• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1285712
審判番号 不服2011-11996  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-06 
確定日 2014-03-11 
事件の表示 特願2009-504615「炭水化物含有スポーツドリンク」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月25日国際公開、WO2007/118610、平成21年 9月17日国内公表、特表2009-533032〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年4月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年4月12日,ドイツ)を国際出願日とする出願であって,平成22年8月19日付けの拒絶理由通知に対して,同年11月18日に意見書,手続補足書及び手続補正書が提出され,平成23年2月21日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成24年9月28日付けの審尋に対し,同年12月25日に回答書が提出されたものである。
その後,当審において,平成25年4月1日付けで平成23年6月6日付け手続補正についての補正却下の決定がなされ,同日付けで拒絶理由通知書が出されたところ,同年8月21日に意見書,手続補足書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成25年8月21日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定される発明であると認める。
「【請求項1】
液体媒質に溶解したカゼイン加水分解物を含む機能性ドリンク剤において,前記カゼイン加水分解物の苦味を隠すためのイソマルツロースの使用であって,前記カゼイン加水分解物が平均鎖長最大4アミノ酸の短鎖ペプチドからなることを特徴とするイソマルツロースの使用。」

第3 引用刊行物記載の事項
当審の平成25年4月1日付け拒絶理由で引用され,本願優先権主張日前に日本国内または外国において頒布された下記刊行物1?8には,次の事項が記載されている。
刊行物1:特開平3-67572号公報
刊行物2:特開平9-28306号公報
刊行物3:D. Eric Walters, How are bitter and sweet tastes related? , Trends in Food Science Technology, Vol.7, No.12, 1996年12月, pp.399-403
刊行物4:Glenn Roy, Bitterness: reduction and inhibition, Trends in Food Science Technology, Vol.3, No.4, 1992年4月, pp.85-91
刊行物5:【編集者名】今立恵美,「カプセル情報」,月刊フードケミカル,第21巻第6号,株式会社 食品化学新聞社,2005年06月01日,9?13頁,特に「“甘味素材”として本格採用,韓国で味質の評価高まる-パラチノース」(9頁右欄18行?10頁左欄23行)と題する記事。
刊行物6:国際公開第2006/007993号
刊行物7:特開2004-315499号公報
刊行物8:国際公開第2004/084655号

1 刊行物に記載された事項
(1)刊行物1記載の事項
なお,下線は当審にて付与したものである。以下,同様である。
(刊1-1)「2.特許請求の範囲
α-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステルを含むことを特徴とする水溶性カゼインカルシウム組成物。」(1頁左下欄4?7行)

(刊1-2)「本発明は,α-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル(以下,アスパルテームと略す。)を含む水溶性カゼインカルシウム組成物に関するものである。該組成物は水に対する可溶性が優れており,カゼインの分解及びカルシウム由来の苦みがマスキングされておりまたアスパルテームの甘味も爽やかであるので,食品添加物としての利用範囲が広くなる。」(1頁左下欄10行?17行)

(刊1-3)「カゼインは安価でかつ栄養価が高いので,食品としての利用価値が高い。しかし,その溶解性を向上させたり,その消化をよくするためにカゼインを加水分解すると苦みが生じるという問題がある。その苦みを取り除くために従来は活性炭処理などを行い,苦味成分を取り除いたりしているがそれらの処理だけでは不十分であった。そのために,カゼイン加水分解物の味の改善方法を見出だすことが期待されている。」(1頁右下欄2行?10行)

(刊1-4)「本発明の目的は,飲料・食品添加物として優れた水溶性カルシウムカゼイン組成物を提供することにある。」(2頁左上欄5行?7行)

(刊1-5)「本発明者らは,上記現状に鑑み鋭意研究した結果,カゼインカルシウムにアスパルテームを添加することにより,カゼインカルシウムの苦みが緩和され,一方でアスパルテームの溶解性も向上することを見出だし本発明を完成するに至った。
即ち,本発明は,アスパルテームを含むことを特徴とする水溶性カゼインカルシウム組成物を提供するものである。」(2頁左上欄9行?16行)

(刊1-6)「本発明により得られる水溶性カゼインカルシウム組成物は,水溶性カゼインカルシウム自体がもっている苦みが緩和されているので飲料,食品などに利用しやすくなる。また,アスパルテームを水溶性カゼインカルシウムと混合することにより,その甘味がまろやかになり,溶解速度が向上し,更には溶解性も向上すると考えられる。」(2頁左下欄7行?13行)

(刊1-7)「実施例1
酸カゼイン1kgを10lの水中で懸濁させながら,150gの水酸化ナトリウムを加え,70℃で24時間加熱攪拌した後,液温を室温まで下げて塩酸を加えてpHを4.5に低下させた。次いで,カゼイン分解物の沈殿を濾別し,得られた沈殿を水中に分散させ,水酸化カルシウムを添加して液性をpH7に調整し,カゼインカルシウム溶液を得た。更に,該溶液を濾過した後,スプレードライすることによりカゼインカルシウムの粉末500gを得た。得られた水溶性カゼインカルシウム100gおよびアスパルテーム10gを,水900mlに,溶解させた。上記溶液をスプレードライして水溶性カゼインカルシウム組成物を得た。100mlのイオン交換水及び,100mlの0.2%クエン酸水溶液のそれぞれ得られたカゼインカルシウム組成物3gを溶解させた後,その上清の蛋白質濃度をビュレット試薬を用いて測定したところイオン交換水では,23mg/ml,0.2%クエン酸水溶液では,22mg/mlであった。また,味については苦みはかなり緩和されておりアスパルテーム由来の甘味もかなりまろやかであった。」(2頁左下欄17行?右下欄18行)

(2)刊行物2記載の事項
(刊2-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】次のa)?d)の理化学的性質;
a)分子量1000ダルトン以下の画分の比率が80%(重量)以上であり,かつ分子量3500ダルトン以上の画分の比率が1%(重量)未満であること,
b)カゼイン加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合が10%(重量)未満であること,
c)カゼイン加水分解物1g中に含まれるトリプトファンが4mg以下であること,
d)カゼイン加水分解物の10%(重量)水溶液をセルの厚さ1cmのガラスセルを用いて540nmの波長で測定した透過率が99%以上であること,を有することを特徴とするカゼイン加水分解物。」

