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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T |
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管理番号 | 1285995 |
審判番号 | 不服2013-3303 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-02-20 |
確定日 | 2014-03-20 |
事件の表示 | 特願2008- 61416「制動力制御装置及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月24日出願公開、特開2009-214741〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成20年3月11日の出願であって、平成24年11月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年2月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年7月23日付け手続補正、及び平成24年10月19日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1の特許請求の範囲は次のとおりである。 「【請求項1】 機械的連結により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる機械式ブレーキ手段と、 液圧により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる液圧式ブレーキ手段と、 自車両の発進を予測する自車両発進予測手段と、 前記機械式ブレーキ手段にて自車両が停止している場合に、前記自車両発進予測手段が自車両の発進を予測すると、前記制動力を、前記機械式ブレーキ手段によるものから前記液圧式ブレーキ手段によるものに切り替える切替手段と、 自車両の周囲の情報として自車両が停車する交差点の信号機の切り替わり信号を取得する車両周囲情報取得手段と、 を備え、 前記自車両発進予測手段は、前記車両周囲情報取得手段が取得した前記切り替わり信号を基に前記信号機が赤から青に間もなく切り替わると判定したときに、前記自車両の発進を予測することを特徴とする制動力制御装置。」 3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について (1)本願発明1は、上記2.に記載したとおりである。 (2)引用例 (2-1)引用例1 特開平10-76931号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が記載されている。 (あ)「【請求項1】摩擦ブレーキが液圧発生器によっても電子機械的アクチュエーターユニットによっても操作可能であり、液圧操作態様または電子機械的操作態様を設定し或いは両操作態様の切換えを生じさせる手段が設けられていることを特徴とするパーキングブレーキを備えた動力車。 【請求項2】動力車を使用中はパーキングブレーキを基本的には液圧で操作し、動力車の原動機が停止している時は基本的には電子機械的に操作することを特徴とする、請求項1に記載のパーキングブレーキを備えた動力車。 【請求項3】パーキングブレーキの電子機械的操作から出発して、 a)ドライバー側のドアロックの作動または運転席のドアの開口に伴って、或いは b)ドライバーシートへの着座に伴って、或いは c)点火装置の始動に伴って、液圧操作への切換えを行い、及び(または)上記条件a)ないしc)がない場合には文字どおり逆の方向での切換えを行うことを特徴とする、請求項1または2に記載のパーキングブレーキを備えた動力車。 【請求項4】動力車を駆動させるための内燃機関を備え、パーキングブレーキの電子機械的操作から出発して、内燃機関の始動に伴って液圧操作への切換えを行い、及び(または)内燃機関の停止に伴なって逆方向への切換えを行うことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一つに記載のパーキングブレーキを備えた動力車。 【請求項5】動力駆動系にマニュアルトランスミッションが設けられ、且つ発車補助機能を備え、パーキングブレーキの電子機械的操作から出発して、内燃機関の始動後は、始動過程と推定できるような処置がドライバーによって導入された時に始めてパーキングブレーキの液圧操作を行うことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一つに記載のパーキングブレーキを備えた動力車。」 (い)「【0001】 【発明が属する技術分野】本発明は、外力で操作可能なパーキングブレーキ装置を備えた動力車に関するものである。 