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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1286075
審判番号 不服2013-15375  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-08 
確定日 2014-04-08 
事件の表示 特願2008-266566「ハイブリッド車両およびその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月30日出願公開、特開2010- 95089、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成20年10月15日の出願であって、平成24年9月4日付けで拒絶理由が通知され、同年11月7日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月17日付けで再度拒絶理由が通知され、平成25年2月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月7日に拒絶査定がされ、これに対し、同年8月8日に拒絶査定に対する審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がされたものである。
そして、同年9月18日付けで当審において書面による審尋がされ、同年11月20日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

第2.平成25年8月8日付けの特許請求の範囲を補正する手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年2月20日付けの手続補正書により補正された)下記Aに示す記載を、下記Bに示す記載へと補正するものである。
A 本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
主として発電機として動作する第1の回転電機と、
車両の駆動輪の回転と同期して回転し、前記駆動輪に動力を加えるための第2の回転電機と、
充電可能な蓄電装置を含む直流電源部と、
前記直流電源部と前記第1および前記第2の回転電機との間に接続され、前記第1および前記第2の回転電機と前記直流電源部との間で双方向の電力変換を行う電力変換装置と、
前記第1および前記第2の回転電機の駆動指令を生成する第1の制御装置と、
前記第1の制御装置との間で互いに情報を授受可能に構成され、前記駆動指令に従って前記第1および前記第2の回転電機が作動するように前記電力変換装置を制御するための第2の制御装置とを備え、
前記第2の制御装置は、
前記第1および前記第2の回転電機にそれぞれ設けられたセンサの出力に基づいて、前記第1および前記第2の回転電機の回転数を検出する速度検出部を含み、
前記第1の制御装置は、
前記車両の状態と、前記速度検出部によって検出された前記第1および前記第2の回転電機の回転数に基づく前記第1および前記第2の回転電機の全体での入出力電力に従って、前記入出力電力が前記蓄電装置の充電電力上限値および放電電力制限値を超えないように前記駆動指令を生成する駆動指令生成部を含み、
前記第2の制御装置は、
前記第1の制御装置からの前記駆動指令と、前記速度検出部によって検出された前記回転数とに基づいて算出された前記第1および前記第2の回転電機の入出力電力に従って、
前記蓄電装置の充放電電力を算出する充放電電力算出部と、
前記第1の制御装置からの前記駆動指令と、前記充放電電力算出部によって算出された前記充放電電力とに従って、前記電力変換装置により、前記第1および前記第2の回転電機を制御する駆動制御部とをさらに含み、
前記駆動制御部は、
前記充放電電力算出部によって算出された前記蓄電装置の充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力が前記充電電力上限値以下となるように前記第1の制御装置からの前記駆動指令を修正する指令修正部を有する、ハイブリッド車両。
【請求項2】
前記指令修正部は、前記充放電電力算出部によって算出された前記充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第1の回転電機の発電電力を低下させるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記ハイブリッド車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
前記エンジンの出力軸と、前記第1および前記第2の回転電機の出力軸とがそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、いずれか2つの出力軸の回転数が定められると、他の1つの出力軸の回転数が強制的に定まるように構成された動力分割機構とをさらに備え、
前記指令修正部は、前記第1の回転電機の修正後の前記駆動指令を用いた場合の前記第1の回転電機および前記エンジンの回転数が、前記第1の回転電機および前記エンジンのそれぞれの設備定格に基づいて設定される回転数上限値以下となるように、前記第1の回転電機の前記駆動指令を再修正する、請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記指令修正部は、前記充放電電力算出部によって算出された前記充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第2の回転電機の消費電力を増加させるように前記第2の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記指令修正部は、前記第2の回転電機の修正後の前記駆動指令が、所定の基準値以下となるように前記第2の回転電機の前記駆動指令を再修正する、請求項4に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
