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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04R |
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管理番号 | 1285916 |
審判番号 | 不服2013-18980 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-01 |
確定日 | 2014-04-09 |
事件の表示 | 特願2007- 38「音声信号の出力方法、スピーカシステム、携帯機器及びコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月17日出願公開、特開2008-167345、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成19年1月4日の出願であって、原審において平成23年11月18日付けで拒絶理由が通知され、平成24年1月20日付けで手続補正がされ、同年7月31日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年10月5日付けで手続補正がされ、平成25年5月1日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月10日付けで手続補正がされたが、同年6月28日付けで補正の却下の決定がされるとともに、同日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月1日に拒絶査定不服審判が請求され、平成26年3月3日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年3月6日付けで手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成26年3月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 音声信号の出力方法において、 DSP(Digital Signal Processor)にて、音声信号に対し、第1の帯域のレベルの減衰によるパワーの低下と、前記第1の帯域とは異なる第2の帯域のレベルの増幅によるパワーの上昇とが等しくなるように、前記第1の帯域のレベルを減衰するとともに、前記第2の帯域のレベルを増幅し、かつ、前記減衰及び増幅を行った音声信号が、スピーカアンプに対して予め定められた最大許容入力信号レベルを超えないような信号処理を行う段階1と、 前記減衰及び増幅を行った音声信号を、前記スピーカアンプを介してスピーカから出力する段階2と を含むことを特徴とする音声信号の出力方法。」 (以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 第3 原査定の理由の概要 本願の請求項1ないし10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1:特開平8-110783号公報 刊行物2:特開2005-110216号公報 刊行物3:特開平9-51283号公報 刊行物4:特開2000-287294号公報 刊行物5:実願昭56-125056号(実開昭58-30320号)のマイクロフィルム 刊行物6:実願平5-13343号(実開平6-70397号)のCD-ROM 第4 当審の判断 1.刊行物の記載事項 A 原査定の拒絶の理由に主たる引用例として引用された特開平8-110783号公報(刊行物1)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、オーディオ信号伝送回路に関し、より具体的には、ハイファイオーディオ装置のスピーカの応答特性の補正を行い、忠実な原音質を再現するオーディオ信号伝送回路及びオーディオ信号伝送系に設けたコンボルバの係数を求めるコンボルバの係数演算装置に関する。」(2頁1欄) ロ.「【0012】 【実施例】 第1実施例 図1は本発明のオーディオ信号伝送回路の一実施例を示す構成図である。図1において、2チャンネルステレオ方式の音源1L、1Rは所定のオーディオ信号ソースである。スピーカの応答特性を補正して振幅及び位相特性を同時に補正するためのコンボルバ2L、2Rと、アンプ3L、3Rがスピーカ4L、4Rと音源1L、1Rの間に設けられている。15は後述する切換器を切換制御してスピーカ4L、4Rの応答特性を実測してコンボルバの補正フィルタ係数を求めるとともに、その求めた補正フィルタ係数をコンボルバ2L、2Rに与えて畳み込み演算することによりスピーカの補正を行うように制御する制御部である。