【0002】 【従来の技術】欧州特許第048642号公報から知られている動力車では、ねじスピンドルを備えた電動機がパーキングブレーキに作用する。パーキングブレーキを動力操作することによりドライバーの負担が軽くなる。また「信号停車」、「発進補助」などのような便利な機能を実現できる。 【0003】…(略)… …(略)… 【0008】液圧操作はパーキングブレーキの迅速な作動と解除を可能にするが(電子機械的操作の場合2秒以内の時間を要し、その10分の数秒の速さ)、構成的には多数の負荷交番に適合するよう系統的に設計されている。液圧操作により高いブレーキ圧を支障なく発生させることができる。他方電子機械的アクチュエーターユニットの場合、高いブレーキ圧を発生させるためには比較的大きな消費(コスト、重量、設置空間)を必要とする。」 (う)「【0011】 【発明の実施形態】本発明にしたがって液圧操作態様と電子機械的操作態様とを組み合わせることにより、一連の機能的な利点が得られる。これについて以下に請求項と関連させながら説明する。 【0012】この場合、特に頻繁に使用される便利な機能(信号停車、発進補助)は液圧操作により行うことができるので、電子機械的アクチュエーターユニットを、比較的少数の負荷交番のために構成すれば十分である。 【0013】もちろん、それぞれ他の操作装置への受け渡しの際に、渡す側のシステムのブレーキ力と少なくともほぼ同じ大きさのブレーキ力が受ける側のシステムに発生した時に初めて前記受け渡しが行われるようにパーキングブレーキ装置を構成してもよい。 【0014】本発明によれば、基本的には、請求項2に記載のごとく、パーキングブレーキの液圧操作と電子機械的操作との使用範囲の分配が行われる。車両を利用する際にはパーキングブレーキは液圧操作され、その際便利な機能(信号停車、発進補助)はすべて液圧で行われるが、遅くともドライバーが車両を離れるとともに電子機械的アクチュエーターユニットがパーキングブレーキをロックさせる。このような操作範囲の分配により、パーキングブレーキのほとんどの操作は液圧で行われる。車両のエンジンスイッチを切ると(及び従属項に記載されているような以後の車両運転状態でも)、液圧発生器は電子機械的アクチュエーターの自主独立システムにより引き継がれる。この自主独立システムは、ドライバーが車両を離れた際にも長時間にわたって機械的ロックによりパーキング作用を維持させることができる。このように液圧操作と電子機械的操作とがパーキングブレーキの同一のパーキング機構に作用するようなブレーキ装置においては、電子機械的操作に切換える時に電子機械的アクチュエーターはすでに予め作動しているブレーキを受け取り、従って液圧でもたらされたブレーキ作動の一部を利用する。」 (え)「【0019】請求項3の構成要件a)によれば、ドライバーが乗車する前に既に液圧操作への切換えが行われる。これにより、操作態様の切換えまたは液圧システムの始動による騒音の発生(乗員には不快に感じられる)が乗車する前の時点に移行される。いわゆる「無線キー」を介してドアロックを遠隔操作する際に、液圧操作態様への切換えを乗車前の早い時点に設定することができる。請求項3の構成要件b)では、ドライバーがシートに着座した瞬間に液圧操作に切り替えられる。 【0020】請求項3の構成要件c)は他の可能性を示しており、点火装置をオンにしたときに始めてバーキングブレーキの液圧操作が行われる。もちろん液圧操作への切換えを、車両の種々の電力消費装置が搭載電力網に接続される、点火キーの「ラジオ位置」で行なうようにしてもよい。 【0021】請求項3に記載の本発明の構成では、車両の内燃機関が始動する前に液圧システムを作動させ、従ってどのような場合も車両が発車する前に液圧システムが作動することが保証されている。このためには、内燃機関とは独立に作動する液圧発生器が使用されることが前提になる。 【0022】請求項4によれば、液圧操作を、車両の内燃機関が始動中であることに依存させる。圧力発生器が内燃機関によって駆動される場合には、基本的には液圧操作への切換えを内燃機関の始動によって初めて行なうことができる。 【0023】請求項5によれば、液圧操作の導入を、車両の発車寸前の時点へ移行させる。これにより、個々の操作態様間での不必要な切換え(例えばエンジンを何回も切ったり再始動させるときに生じる)が避けられる。発車過程とは、例えばクラッチが入ったとき、或いは十分な発車モーメントが提供されるときである。請求項5に記載の構成では、もっぱら液圧によるパーキングだけを配分的に解除することによって発車の補助が行なわれる。 【0024】前述したように、液圧操作から電子機械的操作への戻りは、液圧システムに対する「導入条件」がもはや存在しなくなると行われる。例えば請求項4に記載のパーキングブレーキ装置の場合には、内燃機関の停止とともに電子機械的システムへ切換えられる。一つの例外は、内燃機関が停止し点火装置がオンになっている場合である。このような状況は、マニュアルトランスミッションを備えた車両において発車に失敗した後に起こる。