• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06Q
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G06Q
管理番号 1285748
審判番号 不服2012-20450  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-17 
確定日 2014-04-01 
事件の表示 特願2008-547138「携帯機器または携帯端末へ医療データを安全に転送する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月28日国際公開、WO2007/073208、平成21年 6月 4日国内公表、特表2009-521743、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2006年12月21日(パリ条約に優先権主張外国庁受理2005年12月22日,ノルウェー王国)を国際出願日とする出願であって,平成23年8月30日付けで拒絶理由通知がなされ,同年12月5日に手続補正がなされたが,平成24年6月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月17日に拒絶査定不服審判請求がなされ,当審において,平成25年6月26日付けで拒絶理由通知がなされ,同年9月25日に手続補正がなされると共に誤訳訂正がなされたものである。

第2 特許請求の範囲

本願の請求項1?7に係る発明(以下,「請求項1発明」?「請求項7発明」という。)は,平成25年9月25日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線は,審判請求人が付与したものである。)。

<特許請求の範囲>
「【請求項1】
患者の担当医からの医療データをネットワーク上の中央サーバを介して利用可能とする携帯電話へ前記医療データを転送する方法であって、
a)前記中央サーバによって、前記医療データを含む符号化された情報を前記中央サーバに登録する工程と、
b)ユーザの前記携帯電話によって、前記工程a)で登録された前記符号化された情報を前記携帯電話に転送するように前記中央サーバに申請する要求を送信する工程と、
c)前記中央サーバによって、ユーザを認証して、前記携帯電話へ、前記工程b)で転送するように申請された前記符号化された情報を、暗号化された形態で転送する工程と、
d)前記携帯電話によって、前記工程c)で前記中央サーバから転送されてきた前記符号化された情報を前記携帯電話に保存する工程と、
e)前記中央サーバによって、ユーザを認証して、前記工程d)で前記携帯電話に保存された前記符号化された情報を前記携帯電話が前記中央サーバに転送するのを許可する工程と、
f)前記携帯電話によって、前記工程e)で転送するのを許可された前記符号化された情報を前記中央サーバに転送する工程と、
g)前記中央サーバによって、前記工程f)で転送されてきた前記符号化された情報を復号して、選択された言語で前記医療データを示す画像へ変換する工程と、
h)前記中央サーバによって、前記携帯電話へ、前記工程g)で変換した画像を転送する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記工程a)において前記符号化された情報が登録された後、前記中央サーバによって、前記医療データが入手可能であることを示す通知が前記携帯電話へ送信され、前記携帯電話が、前記通知に応答する入力をユーザから受け取って、前記工程b)を実行することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記携帯電話が、前記工程c)およびe)で前記中央サーバにユーザを認証させるために、ユーザからIDおよびパスワードを受け取って該IDおよびパスワードを前記中央サーバに転送することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記医療データは、世界保健機関の国際疾病分類ICD10および国際薬剤コードシステムATC分類に基づいて符号化されていることを特徴とする請求項1?3のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記暗号化された形態の前記符号化された情報はSSL128ビット暗号化を用いて暗号化されていることを特徴とする請求項1?4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記携帯電話は、前記符号化された情報が記録されたメディカルカードを申請する入力をユーザから受け取る時に、前記中央サーバに前記符号化された情報を転送するように申請する入力をユーザから受け取って前記工程b)を実行することを特徴とする請求項1?5のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
MIDP2.0に対応した電話が前記携帯電話として用いられることを特徴とする請求項1?6のうちいずれか一項に記載の方法。」

第3 平成25年6月26日付け拒絶理由通知について

当審における,平成25年6月26日付け拒絶理由通知は,以下のとおりである。
「[理由1]
平成23年12月5日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