前記駆動制御部は、前記充放電電力算出部によって算出された前記充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第1の回転電機の発電電力を低下させるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を修正するとともに、前記第2の回転電機の消費電力を増加するように前記第2の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項7】
前記ハイブリッド車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
前記エンジンの出力軸と、前記第1および前記第2の回転電機の出力軸とがそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、いずれか2つの出力軸の回転数が定められると、他の1つの出力軸の回転数が強制的に定まるように構成された動力分割機構とをさらに備え、
前記駆動制御部は、前記第1の回転電機の修正後の前記駆動指令を用いた場合の前記第1の回転電機および前記エンジンの回転数が、前記第1の回転電機および前記エンジンのそれぞれの設備定格に基づいて設定される回転数上限値以下となるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を再修正するとともに、前記第2の回転電機の修正後の前記駆動指令が、所定の基準値以下となるように、前記第2の回転電機の前記駆動指令を再修正する、請求項6に記載のハイブリッド車両。
【請求項8】
互いに情報を授受可能に構成された第1の制御装置および第2の制御装置によるハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、
主として発電機として動作する第1の回転電機と、
車両の駆動輪の回転と同期して回転し、前記駆動輪に動力を加えるための第2の回転電機と、
充電可能な蓄電装置を含む直流電源部と、
前記直流電源部と前記第1および前記第2の回転電機との間に接続され、前記第1および前記第2の回転電機と前記直流電源部との間で双方向の電力変換を行う電力変換装置とを備え、
前記制御方法は、
前記第2の制御装置により、前記第1および前記第2の回転電機のそれぞれに設けられたセンサの出力に基づいて、前記第1および前記第2の回転電機の回転数を検出するステップと、
前記第1の制御装置により、前記検出するステップによって検出された前記回転数に基づく前記第1および前記第2の回転電機の入出力電力に従って、前記入出力電力が前記蓄電装置の充電電力上限値および放電電力制限値を超えないように前記第1および前記第2の回転電機の駆動指令を生成するステップと、
前記第2の制御装置により、前記第1の制御装置からの前記駆動指令および前記回転数に基づく前記第1および前記第2の回転電機の入出力電力に従って、前記蓄電装置の充放電電力を算出するステップと、
前記第2の制御装置により、前記第1の制御装置からの前記駆動指令と、前記充放電電力算出部によって算出された前記充放電電力とに従って、前記電力変換装置により、前記第1および前記第2の回転電機を制御するステップとを備え、
前記制御するステップは、
前記算出するステップにより算出された前記蓄電装置の充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力が前記充電電力上限値以下となるように前記第1の制御装置からの前記駆動指令を修正するステップを含む、ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項9】
前記修正するステップは、前記算出するステップによって算出された前記充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、第1の回転電機の発電電力を低下させるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項8に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項10】
前記ハイブリッド車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
前記エンジンの出力軸と、前記第1および前記第2の回転電機の出力軸とがそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、いずれか2つの出力軸の回転数が定められると、他の1つの出力軸の回転数が強制的に定まるように構成された動力分割機構とをさらに備え、
前記修正するステップは、
前記第1の回転電機の修正後の前記駆動指令を用いた場合の前記第1の回転電機および前記エンジンの回転数が、前記第1の回転電機および前記エンジンのそれぞれの設備定格に基づいて設定される回転数上限値以下となるように、前記第1の回転電機の前記駆動指令を再修正するステップをさらに含む、請求項9に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項11】
前記修正するステップは、前記算出するステップによって算出された前記蓄電装置の充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第2の回転電機の消費電力を増加させるように前記第2の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項8に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項12】
