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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H04R
審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 取り消して特許、登録 H04R
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04R
管理番号 1285864
審判番号 不服2013-6680  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-11 
確定日 2014-04-01 
事件の表示 特願2007-172828「イヤフォン」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月24日出願公開、特開2008- 17473、請求項の数(33)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成19年6月29日(パリ条約による優先権主張 2006年6月30日 米国(US))に出願したものであって、手続きの概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成24年 2月23日(起案日)
意見書 :平成24年 4月18日
手続補正 :平成24年 4月18日
拒絶査定 :平成24年12月 4日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年 4月11日
手続補正 :平成25年 4月11日
審尋 :平成25年 7月10日(起案日)
回答書 :平成26年 1月16日

第2 平成25年4月11日付けの手続補正の適否

1.本件補正

平成25年4月11日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、本件補正前に、
「 【請求項1】
装置であって、
並列の反応性要素と抵抗性要素とを含んだ第1音響チャンバと、
音響振動子によって前記第1音響チャンバから隔離された第2音響チャンバと、
装着者の耳の耳甲介から前記装置を支持し、かつ前記装着者の耳の耳孔内に前記第2音響チャンバを伸ばしている延伸部を含むハウジングと、
を含み、前記延伸部には音響ダンパが含まれていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記音響ダンパは前記第2音響チャンバ内で開口部を覆っていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記音響ダンパの一部は穴を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第2音響チャンバの壁は、該第2音響チャンバを自由空間に連結している穴を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記ハウジングの一部を取り囲み、前記ハウジングを装着者の耳の前記耳甲介および耳孔に接続しているクッションをさらに含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記クッションは、第1の硬さを有する第1の材料で形成された外部領域と、第2の硬さを有する第2の材料で形成された内部領域と、を含んでいることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の材料は、ショア硬度Aスケールで、およそ3?12の硬さを有していることを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の材料は、ショア硬度Aスケールで、およそ8の硬さを有していることを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記第2の材料は、ショア硬度Aスケールで、およそ30?90の硬さを有していることを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項10】
前記第2の材料は、ショア硬度Aスケールで、およそ40の硬さを有していることを特徴とする、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記クッションの第1領域は前記第2音響チャンバを前記耳孔に接続するための形状に形成され、前記クッションの第2領域は前記耳に前記装置を保持するための形状に形成されて、前記第2領域は前記耳孔内に伸びていないことを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項12】
前記クッションは取り外し可能であることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項13】
異なったサイズのクッションのセットを含んでいることを特徴とする、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記反応性要素と前記抵抗性要素とは、前記第1音響チャンバに、およそ30Hz?100Hzの間で共振を生じさせていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記抵抗性要素は抵抗性ポートを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記反応性要素は反応性ポートを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記抵抗性要素は抵抗性ポートを含み、かつ前記反応性要素は反応性ポートを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
前記反応性ポートは、前記第1音響チャンバを自由空間に連結しているチューブを含んでいることを特徴とする、請求項16に記載の装置。
【請求項19】
前記反応性ポートは約1.0?約1.5mmの間の直径および約10?約20mmの長さを有していることを特徴とする、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記反応性ポートは約1.2mmの直径を有していることを特徴とする、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
前記反応性ポートと前記抵抗性ポートとは、径方向に関して略対向した位置で前記第1音響チャンバに連結されていることを特徴とする、請求項17に記載の装置。
【請求項22】
前記反応性ポートと前記抵抗性ポートとは、前記第1音響チャンバに露出した振動子の面上の圧力変動を減少するように配置されていることを特徴とする、請求項17に記載の装置。
【請求項23】
前記音響振動子の中心の周囲に略均等に分散された複数の反応性または抵抗性ポートをさらに含んでいることを特徴とする、請求項17に記載の装置。
【請求項24】
前記音響振動子の中心の周囲に略均等に分散された複数の抵抗性ポートをさらに含み、該抵抗性ポートは前記音響振動子の略中心において前記第1音響チャンバに連結されていることを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項25】
前記音響振動子の中心の周囲に略均等に分散された複数の反応性ポートをさらに含み、該反応性ポートは前記音響振動子の略中心において前記第1音響チャンバに連結されていることを特徴とする、請求項16に記載の装置。
【請求項26】
前記第1音響チャンバは前記音響振動子のバスケットに適合している壁によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項27】
前記第1音響チャンバは、前記音響振動子によって占められる体積を含み、約0.4cm3より小さい容積を有していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項28】
前記第1音響チャンバは、前記音響振動子によって占められる体積を除いて、約0.2cm3より小さい容積を有していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項29】
前記第2音響チャンバは前記振動子と前記ハウジングとで形成され、
該ハウジングは第1および第2の穴を形成し、
該第1の穴は装着者の耳の中に伸びている壁の先端に位置しており、
かつ前記第2の穴は、前記装置が装着者の耳の中に配置されている場合に、前記第2音響チャンバを自由空間に連結するように配置され、
音響ダンパは、前記第1の穴を横断して配置され、該第1の穴よりも小さい直径を持った第3の穴を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項30】
前記音響振動子に提供された信号の特性を調整するための回路をさらに含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項31】
一組の請求項1に記載の装置を含んだイヤフォンセット。
【請求項32】
受動的な均等化回路を含み、該回路周波数応答は入力音響信号を形成し、前記形成された音響信号は前記音響振動子を駆動していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項33】
前記受動的な均等化回路は秒オーダーのフィルタであることを特徴とする、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
前記受動的な均等化回路はTブリッジ回路であることを特徴とする、請求項32に記載の装置。」
とあったところを、

