードベクトルを読みだし駆動音源信号を求める重み付け信号計算回路17とからなる。
【0044】次に本装置の動作について説明する。
【0045】まず、入力端子から音声信号を入力し、フレーム分割回路2では音声信号をフレーム(例えば 10ms)ごとに分割し、サブフレーム分割回路3では、フレームの音声信号をフレームよりも短いサブフレーム(例えば 2.5ms)に分割する。スペクトルパラメータ計算回路4では、少なくとも一つのサブフレームの音声信号に対して、サブフレーム長よりも長い窓(例えば 24ms )をかけて音声を切り出してスペクトルパラメータをあらかじめ定められた次数(例えば P=10 次)計算する。ここでスペクトルパラメータの計算には、周知のLPC分析や、バーグ(Burg)分析等を用いることができる。ここでは、バーグ(Burg)分析を用いることとする。バーグ(Burg)分析の詳細については、中溝著による”信号解析とシステム同定”と題した単行本(コロナ社1988年刊)の82?87頁(文献5)等に記載されているので説明は省略する。
【0046】さらにスペクトルパラメータ計算回路4では、バーグ(Burg)法により計算された線形予測係数α_(i)(i=1,…,10)量子化や補間に適したLSPパラメータに変換する。ここで、線形予測係数からLSPへの変換は、菅村他による”線スペクトル対(LSP)音声分析合成方式による音声情報圧縮”と題した論文(電子通信学会論文誌、J64-A、pp.599-606、1981年)(文献5)を参照することができる。例えば、第2,4サブフレームでバーグ(Burg)法により求めた線形予測係数を、LSPパラメータに変換し、第1,3サブフレームのLSPを直線補間により求めて、第1,3サブフレームのLSPを逆変換して線形予測係数に戻し、第1?4サブフレームの線形予測係数α_(il)(i=1, …,10,l=1,…,5) を聴感重み付け回路7に出力する。また、第4サブレームのLSPをスペクトルパラメータ量子化回路5に出力する。
【0047】スペクルパラメータ量子化回路5では、LSPレコードブック6を用いてあらかじめ定められたサブフレームのLSPパラメータを効率的に量子化し、下式の歪みを最小化する量子化値を出力する。
【0048】式(7)(略)
【0049】ここで、LSP(i), QLSP(i)_(j),W(i)はそれぞれ、量子化前のi次目のLTP,LSPコードブック6のコードベクトルのj番目の結果、重み係数である。
【0050】以下では、第4サブフレームのLSPパラメータを量子化するものとする。LSPパラメータのベクトル量子化の手法は周知の手法を用いることができる。具体的な方法は例えば、特開平4?171500号公報(文献6)あるいは特開平4?363000号公報(文献7)や、特開平5?6199号公報(文献8)や、ティー・ノムラ(T.Nomura)等によるアイイーイーイー・プロシーディングス.モバイル・マルチメディア・コミュニケーションズ(IEEE Proc.Mobile Multimedia Communications.)1993年、B.2.5頁にエルエスピー・コーディング・ユージング・ブイキュー-エスブイキュー・ウイズ・インターポウレーション・イン・4.075・ケービーピーエス・エム-エルシーイーエルピー・スピーチ・コーダー (LSP Coding Using VQ-SVQ With Interpolation in 4.075 kbps M-LCELP Speech Coder) と題した論文(文献9)等を参照できるのでここでは説明は略する。
【0051】また、スペクトルパラメータ量子化回路5では、第4サブフレームで量子化したLSPパラメータをもとに、第1?第4サブフレームのLSPパラメータを復元する。ここでは、現フレームの第4サブフレームの量子化LSPパラメータと1つ過去のフレームの第4サブフレームの量子化LSPを直線補間して、第1?第3サブフレームのLSPを復元する。ここで、量子化前のLSPと量子化後のLSPとの誤差電力を最小化するコードベクトルを1種類選択した後に、直線補間により第1?第4サブフレームのLSPを復元できる。さらに性能を向上させるためには、誤差電力を最小化するコードベクトルを複数候補選択したのちに、各々の候補について、累積歪を評価し、累積歪を最小化する候補と補間LSPの組を選択するようにすることができる。詳細は、例えば、特願平5?8737号明細書(文献10)を参照することができる。
【0052】以上により復元した第1ー3サブフレームのLSPと第4サブフレームの量子化LSPをサブフレームごとに線形予測係数α'_(il)(i=1,…,10, l=,…,5) に変換し、インパルス応答計算回路10に出力する。また、第4サブフレームの量子化LSPのコードベクトルを表すインデクスをマルチプレクサ16に出力する。聴感重み付け回路7は、スペクトルパラメータ計算回路4から、各サブフレームごとに量子化前の線形予測係数α_(il) (i=1,…,10, l=,…,5) を入力し、文献1にもとづき、サブフレームの音声信号に対して聴感重み付けを行い、聴感重み付け信号を出力する。
【0053】応答信号計算回路9は、スペクトルパラメータ計算回路4から、各サブフレームごとに線形予測係数α_(il)を入力し、スペクトルパラメータ量子化回路5から、量子化、補間して復元した線形予測係数α'_(il )をサブフレームごとに入力し、保存されているフィルタメモリの値を用いて、入力信号を零d(n)=0とした応答信号を1サブフレーム分計算し、減算器8に出力する。ここで、応答信号xz(n) は下式で表される。
【0054】式(8)(略)
【0055】但し、n-i ≦ 0のときは
y(n-i)=p(N+(n-i)) (9)
x_(z)(n-i)=s_(w)(N+(n-i)) (10)
ここでNはサブフレーム長を示す。γは、聴感重み付け量を制御する重み係数であり、下記の式(12)と同一の値である。s_(w)(n) ,p(n)は、それぞれ、重み付け信号計算回路17の出力信号、後述の式(12)における右辺第1項のフィルタの分母の項の出力信号をそれぞれ示す。