前記修正するステップは、
前記第2の回転電機の修正後の前記駆動指令が、所定の基準値以下となるように、前記第2の回転電機の前記駆動指令を再修正するステップをさらに含む、請求項11に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項13】
前記制御するステップは、前記算出するステップによって算出された前記蓄電装置の充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第1の回転電機の発電電力を低下させるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を修正するとともに、前記第2の回転電機の消費電力を増加させるように前記第2の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項8に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項14】
前記ハイブリッド車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
前記エンジンの出力軸と、前記第1および前記第2の回転電機の出力軸とがそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、いずれか2つの出力軸の回転数が定められると、他の1つの出力軸の回転数が強制的に定まるように構成された動力分割機構とをさらに備え、
前記制御するステップは、
修正後の前記駆動指令を用いた場合の前記第1の回転電機および前記エンジンの回転数が、前記第1の回転電機および前記エンジンのそれぞれの設備定格に基づいて設定される回転数上限値以下となるように、前記第1の回転電機の前記駆動指令を再修正するとともに、前記第2の回転電機の修正後の前記駆動指令が、所定の基準値以下となるように、前記第2の回転電機の前記駆動指令を再修正するステップをさらに含む、請求項13に記載のハイブリッド車両の制御方法。」

B 本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
主として発電機として動作する第1の回転電機と、
車両の駆動輪の回転と同期して回転し、前記駆動輪に動力を加えるための第2の回転電機と、
充電可能な蓄電装置を含む直流電源部と、
前記直流電源部と前記第1および前記第2の回転電機との間に接続され、前記第1および前記第2の回転電機と前記直流電源部との間で双方向の電力変換を行う電力変換装置と、
前記第1および前記第2の回転電機の駆動指令を生成する第1の制御装置と、
前記第1の制御装置との間で互いに情報を授受可能に構成され、前記駆動指令に従って前記第1および前記第2の回転電機が作動するように前記電力変換装置を制御するための第2の制御装置とを備え、
前記第2の制御装置は、
前記第1および前記第2の回転電機にそれぞれ設けられたセンサの出力に基づいて、前記第1および前記第2の回転電機の回転数を検出する速度検出部を含み、
前記第1の制御装置は、
前記車両の状態と、前記速度検出部によって検出された前記第1および前記第2の回転電機の回転数に基づく前記第1および前記第2の回転電機の全体での入出力電力に従って、前記入出力電力が前記蓄電装置の充電電力上限値および放電電力制限値を超えないように充電および放電を制限して前記駆動指令を生成する駆動指令生成部を含み、
前記第2の制御装置は、
前記第1の制御装置からの前記駆動指令と、前記速度検出部によって検出された前記回転数とに基づいて算出された前記第1および前記第2の回転電機の入出力電力に従って、前記蓄電装置の充放電電力を算出する充放電電力算出部と、
前記第1の制御装置からの前記駆動指令と、前記充放電電力算出部によって算出された前記充放電電力とに従って、前記電力変換装置により、前記第1および前記第2の回転電機を制御する駆動制御部とをさらに含み、
前記駆動制御部は、
前記駆動指令生成部での充電制限と共通の充電制限が適用されるように、前記充放電電力算出部によって算出された前記蓄電装置の充電電力が、前記駆動指令生成部での充電制限に用いられたのと共通の前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力が当該充電電力上限値以下となるように前記第1の制御装置からの前記駆動指令を修正する指令修正部を有する、ハイブリッド車両。
【請求項2】
前記指令修正部は、前記充放電電力算出部によって算出された前記充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第1の回転電機の発電電力を低下させるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記ハイブリッド車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
前記エンジンの出力軸と、前記第1および前記第2の回転電機の出力軸とがそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、いずれか2つの出力軸の回転数が定められると、他の1つの出力軸の回転数が強制的に定まるように構成された動力分割機構とをさらに備え、