スピーカ4L、4Rの応答特性の実測に基づいて求めた補正フィルタ係数を記憶するためのメモリ16が設けられており、制御部15の制御に基づいてスピーカ4L、4Rの応答特性を実測時にはオーディオ信号の伝送系路からコンボルバ2L、2Rを切り離し、スピーカ4L、4Rの応答特性の補正時にはオーディオ信号の伝送系路にコンボルバ2L、2Rを設けるように切り換えるための切換器7L、7Rが設けられている。 【0013】すなわち、図1に示す構成は、スピーカ4L、4Rのインパルス応答を測定し、スピーカ4L、4Rの特性を打ち消し平坦な特性に補正すべく、オーディオ信号の伝送系路に設けたコンボルバ2L、2Rのフィルタ係数を計算制御することにより、振幅と位相を同時に補正して伝送特性の所定の帯域のみを一定に保ち、音質の改善を図って忠実な原音質を再現するようにして、例えばスピーカやヘッドホンで避けられなかった音像のゆがみを除去して自然なオーディオ信号を楽しむことができるようにするものである。 【0014】ここで、コンボルバ2L、2Rのフィルタ係数は、図2に示す測定システムにより係数データとして演算される。すなわち、図2は、図1において、切換器7L、7Rを端子ga、ha側にそれぞれ接続してコンボルバ2L、2Rを設けない状態で、図示しない無響室内で聴取位置に相当する測定位置に設けられたマイクロホン8により、この位置におけるスピーカ4L、4Rのインパルス応答を測定し、スピーカ4L、4Rの応答特性を打ち消し、平坦な特性に補正すべく、オーディオ信号の伝送系路に設けたコンボルバ2L、2Rのフィルタ係数を算出し、畳み込み演算してスピーカ4L、4Rの応答特性を補正することにより振幅及び位相特性を同時に補正する理想インパルス応答を実現するためのシステム構成図である。」(3頁4欄) ハ.「【0027】第2実施例 上記の第1実施例では、実測した振幅特性の所定の中域の周波数帯域のみの振幅をフラットに置き換えたターゲットを設定し、これに基づいてコンボルバのフィルタ係数を求めるようにしたが、この第2実施例では、上述した第1実施例のターゲット特性を第1のターゲット特性とするのに対し、所定の中域の周波数帯域より低い帯域及び高い帯域においては、応答特性の振幅を所定の割合でロールオフするようにした第2のターゲット特性を決定し、これら第1と第2のターゲット特性に対応するコンボルバの第1と第2のフィルタ係数をそれぞれ算出し、その第1と第2のフィルタ係数の設定に基づいた特性測定をそれぞれ行うことにより補正された第1と第2の振幅特性を求め、その第1と第2の振幅特性のうち偏差値のピークをそれぞれサーチして、求められたそれら偏差値のピークを比較して偏差が少ない方のフィルタ係数を選択判定する。 【0028】つまり、所定の中域の周波数帯域より低い帯域及び高い帯域において、振幅特性が所定の割合でロールオフするようにして低域を増強するとともに高域を減衰させるようにし、いわゆるバス・トレブル特性を付加してコンボルバのフィルタ係数を設定することにより、歪のない音質となるとともに所定の音質が得られ、低域と高域の歪混入・増長を避けながら伝送経路の補正が行える効果が期待できるが、この場合のフィルタ係数の設定と第1実施例に係るフィルタ係数の設定に基づく特性測定によって、同じ係数長によって所定のターゲットに対する偏差が少ない方を選択して、実際のスピーカ固有の特性に適合したものを得る。 【0029】図7は図2に示す測定システムを用いてワークステーション13により上記の偏差の比較に基づいてフィルタ係数を選択する制御動作を示すフローチャートである。まず、図2に示す測定システムにより、スピーカの応答を測定する(ステップS61)。その実測結果に基づいて第1実施例と同様に所定の中域の周波数帯域のみの振幅をフラットに置き換えたターゲット特性を第1のターゲット特性とするとともに、所定の中域の周波数帯域より低い帯域及び高い帯域においては、応答特性の振幅を所定の割合でロールオフするようにした第2のターゲット特性を設定し(ステップS62a、S62b)、これら第1と第2のターゲット特性に対応するコンボルバの第1と第2のフィルタ係数をそれぞれ算出する(ステップS63a、S63b)。 【0030】次に、その第1と第2のフィルタ係数に基づいた特性測定をそれぞれ行うことにより第1と第2の振幅特性を求め、すなわち、オーディオ信号伝送系にインパルスを入力して算出されたフィルタ係数のコンボルバを通すことにより第1と第2の振幅特性をそれぞれ求め(ステップS64a、S64b)、その第1と第2の振幅特性のうち偏差値のピークをそれぞれサーチして(ステップS65a、S65b)、求められたそれら偏差値のピークを比較し(ステップS66)、偏差が少ない方のフィルタ係数を選択すべく判定する(ステップS67、S68)。このようにすることにより、同じ係数長によって所定のターゲットに対する偏差が少ない方を選択して、実際のスピーカ固有の特性に適合したものを得ることができる。」