本件補正後、
「 【請求項1】
装置であって、
並列の反応性要素と抵抗性要素とを含んだ第1音響チャンバと、
音響振動子によって前記第1音響チャンバから隔離された第2音響チャンバと、
装着者の耳の耳甲介から前記装置を支持し、かつ前記装着者の耳の耳孔内に前記第2音響チャンバを伸ばしている延伸部を含むハウジングと、
を含み、
前記延伸部には音響ダンパが含まれ、
前記音響ダンパの一部は穴を形成していることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記音響ダンパは前記第2音響チャンバ内で開口部を覆っていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2音響チャンバの壁は、該第2音響チャンバを自由空間に連結している穴を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記ハウジングの一部を取り囲み、前記ハウジングを装着者の耳の前記耳甲介および耳孔に接続しているクッションをさらに含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記クッションは、第1の硬さを有する第1の材料で形成された外部領域と、第2の硬さを有する第2の材料で形成された内部領域と、を含んでいることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記第1の材料は、ショア硬度Aスケールで、およそ3?12の硬さを有していることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の材料は、ショア硬度Aスケールで、およそ8の硬さを有していることを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記第2の材料は、ショア硬度Aスケールで、およそ30?90の硬さを有していることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項9】
前記第2の材料は、ショア硬度Aスケールで、およそ40の硬さを有していることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記クッションの第1領域は前記第2音響チャンバを前記耳孔に接続するための形状に形成され、前記クッションの第2領域は前記耳に前記装置を保持するための形状に形成されて、前記第2領域は前記耳孔内に伸びていないことを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項11】
前記クッションは取り外し可能であることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項12】
異なったサイズのクッションのセットを含んでいることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記反応性要素と前記抵抗性要素とは、前記第1音響チャンバに、およそ30Hz?100Hzの間で共振を生じさせていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記抵抗性要素は抵抗性ポートを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記反応性要素は反応性ポートを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記抵抗性要素は抵抗性ポートを含み、かつ前記反応性要素は反応性ポートを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置
【請求項17】
前記反応性ポートは、前記第1音響チャンバを自由空間に連結しているチューブを含んでいることを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記反応性ポートは約1.0?約1.5mmの間の直径および約10?約20mmの長さを有していることを特徴とする、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記反応性ポートは約1.2mmの直径を有していることを特徴とする、請求項17に記載の装置。
【請求項20】
前記反応性ポートと前記抵抗性ポートとは、径方向に関して略対向した位置で前記第1音響チャンバに連結されていることを特徴とする、請求項16に記載の装置。
【請求項21】
前記反応性ポートと前記抵抗性ポートとは、前記第1音響チャンバに露出した振動子の面上の圧力変動を減少するように配置されていることを特徴とする、請求項16に記載の装置。
【請求項22】
前記音響振動子の中心の周囲に略均等に分散された複数の反応性または抵抗性ポートをさらに含んでいることを特徴とする、請求項16に記載の装置。
【請求項23】
前記音響振動子の中心の周囲に略均等に分散された複数の抵抗性ポートをさらに含み、該抵抗性ポートは前記音響振動子の略中心において前記第1音響チャンバに連結されていることを特徴とする、請求項14に記載の装置。
【請求項24】
前記音響振動子の中心の周囲に略均等に分散された複数の反応性ポートをさらに含み、該反応性ポートは前記音響振動子の略中心において前記第1音響チャンバに連結されていることを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項25】
前記第1音響チャンバは前記音響振動子のバスケットに適合している壁によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項26】
前記第1音響チャンバは、前記音響振動子によって占められる体積を含み、約0.4cm3より小さい容積を有していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項27】
前記第1音響チャンバは、前記音響振動子によって占められる体積を除いて、約0.2cm3より小さい容積を有していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項28】
前記第2音響チャンバは前記振動子と前記ハウジングとで形成され、
該ハウジングは第1および第2の穴を形成し、
該第1の穴は装着者の耳の中に伸びている壁の先端に位置しており、
かつ前記第2の穴は、前記装置が装着者の耳の中に配置されている場合に、前記第2音響チャンバを自由空間に連結するように配置され、
音響ダンパは、前記第1の穴を横断して配置され、該第1の穴よりも小さい直径を持った第3の穴を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項29】
前記音響振動子に提供された信号の特性を調整するための回路をさらに含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項30】
一組の請求項1に記載の装置を含んだイヤフォンセット。
【請求項31】
受動的な均等化回路を含み、該回路周波数応答は入力音響信号を形成し、前記形成された音響信号は前記音響振動子を駆動していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項32】
前記受動的な均等化回路は秒オーダーのフィルタであることを特徴とする、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記受動的な均等化回路はTブリッジ回路であることを特徴とする、請求項31に記載の装置。」
とするものである。

