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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1285710
審判番号 不服2010-25486  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-12 
確定日 2014-03-11 
事件の表示 特願2006-500204「デフェンシンタンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月29日国際公開、WO2004/063219、平成19年 9月27日国内公表、特表2007-527197〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年1月13日(パリ条約による優先権主張 2003年1月13日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成22年7月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであって、その請求項1に係る発明は、同年4月26日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という)。
「【請求項1】
配列番号:14または配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定における拒絶の理由の概要は、本願の発明の詳細な説明が当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないので、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。

3.当審の判断
(1)実施可能要件
特許を受けるためには、発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある(特許法第36条第4項第1号)。
物の発明において、「実施することができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その物を「使用することができる」ことであり、ポリペプチド等の化学物質に係る発明において「使用することができる」とは、当該ポリペプチド等が特定の機能を有することが発明の詳細な説明に記載され又は出願時の技術常識に基づき特定の機能を有することが理解できるように記載されることが必要とされる。
そこで、本願発明のポリペプチドについて、本願明細書中に特定の機能を有することが明らかにされ、使用できるように記載されているか検討する。

(2)本願明細書の記載
本願明細書には、本願発明に関して以下の事項が記載されている。

ア.「配列番号:14に記載の配列を有するポリペプチドは、以後“INSP109ポリペプチド”と称される。
本出願人は、この理論に結びつけられることを欲するものではないが、INSP109ポリペプチドの最初の21個のアミノ酸はシグナルペプチドを形成することが仮定されている。この仮定されたシグナル配列を伴わない完全長INSP109ポリペプチド配列は、配列番号:16と称される。
配列番号:16と記載された配列を有するポリペプチドは、以後“INSP109成熟ポリペプチド”と称する。」(段落【0008】)

イ.「本発明者らは、“デフェンシンファミリーのメンバーとしての機能”は、デフェンシンファミリーのポリペプチド内で保存された特徴として同定され得るアミノ酸配列または構造の特徴を含むポリペプチドを意味することとし、その結果受容体またはリガンドとのこのポリペプチドの相互作用は、完全長野生型ポリペプチドの機能と比べ、実質的に損なわれる影響を受けない。・・・・・・・・・デフェンシンとして機能する能力は、Nizetら(Nature 2001, 414:454-457)およびColeら(Proc. Natl. Acad. Sci. 2002, 99(4):1813-1818)の論文に記載されたアッセイを用いて測定することができる。」(段落【0009】)

ウ.「INSP108およびINSP109ポリペプチドは、先に説明したアッセイにおいて、用量依存的様式で、免疫系細胞の増殖および分化を調節することもわかっている。従ってINSP108およびINSP109ポリペプチドの“機能的等価物”は、用量依存的様式で前述のアッセイにおいて同じ増殖および分化を調節する活性を示すポリペプチドを含む。・・・・・・・・・βデフェンシン抗菌アッセイは、Nizetら(Nature, 2001, 414:454-457)に説明されている。θデフェンシン抗菌および抗ウイルスアッセイは、Coleら(Proc. Natl. Acad. Sci., 2002, 99(4):1813-1818)に説明されている。」(段落【0056】)

エ.「実施例3:INSP109
配列番号:14に示されたINSP109ポリペプチド配列を、NCBI非-余剰的配列データベースに対するBLASTクエリーとして使用した。トップヒットは、アノテーションされないマウス遺伝子予測であり、第二のヒットは、マウスデフェンシンβ(NP_062702.1)であった(図4)。図5は、マウスデフェンシンβ4と並置したINSP109ポリペプチドを示す。」(段落【0078】)

オ.「実施例8:デフェンシン活性の検出アッセイ
ケモカイン-様ポリペプチドのバリデーションおよび特徴決定のための細胞-および動物-ベースのアッセイ・・・・・・・・・
サイトカイン発現調節アッセイ・・・・・・・・・
Tリンパ球反応を標的化するアッセイ・・・・・・・・・
単球/マクロファージおよび顆粒球の反応を標的化するアッセイ・・・・・・・・・
好中球反応を標的化するアッセイ・・・・・・・・・
Bリンパ球反応を標的とするアッセイ・・・・・・・・・
単球および小グリア細胞の反応を標的化するアッセイ・・・・・・・・・」(段落【0107】?【0119】)