【0056】減算器8は、下式により、聴感重み付け信号から応答信号を1サブフレーム分減算し、x'w(n)を適応コードブック回路11に出力する。
x'_(w)(n)=x_(w)(n)-x_(z)(n) (11)
インパルス応答計算回路10は、z 変換が下式で表される聴感重み付けフィルタのインパルス応答 h_(w)(n)をあらかじめ定められた点数Lだけ計算し、適応コードブック回路11と音源量子化回路12とゲイン量子化回路14とに出力する。
【0057】式(12)(略)
【0058】適応コードブック回路11では、ゲイン量子化回路14からは過去の音源信号v(n)を、減算器8からは出力信号x'_(w)(n)を、インパルス応答計算回路10からは聴感重み付けインパルス応答 h_(w)(n)を入力する。ピッチに対応する遅延Tを下式の歪みを最小化するように求め、遅延を表すインデクスをマルチプレクサ16に出力する。
【0059】式(13)(略)
【0060】ここで、
y_(w)(n-T)=v(n -T)*h_(w)(n) (14)
であり、記号*は畳み込み演算を表す。ゲインβを下式に従い求める。
【0061】式(15)(略)
【0062】ここで、女性音や、子供の声に対して、遅延の抽出精度を向上させるために、遅延を整数サンプルではなく、小数サンプル値で求めてもよい。具体的な方法は、例えば、ピー・クルーン(P.Kroon) 等によるアイイーイーイー・プロシーディングス(IEEE Proc.)ICASSP-90,1990年、661?664頁にピッチ・プリディクターズ・ウイズ・ハイ・テンポラル・ソリューション(Pitch predictors with high temporal resolution)と題して発表した論文(文献11)等を参照することができる。
【0063】さらに、適応コードブック回路11では下式に従いピッチ予測を行ない、予測残差信号ew(n) を音源量子化回路12に出力する。
e_(w)(n) =x'_(w)(n)- βv(n-T)*h_(w)(n) (16)
音源量子化回路12では、作用で述べたように、M個のパルスをたてるものとする。以下では、パルスの振幅をMパルス分まとめて量子化するために、Bビットの振幅コードブック13を有しているものとして説明する。
【0064】音源量子化回路12は、振幅コードブック13から振幅コードベクトルを読みだし、各コードベクトルに対してすべての位置をあてはめ、下式を最小化するコードベクトルと位置の組合せを選択する。
【0065】式(17)(略)
【0066】ここで、h_(w)(n) は、聴感重み付けインパルス応答である。
【0067】式(16)を最小化するには、下式を最大化する振幅コードベクトルkと位置miの組合せを求めれば良い。
【0068】式(18)(略)
【0069】ここで、s_(wk)(m_(i)) は式(5) で計算される。また別法としては、下式を最大化するように選択しても良い。この方が分子に計算に要する演算量が低減化される。
【0070】式(19)(略)
【0071】ここで
【0072】式(20)(略)
【0073】である。
【0074】そして、コードベクトルを表すインデクスをマルチプレクサ16に出力する。さらに、パルスの位置をあらかじめ定められたビット数で量子化し、位置を表すインデクスをマルチプレクサ16に出力する。
【0075】パルスにおける位置の探索法は、前述の文献3に記された方法や、例えば、ケー・オザワ(K.Ozawa) 氏らによるアイイーイーイー・ジャーナル・オブ・セレクテッド・エリア・オン・コミュニケーションズ(IEEE Journal of Selected Areas on Communications.),1986年、133?141頁にア・スタディー・オン・パルス・サーチ・アルゴリズムズ・フォー・マルチパルス・エキサイト・スピーチ・コーダ・リアリゼーション(A study on pulse searchalgorithms for multipulse excited speech coder realization.)と題した論文(文献12)等を参照できる。
【0076】また、複数パルスの振幅を量子化するためのコードブックを、音声信号を用いて予め学習して格納しておくこともできる。コードブックの学習法は、例えば、リンデ(Linde) 氏らによるアイイーイーイー・トランザクション・コミュニケーションズ(IEEE Trans. Commun.), January, 1980年、84?95頁にアン・アルゴリズム・フォー・ベクトル・クアンティゼイション・デザイン(An algorithmfor vector quantization design,)と題した論文(文献13)等を参照できる。
【0077】振幅、位置の情報はゲイン量子化回路14に出力される。ゲイン量子化回路14は、ゲインコードブック15からゲインコードベクトルを読みだし、選択された振幅コードベクトルと位置に対して、下式を最小化するようにゲインコードベクトルを選択する。ここでは、適応コードブックのゲインとパルスで表した音源のゲインの両者を同時にベクトル量子化する例について示す。
【0078】式(21)(略)
【0079】ここで、β't,G't は、ゲインコードブック15に格納された2次元ゲインコードブックにおけるk番目のコードベクトルである。選択されたゲインコードベクトルを表すインデクスをマルチプレクサ16に出力する。
【0080】重み付け信号計算回路17は、それぞれのインデクスを入力し、インデクスからそれに対応するコードベクトルを読みだし、まず下式にもとづき駆動音源信号v(n)を求める。
【0081】式(22)(略)
【0082】v(n)は適応コードブック回路11に出力される。
【0083】次に、スペクトルパラメータ計算回路4の出力パラメータ、スペクトルパラメータ量子化回路5の出力パラメータを用いて下式により、応答信号s_(w)(n) をサブフレームごとに計算し、応答信号計算回路9に出力する。
【0084】式(23)(略)」(6頁9欄?9頁16欄)

