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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1285691
審判番号 不服2013-18308  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-24 
確定日 2014-04-01 
事件の表示 特願2006-217439「半導体基板並びに電極の形成方法及び太陽電池の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月21日出願公開、特開2008- 42095、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年8月9日の出願であって、平成24年1月5日付けの拒絶理由通知に対して、同年2月20日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月25日付けの最後の拒絶理由通知に対して、同年11月30日に意見書が提出されたが、平成25年6月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月24日に拒絶査定を不服とする審判の請求がなされたものである。


第2.本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1ないし請求項6に係る発明は、平成24年2月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載されている事項によって特定される、以下のとおりのものと認められる。

「 【請求項1】
少なくとも、電極が形成された半導体基板であって、前記電極は二層以上の多層構造を有するものであり、前記多層構造のうち、少なくとも前記半導体基板に直接接合する第一電極層は、少なくとも、銀と、ガラスフリットとを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Si、Al、Ge、Sn、Pb、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有するものであり、前記第一電極層上に形成される電極層のうち、少なくとも配線と接合される最表層の電極層は、少なくとも銀とガラスフリットとを含有し、前記添加物を含有しないものであり、前記配線とハンダで接合されていることを特徴とする半導体基板。
【請求項2】
前記少なくとも第一電極層に含有される添加物の含有量が1wt%以上15wt%未満であることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体基板であって、該半導体基板は、pn接合を有し、前記電極は表面電極であり、該表面電極側に反射防止膜を具備し、裏面側に裏面電極を具備するものであり、太陽電池として動作するものであることを特徴とする半導体基板。
【請求項4】
少なくとも、銀粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルと、有機溶媒とを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Si、Al、Ge、Sn、Pb、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有する導電性ペーストを、半導体基板上に塗布し、加熱して第一電極層を形成する工程と、該第一電極層より上に、少なくとも銀粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルと、有機溶媒とを含有し、前記添加物を含有しない導電性ペーストを塗布し、加熱して、配線とハンダで接合される最表層の電極層を形成する工程とを有することを特徴とする電極の形成方法。
【請求項5】
前記少なくとも第一電極層を形成する導電性ペーストに含有される前記添加物の含有量を1wt%以上15wt%未満とすることを特徴とする請求項4に記載の電極の形成方法。
【請求項6】
少なくとも、pn接合を有する半導体基板の表面側に反射防止膜を形成する工程と、該反射防止膜部分に表面電極を形成する工程と、裏面側に裏面電極を形成する工程とを含む太陽電池の製造方法であって、少なくとも前記表面電極の形成は、請求項4または請求項5に記載の電極の形成方法により形成することを特徴とする太陽電池の製造方法。」

(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明1」という。また、本願の請求項2ないし請求項6に係る発明を、それぞれ、「本願発明2」ないし「本願発明6」という。)

2.原査定の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願の請求項1ないし請求項6に係る発明は、平成24年9月25日付けの最後の拒絶理由通知で引用された刊行物である、特開2001-313400号公報、特開昭59-167056号公報、特開2004-235276号公報にそれぞれ記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用例及び引用発明
(1)引用例1の記載事項と引用発明
ア.本願の出願前に日本国内において頒布され、前記最後の拒絶理由通知において「引用文献1」として引用された刊行物である特開2001-313400号公報(以下「引用例1」という。)には、「太陽電池素子の形成方法」(発明の名称)について、図1とともに、以下の事項が記載されている(下線は、参考のため、当審において付したもの。以下、他の刊行物についても同様。)。

a.「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は太陽電池素子の形成方法に関し、特に反射防止膜に電極材料を焼き付けて形成する太陽電池素子の形成方法に関する。」

b.「【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】シリコン基板を用いて太陽電池素子を形成する場合、まずシリコン基板の切断面を清浄化するために表面をエッチングする。
【0003】次に、シリコン基板上に反射防止膜として850Å程度の厚みを有する窒化シリコン膜または酸化シリコン膜などを形成し、この窒化シリコン膜または酸化シリコン膜における電極形成部を除去して、この部分にペースト状にした銀を主成分とする電極材料などを印刷して600?900℃程度の温度で焼き付けることにより、電極を形成していた。この電極材料としては、0.1?2μm程度の粒径を有する銀粉末100重量部に対して、10?30重量部の有機ビヒクル、0.1?5重量部のガラスフリットから成るペースト状の電極材料などを用いていた。
……(中略)……
【0005】一方、反射防止膜の電極形成部の除去を行わずに、ペースト状の電極材料を反射防止膜上に印刷してそのまま焼き付ける方法も提案されている。すなわち、反射防止膜上に印刷塗布したペースト状の電極材料を加熱溶融させると同時に、その電極材料の下部に位置する反射防止膜材料も溶融させて、この電極材料とシリコン基板を接触させてこの電極材料とシリコンとのオーミック接触を得ようとするものである。
【0006】ところが、反射防止膜の電極形成部の除去を行わずに、ペースト状の電極材料を反射防止膜上に印刷してそのまま焼き付けた場合、安定したオーミック接触が得られず、電極の接着強度もモジュール化に耐えるに充分なものは得られなかった。」