前記指令修正部は、前記第1の回転電機の修正後の前記駆動指令を用いた場合の前記第1の回転電機および前記エンジンの回転数が、前記第1の回転電機および前記エンジンのそれぞれの設備定格に基づいて設定される回転数上限値以下となるように、前記第1の回転電機の前記駆動指令を再修正する、請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記指令修正部は、前記充放電電力算出部によって算出された前記充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第2の回転電機の消費電力を増加させるように前記第2の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記指令修正部は、前記第2の回転電機の修正後の前記駆動指令が、所定の基準値以下となるように前記第2の回転電機の前記駆動指令を再修正する、請求項4に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
前記駆動制御部は、前記充放電電力算出部によって算出された前記充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第1の回転電機の発電電力を低下させるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を修正するとともに、前記第2の回転電機の消費電力を増加するように前記第2の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項7】
前記ハイブリッド車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
前記エンジンの出力軸と、前記第1および前記第2の回転電機の出力軸とがそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、いずれか2つの出力軸の回転数が定められると、他の1つの出力軸の回転数が強制的に定まるように構成された動力分割機構とをさらに備え、
前記駆動制御部は、前記第1の回転電機の修正後の前記駆動指令を用いた場合の前記第1の回転電機および前記エンジンの回転数が、前記第1の回転電機および前記エンジンのそれぞれの設備定格に基づいて設定される回転数上限値以下となるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を再修正するとともに、前記第2の回転電機の修正後の前記駆動指令が、所定の基準値以下となるように、前記第2の回転電機の前記駆動指令を再修正する、請求項6に記載のハイブリッド車両。
【請求項8】
互いに情報を授受可能に構成された第1の制御装置および第2の制御装置によるハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、
主として発電機として動作する第1の回転電機と、
車両の駆動輪の回転と同期して回転し、前記駆動輪に動力を加えるための第2の回転電機と、
充電可能な蓄電装置を含む直流電源部と、
前記直流電源部と前記第1および前記第2の回転電機との間に接続され、前記第1および前記第2の回転電機と前記直流電源部との間で双方向の電力変換を行う電力変換装置とを備え、
前記制御方法は、
前記第2の制御装置により、前記第1および前記第2の回転電機のそれぞれに設けられたセンサの出力に基づいて、前記第1および前記第2の回転電機の回転数を検出するステップと、
前記第1の制御装置により、前記検出するステップによって検出された前記回転数に基づく前記第1および前記第2の回転電機の入出力電力に従って、前記入出力電力が前記蓄電装置の充電電力上限値および放電電力制限値を超えないように充電および放電を制限して前記第1および前記第2の回転電機の駆動指令を生成するステップと、
前記第2の制御装置により、前記第1の制御装置からの前記駆動指令および前記回転数に基づく前記第1および前記第2の回転電機の入出力電力に従って、前記蓄電装置の充放電電力を算出するステップと、
前記第2の制御装置により、前記第1の制御装置からの前記駆動指令と、前記算出するステップにより算出された前記充放電電力とに従って、前記電力変換装置により、前記第1および前記第2の回転電機を制御するステップとを備え、
前記制御するステップは、
前記第1の制御装置による前記生成するステップでの充電制限と共通の充電制限が適用されるように、前記算出するステップにより算出された前記蓄電装置の充電電力が、前記第1の制御装置による前記生成するステップでの充電制限に用いられたのと共通の前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力が前記充電電力上限値以下となるように前記第1の制御装置からの前記駆動指令を修正するステップを含む、ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項9】
前記修正するステップは、前記算出するステップによって算出された前記充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、第1の回転電機の発電電力を低下させるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項8に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項10】
前記ハイブリッド車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
前記エンジンの出力軸と、前記第1および前記第2の回転電機の出力軸とがそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、いずれか2つの出力軸の回転数が定められると、他の1つの出力軸の回転数が強制的に定まるように構成された動力分割機構とをさらに備え、
前記修正するステップは、
前記第1の回転電機の修正後の前記駆動指令を用いた場合の前記第1の回転電機および前記エンジンの回転数が、前記第1の回転電機および前記エンジンのそれぞれの設備定格に基づいて設定される回転数上限値以下となるように、前記第1の回転電機の前記駆動指令を再修正するステップをさらに含む、請求項9に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項11】