(5頁7?8欄) 上記刊行物1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ロ.の【0012】における「図1は本発明のオーディオ信号伝送回路の一実施例を示す構成図である。図1において、2チャンネルステレオ方式の音源1L、1Rは所定のオーディオ信号ソースである。スピーカの応答特性を補正して振幅及び位相特性を同時に補正するためのコンボルバ2L、2Rと、アンプ3L、3Rがスピーカ4L、4Rと音源1L、1Rの間に設けられている。」との記載、及び図1によれば、オーディオ信号伝送回路は、コンボルバ(2L、2R)にて、オーディオ信号ソースに対し、補正を行ったオーディオ信号を、アンプ(3L、3R)を介してスピーカ(4L、4R)から出力している。これを方法として捉えると、コンボルバ(2L、2R)にて、オーディオ信号ソースに対し、補正を行ったオーディオ信号を、アンプ(3L、3R)を介してスピーカ(4L、4R)から出力するオーディオ信号の出力方法ということができる。 また、上記ハ.の【0029】における「図7は図2に示す測定システムを用いてワークステーション13により上記の偏差の比較に基づいてフィルタ係数を選択する制御動作を示すフローチャートである。まず、図2に示す測定システムにより、スピーカの応答を測定する(ステップS61)。その実測結果に基づいて第1実施例と同様に所定の中域の周波数帯域のみの振幅をフラットに置き換えたターゲット特性を第1のターゲット特性とするとともに、所定の中域の周波数帯域より低い帯域及び高い帯域においては、応答特性の振幅を所定の割合でロールオフするようにした第2のターゲット特性を設定し(ステップS62a、S62b)、これら第1と第2のターゲット特性に対応するコンボルバの第1と第2のフィルタ係数をそれぞれ算出する(ステップS63a、S63b)。」との記載、同ハ.の【0030】における「その第1と第2のフィルタ係数に基づいた特性測定をそれぞれ行うことにより第1と第2の振幅特性を求め・・・(ステップS64a、S64b)、その第1と第2の振幅特性のうち偏差値のピークをそれぞれサーチして(ステップS65a、S65b)、求められたそれら偏差値のピークを比較し(ステップS66)、偏差が少ない方のフィルタ係数を選択すべく判定する(ステップS67、S68)。」との記載、及び図7によれば、コンボルバの係数演算装置は、スピーカの応答を測定し、所定の中域の周波数帯域のみの振幅をフラットに置き換えたターゲット特性を第1のターゲット特性とするとともに、所定の中域の周波数帯域より低い帯域及び高い帯域においては、応答特性の振幅を所定の割合でロールオフするようにした第2のターゲット特性を設定し、これら第1と第2のターゲット特性に対応するコンボルバの第1と第2のフィルタ係数をそれぞれ算出し、その第1と第2のフィルタ係数に基づいた特性測定をそれぞれ行うことにより第1と第2の振幅特性を求め、その第1と第2の振幅特性のうち偏差値のピークをそれぞれサーチして、求められたそれら偏差値のピークを比較し、偏差が少ない方のフィルタ係数を選択すべく判定している。すなわち、コンボルバの係数演算装置は、所定の中域の周波数帯域のみの振幅を平坦に置き換えた第1のターゲット特性と、所定の中域の周波数帯域より低い帯域及び高い帯域において、振幅を所定の割合でロールオフする第2のターゲット特性で、コンボルバのフィルタ係数をそれぞれ算出し、それらの振幅特性の偏差のピークを比較して偏差が少ない方のフィルタ係数を選定している。ここで、第1のターゲット特性を採用した場合について、前述のコンボルバ(2L、2R)における信号処理方法として捉えると、コンボルバ(2L、2R)の信号処理方法は、所定の中域の周波数帯域のみの振幅を平坦に置き換えた第1のターゲット特性とする補正を行う方法ということができる。 したがって、上記刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「オーディオ信号の出力方法において、 コンボルバ(2L、2R)にて、オーディオ信号ソースに対し、所定の中域の周波数帯域のみの振幅を平坦に置き換えた第1のターゲット特性とする補正を行う段階と、 前記補正を行ったオーディオ信号を、アンプ(3L、3R)を介してスピーカ(4L、4R)から出力する段階と を含むオーディオ信号の出力方法。」 B 原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-110216号公報(刊行物2)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ニ.「【技術分野】 【0001】 本発明は、音響再生装置およびそれを備えた携帯端末装置に関し、より特定的には、パネルを音の圧力で音響的に駆動させる機能を有する音響再生装置および携帯端末装置に関する。」