(刊2-2)「【0003】
【従来の技術】蛋白質を経口摂取した場合,消化管腔内及び刷子縁膜表面でジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチド又は遊離アミノ酸に分解され,腸管上皮細胞においてペプチド輸送系又はアミノ酸輸送系により別個の経路で吸収され,その吸収速度は,ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチドの方が同一組成の遊離アミノ酸よりも大きいことが明らかにされてきている(代謝,第27巻,第993ペ-ジ,1990年)。また,蛋白質の酵素加水分解物と,当該酵素加水分解物と同一アミノ酸組成のアミノ酸混合物との消化吸収性を比較すると,アミノ酸混合物ではアミノ酸の種類により不均一な吸収となるのに対して,当該酵素加水分解物では,各アミノ酸は投与組成に近いバランスで吸収されることが明らかにされてきている(代謝,第27巻,第993ペ-ジ,1990年)。以上のとおり,ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチドが,蛋白質栄養源として極めて有効であることが知られてきており,消化吸収性及び栄養生理の面から,ジペプチド及びトリペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物が求められている。
【0004】最近,いわゆるスポ-ツ飲料,疲労回復飲料等として低分子量ペプチド組成物を配合した清涼飲料タイプの飲料が盛んに開発されているが,これらの飲料は,清涼感を出すために透明又は半透明の液体であることが要求されている。」

(刊2-3)「【0006】また,これらの飲料は,通常,風味を整えるために糖類,甘味料,フレ-バ-等を同時に配合することが必要であり,これらの成分とアミノ酸等の窒素成分が同時に存在することにより,窒素成分単独で存在する時よりも加熱時及び加熱処理後の保存期間中の混濁,沈殿,凝集及び褐変等がより一層発生し易いという問題が生じていた。」

(刊2-4)「【0049】(7)保存安定性(沈殿生成,着色度)試験方法
カゼイン加水分解物試料を,クエン酸添加によりpH4に調整し,固形分濃度10%で水に溶解し,250mlの透明ガラスビンに充填し,85℃でホットパックして水冷し,37℃の恒温器にて2ケ月間保存し,沈殿の生成を肉眼観察し,沈殿有り(+)及び沈殿無し(-)で表した。」

(刊2-5)「【0059】【表1】



(刊2-6)「【0071】【表2】



(3) 刊行物3記載の事項
(刊3-1)「How are bitter and sweet tastes related?」(399頁 標題)
(当審訳)
「苦味と甘味はどのような関係があるのか?」

(刊3-2)「Sweet taste and bitter taste are both apparently mediated by G-protein-coupled receptors. In this review article, connections between bitter taste and sweet taste are examined. In addition, several ways in which sweet taste may be more effectively used to mask bitter taste are discussed.」(399頁左下欄1?5行)
(当審訳)
「明白に,甘味および苦味は両方ともGタンパク質に共役される受容体によって媒介される。このレビュー記事では,苦味と甘味の間の関連が調べられる。さらに,甘味が苦味をマスクするために効果的に使用され得るいくつかの方法が議論される。」

(刊3-3)「Although sweet taste is usually regarded as pleasant and bitter taste as unpleasant, there is much evidence to suggest that the two tastes are quite closely related with respect to their transduction mechanisms. 」(399頁左下欄6?9行)
(当審訳)
「甘味は心地よく,苦味は心地よくないものとして通常考えられているが,2つの味がそれらの伝達メカニズムに関してとても密接に関連づけられることを示唆する多くの証拠がある。」

(刊3-4)「Sensory experiments
Sensory experiments also point towards a connection between bitter and sweet tastes. Mixture suppression is commonly observed: when sweet and bitter compounds are combined, the perception of both taste qualities is decreased^(2). McBurney and Bartoshuk^(3) demonstrated that after tasting a sample of sucrose, water had a bitter aftertaste; furthermore, after tasting a sample of quinine, urea or caffeine (all of which are bitter), water elicited a sweet taste.
Muller et al. have described a tasteless compound that resembles some sweet-tasting derivatives of urea^(4). In mixtures, this compound suppressed the sweet taste of ten very different sweet-tasting compounds (including sucrose, aspartame, sucralose, saccharin, acesulfame-K, cyclamate and thaumatin). Every sweetener tested was suppressed by this compound. It also inhibited the bitter taste of caffeine, quinine and naringin. Salty and sour tastes were not affected.」(399頁右欄下から4行?400頁左欄末行)
(当審訳)
「知覚実験
知覚実験は,さらに苦味および甘味の間の関係を暗示する。混合抑圧現象が一般に観察される:甘味と苦味化合物が組み合わされる場合,両味質の知覚は減少する^(2)。McBurneyとBartoshuk^(3)は,蔗糖のサンプルを味わった後,水が苦い後味を持っていることを示した;更に,キニーネ,尿素あるいはカフェイン(全て苦味である)のサンプルを味わった後,水は甘味を誘発した。
Mullerらは,尿素のいくつかの甘味のする誘導体に類似する味覚を感じない化合物について述べている^(4)。混合物において,この化合物は,10種の全く異なる甘い味のする化合物(蔗糖,アスパルテーム,シュクラロース,サッカリン,アセスルファム-K,チクロおよびソーマチンを含む)の甘味を抑えた。テストされたすべての甘味料は,この化合物によって抑えられた。さらに,それは,カフェイン,キニーネおよびナリンギンの苦味を阻害した。塩味及び酸味の味は,影響されなかった。」

(刊3-5)「Taking advantage of the relationship between sweet and bitter tastes
As was pointed out in a previous Trends in Food Science Technology review^(20), the removal of sugar and fat from many foods has unmasked underlying bitter attributes, which has led to a greater interest in the ability of other sweeteners to overcome bitterness. If the receptors for sweet taste and bitter taste are, in fact, related, it is possible to draw several conclusions with regard to the masking of bitter taste.
When attempting to mask a bitter taste with sweeteners, it is useful to try many different sweeteners and combinations of sweeteners. This approach increases the probability of finding a sweetener that might block a particular bitter taste receptor.」(402頁右欄4?18行)
(当審訳)
「甘味及び苦味の関係の利用
先にTrends in Food Science Technology review^(20)において指摘したように,多くの食品から糖および脂肪の除去は,他の甘味料が苦さを打開する能力に対するより大きな関心を導くこととなる,潜在する苦味属性のマスクを取ってしまった。甘味と苦味に対するレセプターが,実際に,関連付けられる場合,苦味の隠蔽現象に関していくつかの結論を引き出し得る。
甘味料で苦味をマスクすることを試みる場合,様々な甘味料および甘味料の組み合わせを試みることは有用である。このアプローチは,特別の苦味レセプターをブロックする甘味料を見つける可能性を増やす。」