この場合に対して、液圧パーキングと電子機械的パーキングとの間の不必要な切換えを避けるため、パーキングブレーキをそのままもっぱら液圧だけで操作するのが合目的である。しかしながら、当初中止した電子機械的操作への切換えは、他の信号が発生したとき(例えばドライバー席のドアまたはドライバーシートにおいて接点が開いたとき)に行われ、或いは内燃機関の停止後所定の時間が経過した後に行われる。 【0025】液圧操作または電子機械的操作の選択に関する他の有利な構成は、請求項2ないし5に記載の基本的な選択条件の例外を示す以下の従属項から明らかになる。停止していた車両を始動する場合、電子機械的に負荷されていたパーキングブレーキを、液圧操作への切換えにより直接解除するのが通常は有利である(請求項6)。そのためには、発車補助機能(例えば山道においてマニュアルトランスミッションの車両で発車を容易にするための機能)が設けられていれば、この発車補助機能を電子機械的アクチュエーターユニットでも置換できるという前提がありさえすればよい。平地での他のすべての発車過程における(非配分的な)解除は、問題ない。」 以上の事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。 「電子機械的に操作可能なパーキングブレーキ手段と、 液圧によって操作可能なパーキングブレーキ手段と、 a)ドライバー側のドアロックの作動または運転席のドアの開口に伴って、或いは b)ドライバーシートへの着座に伴って、或いは c)点火装置の始動に伴って、 パーキングブレーキの電子機械的操作から液圧操作への切換えを行う手段と、 を備えるパーキングブレーキ制御装置。」 (2-2)引用例2 特開2006-316644号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (か)「【0001】 本発明は、エンジンの始動時期を適切に設定するエンジン制御装置に関する。」 (き)「【0028】 一方で、一旦停止されたエンジンが再始動され、車両が再走行するまでに、一定のタイムラグが生じる。したがって、エンジンを適切なタイミングで始動させれば、運転者は違和感無くかつ安全に車両を発進させることができ、さらに上述した燃料消費量および排気ガスを低減させることができる。 【0029】 次に、アイドリング停止状態にあるエンジンの始動時期を適切に設定し、エンジンを再始動させる制御方法について説明する。 【0030】…(略)… …(略)… 【0042】 また、ECU3は信号機の点灯状態の変化に基づいて、アイドリング停止状態にあるエンジンを再始動させてもよい。 【0043】 例えば、ECU3はカメラ7により撮影された信号機の画像情報に基づいて、信号機の点灯状態が赤色から青色に変化したと判断したとき、アイドリング停止状態にあるエンジンを再始動させるようにしてもよい。 【0044】 図3は信号機の点灯状態の変化に基づいて、アイドリング停止状態にあるエンジンを再始動させたときの制御処理フローを示すフローチャートの一例である。 【0045】 アイドリング停止状態において(S200)、ECU3はカメラ7からの画像情報に基づいて、信号機が前方視野内に存在するか否かを判断する(S210)。 【0046】 ECU3は信号機が前方視野内に存在すると判断したときは、信号機の点灯状態が赤色から青色に変化したか否かを判断する(S220)。 【0047】 ECU3は信号機の点灯状態が赤色から青色に変化したと判断したとき、エンジンECU13に制御信号を送信し、エンジンを自動的に再始動させ、アイドリング状態にする(S230)。一方、ECU3は信号機の点灯状態が赤色から青色に変化していないと判断したとき、エンジンを再始動させること無く、アイドリング停止状態を継続する(S240)。 【0048】 (S210)の処理において、ECU3は信号機が前方視野内に存在しないと判断したときは、先行車両が発進したか否かを判断する(S250)。 【0049】 ECU3は先行車両が発進したと判断したとき、エンジンを自動的に再始動させ、アイドリング状態にする(S230)。一方、ECU3は先行車両が発進していないと判断したとき、エンジンを再始動させること無く、アイドリング停止状態を継続させる(S260)。 【0050】 以上、信号機の点灯状態が赤色から青色に変化すると、自車両は発進可能となる。したがって、ECU3は信号機の点灯状態の変化に基づいて、エンジン始動時期を適切に設定することができる。 【0051】 また、ECU3は信号機の点灯状態の変化を、車載通信機9が路車間通信を介して受信した点灯情報に基づいて、判断してもよい。この場合、ECU3は信号機の点灯情報を予め認識でき、例えば信号機の点灯状態が赤色から青色に変化する所定時間前(3秒前等)に、エンジンを再始動させてもよい。信号機が青色点灯に変わるのとほぼ同時に、運転者は車両を発進させることができる。一方で、運転者はエンジンの始動により、信号機の点灯状態が赤色から青色に変化するタイミングを事前に認識することができるため、運転準備をスムーズに行うことができる。 