前記修正するステップは、前記算出するステップによって算出された前記蓄電装置の充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第2の回転電機の消費電力を増加させるように前記第2の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項8に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項12】
前記修正するステップは、
前記第2の回転電機の修正後の前記駆動指令が、所定の基準値以下となるように、前記第2の回転電機の前記駆動指令を再修正するステップをさらに含む、請求項11に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項13】
前記制御するステップは、前記算出するステップによって算出された前記蓄電装置の充電電力が前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力上限値の超過分に対応させて、前記第1の回転電機の発電電力を低下させるように前記第1の回転電機の前記駆動指令を修正するとともに、前記第2の回転電機の消費電力を増加させるように前記第2の回転電機の前記駆動指令を修正する、請求項8に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項14】
前記ハイブリッド車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
前記エンジンの出力軸と、前記第1および前記第2の回転電機の出力軸とがそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、いずれか2つの出力軸の回転数が定められると、他の1つの出力軸の回転数が強制的に定まるように構成された動力分割機構とをさらに備え、
前記制御するステップは、
修正後の前記駆動指令を用いた場合の前記第1の回転電機および前記エンジンの回転数が、前記第1の回転電機および前記エンジンのそれぞれの設備定格に基づいて設定される回転数上限値以下となるように、前記第1の回転電機の前記駆動指令を再修正するとともに、前記第2の回転電機の修正後の前記駆動指令が、所定の基準値以下となるように、前記第2の回転電機の前記駆動指令を再修正するステップをさらに含む、請求項13に記載のハイブリッド車両の制御方法。」(アンダーラインは補正箇所を示すもので請求人が付したものである。)

2.本件補正の適否
請求項1における本件補正は、「駆動指令を生成する駆動指令生成部」に関して、「充電および放電を制限して」という限定を付加するもの、「第1の制御装置からの駆動指令を修正する指令修正部」に関して、「駆動指令生成部での充電制限と共通の充電制限が適用されるように、前記充放電電力算出部によって算出された前記蓄電装置の充電電力が、前記駆動指令生成部での充電制限に用いられたのと共通の前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力が当該充電電力上限値以下となるように」という限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項8における本件補正は、「第1および第2の回転電機の駆動指令を生成するステップ」に関して、「充電および放電を制限して」という限定を付加するもの、「充放電電力」に関して、「算出するステップにより算出された」という限定を付加するもの、及び、「第1の制御装置からの駆動指令を修正するステップ」に関して、「第1の制御装置による前記生成するステップでの充電制限と共通の充電制限が適用されるように、前記算出するステップにより算出された前記蓄電装置の充電電力が、前記第1の制御装置による前記生成するステップでの充電制限に用いられたのと共通の前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力が前記充電電力上限値以下となるように」という限定を付加するものであって、本件補正前の請求項8に係る発明と本件補正後の請求項8に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
さらに、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところもない。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び8に係る発明(以下、「本件補正発明1」及び「本件補正発明2」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

2-1.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本件出願日前に頒布された刊行物である特開2006-94691号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「【0034】
図1は、本発明の一実施例である動力出力装置を搭載したハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、変速機60を介して動力分配統合機構30に接続されたモータMG2と、動力出力装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。」(段落【0034】)