(4頁) ホ.「【0060】 図6は、実施の形態3に係る音響再生装置における信号処理を行う機能を示すブロック図である。図6に示すように、音響再生装置は、再生すべき音響信号に対して信号処理を行う信号処理部70を備えている。信号処理部70は、ローパスフィルタ(LPF)71と、ハイパスフィルタ(HPF)72と、位相調整部73と、レベル調整部74とを備える。信号処理部70は、2つの音響信号を入力する。ここで、2つの音響信号は同じ信号であり、一方の音響信号はHPF72に入力され、他方の音響信号はLPF71に入力される。また、信号処理部70から出力された一方の信号は透明電極52に入力され、他方の信号は電気機械音響変換器54に入力される。 【0061】 LPF71は音響信号から低音域成分を抽出する。抽出する周波数のカットオフ周波数は、第1の駆動方法によって発生させることが可能な音の周波数に設定する。つまり、第1の駆動方法によってスピーカ58が駆動可能な周波数に設定する。一方、HPF72は音響信号から高音域成分を抽出する。抽出する周波数のカットオフ周波数は、第2の駆動方法によって発生させることが可能な音の周波数に設定する。つまり、第2の駆動方法によってスピーカ58を駆動させることが可能な周波数に設定する。また、LPF71のカットオフ周波数は、HPFのカットオフ周波数よりも低い周波数に設定し、LPF71を通過する信号の周波数帯域とHPF72を通過する信号の周波数帯域とが重複しないようにする。なお、LPF71およびHPF72が理想的なフィルタであるとする場合には、HPF72およびLPF71のカットオフ周波数を同一にするとよい。これによって、ある所定の周波数(カットオフ周波数)よりも低い周波数の信号のみが電気機械音響変換器54に入力され、当該所定の周波数よりも高い周波数の信号のみが透明電極52に入力されることとなる。 【0062】 以上によって、低音域に関しては第1の駆動方法による振動のみがスピーカ58に与えられ、高音域に関しては第2の駆動方法による振動のみがスピーカ58に与えられることとなる。このように、重複帯域をなくすことによって、重複帯域において音圧レベルが低下することを防止することができる。なお、第1の駆動方法による再生音の音圧レベルは、一般的に、ある周波数で急激に音圧レベルが低下する特性となる。従って、第1の駆動方法による再生音の音圧レベルは、高音域において、LPFを用いなくとも十分に低下する場合がある。そのような場合には信号処理部70は、HPFのみを含む(LPFを含まない)構成としてもよい。 【0063】 次に、信号の位相を調整する処理を説明する。HPF72から出力された信号およびLPF71から出力された信号は、位相調整部73に入力される。位相調整部73は、入力した2つの信号の少なくとも一方の信号の位相を調整する。具体的には、重複帯域において2つの信号の位相が逆位相にならないように調整する。これによっても、重複帯域において音圧レベルが低下することを防止することができる。 【0064】 なお、HPF72およびLPF71を用いる方法ならびに位相を調整する方法は、いずれか一方のみを行うようにしてもよい。いずれか一方のみであっても、重複帯域において音圧レベルが低下することを防止することができる。 【0065】 次に、信号のレベルを調整する処理を説明する。ここで、もし、電気機械音響変換器54および透明電極52に同一の信号を入力した場合であっても、電気機械音響変換器54によってスピーカ58が音響的に駆動される場合の音圧レベルと、透明電極52によってスピーカ58自身が駆動する場合の音圧レベルとは、必ずしも同じにはならない。もし両者が異なる場合には、低音域のみ大きな音が発生したり、逆に、高音域のみ大きな音が発生することになる。レベル調整部74は、低音域および高音域において同程度の音圧レベルとなるように信号を調整するための処理である。以下、詳細を説明する。 【0066】 位相調整部73から出力された2つの信号は、レベル調整部74に入力される。レベル調整部74は、入力した2つの信号の少なくともいずれか一方のレベルを調整する。具体的には、電気機械音響変換器54によってスピーカ58が音響的に駆動される場合の音圧レベルと、透明電極52によってスピーカ58自身が駆動する場合の音圧レベルとが同程度になるように、信号のレベルを調整する。これによって、低音域および高音域において同程度の大きさの音を再生することができる。」(12?13頁) 上記刊行物2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ホ.の【0065】における「信号のレベルを調整する処理を説明する。