• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1285862
審判番号 不服2012-22346  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-12 
確定日 2014-04-07 
事件の表示 特願2008-526407「化合物を質量分析によって検出する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月22日国際公開、WO2007/019982、平成21年 2月 5日国内公表、特表2009-505082、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年8月5日(パリ条約による優先権主張2005年8月19日,(DE)ドイツ)を国際出願日とする出願であって,平成23年7月1日付けで拒絶理由が通知され,同年11月14日付けで手続補正がなされ、同年12月27日付けで拒絶理由が通知され,平成24年6月13日付けで手続補正がなされ、同年7月5日付けで拒絶査定がなされ、同年11月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けにて手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。
さらに,平成25年5月14日付けで審尋がなされ,回答書が同年11月18日付けで請求人より提出されたものである。
その後、当審において、平成26年1月10日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年2月3日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成26年年2月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項1】
ガス流(2)における化合物を質量分析によって検出する方法において、
該方法は、
a) 前記の化合物のイオンを形成するためにガス流(2)の体積ユニットをイオン化するステップを有しており、ここで当該のイオン化は、イオン化領域(8)にて前記のガス流に交わるビーム(9,10)を介して行われ、該ビームは、電子パルスまたは電子パルス列と、光子パルスまたは光子パルス列とが切換周波数で交互に切り換わることによって形成され、ただし前記のイオン化の前にガスクロマトグラフィキャピラリ(5)を通してガス流を案内し、当該ガス流の種々異なる化合物を分離し、
上記の方法はさらに
b)電場の作用領域(13)にてイオンの進路を変更して質量分析器に向かわせるステップを有しており、ただし電場のアクティブ化は、前記の光子パルスまたは光子パルス列および電子パルスまたは電子パルス列に対して時間をずらしかつクロック制御して開始され、当該の電場のアクティブ化は、前記の切換周波数の周期が経過する前に終了し、
上記の方法はさらに
c) 質量分析法によってイオンを検出するステップを有しており、
d) 前記の光子パルスまたは光子パルス列をエキシマランプ(11)によって形成し、
e) 前記の電子パルスまたは電子パルス列と、光子パルスまたは光子パルス列との切り換えを50Hz以上の切換周波数で行い、前記切り換えから次の切り換えの間に光子または電子により、連続的にまたはパルスとして150kHzまでの周波数で前記ガス流を照射する、ことを特徴とする、
ガス流(2)における化合物を質量分析によって検出する方法。」

第3 原審の拒絶理由において提示された引用刊行物およびその記載事項
1 原審の平成23年12月27日付け拒絶理由及び拒絶査定の備考において引用された刊行物は以下の3件(以下、それぞれ「刊行物1」、「刊行物2」、「刊行物3」という。)である。
(1)F. Muhlberger et al.,Comprehensive On-Line Characterization of Complex Gas Mixtures by Quasi-Simultaneous Resonance-Enhanced
Multiphoton Ionization, Vacuum-UV Single-Photon Ionizaiton, and
Electron Impact Ionizaiton in a Time-of-Flight Mass Spectrometer;
Setup and Instrument Characterization,Analitical Chemistry,
2004年10月6日(Published on Web),Vol.76, No.22,pp.6753-6764

(2)F. Muhlberger et al.,Single Photon Ionization (SPI) via Incoherent VUV-Eximer Light: Robust and Compact Time-of-Flight Mass Spectrometer for On-line Real-Time Process Gas Analysis,Analytical Chemstry,
2002年7月2日(Published on Web),Vol.74, No.15,pp.3790-3801

(3)特開2005-93152号公報

2 引用刊行物の記載事項(下線は当審で付与した。)
(1)上記刊行物1には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1-ア)
「Figure 1.・・・(B)Schematic diagram of the ion source with indicated electron gun for EI and the beam paths for REMPI and SPI as well as the position of the inlet needle.」(6755頁左欄上の図面の説明)
(当審仮訳: EIのために示された電子銃、REMPIとSPIのためのビームの通り道と針状引き入れ口の場所と共に記載されたイオン源の概略図。)