平成23年12月5日の手続補正により特許請求の範囲が補正され、各工程における『符号化(encode)』が『暗号化(encrypt)』に変更された。
さらに、明細書の段落【0014】【0016】【0017】も補正され、『符号化』が『暗号化』に変更された。
ここで、『符号化』は、世界保健機関の国際疾病分類ICD10および国際薬剤コードシステムATC分類に基づいて、疾病や薬剤の情報を分類コードで記述することであり、疾病や薬剤の情報を秘密にすることはできない。
これに対し、『暗号化』は、通信情報をSSLを用いて暗号化することであって、第3者に対して通信内容を秘密にすることを目的とする。
したがって、『符号化』を『暗号化』に変更する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

[理由2]
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


・請求項1、2、6
請求項1、2、6に記載された『暗号化』は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
『符号化(encode)』は、世界保健機関の国際疾病分類ICD10および国際薬剤コードシステムATC分類に基づいて、疾病や薬剤の情報を分類コードで記述することであり、『暗号化(encrypt)』は、通信情報をSSLを用いて暗号化することである。また『復号化(decode)』は、『符号化(encode)』の逆の動作であり、分類コードを疾病や薬剤の名称等に変換する動作である。
発明の詳細な説明に記載された実施の態様によれば、請求項1、2、6に記載された『暗号化』は『符号化(encode)』のことと解されるから、請求項1、2、6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 」

審判請求人は,当該拒絶理由通知に対して手続補正書を提出し,補正前の明細書の段落【0014】【0016】【0017】に記載された「暗号化」を「符号化」に補正した。また,補正前の請求項1,2,6に記載された「暗号化」を「符号化」に補正し,補正前の請求項5に記載された「前記暗号化された情報」を,「前記符号化された情報」に補正した。
この補正により,明細書、特許請求の範囲の記載は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内となり,請求項1,2,5,6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。したがって,前記拒絶理由は解消した。
前記手続補正は誤記を訂正する程度の補正であり,請求項1発明?請求項7発明を実質変更するものではないことから,本願が原査定の理由(特許法第29条第2項違反)によって拒絶すべきものか否かを,次に検討する。

第4 引用文献

1.特開2002-251471号公報

原査定の拒絶の理由において引用された特開2002-251471号公報(以下,「引用文献1」という。)には,次の事項が記載されている(下線は,当審において付与したものである。)。

A.「【請求項5】 個人の健康バロメータとなる身長、体重、血液型、血圧、体脂肪率、血液中の成分量、又以前の病歴等をパソコンから携帯電話機に記録し、病院は個人の携帯電話機に記録された事項を参考にして治療することができ、同時に該病院は病名や治療に関する内容を上記携帯電話機に記録するようにしたことを特徴とする病気治療支援システム。」

B.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は個人の病歴や治療歴、現在の健康状態などを記録することが出来る健康カード及び健康管理システムさらには病気治療支援システムに関するものである。」

C.「【0002】
【従来の技術】我々人間は多かれ少なかれ病気になり、これを治す為に病院へ行く。その為に該病院ではカルテが作られ、該カルテには病名や投薬、治療の方法等、その履歴がこと細かく記入されている。健康状態を知る為の身長、体重、血圧、脈拍数、体温、さらには血液中の各成分などは所定の検査をすれば分かるが、しかし、どの病院にしても患者が今までにどのような病気になったかは、本人に聞かなくては分からない。本人にしても自分がかかった病気に関してこと細かいことは記憶していない場合も多い。
【0003】そして、患者は1つの病院ではなく複数の病院へ行くことが多く、この場合、ある病院で作製したカルテを他の病院で使用することは出来ず、同じ病気の治療に際して同じような検査が繰り返し行われる。その為に、医療費の高騰を招き、患者にとっては繰り返し行われる検査により本格的な治療に入るのに時間がかかり、体力のない患者は命を失う場合もある。」