ここで、もし、電気機械音響変換器54および透明電極52に同一の信号を入力した場合であっても、電気機械音響変換器54によってスピーカ58が音響的に駆動される場合の音圧レベルと、透明電極52によってスピーカ58自身が駆動する場合の音圧レベルとは、必ずしも同じにはならない。もし両者が異なる場合には、低音域のみ大きな音が発生したり、逆に、高音域のみ大きな音が発生することになる。レベル調整部74は、低音域および高音域において同程度の音圧レベルとなるように信号を調整するための処理である。」との記載によれば、音響再生装置のレベル調整部(74)は、低音域および高音域において同程度の音圧レベルとなるように信号を調整している。これを、方法として捉えると、音響再生装置のレベル調整部(74)において、低音域および高音域において同程度の音圧レベルとなるように信号を調整する方法ということができる。 したがって、上記刊行物2には、以下の発明(以下、「技術事項1」という。)が記載されているものと認められる。 「音響再生装置のレベル調整部(74)において、低音域および高音域において同程度の音圧レベルとなるように信号を調整する方法。」 C 原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-51283号公報(刊行物3)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ヘ.「【0002】 【産業上の利用分野】本発明は、受信電界の強度に応じて高域の周波数特性を変化させる受信機に関するものである。」(2頁1欄) ト.「【0004】 【従来の技術】従来の受信機では、電界強度が弱い時にS/N比(信号/雑音)が悪化するのを改善するため、電界強度に応じて信号の高域成分を除去する方法が提案されている。また、高域成分が除去されたときに聴感上音量の低下を感じるので、これを改善するためその低下に応じた音量を補償するため信号を増幅する受信機が、実公昭63-33379号公報に開示されている。この実公昭63-33379号公報の内容を図4を用いて説明する。 【0005】図4において、符号1はアンテナでありチューナ2の入力端子に接続され、電波をチューナ2に供給する。このチューナ2で電波を増幅し、検波された音声信号は増幅器3で増幅された後、可変高域除去フィルタ回路4に供給される。この可変高域除去フィルタ回路4は、アンテナ1に入力した電波の電界強度が強い時は高域除去フィルタ回路が殆ど動作しないが、電波の電界強度が弱くなると高域除去フィルタ回路4が動作する。 【0006】 即ち、電波の電界強度に応じて高域除去フィルタ回路の除去量を自動的に制御する回路である。そして、この制御信号は、チューナ2から得られるAGC(自動利得制御)電圧によって行われている。このAGC電圧は電波の電界強度に応じて変化する電圧である。 【0007】また、可変高域除去フィルタ回路4の出力信号は、次段の電圧制御増幅器5に供給され、可変高域除去フィルタ回路4が動作した時に高域成分が除去されることによって失われた音量を、可変高域除去フィルタ回路4に対して行われた時と同様に、電波の電界強度に応じて変化するAGC電圧を用いて増幅量を制御している。そして、電圧制御増幅器5の出力は、出力端子6に出力される。この出力端子6に出力される信号の周波数に対する出力レベルの関係を示したものが図4(b)である。 【0008】 図4(b)の図中(イ)は、電波の電界強度が強い時で、可変高域除去フィルタ回路4及び電圧制御増幅器5が動作していない場合の特性である。また、図中(ニ)は、電波の電界強度が弱い時で、可変高域除去フィルタ回路4が完全に動作し、且つ電圧制御増幅器5も動作している状態で、図中(ホ)の領域で(イ)の特性に対して利得が高くなっている。また、電波の電界強度が(イ)又は(ニ)の中間にある場合は(ロ)又は(ハ)のような特性を示す。即ち、電波の電界強度に応じた中間的特性を持たせている。」(2頁1?2欄) 上記刊行物3の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ト.の【0004】における「受信機では、電界強度が弱い時にS/N比(信号/雑音)が悪化するのを改善するため、電界強度に応じて信号の高域成分を除去する方法が提案されている。また、高域成分が除去されたときに聴感上音量の低下を感じるので、これを改善するためその低下に応じた音量を補償するため信号を増幅する受信機が・・・開示されている。」との記載、及び図4によれば、受信機において、高域成分が除去されたときに聴感上音量の低下を感じるので、これを改善するためその低下に応じた音量を補償するため信号を増幅している。 したがって、上記刊行物3には、以下の発明(以下、「技術事項2」という。)が記載されているものと認められる。 「受信機において、高域成分が除去されたときに聴感上音量の低下を感じるので、これを改善するためその低下に応じた音量を補償するため信号を増幅する方法。」 