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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08B
管理番号 1285984
審判番号 不服2012-10028  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-30 
確定日 2014-03-20 
事件の表示 特願2001-211860「酸化キチン又は酸化キトサンの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月29日出願公開、特開2003- 26703〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成13年 7月12日の出願であって、手続の経緯(書面の提出・送付)は概略以下のとおりである。
平成23年 8月22日付け 拒絶理由通知書
平成23年10月25日 手続補正書・意見書
平成24年 2月27日付け 拒絶査定
平成24年 5月30日 審判請求書
平成24年12月19日付け 審尋
平成25年 2月19日 回答書
平成25年 7月23日付け 拒絶理由通知書・補正却下の決定
平成25年 9月10日 手続補正書・意見書
平成25年 9月24日付け 拒絶理由通知書
平成25年11月26日 手続補正書・意見書

第2 本願の特許請求の範囲
本願において特許を受けようとする発明は、平成25年11月26日付けで手続補正がされた特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの事項によって特定されるものである(以下「本願発明」という。)。請求項1の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
キチン又はキトサンの構成単糖であるN-アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中、6位炭素のみを酸化しカルボキシル基に変換する工程を備え、
前記キチンが、蟹、エビ、菌類から選択されるキチンを含む共存物質から、脱灰、除タンパク、脂質および色素の除去の工程を経て精製されたものであり、前記キトサンが、前記キチンを脱アセチル化したものであり、
前記6位炭素のみを酸化しカルボキシル基に変換する酸化方法が、水に溶解又は分散させた前記キチン又は前記キトサンをN-オキシル化合物である触媒の存在下で処理する方法であり、
前記N-オキシル化合物が、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシルであり、水中で、キチン又はキトサンの構成単糖のモル数に対し1?50%の臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸およびそれらの塩のうち少なくとも1種の酸化剤を用いて、アルカリを添加してpHを一定に保ちながら酸化し、
前記アルカリの添加量が一定量に達した時点で反応を停止させることにより、酸化度を60%以上に制御する
ことを特徴とする酸化キチン又は酸化キトサンの製造方法。」
(以下、これを「本願発明」という。)

第3 当審において通知した拒絶理由
当審において平成25年 9月24日付け拒絶理由通知書によって通知した拒絶の理由は、概略、本願発明は、その出願前に国内において頒布された刊行物である刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第4 当審の判断
当審は、平成25年 9月24日付けで通知した拒絶の理由のとおり、本願発明は、その出願前に国内において頒布された刊行物である刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
以下にその理由の詳細を述べる。

1 刊行物及び刊行物の記載
当審による拒絶理由通知書に提示した以下の刊行物2及び参考文献は、本願の出願前に国内又は外国において頒布されたことが明らかな刊行物である。
刊行物2:国際公開第95/07303号
参考文献:実験化学講座23 生物化学 I,1957年,365頁

刊行物2には、訳文にして以下の記載がある。

2ア「1.触媒量のジ三級アルキルニトロキシル化合物の存在下で次亜ハロゲン酸によって一級水酸基を有する炭水化物を酸化する方法であって、炭水化物がpH9から13の水性反応媒体中で酸化されることを特徴とする方法。
2.触媒量のニトロキシルが炭水化物に対して0.1-2.5重量%である、クレーム1の方法。
3.ジ三級アルキルニトロキシル化合物が2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルであるクレーム2の方法。」(11頁 クレーム1?3)