ホ.「【0094】図4は本発明の第4の実施の形態を示すブロック図である。
【0095】第4の実施の形態である音声符号化装置24が、第1の実施の形態と異なる点は、音源量子化回路25が、文献12や文献3の方法により、あらかじめ定められた個数Mのパルスの位置を複数セット分計算する。ここでは、簡単のために、M個の位置を2セット分計算するものとする。
【0096】まず第1セットの位置に対して、振幅コードブック25から振幅コードベクトルを読みだし、式(18)または(19)を最大化する振幅コードベクトルを選択し、下式により、第1の歪みD_(1)を計算する。次に、第2セットの位置に対して振幅コードブック25から振幅コードベクトルを読みだし、上記と同様の処理を繰り返し、第2の歪みD_(2)を計算する。次に、第1と第2の歪みを比較し、より小さい方の歪みを与える位置と振幅コードベクトルの組合せを選択する。ここで、歪みの定義は下式に従う。
【0097】式(27)(略)
【0098】そして、位置と振幅コードベクトルを表すインデクスをマルチプレクサ16に出力する。」(9頁15?16欄)

ヘ.「【0101】図6は本発明の第6の実施の形態を示すブロック図である。
【0102】第6の実施の形態である音声符号化装置29が、第4の実施の形態と異なる点は、モード判別回路31を新たに設ける点である。モード判別回路31は、聴感重み付け回路7からフレーム単位で聴感重み付け信号を受取り、モード判別情報を音源量子化回路30に出力する。ここでは、モード判別に、現在のフレームの特徴量を用いる。特徴量としては、例えば、フレームで平均したピッチ予測ゲインを用いる。ピッチ予測ゲインの計算は、例えば下式を用いる。
【0103】式(28)(略)
【0104】ここで、Lはフレームに含まれるサブフレームの個数である。Pi 、Ei はそれぞれ、i番目のサブフレームでの音声パワー、ピッチ予測誤差パワーを示す。
【0105】式(29)(略)
式(30)(略)
【0106】ここで、Tは予測ゲインを最大化する最適遅延である。
【0107】フレーム平均ピッチ予測ゲインGをあらかじめ定められた複数個のしきい値と比較して複数種類のモードに分類する。モードの個数としては、例えば4を用いることができる。モード判別回路31は、モード判別情報を音源量子化回路30とマルチプレクサ16とに出力する。音源量子化回路30は、モード判別情報を入力し、モード判別情報が予め定められたモードを示す場合に、図4の音源量子化回路と同一の処理を行う。」(10頁17?18欄)

ト.「【0110】図8は本発明の第8の実施の形態を示すブロック図である。
【0111】第8の実施の形態である音声符号化装置34が、第6の実施の形態と異なる点は、ゲインコードブック35,36の2組とし、音源コードブック37を新たに設ける点である。音源量子化回路38は、モードに応じて音源を切替える。即ち、予め定められたモードでは、第6の実施の形態の音源量子化回路30と同一の動作を行い、音源を複数パルスから構成し、パルスの位置と振幅コードベクトルの組合せを求める。また、予め定められた別のモードでは、作用で説明したように、音源を、複数パルスと音源コードブック37から選択した音源コードベクトルとの線形結合により構成し、式(5) のように表す。そして、パルスの振幅と位置を探索した後に、最適な音源コードベクトルを探索する。ゲイン量子化回路39は、モードに応じて音源に対応して、ゲインコードブック1とゲインコードブック2を切替える。」(10頁17?18欄)

上記刊行物1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ト.の【0111】における「第8の実施の形態である音声符号化装置34が、第6の実施の形態と異なる点は、ゲインコードブック35,36の2組とし、音源コードブック37を新たに設ける点である。」との記載、上記ヘ.の【0102】における「第6の実施の形態である音声符号化装置29が、第4の実施の形態と異なる点は、モード判別回路31を新たに設ける点である。」との記載、上記ホ.の【0095】における「第4の実施の形態である音声符号化装置24が、第1の実施の形態と異なる点は、音源量子化回路25が、文献12や文献3の方法により、あらかじめ定められた個数Mのパルスの位置を複数セット分計算する。」との記載、上記ニ.の【0043】における「本発明の第1の実施の形態の音声符号化装置1は、・・・フレーム分割回路2と、・・・サブフレーム分割回路3と、・・・スペクトルパラメータ計算回路4と、・・・スペクトルパラメータ量子化回路5と、・・・聴感重み付け回路7と、・・・減算器8・・・応答信号計算回路9と、・・・インパルス応答計算回路10と、・・・適応コードブック回路11と、・・・振幅コードブック13・・・音源量子化回路12と、・・・ゲイン量子化回路14と、・・・重み付け信号計算回路17とからなる。」との記載、図1、図4、図6及び図8によれば、音声符号化装置(34)は、フレーム分割回路(2)、サブフレーム分割回路(3)、スペクトルパラメータ計算回路(4)、スペクトルパラメータ量子化回路(5)、聴感重み付け回路(7)、減算器(8)、応答信号計算回路(9)、インパルス応答計算回路(10)、適応コードブック回路(11)、音源量子化回路(12、25、30、38)、振幅コードブック(13、26、)、ゲイン量子化回路(14、39)、重み付け信号計算回路(17)、モード判別回路(31)、音源コードブック(37)を備えている。
また、上記イ.の【請求項8】における「入力した音声信号から一定時間ごとにスペクトルパラメータを求めて量子化するスペクトルパラメータ計算部と、前記スペクトルパラメータを用いて前記音声信号の音源信号を量子化して出力する音源量子化部とを有する音声符号化装置において、音源が複数個の非零のパルスから構成され、前記パルスの振幅をまとめて量子化するコードブックと、前記音声信号から特徴量を抽出してモードを判別するモード判別回路とを有し」との記載によれば、前述の音声符号化装置(34)のモード判別回路(31)は、音声信号から特徴量を抽出してモードを判別している。すなわち、(α)音声信号の特徴量を抽出し、(β)特徴量に従って、音声信号のモードを判別している。
また、上記ト.の【0111】における「第8の実施の形態である音声符号化装置34が、第6の実施の形態と異なる点は、ゲインコードブック35,36の2組とし、音源コードブック37を新たに設ける点である。音源量子化回路38は、モードに応じて音源を切替える。即ち、予め定められたモードでは、第6の実施の形態の音源量子化回路30と同一の動作を行い、音源を複数パルスから構成し、パルスの位置と振幅コードベクトルの組合せを求める。また、予め定められた別のモードでは、作用で説明したように、音源を、複数パルスと音源コードブック37から選択した音源コードベクトルとの線形結合により構成し、式(5) のように表す。そして、パルスの振幅と位置を探索した後に、最適な音源コードベクトルを探索する。」との記載、及び図8によれば、前述の音声符号化装置(34)の音源量子化回路(38)は、予め定められたモードでは、音源を複数パルスから構成し、パルスの位置と振幅コードベクトルの組合せを求め、予め定められた別のモードでは、音源を、複数パルスと音源コードブック(37)から選択した音源コードベクトルとの線形結合により構成している。ここで、上記ホ.の【0096】における「振幅コードブック26から振幅コードベクトルを読み出し」との記載によれば、振幅コードベクトルは、振幅コードブック(26)を探索し読み出していることは明らかである。すなわち、前述の音声符号化装置(34)の音源量子化回路(38)は、(γ)音源を、予め定められたモードであるときパルス位置と振幅コードブック(26)を探索し読み出した振幅コードベクトルにより構成し、予め定められた別のモードであるとき複数パルスと音源コードブック(37)を探索し読み出した音源コードベクトルとの線形結合により構成している。