c.「【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係る太陽電池素子の形成方法によれば、一導電型を呈する半導体基板の一主面側に他の導電型を呈する領域を形成すると共に、この半導体基板の一主面側に反射防止膜を形成し、この反射防止膜上と前記半導体基板の他の主面側に銀粉末、有機ビヒクル、およびガラスフリットから成る電極材料を焼き付ける太陽電池素子の形成方法において、前記反射防止膜上に焼き付ける電極材料が、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr成分のうちのいずれか一種または複数種を含有することを特徴とする。
【0009】上記太陽電池素子の形成方法では、前記Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr粉末またはその酸化物粉末のいずれか一種または複数種を前記電極材料中の銀100重量部に対して金属換算で0.05?5重量部含有することが望ましい。」

d.「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明を添付図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の太陽電池素子の形成方法を示す図である。まず、半導体基板1を用意する(図1(a)参照)。この半導体基板lは、単結晶又は多結晶シリコンなどから成る。
……(中略)……
【0015】次に、シリコン基板lを拡散炉中に配置して、オキシ塩化リン(POCl_(3))などの中で加熱することによって、ウェハー1の表面部分にリン原子を拡散させてシート抵抗が30?300Ω/□の他の導電型を呈する領域1aを形成し、半導体接合部3を形成する(図1(b)参照)。
……(中略)……
【0017】次に、シリコン基板1の一主面側に反射防止膜2を形成する(図1(d))。この反射防止膜2は例えば窒化シリコン膜などから成り、例えばシラン(SiH_(4))とアンモニア(NH_(4))との混合ガスをグロー放電分解でプラズマ化させて堆積させるプラズマCVD法などで形成される。この反射防止膜2は、シリコン基板1との屈折率差などを考慮して、屈折率が1.8?2.3程度になるように形成され、厚み500?1000Å程度の厚みに形成される。この窒化シリコン膜は、形成の際にパッシベート効果があり、反射防止機能と併せて太陽電池の電気特性を向上させる効果がある。
【0018】次に、裏面電極材料4を塗布して乾燥した後、表面電極材料5を塗布して乾燥する(図1(e))。この電極材料4、5は、銀と有機ビヒクルとガラスフリットを銀100重量部に対してそれぞれ10?30重量部、0.1?5重量部を添加してぺ一スト状にしたものをスクリーン印刷法で印刷して、600?800℃で1?30分程度焼成することにより焼き付けられる。
【0019】この際に用いられる有機ビヒクルは粉末状のものをペースト状にするために用いられる樹脂であり、例えばセルロース系、アクリル系のものがある。これらは400℃程度で分解、揮散するため、焼成後の電極にはその成分は残らない。また、ガラスフリットは焼き付けた電極に強度を持たすために用いられる。ガラスフリットは、鉛、ホウ素、珪素等を含み、300?600℃程度の種々の軟化点をもつものがあるが、焼成後一部は電極中に残り、一部はシリコンに作用するために電極とシリコン基板間を接着する機能を持つ。
【0020】この電極材料5はTi、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr成分のいずれか1つ、または2つ以上を銀100重量部に対して0.05?5重量部含有することが望ましい。これらの成分は、金属粉末、酸化物粉末、あるいは焼成によってこれらを析出し得る有機金属化合物の形でペースト中に含有される。
【0021】前記成分は焼成中に、ガラスフリットに作用してその一部が溶け込む。その後、この混合体が窒化シリコン膜または酸化シリコン膜に作用する。この作用は前記成分が含有されないときと比べてより安定的に反応し、その結果コンタクト性及び接着強度を向上させる。
【0022】このTi、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Crの含有量が0.05重量部以下では十分な強度が得られない。また、5重量部以上では電極材料の線抵抗が増大する。
【0023】これらの成分を金属粉末や酸化物粉末などの粉末の形で配合する場合、平均粒径が0.1?5μmの範囲のものを用いることが望ましい。この粉末の平均粒径が0.1μm以下の場合は電極材料中での分散性が悪くなり、電極の十分な接着強度(引っ張り強度)を得られない。平均粒径が5μm以上の場合にはスクリーン印刷性(線切れ、線幅の均一性)が悪くなり、電極の十分な接着強度を得られない。なお、この場合の平均粒径はレーザー回折散乱法や光透過式遠心沈降法や音響法や拡散法等で定義されるもののいずれの場合にも当てはまる。
【0024】なお、裏面電極材料4は、電極材料5と同一の材料である必要はないが、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr成分を願油させると接着強度が大きくくなるので好ましい。
【0025】また、この裏面電極4と表面電極5は、必要に応じて半田などで被覆される。」

