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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A62B |
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管理番号 | 1285996 |
審判番号 | 不服2013-3577 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-02-25 |
確定日 | 2014-03-20 |
事件の表示 | 特願2008-218530「避難装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月11日出願公開、特開2010- 51473〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成20年8月27日の出願であって、平成24年5月7日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年7月4日に意見書及び手続補正書が提出され、平成24年8月2日付けの再度の拒絶理由通知に対して、平成24年10月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年11月20日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年2月25日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成25年4月9日付けで書面による審尋がされ、平成25年5月31日に回答書が提出され、平成25年9月20日付けで平成25年2月25日提出の手続補正書による手続補正を却下する決定がされ、平成25年10月8日付けの拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知されたのに対し、平成25年12月16日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成25年12月16日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲、平成25年12月16日及び平成24年10月9日に提出された手続補正書によって補正された明細書、並びに願書に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「 【請求項1】 避難者の重量を利用して家屋の避難脱出部からその下方に位置する避難先に降下する昇降プレートと、 減速装置により回転速度が規制されたドラムに巻き付けられて繰り出し速度が規制されたワイヤの繰り出し端を前記昇降プレートに連結して昇降プレートの降下速度を制限する緩降装置と、 避難脱出部と避難先との間に架設されて前記昇降プレートをガイドし、昇降プレートの降下時の横揺れを規制するガイド支柱と、 作動状態において前記昇降プレートの避難脱出部からの降下を規制するストッパとを有するとともに、 避難脱出部に設置されて前記昇降プレートを不使用時に内部に収容する枠状のケースを有し、 かつ、前記昇降プレートには、該昇降プレート上で立った姿勢をとる利用者に起立状態で手掛けを提供するハンドルが倒伏姿勢で装着されるとともに、踏み込み操作により前記ストッパを解除するストッパ解除ペダルが装着される避難装置。」 3.引用文献 (1)引用文献の記載 本願の出願前に頒布され、当審拒絶理由で引用された刊行物である特開2003-265633号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の記載がある。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、例えばマンションのベランダなどに設置する避難装置に関する。」(段落【0001】) (イ)「【0004】 【発明が解決しようとする課題】上記従来の避難装置は、利用者が、体の自由が利く状態であれば特別な問題はないが、体が不自由だったり、小さい子供などだったりすると、介助なしに一人で上記梯子やロープを使って降りることは難しい。また、危険であもある。この発明の目的は、体の不自由な人や小さい子供でも、安全に降りることのできる避難装置を提供することである。」(段落【0004】) (ウ)「【0008】 【発明の実施の形態】図1?図9にこの発明の第1実施形態を示す。図1、図2に示すように、マンションなどのベランダの床面1には、本体2を埋め込んでいる。この本体2には、図示していないヒンジを介して上蓋3と下蓋4とを開閉自在に設けている。図1?図3は、いずれも上蓋3および下蓋4が開いた状態を示している。上記上蓋3には、梯子5の上部を取り付けている。この梯子5は、伸縮自在であり、図1に示すように伸ばしたり、図3に示すように縮めたりできるようにしている。 