(刊3-6)「Conclusions
It is apparent that sweet and bitter taste transduction mechanisms share some common features. The use of sweeteners to block bitter taste is a time-honored method, and the availability of several high-potency sweeteners may offer new and better ways of masking bitterness.」(402頁右欄38?43行)
(当審訳)
「結論
甘味及び苦味伝達機構が,いくつかの共通の特徴を共有することは明白である。苦味をブロックするための甘味料の使用は,伝統的な方法であり,いくつかの高力価甘味料の有効性は,苦さをマスクする新しく,よりよい方法を提供するかもしれない。」


(4) 刊行物4記載の事項

(刊4-1)「

Fig.2
The Okai unified bitter/sweet taste receptor model. The electrophilic group(AH) binds to the receptor site A' via an amino or hydrophobic group. In order for a compound to be perceived as bitter,the AH group must bind to A'; a second hydrophobic group X must bind to a second site X', and a third site, B', must be left open. Taken with permission from Ref.45.」(89頁 図2)
(当審訳)
「図2
Okaiが統一した苦味/甘味受容体・モデル。求電子のグループ(AH)は受容体部位A'を介してアミノ基又は疎水基に結合する。化合物が苦味として知覚されるためには,AH基はA'に結合しなければならない;第2の疎水基Xは第2の部位X'に結合しなければならず,そして第3の部位B'は空いたままにされなければならない。Ref.45から許可を得て掲載。」

(刊4-2)「These studies provide evidence that there is a relationship between bitterness perception and sweetness perception. The competitive inhibition observed between bitterness perception and sweetness perception suggests that populations of nearly identical receptor surfaces or pathways are present in the sweet-detecting and bitter-detecting regions of the tongue, which are grouped in two distinct areas-sweetness is detected on the tip of the tongue, whereas bitterness is detected at the back of the tongue.」(89頁左欄39?48行)
(当審訳)
「これらの研究は,苦味の知覚と甘味の知覚の間に関係があるという証拠を提供する。苦味の知覚と甘味の知覚との間で観察される拮抗阻害は,ほぼ同一の受容体の表面または経路の集団が,舌の甘味検知及び苦味検知領域に存在することを示唆し,甘味が舌の先端で検知されるのに対して,苦味は舌の後方で検知されるという明白な2つの異なる部位に分類される。」

(5) 刊行物5記載の事項
(刊5-1)「“甘味素材”として本格採用,韓国で味質の評価高まる-パラチノース
パラチノースの韓国市場が俄かに活気付いてきている。これまで国内採用商品は,独特な苦味を持つ機能性素材に対するマスキングが主な用途となっていたが,最近は味質の評価が高まり,甘味素材として粉末飲料への利用が進められるようになった。4月には,全国でチェーン展開を行うスーパーマーケットへの本格採用が進み,滑り出しは好調だ。現在,国内市場は前年比10%増となる200トンの需要に成長したが,今期は250%増の500トンを確保するとの見通しが立てられており,大きな注目を集めている。
韓国市場は現在,メイル乳業などに代表される大手乳業メーカーから機能性豆乳飲料が発売され,質の高いエネルギー源のほか,大豆の“豆臭さ”をマスキングする用途で評価を受ける。また,KT&G社では,朝鮮人参を主原料とする健康ドリンクで約10アイテムに採用。こちらも独特の苦味をマスキングする用途で採用が進む。しかし最近は,粉末緑茶で最大シェアを持つ大手化粧品会社の太平洋社から,健康食品であるビタミンC高含有の粉末緑茶飲料が発売され,パラチノースが本格採用となった。販売当初は,全国チェーンで展開されるE-マート限定となっているが,今後は販売チャネルの拡大が予定されており,大型商品への成長が期待される。
パラチノースが甘味料としての評価を受けた大型商品は,今回新発売された粉末緑茶飲料が初めて。韓国市場は,粉末飲料市場が大きなマーケットを形成していることから,同分野での期待は高い。また,レモンやグレープフルーツなどの柑橘系にはパラチノースの味質が合うため,先行き市場へのさらなる浸透が見込まれる。」(9頁右欄16行?10頁左欄23行)

(6) 刊行物6記載の事項
なお,翻訳は,対応日本出願の公表特許公報である特表2008-506399号公報の段落【0018】による。
(刊6-1)「パラチノースは,ヒト口腔細菌叢によってほとんど分解されないから,好ましい非う蝕原性を有する。パラチノースはもっぱらヒト小腸壁のグルコシダーゼによって緩慢に分解され,生じる分解産物のグルコース及びフルクトースは吸収される。その結果,急速に消化される炭水化物と比較して,血糖がゆるやかに上昇する。パラチノースは,急速に消化される高グリセミック指数食品と違って,代謝のためにほとんどインスリンを必要としない。好ましい非う蝕原性にもかかわらず,これまでパラチノースは,糖代替品(例えば,マンニトール,ソルビトール及びイソマルト)又は甘味料(例えば,チクロ)と対照的に,食品又は飲料に唯一の糖又は唯一の甘味料として使用されることはほとんどない。このことは主にパラチノースの風味に関係しており,特にスクロースに比べて甘味度がはるかに低いことよる。パラチノースの10%水溶液の甘味度は砂糖の甘味度の0.4にすぎない。しかもパラチノースは解重合及びメイラード(Maillard)反応生成物を生じることがある。」(明細書6頁14行?7頁3行)

(7) 刊行物7記載の事項
(刊7-1)「【請求項1】
パラチノースを有効成分とし,構成糖同士の結合全体に対するα-1,6-グルコシル結合の割合が0%以上50%未満である炭水化物の摂取と同時またはその前後に摂取させ,当該炭水化物の摂取に起因する血糖値上昇を抑制するための血糖値上昇抑制剤。
【請求項2】パラチノースを有効成分とし,ショ糖,小麦粉,デンプン,デキストリン,及び異性化糖からなる群より選ばれる少なくとも1種の食品素材の摂取と同時またはその前後に摂取させ,当該食品素材の摂取に起因する血糖値上昇を抑制するための血糖値上昇抑制剤。
・・・(略)・・・
【請求項11】
粉末飲料として用いられ,前記食品素材がショ糖である請求項8記載の食用材料。」