カ.「

」(図5)

(3)判断
本願明細書には、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド(本願明細書中では「INSP109ポリペプチド」とも記載されている。上記記載事項ア.参照)が、マウスデフェンシンβと約33%の相同性を有することが記載され、両ポリペプチド間で一致しているアミノ酸の位置を表すアラインメントの結果が示されている(上記記載事項エ.、カ.)が、そのようなかなり低い相同性の数値では両ポリペプチドが必ず同じ機能を有するということができないのが本願出願時の技術常識であるから、上記相同性とアラインメントの結果だけからでは、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドが、マウスディフェンシンβと同じ機能を有するということはできない。
また、本願明細書には、デフェンシンとして機能を測定するための様々なアッセイ法(抗菌アッセイ、抗ウイルスアッセイ、免疫系細胞に対する活性)が記載されている(上記記載事項イ.、ウ.、オ.)が、そうようなアッセイを行うことができるとの一般的な記載があるだけであり、実際にそのようなアッセイを行って、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドが、デフェンシンとして機能を有することを裏付ける実験データについては何ら示されていない。
そうすると、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明のポリペプチドについて、特定の機能を有することが明らかにされ、使用できるように記載されているとはいえない。
したがって、本願発明について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成22年4月26日付け意見書及び同年12月27日付け手続補正書により補正された審判請求書において、以下のア.、イ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア.「本願発明のポリペプチドの機能は本願明細書に記載されており、その機能は既に本件出願時においてin silico解析によって裏付けられていたものであります。」

イ.「本明細書の段落[0015]に記載されてる通り、本発明の第一の特徴のポリペプチド(デフェンシンINSP109)は、細胞増殖、代謝または分化のレギュレーターとして使用することができます。これを示すため、様々な腫瘍セルラインを使用してアッセイを行い、それらのセルライン増殖に対するINSP109の効果を以下の通り確認しました。」、「参考資料1、2は、本件明細書の教示に何等新しい知見を加えるものではなく、出願当初の明細書に記載されていた内容を他の方法によって確認したものに過ぎません。 従って、本願のポリペプチドがディフェンシンとしての生物学的活性を有すること、及びその活性に基づいて医薬として使用できることは、本願明細書の記載及び技術常識から当業者にとって容易に理解できるものであると思料します。」

主張ア.について
本願明細書に「in silico解析」として具体的に記載されているのは、BLASTを用いた相同性検索の結果(図4)とマウスディフェンシンβとのアラインメント(図5)だけであるが、そのようなin silico解析の結果だけからポリペプチドの機能を予測することが困難であるのが本願出願時の技術常識であるから、本願発明のポリペプチドがディフェンシンとしての機能を有することを推認できるだけの記載が本願明細書に示されているとは認められない。

主張イ.について
本願明細書の段落【0015】には「本発明のポリペプチドのデフェンシンタンパク質としての適当な使用は、細胞増殖、代謝または分化のレギュレーターとしての使用、受容体/リガンド対の一部としての使用、ならびに前記リストから選択された生理的または病理的状態の診断マーカーとしての使用を含む。」と記載されているだけで、INSP109が癌細胞等の細胞の増殖を阻害することについて記載されているとはいえない。そして、参考資料1、2の実験内容は、XTT Cell Proliferation Kit II Assay(Roche製)を用い、中枢神経系(CNS)、肺、胃、胸、メラノーマ、すい臓、腎臓及び子宮の腫瘍セルラインに対してアッセイを行い、それらのセルライン増殖に対するINSP109の阻害効果を試験したものであるが、そのような実験内容や作用効果は本願明細書には何ら記載されていないから、出願当初の明細書に記載された内容を他の方法によって確認したものにすぎないとすることはできない。

したがって、審判請求人の上記主張はいずれも採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願は、請求項1に係る発明に関して特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-09 
結審通知日 2013-10-15 
審決日 2013-10-28 
出願番号 特願2006-500204(P2006-500204)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 崇之  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 田中 晴絵
高堀 栄二
発明の名称 デフェンシンタンパク質  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 小川 信夫  

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