したがって、上記(α)ないし(γ)を過程と捉え、音声符号化方法として纏めると、上記刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「音声信号の特徴量を抽出する過程と、
前記特徴量に従って、前記音声信号のモードを判別する過程と、
音源を、予め定められたモードであるときパルス位置と振幅コードブック(26)を探索し読み出した振幅コードベクトルにより構成し、予め定められた別のモードであるとき複数パルスと音源コードブック(37)を探索し読み出した音源コードベクトルとの線形結合により構成する過程と、を有する音声符号化方法。」

B 原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第01/20595号(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

チ.「技術分野
本発明は4kbit/s以下の低ビットレートで音声を符号化/復号化する音声符号化及び音声復号化装置に係わり、特に、A-b-S(Analysis-by-Synthesis)型ベクトル量子化を用いて低ビットレートで音声を符号化/復号化する音声符号化及び音声復号化装置に関する。CELP(Code Excited Linear Predictive Coding:符号駆動線形予測符号化)に代表されるA-b-S型の音声符号化方式は、デジタル移動体通信、企業内通信システムなどにおいて、音声品質を保ちつつ高い情報圧縮効率を実現する方式として期待されている。」(1頁3?10行)

リ.「図7は音声符号化装置の第2実施例の構成図であり、図6の第1実施例と同一部分には同一符号を付している。第1実施例では、各モードにおいて適応符号帳探索/代数符号帳探索を実行し、誤差が小さい方のモードを最終的に使用するモードと判定し、該モードで求めたピッチラグLag_opt、代数符号帳インデックスIndex_C、ゲインインデックスIndex_gを選択して復号器に伝送した。しかし、第2実施例では、探索前に入力信号の性質を調べ、その性質に応じてどちらのモードを採用するかを決定し、採用した一方のモードで適応符号帳探索/代数符号帳探索を実行して符号化する。第2実施例において第1実施例と異なる点は、
(1)モード判定部31を設け、符号帳探索前に入力信号xの性質を調べ、その性質に応じてどちらのモードを採用するかを決定する点、
(2)モード出力選択部32を設け、採用されたモードに応じた符号部14,15の出力を選択して重み付けフィルタ13bに入力する点、
(3)重み付けフィルタ(W(z))13b、LPC合成フィルタ(H(z))13a、誤差電力評価部18を各モードに共通に設けている点、
(4)出力情報選択部20がモード判定部31から入力するモード情報に基づいて復号器に送出する情報を選択して送出する点、
である。
モード判定部31は入力信号ベクトルxが入力すると、入力信号xの性質を調べ、該性質に応じてモード0とモード1のどちらを採用するかを示すモード情報を生成する。モード0が最適と判定すれば、モード情報は0となり、モード1が最適と判定すればモード情報は1となる。この判定結果に基づいて、モード出力選択部32は第1の符号部14あるいは第2の符号部15の出力を選択する。モード判定の方法としては、開ループラグの変化を検出する方法を用いることができる。図8は入力信号の性質に基づいて採用するモードを判定する処理フローである。まず、入力信号x(n)(n=0,...,N-1)を用いて次式
式(25)(略)
により自己相関関数R(k)(k=20?143)を求める(ステップ101)。ここでNは1フレームを構成するサンプル数である。
ついで、自己相関関数R(k)が最大となる時のラグkを求める(ステップ102)。自己相関関数R(k)が最大となる時のラグkを開ループラグと称し、Lで表す。また、前フレームで同様にして求めた開ループラグをL_oldと記す。しかる後、前フレームの開ループラグL_oldと現フレームの開ループラグLの差(L_old-L)を求め(ステップ103)、(L_old-L)が予め決めた閾値よりも大きければ、入力音声の周期性は大きく変化したと見なしモード情報を0に設定する。一方、(L old-L)が閾値よりも小さければ、入力音声の周期性は前フレームに比べてか変化していないと見なしモード情報を1に設定する(ステップ104)。以後、フレーム毎に上記処理を繰り返す。尚、モード判定終了後は、次フレームでのモード判定のために、現フレームで求めた開ループラグLをL_oldとして保持しておく。
モード出力選択部32は、モード情報が0であれば端子0を選択し、モード情報が1であれば端子1を選択する。従って、第1実施例のように、同一フレームで2つのモードが同時に動作することはない。
モード判定部31によりモード0が設定されると、第1の符号部14は適応符号帳14a及び代数符号帳14bの探索を行った後、ゲイン量子化器14hでピッチゲインβ0と代数符号帳ゲインγ0の量子化を実行する。この時、モード1に応じた第2の符号部は動作しない。
一方、モード判定部31によりモード1が設定されると、第2の符号部15は適応符号帳探索を行わず、過去のフレーム(例えば前フレーム)で求めた最適ピッチラグlag_oldを現フレームの最適ラグともみなし、その時の最適ピッチゲインβ1を求める。ついで、第2の符号部15は代数符号帳15bを用いて代数符号帳探索を行い、誤差電力が最小となるパルス性信号を特定する最適インデックスI1、と最適ゲインγ1を決定する。ついで、ゲイン量子化器15hはピッチゲインβ1と代数符号帳ゲインγ1の量子化を実行する。この時、モード0側の第1の符号部14は動作しない。
第2実施例によれば、符号帳探索前に入力信号の性質に基づいて、いずれのモードで符号化するか決定し、該モードで符号化して出力するため、第1実施例のように2つのモードで符号化して良い方を選択する必要がないため、処理量を削減でき、高速処理が可能である。」(18頁22行?20頁22行)