(刊7-2)「【0011】
上記非特許文献5等に報告があるように,パラチノースは,摂取後に急激な血糖値の上昇及び下降を示さない低グリセミックインデックスの食品素材であるが(グリセミックインデックス(GI)とは,近年話題になっている食品と血糖値との関係を示す指標であり,基準となる食品として,白パンまたはグルコースが使用されている(非特許文献6)),パラチノースと他の炭水化物を同時に摂取すると,パラチノース摂取に起因する血糖値の変化と,同時に摂取した炭水化物に起因する血糖値の変化の和で表される血糖値の変化が発現すると考えられてきたため,従来,血糖値の上昇が抑制された食品には,パラチノースを炭水化物として単独で使用することしか考えられていなかった。」

(8) 刊行物8記載の事項
なお,翻訳は,対応日本出願の公表特許公報である特表2006-521106号公報の発明の名称及び段落【0004】?【0009】による。
(刊8-1)「持続的な炭水化物エネルギーの放出及び低減したグリセミック/インスリンミック応答のための並びに浸透圧重量モル濃度を維持するためのイソマルツロース及びトレハロースを含む飲食品」(明細書1頁1?2行)

(刊8-2)「JP01-060360Aは,パラチノース(イソマルツロース)を主な炭水化物として含むアイソトニックドリンクに関する。
JP63-112963Aは,甘味料及び/または賦形剤及び/またはエクステンダーとしてパラチノースを含む飲食料品に関する。
カワイは,Hormone and Metabolic Research, Vol 21, No 6, 24 February 1989, 338-340頁に,糖尿病患者用のカロリー甘味料(caloric sweetener)としてのパラチノースの有用性を記載している。
JP 63 112963(要約書)は,糖尿病に苦しむ患者に特に有用な,パラチノースを含む飲料及び食料品に関する。
JP 01 060360(要約書)は,エネルギー供給のためのパラチノース含有スポーツドリンクに関する。
WO 03/022288は,血糖のコントロール及び肥満の予防のための,パラチノース含有栄養組成物に関する。」(明細書1頁16行?2頁2行)

第4 刊行物1に記載された発明
1 刊行物1に記載された発明の適用対象について
刊行物1には,「本発明の目的は,飲料・食品添加物として優れた水溶性カルシウムカゼイン組成物を提供することにある。」(刊1-4)と記載されていることから,刊行物1に記載された発明の適用対象の一つに飲料が含まれていることが理解される。

2 刊行物1に記載の発明が解決しようとする課題について
刊行物1には,発明が解決しようとする課題について,次のような記載がある。
「カゼインは安価でかつ栄養価が高いので,食品としての利用価値が高い。しかし,その溶解性を向上させたり,その消化をよくするためにカゼインを加水分解すると苦みが生じるという問題がある。その苦みを取り除くために従来は活性炭処理などを行い,苦味成分を取り除いたりしているがそれらの処理だけでは不十分であった。そのために,カゼイン加水分解物の味の改善方法を見出だすことが期待されている。」(刊1-3)
このことから,消化をよくするためにカゼイン加水分解物を用いると苦味が生じる課題があり,カゼイン加水分解物の味,特に,苦み改善方法としての発明が求められていたことが認識できる。

3 刊行物1記載の課題を解決する手段について
上記課題を解決する手段として,刊行物1には,
「本発明者らは,上記現状に鑑み鋭意研究した結果,カゼインカルシウムにアスパルテームを添加することにより,カゼインカルシウムの苦みが緩和され,一方でアスパルテームの溶解性も向上することを見出だし本発明を完成するに至った。
即ち,本発明は,アスパルテームを含むことを特徴とする水溶性カゼインカルシウム組成物を提供するものである。」(刊1-5)
「本発明は,α-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル(以下,アスパルテームと略す。)を含む水溶性カゼインカルシウム組成物に関するものである。該組成物は水に対する可溶性が優れており,カゼインの分解及びカルシウム由来の苦みがマスキングされておりまたアスパルテームの甘味も爽やかであるので,食品添加物としての利用範囲が広くなる。」(刊1-2)
と記載されている。
このことから,アスパルテームの添加により,上記課題であったカゼインの加水分解物及びカルシウム由来の苦みがマスキングされ,苦みが改善されることが理解される。
また,カゼイン加水分解物は,水溶性カゼインカルシウム組成物に含まれる成分であることが分かる。

4 小括
カゼイン加水分解物の味,すなわち,苦みの改善方法としての発明が求められたことに注目して,以上の事項を整理すると,刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「カゼイン加水分解物を含む飲料において,アスパルテームの添加により,水溶性カゼインカルシウム組成物に含まれるカゼイン加水分解物由来の苦みがマスキングされる,苦みの改善方法。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 液体媒質に溶解したカゼイン加水分解物について
引用発明の「カゼイン加水分解物」は,アミノ酸の平均鎖長が不明であるが,何らかの平均鎖長を有することは自明な事項である。
したがって,引用発明の「カゼイン加水分解物」と,本願発明の「カゼイン加水分解物が平均鎖長最大4アミノ酸の短鎖ペプチドからなる」ものとは,「カゼイン加水分解物が所定の平均鎖長のペプチドからなる」ものであるという点で共通する。

また,本願発明の「液体媒質」とは,本願明細書の段落【0011】によると「水」が含まれている。
他方,引用発明の「カゼイン加水分解物」は,「水溶性カゼインカルシウム組成物に含まれる」ものであり,組成物自体が水溶性であるから,それに含まれるカゼイン加水分解物も水溶性であると解される。
そして,飲料は通例水を含むから,引用発明の「飲料」の成分である「カゼイン加水分解物」は,水に溶解しているということができる。

そうすると,本願発明と引用発明の「カゼイン加水分解物」のアミノ酸の平均鎖長が前記したように一致していないことを除けば,引用発明の「飲料」の成分である「水溶性カゼインカルシウム組成物に含まれる」「カゼイン加水分解物」は,本願発明の「液体媒質に溶解したカゼイン加水分解物」に相当する。

2 機能性ドリンク剤について
本願発明における「機能性ドリンク剤」とは,本願明細書の段落【0007】によると,
「本発明に関連して,機能性ドリンク剤とは,消費者の液体補給の必要性に合致する機能を満たすことに加えて,消費者の身体内における少なくとも追加的な生理学的機能を有することができるドリンク剤を意味するものと理解されるべきである。」
とされている。

他方,引用発明の「カゼイン加水分解物を含む飲料」は,特段「飲料」により奏される機能については特定事項となっていない。
また,引用発明の「飲料」は,ドリンクであるものの,ドリンク剤といえるか不明である。