D.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】このように従来の医療や健康管理では上記のごとき問題がある。本発明が解決しようとする課題はこれら問題点であって、個人の健康状態を管理し、又病気になった場合には適切な治療が行い得る個人の健康カード及び健康管理・病気治療支援システムを提供する。
【0007】
【課題を解決する為の手段】本発明に係る健康カードとは、例えばICカード等の記録媒体であり、個人の健康状態、例えば身長、体重、血液型、血圧、体温、体脂肪率などを記録しておく。又以前の病歴、治療歴、行きつけの病院も記録しておき、1つのカルテとして機能する。そしてこのカードは個人が常に持ち歩き、病院へ行った際にこのカードを提出することで、患者個人の健康に関する情報が全て分かるようになっている。
【0008】病院では、このカードに記録されている情報を参考にして治療することが出来、重複した無駄な検査を行う必要がなくなる。又このカードには病院で分かった病名、大まかな治療歴などが記録されるが、個人的にも自分で測定した身長、体重、血圧などをパソコンにて入力することが出来る。」

E.「【0010】
【実施例】図1はICカードへの記録、及び記録されているICカードの読み取りを示している本発明の概略図である。ICカードはポケットに入れて持ち歩くことが出来る大きさであり、この小さなICカードに非常に多くの情報を記録する為に特別のソフトが用意される。勿論、該ソフトの具体的な構成は限定しないが、所定の事項が整然と記録される。例えば、医療機関にて疾患名を入力するならば、ICカードにはWHOで規定されている記号や番号で記録され、逆に呼び出す場合には具体的な疾患名で表示される。
【0011】ところで、パソコンを起動してカードスタートメニューを開き、必要な事項を記録することになるが、医療機関の場合には患者の病名、発病時期、完治の有無を入力する。勿論、現時点では問題があるが治療方法や使用した薬などの詳細を記入した一種のカルテと同じ内容を記入することも可能である。又健康診断を行うことで身長、体重、血圧、体脂肪率、脈拍、体温、血液型等を測定日と共に入力する。一方、自分の生年月日、持病等、分かっていることは個人的に入力することも出来る。」

F.「【0012】このICカードへの入力(書き込み)に際して別に読み取り機を設けることもあるが、具体的な読み取り機の型式は限定しない。ICカードには個人の病歴がその都度書き込まれ、自分で常に持ち歩くことにする。少なくとも病院へ行く場合には該ICカードを持参し、病院ではパソコンに該ICカードをセットして記録されている内容を読み取ることが出来る。従って最近行った検査であれば繰り返し行う必要はなく、ICカードに記録されている内容を基にして治療を即座に行うことが出来る。」

G.「【0016】一方、最近では大半の人が携帯電話機を所持している為に、この携帯電話機をICカードに変わる記録媒体として利用可能である。勿論、必要な事項の入力はパソコンで行い、該パソコンに接続して携帯電話機に記録することが出来る。逆に携帯電話機から記録されている内容をパソコンへ移すことも自由に出来る。」

前記A.?G.によれば,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

<引用発明>
「 患者は,病歴,治療歴などを記録した携帯電話機を持ち歩き,病院へ行った際にこの携帯電話機を提出し,
病院は,携帯電話機をパソコンに接続して,携帯電話機に記録されている内容をパソコンに移して表示し,その内容を基にして治療を即座に行うことが出来,また,病歴,治療歴などの入力をパソコンで行い,携帯電話機に記録することができ,
疾患名を入力すると,携帯電話機にはWHOで規定されている記号や番号で記録され,逆に呼び出す場合には具体的な疾患名で表示される,病気治療支援方法。」

2.特開2003-242263号公報

原査定の拒絶の理由において引用された特開2003-242263号公報(以下,「引用文献2」という。)には,次の事項が記載されている(下線は,当審において付与したものである。)。

A.「【請求項1】 セキュリティ管理領域を有し、暗号化された医療情報が認証番号により再暗号化されて記録された、携帯可能な半導体記録媒体と、
別途入力される前記認証番号による認証を行う認証手段と、
前記医療情報の読み出しまたは書き込みを行う読み出し/書き込み手段と、
前記読み出し/書き込み手段からの医療情報の表示を行う表示装置とを備え、
前記認証手段は、前記半導体記録媒体のセキュリティ管理領域を介し、再暗号化の際に使用した認証番号による認証処理を行い、前記認証処理が正しかった場合に、前記半導体記録媒体に記録された医療情報の復号化を行うことを特徴とする半導体記録媒体を用いた医療情報管理システム。」