2イ「デンプンやセルロースのような炭水化物の酸化は、炭水化物を所望の性質に改変することができるようにするために重要である。そして、その結果、酸化された炭水化物は、増粘剤、ゲル化剤、結合剤、膨潤剤、安定剤及び錯体形成剤(リン酸誘導体)として利用可能である。ほとんどの多糖類の酸化プロセスは、多少の望ましくない脱重合(加水分解)を伴う。それだけでなく、さらに、このようなこのような酸化は常に選択的であるとは限らない:このため、澱粉は、骨格がそのまま保存されるように6-位の一級水酸基が酸化されるだけでなく、グルコース単位の炭素-炭素結合が切断につながる、2,3-位の2級水酸基の酸化反応も起きてしまう(ジカルボキシデンプン)。
炭素骨格をそのまま保持して酸化された炭水化物、すなわち、一級水酸基が酸化された、一般的には、ポリウロン酸と呼ばれる化合物は、たとえば、錯体や安定化剤のような分野において有利である。・・・
これまでに述べた不都合がなく、従来の酸化に較べて驚くほど高い特異性と選択性(すなわち、炭水化物中により多く存在する二級水酸基に対し、一級水酸基においての酸化)を達成する方法を発見した。
この発明による炭水化物の酸化方法では、触媒量のジ-三級-アルキルニトロキシルの存在下で、次亜ハロゲン化物によって行われ、炭水化物が水性の媒体中でpH9?13で酸化される。・・・
この発明において、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1オキシル(TEMPO)を用いるのがもっとも好ましい。・・・
この酸化は水中で、次亜ハロゲン化物、好ましくは、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムのようなその塩を酸化剤として水中で行うことができる。」(1頁2段落?4頁4行)

2ウ「使用できる次亜ハロゲン酸は、次亜塩素酸ナトリウムのような次亜塩素酸である。有利には、反応媒体中で次亜塩素酸と臭化物の反応で得られる次亜臭素酸を用いることもできる。・・・
本発明による方法は、9よりも高く13にまで至るpHの塩基性の媒体中で行われる。特に、9.3-12のpH、好ましくは9.8-11.5のpHが採用される。ポリサッカライドには、最も好ましくは、10.3-11.5のpHが採用される。
全体の反応式から理解されるように:
SacCH_(2)OH + 2 OX^(-) + OH^(-) → SacCOO^(-) + 2 X^(-) + 2 H_(2)O
カルボキシレートに変換される一級アルコールごとに、1当量の塩基が消費される。この反応は、そこで、選択されたpHにおける塩基の消費量を測定することによって追跡することができる。」(4頁3?4段落)

2エ「本発明の方法は、非常に多様な種類と起源の炭水化物の酸化に用いることができる。・・・ポリマー性の炭水化物の例は、セルロース(1,4-β)のようなβ-グルカン、カードラン及びスクレログルカン(1,3-β)及びそれらの分画物、誘導体、加水分解生成物、・・・アガー、ガティ、キチン、カラギーナン、などである。」(5頁1段落)

2オ「本発明の方法は、完全にカルボキシル化された炭水化物、すなわち、ポリウロン酸を製造するために採用することができる。この方法は、しかし、有利には炭水化物のいくらかの一級水酸基のみがカルボキシ化された部分的にカルボキシル化された炭水化物を製造するのに用いることができる。好ましくは、カルボキシル基含量が少なくとも75%あるいは90%である炭水化物が調製される。」(5頁3段落)

2カ「実施例I
水溶性ジャガイモデンプン(乾燥重量2g、12.3mmol 脱水グルコース単位(AGU))を水(200ml)に溶かした。そして、TEMPO(ポリサッカライド(0.02g、0.03mmol)を基準として1重量%)を添加し、約20分で溶解した。そして、1.5g(14.6)mmolの臭化ナトリウムを添加し溶液を0℃にした。次亜塩素酸の溶液(45ml、4%強度の溶液、25.2mmol)を3M HClでpH10.8にして、0℃に冷やした。この溶液をすぐにポリサッカライドとTEMPOの溶液に加えた。反応の進行は、ウロン酸の形成と当量関係にあるアルカリの消費(図1を参照)によって追跡した。反応中に、温度は最高で5℃まで上昇した。反応の完了後に、混合物を後処理し、上記のように分析した。結果を以下の表1に示す。ウロン酸のパーセンテージは、反応の選択性の指標である:澱粉はCH_(2)OHを有するグルコース単位を96%有し、理論的なウロン酸含有量の最大値は96%である。pH10.8での酸化による生成物の^(13)C NMRスペクトル(100MHz)を測定した;177ppmはC-6における一級アルコール基に特徴的な吸収である(図3を参照)。