そうすると,引用発明の「飲料」と本願発明の「機能性ドリンク剤」とは,ドリンクという点で共通する。

3 イソマルツロースについて
イソマルツロースは,甘味料であることは技術常識である。
他方,引用発明の「アスパルテーム」も甘味料の一種である。
そうすると,引用発明の「アスパルテーム」と,本願発明の「イソマルツロース」とは,甘味料である点で共通する。

4 カゼイン加水分解物の苦味を隠すための使用について
引用発明の「アスパルテームの添加により,水溶性カゼインカルシウム組成物に含まれるカゼイン加水分解物由来の苦みがマスキングされる,苦みの改善方法」と,本願発明の「カゼイン加水分解物の苦味を隠すためのイソマルツロースの使用」とは,「カゼイン加水分解物の苦味を隠すための甘味料の使用」という点で共通する。

5 小括
そうすると,本願発明と引用発明との間には,次の(一致点)並びに(相違点1)?(相違点3)を有する。
(一致点)
「液体媒質に溶解したカゼイン加水分解物を含むドリンクにおいて,
前記カゼイン加水分解物の苦味を隠すための甘味料の使用であって,
前記カゼイン加水分解物が所定の平均鎖長のペプチドからなることを特徴とする甘味料の使用。」

(相違点1)
カゼイン加水分解物が,本願発明では,「平均鎖長最大4アミノ酸の短鎖ペプチド」からなるのに対し,引用発明では,アミノ酸の平均鎖長が不明な点。

(相違点2)
甘味料の使用が,本願発明では,「前記カゼイン加水分解物の苦味を隠すためのイソマルツロースの使用」,すなわち,「平均鎖長最大4アミノ酸の短鎖ペプチド」からなるカゼイン加水分解物の苦味を隠すための「イソマルツロースの使用」であるのに対して,引用発明では,平均鎖長が不明なカゼイン加水分解物の苦味をマスキングするアスパルテームの使用である点。

(相違点3)
ドリンクが,本願発明では「機能性ドリンク剤」であるのに対して,引用発明では機能は不明であって「飲料」である点。

第6 検討
1 相違点1について
刊行物2には,(刊2-2)に,従来技術が記載されており,「ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチドが,蛋白質栄養源として極めて有効であることが知られて」(刊2-2)いることがわかり,この「消化吸収性及び栄養生理の面から,ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物が求められている。」(刊2-2)こと記載されている。
ここに記載の「ジペプチド及びトリペプチド」は,「主成分」であって,鎖長がそれぞれ2と3のアミノ酸であるから,「ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物」の平均鎖長は,平均鎖長が4アミノ酸以下となることは明白である。
この「ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物」は,「消化吸収性及び栄養生理」の面から求められていることがわかる。
この「ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物」を使用して,「いわゆるスポ-ツ飲料,疲労回復飲料等として低分子量ペプチド組成物を配合した清涼飲料タイプの飲料が盛んに開発されている」(刊2-2)ことがわかる。

他方,引用発明のカゼイン加水分解物は,「その消化をよくするためにカゼインを加水分解すると苦みが生じるという問題がある。」(刊1-3)とあるように,消化をよくするために加水分解するものである。

そうすると,刊行物1において,消化をよくするために加水分解するという示唆があるから,引用発明の「カゼイン加水分解物」について,消化吸収性の面から「ジペプチド及びトリペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物」,すなわち,平均鎖長最大4アミノ酸の短鎖ペプチドを使用するという刊行物2記載の技術的事項を適用して,相違点1記載の本願発明のごとく構成することは,当業者が容易になし得たことといえる。

2 相違点2について
(1)苦味を甘味料でマスキングする技術常識について
苦味をブロックするために甘味料を使用することは,本願優先権主張日前から,刊行物3に「苦味をブロックするための甘味料の使用は,伝統的な方法」(刊3-6)と記載されているように周知の技術として知られていたことである。

この甘味料で苦味をマスクする原理について,刊行物3には「明白に,甘味および苦味は両方ともGタンパク質に共役される受容体によって媒介される。このレビュー記事では,苦味と甘味の間の関連が調べられる。さらに,甘味が苦味をマスクするために効果的に使用され得るいくつかの方法が議論される。」(刊3-2)と記載され,Gタンパク質に共役される受容体が関与することが周知の事項となっている。

この甘味及び苦味の受容体は,刊行物4の(刊4-1)の図2に記載のように詳細に解明され本願優先権主張日前から周知の事項となっている。
苦味は,図2の「Bitter」に図示されているとおり,
「化合物が苦味として知覚されるためには,AH基はA'に結合しなければならない;第2の疎水基Xは第2の部位X'に結合しなければならず,そして第3の部位B'は空いたままにされなければならない。」(刊4-1)
とされている。
また,甘味は,図2の「Sweet」に図示されているとおり,化合物が甘味として知覚されるためには,AH基はA'に結合しなければならない;第2の疎水基Xは第2の部位X'に結合しなければならず,そして第3の部位B'はBに結合しなければならないとされている。
さらに,苦味物質と甘味物質は,共に受容体のA'の領域に結合するから,甘味物質が受容体に結合すると苦味物質の結合を妨げることが理解され,「苦味の知覚と甘味の知覚との間で観察される拮抗阻害は,ほぼ同一の受容体の表面または経路の集団が,舌の甘味検知及び苦味検知領域に存在することを示唆」(刊4-2)するとの記載にあるとおり,苦味のマスキングが,甘味と苦味の知覚に拮抗阻害によるものであるという原理が,本願優先権主張日前から解明されていたことが分かる。

以上の事項に照らせば,苦味を有する特定の化合物と特定の甘味料の組み合わせに限らず,マスキング作用の程度の差はあるとしても,広く一般的な苦味に対して,様々な甘味料でマスキングが起き得ることを示している。

(2)苦味のマスキングのためのイソマルツロースの使用について
パラチノースは,刊行物8に「JP01-060360Aは,パラチノース(イソマルツロース)を主な炭水化物として含むアイソトニックドリンクに関する。」(刊8-2)と記載されているように,イソマルツロースの別名である。

