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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04R |
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管理番号 | 1285881 |
審判番号 | 不服2013-20298 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-18 |
確定日 | 2014-04-01 |
事件の表示 | 特願2009-552066「音声環境の分類に依存した耳鳴りの軽減のための音質向上」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月12日国際公開、WO2008/106975、平成22年 6月10日国内公表、特表2010-520683、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2008年3月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年3月7日、デンマーク王国、2007年3月7日、米国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成24年8月23日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月25日付けで手続補正がされたが、同年6月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成25年2月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 音質向上システム(2)が、 雑音信号を与えるための雑音発生器(4)と; 前記音質向上システム(2)を使用する間は、前記雑音信号を、ユーザーに提供される音響信号に変換する出力トランスデューサー(6)と;を備え、 前記音質向上システム(2)は、さらに前記音質向上システム(2)の周囲の音声環境を、分類するように適応された環境分類器(32)を備え、前記音質向上システム(2)は、前記分類に依存して、前記雑音信号を調整するように適応されていることを特徴とする耳鳴りの軽減を与えるための音質向上システム(2)。」 (以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 第3 原査定の理由の概要 本願の請求項1ないし21に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1:特表2004-513725号公報 刊行物2:特開平10-80000号公報 刊行物3:特開平6-204749号公報 第4 当審の判断 1.刊行物の記載事項 A 原査定の拒絶の理由に主たる引用例として引用された特表2004-513725号公報(刊行物1)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【特許請求の範囲】 【請求項1】 音楽を表す第1の電気信号を生成する音響合成装置と、前記第1の電気信号を音に変換する出力トランスデューサとを内蔵する、耳の後ろ、耳の中または耳道内に装着される電子装置。 【請求項2】 ハウジングと、音響入力信号を第2の電気信号に変換する入力トランスデューサ(1)と、前記第2の電気信号に基づいて第3の電気信号を発生することによって聴覚障害を補償するディジタル信号処理手段(2)と、前記第1と第3の電気信号を組み合わせて第4の電気信号にする手段と、前記第4の電気信号を音に変換する出力トランスデューサ(3)とを有する補聴器内に設けられる、請求項1に記載の電子装置。 【請求項3】 ハウジングと、音響入力信号を第2の電気信号に変換する入力トランスデューサ(1)と、前記第1と第2の電気信号との組み合わせに基づいて第3の電気信号を発生することによって聴覚障害を補償するディジタル信号処理手段(2)とを有する補聴器内に設けられ、前記出力トランスデューサ(3)は、前記第3の電気信号を音に変換するものである、請求項1に記載の電子装置。 【請求項4】 前記第1の電気信号は、耳鳴りの治療に用いるのに適したものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の電子装置。」(2頁) ロ.「【0001】 【技術分野】 この発明は、耳の後ろ、耳の中または耳道内に装着され、音楽を表す電気信号を発生する音響合成装置(音楽合成装置;ミュージック・シンセサイザ)および前記電気信号を音に変換する出力トランスデューサを内蔵する電子装置に関する。