ヌ.「9. 適応符号帳及び代数符号帳を用いて音声信号を符号化する音声符号化方法において、
音声信号を所定速度でサンプリングした入力信号を一定サンプル数(=N)のフレーム単位で線形予測分析して線形予測係数を求め、該線形予測係数を用いて合成フィルタを構成し、
過去Lサンプル分の音声信号のピッチ周期成分を保存し、1ピッチ遅延したNサンプル分の周期性信号を順次出力するための適応符号帳を設けると共に、
1フレームを構成するNサンプル点を複数のパルス系統グループに分割し、各パルス系統グループから1つのサンプル点を取り出してなる全組み合わせについて、各サンプル点で正極性あるいは負極性のパルスを有するパルス性信号を雑音成分として順次出力する第1の代数構造符号帳と、第1の代数構造符号帳に比べパルス系統グループ数を多くした第2の代数構造符号帳を設け、
(1)入力信号の周期性が低ければ、
適応符号帳より1ピッチ順次遅延して得られるNサンプル分の周期性信号で前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となる周期性信号を特定するピッチラグを求め、
該ピッチラグにより特定される周期性信号と第1の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、
前記ピッチラグ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力し、
(2)入力信号の周期性が高ければ、
過去のフレームで求めたピッチラグを現フレームのピッチラグとし、
該ピッチラグにより特定される周期性信号と第2の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、
ピッチラグは過去のピッチラグと同じである旨を示すデータ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力する、
ことを特徴とする音声符号化方法。
10. 前記第2の代数構造符号帳として、
1フレームを構成するNサンプル点を複数のパルス系統グループに分割し、各パルス系統グループから1つのサンプル点を取り出してなる全組み合わせについて、各サンプル点で正極性あるいは負極性のパルスを有するパルス性信号を雑音成分として順次出力するための第3の代数構造符号帳と、1フレーム期間より短い期間に含まれるMサンプル点を、第3の代数構造符号帳より多いパルス系統グループに分割し、各パルス系統グループから1つのサンプル点を取り出してなる全組み合わせについて、各サンプル点で正極性あるいは負極性のパルスを有するパルス性信号を雑音成分として順次出力するための第4の代数構造符号帳を設け、
過去のフレームで求めた前記ピッチラグがMより大きいとき第3の代数構造符号帳を使用し、第2のピッチラグがM以下のとき第4の代数構造符号帳を使用して、前記合成フィルタから出力する再生信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定する、
ことを特徴とする請求項9記載の音声符号化方法。
11. 入力信号を一定長のフレームに分割し、フレーム単位で入力信号を線形予測分析して得られる線形予測係数から構成される合成フィルタを有し、適応符号長から出力される周期性信号と、代数構造符号帳から出力されるパルス性信号とにより前記合成フィルタを駆動して再生信号を生成し、入力信号と前記再生信号との誤差が最小となるように符号化する音声符号化方法において、
現フレームの入力信号から求めたピッチラグを用いる符号化モード1と、過去のフレームの入力信号から求めたピッチラグを用いる符号化モード2を用意し、
符号化モード1と符号化モード2により符号化した場合、入力信号をより精密に符号化できるモードをフレーム毎に決定し、
該決定されたモードに基づいて符号化する、
ことを特徴とする音声符号化方法。」(32頁18行?34頁14行)