実施例II
pHを変化させる以外は実施例Iを繰り返した。・・・結果は表1に示す。・・・
実施例III
TEMPOの量を0.02gとする代わりに、0,0.002,0.005,0.01gとする以外は実施例Iを繰り返した。・・・
実施例IV
臭化ナトリムの量を1.5gとする代わりに、0,0.02,0.5gとする以外は実施例Iを繰り返した。・・・
実施例V
アミロース(乾燥重量3g、18.5mmol)を水200mlに懸濁した。懸濁物を0.03gのTEMPO(0.19mmol)及び1.5gの臭化ナトリウム(14.6mmol)と混合した。懸濁物を0℃にして、65mlの4%強度でpH10.6の次亜塩素酸を0℃で添加した。pH-statによって、0.5MのNaOHを添加して反応中のpHを10.6に保った。3時間後に0℃で過剰量のエタノールを添加して反応を停止した。その時までに、30.5mlの0.5M NaOHが添加された。収率:92%、ウロン酸含有量:75%
実施例VI
小麦澱粉(乾燥重量3g、18.5mmol)を水200mlに懸濁し、実施例Vの方法に従って酸化した。2時間後に0℃でエタノールを添加して反応を停止した。その時までに、32mlの0.5M NaOHが添加されていた。その混合物を上記の方法で後処理した。収率:94%、ウロン酸含有量:81%
実施例 VII
いろいろな炭水化物(表2を参照)を以下の方法で酸化した: 炭水化物(20mmol)(一級アルコール)、TEMPO(0.13mmol)0.02g)及びNaBr(7.8mmol、0.8g)を水(500ml)に溶解した。15%の次亜塩素酸ナトリウム(一級アルコールあたり 2.2mmolのNaOCl、10%過剰)は4M水性HClを添加して所望のpHに調整した。これらの溶液を望ましい温度にした。次亜塩素酸溶液は他方の溶液に一度に加えた。pHをpH-statにより0.5M NaOHを添加して制御した。これにより、反応による酸の生成をモニターした。ウロン酸の濃度は反応の間に溶液を採取し、熱量分析を行うことによって、追跡した。ウロン酸の生成と水酸化物の消費の間に線形性が認められた。
酸化反応が終了したときに、98%エタノール(10ml)を添加して反応を停止し、反応混合物は4M塩酸を加えてpHを7にした。白い沈殿が形成されるまでエタノールを添加してポリサッカライドを分離した。沈殿物を遠心分離しエタノール/水(70/30 v/v)で数回洗浄した。・・・生成物は^(1)H-NMRと^(13)C-NMR分析によって確認した。ウロン酸以外の生成物は検出されなかった。結果を表2に示す。

」(7頁2段落?10頁表)

2キ「

」(図面1/5)

参考文献には、以下の記載がある。
「キチンは節足動物,特に甲殻類や昆虫の支持物質として広く分布し,菌類にも存在する.これを調製するにはカニまたはイセエビの殻を用いるとよく,殻に付着している肉,脂肪を除き水で洗い,乾燥,粉砕したのち,約6N塩酸で炭酸ガスの発生がやむまで処理して炭酸カルシウムを除く.ろ過し水で十分に洗った後(p.347実験例),カセイソーダまたはカセイカリで処理してタンパク質を除き,再び水で洗浄する.ついで希過マンガン酸カリウムと,酸性亜硫酸ナトリウムおよび塩酸で漂白し,水洗後,エタノール,エーテルで洗浄乾燥する」