この発明は、さらに、両耳補聴器システムおよび音響合成(音楽合成;ミュージック・シンセサイジング)方法に関する。」(4頁) ハ.「【0004】 【従来技術】 耳鳴りは、自覚的(subjective)および他覚的(objective)な形態で起こる。ブジイング(ぶんぶんという音)(buzzing)、リンギング(ringing)、ホイッスリング(ぴゅーという音)(whistling)、ヒッシング(しゅーという音)(hissing)などの頭の中の雑音(ノイズ)が聞こえる感じがする人は、耳鳴りを病んでいると言われる。この感覚が外因なしに起こる人の場合は、耳鳴りは自覚的である。頭の中の雑音を検査員が聞くことまたは測定することができる場合は、耳鳴りは他覚的である。頭の中の雑音が断続的に聞こえることもあれば、こうした雑音が経時的に別の形に変化することもある。 【0005】 耳鳴りを病んでいる人が外部的に生成された音を聴くことによって耳鳴りから解放されたと知覚できるということがよく知られている。 【0006】 外部的に生成される音は、耳鳴りをマスク(mask)することができる。一般に、マスキング(masking)という用語は、他の音が存在する間における耳鳴りへの影響(作用、効果)(influence)を意味する。しかしながら、この影響は、マスキング音(masking sound)が絶えた後も継続しうる。このマスキングが完全である場合、すなわちマスク音が存在している間は耳鳴りが聞こえない場合もあれば、マスキングが部分的である場合、すなわちマスク音が存在している間でも耳鳴りがより低音量で聞こえる場合もある。電子的ノイズ信号に基づいて音を生成するマスキング装置は、従来技術において周知である。ノイズ発生装置、たとえばある一定の帯域幅を有する定常ノイズを提供する擬似ランダム(pseudo-random)ノイズ発生装置が用いられてきた。しかしながら、一般にランダム・ノイズを聴くことは気持ちのよいものではなく、プラスのマスキング効果を得るためには、ノイズが耳鳴りそのものより心地よく聴けることが必要である。」(4頁) ニ.「【0012】 【発明の開示】 この発明の目的は、感情的に中性(中立、中間)であり、かつ心を乱すことがない音響信号(音信号)を生成する装置を提供することにより、これによって耳鳴りを病んでいる人がこの音響信号を長時間にわたって、安心感を持って、したがって合成音により心を乱されることなしに、気持ちよく聞くことができるようにすることである。好ましくは、この装置は、減感受性または慣れに有用なものである。」(5頁) ホ.「【0016】 この発明は、第1の態様において、耳の後ろ、耳の中または耳道内に装着する電子装置を提供するものであり、この電子装置は、音楽を表す第1の電気信号を発生する音響合成装置(ミュージック・シンセサイザ)と、前記第1の電気信号を音に変換する出力トランスデューサとを内蔵する。 【0017】 前記装置は、音響合成装置を手動的または自動的にオフする手段を内蔵しうる。前記装置はさらに、スピーチや音楽等の所望の信号を検出し、前記所望の信号の検出により音響合成装置を自動的にオフにする手段を含みうる。 【0018】 前記装置は、入力トランスデューサと、出力トランスデューサと、ディジタル信号処理手段と、前記出力トランスデューサにより再生されるべき音楽を表す電気信号を発生する音響合成装置(ミュージック・シンセサイザ)とを備えたディジタル式補聴器等の補聴器に内蔵されうる。好ましくは、音響合成装置は、ディジタル信号処理手段に内蔵される。すなわち、ディジタル信号処理手段が音響合成装置の機能を達成するように構成される。 【0019】 この発明の好適な実施例において、ディジタル信号処理手段は、さらに、聴覚障害の補償を行なうように構成される。このため、前記補聴器は、耳鳴りおよび聴覚障害を病んでいる人により使用することができる。 【0020】 このようなこの発明の実施例において、合成された音楽は、好ましくは、合成音楽の全周波数範囲が補聴器の使用者(ユーザ)によって聞くことができるように、聴覚障害の補償の前において信号経路内に導入される。」(6頁) ヘ.「【0042】 【実施例】 図1に、この発明にしたがった電子装置を備えた補聴器の概略図が示されている。この補聴器は、環境からの音を受信して対応する電子信号を発生するマイクロホン1を備えている。入力トランスデューサは指向性タイプであってもよく、たとえば、入力トランスデューサは1個を超える数のマイクロホンを備え、いくつかの入力信号を組み合わせて単一の信号にするものでもよい。この電子信号は、アナログ-ディジタル変換器7を介してディジタル信号処理装置(プロセッサ)2に供給される。それが適切である場合は、アナログ-ディジタル変換器の前に、前置増幅器(図示せず)が設けられうる。使用者(ユーザ)が耳鳴りに加えて聴覚障害を病んでいる場合は、ディジタル信号処理装置2は、前記信号を処理して聴覚障害を修正し、好ましくは、合成された音楽の全周波数範囲を補聴器の使用者が聴くことができるように、合成された音楽が、聴覚補償の前に、信号経路に導入される。 