ところで,刊行物5に,
「パラチノースの韓国市場が俄かに活気付いてきている。これまで国内採用商品は,独特な苦味を持つ機能性素材に対するマスキングが主な用途となっていたが,最近は味質の評価が高まり,甘味素材として粉末飲料への利用が進められるようになった。」(刊5-1)
と記載され,その文に続き,
「また,KT&G社では,朝鮮人参を主原料とする健康ドリンクで約10アイテムに採用。こちらも独特の苦味をマスキングする用途で採用が進む。」と記載されているように,独特の苦味を持つ機能性素材の苦味マスキングにイソマルツロースが普通に使われていたことが理解される。

(3)アスパルテームの味質及び由来について
アスパルテームの味質には問題があることは,下記刊行物A及び刊行物Bに記載のように,本願優先権主張日前から広く知られていたことである。
また,アスパルテームは人工甘味料であることは技術常識である。
刊行物A:特開2000-219632号公報
(刊A-1)「アスパルテームは砂糖のもつ円やかな味はなく,後味も悪いなどの欠点がある。」(3頁3欄2?3行)

刊行物B:特開平10-191890号公報
(刊B-1)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,高甘味度で清涼感があり,爽やかな低カロリーコーヒー又は紅茶飲料を実現するために,アスパルテーム特有の甘味質の課題であるこく味,後味の強さ,苦みなどを抜本的に改善することを目的とする。」

(4)イソマルツロースの味質及び由来について
イソマルツロースについて,刊行物5に「最近は味質の評価が高まり,甘味素材として粉末飲料への利用が進められるようになった。」(刊5-1)と記載され,「レモンやグレープフルーツなどの柑橘系にはパラチノースの味質が合う」(刊5-1)とも記載されている。
このように,イソマルツロースの味質がよいことは本願優先権主張日前から広く知られていたことである。
また,イソマルツロースは,下記刊行物Cに記載のように蜂蜜等に見出される天然甘味料であることは技術常識である。

刊行物C:特開2005-232045号公報
(刊C-1)「【0014】 本発明におけるパラチノース(palatinose)とは,別名イソマルツロース(isomaltulose)ともいい,・・・(略)・・・水溶液の甘味の質は良好で,甘味度はショ糖の約40%である。パラチノースは,天然において蜂蜜又は甘蔗汁中に見出される。・・・(略)・・・」

(5)アスパルテームの安全性について
人工甘味料であるアスパルテームは,安全性が確認されているものの,C端にメチルエステルがある等,人工甘味料であることに由来する安全性の懸念があることが,下記刊行物I?Kに記載のように本願優先権主張日前から周知の事項として知られていた。
そして,下記刊行物Lに記載のように,一般的に人工甘味料より天然甘味料が安全性の面から好ましいとされている。

刊行物I:特開平8-109193号公報
(刊I-1)「【0002】・・・(略)・・・アスパルテームはペプチド性甘味料としては非常に優れたものではあるが,メチルエステルであるがゆえに,溶液とした場合の安定性及び安全性の面で,必ずしも理想的な甘味料とはいえない。・・・(略)・・・」

刊行物J:特開平4-148661号公報
(刊J-1)「また,アスパルテーム等のノンカロリーの合成甘味料も開発されている。しかし,合成甘味料は,自然物でないことから,人体に対する安全性に不安があった。」(2頁左上欄9?12行)

刊行物K:特開平1-106853号公報
(刊K-1)「アスパルテームは,味質の面ではかなり砂糖に近いとされているが,やはり後味ににがみが混在し,さらに良質の甘味剤の開発が望まれている。また,アスパルテームは安全性は確認されているものの,アスパルテームに含まれるC端メチルエステルは,体内で分解され,メタノールとなって蓄積される恐れがある。さらに,フェニルアラニンを含有しているために,フェニルケト尿症患者には適さない。」(2頁左上欄11?19行)

刊行物L:特開2003-219834号公報
(刊L-1)「【0023】高甘味度甘味料とは,甘味度の高い甘味料の総称であり,上述のように明確な基準は無いが,ショ糖の甘さを基準とした場合,ショ糖より大幅に甘い甘味料であり,具体的にはショ糖の数10?数1000倍の甘味度である甘味料をいう。具体的には,天然甘味料であるステビア抽出物,酵素処理ステビア,ソーマチン,果糖転移ステビア,甘草抽出物,ブラジル甘草抽出物,酵素処理甘草,羅漢果抽出物,アマチャ抽出物,モネリン,甜涼茶抽出物や,合成甘味料であるアスパルテーム,アセルファムK,スクラロース,サッカリン,サッカリンナトリウム,グリチルリン酸ニナトリウム,ネオヘスペリジンジヒドロカルコン等である。安全性等の面からは天然甘味料が好ましい。また,これらの中には後味に異味,苦みを呈するものも存在する。前記高甘味度甘味料は単独で用いてもよく,2種以上を混合して用いてもよい。」

(6)小括
引用発明の「アスパルテーム」を別のより適した甘味料に置換しようとする次のような動機がある。
i)上記「(1)苦味を甘味料でマスキングする技術常識について」に記したとおり,苦味が甘味料でマスキングされる原理は解明されており,特定の化合物と特定の甘味料の組み合わせに限らず,広く一般的な苦味に対して,様々な甘味料で苦味のマスキングが起きえることが技術常識となっている。
そして,刊行物3に「甘味料で苦味をマスクすることを試みる場合,様々な甘味料および甘味料の組み合わせを試みることは有用である。」(刊3-5)と記載されていることからも明らかなように,より良い苦味のマスキング甘味料を探索しようとすることは,常に求められている当たり前の課題である。
ii)刊行物1に,「アスパルテームを水溶性カゼインカルシウムと混合することにより,その甘味がまろやかになり,溶解速度が向上し,更には溶解性も向上すると考えられる。」(刊1-6)と記載されており,引用発明の「アスパルテーム」は,苦みマスキング作用だけでなく,甘さを付与することも期待して添加されているものである。
アスパルテームの味質に問題のあることは従来より知られており(上記「(3)アスパルテームの味質及び由来について」参照),アスパルテームより味質のよい甘味料の探索が求められている。
iii)アスパルテームは人工甘味料であり(上記「(3)アスパルテームの味質及び由来について」参照),C端にメチルエステルがある等,安全性の懸念あることから,より安全な甘味料の探索が求められている(上記「(5)アスパルテームの安全性について」参照)。