e.「【0027】
【実施例】比抵抗が1.5Ωcmのシリコン基板の一主面側に、Pを1×10^(17)atoms/cm^(3)拡散させ、反射防止膜として厚み850Åの窒化シリコン膜を形成した。その後、前記粉末を添加しない銀ペーストと、平均粒径1μmの酸化チタン粉末を銀100重量部に対して金属換算で0.04重量部?5.5重量部を含有するペーストを700℃で焼き付けて、太陽電池素子の電気特性と電極部の強度を測定した。同様に、銀100重量部に対して平均粒径1μmの酸化ビスマス、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化クロムのそれぞれの粉末を金属換算で0.04重量部?5.5重量部を含有するペーストを700℃で焼き付けて、太陽電池素子の電気特性(電流強度、開放電圧、曲線因子、変換効率)と電極部の引張強度を測定した。強度の測定は銅箔を半田により電極部に取りつけ、これを垂直方向に引き上げた際に銅箔が剥がれるか、またはセルが破壊されるまでの重量をみた。その結果を表1に示す。また、同様な実験を前記粉末または酸化物粉末の平均粒径が0.05μmのものを用いた場合にはその含有量に拘わらず、充分な強度が得られなかった。前記粉末または酸化物粉末の平均粒径が5μmを越えた場合にはその含有量に拘わらず、スクリーン印刷の際に線切れが多く発生して充分な電気特性が得られなかった。
……(中略)……
【0029】前記各粉末の含有により電極強度の向上およびオーミック接触の改善がみられた。表1に示すように、含有なしの引っ張り強度は0.15kg、電気特性は13.20%であった。酸化チタン粉末の0.05?5.00重量部では引っ張り強度は0.22?0.68kg、電気特性(変換効率)は13.26?13.49%であった。酸化ビスマス粉末の0.05?5.00重量部では引っ張り強度は0.20?0.41kg、電気特性は13.18?13.28%であった。酸化コバルト粉末の0.05?5.00重量部では引っ張り強度は0.23?0.35kg、電気特性は13.29?13.52%であった。酸化亜鉛粉末の0.05?5.00重量部では引っ張り強度は0.24?0.39kg、電気特性は13.29?13.54%であった。酸化ジルコニウム粉末の0.05?5.00重量部では引っ張り強度は0.20?0.31kg、電気特性は13.16?13.35%であった。酸化鉄粉末の0.05?5.00重量部では引っ張り強度は0.22?0.28kg、電気特性は13.18?13.30%であった。酸化クロム粉末の0.05?5.00重量部では引っ張り強度は0.27?0.33kg、電気特性は13.19?13.43%であった。この結果から電気特性のコンタクト性(曲線因子)が安定し、電極の接着強度もモジュール化に耐えるに充分なものが得られるようになった。」

イ.前記アのa?eの記載を総合すれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「リン原子を拡散させてn型を呈する領域1aを形成したシリコン基板1の一主面側に、窒化シリコン膜などから成る反射防止膜2を形成する工程と、
銀に、有機ビヒクル、ガラスフリット、及び、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Crのいずれか1つまたは2つ以上を酸化物粉末の形で添加してぺ一スト状にした表面電極材料を、前記反射防止膜2上に、塗布して乾燥させ、さらに、焼成することにより焼き付けて、前記領域1aにオーミック接触する表面電極5を形成する工程と、
前記表面電極5を半田などで被覆する工程と、
を有することを特徴とする太陽電池素子の表面電極の形成方法。」

ウ.そうすると、引用例1には、引用発明1の「方法」をシリコン基板に対して使用することで得られる物についての、次の発明(以下「引用発明2」という。)も記載されていると認められる。

「表面電極5が形成されたシリコン基板1であって、
前記シリコン基板1のn型を呈する領域1aにオーミック接触し、銀に、少なくとも、ガラスフリット、及び、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Crのいずれか1つまたは2つ以上の酸化物が添加された表面電極5と、
前記表面電極5を被覆する半田などと、
を備えることを特徴とする太陽電池素子の表面電極が形成されたシリコン基板1。」

(2)引用例2の記載事項
ア.本願の出願前に日本国内において頒布され、前記最後の拒絶理由通知において「引用文献2」として引用された刊行物である特開昭59-167056号公報(以下「引用例2」という。)には、「シリコン半導体電極」(発明の名称)について、第1図?第6図とともに、以下の事項が記載されている。

a.「本発明は導電ペーストを用いた低価格のシリコン半導体電極に関する。」(第1頁下左欄第20行?同頁下右欄第1行)

b.「近年、とりわけ低価格化が要望されている太陽電池の分野において、シリコン半導体電極を真空蒸着等の手段を用いず、大量生産、低価格化に適した導電ペーストを用いて研究が進められている。しかしながら、厚膜集積回路などに用いられる導電材料として銀を含む導電ペーストを塗布、硬化した場合、シリコンと導電体との間にバリアが生じて接触抵抗が高く、その結果電極としての必要条件である良好なオーム接触が得られない。」(第1頁下右欄第6?15行)

c.「本発明はこれに対し導電ペーストを用いてシリコンに対して良好なオーム接触を呈するシリコン半導体電極を提供することを目的とする。
この目的は、シリコン半導体電極が炭素を含む導電ペーストを塗布硬化させてなり、半導体に接して設けられる第一層と、その上に金属のみを含む導電ペーストを塗布、硬化させてなる第二層との積層体であることによつて達成される。半導体に接する第一層のための導電ペーストには炭素のほかに金属を添加してもよい。
本発明は半導体に接触する層としてシリコンと低接触抵抗を示す炭素を含む導電ペーストにより形成される層を用い、その上には通電にのみに役立つ層として従来の導電ペーストと同様に金属のみを含む導電ペーストにより形成される層を用いたものである。すなわち、電極を複層構造とし集電機能と通電機能とを分離したものである。
……(中略)……
以下図を引用して本発明の実施例について説明する。第1図に示す太陽電池は、ガラス板などを用いる共通透明基板1の上に複数の太陽電池素子を形成したものであり、各素子はITOなどからなる透明電極2、アモルフアスシリコン(以下a?Siと記す)のp層3、a?Sii層4、a?Sin層5および電極6が積層されてなる。電極6は本発明により炭素あるいは炭素と銀などの金属を含む導電ペーストの塗布、硬化により形成された第一層7と銀などの金属のみを含む導電ペーストの塗布、硬化により形成された第二層8からなる。第二層8は延長されて隣接素子の透明電極2と接続されており、これによつて光9により光起電力を生ずる各太陽電池素子が直列接続される。」(第1頁下右欄第16行?第2頁上右欄第12行)

