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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02D
管理番号 1285990
審判番号 不服2012-19088  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-01 
確定日 2014-03-20 
事件の表示 特願2011-159456「地盤の改良工法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月15日出願公開、特開2012-225143〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成23年7月21日(優先権主張 平成23年2月9日)の出願であって,平成24年6月25日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月1日に拒絶査定不服審判請求がなされたものである。


2.本願発明
平成24年5月23日付けの手続補正は平成24年6月25日付けで却下されているので,本願の請求項1乃至3に係る発明は,平成24年4月6日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「地盤に所定間隔をあけて2本の井戸を設置し、
一方の井戸から水と空気を下部のストレーナを介して地中に圧送するとともに、
他方の井戸から下部のストレーナを介してSWPによる地中の水と空気を吸引することを特徴とする地盤の改良工法。」


3.引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2000-34736号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面と共に,次の記載がある。
(1a)「【請求項2】 粘着力が微弱な地盤中に過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を注入させることにより微細気泡混入範囲を形成するため、微細気泡混入範囲の地表面に不透気性の被覆を設けると共に、この被覆周囲に沿い地下水面以下の深さまでの遮断壁を形成し、前記遮断壁の内側において、前記不透気性の被覆を貫通して地表面から送水管を地中に貫入させ、その先端から過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を注入することにより、前記不透気性の被覆下の地中に空気を充満させ、前記不透気性の被覆の下全面に空気が充満して、前記遮断壁の外側から空気が漏出するようになった後、前記送水管の挿入と対応して地中に貫入した集水管から、前記送水管で注入した過飽和空気溶存水のうちの過飽和分の空気溶存水あるいは空気混合水の注入と集水を行い、前記の操作を繰り返して所定の深さまで地盤改良を行うことを特徴とする地盤の地震時液状化防止工法。」

(1b)「【0013】本発明によると、液状化防止対策が施されるべき地盤に過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を送り込むことで地盤中に気泡が発生し、地盤中の地下水の飽和度を低下させることができ、前記過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を注入した後の地中には微細気泡が混入し、滞留することで地盤の沈下が発生せず、かつ、微細気泡は気泡周囲の地下水が流動しない限り地中に半永久的に留まるので、地震が発生しても液状化が生ぜず長期にわたって安定した地盤の状態が保持される。
【0014】本発明の典型的な適用例を図によって説明すると、まず、微細気泡を混入させようとする範囲の地表面に不透気性の被覆1を設け、その被覆1の周縁部を地表面から地下水面まで達する不透気性の遮断壁2で囲い、図1に示すように空気を混入させようとする範囲の中央部分に微細網目のストレーナ3(図2に示す)が付いた送水管4を前記被覆1を貫通して未改良地盤25a中に土質に応じた適当長を貫入させ、送水管4および、ストレーナ3を通じて過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を送水管4の周囲地盤25中に注入する。なお、土質に応じた適当長とは、例えば2?3mくらいが目安である。
【0015】微細気泡を混入させようとする地表面の範囲内において、中心対称に配置した送水管4の中心に、集水管5を送水管4と同様に地盤中に土質に応じた適当長を貫入させる。集水管5は送水管4から注入した中心方向へ向かう注入水を集めて排水する。 不透気性の被覆1の下全面に空気が充満して遮断壁2の外側から空気が漏出するようになった後、送水管4および集水管5をさらに土質に応じた適当長を未改良地盤25a中に貫入させ、送水管4およびストレーナ3を通じて過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を周囲地盤中に注入し、前回注入した過飽和空気溶存水あるいは空気混合水の下全面に充満して、遮断壁2の外側および集水管5から注入水が漏出するようになった後、送水管4および集水管5をさらに土質に応じた適当長を未改良地盤25a中に貫入させ、送水管4および、ストレーナ3を通じて過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を前記送水管4の周囲地盤25中に注入する操作を繰り返し、微細気泡eを混入させようとする範囲の所定の深さまで、注入水から分離した空気を充満させる。前記の場合、送水管4および集水管5は所定長の短尺管を用い、地上において継ぎ足しながら未改良地盤25a中に貫入するのがよい。」

(1c)「【0019】送水管4相互の間隔S、送水管4から不透気性の被覆1の周辺までの距離Lおよび、送水管4から集水管5までの距離mは、微細気泡混入範囲を造成しようとする土層の厚さdおよび、当該土層の粒度分布、密度等を勘案して決める。」