(1-イ)
「Figure 2.(A)Timing sequence for quasi-parallel use of REMPI,VUV-SPI,and EI for mass spectrometric analysis. The laser is operated at 10 Hz,the first five mass spectra per second with SPI;then the beam dump is switched so that REMPI spectra can be recorded.Between the laser ionization mass spectra,9980 single-sweep spectra are recorded with electron impact ionization.Resulting EI spectra are sum spectra of 99800 single-sweep spectra.(B)Trigger setup for the (quasi)simultaneous use of all three ionization methods.(A)Master trigger(from Nd:YAG),(B)electron extraction frequency of 10 kHz.The first two sequences of channels B and D are suppressed by a function generator.」(6757頁上の図面の説明)
(当審仮訳:図2.(A)マススペクトロメトリック分析に用いる、REMPI、VUV-SPI、EIの準並列使用のための時間調整系列。レーザーを10Hzで作動させ、最初の毎秒5個のマススペクトルをSPIで記録し、次いでREMPIスペクトルを記録するために、ビームダンプを切り替える。レーザーイオン化マススペクトル間の、9980個の単掃引スペクトルは電子衝突イオン化で記録される。得られるEIスペクトルは、9980個の単掃引スペクトルを合わせたスペクトルである。(B)3つのすべてのイオン化法の(準)同時使用のためのトリガーセットアップ。
(A)マスタートリガー(Nd:YAGから)、(B)電子取り出し(電子銃)、(C)加速プレート、(D)シグナルスイッチ。チャンネルAは作動周波数が10Hz、チャンネルB-Dは作動周波数が10kHz。チャンネルBとDの最初の2つの系列は、ファンクションジェネレーターで抑制される。)


(1-ウ)
図1(B)には、ガス入り口と、REMPI及びSPIのためのレーザーパルスを生成する手段と、EIのための電子パルスを生成する手段とを有しており、レーザーパルスと電子パルスとはイオン化領域でガス流と交わり、生成したイオンを質量分析部に向かわせるための取り出し電界を、レーザーパルスと電子パルスのそれぞれの後に、レーザーパルス及び電子パルスに対して時間をずらしマスタートリガによりクロック制御して開始し、切換周波数の周期が経過する前に終了するように生成する飛行時間型質量分析装置が記載されている。


上記(1-ア)?(1-ウ)の記載と第1?7図を参照すると,上記刊行物1には, 次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ガス入り口と、REMPI及びSPIのためのレーザーパルスを生成する手段と、EIのための電子パルスを生成する手段とを有しており、レーザーパルスと電子パルスとはイオン化領域でガス流と交わり、レーザーパルスと電子パルスとは10Hzの切換周波数で交互に切り換えられ、生成したイオンを質量分析部に向かわせるための取り出し電界を、レーザーパルスと電子パルスのそれぞれの後に、レーザーパルス及び電子パルスに対して時間をずらしマスタートリガによりクロック制御して開始し、切換周波数の周期が経過する前に終了するように生成する飛行時間型質量分析装置及びこれを用いた方法。」

(2)上記刊行物2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2-ア)
「For the mass spectra shown,the excimer lamp and the ion source were pulsed according to the scheme shown in Figure 5 with a repetition rate of 120 Hz.」(3797頁右欄4?7行)
(当審仮訳:このような質量スペクトルのために、エキシマランプとイオン源は図5に示された図面に従って繰り返しレート120Hzでパルス化される。)

(3)上記刊行物3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(3-ア)
「【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ装置(GC)を分離装置として用いた質量分析装置(GC/MS)があるが、このGC/MSにおける試料のイオン化方法として、熱電子により試料分子をイオン化する電子衝撃イオン化(EI)と、反応ガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を用いた化学イオン化(CI)とが主に用いられている。」

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「レーザーパルスと電子パルスとはイオン化領域でガス流と交わ」る「飛行時間型質量分析装置及びこれを用いた方法。」であるから、本願発明の「ガス流(2)における化合物を質量分析によって検出する方法」に相当する。

イ 引用発明の「レーザーパルスと電子パルスとはイオン化領域でガス流と交わり、レーザーパルスと電子パルスとは10Hzの切換周波数で交互に切り換えられ、」ること(工程)が、本願発明の「a) 前記の化合物のイオンを形成するためにガス流(2)の体積ユニットをイオン化するステップを有しており、ここで当該のイオン化は、イオン化領域(8)にて前記のガス流に交わるビーム(9,10)を介して行われ、該ビームは、電子パルスまたは電子パルス列と、光子パルスまたは光子パルス列とが切換周波数で交互に切り換わることによって形成され」る行程に相当することは明らかである。