【0009】図4、図5は、この梯子5の部分拡大図である。図4に示すように、この梯子5は、つり竿のように伸縮する一対の伸縮棒6,7と、これら伸縮棒6,7間に掛け渡した踏桟8と、各踏桟8を連結するリンク部材9とから構成されている。上記伸縮棒6,7は、図5に示すように、直径の異なる複数の筒部材10から構成されていて、直径の大きい筒部材10に直径の小さい筒部材10をスライド自在に組み込んでいる。そして、上記したようにこの伸縮棒6,7を伸び縮み可能にしている。 【0010】このようにした伸縮棒6,7は、最も直径の小さい筒部材10を上蓋3に取り付けている。そのため、伸びたときに最も直径の大きい筒部材10が最下部に位置するようにしている。なお、各筒部材10の内部には、図示していない抜け止め部材を設けているので、伸縮棒6,7が下方に伸びたときでも、各筒部材10が一段上の筒部材10から抜けたりしない。 【0011】上記各筒部材10の上部には、上記したように踏桟8をそれぞれ取り付けている。そして、これら各踏桟8,8を、リンク部材9を介して連結している。これらリンク部材9,9は、第1リンク部9aと第2リンク部9bとからなり、各リンク部9a、9bの一端を、ピン12によって踏桟8に回動自在に取り付けている。また、各リンク部9a、9bの他端を、ピン13によって互いに回動自在に連結している。なお、上記第1リンク部9aは、図5に示すように2枚一組となっていて、その間に第2リンク部9bを挟み込んだ状態で連結している。このようにしたリンク部材9,9は、梯子5が縮んでいるときには、図4に示すように横V字状に折り畳まれているが、梯子5が伸びることによって一直線状になる(図1参照)。このようにリンク部材9,9によって踏桟8,8間を連結することによって、梯子5の全体の強度を高めている。 【0012】上記伸縮棒6,7を構成する最も下側の最も太い筒部材10には、フレーム15を固定するとともに、このフレーム15の下部に踏板16の一端を回動自在に取り付けている。そして、この踏板16を、フレーム15に対して垂直にしたり水平にできるようにしている。なお、踏板16を水平に保つために、この踏板16とフレーム15とをワイヤ14によって連結している。なお、最も下側の筒部材10は、その直径が太い分、他の直径の細い筒部材10よりも強度が高くなっている。このように強度の高い筒部材10にフレーム15および踏板16を取り付けているので、これらフレーム15および踏板16を取り付けるために、わざわざ補強する必要がない。 【0013】一方、図1に示すように、上記上蓋3には、リール17と、調速器18と、第1滑車19と、第2滑車20とを設けている。また、ステップSには、第3滑車21を設けている。上記リール17には、ロープRを所定の長さ分だけ巻き付けている。このリール17に巻き付けたロープRの所定の長さとは、図1、図2に示すように、梯子5が最も伸びたときに、ロープRがリール17に多少残る長さである。そして、このロープRが、この発明の紐状部材に相当するが、ロープRの代わりにワイヤー等を用いてもよい。つまり、所定の引っ張り強さを有していれば、紐状部材の材質は問わない。 【0014】上記のようにしたロープRを、調速器18→第1滑車19→第2滑車20→第3滑車21に導いた後、その一端を上蓋3に固定している。上記調速器18は、リール17から送り出されるロープRの送り出し速度を制御するものである。すなわち、ロープRの送り出し速度が所定の速度に達すると、調速器18が減速機能を発揮して、ロープRの送り出し速度を減速する。このようにすることによって、踏板16が急降下しないようにしている。なお、図中符号22は、リール17の回転を規正(審決注:「規正」は、文意からみて、「規制」の明らかな誤記と認める。)するストッパーであり、このストッパー22を解除することにより、リール17がフリーに回転するようにしている。 【0015】次に、この装置の使用手順について説明する。図6は、上蓋3と下蓋4とを閉じた状態であり、このとき梯子5は収縮した状態で本体2内に格納されている。この状態から、図7に示すように上蓋3を開くと、図示していないリンク機構によって下蓋4も開く。また、このように上蓋3を開くと、この上蓋3に取り付けた梯子5と踏板16とが起立するので、踏板16のみを倒して水平にする。なお、このように上蓋3を開いた時点では、リール17の回転がストッパー22によって規制されているため、ロープRの送り出しも規制されている。したがって、梯子5を起立させた時点で、踏板16が下降することはない。 【0016】次に、上記踏板16に人が乗った状態で、ストッパー22を解除すると、図8に示すように、踏板16の自重と人の重さによって梯子5が伸びるとともに踏板16が下降し始める。また、このとき、第3滑車21によってロープRが下方に引っ張られるので、リール17に巻いてあるロープRが、調速器17→第1滑車19→第2滑車20を介して引っ張られる。そして、ロープRの送り出し速度が一定の速度を超えると、調速器17の減速機能が発揮されて、その送り出し速度が規制される。