(1d)「【0024】前記送水管4と集水管5とはそれぞれ別体の管として構成してもよいが、本発明の図7に示す具体例では、送水弁15を有し送水装置に接続する送水管10と、集水弁16を有し集水装置に接続する排水管11とを合流させてなる送排水管12を、送水管4兼用集水管5としている。また、前記排水管4と集水管5は、必要ならば、圧縮空気吹き込み用の空気吹き込み管および集気管としても代用できる。送排水管12の先端部は、前記送排水管12内に送水弁14を有し、高圧水送水装置に接続する送水管13を導いて両管で内外2重管とし、送水管13を地盤掘進用の刃部19と噴射水環形ノズル8機構を有する第1管体17に接続し、さらに、送排水管12を前記第1管体17に非連通的に連設してあり、かつ送排水用ストレーナ3を有する第2管体18にネジ結合部41で接続した構成としている。」

(1e)「【0029】(d).送排水管12および、ストレーナ3を未改良地盤25a中に貫入させるためには、図7に示すような送水弁15を有する送水管4と、排水弁16を有する排水管11が合流してなる前記の送排水管12内に送水管13を導入してこの部分を2重管とし、送水管13の送水弁14を開き、送水弁15を閉じ、排水弁16を開き、第1管体17の噴射水環形ノズル8を通じる高圧噴射水により送排水管12の先端を地中に回転揺動しながら押し込む方法による。噴射した水は第1、第2管体17、18の接続部に設けた集水孔7を通じ、ストレーナ3内の送排水管12および排水弁16を通じ排水管11から排水される。過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を注入するには、排水弁16を閉じ、送水弁15を開き送水し、第2管体18のストレーナ3を通じ、過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を周囲地盤25中に放出する。」

(1f)「【0032】(e).送水管4として前記方法により地中に貫入させた送排水管12は、送水弁15および送水弁14を閉じ、排水弁16を開けることにより集水管5とすることができる。ストレーナ3を通じて集水した注入水は、排水弁16を通じて排水管11から地上に放出する。」

(1g)「【0037】(i).注入用の過飽和空気溶存水あるいは空気混合水の供給には、送水管4に水ポンプを接続し、適当な圧力の注入を行う。
【0038】(j).送水管4からストレーナ3を通じて地盤中へ注入された注入水は、地盤中の地下水を押し退けながら地中に浸入するが、一様には拡散しないで枝分かれした束状に浸入する。その地中に浸入する状況は、薬液注入の場合の割裂注入に似ている。
【0039】低圧の注入水が地下水を押し退けながら地中に一様に拡散する場合、圧入された注入水の前端の進行速度は地盤中の透水速度に等しく、粗砂中でも毎分数ミリメーター程度の極めて遅い速度であって、ストレーナ3から微細気泡を混入させようとする範囲の外縁または集水管5に達するには、その距離が5mないし10mの場合には数十時間かかり、注入作業の能率は極めて低い。そこで注入圧を適当な高さに上げると、注入された注入水は割裂注入に似た束状になって高い速度で浸入するので、空気を混入させようとする範囲の外縁まで数分間ないし数十分間で到達する。地下水流が常時ある箇所では、地下水流の上流端にある送水管からの多量の過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を注入し続ける。」

(1h)【図7】をみると,ストレーナ3は,送水管4及び集水管5の下部に備えられていることが明らかである。

これら記載事項(1a)乃至(1f)及び図面の記載から,刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる。
「粘着力が微弱な地盤中に過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を注入させることにより微細気泡混入範囲を形成するため,微細気泡混入範囲の地表面に不透気性の被覆を設けると共に,この被覆周囲に沿い地下水面以下の深さまでの遮断壁を形成し,前記遮断壁の内側において,前記不透気性の被覆を貫通して地表面から送水管を地中に貫入させ,送水管の下部のストレーナを通じて過飽和空気溶存水あるいは空気混合水を適当な圧力で注入することにより,前記不透気性の被覆下の地中に空気を充満させ,前記不透気性の被覆の下全面に空気が充満して,前記遮断壁の外側から空気が漏出するようになった後,前記送水管の挿入と対応して地中に貫入した集水管の下部のストレーナを通じて、前記送水管で注入した過飽和空気溶存水のうちの過飽和分の空気溶存水あるいは空気混合水の注入と集水を行い、前記の操作を繰り返して所定の深さまで地盤改良を行うものにおいて、
送水管から集水管までの距離は、微細気泡混入範囲を造成しようとする土層の厚さ及び,当該土層の粒度分布,密度等を勘案して決めるものである、
地盤の地震時液状化防止工法。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2007-303095号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面と共に,次の記載がある。
(2a)「【0005】
上記の特許発明は、いわゆるスーパーウェルポイント工法と呼ばれる地下水位を低下して地盤改良工法に関するものである。
そのスーパーウェルポイント工法の概略は次の通りである。すなわち、ストレーナ部を二重管構造(特殊セパレートスクリーン)にすることにより、井戸内を真空に保ちながら、強制排水を行う工法である。
特殊セパレートスクリーンの構造セパレートスクリーンは内筒管と巻線ストレーナの二重橋造になっている。巻線ストレーナから流入した地下水は、ニ重管の間で空気と水に分離され、下部の通気孔を通って井戸内に流入する。
真空ポンプにより二重管の内部に負圧を作用させることで連続した真空排水を可能にする。」