ウ 引用発明の「生成したイオンを質量分析部に向かわせるための取り出し電界を、レーザーパルスと電子パルスのそれぞれの後に、レーザーパルス及び電子パルスに対して時間をずらしマスタートリガによりクロック制御して開始」すること(工程)が、本願発明の「b)電場の作用領域(13)にてイオンの進路を変更して質量分析器に向かわせるステップを有しており、ただし電場のアクティブ化は、前記の光子パルスまたは光子パルス列および電子パルスまたは電子パルス列に対して時間をずらしかつクロック制御して開始され、当該の電場のアクティブ化は、前記の切換周波数の周期が経過する前に終了し、
上記の方法はさらに
c) 質量分析法によってイオンを検出するステップを有」する行程に相当することは明らかである。

そうすると,両者は,
(一致点)
「 ガス流における化合物を質量分析によって検出する方法において、
該方法は、
a) 前記の化合物のイオンを形成するためにガス流の体積ユニットをイオン化するステップを有しており、ここで当該のイオン化は、イオン化領域にて前記のガス流に交わるビームを介して行われ、該ビームは、電子パルスまたは電子パルス列と、光子パルスまたは光子パルス列とが切換周波数で交互に切り換わることによって形成され、
上記の方法はさらに
b)電場の作用領域にてイオンの進路を変更して質量分析器に向かわせるステップを有しており、ただし電場のアクティブ化は、前記の光子パルスまたは光子パルス列および電子パルスまたは電子パルス列に対して時間をずらしかつクロック制御して開始され、当該の電場のアクティブ化は、前記の切換周波数の周期が経過する前に終了し、
上記の方法はさらに
c) 質量分析法によってイオンを検出するステップを有している、
ことを特徴とする、
ガス流における化合物を質量分析によって検出する方法。」である点で一致し,以下の点で相違するといえる。

(相違点1)
イオン化の前のガス流について、本願発明では「ガスクロマトグラフィキャピラリを通してガス流を案内し、当該ガス流の種々異なる化合物を分離し」ているのに対して、引用発明では、何も特定していない点。

(相違点2)
光子パルスまたは光子パルス列の形成について、本願発明では「エキシマランプによって形成し、
e) 前記の電子パルスまたは電子パルス列と、光子パルスまたは光子パルス列との切り換えを50Hz以上の切換周波数で行い、前記切り換えから次の切り換えの間に光子または電子により、連続的にまたはパルスとして150kHzまでの周波数で前記ガス流を照射する」のに対して、引用発明ではレーザーパルスと電子パルスとは10Hzの切換周波数で交互に切り換えられるがその他の特定をしていない点。

(2)相違点1についての検討
まず、本願発明の技術的意義は、「【0011】 これらのことから出発して本発明が課題とするのは、ガス流から化合物を検出する方法および装置を提供して、測定範囲を広くしかつ時間的な分解能力を格段に高くすることである。」と記載されている。
刊行物3の上記摘記事項(3-ア)には「・・・ ガスクロマトグラフ装置(GC)を分離装置として用いた質量分析装置(GC/MS)があるが、このGC/MSにおける試料のイオン化方法として、熱電子により試料分子をイオン化する電子衝撃イオン化(EI)と、反応ガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を用いた化学イオン化(CI)とが主に用いられている。」と記載されているが、光子パルスを用いる点は記載されていないので、光子パルスを用いる引用発明に、ガスクロマトグラフ装置(GC)を分離装置として用いて、「ガスクロマトグラフィキャピラリを通してガス流を案内し、当該ガス流の種々異なる化合物を分離」する行程を付加するための動機付けがない。
してみると、引用発明と刊行物3記載の事項から、相違点1に記載の本願発明の構成を容易に想到できたものとはいえない。

(3)相違点2についての検討
刊行物2の上記摘記事項(2-ア)には「このような質量スペクトルのために、エキシマランプとイオン源は図5に示された図面に従って繰り返しレート120Hzでパルス化される。」と記載されているが、光子パルスのみの繰り返しレートであり、電子パルスまたは電子パルス列と、光子パルスまたは光子パルス列との切り換え周波数ではないので、引用発明の「10Hz」を「50Hz」以上とすることの動機付けがない。
してみると、引用発明と刊行物2記載の事項から、相違点2に記載の本願発明の構成を容易に想到できたものとはいえない。

(4)作用効果についての検討
上記相違点1、2に係る本願発明の構成によって、本願発明は、前記【0011】に記載された課題を解決する顕著な作用効果を奏する。

第4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明および刊行物2、3記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができないから、原査定の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-20 
出願番号 特願2008-526407(P2008-526407)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01N)
P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 波多江 進  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 森林 克郎
信田 昌男
発明の名称 化合物を質量分析によって検出する方法および装置  
代理人 久野 琢也  
復代理人 島村 暁  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