そのため、踏板16は、所定の速度で下降することになる。また、リンク部材9が図1に示す一直線の状態になると、この梯子5の伸びが停止する。なお、この梯子5は、図9に示すように、踏板16が地面に接地する直前で停止するように、その伸長時の長さを設定している。 【0017】上記第1実施形態によれば、踏板16をゆっくり下降させる構成にしたので、体の不自由な人や小さい子供でも、この踏板16に乗ることによって、無理なく安全に降りることができる。また、踏板16を複数人乗れる大きさに設定しておけば、体の不自由な人を、他の人が介助しながら降りることもできる。さらに、踏板16を地上に降ろせば、梯子5としても使用することができるので、体の自由が利く人であれば、この梯子5を利用して避難することもできる。」(段落【0008】ないし【0017】) (エ)「【0019】図2に示した第2実施形態は、二台の梯子5A、5Bを1本のロープRによって連結したものであり、これら二台の梯子5A,5Bの動きを連動させたものである。なお、これら梯子5A,5Bの構成と、各梯子5A,5Bに取り付けた踏板16の構成は、上記第1実施形態と同じである。この第2実施形態では、上蓋3に設けたリール24に、所定の長さのロープRを巻き付けている。そして、このロープRの一方を、第1調速器25を介して第1滑車26→第2滑車27→第3滑車28→第4滑車29→第5滑車30→第2調速器31に導いている。また、この第2調速器31から第6滑車32→第7滑車(図示せず)→第8滑車33を介して上蓋3に導いて固定している。 【0020】このようにした第2実施形態は、リール24のストッパ35を解除すると、図示するように、梯子5Aの伸びとともにこの梯子5Aの下部に取り付けた踏板16aが下降する。梯子5Aの伸びとともに踏板16aが下降すると、リール24から所定量のロープRが調速器25によって減速されつつ送り出される。そのため、踏板16がゆっくり下降することになる。なお、踏板16が最も下の位置に達した状態で、ロープRがリール24から全て送り出されるようにその長さを設定している。 【0021】上記のようにして、一方の踏板16aを最も下まで降ろした後、他方の梯子5Bに設けた踏板16bに人が乗ると、梯子5Bの伸びとともにこの踏板16bが下降する。このとき、第8滑車33によってロープRが下方に引っ張られるため、調速器31からロープRが送り出されるが、その送り出し速度はこの調速器31によって制御されている。そのため、踏板16bは、安全な速度で下降することになる。 【0022】また、上記のようにしてロープRが送り出されると、その送り出した分だけ、一方の梯子5A側のロープRが引っ張られる。そのため、この一方の梯子5Aが縮み、この梯子5Aに設けた踏板16aが上昇する。そして、他方の梯子5Bが最も伸びた時点で、この一方の梯子5Aに設けた踏板16aがベランダの床面レベルに達することになる。つまり、一方の踏板16bが下降するときの力を利用して、他方の踏板を引き上げるようにしている。このようにすれば、2台の踏板16a,16bを交互に利用して、複数の人を効率良く避難させることができる。」(段落【0019】ないし【0022】) (2)引用文献記載の事項 上記(1)(ア)ないし(エ)及び図1ないし図9の記載から、以下の事項が分かる。 (オ)上記(1)(ア)ないし(ウ)並びに図1及び図7ないし図9の記載から、引用文献には、避難装置の利用者の重さによってマンションなどのベランダに設けた開口からその下方に位置する地上に下降する踏板16を有する避難装置が記載されていることが分かる。 (カ)上記(1)(ウ)及び図1の記載から、引用文献に記載された避難装置は、調速器18により送り出し速度が減速されるロープRを第3滑車21を介して踏板16に連結して、踏板16を所定の速度で下降させる機構を有することが分かる。 (キ)上記(1)(ウ)並びに図1及び図2の記載から、引用文献に記載された避難装置は、ベランダに設けた開口と地上との間で伸縮し、踏板16を回動自在に取り付けたフレーム15が固定された伸縮棒6、7を有することが分かる。 (ク)上記(1)(ウ)及び図1の記載から、引用文献に記載された避難装置は、ロープRの送り出しを規制することにより踏板16の下降を規制するストッパー22を有することが分かる。 (ケ)上記(1)(ウ)並びに図1及び図6の記載から、引用文献に記載された避難装置は、ベランダに設けた開口に設置されて踏板16を不使用時に内部に格納する枠状の本体2を有することが分かる。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)並びに図1ないし図9から、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「避難装置の利用者の重さによって、マンションなどのベランダに設けた開口からその下方に位置する地上に下降する踏板16と、 調速器18により送り出し速度が減速されるロープRを第3滑車21を介して踏板16に連結して、踏板16を所定の速度で下降させる機構と、 ベランダに設けた開口と地上との間で伸縮し、踏板16を回動自在に取り付けたフレーム15が固定された伸縮棒6、7と、 ロープRの送り出しを規制することにより踏板16の下降を規制するストッパー22と、 ベランダに設けた開口に設置されて踏板16を不使用時に内部に格納する枠状の本体2を有する避難装置。」 