上記刊行物2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ヌ.における「適応符号帳及び代数符号帳を用いて音声信号を符号化する音声符号化方法において、・・・1フレームを構成するNサンプル点を複数のパルス系統グループに分割し、各パルス系統グループから1つのサンプル点を取り出してなる全組み合わせについて、各サンプル点で正極性あるいは負極性のパルスを有するパルス性信号を雑音成分として順次出力する第1の代数構造符号帳と、第1の代数構造符号帳に比べパルス系統グループ数を多くした第2の代数構造符号帳を設け、(1)入力信号の周期性が低ければ、適応符号帳より1ピッチ順次遅延して得られるNサンプル分の周期性信号で前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となる周期性信号を特定するピッチラグを求め、該ピッチラグにより特定される周期性信号と第1の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、前記ピッチラグ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力し、(2)入力信号の周期性が高ければ、過去のフレームで求めたピッチラグを現フレームのピッチラグとし、該ピッチラグにより特定される周期性信号と第2の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、ピッチラグは過去のピッチラグと同じである旨を示すデータ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力する、ことを特徴とする音声符号化方法。」との記載、及び第7図によれば、音声符号化方法は、(1)入力信号の周期性が低ければ、適応符号帳より1ピッチ順次遅延して得られるNサンプル分の周期性信号で前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となる周期性信号を特定するピッチラグを求め、該ピッチラグにより特定される周期性信号と第1の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、前記ピッチラグ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力し、(2)入力信号の周期性が高ければ、過去のフレームで求めたピッチラグを現フレームのピッチラグとし、該ピッチラグにより特定される周期性信号と第2の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、ピッチラグは過去のピッチラグと同じである旨を示すデータ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力している。

したがって、上記刊行物2には、以下の発明(以下、「技術事項1」という。)が記載されているものと認められる。

「(1)入力信号の周期性が低ければ、適応符号帳より1ピッチ順次遅延して得られるNサンプル分の周期性信号で前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となる周期性信号を特定するピッチラグを求め、該ピッチラグにより特定される周期性信号と第1の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、前記ピッチラグ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力し、(2)入力信号の周期性が高ければ、過去のフレームで求めたピッチラグを現フレームのピッチラグとし、該ピッチラグにより特定される周期性信号と第2の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、ピッチラグは過去のピッチラグと同じである旨を示すデータ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力する音声符号化方法。」

C 原査定の拒絶の理由に引用された特表2006-504123号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ル.「【背景技術】
【0003】
本発明は、一般には電気通信技術に関し、より詳細には、コード励振線形予測(CELP)モデルパラメータの高速マッピング方法および装置に関する。単に一例としてだが、本発明は、あるCELPコーダ/デコーダ(コーデック)から別のCELPコーデックへの音声トランスコーディングに適用されてきたが、適用範囲がより広いことは明らかであろう。
【0004】
コード励振線形予測(CELP)方式の音声コーディング技術は、音声コーデックに広く用いられている。このようなコーデックは、音声信号をソースフィルタモデルとしてモデル化する。変換元/励振信号は、適応および固定コードブックを介して生成され、フィルタは短期線形予測コーダ(LPC)によりモデル化される。次に、エンコードされた音声は、フィルタ係数および励振タイプを特定する一組のパラメータにより表される。CELPコーデックのパラメータには、線スペクトル対(LSP)パラメータ、適応コードブックパラメータ、および固定コードブックパラメータが含まれる。」(8頁18?32行)

ヲ.「【0085】
図15は、本発明の一実施形態による高速パルス位置検索モジュールの概略図である。この図は単なる一例であり、本発明の範囲を不当に制限するものではない。また、多くの変形、代替、および修正形態があることは、当業者には明らかであろう。高速パルス位置検索モジュール1500には、トラック選択モジュール1510、単一トラックパルス検索モジュール1520、ターゲット更新モジュール1530、ターゲット処理モジュール1540、およびバッファモジュール1580が含まれる。例えば、この高速パルス位置検索モジュール1500は、高速パルス位置検索モジュール1440として用いられる。以上は、種々のモジュールを用いて示したものであるが、多くの代替、修正および変形形態が可能である。例えば、いくつかのモジュールを拡張しても良いし、統合しても良い。また、他のモジュールを上記のモジュール間に入れても良い。実施形態に応じて、特定のモジュールを他と置き換えても良い。これらのモジュールに関するより詳細な内容については、本明細書を通して説明がある。
【0086】
トラック選択モジュール1510はオプションであり、パルスやトラックを特定の次数で検索できるように調整できる。例えば、トラックのパルスを最大振幅サンプルあるいは最大エネルギで最初に設定することが望ましい。単一トラックパルス検索モジュール1520は、入力として、修正ターゲット信号1550、A(n)、とトラック数tとを受け、サブフレーム内の候補パルス位置を定義し、P_(t)個の最大サンプルの位置決めをする。ターゲット更新モジュール1530は、P_(t)個のパルスをインパルス応答信号1560、h(n)、で振動させ、利得をg_(est)で調整することにより、現在のトラックにあるP_(t)個のパルスの音声ドメイン寄与分を決定する。ACELPでは、パルスは振幅が+1か-1かの単純なインパルスなので、パルスの音声ドメイン寄与分は、単純に、選ばれた位置にあり、かつ利得が調整されたP_(t)個のインパルスの合計である。この寄与分が、固定コードブック・ターゲット信号1460、x_(2)(n)、から差し引かれる。ターゲット処理モジュール1540では、この結果をインパルス応答信号1560と相関させることで、別の修正ターゲット信号1570が生成される。この修正ターゲット信号1570は、トラック選択モジュール1510への入力として、また、より一層処理するために、修正ターゲット信号1550として単一トラックパルス検索モジュール1520への入力として用いることができる。バッファモジュールは、検索されたトラックの位置と符号とを保存し、全てのトラックが検索されると、サブフレーム内の全パルスの位置と符号とを出力する。
【0087】
音声コーディングの標準規格に応じて、フォワードパルス、およびバックワードパルス、あるいはそのいずれか一方による増進効果を含んでもよい。
【0088】
【数15】(15式)(略)
【0089】
【数16】(16式)(略)
【0090】
本発明の実施形態の検索アルゴリズムでは、P_(t)個のパルスが一度に単一トラックで検索されるので、コーデックの標準規格が容認すれば、同じ位置にある複数のパルスに対する制約が修正されてもよい。また、トラック中の全パルスよりも、繰り返し処理それぞれで1つのパルス位置を選択するだけのために、このアルゴリズムを修正してもよい。」(23頁3行?24頁1行)