2 刊行物2に記載された発明
刊行物2の2オには、「本発明の方法は、完全にカルボキシル化された炭水化物、すなわち、ポリウロン酸を製造するために採用することができる。この方法は、しかし、有利には炭水化物のいくらかの一級水酸基のみがカルボキシ化された部分的にカルボキシル化された炭水化物を製造するのに用いることができる。」と記載されているから、刊行物2における炭水化物の酸化は、一級ヒドロキシル基のみを酸化する方法であると認められる。
また、刊行物2の2アの請求項1及び2を引用して記載された請求項3を他の請求項を引用しない形式で書き下すと、刊行物2には、以下の発明が記載されているといえる。
(引用発明)
「炭水化物に対して0.1-2.5重量%の2,2,6,6,-ジ三級アルキルニトロキシル化合物の存在下で次亜ハロゲン酸によって一級水酸基を有する炭水化物の一級水酸基のみを酸化する方法であって、炭水化物がpH9から13の水性反応媒体中で酸化されることを特徴とする方法」

3 対比・判断
ア 本願発明と引用発明とを対比する。引用発明で触媒として用いる2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルは、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシルと同じものである。本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。
(一致点)
「炭水化物のピラノース環中、6位炭素のみを酸化しカルボキシル基に変換する工程を備え、
前記6位炭素のみを酸化しカルボキシル基に変換する酸化方法が、水に溶解又は分散させた炭水化物をN-オキシル化合物である触媒の存在下で処理する方法であり、
前記N-オキシル化合物が、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシルであり、次亜ハロゲン酸の塩を酸化剤として用いて酸化する酸化炭水化物の製造方法」
一方、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は、「キチン又はキトサンの構成単糖であるN-アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中、6位炭素のみを酸化しカルボキシル基に変換する工程を備え、
前記キチンが、蟹、エビ、菌類から選択されるキチンを含む共存物質から、脱灰、除タンパク、脂質および色素の除去の工程を経て精製されたものであり、前記キトサンが、前記キチンを脱アセチル化したもの」であるのに対し、引用発明は、そのようなものを対象としているかが明らかでない点
(相違点2)
本願発明は、「キチン又はキトサンの構成単糖のモル数に対し1?50%の臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下」で反応を行うのに対し、引用発明は、そのような条件下で反応を行う方法であるのかが明らかでない点
(相違点3)
本願発明は、「アルカリを添加してpHを一定に保ちながら酸化し、
前記アルカリの添加量が一定量に達した時点で反応を停止させることにより、酸化度を60%以上に制御する」方法であるのに対し、引用発明は、そのような制御を行う方法であるのかが明らかでない点
イ 上記の相違点について検討する。
(相違点1)について
刊行物2には、2カには、炭水化物として水溶性ジャガイモ澱粉を酸化した実施例I及びいろいろな炭水化物を酸化した実施例VIIが記載されている。また、2エには、「本発明の方法は、非常に多様な種類と起源の炭水化物の酸化に用いることができる。・・・ポリマー性の炭水化物の例は、セルロース(1,4-β)のようなβ-グルカン、カードラン及びスクレログルカン(1,3-β)及びそれらの分画物、誘導体、加水分解生成物、・・・アガー、ガティ、キチン、カラギーナン、などである。」と記載され、刊行物2に記載された酸化炭水化物の製造方法が適用可能な物として、キチンが挙げられている。そうすると、刊行物2の記載に接した当業者であれば、キチンを出発物質として、刊行物2に記載された製造方法によって酸化キチンを製造することができると当然に考えるといえる。
ここで、キチンの精製について、参考文献をみると以下の記載がある。