【0043】 補聴器はさらに、音響合成(音楽合成)装置(ミュージック・シンセサイザ)10を含み、ディジタル信号処理装置(ディジタル信号プロセッサ)2は、補聴器処理装置(補聴器プロセッサ)5および音響合成装置10を制御する制御装置6を備えている。この実施例において、音響合成装置10はディジタル信号処理装置2に集積(一体化)されている。 【0044】 図1および2に示されているように、音響合成装置10の出力信号は、ディジタル信号処理装置2の前(段)または後(段)のいずれかの箇所(点)で、接続部13を介して、それぞれ加算ノード11または12において補聴器の主信号経路に供給されうる。 【0045】 図3により詳細に示されているように、電子装置は、合成音楽(シンセサイズド・ミュージック)を生成する一組(一セット)の音響発生器(サウンド・ジェネレータ)16a?16eを備えている。音響発生器は図6にさらに詳細に示されている。各音響発生器は、インパルスにより励起または起動(作動)される減衰発振器(damped oscillator)161を備えている。音響発生器16により発生する信号の波形を決定する音響発生器16のさまざまなパラメータは、制御装置6により調節(整)される。これらのパラメータは、生成(発生)する信号の周波数、最大振幅、持続時間、立上り時間、立下り時間およびスペクトル成分(spectral content)を決定する。これらのパラメータは、図7に示される発生信号の図に明示されている。このようにして、音響発生器16は、ピアノやフルート等の周知の楽器をシュミレートすることができる。このように、起動(作動)と同時に、音響発生器は、特定の音量、音響形態(sonorous figure)および持続時間を持つ特定の音(トーン)を表す信号を生成する(発生する)。」(9頁) 上記刊行物1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の【請求項1】における「音楽を表す第1の電気信号を生成する音響合成装置と、前記第1の電気信号を音に変換する出力トランスデューサとを内蔵する、耳の後ろ、耳の中または耳道内に装着される電子装置。」との記載、及び図1によれば、電子装置は、音楽を表す第1の電気信号を生成する音響合成装置と、前記第1の電気信号を音に変換する出力トランスデューサとを備えている。 また、上記ホ.の【0017】における「前記装置は、音響合成装置を手動的または自動的にオフする手段を内蔵しうる。前記装置はさらに、スピーチや音楽等の所望の信号を検出し、前記所望の信号の検出により音響合成装置を自動的にオフにする手段を含みうる。」との記載によれば、電子装置は、スピーチや音楽等の所望の信号を検出し、前記所望の信号の検出により音響合成装置を自動的にオフにする手段を備えている。すなわち、電子装置は、スピーチや音楽等の所望の信号を検出する機能を備えており、これを検出手段ということができ、そして、電子装置は、前記所望の信号の検出により音響合成装置を自動的にオフにしている。 また、上記イ.の【請求項4】における「前記第1の電気信号は、耳鳴りの治療に用いるのに適したものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の電子装置。」との記載によれば、電子装置は、耳鳴りの治療に用いるのに適したものである。 したがって、上記刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「電子装置が、 音楽を表す第1の電気信号を生成する音響合成装置と、 前記第1の電気信号を音に変換する出力トランスデューサと、を備え、 前記電子装置は、さらにスピーチや音楽等の所望の信号を検出する検出手段を備え、前記電子装置は、前記所望の信号の検出により音響合成装置を自動的にオフにする耳鳴りの治療に用いるのに適した電子装置。」 B 原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-80000号公報(刊行物2)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ト.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、少なくとも1つの電気音響入力変換器と、信号処理装置と、電気音響出力変換器とを有し、前記信号処理装置は、信号変換器、アンプ、デジタル信号プロセッサ及びメモリ手段を有するプログラミング可能な補聴器に関する。 【0002】 【従来の技術】その種補聴器は、DE-B-2716336から公知である。マイクロホンが、入力源として設けられており、上記マイクロホンは、アンプに接続されており、該アンプには、A/D変換器が後続している。