上記本件補正の内容は、補正前の請求項1については、これを削除するものであり、補正前の請求項3については、引用形式で記載された請求項を引用形式ではない記載に改めて補正後の請求項1としたものであって、実質的には補正がなされていないものであり、補正前の請求項2、4ないし34については、それぞれ、補正前の請求項2、4ないし34の発明特定事項である「音響ダンパ」(補正前の請求項2、4ないし34が直接若しくは間接に引用する請求項1の記載)について「音響ダンパの一部は穴を形成している」(補正後の請求項2ないし33が直接若しくは間接に引用する請求項1の記載)と限定したものである。
本件補正は、補正前の請求項1については、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当し、補正前の請求項2、4ないし34については、発明特定事項を限定するものであって、補正前の請求項2、4ないし34に記載された発明と補正後の請求項2ないし33に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の請求項2ないし33に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。補正後の請求項2ないし33は、請求項1を直接若しくは間接に引用する請求項であるところ、まず、補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、検討する。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-66181号公報(平成10年3月6日公開、以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、音質を改善したイヤホンに関する。
【0002】
【従来の技術】イヤホンは、基本的には図6に示すように構成されている。すなわち、符号1は、オーディオ信号を音響に変換する電気音響変換素子を示し、これは例えばムービングコイル形に構成され、振動板11を有する。そして、素子1の放音側、つまり、前面には、振動板11の保護板2が設けられるとともに、この保護板2には、振動板11からの音波を通過させる透孔21が形成される。
【0003】さらに、この保護板2の前面は、イヤーピース3で覆われる。このイヤーピース3は、イヤホンの使用時、リスナの耳孔に挿入される部分であり、このため、例えば適度の弾力性を有するプラスチック材により、外耳道の入り口に対応した形状に形成される。そして、その先端には、放音用の開口(透孔)31が形成される。
【0004】また、素子1の背面は、プラスチック材により形成されたカバー4により覆われる。この場合、カバー4の内部において、素子1の背面には所定の容積の気室41が形成されるとともに、この気室41が透孔42を通じて外部に開放され、素子1の背面に所定の制動抵抗を有する音響回路が構成される。
【0005】さらに、素子1には、カバー4を通じてイヤホンコード5が接続される。
【0006】したがって、イヤーピース3を耳孔へ挿入すれば、素子1の発した音は、イヤーピース3を通じて外耳道へと導かれ、これを聴くことができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上述のイヤホンの周波数特性を測定すると、例えば図2に曲線Xで示すようになり、低音域が過剰で、こもった音になってしまう。
【0008】これは、音響等価回路によると、次のように説明される。すなわち、上述のイヤホンにおいては、イヤーピース3により素子1の前面に気室32が形成されるとともに、この気室32はほぼ閉じている。このため、図5に音響等価回路を示すように、気室32が音響負荷として作用するとともに、この気室32は容量性(容量CL)を示す。したがって、低音域では、制動側が容量制御になるので、ほぼ平坦な周波数特性になる。しかし、高音域では慣性制御になるので、レベル不足になる。つまり、図2に曲線Xで示すような周波数特性となる。」