d.「実施例1
黒鉛20wt%、アセチレンブラツク10wt%、およびフエノール樹脂70wt%からなる導電ペーストを調製し、第1図に示したa?Si半導体のn層面にスクリーン印刷し、100℃で10分間の予備乾燥後150℃の空気中で2時間硬化させ、厚さ10μmの第一層7を形成した。ついで銀80wt%、フエノール樹脂20wt%からなる導電ペーストを調製し、隣接する素子の表面電極を接続できるようにスクリーン印刷し、100℃で10分間の予備乾燥後150℃の空気中で1時間硬化させ、厚さ20μmの第二層8を形成した。この場合の第一層のシート抵抗はほぼ10^(5)Ω/□であつた。この太陽電池の出力特性をソーラーシユミレーターAM1(100mw/cm^(2))の光照射下で測定したところ第2図の曲線21に示すように形状因子(FF)0.28、効率2%であつた。これは、第2図の曲線22に示す第一層に用いるペーストのみで電極を形成した太陽電池、あるいは曲線23で示す銀を主成分としたペーストのみで電極を形成した場合に較べ著しく優れている。なお第一層のシート抵抗を変えた場合、10^(5)Ω/□より小さくなるに伴い形状因子が向上する結果が得られた。
実施例2
アセチレンブラツク25wt%、平均粒径10μm以下の銀粉末35wt%、およびフエノール樹脂40wt%からなる導電ペーストを調製し、実施例1と同様の方法で厚さ10μmの第一層を形成した。ついで、銀80wt%、フエノール樹脂20wt%からなる導電ペーストを調製し、厚さ20μmの第二層8を形成した。この場合の第一層7のシート抵抗は、ほぼ10Ω/cm^(2)であつた。この太陽電池の変換効率は第3図の曲線に示すように2.74%、形状因子は0.4前後であつた。」(第2頁上右欄第13行?同頁下右欄第6行)

e.「このように、複層構造の導電ペースト電極を用いることにより太陽電池の出力特性が向上したのは、炭素を主成分とする第一層がシリコンとの接触抵抗が低く、銀を主成分となる第二層がシート抵抗が低いことによる電極の直列抵抗損失の減少に起因するものである。」(第3頁上右欄第17行?同頁下左欄第2行)

f.「以上のように本発明はシリコン半導体電極を半導体との接触抵抗の低い層と固有抵抗の低い層との複層構造としたもので、これにより特に太陽電池電極に導電ペーストを用いる場合の直列抵抗増大が防止され、安価で変換効率の高い太陽電池を得るのに極めて有効である。」(第3頁下左欄第18行?同頁下右欄第3行)

(3)引用例3の記載事項
ア.本願の出願前に日本国内において頒布され、前記最後の拒絶理由通知において「引用文献3」として引用された刊行物である特開2004-235276号公報(以下「引用例3」という。)には、「太陽電池素子およびその形成方法」(発明の名称)について、図1?図3とともに、以下の事項が記載されている。

a.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は太陽電池素子とその形成方法に関し、特に半田よって電極を被覆した太陽電池素子とその形成方法に関する。」

b.「【0003】
表面電極4は例えば反射防止膜3の上に表面電極材料を塗布して焼成することによって表面電極材料の下の反射防止膜3を溶融させて半導体基板1と直接接触させるいわゆるファイヤースルー法で形成される。電極材料としては、0.1?2μm程度の粒径を有する銀粉末100重量部に対して、10?30重量部の有機ビヒクル、0.1?5重量部のガラスフリットから成るペースト状の電極材料などが用いられている。しかし、この方法によれば安定したオーミック接触が得られず、表面電極4の接着強度も充分なものが得られないという問題があった。
【0004】
この問題を回避するために、反射防止膜3上に焼き付ける電極材料にTi、Bi、Co、Zn、Fe、Crもしくはこれらの酸化物のうちのいずれか一種または複数種を含有させることが行われている(例えば、特許文献1参照)。この方法によればオーミックコンタクト性がよく接着強度の強い太陽電池素子を得ることができる。
【0005】
しかし、上記Ti、Bi、Co、Zn、Fe、Crは銀の焼結を阻害する傾向があり、装置のトラブルなど何らかの原因によって半田被覆の作業温度が上昇すると表面電極4の焼結し切れなかったAgが半田中のSnと化合物を形成して半田に溶解してしまういわゆる銀喰われが発生することがあった。」

c.「【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る太陽電池素子によれば、半導体接合部を有する半導体基板の表面側に表面電極を設けるとともに裏面側に裏面電極を設け、この表面電極を半田で被覆した太陽電池素子において、前記表面電極はTi、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr、またはこれらの酸化物のうちのいずれか一種または複数種を含有するとともに、前記半田はBiを27?73重量%含有するとともに鉛を実質的に含まないSn-Bi-Ag系の半田であることを特徴とする。」