該A/D変換器は、コンピュータブロックに接続されており、該コンピュータブロックの出力側には、D/A変換器が接続されている。該D/A変換器は終段、出力アンプに接続されており、該終段、出力アンプ、増幅器には、出力変換器として補聴器が接続されている。プログラミング可能な補聴器の信号処理装置は、メモリ付きマイクロプロセッサを有し得、集積化ユニットとして構成され得る。ここで、マイクロプロセッサにて、複数の入力信号、例えば、マイクロホン及び検出誘導コイルからの信号を相互に相関させ得る。 【0003】耳鳴りとは、それに対して外部の原因が存在しない騒音、ノイズを、耳又は頭部にて認知するような病気として扱われる。このことは、極めて不快であり、重傷の場合は身体的、かつ、精神的障害を惹起するおそれがある。科学的文献中で明らになっているところによれば、多年に亘って、耳鳴り症状ないしその悩みを次のようにして和らげることが研究、調査されている、即ち、耳に供給される信号により、耳鳴り騒音をカバー、隠蔽 する、ないし、耳に供給される信号を耳鳴り騒音よりも勝ったものにするのである。 【0004】WO90/07251からは、耳鳴りマスカー(tinnitus-masker)ないしマスキング装置が公知であり、耳鳴りマスカー(tinnitus-masker)ないしマスキング装置は、ケーシング間に配置された電子回路と、患者の耳鳴りとカバー、隠蔽し得る音響スペクトル発生のためのイヤホンないしレシーバを有し、ここで、音響品質の調整のための音量制御器が設けられている。この装置の場合電子回路は、次のように構成されている、即ち、イヤホンないしレシーバにより生ぜしめられた音響スペクトルが、基音を含む線スペクトルを有し、ここで上記基音の周波数は、利用者により調整可能であるように構成されている。耳鳴りマスカー(tinnitus-masker)ないしマスキング装置は、独立した機器であるか、それとも補聴器内に組込まれており、ここで、マスカー(tinnitus-masker)ないしマスキング装置と補聴器との組合せ結合体を耳鳴り-器械、器具(tinnitus instrument:補聴器とtinnitus maskerとの組合せ体)とも称される。上記器具は、耳鳴り及び同時に聴力障害発生の際使用されるものであり、上記の耳鳴り及び同時の聴力障害は、大部分の耳鳴り患者において起こることである。耳鳴りの処置ないし耳鳴-療法のため、公知の装置は、アナログ回路で動作する。耳鳴りマスカー(tinnitus-masker)ないしマスキング装置は、次のようなノイズを生成する、即ち限られた範囲内で、各々の患者に対して周波数及びレベル領域に関して個別に適合化し得るようなノイズを生成する。前記の療法の目標は、マスキングノイズを次のように調整することである、即ち耳鳴りが患者には知覚されず、その代わりに、比較的快適なマスキングノイズが可聴になるように調整することである。」(2頁2欄?3頁3欄) 上記刊行物2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ト.の【0004】における「耳鳴りマスカー(tinnitus-masker)ないしマスキング装置は、次のようなノイズを生成する、即ち限られた範囲内で、各々の患者に対して周波数及びレベル領域に関して個別に適合化し得るようなノイズを生成する。前記の療法の目標は、マスキングノイズを次のように調整することである、即ち耳鳴りが患者には知覚されず、その代わりに、比較的快適なマスキングノイズが可聴になるように調整することである。」との記載によれば、耳鳴りマスカー(tinnitus-masker)は、限られた範囲内で、各々の患者に対して周波数及びレベル領域に関して個別に適合化し得るようなノイズを生成している。 したがって、上記刊行物2には、以下の発明(以下、「技術事項1」という。)が記載されているものと認められる。 「限られた範囲内で、各々の患者に対して周波数及びレベル領域に関して個別に適合化し得るようなノイズを生成する耳鳴りマスカー(tinnitus-masker)。」 C 原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-204749号公報(刊行物3)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 チ.「【0001】 【産業上の利用分野】オーディオ産業、オフィス機器関連産業、あるいは生活環境の改善を指向した建築産業などの分野。」(2頁1欄) リ.「【0004】 【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、本発明は、白色雑音に狭帯域フィルタを施して取り出されたところの狭帯域雑音の振幅もしくは該振幅に比例した量に、入力信号がある一定値より小さい場合はより小さい値として出力するような非線形信号処理を施して非線形振幅信号を得、該非線形振幅信号によって白色雑音あるいは音質調整された白色雑音を振幅変調することを特徴とする環境改善用ゆらぎ雑音発生法をその手段とするものである。」