B.「【0018】図1において、1は医療情報を記録する半導体記録媒体であり、カード所有者本人の医療情報を記録する医療情報記録領域2と、少なくとも認証に用いるための情報を記録するセキュリティ管理領域3とを有する。4は半導体記録媒体1との間で認証、暗号化および復号化の処理を行う認証装置、5は認証装置4で認証するための認証番号、6は認証装置4を介して半導体記録装置1との間で医療情報の読み出しまたは書き込みを行う読み出し/書き込み装置、7は医療情報を表示するための表示装置である。」

C.「【0019】半導体記録媒体1は、いわゆるICメモリーカードであり、不揮発性のメモリを有する。」

D.「【0024】半導体記憶媒体1の所有者は、医療機関、医療施設等において、認証装置4に半導体記録媒体1を装着し、認証番号5を認証装置4に入力する。認証装置4は、認証番号5により半導体記録装置1のセキュリティ管理領域3にある認証に関する情報に基づき認証処理を行う。半導体記録媒体1が正規の所有者のものであることが確認されると、医療情報記録領域2から暗号化された医療情報を読み出し、復号化処理が施されて、表示装置7に表示され、適切な医療行為を受けることができる。」

前記A.?D.によれば,引用文献2には,次の事項が記載されているといえる。

<引用文献2の記載事項>
「半導体記憶媒体の所有者は,医療機関等において,認証装置に半導体記録媒体を装着し,認証番号を認証装置に入力し,
認証装置は,認証番号により半導体記録媒体のセキュリティ管理領域にある認証に関する情報に基づき認証処理を行い,半導体記録媒体が正規の所有者のものであることが確認されると,半導体記録媒体の医療情報記録領域から暗号化された医療情報を読み出し,復号化処理を施し,
表示装置は,復号化処理された医療情報を表示する医療情報管理システム。」

3.特開平6-314288号公報

原査定の拒絶の理由において引用された特開平6-314288号公報(以下,「引用文献3」という。)には,次の事項が記載されている(下線は,当審において付与したものである。)。

A.「【請求項1】 複数項目からなる個人情報を記録した情報記録媒体と、前記情報記録媒体の複数項目からなる個人情報にアクセスを許可する項目を示すテーブルを有するアクセス権記録媒体と、前記アクセス権記録媒体を用いることにより、少なくとも前記情報記録媒体の個人情報が閲覧できる装置と、を有している情報管理システムのセキュリティシステムにおいて、前記テーブルは、前記個人情報の複数項目のうち、前記アクセス権記録媒体の所有者毎に対応してアクセスすることのできる項目を設定してあることを特徴とする情報管理システムのセキュリティシステム。」

B.「【0023】また、前記情報カードは、このカードが対象としている患者の基本情報、病歴、受けた治療方法、投薬名などが記録されており、言わばカルテのような個人の診療記録となっている。」

C.「【0031】前記アクセスカードは、所有者の身分毎に異なるアクセス権が設定されている。医師、看護婦、病院の事務員、救急隊員は、例えば前記表1に示すように、それぞれ異なるアクセス権が設定されている。尚、看護婦にあっては、例えば外科の看護婦は、内科の患者の病歴情報にはアクセスできないようにしても良い。
【0032】また、患者の所有するアクセスカードには、患者個人にあったアクセス権を記録する。」

前記A.?C.によれば,引用文献3には,次の事項が記載されているといえる。

<引用文献3の記載事項>
「 患者の病歴,受けた治療方法、投薬名などの複数項目からなる個人情報を記録した情報記録媒体と、前記情報記録媒体の複数項目からなる個人情報にアクセスを許可する項目を示すテーブルを有するアクセス権記録媒体と,前記アクセス権記録媒体を用いることにより、少なくとも前記情報記録媒体の個人情報が閲覧できる装置と,を有している情報管理システムのセキュリティシステムにおいて,
前記テーブルは,医師、看護婦、病院の事務員、救急隊員,患者個人など,前記アクセス権記録媒体の所有者毎に対応して,前記個人情報の複数項目のうちアクセスすることのできる項目を設定してあることを特徴とする情報管理システムのセキュリティシステム。」