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)引用例1には、「イヤホン」が記載されている(【0001】)。

(b)オーディオ信号を音響に変換する電気音響変換素子1は、例えばムービングコイル形に構成され、振動板11を有する(【0002】)。

(c)イヤーピース3は、イヤホンの使用時、リスナの耳孔に挿入される部分であり、例えば適度の弾力性を有するプラスチック材により、外耳道の入り口に対応した形状に形成される。そして、その先端には、放音用の開口(透孔)31が形成される(【0003】)。

(d)電気音響変換素子1の背面は、プラスチック材により形成されたカバー4により覆われる。カバー4の内部において、電気音響変換素子1の背面には所定の容積の気室41が形成されるとともに、この気室41が透孔42を通じて外部に開放される(【0004】)。

(e)イヤーピース3を耳孔へ挿入すれば、電気音響変換素子1の発した音は、イヤーピース3を通じて外耳道へと導かれ、これを聴くことができる(【0006】)。

(f)イヤーピース3により電気音響変換素子1の前面に気室32が形成される(【0008】)。

以上を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「イヤホンであって、
振動板11を有する電気音響変換素子1と、
イヤホンの使用時、リスナの耳孔に挿入される部分であり、その先端には、放音用の開口(透孔)31が形成されるイヤーピース3と、
電気音響変換素子1の背面を覆うカバー4と、
を含み、
イヤーピース3により電気音響変換素子1の前面に気室32が形成され、 カバー4の内部において、電気音響変換素子1の背面には所定の容積の気室41が形成されるとともに、この気室41が透孔42を通じて外部に開放されるイヤホン。」

3.対比

そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)装置
引用発明の「イヤホン」は、「装置」といえる。

(2)第1音響チャンバ
引用発明の、カバー4の内部において、電気音響変換素子1の背面に形成される所定の容積の気室41は、本件補正発明でいう「第1音響チャンバ」といえる。
本件補正発明の「反応性要素」は、明細書【0007】の記載に照らせば、反応性ポートを含んでおり、反応性ポートは「第1音響チャンバ」を自由空間に連結しているチューブを含んでいると解せられるところ、引用発明の「透孔42」も気室41を外部に開放するものであるから、「反応性要素」といえる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「反応性要素を含んだ第1音響チャンバ」を含む点で一致する。
もっとも、本件補正発明と引用発明とは、「第1音響チャンバ」について、本件補正発明は、反応性要素と並列に抵抗性要素を含むのに対し、引用発明は、反応性要素と並列に抵抗性要素を含まない点で相違する。

(3)第2音響チャンバ
引用発明の、振動板11を有する電気音響変換素子1は、「音響振動子」といえる。引用発明の、イヤーピース3により電気音響変換素子1の前面に形成される気室32は、本件補正発明でいう「第2音響チャンバ」といえる。引用発明において、電気音響変換素子1は、気室41から気室32を隔離している。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「音響振動子によって前記第1音響チャンバから隔離された第2音響チャンバ」を含む点で一致する。

(4)ハウジング
引用発明のイヤーピース3及びカバー4は、リスナの耳甲介にイヤホンを支持する「ハウジング」といえる。引用発明のイヤーピース3は、イヤホンの使用時、リスナの耳孔に挿入される部分であるから、イヤーピース3により電気音響変換素子1の前面に形成される気室32は、リスナの耳孔内に伸ばされている。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「装着者の耳の耳甲介から前記装置を支持し、かつ前記装着者の耳の耳孔内に前記第2音響チャンバを伸ばしている延伸部を含むハウジング」を含む点で一致する。