(2頁1欄) 上記刊行物3の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記リ.の【課題を解決するための手段】における「該非線形振幅信号によって白色雑音あるいは音質調整された白色雑音を振幅変調することを特徴とする環境改善用ゆらぎ雑音発生法」との記載によれば、環境改善用ゆらぎ雑音発生法は、非線形振幅信号によって白色雑音あるいは音質調整された白色雑音を振幅変調している。 したがって、上記刊行物3には、以下の発明(以下、「技術事項2」という。)が記載されているものと認められる。 「非線形振幅信号によって白色雑音あるいは音質調整された白色雑音を振幅変調する環境改善用ゆらぎ雑音発生法。」 2.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 a.引用発明の「音楽を表す第1の電気信号を生成する音響合成装置」と、本願発明の「雑音信号を与えるための雑音発生器(4)」とは、いずれも、「特定の音信号を与えるための特定の音発生手段」という点で一致する。 b.引用発明の「前記第1の電気信号を音に変換する出力トランスデューサ」は、引用発明の「音」は、「ユーザに提供される音響信号」といえ、上記a.の対比を考慮すると、「前記特定の音信号を、ユーザーに提供される音響信号に変換する出力トランスデューサー」ということができる。 c.引用発明の「スピーチや音楽等の所望の信号を検出する検出手段」と、本願発明の「前記音質向上システム(2)の周囲の音声環境を、分類するように適応された環境分類器(32)」とは、引用発明の「スピーチや音楽等の所望の信号」は、電子装置の周囲の音声環境といえるから、下記e.の対比を考慮すると、いずれも、「前記音質向上システムの周囲の音声環境を、検出する検出手段」という点で一致する。 d.引用発明の「前記所望の信号の検出により音響合成装置を自動的にオフにする」と、本願発明の「前記分類に依存して、前記雑音信号を調整するように適応されている」とは、いずれも、「特定の制御をする」という点で一致する。 e.引用発明の「耳鳴りの治療に用いるのに適した電子装置」は、耳鳴りの治療に用いる以上、耳鳴りの軽減をするものであることは明らかであり、これを音質の点で捉えれば、音質を向上させるシステムといえるから、「耳鳴りの軽減を与えるための音質向上システム」ということができる。 したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。 (一致点) 「音質向上システムが、 特定の音信号を与えるための特定の音発生手段と; 前記特定の音信号を、ユーザーに提供される音響信号に変換する出力トランスデューサーと;を備え、 前記音質向上システムは、さらに前記音質向上システムの周囲の音声環境を、検出する検出手段を備え、前記音質向上システムは、特定の制御をする耳鳴りの軽減を与えるための音質向上システム。」 (相違点1) 「特定の音信号を与えるための特定の音発生手段」に関し、 本願発明は、「雑音信号を与えるための雑音発生器(4)」であるのに対し、引用発明は、「音楽を表す第1の電気信号を生成する音響合成装置」である点。 (相違点2) 「出力トランスデューサー」に関し、 本願発明は、「前記音質向上システム(2)を使用する間は」、前記雑音信号を、ユーザーに提供される音響信号に変換するのに対し、引用発明は、当該「前記音質向上システム(2)を使用する間は」との特定がない点。 (相違点3) 「前記音質向上システムの周囲の音声環境を、検出する検出手段」に関し、 本願発明は、「前記音質向上システム(2)の周囲の音声環境を、分類するように適応された環境分類器(32)」であるのに対し、引用発明は、「スピーチや音楽等の所望の信号を検出する検出手段」である点。 (相違点4) 「特定の制御をする」に関し、 本願発明は、「前記分類に依存して、前記雑音信号を調整するように適応されている」のに対し、引用発明は、「前記所望の信号の検出により音響合成装置を自動的にオフにする」点。 3.判断 (1)請求項1について そこで、まず、上記相違点1について検討する。 引用発明は、「音楽を表す第1の電気信号を生成する音響合成装置」であるところ、上記刊行物1の上記ハ.の【0006】における「電子的ノイズ信号に基づいて音を生成するマスキング装置は、従来技術において周知である。ノイズ発生装置、たとえばある一定の帯域幅を有する定常ノイズを提供する擬似ランダム(pseudo-random)ノイズ発生装置が用いられてきた。