上記刊行物3の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ヲ.における「単一トラックパルス検索モジュール1520は、入力として、修正ターゲット信号1550、A(n)、とトラック数tとを受け、サブフレーム内の候補パルス位置を定義し、P_(t)個の最大サンプルの位置決めをする。ターゲット更新モジュール1530は、P_(t)個のパルスをインパルス応答信号1560、h(n)、で振動させ、利得をg_(est)で調整することにより、現在のトラックにあるP_(t)個のパルスの音声ドメイン寄与分を決定する。ACELPでは、パルスは振幅が+1か-1かの単純なインパルスなので、パルスの音声ドメイン寄与分は、単純に、選ばれた位置にあり、かつ利得が調整されたP_(t)個のインパルスの合計である。この寄与分が、固定コードブック・ターゲット信号1460、x_(2)(n)、から差し引かれる。ターゲット処理モジュール1540では、この結果をインパルス応答信号1560と相関させることで、別の修正ターゲット信号1570が生成される。この修正ターゲット信号1570は、トラック選択モジュール1510への入力として、また、より一層処理するために、修正ターゲット信号1550として単一トラックパルス検索モジュール1520への入力として用いることができる。バッファモジュールは、検索されたトラックの位置と符号とを保存し、全てのトラックが検索されると、サブフレーム内の全パルスの位置と符号とを出力する。」との記載、及び高速パルス位置検索モジュールの概略図である図15によれば、高速パルス位置検索モジュール(1500)は、修正ターゲット信号(1550)、A(n)、とトラック数tとを受け、サブフレーム内の候補パルス位置を定義し、P_(t)個の最大サンプルの位置決めをし、P_(t)個のパルスをインパルス応答信号(1560)、h(n)、で振動させ、利得をg_(est)で調整することにより、現在のトラックにあるP_(t)個のパルスの音声ドメイン寄与分を決定し、この寄与分を固定コードブック・ターゲット信号(1460)、x_(2)(n)、から差し引き、この結果をインパルス応答信号(1560)と相関させることで、別の修正ターゲット信号(1570)が生成し、この修正ターゲット信号(1570)は、トラック選択モジュール(1510)への入力として、また、修正ターゲット信号(1550)として単一トラックパルス検索モジュール(1520)への入力として用い、バッファモジュールは、検索されたトラックの位置と符号とを保存し、全てのトラックが検索されると、サブフレーム内の全パルスの位置と符号とを出力している。

したがって、高速パルス位置検索モジュール(1500)の動作を高速パルス位置検索方法として捉えると、上記刊行物3には、以下の発明(以下、「技術事項2」という。)が記載されているものと認められる。

「修正ターゲット信号(1550)、A(n)、とトラック数tとを受け、サブフレーム内の候補パルス位置を定義し、P_(t)個の最大サンプルの位置決めをし、P_(t)個のパルスをインパルス応答信号(1560)、h(n)、で振動させ、利得をg_(est)で調整することにより、現在のトラックにあるP_(t)個のパルスの音声ドメイン寄与分を決定し、この寄与分を固定コードブック・ターゲット信号(1460)、x_(2)(n)、から差し引き、この結果をインパルス応答信号(1560)と相関させることで、別の修正ターゲット信号(1570)が生成し、この修正ターゲット信号(1570)は、トラック選択モジュール(1510)への入力として、また、修正ターゲット信号(1550)として単一トラックパルス検索モジュール(1520)への入力として用い、バッファモジュールは、検索されたトラックの位置と符号とを保存し、全てのトラックが検索されると、サブフレーム内の全パルスの位置と符号とを出力する高速パルス位置検索方法。」

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「音声信号の特徴量を抽出する」は、上記刊行物1の上記ヘ.の【0102】における「モード判別回路31は、聴感重み付け回路7からフレーム単位で聴感重み付け信号を受取り、モード判別情報を音源量子化回路30に出力する。ここでは、モード判別に、現在のフレームの特徴量を用いる。特徴量としては、例えば、フレームで平均したピッチ予測ゲインを用いる。」との記載によれば、音声信号(入力信号)の特徴量は、例えば、ピッチ予測ゲインであり、音声信号(入力信号)の特性を表す変数(パラメータ)といえ、これを抽出(取得)するから、「入力信号の特性パラメータを取得する」ということができる。
b.引用発明の「モードを判別する」は、上記a.の対比を考慮すると、引用発明の「モード」は、例えば、ピッチ予測ゲインの大小のようなものであって、この類型(タイプ)を判別(判定)するから、「タイプを判定する」ということができる。
c.引用発明の「音源を、予め定められたモードであるときパルス位置と振幅コードブック(26)を探索し読み出した振幅コードベクトルにより構成し、予め定められた別のモードであるとき複数パルスと音源コードブック(37)を探索し読み出した音源コードベクトルとの線形結合により構成する」と、本願発明の「前記入力信号のタイプが周期的特性であるとき第1類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行し、前記入力信号のタイプが白色雑音特性であるとき第2類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行する」とは、引用発明の「振幅コードブック(26)を探索」及び「音源コードブック(37)を探索」は、それぞれ「コードブック(符号帳)探索」といえ、また、上記b.の対比を考慮すると、いずれも、「第1の特定のモードであるとき第1の特定の符号帳探索を実行し、第2の特定のモードであるとき第2の特定の符号帳探索を実行する」という点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「入力信号の特性パラメータを取得する過程と、
前記特性パラメータに従って、前記入力信号のタイプを判定する過程と、を有し、
第1の特定のモードであるとき第1の特定の符号帳探索を実行し、第2の特定のモードであるとき第2の特定の符号帳探索を実行する過程と、をさらに有する符号化方法。」