d.「【0020】
そして、表裏面に電極材料を塗布して焼き付けることよって表面電極5および裏面電極6を形成する。この電極材料は銀と有機ビヒクルとガラスフリットを銀100重量部に対してそれぞれ10?30重量部、0.1?5重量部を添加してぺースト状にしたもので、これをスクリーン印刷法で印刷して600?800℃で1?30分程度焼成することよって焼き付けられる。
【0021】
この際に用いられる有機ビヒクルは粉末状のものをペースト状にするために用いられる樹脂であり、例えばセルロース系やアクリル系のものがある。これらは400℃程度で分解して揮散するため焼成後の電極5、6にはその成分は残らない。また、ガラスフリットは焼き付けた電極5、6に強度を持たすために用いられる。ガラスフリットは、鉛、ホウ素、珪素等の酸化物を含み、300?600℃程度の種々の軟化点をもつものがあるが、焼成後に一部は電極5、6中に残り、一部はシリコンと溶着するために電極5、6とシリコン基板1との間を接着する機能を持つ。
【0022】
本発明においては、この表面電極材料には粒径0.1?5μm程度のTi、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr、またはこれらの酸化物のいずれか1種または複数種を含有する。粒径が0.1μm以下の場合は電極材料中での分散性が悪くなり十分な電極強度を得られず望ましくない。粒径が5μm以上の場合にはスクリーン印刷性(線切れ、線幅の均一性)が悪くなり十分な電極強度を得られず望ましくない。また含有量が0.05重量部以下では十分な強度が得られず望ましくない。含有量が5重量部以上では電極材料の線抵抗が増大し、望ましくない。
【0023】
また、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr、またはこれらの酸化物を用いることにより、反射防止膜上から前記電極材料を塗布すれば、オーミックコンンタクト性が良く電極強度の強い太陽電池素子が得られる。」

e.「【0026】
Biは半田の溶融温度を下げる作用し、Snは銀と化学結合していわゆる半田接合部を形成するように作用し、Agは銀電極と半田濡れ性を改善するように作用する。
【0027】
この場合、Biは27?73重量%添加される。62Sn-38Pb共晶半田よりもSn含有量を少なくして融点(62Sn-36Pbでは183℃)が低い組成にするためである。
……(中略)……
【0030】
ファイヤースルーによる良好なコンタクトおよび電極強度を得るためにはTi、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr、またはこれらの酸化物のうちのいずれか一種または複数種を含有することが必要であったが、この電極ではSn-Pbでの半田被覆で銀喰われが起こるという問題があった。今回この問題をSn濃度の低い半田種へ変更することにより改善するものである。
【0031】
半田浸漬時間と銀喰われ状態(削減された線幅)を表1に示した。銀ペーストは酸化亜鉛を添加したものについてはSn-Pb共晶半田に1.5重量%の銀を加えたものとSn-Bi-Ag系半田(Bi含有量(重量%):25、27、40、57、70、75)でディップした。銀ペーストに添加剤を加えなかったものはSn-Pb共晶半田に1.5重量%の銀を加えたもののみの評価を行った。」

f.「【0033】
銀ペーストに対する添加剤の有無による銀喰われは各々の浸漬時間において添加剤を含まないものの喰われは少ない。銀ペーストに添加剤が入っているものでもSn-Bi-Ag系半田では銀喰われは少ない。このうちもっとも銀喰われが少なかったのはSn-57Bi-1.5Ag半田であった。」

4.対比・判断
(1)本願発明1について
(1-1)対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。

ア.引用発明2の「表面電極5が形成されたシリコン基板1」は、本願発明1の「少なくとも、電極が形成された半導体基板」に相当する。

イ.引用発明2の「前記シリコン基板1のn型を呈する領域1aにオーミック接触」する「表面電極5」と、本願発明1の「少なくとも前記半導体基板に直接接合する第一電極層」と「前記第一電極層上に形成される電極層」とからなる「二層以上の多層構造を有するもの」である「前記電極」とは、「少なくとも前記半導体基板に直接接合する」「前記電極」である点で共通する。

ウ.引用発明2の「銀に、少なくとも、ガラスフリット、及び、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Crのいずれか1つまたは2つ以上の酸化物が添加された表面電極5」と、本願発明1の「少なくとも、銀と、ガラスフリットとを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Si、Al、Ge、Sn、Pb、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有するもの」である「第一電極層」とは、「少なくとも、銀と、ガラスフリットとを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、Cr、Fe、Co、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有するもの」である「電極」の「層」である点で一致する。

エ.引用発明2において「前記表面電極5」が「半田など」で「被覆」されていることと、本願発明1において「少なくとも配線と接合される最表層の電極層」が「前記配線とハンダで接合されている」こととは、「電極」の「層」の上に「ハンダ」層が存在する点で共通する。

オ.以上から、引用発明2と本願発明1とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。

(一致点)
「少なくとも、電極が形成された半導体基板であって、少なくとも前記半導体基板に直接接合する前記電極は、少なくとも、銀と、ガラスフリットとを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、Cr、Fe、Co、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有するものである前記電極の層であり、前記電極の層の上にハンダ層が存在することを特徴とする半導体基板。」