しかしながら、一般にランダム・ノイズを聴くことは気持ちのよいものではなく、プラスのマスキング効果を得るためには、ノイズが耳鳴りそのものより心地よく聴けることが必要である。」との記載によれば、ノイズ(雑音)信号を利用することには欠点があると記載されているから、引用発明の「音響合成装置」を「雑音発生器」に置換するという動機付けを見いだすことができない。 また、上記技術事項1は、「限られた範囲内で、各々の患者に対して周波数及びレベル領域に関して個別に適合化し得るようなノイズを生成する耳鳴りマスカー(tinnitus-masker)。」が記載されている。しかしながら、前述したとおり刊行物1には、ノイズ(雑音)信号を利用することには欠点があると記載されているから、引用発明に上記技術事項1を採用して、引用発明の「音響合成装置」を「雑音発生器」に置換するという動機付けを見いだすことができない。 次に、上記相違点2について検討する。 引用発明は、「前記第1の電気信号を音に変換する出力トランスデューサ」を備えるところ、通常の使用形態において、出力トランスデューサが音に変換することが必要な時は、電子装置(音質向上システム)を使用する間であるから、出力トランスデューサが、「前記音質向上システム(2)を使用する間は」、ユーザーに提供される音響信号に変換する動作をすることは自然である。 次に、上記相違点3及び4について検討する。 引用発明は、「スピーチや音楽等の所望の信号を検出する検出手段」及び「前記所望の信号の検出により音響合成装置を自動的にオフにする」ところ、本願明細書段落【0017】における「環境分類器は、多くの区別可能な音声分類に従って、周囲の環境を分類するように、適応される。これらの音声の分類は、例えば、クリーンなスピーチ(speach)(又は、実質的に、クリーンなスピーチ);及び/又は、雑音又は音楽の中にある声;及び/又は、雑音そのものと、から構成される。雑音の音声分類は、例えば、多くの相違するタイプの雑音の分類、例えば、交通における雑音;風における雑音;レストランにおける雑音;又は、”カクテルパーティ”における雑音に細かく分けることができる。”」との記載によれば、環境分類器は、多くの区別可能な音声分類に従って、周囲の環境を分類するように、適応されるものである。そうすると、引用発明の「スピーチや音楽等の所望の信号を検出する検出手段」は、単にスピーチや音楽等の所望の信号の有無を検出する程度であり、これに対応する動作も「前記所望の信号の検出により音響合成装置を自動的にオフにする」に過ぎず、音声環境を分類することに相当する処理及びこれに対応する調整動作は行われていないから、上記相違点3及び4における本願発明の発明特定事項である「前記音質向上システム(2)の周囲の音声環境を、分類するように適応された環境分類器(32)」である点、「前記分類に依存して、前記雑音信号を調整するように適応されている」点を、引用発明から導き出すことはできない。 そして、本願発明は、上記各発明特定事項を備えることにより、種々の音声環境の分類に依存して、雑音信号を調整することによって、ユーザがスピーチを理解するのに悪い影響を与えることがないようにすることができ、スピーチの理解度を最大にし、同時に、耳鳴りの軽減を最大にするという作用効果を奏するものである。 なお、上記技術事項2は、請求項1を直接又は間接的に引用する従属項に対し進歩性を否定する根拠として引用されたものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び上記技術事項1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)請求項2ないし21について 請求項2ないし21は、請求項1を直接又は間接的に引用する従属項であり、本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(1)と同じ理由により、引用発明及び上記技術事項1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1ないし21に係る発明は、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-03-19 |
出願番号 | 特願2009-552066(P2009-552066) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H04R)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | ▲吉▼澤 雅博 |
特許庁審判長 |
酒井 伸芳 |
特許庁審判官 |
関谷 隆一 萩原 義則 |
発明の名称 | 音声環境の分類に依存した耳鳴りの軽減のための音質向上 |
代理人 | 稲本 潔 |
代理人 | 冨田 雅己 |
代理人 | 野河 信太郎 |
代理人 | 金子 裕輔 |
代理人 | 甲斐 伸二 |