【0052】 なお、上述した点灯情報としては、点灯の種類(青色点灯、赤色点灯等の点灯色)、当該点灯がなされるまでの時間(例えば、現在の赤色点灯から青色点灯に変わるまでの時間)、直進矢印の指示灯が表示されるまでの時間、右折および左折矢印の指示灯が表示されるまでの時間等がある。」 (く)「【0061】 上記一実施例において、アイドリング停止状態にあるエンジンを再始動させると共に、ブレーキペダル、ステアリングホイール、シート等の車両の一部を振動させて、車両の発進を運転者に促すようにしてもよい。これにより、車両をスムーズに発進させることができ、例えば渋滞解消に繋がる。 【0062】 上記一実施例において、アイドリング停止状態にあるエンジンを再始動させると共に、スピーカの音声、室内のランプの点滅、表示装置の表示等により、車両の発進を運転者に促すようにしてもよい。これにより、車両をスムーズに発進させることができ、例えば渋滞解消に繋がる。」 (3)対比 本願発明1と引用例1発明とを対比すると、 後者の「電子機械的に操作可能なパーキングブレーキ手段」は前者の「機械的連結により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる機械式ブレーキ手段」に相当し、同様に、「液圧によって操作可能なパーキングブレーキ手段」は「液圧により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる液圧式ブレーキ手段」に、「パーキングブレーキ制御装置」は「制動力制御装置」に、それぞれ相当する。 後者の、 「a)ドライバー側のドアロックの作動または運転席のドアの開口に伴って、或いは b)ドライバーシートへの着座に伴って、或いは c)点火装置の始動に伴って、 パーキングブレーキの電子機械的操作から液圧操作への切換えを行う手段」と 前者の、 「前記機械式ブレーキ手段にて自車両が停止している場合に、前記自車両発進予測手段が自車両の発進を予測すると、前記制動力を、前記機械式ブレーキ手段によるものから前記液圧式ブレーキ手段によるものに切り替える切替手段」は、 「前記機械式ブレーキ手段にて自車両が停止している場合に、自車両の発進が予想されると、前記機械式ブレーキ手段によるものから前記液圧式ブレーキ手段によるものに切り替える切替手段」である点で一致する。 したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、 「機械的連結により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる機械式ブレーキ手段と、 液圧により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる液圧式ブレーキ手段と、 前記機械式ブレーキ手段にて自車両が停止している場合に、自車両の発進が予想されると、前記機械式ブレーキ手段によるものから前記液圧式ブレーキ手段によるものに切り替える切替手段と、 を備える制動力制御装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] 本願発明1は、「切替手段」に関して、 「自車両の発進を予測する自車両発進予測手段と、 前記機械式ブレーキ手段にて自車両が停止している場合に、前記自車両発進予測手段が自車両の発進を予測すると、前記制動力を、前記機械式ブレーキ手段によるものから前記液圧式ブレーキ手段によるものに切り替える切替手段と、 自車両の周囲の情報として自車両が停車する交差点の信号機の切り替わり信号を取得する車両周囲情報取得手段と、 を備え、 前記自車両発進予測手段は、前記車両周囲情報取得手段が取得した前記切り替わり信号を基に前記信号機が赤から青に間もなく切り替わると判定したときに、前記自車両の発進を予測する」ものであるのに対して、 引用例1発明は、「切替手段」に関して、 「a)ドライバー側のドアロックの作動または運転席のドアの開口に伴って、或いは b)ドライバーシートへの着座に伴って、或いは c)点火装置の始動に伴って、 パーキングブレーキの電子機械的操作から液圧操作への切換えを行う手段」を備える点。 (4)判断 (4-1)相違点について 引用例1には、上記に摘記したように、「【0002】…パーキングブレーキを動力操作することによりドライバーの負担が軽くなる。また「信号停車」、「発進補助」などのような便利な機能を実現できる。」、「【0008】液圧操作はパーキングブレーキの迅速な作動と解除を可能にする…」、「【0014】本発明によれば、…。車両を利用する際にはパーキングブレーキは液圧操作され、その際便利な機能(信号停車、発進補助)はすべて液圧で行われる…」等の記載があり、これらの記載からみると、引用例1発明は、信号等に基づいて停車・発進する場合のパーキングブレーキの作動態様に関する発明であると理解できる。