4.特開2005-18718号公報

原査定の拒絶の理由において引用された特開2005-18718号公報(以下,「引用文献4」という。)には,次の事項が記載されている(下線は,当審において付与したものである。)。

A.「【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は医療情報管理システムに関し、特に、複数の受診者の身体情報をそれぞれの受診者が携帯する移動情報端末に選択的に送信し該身体情報を画像として受信者に提供する医療情報管理システムに関する。」

B.「【0006】
【実施例】
図1は本発明に係わる医療情報管理システムの一実施例をシステム構成図である。参照符号1はパーソナルコンピュータを表しており、パーソナルコンピュータ1は医療機関2内に設置されており,このパーソナルコンピュータ1は公衆通信システム3を介して遠隔地に設置されたサーバーコンピュータ4に接続可能である。送受信器5は公衆通信システム3とサーバーコンピュータ4との間に設置されており、公衆通信システム3を介して通知された情報をサーバーコンピュータ4に伝える。サーバーコンピュータ4は記憶装置を含んでおり、受診した情報を記憶装置に蓄積してデータベース4Aを構築する。」

C.「【0008】
・・・(中略)・・・かようにして得られる各受診者の診断は各人の分析結果およびレントゲン写真の画像と共に各受診者の身体情報としてパーソナルコンピュータ1に入力される。・・・(中略)・・・医師等がパーソナルコンピュータ1に送信を指示すると、パーソナルコンピュータ1は通信システム3を介して複数の受診者の身体情報と通信情報を送受信器5に送り、送受信器5は複数の受診者の身体情報と通信情報をサーバーコンピュータ4に引き渡す。サーバーコンピュータ4は受診者毎に身体情報と通信情報をデータベース4Aに蓄積する。」

D.「【0010】
一方,受信者が自らの身体情報を欲したとき、その受信者は自らの携帯電話6または7からサーバーコンピュータ4を呼び出し、自分の身体情報を送信するよう要求する。サーバーコンピュータ4は携帯電話6または7の番号をデータベース4Aの通信情報と比較して送信要求の適否を決定する。不当な場合はその旨を送受信器5から通信システム3を介して携帯電話6または7に送り、送信要求を拒否する。一方,送信要求が正当なら、サーバーコンピュータ4はデータベース4Aから要求した受診者の身体情報を読み出し、送受信器5に通信システム3を介して身体情報を携帯電話6または7に送るよう指示する。身体情報を受信した携帯電話6または7は身体情報を画像としてそのディスプレイに表示する。」

前記A.?D.によれば,引用文献4には,次の事項が記載されているといえる。

<引用文献4の記載事項>
「 医療機関内に設置されたパーソナルコンピュータと,
受診者の身体情報を記憶装置に蓄積するサーバーコンピュータと,
受診者の携帯電話とを備え,
パーソナルコンピュータは,入力された受診者の身体情報をサーバーコンピュータに引き渡し,
サーバーコンピュータは,受診者毎の身体情報を記憶装置に蓄積し,
携帯電話は,サーバーコンピュータを呼び出し、受診者の身体情報を送信するよう要求し,
サーバーコンピュータは,要求した受診者の身体情報を記憶装置から読み出し、携帯電話に送信し,
携帯電話は,受信した身体情報を画像としてそのディスプレイに表示する,医療情報管理システム。」

5.特開2005-115750号公報

原査定の拒絶の理由において引用された特開2005-115750号公報公報(以下,「引用文献5」という。)には,次の事項が記載されている(下線は,当審において付与したものである。)。

A.「【0005】
本発明は、上記点に鑑み、日本語の入出力機能を持たないユーザ端末にて日本語入力を容易に行うことができる日本語文章作成システムを提供することを目的とする。」