以上の動機を考慮すれば,引用発明において,引用発明の「カゼイン加水分解物」として「ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物」といった平均鎖長最大4アミノ酸の短鎖ペプチドを使用するという刊行物2記載の技術的事項を適用し,加水分解することで生じる苦みをマスキングすべく,引用発明の「アスパルテーム」に代えて,刊行物5記載の「独特な苦味を持つ機能性素材に対するマスキングが主な用途となって」(刊5-1)おり,「味質の評価が高ま」(刊5-1)っており,蜂蜜等に含まれる安全な天然甘味料であるイソマルツロースを採用することは,当業者が特段の困難性無くなし得たことといえる。

3 相違点3について
(1) カゼイン加水分解物の機能について
カゼイン加水分解物の機能について,本願明細書の段落【0008】には,「筋力の増強,再生或いは回復及び/又は筋肉損傷の回避を図ることが可能となる。」及び「免疫刺激作用が生ずる。」機能について記載がある。
他方,刊行物2の(刊2-2)には,「ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチドが,蛋白質栄養源として極めて有効であることが知られてきて」おり,「消化吸収性及び栄養生理の面から,ジペプチド及びトリペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物が求められている」ことが記載されいる。
上記「1 相違点1について」に記したように,引用発明の「カゼイン加水分解物」について,消化吸収性の面から「ジペプチド及びトリペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物」,すなわち,平均鎖長最大4アミノ酸の短鎖ペプチドを使用するという刊行物2記載の技術的事項を適用して,相違点1記載の本願発明のごとく構成すれば,筋肉を形成する蛋白質のもととなるペプチドを消化吸収し易い形で摂取できるから,前記本願明細書記載の筋肉に対する機能を奏するであろうことは当業者であれば誰しも気付くことといえる。

また,4アミノ酸以下の短鎖ペプチドのカゼイン加水分解物が,免疫賦活剤の機能を有することは,下記刊行物D及び刊行物Eに記載のごとく周知である。

刊行物D:特開平8-139985号公報
(刊D-1)「【発明の名称】乳蛋白質カゼインの加水分解物からなる免疫賦活剤」

(刊D-2)「【要約】 (修正有)
【目的】病気を予防することができ,副作用のない,新規且つ安価な免疫賦活剤を提供する。
【構成】牛乳蛋白質カゼインを蛋白分解酵素により加水分解して得られる分子量300?3000の低分子ペプチドを有効成分とする免疫賦活剤。」

(刊D-3)「【特許請求の範囲】
【請求項1】牛乳蛋白質カゼインを蛋白質分解酵素トリプシンで加水分解して得られるペプチドを有効成分とする免疫賦活剤。
【請求項2】牛乳蛋白質カゼインを蛋白質分解酵素トリプシンで加水分解して得られるペプチドが,分子量300?3000であることを特徴とする請求項1項記載の免疫賦活剤。」
なお,アミノ酸の平均分子量は約100程度であることを勘案すると,分子量300は,鎖長が3つのペプチドに相当する。

刊行物E:大谷 元,「牛乳カゼイン由来のペプチドの免疫調節機能」,乳業技術,財団法人日本乳業技術協会,Vol.55,2005年9月10日,10?20頁
(刊E-1)「

」(14頁 表2)
表2には,「カゼインαs1(1-3)」を含めて,複数のアミノ酸残基数4以下のカゼイン消化物が,免疫に影響することが記載されている。

(2) イソマルツロースの機能について
本願明細書の段落【0008】に「イソマルツロースは物質代謝に殆どインスリンを必要としない。」「そのため,炭水化物を含有する独創的な飲料中のイソマルツロースの使用により,本発明の飲料は,有利な低グリセミック飲料となる。」との機能が記載されている。
しかしながら,刊行物6?刊行物8に記載されているように,イソマルツロースがインスリンの分泌を起こさない低グリセミックな機能的な食材であることは,本願優先権主張日前から周知である。

(3) 小括
上記「1 相違点1について」及び「2 相違点2について」に記したように,引用発明において,「ジペプチド及びトリペプチド等の低分子量ペプチド等を主成分とした低分子量ペプチド組成物」といった平均鎖長最大4アミノ酸の短鎖ペプチドを使用するという刊行物2記載の技術的事項を適用し,苦みのマスキングのために添加されるアスパルテームの味質の問題を避けるために,刊行物5記載の味質が良く,苦みのマスキング作用も期待できるイソマルツロースを採用し,本願発明の特定事項のごとく構成することは,当業者であれば容易に想到し得ることであり,その結果含まれることとなる,ジペプチド及びトリペプチドといった短鎖の「カゼイン加水分解物」,「イソマルツロース」の上記周知の機能に注目して,「機能性ドリンク剤」とする程度のことは,当業者が何の困難性もなくなし得ることといえる。

4 本願発明の効果について
本願明細書には次の効果が記載されている。
(1)イソマルツロースが,ほとんどインスリンを必要としない低グリセミック物質であること。(段落【0008】)
(2)「イソマルツロース・・・が用いられ,これらが,本発明に係る飲料中で使用されるタンパク質加水分解物を含有する組成物の苦味のある味質を覆い隠す」こと。(段落【0018】)
(3)「タンパク質加水分解物の存在に起因して,有利にも筋力の増強,再生或いは回復及び/又は筋肉損傷の回避を図ることが可能となる」こと。(段落【0008】)
(4)「ポリオールとは対照的に,イソマルツロースは緩下剤効果を有さない点において有利である」こと。(段落【0008】)
(5)「使用したタンパク質加水分解物中の特定のアミノ酸配列又はオリゴペプチド配列の存在に起因するものと考えられるが,驚くべきことに,免疫刺激作用が生ずる」こと。(段落【0008】)
(6)「本発明に係る炭水化物含有機能性ドリンク剤は,同甘味力とした場合,メイラード反応生成物の形成性向に関しては低レベルである」こと。(段落【0008】)
(7)「この独創的なドリンク剤は,タンパク質加水分解物が完全に溶解しているので,仕上がりが透明で,酸の存在下で安定であるという長所を有する。」(段落【0008】)