(5)音響ダンパ
本件補正発明と引用発明とは、本件補正発明が、「前記延伸部には音響ダンパが含まれ、前記音響ダンパの一部は穴を形成している」のに対し、引用発明は、イヤーピース3の、イヤホンの使用時、リスナの耳孔に挿入される部分に、音響ダンパといえるものを含まない点で相違する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「装置であって、
反応性要素を含んだ第1音響チャンバと、
音響振動子によって前記第1音響チャンバから隔離された第2音響チャンバと、
装着者の耳の耳甲介から前記装置を支持し、かつ前記装着者の耳の耳孔内に前記第2音響チャンバを伸ばしている延伸部を含むハウジングと、
を含みんでいる装置。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(1)「第1音響チャンバ」について、本件補正発明は、反応性要素と並列に抵抗性要素を含むのに対し、引用発明は、反応性要素と並列に抵抗性要素を含まない点。

(2)本件補正発明が、「前記延伸部には音響ダンパが含まれ、前記音響ダンパの一部は穴を形成している」のに対し、引用発明は、イヤーピース3の、イヤホンの使用時、リスナの耳孔に挿入される部分に、音響ダンパといえるものを含まない点。

4.判断

そこで、上記相違点(2)について検討する。

原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-260824号公報(以下「引用例5」という。)には、イヤホンチューブ7内に設けられた音響ダンパ8が記載され、同じく特開2003-143684号公報(以下「引用例6」という。)には、音道管16に設けられる音響フィルタ32が記載されている。
しかしながら、引用例5、6のいずれにも、音響ダンパないし音響フィルタの一部が穴を形成していることは記載されていない。
したがって、引用発明に、引用例5、6に記載された音響ダンパないし音響フィルタを適用しても、相違点(2)を克服することはできない。

また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-172691号公報(以下「引用例2」という。)には、背部気室14に低音補償用パイプ15と並列に設けられた開口11及び音響抵抗体12が記載され、同じく特開平7-170591号公報(以下「引用例3」という。)には、筐体20の後部空間にダクト部18と並列に設けられた透孔26及び制動板27が記載され、同じく特開平11-308685号公報(以下「引用例4」という。)には、後側空洞14にポート16と並列に設けられた音響的抵抗開口17が記載されている。
しかしながら、引用例2ないし4は、相違点(1)について引用されたものであって、相違点(2)について引用されたものではなく、引用例2ないし4のいずれにも、イヤホンの使用時、リスナの耳孔に挿入される部分に、音響ダンパを設けることは記載されていない。
したがって、引用発明に、引用例2ないし4に記載された構成を適用しても、相違点(2)を克服することはできない。

また、前置報告に引用された特開平3-32199号公報(以下「引用例7」という。)には、耳介装着部3の先端付近に設けられた開口部としての小孔7が記載され、同じく特開昭60-224396号公報(以下「引用例8」という。)には、穴20、21を設けた前面音響抵抗板10が記載されている。
しかしながら、引用例7に記載された、開口部としての小孔7が設けられた耳介装着部3の先端付近、引用例8に記載された、穴20、21を設けた前面音響抵抗板10は、いずれも、音響ダンパといえるものではなく、小孔7、穴20、21は、いずれも、音響ダンパの一部に形成した穴といえるものではない。
したがって、引用発明に、引用例7、8に記載された構成を適用しても、相違点(2)を克服することはできない。

ましてや、相違点(1)、(2)をともに克服することが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

したがって、本件補正発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2ないし8に記載された構成に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

補正後の請求項2ないし33は、請求項1を直接若しくは間接に引用する請求項であるから、補正後の請求項2ないし33に係る発明も、本件補正発明と同様に、引用例1に記載された発明及び引用例2ないし8に記載された構成に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

よって、補正後の請求項2ないし33についてする補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たす。

5.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項に規定する要件を満たす。

第3 本願発明について

本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項に規定する要件を満たすから、本願の請求項1ないし33に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし33に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、本願の請求項1に係る発明は、上記のとおり、引用例1に記載された発明及び引用例2ないし8に記載された構成に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2ないし33は、請求項1を直接若しくは間接に引用する請求項であるから、請求項2ないし33に係る発明も、請求項1に係る発明と同様に、引用例1に記載された発明及び引用例2ないし8に記載された構成に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由によっては拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-14 
出願番号 特願2007-172828(P2007-172828)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H04R)
P 1 8・ 121- WY (H04R)
P 1 8・ 65- WY (H04R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邊 正宏  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 関谷 隆一
萩原 義則
発明の名称 イヤフォン  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 渡邊 隆  

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