B.「【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、サーバと、サーバと通信ネットワークを介して接続されたユーザ端末とを備え、サーバは、ユーザ端末から送信される文字コードを受信する文字コード受信手段と、文字コードに対応する文字列に基づいて変換候補を検索する変換候補検索手段と、変換候補に対応する変換候補文字画像を作成する変換候補文字画像作成手段と、変換候補文字画像をユーザ端末に送信する変換候補文字画像送信手段とを有し、ユーザ端末は、サーバから送信された変換候補文字画像を受信する変換候補文字画像受信手段と、変換候補文字画像を表示部に表示する変換候補文字画像表示手段とを有し、ユーザ端末にて日本語文章を作成する日本語文章作成システムであって、
ユーザ端末は、所定の日本語文字に関する文字画像情報および文字コード情報を記憶する文字情報記憶手段と、ユーザがキー入力を行った場合、キー入力されたキーに関するキー入力情報を取得するキー情報取得手段と、文字画像情報の中からキー入力情報に応じた文字画像を取得して表示部に表示する文字画像表示手段と、文字コード情報の中からキー入力情報に応じた文字コードを取得して保持する文字コード保持手段と、ユーザより変換指示があった場合に、文字コード保持手段により保持されている文字コードをサーバに送信する文字コード送信手段とを有することを特徴としている。」

前記A.B.によれば,引用文献5には,次の事項が記載されているといえる。

<引用文献5の記載事項>
「サーバと,サーバと通信ネットワークを介して接続されたユーザ端末とを備え,サーバは,ユーザ端末から送信される文字コードを受信する文字コード受信手段と,文字コードに対応する文字列に基づいて変換候補を検索する変換候補検索手段と,変換候補に対応する変換候補文字画像を作成する変換候補文字画像作成手段と,変換候補文字画像をユーザ端末に送信する変換候補文字画像送信手段とを有し,ユーザ端末は,サーバから送信された変換候補文字画像を受信する変換候補文字画像受信手段と,変換候補文字画像を表示部に表示する変換候補文字画像表示手段とを有し,ユーザ端末にて日本語文章を作成する日本語文章作成システム。」

6.特開2002-117152号公報

原査定の拒絶の理由において引用された特開2002-117152号公報(以下,「引用文献6」という。)には,次の事項が記載されている(下線は,当審において付与したものである。)。

A.「【0057】まず、データベースは複数言語の辞書を有する。これは一般的な辞書に加えて医学専門用語の辞書なども含んでいる。データベースヘ医療情報を入力しようとする医師は、自分の母国語あるいは通常診療記録を書く言語でデータベースヘ診療記録を入力する。記録されたデータは通常記録された言語で読み出されるが、他国の医師が母国語で診療記録を閲覧したい場合には、その旨をデータベースヘ伝える。データベースは、これを受けて診療記録を所望の言語に変換した上で開示する。診療記録は病名、症状などある程度使われる単語が限られる。さらに用語によっては万国共通の医学用語もあり、医療記録の他言語への変換は比較的容易である。」

前記A.によれば,引用文献6には,次の事項が記載されているといえる。

<引用文献6の記載事項>
「複数言語の辞書を有し,
医師は、自分の母国語あるいは通常診療記録を書く言語でデータベースヘ診療記録を入力し,
他国の医師から母国語で診療記録を閲覧したい旨を受信すると,診療記録を読み出して所望の言語に変換した上で開示する,データベース。」

第5 対比・判断

1.請求項1発明

次に,請求項1発明と引用発明とを対比する。

・引用発明は,医療機関のパソコンから携帯電話機に病歴,治療歴などを記録するから,患者の担当医からの医療データを携帯電話に転送するといえる。
したがって,引用発明の病気治療支援方法と,請求項1発明の「患者の担当医からの医療データをネットワーク上の中央サーバを介して利用可能とする携帯電話へ前記医療データを転送する方法」は,「患者の担当医からの医療データを携帯電話へ転送する方法」の点で共通する。