(相違点1)
「入力信号のタイプ」に関し、
本願発明は、「前記入力信号のタイプは周期的特性および白色雑音特性を含む」のに対し、引用発明は、その様な特定がない点。

(相違点2)
本願発明は、「前記特性パラメータに従って、量子化されるベクトルを取得する過程」を有するのに対し、引用発明は、その様な構成を備えない点。

(相違点3)
「第1の特定のモードであるとき第1の特定の符号帳探索を実行し、第2の特定のモードであるとき第2の特定の符号帳探索を実行する」に関し、
本願発明は、「前記入力信号のタイプが周期的特性であるとき第1類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行し、前記入力信号のタイプが白色雑音特性であるとき第2類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行する」のに対し、引用発明は、「音源を、予め定められたモードであるときパルス位置と振幅コードブック(26)を探索し読み出した振幅コードベクトルにより構成し、予め定められた別のモードであるとき複数パルスと音源コードブック(37)を探索し読み出した音源コードベクトルとの線形結合により構成する」点。

(相違点4)
上記相違点3における「第1類符号帳探索アルゴリズム」及び「第2類符号帳探索アルゴリズム」の関係に関し、
本願発明は、「前記第1類符号帳探索アルゴリズムの計算量は前記第2類符号帳探索アルゴリズムの計算量より少ない」のに対し、引用発明は、その様な特定がない点。

(判断)
(1)請求項1について
上記相違点1ないし4について検討する。
引用発明は、(音声信号の)「特徴量に従って、前記音声信号のモードを判別する」ものの、そもそも、「入力信号のタイプ」を「周期的特性」又は「白色雑音特性」のいずれかのタイプに判定していない。また、「振幅コードブック(26)」及び「音源コードブック(37)」を備え、「予め定められたモード」及び「予め定められた別のモード」で、「振幅コードブック(26)」及び「音源コードブック(37)」の符号帳探索をそれぞれの符号化処理の一部に使っているに過ぎず、入力信号の特性パラメータに従って適切な探索アルゴリズムを選択すること、すなわち、共通した単一の符号帳において、「周期的特性であるとき第1類符号帳探索アルゴリズムを用いて」、また「白色雑音特性であるとき第2類符号帳探索アルゴリズムを用いて」いるものではない。
そうすると、上記相違点1ないし4における補正発明の発明特定事項である、「前記入力信号のタイプは周期的特性および白色雑音特性を含む」点、「前記特性パラメータに従って、量子化されるベクトルを取得する」点、「前記入力信号のタイプが周期的特性であるとき第1類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行し、前記入力信号のタイプが白色雑音特性であるとき第2類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行する」点、「前記第1類符号帳探索アルゴリズムの計算量は前記第2類符号帳探索アルゴリズムの計算量より少ない」点を、引用発明から導き出すことはできない。
また、上記技術事項1には、「入力信号の周期性が低ければ、・・・該ピッチラグにより特定される周期性信号と第1の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、前記ピッチラグ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力し、(2)入力信号の周期性が高ければ、・・・該ピッチラグにより特定される周期性信号と第2の代数構造符号帳から順次出力するパルス性信号とで前記合成フィルタを駆動して得られる信号と前記入力信号との差が最小となるパルス性信号を特定し、ピッチラグは過去のピッチラグと同じである旨を示すデータ、前記パルス性信号を特定するデータ、前記線形予測係数を音声符号として出力する音声符号化方法。」の開示がある。しかしながら、上記技術事項1の符号帳は、入力信号の周期性が低い場合と入力信号の周期性が高い場合に応じて、2種類の第1の代数構造符号帳と第2の代数構造符号帳が用意されているもので、共通した単一の符号帳ではなく、入力信号の特性パラメータに従って適切な探索アルゴリズムを選択すること、すなわち、「入力信号のタイプが周期的特性であるとき第1類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行し、前記入力信号のタイプが白色雑音特性であるとき第2類符号帳探索アルゴリズムを用いて、前記量子化されるベクトルについて符号帳探索を実行する」ものではないから、引用発明に上記技術事項1を採用する動機づけを見いだすことができない。
また、上記技術事項2は、入力信号の特性パラメータに従って適切な探索アルゴリズムを選択することの開示も示唆もないから、引用発明に上記技術事項2を採用する動機づけを見いだすことができない。

そして、本願発明は、上記発明特定事項を備えることによって、入力信号の特性に従って適切な探索アルゴリズムが選択されるので、簡単な計算によって十分な結果が得られる、あるタイプの信号が、これらの信号タイプに適した計算量の少ない探索アルゴリズムと合致し、より少ないシステム資源を用いてより良い性能を達成し、多量の計算を必要とする他のタイプの信号は、より洗練された探索アルゴリズムによって処理され、それによって符号化の品質を保証することが可能となるという作用効果を奏するものである。

したがって、本願発明は、引用発明、技術事項1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)請求項2ないし8及び12について
請求項2ないし8及び12は、請求項1に従属する請求項であり、本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(1)と同じ理由により、引用発明、技術事項1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)請求項9について
請求項9は、本願発明である「符号化方法」のカテゴリーを装置とし、「符号化器」としたものであり、本願発明の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記(1)と同じ理由により、引用発明、技術事項1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)請求項10及び11について
請求項10及び11は、請求項9に従属する請求項であり、本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(1)と同じ理由により、引用発明、技術事項1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし12に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-07 
出願番号 特願2009-539594(P2009-539594)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G10L)
P 1 8・ 575- WY (G10L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山下 剛史  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 萩原 義則
酒井 伸芳
発明の名称 符号化方法、符号化器、および、コンピュータ読み取り可能な媒体  
代理人 佐伯 義文  
代理人 木内 敬二  

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