(2b)「【0027】
ここで、図8に示すように、井戸2(スーパーウェルポイント)は、ケーシング2a、気密蓋2b、ストレーナ2c、土砂ピット2d、揚水ポンプ2e、排水ポンプ2f、真空ポンプ2g、配管2h,2i、及び水槽2jを主要構成部材としてなる、井戸2内への収水機能と井戸2外への揚水機能とを独立した真空ポンプ2g及び揚水ポンプ2eで満足させる大容量且つ高揚程型の揚水システムであり、本出願人により提案されたものである(特許文献1参照)。ここで、図8は地下水面1cの低下の状態を現し、図面内の矢印は地下水及び空気の流れ方向を示している。また、図2においては、図8に記載の地上設備を省略して記載している。」

(2c)上記記載事項(2a)及び(2b)を参照して図8をみると,地下水面1cを低下させる地盤改良工法において,「井戸2(スーパーウェルポイント)は,下部のストレーナー2cを介してスーパーウェルポイント工法により,地下水及び空気を井戸2内へ収水させ井戸2外へ揚水する」ことが明らかである。


4.対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「所定の深さまで地盤改良を行う」「地盤の地震時液状化防止工法」は,本願発明の「地盤の改良工法」に相当しており,
以下同様に,
「土層の厚さ及び,当該土層の粒度分布,密度等を勘案して決めた距離」は,「所定間隔」に,
「送水管」及び「集水管」は,「2本の井戸」に,
「地中に貫入」は,「設置」に,
「送水管」は,「一方の井戸」に,
「空気混合水」は,「水と空気」に,
「通じて」は,「介して」に,
「適当な圧力で注入する」は,「圧送する」に,
「集水管」は,「他方の井戸」に,
「空気混合水の」「集水を行い」は,「水と空気を吸引する」に,それぞれ相当する。

したがって,両者は,下記の点で一致している。
「地盤に所定間隔をあけて2本の井戸を設置し,
一方の井戸から水と空気を下部のストレーナを介して地中に圧送するとともに,
他方の井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法。」

そして,以下の点で相違している。
地中の水と空気を吸引するのに,
本願発明では,SWPによるのに対し,
刊行物1記載の発明では,そのように限定されていない点。

上記,相違点について検討する。
刊行物2をみると,刊行物2には,地下水面1cを低下させる地盤改良工法(本願発明の「地盤の改良工法」に相当。)において,「井戸2(スーパーウェルポイント)(本願発明の「他方の井戸」に相当。)は,下部のストレーナー2cを介してスーパーウェルポイント工法により(本願発明の「SWPによる」に相当。),地下水及び空気を井戸2内へ収水させ井戸2外へ揚水する(本願発明の「地中の水と空気を吸引する」に相当。)」ことが記載されており,刊行物1に記載の発明と刊行物2に記載された事項は,共に,井戸を用いて地盤の改良をするという共通の機能を有するものであるので,刊行物1記載の発明の集水管による集水手段に替えて刊行物2に記載されたSWPを採用し,上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

そして,本願発明全体の効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術事項から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということができない。

なお,請求人は,平成24年10月1日付け審判請求書において,『本願請求項1に係る発明によれば、引用文献1、2に記載された発明及び周知技術では得られない、前述した「地盤に被覆や耐圧盤を設ける必要がない。」という格別の効果を奏するものである。』,『引用文献1、2は、地盤を不透気性の被膜または気密性材料で覆って行う液状化防止工法や地盤改良工法であって、何れも大気開放の地盤に関する技術ではない。』と主張しているが,何れの事項も,当初明細書中で限定されて記載された事項では無く,ましてや特許請求の範囲に限定されて記載された事項でも無いことから、これらの主張を採用することはできない。

したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


5.むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-09 
結審通知日 2014-01-14 
審決日 2014-01-31 
出願番号 特願2011-159456(P2011-159456)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 苗村 康造  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 住田 秀弘
杉浦 淳
発明の名称 地盤の改良工法  
代理人 荒船 良男  
代理人 荒船 博司  

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