上記(1)については,上記「3(2)イソマルツロースの機能について」に記したように,刊行物1及び周知の技術的事項から当業者が予測し得る効果である。
上記(2)については,上記「2 相違点2について」に記したように,刊行物1及び周知の技術的事項から当業者が予測し得る効果である。
上記(3)については,上記「1 相違点1について」に記したように,刊行物1及び2から当業者が予測し得る効果である。
上記(4)については,パラチノースが緩下,すなわち,下痢の症状を起こしにくいことは,下記刊行物F?刊行物Gに記載のように本願優先権主張日前から周知の事項であり,当業者が予測し得たものである。
上記(5)については,上記「3(1)カゼイン加水分解物の機能について」に記したように,4アミノ酸以下の短鎖ペプチドのカゼイン加水分解物が,免疫賦活剤の機能を有することは,上記刊行物D及び刊行物Eに記載のごとく周知である。
上記(6)については,例えば下記刊行物Hに記載のように本願優先権主張日前から周知である。
上記(7)について,刊行物2には,「【0049】(7)保存安定性(沈殿生成,着色度)試験方法
カゼイン加水分解物試料を,クエン酸添加によりpH4に調整し,固形分濃度10%で水に溶解し,250mlの透明ガラスビンに充填し,85℃でホットパックして水冷し,37℃の恒温器にて2ケ月間保存し,沈殿の生成を肉眼観察し,沈殿有り(+)及び沈殿無し(-)で表した。」(刊2-4)と記載され,その結果が(刊2-5)の表1及び(刊2-6)の表2に沈殿生成「-」と記載されている。
そうすると,低分子のカゼイン分解物は,pH4という酸性条件下で2ヶ月にわたり,沈殿生成が無く溶解性を保つことが理解され,上記(7)の効果は,刊行物2から予測し得るものといえる。

そうすると,本願発明の効果は,いずれも刊行物1?8及び本願優先権主張日前から周知の技術的事項から当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。

刊行物F:特開昭64-60360号公報
(刊F-1)「試験例2
エネルギー補給用高濃度パラチノース飲料の負荷テストとしてパラチノース25%(W/V)水溶液300mlを年令22才?52才の男,女20名に摂取させ,摂取後直ちにテニスを2時間連続してプレーさせた。運動中,及び運動後の被験者の体調を調べたが下痢やその他異状を示した者は見られなかった。」(4頁右上欄1?8行)

(刊F-2)「この様な場合,運動開始前にパラチノースを使用した飲料を摂取することによりインスリン濃度に影響を与えることなく血糖値を一定レベルに維持し,血中の遊離脂肪酸を過度に高めることもなく,健康上好ましい状態で運動することが出来るので本スポーツ飲料をこの様な目的が使用してもよい。」(4頁左下欄1?7行)

刊行物G:特開2003-310168号公報
(刊G-1)「【0015】ビスケットを製造する際には甘味料を使用し,通常ビスケットを製造する際の甘味料としてはショ糖を使用するのが一般的である。しかしながら,ショ糖は,齲歯の形成に密接な関係があると考えられており,本発明のビスケットが生後6?7ヶ月以上の乳幼児を対象としていることから,ショ糖を使用せずに,代わりに齲歯を形成しにくいパラチノースを使用する。パラチノースは,砂糖のα-1,2結合を転移酵素の作用によりα-1,6結合にすることにより製造される甘味料であり,砂糖の優れた性質をできるだけ残して,かつ齲歯になりにくく,天然原料であると共に,多量に摂取しても下痢を引き起こすことのない甘味料である。」

刊行物H:特開昭60-1121号公報
(刊H-1)「2.特許請求の範囲
(1)糖配合アミノ酸輸液において,該輸液は水溶液中に糖としてパラチノースを含有することを特徴とする糖配合アミノ酸輸液。」(1頁左下欄4?7行)

(刊H-2)「本発明の糖配合アミノ酸輸液は,110℃60分の高圧蒸気滅菌条件下でメイラード反応をおこさぬことが確認された。」(3頁左下欄7?9行)

(刊H-3)「比較例としてグルコースをパラチノースの代りに同重量用いて調製したところメイラード反応を起こした。」(4頁左上欄4?6行)

5 請求人の主張について
請求人は,平成25年8月21日提出の意見書3頁の「c)」の項において,
「刊行物3もまた,当業者が,刊行物1で用いられるアスパルテームとは異なる他の甘味料(例えばイソマルツロース)を用いることに対する阻害要因を有しています。刊行物3の第402頁第2欄第3段落には,「甘味料を用いて苦味をマスキングすることを試みるとき,多くの異なる甘味料及び甘味料の組み合わせを試すことが有用である。」と記載されています。
これは,特定の化合物の苦味をうまくマスキングするのに用いられる1つの甘味料(この場合,カゼインの分解及びカルシウム由来の苦味をマスキングするアスパルテーム)を,同じ効果を有する他の甘味料に変更することは単純にはできないことを示しています。」
と主張する。

しかしながら,引用発明がアスパルテームを特定事項としており,仮に,引用発明の出願時にアスパルテームが最適であると認識されているとしても,上記「第6 2(6)小括」のi)?iii)に記したように,引用発明の「アスパルテーム」を別のより適した甘味料に置換しようとする動機がある。

そして,刊行物3の「甘味料で苦味をマスクすることを試みる場合,様々な甘味料および甘味料の組み合わせを試みることは有用である。」(刊3-5)との記載は,様々な甘味料を試すことにより,引用発明のアスパルテームの他にも苦味のマスクに適した良い甘味料が見つかるかもしれないという期待を当業者に抱かせ,アスパルテームより適した甘味料を探索しようとする動機となることはあるとしても,阻害要因とはならない。

さらに,イソマルツロースは,刊行物5に「これまで国内採用商品は,独特な苦味を持つ機能性素材に対するマスキングが主な用途となっていた」(刊5-1)と記載されているように,苦味のマスキング剤として実用化され実績のある甘味料である。
引用発明のアスパルテームを他の甘味料へと変更を試みる場合,数ある甘味料の中から苦味のマスキング剤として実績のあるイソマルツロースを選択することは,何の困難性も伴うものではないし,苦味のマスキング剤としての実績があるのであるから,カゼイン加水分解物の苦味に対してもマスキングできるであろうということは予想し得ることである。そして,本願発明において,その予想どおりの結果が得られたものであって,請求人の主張する,「特定の化合物の苦味をうまくマスキングするのに用いられる1つの甘味料(この場合,カゼインの分解及びカルシウム由来の苦味をマスキングするアスパルテーム)を,同じ効果を有する他の甘味料に変更することは単純にはできない」との主張を採用することはできない。

第7 結語
以上のとおり,本願発明は,刊行物1,2及び5に記載された発明,並びに,本願優先権主張日前から知られた周知の技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-10 
結審通知日 2013-10-16 
審決日 2013-10-29 
出願番号 特願2009-504615(P2009-504615)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 正展  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 関 美祝
小川 慶子
発明の名称 炭水化物含有スポーツドリンク  
代理人 清原 義博  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