D 原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-287294号公報(刊行物4)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 チ.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、音響装置に関わり、特に、接続するスピーカあるいはサブウーハの音響性能もしくは接続に応じ、出力保護および、音響特性を切り換え可能な音響装置に関するものである。」(2頁1欄) リ.「【0013】(実施の形態1)図1は本発明の第1の実施形態の音響装置における第1の接続例のブロック構成図である。図1において、1Lおよび1Rは音響ソース接続する入力端子、2Lおよび2Rは増幅器、3SLおよび3SRは全音域スピーカであるが低域性能が乏しく許容入力の小さい小型スピーカ、4は低音域のみを再生する増幅器内蔵型のアクティブサブウーハ、5Lおよび5Rは増幅器2L,2Rを制御し出力にリミッタをかける電圧制御回路、6Lおよび6Rはアクティブサブウーハ4と干渉する低音域を制限するハイパスフィルタ(以下、HPF)、7は後述の制御を行う制御部、8は制御部7に対してスピーカおよびアクティブサブウーハの音響性能と構成の設定操作を行う操作部、9は操作部8による制御部7の設定内容を表示する表示部、10はLchとRchの入力を混合してモノラルのアクティブサブウーハ信号を得る混合器、11はアクティブサブウーハ信号の中高音域を制限するLPF、12Lおよび12Rは制御部7により制御され、HPF6L,6Rの低域制限を切り換えるハイパスフィルタスイッチ(以下、HPFスイッチ)、13Lおよび13Rは制御部7により制御され、電圧制御回路5L,5Rによる増幅器2L,2Rにリミッタ動作を切り換える電圧制御スイッチである。」(3頁3欄) 上記刊行物4の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記リ.の【0013】における「図1において、1Lおよび1Rは音響ソース接続する入力端子、2Lおよび2Rは増幅器、3SLおよび3SRは全音域スピーカであるが低域性能が乏しく許容入力の小さい小型スピーカ、4は低音域のみを再生する増幅器内蔵型のアクティブサブウーハ、5Lおよび5Rは増幅器2L,2Rを制御し出力にリミッタをかける電圧制御回路」との記載、及び図1によれば、音響装置の電圧制御回路(5L,5R)において、小型スピーカ(3SL,3SR)に接続する増幅器(2L,2R)を制御し出力にリミッタをかけている。 したがって、上記刊行物4には、以下の発明(以下、「技術事項3」という。)が記載されているものと認められる。 「音響装置の電圧制御回路(5L,5R)において、増幅器(2L,2R)を制御し出力にリミッタをかける方法。」 E 原査定の拒絶の理由に引用された実願昭56-125056号(実開昭58-30320号)のマイクロフィルム(刊行物5)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ヌ.「本考案は、ドアマウントスピーカを持つ自動車用オーディオ装置に関する。」(1頁13?14行) ル.「第3図は本考案に係るアンプの特性を示し、ビビリが発生する低周波領域がフィルタにより遮断される。点線がこの遮断、除去された周波数領域であり、ビビリ発生がない低出力時はアンプの周波数特性そのものの曲線C_(1)、ビビリ発生がある中、高出力時はその出力でのアンプ周波数特性の、点線で示すビビリ発生低周波領域を除去した曲線C_(2),C_(3)とする。このようにすれば低周波領域は欠除する部分が出るものの、ビビリなくアンプ能力一杯の高出力を出すことができる。」(4頁8?17行) 上記刊行物5の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ル.における「第3図は本考案に係るアンプの特性を示し・・・ビビリ発生がある中、高出力時はその出力でのアンプ周波数特性の、点線で示すビビリ発生低周波領域を除去した曲線C_(2),C_(3)とする。」との記載、及び第3図によれば、自動車用オーディオ装置のアンプにおいて、アンプ周波数特性のビビリ発生低周波領域を除去している。 したがって、上記刊行物5には、以下の発明(以下、「技術事項4」という。)が記載されているものと認められる。 「自動車用オーディオ装置のアンプにおいて、アンプ周波数特性のビビリ発生低周波領域を除去する方法。」 F 原査定の拒絶の理由に引用された実願平5-13343号(実開平6-70397号)のCD-ROM(刊行物6)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ヲ.