「キチンは節足動物,特に甲殻類や昆虫の支持物質として広く分布し,菌類にも存在する.これを調製するにはカニまたはイセエビの殻を用いるとよく,殻に付着している肉,脂肪を除き水で洗い,乾燥,粉砕したのち,約6N塩酸で炭酸ガスの発生がやむまで処理して炭酸カルシウムを除く.ろ過し水で十分に洗った後(p.347実験例),カセイソーダまたはカセイカリで処理してタンパク質を除き,再び水で洗浄する.ついで希過マンガン酸カリウムと,酸性亜硫酸ナトリウムおよび塩酸で漂白し,水洗後,エタノール,エーテルで洗浄乾燥する」
参考文献は、生物の体内に存在する化学物質に関する教科書であって、上記記載は、キチンの精製のための代表的かつ一般的な方法であると認められ、この方法における「約6N塩酸で炭酸ガスの発生がやむまで処理して炭酸カルシウムを除く」という処理は脱灰に相当し、「カセイソーダまたはカセイカリで処理してタンパク質を除き」という処理は脱タンパクに相当し、「希過マンガン酸カリウムと,酸性亜硫酸ナトリウムおよび塩酸で漂白」は色素の除去に相当し、エタノール及びエーテルは脂溶性の溶媒であるから、「エタノール,エーテルで洗浄」は脂質の除去に相当する。そうすると、蟹、エビ、菌類から選択されるキチンを含む共存物質から、脱灰、除タンパク、脂質および色素の除去の工程を経て精製するという点は、キチンの通常の精製方法に過ぎず、格別のものでない。
(相違点2)について
刊行物2の2カに記載された実施例は、いずれも臭化ナトリウムの存在下で反応を行っていることから、引用発明は、臭化ナトリウムの存在下で反応を行う場合を包含すると認められる。また、刊行物2の2カの実施例における炭水化物の単糖単位1モル当たりの臭化ナトリウムの使用量のモル数は、実施例VIIにおける39%である場合を含んでいる。そうすると、引用発明において、刊行物2に記載された実施例を参考に、炭水化物の単糖単位1モル当たりの臭化ナトリウムの使用量のモル数を1?50%の範囲内である39%程度とした反応を行うことも当業者は容易になし得たことである。
(相違点3)について
刊行物2には、実施例Vについて「pH-statによって、0.5MのNaOHを添加して反応中のpHを10.6に保った。」(2カ)と記載されているから、引用発明は、アルカリであるNaOHを添加してpHを一定に保ちながら酸化を行う場合を包含すると認められる。また、「3時間後に0℃で過剰量のエタノールを添加して反応を停止した。その時までに、30.5mlの0.5M NaOHが添加された。収率:92%、ウロン酸含有量:75%」(2カ)、と記載されているから、この実施例では、エタノールの添加によって反応を停止するという制御を行って、ウロン酸含有量が75%であるものを得たと認められる。ウロン酸は、ピラノース環中の6位炭素がカルボキシ基に酸化された糖であるから、上記実施例における生成物のウロン酸含有量が75%であるということは、ウロン酸に酸化される酸化度が75%以上のものが得られたことに相当する。
刊行物2には、反応を行う際のpHについて、2ウに、「本発明による方法は、9よりも高く13にまで至るpHの塩基性の媒体中で行われる。特に、9.3-12のpH、好ましくは9.8-11.5のpHが採用される。ポリサッカライドには、最も好ましくは、10.3-11.5のpHが採用される。
全体の反応式から理解されるように:
SacCH_(2)OH + 2 OX^(-) + OH^(-) → SacCOO^(-) + 2 X^(-) + 2 H_(2)O
カルボキシレートに変換される一級アルコールごとに、1当量の塩基が消費される。この反応は、そこで、選択されたpHにおける塩基の消費量を測定することによって追跡することができる。」と記載され、実施例Iにおいて、「反応の進行は、ウロン酸の形成と当量関係にあるアルカリの消費(図1を参照)によって追跡した。」と記載され、図1のグラフは、ウロン酸の形成とアルカリの消費と当量関係にあることを示しているから、刊行物2には、選択されたpHにおける塩基の消費量を測定することによって、酸化反応の進行の度合いを知ることができることが記載されていると認められる。そして、アルカリであるNaOHを添加してpHを一定に保ちながら酸化を行う実施例Vにおいて、「3時間後に0℃で過剰量のエタノールを添加して反応を停止した。その時までに、30.5mlの0.5M NaOHが添加された。収率:92%、ウロン酸含有量:75%」(2カ)と記載されているように、反応を停止した時点での0.5M NaOHの添加量が確認されており、酸化度が60%以上の範囲にある75%に制御されている。