(相違点1)
本願発明1においては、「前記電極は二層以上の多層構造を有するもの」であり、「少なくとも前記半導体基板に直接接合する」「電極層」は「前記多層構造のうち」の「第一電極層」であるのに対して、引用発明2の「表面電極5」は一層構造である点。

(相違点2)
本願発明1は、「前記第一電極層上に形成される電極層のうち、少なくとも配線と接合される最表層の電極層は、少なくとも銀とガラスフリットとを含有し、前記添加物を含有しない」電極層を有するのに対して、引用発明2は、そのような電極層を有していない点。

(相違点3)
本願発明1の前記「少なくとも配線と接合される最表層の電極層」は「前記配線とハンダで接合されている」のに対して、引用発明2の「前記表面電極5」は「半田など」で「被覆」されている点。

(1-2)判断
相違点1及び相違点2について、検討する。

ア.引用発明2の「表面電極5」は、その表面が「半田など」で「被覆」されているものの、前記「表面電極5」自体は一層構造の「電極」である。
そして、第2.3.(1)ア.bで摘記したように、引用例1の段落【0003】には「シリコン基板上……の窒化シリコン膜または酸化シリコン膜における電極形成部を除去して、この部分にペースト状にした銀を主成分とする電極材料などを印刷して600?900℃程度の温度で焼き付けることにより、電極を形成していた。」と記載され、引用例1の「従来の技術」においても、「電極」は一層構造であった。
したがって、引用例1には、「表面電極5」を多層構造にすることは記載も示唆もされていない。

イ.ところで、引用発明2が「Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Crのいずれか1つまたは2つ以上の酸化物が添加された表面電極5」を用いたのは、第2.3.(1)ア.bで摘記したように「反射防止膜の電極形成部の除去を行わずに、ペースト状の電極材料を反射防止膜上に印刷してそのまま焼き付けた場合、安定したオーミック接触が得られず、電極の接着強度もモジュール化に耐えるに充分なものは得られなかった。」からであり、前記「酸化物」の「添加」により、「Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr成分」が「焼成中に、ガラスフリットに作用してその一部が溶け込む。その後、この混合体が窒化シリコン膜または酸化シリコン膜に作用する」ことで「コンタクト性及び接着強度を向上させる。」という効果を奏することは、第2.3.(1)ア.dで摘記したとおりである。

ウ.これに対して、平成24年9月25日付けの最後の拒絶理由通知において「引用文献2」として引用された引用例2には、第2.3.(2)ア.cで摘記したように、太陽電池の「シリコン半導体電極」として、「半導体に接触する層としてシリコンと低接触抵抗を示す炭素を含む導電ペーストにより形成される層を用い、その上には通電にのみに役立つ層として従来の導電ペーストと同様に金属のみを含む導電ペーストにより形成される層を用いたものである。すなわち、電極を複層構造とし集電機能と通電機能とを分離した」電極を採用したことが記載されている。
引用例2において、この「集電機能と通電機能とを分離」した「複層構造」の「電極」を採用したのは、第2.3.(2)ア.bで摘記したように「導電材料として銀を含む導電ペーストを塗布、硬化した場合、シリコンと導電体との間にバリアが生じて接触抵抗が高く、その結果電極としての必要条件である良好なオーム接触が得られない。」からであり、前記「複層構造」の「電極」を採用した結果、「シリコンとの接触抵抗が低」い「炭素を主成分とする第一層」と「シート抵抗が低い」「銀を主成分となる第二層」とにより「電極の直列抵抗損失」が減少するという効果を奏することは、第2.3.(2)ア.e及びfで摘記したとおりである。

エ.以上のとおり、引用例2に記載の「炭素を主成分とする第一層」の「電極」は「シリコンとの接触抵抗が低」いという特徴を有するものであり、「Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr成分」が「焼成中に、ガラスフリットに作用してその一部が溶け込む」ことで「安定したオーミック接触」と「向上」した「電極の接着強度」が得られるという特徴を有する引用発明2の「表面電極5」とは、シリコン基板及びその上の構造物に対する作用を異にしており、前記「シリコンとの接触抵抗が低」いという特徴と「安定したオーミック接触」と「向上」した「電極の接着強度」が得られるという特徴も一致しない。
したがって、「表面電極5」を多層構造にすることが記載も示唆もされていない引用例1に記載された引用発明2に、「集電機能と通電機能とを分離」した「複層構造」の「電極」を採用した引用例2に記載の技術を適用すること、さらに、引用発明2の「表面電極5」を「第一層」の電極層とし、その上に、引用例2に記載の前記「銀を主成分となる第二層」を形成することを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。

オ.さらに、引用例2の「実施例」には、「複層構造の導電ペースト電極」は、たとえば、「第一層」が、「黒鉛」と「アセチレンブラツク」及び「フエノール樹脂」、あるいは、「アセチレンブラツク」と「銀粉末」及び「フエノール樹脂」からなる「導電ペースト」で形成され、「第二層」が「銀」と「フエノール樹脂」からなる「導電ペースト」で形成されることしか記載されていない。
すなわち、引用例2には、「複層構造の導電ペースト電極」の「第一層」はもちろん、「第二層」にも、ガラスフリットが含まれることは記載も示唆もされていない。
したがって、仮に、引用発明2の「表面電極5」に、引用例2記載の「複層構造の導電ペースト電極」構造を適用することができたとしても、本願発明1のように、「第一電極層上に形成され」、「少なくとも銀とガラスフリットとを含有し、前記添加物を含有しない」、「少なくとも配線と接合される最表層の電極層」を備える「電極」構造を得ることはできない。