したがって、引用例1発明においてパーキングブレーキの電子機械的操作から液圧操作への切換えを行う契機となる「a)ドライバー側のドアロックの作動または運転席のドアの開口」、或いは、「b)ドライバーシートへの着座」、或いは、「c)点火装置の始動」は、自車両の発進を予想ないし予測させる徴候・指標であるといえる。 このような発進の徴候・指標が以上の3つに限られるものではないことはいうまでもなく、例えば、引用例2には、上記に摘記したように、エンジンのアイドリング停止状態からの再始動に関するものであるが、「【0043】…信号機の点灯状態が赤色から青色に変化したと判断したとき、アイドリング停止状態にあるエンジンを再始動させる…」、「【0051】…信号機の点灯状態の変化を、車載通信機9が路車間通信を介して受信した点灯情報に基づいて、判断してもよい。この場合、ECU3は信号機の点灯情報を予め認識でき、例えば信号機の点灯状態が赤色から青色に変化する所定時間前(3秒前等)に、エンジンを再始動させてもよい。」と記載されており、ここでは、信号の赤色から青色への変化、ないしその信号の変化の予想・予測に基づいてエンジンを再始動している。このような信号の変化の予想・予測に基づくエンジン再始動は、例えば、特開2005-291214号公報(特に【0009】、【0024】)、特開2003-206781号公報(特に【0003】、【0018】)に示されているように、特別なものではない。 引用例2のエンジンの再始動は、通常、それに続いて車両発進が予定されており、車両の発進のために必須の事項であるという意味で、エンジンの再始動と車両発進とは密接に関連している。したがって、引用例2に示されている信号の変化の予想・予測はエンジンの再始動の徴候・指標にとどまらず、停車状態から発進・走行状態への移行を示す徴候・指標ともなり得ることは当業者に明らかであり、引用例1発明における発進の徴候・指標として、引用例2に示されている上記の事項を適用することに格別の創作性・困難性はない。このようにしたものは、実質的に、相違点に係る本願発明1の上記事項を具備しているといえる。 仮に、引用例2に示されている信号の変化の予想・予測はエンジンの再始動の徴候・指標であるとしても、上述した判断・結論と異なるところはない。すなわち、 (ア)引用例1発明は、「a)ドライバー側のドアロックの作動または運転席のドアの開口」、「b)ドライバーシートへの着座」のほかに、「c)点火装置の始動」を切換えの契機としていること、(イ)引用例1には、上記に摘記したように、「【0020】…点火装置をオンにしたときに始めてバーキングブレーキの液圧操作が行われる。」、「【0025】…。停止していた車両を始動する場合、電子機械的に負荷されていたパーキングブレーキを、液圧操作への切換えにより直接解除する…」と記載されており、エンジン始動とブレーキの切換えが関連していること、(ウ)信号等に基づいて一時的に停車する場合にエンジンを停止することは、いわゆるアイドリングストップとして広く知られていること、以上からすると、引用例1発明は、アイドリングストップを行わないものに限らず、アイドリングストップ手段を備えるものを包含しているということもできる。このような引用例1発明におけるエンジン再始動の徴候・指標として、引用例2の上記事項を適用することはごく自然である。そして、停車時からのエンジンの再始動と車両発進とは密接に関連していること、本願の請求項1においても、停車時にアイドリングストップするか否かについては特に記載されておらず、本願発明1がアイドリングストップしないものに特定されているとは必ずしも言えないこと、以上からすれば、引用例1発明における発進の徴候・指標として引用例2の上記事項を適用したものは、実質的に、相違点に係る本願発明1の上記事項を具備しているといえる。 (4-2)効果について 本願発明1の効果は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測し得る程度のものである。 (5)むすび 以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4.結語 以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-01-17 |
結審通知日 | 2014-01-21 |
審決日 | 2014-02-04 |
出願番号 | 特願2008-61416(P2008-61416) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60T)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 立花 啓 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
島田 信一 森川 元嗣 |
発明の名称 | 制動力制御装置及びその方法 |
代理人 | 森 哲也 |
代理人 | 田中 秀▲てつ▼ |
代理人 | 宮坂 徹 |
代理人 | 小西 恵 |