4.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「避難装置の利用者」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「避難者」に相当し、以下同様に、「避難装置の利用者の重さ」は「避難者の重量」に、「踏板16」は「昇降プレート」に、「格納する」は「収納する」に、「枠状の本体2」は「枠状のケース」にそれぞれ相当する。 また、本願の明細書の段落【0017】には、「避難装置は、家屋の壁面に沿って配置し、壁面に開口する窓等の非常脱出口を非難脱出部1として下階、あるいは地上を避難先2とするように構成する以外に、家屋、特に集合住宅等のベランダ13から下階のベランダ13に退避するように構成することができる」と記載されており、本願発明において「家屋」は「集合住宅」を含むものであるから、引用発明における「マンション」は本願発明における「家屋」に相当する。 そして、引用発明における「マンションなどのベランダに設けた開口」は避難装置の利用者の避難元であり、「地上」は避難先であるから、それぞれ、本願発明における「避難脱出部」及び「避難先」に相当する。 したがって、引用発明における「避難装置の利用者の重さによって、マンションなどのベランダに設けた開口からその下方に位置する地上に下降する踏板16」は、本願発明における「避難者の重量を利用して家屋の避難脱出部からその下方に位置する避難先に降下する昇降プレート」に相当する。 さらに、引用発明における「調速器18により送り出し速度が減速されるロープRを第3滑車21を介して踏板16に連結して、踏板16を所定の速度で下降させる機構」は、踏板16の下降速度を制限して、ゆっくり下降させるものであるといえる。したがって、「昇降プレートの降下速度を制限する緩降装置」という限りにおいて、引用発明における「調速器18により送り出し速度が減速されるロープRを第3滑車21を介して踏板16に連結して、踏板16を所定の速度で下降させる機構」は、本願発明における「減速装置により回転速度が規制されたドラムに巻き付けられて繰り出し速度が規制されたワイヤの繰り出し端を前記昇降プレートに連結して昇降プレートの降下速度を制限する緩降装置」に相当する。 また、引用発明における「ストッパー22」は、「ロープRの送り出しを規制することにより踏板16の下降を規制」し、「踏板16に人が乗った状態で、ストッパー22を解除すると‥‥(中略)‥‥踏板16が下降し始める」(上記3.(2)(ウ)段落【0016】)ものであるから、解除されていない状態、すなわち作動状態において踏板16のベランダに設けた開口からの下降を規制するものであるといえる。したがって、引用発明における「ロープRの送り出しを規制することにより踏板16の下降を規制するストッパー22」は、本願発明における「作動状態において前記昇降プレートの避難脱出部からの降下を規制するストッパ」に相当する。 よって、本願発明と引用発明とは、 「 避難者の重量を利用して家屋の避難脱出部からその下方に位置する避難先に降下する昇降プレートと、 昇降プレートの降下速度を制限する緩降装置と、 作動状態において前記昇降プレートの避難脱出部からの降下を規制するストッパとを有するとともに、 避難脱出部に設置されて前記昇降プレートを不使用時に内部に収容する枠状のケースを有する避難装置。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> (a)「昇降プレートの降下速度を制限する緩降装置」に関し、本願発明においては「減速装置により回転速度が規制されたドラムに巻き付けられて繰り出し速度が規制されたワイヤの繰り出し端を前記昇降プレートに連結して昇降プレートの降下速度を制限する緩降装置」であるのに対し、引用発明においては「調速器18により送り出し速度が減速されるロープRを第3滑車21を介して踏板16に連結して、踏板16を所定の速度で下降させる機構」である点(以下、「相違点1」という。)。 (b)本願発明においては「避難脱出部と避難先との間に架設されて前記昇降プレートをガイドし、昇降プレートの降下時の横揺れを規制するガイド支柱」を有するのに対し、引用発明においては「ベランダに設けた開口と地上との間で伸縮し、踏板16を回動自在に取り付けたフレーム15が固定された伸縮棒6、7」を有する点(以下、「相違点2」という。)。 (c)本願発明においては「前記昇降プレートには、該昇降プレート上で立った姿勢をとる利用者に起立状態で手掛けを提供するハンドルが倒伏姿勢で装着されるとともに、踏み込み操作により前記ストッパを解除するストッパ解除ペダルが装着される」のに対して、引用発明においては、これらの構成を有しない点(以下、「相違点3」という。)