カ.一方、引用例3には、第2.3.(3)ア.bで摘記したように、「オーミックコンタクト性がよく接着強度の強い太陽電池素子を得る」ために「反射防止膜3上に焼き付ける電極材料にTi、Bi、Co、Zn、Fe、Crもしくはこれらの酸化物のうちのいずれか一種または複数種を含有させる」と、「上記Ti、Bi、Co、Zn、Fe、Crは銀の焼結を阻害する傾向」があるため「表面電極4の焼結し切れなかったAgが半田中のSnと化合物を形成して半田に溶解してしまういわゆる銀喰われが発生する」ことが記載されている。
この記載は、本願明細書の段落【0007】に記載された「背景技術」が有する「問題」点に関する記載と同趣旨の記載である。

キ.しかしながら、引用例3には、第2.3.(3)ア.cで摘記したように「表面電極」の上を「半田」で被覆することは記載されているものの、前記「表面電極」自体を多層構造にすることは記載も示唆もされていない。
また、引用例3には、同cで摘記したように、「この表面電極を半田で被覆した太陽電池素子において、前記表面電極はTi、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr、またはこれらの酸化物のうちのいずれか一種または複数種を含有する」ときに生じる前記「問題」点を解決するために、「前記半田はBiを27?73重量%含有するとともに鉛を実質的に含まないSn-Bi-Ag系の半田」としたことが記載されている。

ク.さて、引用例3には、第2.3.(3)ア.dで摘記したように「表面電極5」を「銀と有機ビヒクルとガラスフリットを銀100重量部に対してそれぞれ10?30重量部、0.1?5重量部を添加してぺースト状にしたもの」から形成すること、「本発明においては、この表面電極材料には粒径0.1?5μm程度のTi、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr、またはこれらの酸化物のいずれか1種または複数種を含有」させること、が記載されている。
そして、引用例3には、同e及びfで摘記したように「銀ペーストに添加剤を加えなかったもの」で形成した表面電極であれば「Sn-Pb共晶半田」で被覆しても最も「銀喰われ」が少ないこと、これと比較して、「銀ペーストに添加剤が入っているもの」で形成した表面電極でも「Sn-Bi-Ag系半田」で被覆した場合は同程度に「銀喰われは少ない」ことが記載されている。
すなわち、前記の「銀ペーストに添加剤を加えなかったもの」で形成した場合は最も「銀喰われ」が少ないという記載は、前記「鉛を実質的に含まないSn-Bi-Ag系の半田」の効果を立証するための記載である。

ケ.してみると、引用例3には、「表面電極」を「銀と有機ビヒクルとガラスフリットを銀100重量部に対してそれぞれ10?30重量部、0.1?5重量部を添加してぺースト状にしたもの」に前記「添加剤を加えなかった」場合は「Sn-Pb共晶半田」で被覆しても最も「銀喰われ」が少ないことが記載されているとしても、この記載は、「添加剤が入っている」一層構造の「表面電極」を「鉛を実質的に含まないSn-Bi-Ag系の半田」で被覆することの効果を示すための記載にすぎないから、この引用例3に当業者が接したとしても、引用発明2の「表面電極」の上に、「最表層の電極層」として「少なくとも銀とガラスフリットとを含有し、前記添加物を含有しない」電極層を設けることで、前記「表面電極5」とともに「多層構造」をなす電極層を形成することを、想起できたとは認められない。

コ.そして、本願発明1の「二層以上の多層構造を有する」電極は、各「層」が「ガラスフリット」を「含有し」ているから、当業者の技術常識を参酌すれば、電極材料を単なる加熱でなく焼成することにより形成されるものであることは、自明である。
そうすると、本願発明1は、「前記半導体基板に直接接合する第一電極層は、少なくとも、銀と、ガラスフリットとを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Si、Al、Ge、Sn、Pb、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有する」ものであるため電極材料の焼成の際に「銀の焼結が阻害」されても、「少なくとも配線と接合される最表層の電極層は、少なくとも銀とガラスフリットとを含有し、前記添加物を含有しないもの」であるため「電極の焼成工程において、銀の焼結が十分に行われ、電極層の固有抵抗も十分低下させることができ、銀喰われの発生も抑制できる。」という、本願明細書の段落【0034】に記載された格別な効果を奏するものである。

サ.以上から、引用発明2において、「表面電極5」上に他の電極層を形成することで「表面電極」を多層構造とするとともに、前記他の電極層のうち「少なくとも配線と接合される最表層の電極層は、少なくとも銀とガラスフリットとを含有し、前記添加物を含有しない」電極層とすることを、引用例1?引用例3の記載に基づいて、当業者が容易になし得たとは認められない。
よって、相違点3について検討するまでもなく、本願発明1が、引用発明2及び引用例2?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本願発明2及び本願発明3について
本願の請求項2ないし請求項3は、いずれも本願の請求項1を直接または間接に引用する請求項である。
したがって、本願発明1が引用発明2及び引用例2?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、本願発明1の発明特定事項をすべて有する本願発明2及び本願発明3も、引用発明2及び引用例2?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)本願発明4について
(3-1)対比
本願発明4と引用発明1とを対比する。