・引用発明の「パソコンに疾患名を入力すると,ICカードにはWHOで規定されている記号や番号で記録され」は,ICカードを携帯電話機とした場合に,パソコンがWHOで規定されている記号や番号(符号化された情報)を携帯電話機に転送する工程と,携帯電話機が,パソコンから転送されてきた符号化された情報を携帯電話機に保存する工程といえる。
引用発明における,パソコンがWHOで規定されている記号や番号(符号化された情報)を携帯電話機に転送する工程と,請求項1発明の「c)前記中央サーバによって、ユーザを認証して、前記携帯電話へ、前記工程b)で転送するように申請された前記符号化された情報を、暗号化された形態で転送する工程」は,「c)前記携帯電話へ,前記符号化された情報を転送する工程」の点で共通する。
引用発明における,携帯電話機が,パソコンから転送されてきた符号化された情報を携帯電話機に保存する工程と,請求項1発明の「d)前記携帯電話によって、前記工程c)で前記中央サーバから転送されてきた前記符号化された情報を前記携帯電話に保存する工程」は,「d)前記携帯電話によって,転送されてきた前記符号化された情報を前記携帯電話に保存する工程」の点で共通する。

・引用発明の「逆に呼び出す場合には具体的な疾患名で表示される」は,携帯電話機が符号化された情報(WHOで規定されている記号や番号)をパソコンに転送する工程と,パソコンが符号化された情報を復号して医療データ(具体的な疾患名)を示す表示画像へ変換する工程とを含むといえる。
引用発明における,携帯電話機が符号化された情報をパソコンに転送する工程と,請求項1発明の「f)前記携帯電話によって、前記工程e)で転送するのを許可された前記符号化された情報を前記中央サーバに転送する工程」は,「f)前記携帯電話によって、前記符号化された情報を転送する工程」の点で共通する。
引用発明における,パソコンが符号化された情報を復号して医療データを示す表示画像へ変換する工程と,請求項1発明の「g)前記中央サーバによって、前記工程f)で転送されてきた前記符号化された情報を復号して、選択された言語で前記医療データを示す画像へ変換する工程」は,「g)前記工程f)で転送されてきた前記符号化された情報を復号して,前記医療データを示す画像へ変換する工程」の点で共通する。

したがって,請求項1発明と引用発明は,次の点で一致する。

<一致点>
「患者の担当医からの医療データを携帯電話へ転送する方法であって,
c)前記携帯電話へ,前記符号化された情報を転送する工程と,
d)前記携帯電話によって,転送されてきた前記符号化された情報を前記携帯電話に保存する工程と,
f)前記携帯電話によって,前記符号化された情報を転送する工程と,
g)前記工程f)で転送されてきた前記符号化された情報を復号して,前記医療データを示す画像へ変換する工程と,
を含む方法。」

そして,請求項1発明と引用発明は,次の点で相違する。

<相違点1>
患者の担当医からの医療データを携帯電話へ転送する際に,請求項1発明は,「ネットワーク上の中央サーバを介して」転送するのに対し,引用発明は,中央サーバがなく,携帯電話機をパソコンに接続して医療データを転送する点。

<相違点2>
請求項1発明は「a)前記中央サーバによって、前記医療データを含む符号化された情報を前記中央サーバに登録する工程」を含むのに対し,引用発明は上記工程を含まない点。

<相違点3>
請求項1発明は,「b)ユーザの前記携帯電話によって、前記工程a)で登録された前記符号化された情報を前記携帯電話に転送するように前記中央サーバに申請する要求を送信する工程」を含むのに対し,引用発明は上記工程を含まない点。

<相違点4>
「c)前記携帯電話へ,前記符号化された情報を転送する工程」が,請求項1発明では,「c)前記中央サーバによって、ユーザを認証して、前記携帯電話へ、前記工程b)で転送するように申請された前記符号化された情報を、暗号化された形態で転送する工程」であるのに対し,引用発明では,パソコによって転送する工程であり,「前記中央サーバによって、ユーザを認証して、前記携帯電話へ、前記工程b)で転送するように申請」されるものではなく,また,「暗号化された形態」で転送するものでもない点。