。 5.判断 上記相違点について検討する。 まず、相違点1に関し、避難装置に用いられる緩衝器において、減速装置により回転速度が規制されたドラムにワイヤを巻き付けることにより、ワイヤの繰り出し速度を規制することは、周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、当審拒絶理由で引用された刊行物である登録実用新案第3008266号公報の段落【0026】ないし【0029】等参照。)であり、引用発明において、ワイヤーの送り出し速度を減速させる調速器18に代えて、周知技術1を適用することにより、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に相違点2に関し、引用発明は、体の不自由な人や小さい子供でも、安全に降りることのできる避難装置(上記3.(1)(イ)参照)であるから、引用発明において、踏板16の下降時に少なくとも安全を確保する程度に横揺れを規制するよう伸縮棒6、7を設計することは、当然に行われることである。 一方、避難装置において、避難者が乗る搭乗手段をガイドする柱を、避難脱出位置と避難先との間に架設し、避難脱出位置側から吊り下げられて下端が避難先に水平移動不可能に支持することは周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、当審拒絶理由で引用された刊行物である特開平9-271522号公報の段落【0020】ないし【0024】等参照。)である。 そして、本願の明細書の段落【0008】には、「ガイド支柱8は、避難装置の不使用時においても架設状態が維持されるもの以外、避難装置の使用時においてのみ避難脱出部1側から伸長、降下するものであってもよい」と記載され、不使用時にガイド支柱8の架設状態が維持されるものと維持されないものを選択的に用いることができることからみて、引用発明において、伸縮棒6、7に代えて、周知技術2を適用することにより、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、相違点3に関し、避難装置において避難者が乗る乗降設備に手掛けを設けることは周知技術(以下、「周知技術3」という。例えば、当審拒絶理由で引用された刊行物である特開平1-305970号公報の第1図、特開平6-39046号公報の段落【0007】及び図2に示されたつかまり部21、21’等参照。)であるほか、簡易な昇降設備の手掛けを倒伏可能とするという程度のことは常套手段(以下、「常套手段」という。例えば、当審拒絶理由で引用された刊行物である特開平11-322284号公報の段落【0019】及び図5、並びに実願昭51-127579号(実開昭53-45000号)のマイクロフィルムの明細書第3ページ第2ないし5行及び図7の手摺り9a、9b等参照)である。 また、避難装置において、避難者が乗る台上に、踏み込み操作により避難装置の制動装置を解除するペダルを装着することは、装置設計上、適宜採用される程度の事項(以下、「設計事項」という。例えば、登録実用新案第3107891号公報の段落【0010】及び図2、並びに特開平6-39046号公報の段落【0011】及び図2の戻し用バネ24等参照。)である。 そして、引用文献の図7ないし図9から、引用発明における避難装置の利用者は、踏板16上に立った姿勢でフレーム15又は踏桟8に手を掛けて乗るものであることが看取できるところ、引用発明において、上記常套手段及び設計事項を参酌しつつ周知技術3を適用することにより、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明は、全体構成でみても、引用発明並びに周知技術1ないし3、常套手段及び設計事項から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものでもない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1ないし3、常套手段及び設計事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-01-17 |
結審通知日 | 2014-01-21 |
審決日 | 2014-02-03 |
出願番号 | 特願2008-218530(P2008-218530) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A62B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山村 秀政 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 金澤 俊郎 |
発明の名称 | 避難装置 |
代理人 | 川岡 秀男 |
代理人 | 山川 雅男 |