「【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は、セラミックスピーカなどの圧電型スピーカ装置にかかり、更に具体的には、携帯型電話機やコードレス電話機などの受話器として好適な圧電型スピーカ及びその駆動回路の改良に関する。 【0002】 【従来の技術】 セラミックスピーカなどの圧電型スピーカ10は、図5(A)に概略を示すように、セラミックなどの振動体12の表裏に電極14をそれぞれ設け、これに交流電圧信号を印加して圧電効果により振動板(図示せず)を振動し、音響変換を行っている。等価回路は、同図(B)に示すようにコンデンサC1で表わされ、その容量は例えば0.08μF程度である。」(4頁2?13行) 上記刊行物6の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ヲ.の【0002】における「【従来の技術】セラミックスピーカなどの圧電型スピーカ10は、図5(A)に概略を示すように、セラミックなどの振動体12の表裏に電極14をそれぞれ設け、これに交流電圧信号を印加して圧電効果により振動板(図示せず)を振動し、音響変換を行っている。」との記載、及び図5(A)によれば、スピーカとして、圧電型スピーカ(10)を用いている。 したがって、上記刊行物6には、以下の発明(以下、「技術事項5」という。)が記載されているものと認められる。 「スピーカとして、圧電型スピーカ(10)を用いる方法。」 2.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 a.引用発明の「オーディオ信号」は、オーディオ(audio)(可聴周波数)の信号であるから、本願発明の「音声信号」と実質的な差異はない。 b.引用発明の「コンボルバ(2L、2R)にて、オーディオ信号ソースに対し、所定の中域の周波数帯域のみの振幅を平坦に置き換えた第1のターゲット特性とする補正を行う」と、本願発明の「DSP(Digital Signal Processor)にて、音声信号に対し、第1の帯域のレベルの減衰によるパワーの低下と、前記第1の帯域とは異なる第2の帯域のレベルの増幅によるパワーの上昇とが等しくなるように、前記第1の帯域のレベルを減衰するとともに、前記第2の帯域のレベルを増幅し、かつ、前記減衰及び増幅を行った音声信号が、スピーカアンプに対して予め定められた最大許容入力信号レベルを超えないような信号処理を行う」とは、いずれも、「特定の信号処理装置にて、音声信号に対し、特定の信号処理を行う」という点で一致する。 したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。 (一致点) 「音声信号の出力方法において、 特定の信号処理装置にて、音声信号に対し、特定の信号処理を行う段階1と、 前記特定の信号処理を行った音声信号を、スピーカアンプを介してスピーカから出力する段階2と を含む音声信号の出力方法。」 (相違点) 「特定の信号処理装置にて、音声信号に対し、特定の信号処理を行う」に関し、 本願発明は、「DSP(Digital Signal Processor)にて、音声信号に対し、第1の帯域のレベルの減衰によるパワーの低下と、前記第1の帯域とは異なる第2の帯域のレベルの増幅によるパワーの上昇とが等しくなるように、前記第1の帯域のレベルを減衰するとともに、前記第2の帯域のレベルを増幅し、かつ、前記減衰及び増幅を行った音声信号が、スピーカアンプに対して予め定められた最大許容入力信号レベルを超えないような信号処理を行う」のに対し、引用発明は、「コンボルバ(2L、2R)にて、オーディオ信号ソースに対し、所定の中域の周波数帯域のみの振幅を平坦に置き換えた第1のターゲット特性とする補正を行う」点。 3.判断 (1)請求項1について 上記相違点について検討する。 引用発明の「コンボルバ(2L、2R)にて、オーディオ信号ソースに対し、所定の中域の周波数帯域のみの振幅を平坦に置き換えた第1のターゲット特性とする補正を行う」段階は、周波数帯域の振幅を平坦に置き換える以上、第1の帯域のレベルを減衰し第1の帯域とは異なる第2の帯域のレベルを増幅する程度のことは行っているといえるものの、そもそも、「第1の帯域のレベルの減衰によるパワーの低下と、前記第1の帯域とは異なる第2の帯域のレベルの増幅によるパワーの上昇とが等しくなるように、前記第1の帯域のレベルを減衰するとともに、前記第2の帯域のレベルを増幅す」ることはしておらず、加えて、スピーカアンプに対し電源電圧を超える出力が入力されて、所謂クリップを起こすことを防止するために「前記減衰及び増幅を行った音声信号が、スピーカアンプに対して予め定められた最大許容入力信号レベルを超えないような信号処理」をしているものではないから、引用発明から、上記相違点における本願発明の発明特定事項を導き出すことはできない。 