ア.引用発明1の「銀に、有機ビヒクル、ガラスフリット、及び、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Crのいずれか1つまたは2つ以上を酸化物粉末の形で添加してぺ一スト状にした表面電極材料」は、「有機ビヒクル」を有機溶媒で溶解させて「ペースト状にした」ものであることは、当業者の技術常識を参酌すれば、自明である。
したがって、引用発明1の「銀に、有機ビヒクル、ガラスフリット、及び、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Crのいずれか1つまたは2つ以上を酸化物粉末の形で添加してぺ一スト状にした表面電極材料」と、本願発明4の「少なくとも、銀粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルと、有機溶媒とを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Si、Al、Ge、Sn、Pb、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有する導電性ペースト」とは、「少なくとも、銀粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルと、有機溶媒とを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、Cr、Fe、Co、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有する導電性ペースト」である点で一致する。

イ.引用発明1の「一主面側に、窒化シリコン膜などから成る反射防止膜2を形成」した「リン原子を拡散させてn型を呈する領域1aを形成したシリコン基板1」は、本願発明4の「半導体基板」に相当する。

ウ.前記アで指摘したように、引用発明1の「銀に、有機ビヒクル、ガラスフリット、及び、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Crのいずれか1つまたは2つ以上を酸化物粉末の形で添加してぺ一スト状にした表面電極材料」は「有機ビヒクル」を溶解させる有機溶媒を有していることは自明である。
そして、前記有機溶媒を有する「ぺ一スト状にした表面電極材料」を「塗布」したものを、「乾燥させ」る際には、当該「表面電極材料」を少なからず加熱していることも、当業者の技術常識を参酌すれば、明らかである。
したがって、前記ア及びイから、引用発明1の「銀に、有機ビヒクル、ガラスフリット、及び、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Crのいずれか1つまたは2つ以上を酸化物粉末の形で添加してぺ一スト状にした表面電極材料を、前記反射防止膜2上に、塗布して乾燥させ、さらに、焼成することにより焼き付けて、前記領域1aにオーミック接触する表面電極5を形成する工程」と、本願発明4の「少なくとも、銀粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルと、有機溶媒とを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Si、Al、Ge、Sn、Pb、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有する導電性ペーストを、半導体基板上に塗布し、加熱して第一電極層を形成する工程」とは、「少なくとも、銀粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルと、有機溶媒とを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、Cr、Fe、Co、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有する導電性ペーストを、半導体基板上に塗布し、加熱して」「電極層を形成する工程」である点で共通する。

エ.引用発明1の「前記表面電極5を半田などで被覆する工程」と、本願発明4の「該第一電極層より上に、少なくとも銀粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルと、有機溶媒とを含有し、前記添加物を含有しない導電性ペーストを塗布し、加熱して、配線とハンダで接合される最表層の電極層を形成する工程」とは、「ハンダ」層がその上に存在する「電極層を形成する工程」である点で共通する。

オ.以上から、引用発明1と本願発明4とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。

(一致点)
「少なくとも、銀粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルと、有機溶媒とを含有し、添加物としてTi、Bi、Zr、Cr、Fe、Co、Znの酸化物のうち少なくとも一種を含有する導電性ペーストを、半導体基板上に塗布し、加熱して電極層を形成する工程と、ハンダ層がその上に存在する電極層を形成する工程とを有することを特徴とする電極の形成方法。」

(相違点4)
本願発明4においては「半導体基板上に塗布し、加熱して第一電極層を形成する」とともに、「該第一電極層より上に」も「再表層の電極層を形成する」のに対して、引用発明1においては「表面電極5」のみを「形成する」点。

(相違点5)
本願発明4は「該第一電極層より上に、少なくとも銀粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルと、有機溶媒とを含有し、前記添加物を含有しない導電性ペーストを塗布し、加熱して」「最表層の電極層を形成する」のに対して、引用発明1は、そのような電極層を形成していない点。

(相違点6)
本願発明4においては「配線とハンダで接合される」のは「最表層の電極層」であるのに対して、引用発明1においては「前記表面電極5を半田などで被覆する」点。

(3-2)判断
ア.相違点4及び相違点5は、本願発明1と引用発明2との相違点である相違点1及び相違点2と、物の発明と方法の発明の違いに基づく違いこそあるが、それぞれ、実質的には同じ相違点であると認められる。

イ.そうすると、第2.4.(1)(1-2)で指摘したものと同じ理由により、本願発明4が、引用発明1及び引用例2?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(4)本願発明5及び本願発明6について
本願の請求項5ないし請求項6は、いずれも本願の請求項4を直接または間接に引用する請求項である。
したがって、本願発明4が引用発明1及び引用例2?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、本願発明4の発明特定事項をすべて有する本願発明5及び本願発明6も、引用発明1及び引用例2?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。


第3.まとめ
以上のとおりであるから、本願の請求項1ないし請求項6に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとした原査定の判断は妥当でなく、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-20 
出願番号 特願2006-217439(P2006-217439)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸岡田 吉美  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 鈴木 匡明
小野田 誠
発明の名称 半導体基板並びに電極の形成方法及び太陽電池の製造方法  
代理人 好宮 幹夫  
代理人 好宮 幹夫  

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