<相違点5>
「d)前記携帯電話によって,転送されてきた前記符号化された情報を前記携帯電話に保存する工程」が,請求項1発明では「d)前記携帯電話によって,前記工程c)で前記中央サーバから転送されてきた前記符号化された情報を前記携帯電話に保存する工程」であり,符号化された情報は,「前記工程c)で前記中央サーバから転送されてきた」ものであるのに対し,引用発明では,パソコンから転送されたものである点。

<相違点6>
請求項1発明は「e)前記中央サーバによって、ユーザを認証して、前記工程d)で前記携帯電話に保存された前記符号化された情報を前記携帯電話が前記中央サーバに転送するのを許可する工程」を含むのに対し,引用発明は,中央サーバがなく,上記工程を含まない点。

<相違点7>
「f)前記携帯電話によって,前記符号化された情報を転送する工程」が,請求項1発明では,符号化された情報を「工程e)で転送するのを許可された」とき「前記中央サーバ」に転送するのに対し,引用発明では,工程e)が無く,符号化された情報をパソコンに転送し,「中央サーバ」に転送しない点。

<相違点8>
「g)前記工程f)で転送されてきた前記符号化された情報を復号して,前記医療データを示す画像へ変換する工程」が,請求項1発明では,「前記中央サーバによって」実行される工程であり,「選択された言語」で変換するものであるのに対し,引用発明では,パソコンによって実行される工程であり,「選択された言語」で変換するものでもない点。

<相違点9>
請求項1発明は,「h)前記中央サーバによって、前記携帯電話へ、前記工程g)で変換した画像を転送する工程」を含むのに対し,引用発明は,中央サーバがなく,上記工程を含まない点。

次に,前記相違点1?9について検討する。前記相違点1?9は,いずれも「中央サーバ」に係る相違点であり,引用発明に「中央サーバ」を付加して,相違点1?9に係る構成とすることが容易に想到し得るかどうかについて検討する。
まず,引用発明は,病院のパソコンに携帯電話機を接続して,携帯電話機に記録されている病歴,治療歴などをパソコンに表示し,また,パソコンから携帯電話機にこれらのデータを記録するものである。したがって,病歴などの記録媒体となる携帯電話機と,携帯電話機を接続して読み書きを行えるパソコンがあればよく,引用発明には,中央サーバを設ける動機がないといえる。
また,引用文献2には,半導体記憶媒体に暗号化された医療情報を記憶し,その医療情報を読み出して復号化する技術が記載され,引用文献3には,情報記録媒体に記憶された患者の病歴などの複数項目からなる個人情報にアクセス権を設ける技術が記載されてるものの,これらの引用文献には「中央サーバ」が記載されていない。
また,引用文献4に記載されたサーバーコンピュータは,受診者の身体情報を記憶装置に蓄積し,その身体情報を受診者の携帯電話に送信するもので「中央サーバ」といえるが,相違点1?9に係る一連の工程については示唆されていない。
また,引用文献5には,日本語文章作成システムに用いられる,文字コードから変換候補文字画像を作成するサーバが記載されているものの,相違点1?9に係る一連の工程を示唆する記載はない。
また,引用文献6には,診療記録を所望の言語に変換した上で開示するデータベースが記載されているものの,相違点1?9に係る一連の工程を示唆する記載はない。
したがって,請求項1発明は,引用発明,引用文献2?6の記載事項に基づいて,当業者が容易に想到したものではない。

2.請求項2発明から請求項7発明

請求項2発明?請求項7発明は,請求項1発明を限定したものであり,請求項1発明の発明特定事項を全て含むものである。
したがって,請求項2発明?請求項7発明も,引用発明,引用文献2?6の記載事項に基づいて,当業者が容易に想到したものではない。

第6 むすび

以上のとおり,請求項1発明?請求項7発明は,引用発明及び引用文献2?6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから,原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-20 
出願番号 特願2008-547138(P2008-547138)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (G06Q)
P 1 8・ 121- WY (G06Q)
P 1 8・ 537- WY (G06Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青柳 光代  
特許庁審判長 手島 聖治
特許庁審判官 清田 健一
西山 昇
発明の名称 携帯機器または携帯端末へ医療データを安全に転送する方法  
代理人 酒井 宏明  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