刊行物2の施例VI(2カ)においても、実施例Vと同様に操作し、反応を停止した時点での0.5M NaOHの添加量が確認され、酸化度が60%以上の範囲にある94%に制御されている。さらに、刊行物2の実施例VIIにも「pHをpH-statにより0.5M NaOHを添加して制御した。これにより、反応による酸の生成をモニターした。ウロン酸の濃度は反応の間に溶液を採取し、熱量分析を行うことによって、追跡した。ウロン酸の生成と水酸化物の消費の間に線形性が認められた。」(2カ)と記載され、ウロン酸の生成と水酸化物の消費の間に実際に線形性があることも確認している。そして、「酸化反応が終了したときに、98%エタノール(10ml)を添加して反応を停止し」と記載されているように、目的とする酸化反応が終了した時点で反応を停止することで、酸化度を制御し、「ウロン酸以外の生成物は検出されなかった。」生成物を得ているから、酸化度100%の物を得ていると認められる。
このように、刊行物2の上記実施例は、アルカリを添加してpHを一定に保ちながら酸化し、エタノールを添加して反応を停止することで酸化度を60%以上の特定の値に制御するものであるところ、上記刊行物2の記載によれば、アルカリを添加してpHを一定に保ちながら酸化を行う際、アルカリの添加量から、酸化度を知ることができることは当業者に明らかであるので、アルカリの添加量が一定量に達した時点で反応を停止させることにより、酸化度を制御する点も、当業者が容易になし得たことである。
ウ そして、本願発明の効果は、この出願の明細書の段落【0035】に記載される、「本発明によれば、温和な反応条件下で簡便な方法により、キチン又はキトサンを均一かつ効率よくその構成単糖であるN-アセチルグルコサミンまたは、グルコサミンのピラノース環中2位や3位の炭素を酸化することなく、6位炭素のみを酸化し、カルボキシル基に変換でき、医薬分野あるいは化粧品分野など様々な分野において有用な、高い親水性や幅広いpH領域での水溶性が付与された高純度の酸化キチン又は酸化キトサンを得る事ができる。」というものであると認められる。しかし、そのようは効果は、引用発明をキチン又はキトサンを対象に適用する場合に達成されることが予測される効果であって、格別の効果とはいえない。この点について、請求人は、平成25年11月26日付けの意見書において、本願発明の方法は、キチン又はキトサンの構成単糖のモル数に対し1?50%の臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下で反応を行うことにより、温和な条件でも酸化反応を円滑に進行させ、カルボキシル基の導入効率を大きく改善することができ、結果として、反応効率を上げることができるという顕著な効果を奏する旨を主張している(意見書2頁((3)第3段落)。しかし、上記で相違点3について指摘したとおり、刊行物2には、炭水化物の構成単糖のモル数に対し、39%という1?50%の範囲内の量の臭化アルカリ金属の存在下で反応を行った実施例VIIも記載され、この実施例では選択性は95%を超え、収率は98%であることからみれば、本願発明の反応効率向上の点で格別顕著な効果を奏するものであるとは認められない。
エ したがって、本願発明は、刊行物2に記載された発明に基いて出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物2に記載された発明に基いて出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の点を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、上記結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2014-01-17 
結審通知日 2014-01-21 
審決日 2014-02-04 
出願番号 特願2001-211860(P2001-211860)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 聡吉門 沙央里  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 村守 宏文
齋藤 恵
発明の名称 酸化キチン又は酸化キトサンの製造方法  

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