また、上記技術事項1は、「音響再生装置のレベル調整部(74)において、低音域および高音域において同程度の音圧レベルとなるように信号を調整する方法。」が開示されている。しかしながら、スピーカアンプに対し電源電圧を超える出力が入力されて、所謂クリップを起こすことを防止するために「前記減衰及び増幅を行った音声信号が、スピーカアンプに対して予め定められた最大許容入力信号レベルを超えないような信号処理」をするものではないから、引用発明に上記技術事項1を採用しても本願発明には至らない。 また、上記技術事項2は、「受信機において、高域成分が除去されたときに聴感上音量の低下を感じるので、これを改善するためその低下に応じた音量を補償するため信号を増幅する方法。」が開示されている。しかしながら、引用発明と上記技術事項2が属する技術分野及び課題に共通性がないから、引用発明に上記技術事項2を採用する動機づけを見いだすことができない。 また、上記技術事項3は、「音響装置の電圧制御回路(5L,5R)において、増幅器(2L,2R)を制御し出力にリミッタをかける方法。」が開示されている。しかしながら、スピーカアンプに対し電源電圧を超える出力が入力されて、所謂クリップを起こすことを防止するために「前記減衰及び増幅を行った音声信号が、スピーカアンプに対して予め定められた最大許容入力信号レベルを超えないような信号処理」をするものではないから、引用発明に上記技術事項3を採用しても本願発明には至らない。 そして、本願発明は、上記発明特定事項を備えることにより、スピーカアンプに対し、電源電圧を超える出力に相当する入力がなされると、スピーカアンプの出力にて、電源電圧に制限されることによる歪み、所謂クリップが生じるが、聴覚上大きな影響を与えない帯域の信号を減衰させ、聴覚に大きな影響を与える帯域の信号を増幅することとして、クリップの発生を回避しつつ、聴覚に大きな影響を与える帯域のダイナミックレンジを大きくすることができるので、実質的なダイナミックレンジを拡大することが出来るという作用効果を奏するものである。 なお、上記技術事項4及び5は、本願発明に従属する請求項に対して、進歩性を否定する根拠として引用されたものである。 したがって、本願発明は、引用発明、技術事項1ないし5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)請求項2ないし4について 請求項2ないし4は、請求項1に従属する請求項であり、本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(1)と同じ理由により、引用発明、技術事項1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)請求項5について 請求項5は、本願発明の「音声信号の出力方法」のカテゴリーを装置とし「スピーカシステム」としたものであり、本願発明の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記(1)と同じ理由により、引用発明、技術事項1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)請求項6ないし9について 請求項6ないし9は、請求項5に従属する請求項であり、請求項5の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(1)と同じ理由により、引用発明、技術事項1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)請求項10について 請求項10は、本願発明の「音声信号の出力方法」を「コンピュータプログラム」にしたものであり、本願発明の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記(1)と同じ理由により、引用発明、技術事項1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1ないし10に係る発明は、刊行物1ないし6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-03-26 |
出願番号 | 特願2007-38(P2007-38) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H04R)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 菊池 充 |
特許庁審判長 |
酒井 伸芳 |
特許庁審判官 |
関谷 隆一 萩原 義則 |
発明の名称 | 音声信号の出力方法、スピーカシステム、携帯機器及びコンピュータプログラム |
代理人 | 池田 憲保 |
代理人 | 佐々木 敬 |
代理人 | 福田 修一 |