イ.「【0036】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して変速機60がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構37,デファレンシャルギヤ38を介して駆動輪39a,39bに出力される。」(段落【0036】)

ウ.「【0037】
モータMG1およびモータMG2は、共に発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2の一方で発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2から生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1とモータMG2とにより電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、共にモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、回転位置検出センサ43,44から入力した信号に基づいて図示しない回転数算出ルーチンによりモータMG1,MG2の回転子の回転数Nm1,Nm2やリングギヤ軸32aの回転数Nrを計算している。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。」(段落【0037】)

エ.「【0039】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからの端子間電圧Vb,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた電流センサ51bからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も計算している。
【0040】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、変速機60のブレーキB1,B2の図示しないアクチュエータへの駆動信号などが出力されている。なお、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。」(段落【0039】及び【0040】)

オ.「【0043】
駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,バッテリ50が充放電すべき充放電要求パワーPb*,バッテリ50の入出力制限Win,Wout,バッテリ50に入出力される入出力電力Pbat,変速状態判定フラグF1,スリップ状態判定フラグF2などのデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されるモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて計算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。また、充放電要求パワーPb*は、バッテリ50の残容量(SOC)に基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。入出力制限Win,Woutは、温度センサ51cにより検出されるバッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。バッテリ50に入出力される入出力電力Pbatは、電圧センサ51aにより検出されるバッテリ50の端子間電圧Vbに電流センサ51bにより検出されるバッテリ50への充放電電流Ibを乗じたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。変速状態判定フラグF1は、図示しない切替処理ルーチンにより、変速機60の変速段の切替処理が開始されたときに値1が設定され、切替処理が完了したときに値0が設定されてRAM76の所定のアドレスに書き込まれたものを読み込むことにより入力するものとした。スリップ状態判定フラグF2は、図示しないスリップ判定ルーチンにより、駆動輪39a,39bに接続されたモータMG2の回転数Nm2に基づいて計算された角加速度αがスリップ判定閾値αref以上となりスリップが発生したときに値1が設定され、角加速度αがスリップ判定閾値αref未満となりスリップが収束したときに値0が設定されてRAM76の所定のアドレスに書き込まれたものを読み込むことにより入力するものとした。
【0044】
こうしてデータを入力すると、前回このルーチンが実行されたときに設定されたモータMG1,MG2のトルク指令(前回Tm1*,前回Tm2*)に今回ステップS100で入力したモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2を乗じることによりモータMG1,MG2に入出力される想定電力Pm1*,Pm2*を計算すると共に(ステップS110)、バッテリ50に入出力される入出力電力Pbatから想定電力Pm1*と想定電力Pm2*とを減じて電力偏差Pbdを計算する(ステップS120)。ここで、電力偏差Pbdは、回転位置検出センサ43,44などのセンシング遅れやハイブリッド用電子制御ユニット70やモータECU40による演算遅れ,ハイブリッド用電子制御ユニット70とモータECU40との間の通信遅れなどによって生じるモータMG1,MG2から実際に入出力される電力Pm1,Pm2とトルク指令Tm1*,Tm2*から計算される想定電力Pm1*,Pm2*との偏差が反映されるものとなる。したがって、電力偏差Pdbは、モータMG1やモータMG2の回転数Nm1,Nm2の変化が大きいときには大きく変化し、回転数Nm1,Nm2の変化が小さいときには小さく変化する。」(段落【0043】及び【0044】)

カ.「【0053】
こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると、目標回転数Ne*および目標トルクTe*をエンジンECU24に送信する共にトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信して(ステップS250)、駆動制御ルーチンを終了する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによって示される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における燃料噴射制御や点火制御などの制御を行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0054】
一方、ステップS130?S150で変速状態判定フラグF1やスリップ状態判定フラグF2の一方が値1のときやこれらのフラグF1,F2に値0が設定されてから所定時間が経過していないとき、即ち変速状態やスリップ状態の非通常時には、モータMG2が通常の駆動とは異なる状態として駆動されると判断し、通常時の値T1より小さな値T2をなまし処理の時定数Tcに設定する(ステップS260)。そして、この設定した時定数Tcを用いて設定した電力偏差Pbdになまし処理を施して電力偏差Pbdsmoを計算すると共に(ステップS170)、計算した電力偏差Pbdsmoをバッテリ50の入出力制限Win、Woutから減じて入出力許容制限Winf,Woutfを計算し(ステップS180)、ステップS190以降の処理を実行する。このように、通常時の値T1より小さな値T2をなまし処理の時定数Tcに設定して電力偏差Pbdのなまし処理に用いることにより、電力偏差Pbdの変化に対して電力偏差Pbdsmoの変化を迅速なものとし、これにより、入出力許容制限Winf,WoutfをモータMG2の回転数Nm2の変化に迅速に対応させることができる。この結果、モータMG2の回転数Nm2の急変によって生じ得るバッテリ50の過大な電力による充放電を抑制することができる。」(段落【0053】及び【0054】)

キ.「【0063】
次に、バッテリ50の端子間電圧Vbを調べる(ステップS360)。端子間電圧Vbが目標下限電圧Vbminより低いときには、バッテリ50に過充電のおそれはないものの過放電のおそれがあると判断し、入力制限補正値ΔWinに値0を設定すると共に端子間電圧Vbと目標下限電圧Vbminとに基づいて次式(6)により出力制限補正値ΔWoutを設定し(ステップS370)、端子間電圧Vbが目標下限電圧Vbmin以上であり目標上限電圧Vbmax以下であるときには、バッテリ50に過充電および過放電のおそれはないと判断し、入出力制限補正値ΔWin,ΔWoutに共に値0を設定し(ステップS380)、端子間電圧Vbが目標下限電圧Vbmaxより高いときには、バッテリ50に過充電のおそれがあると判断し、端子間電圧Vbと目標上限電圧Vbmaxとに基づいて式(7)により入力制限補正値ΔWinを設定すると共に出力制限補正値ΔWoutに値0を設定する(ステップS390)。ここで、式(6)は端子間電圧Vbと目標下限電圧Vbminとの偏差を打ち消すためのフィードバック制御の式であり、式(7)は端子間電圧Vbと目標上限電圧Vbmaxとの偏差を打ち消すためのフィードバック制御の式である。式(6)中、右辺第1項の「k3」は比例項のゲインを示し、右辺第2項の「k4」は積分項のゲインを示す。また、式(7)中、右辺第1項の「k5」は比例項のゲインを示し、右辺第2項の「k6」は積分項のゲインを示す。そして、設定した出力制限補正値ΔWin,ΔWoutを入出力制限Win,Woutから減じることにより入出力許容制限Winf,Woutfを設定し(ステップS400)、図2の駆動制御ルーチンのステップS200?S250の処理と同一の処理を実行し(ステップS410?S470)、駆動制御ルーチンを終了する。いま、バッテリ50の端子間電圧Vbが目標下限電圧Vbminより低いときを考える。このとき、出力制限補正値ΔWinには正の値が設定されるから、出力許容制限Woutfは、端子間電圧Vbが目標下限電圧Vbmin以上のときに比して小さくなる。これにより、モータMG2のトルク指令Tm2*の上限がより制限される方向になるから、モータMG2の電力消費の上限が制限され、余剰電力をバッテリ50に供給することができる。この結果、バッテリ50の過放電を抑制することができる。そして、バッテリ50の端子間電圧Vbが目標下限電圧Vbmin以上になると、ステップS380で出力制限補正値ΔWoutには値0を設定し、式(6)中第2項の積分項の値をリセットする。次に、端子間電圧Vbが目標上限電圧Vbmaxより高いときを考える。このときには、入力制限補正値ΔWinに負の値が設定されるから、入力許容Winfは、端子間電圧Vbが目標上限電圧Vbmax以下のときに比して大きくなる。これにより、モータMG2のトルク指令Tm2*の下限がより制限される方向になるから、モータMG2の電力消費の下限が制限され、バッテリ50への電力供給を抑制することができる。この結果、バッテリ50の過充電を抑制することができる。そして、バッテリ50の端子間電圧Vbが目標上限電圧Vbmax以下になると、ステップS380で入力制限補正値ΔWinには値0を設定し、式(7)中第2項の積分項の値をリセットする。」(段落【0063】)

ク.「【0065】
ステップS310で変速状態判定フラグF1が値1であるとき、即ち、変速状態のときには、その変速が変速機60のギヤの状態をLoギヤの状態からHiギヤの状態に切り替えるアップシフト変速であるか否かを判定する(ステップS320)。ここで、アップシフト変速であるか否かは、例えば、変速機60の変速段の切替処理が開始される直前の変速機60のギヤ比Grに基づいて判定することができる。アップシフト変速であると判定されたときには、電圧Vb1より低い電圧Vb2を目標上限電圧Vbmaxに設定すると共に電圧Vb3を目標下限電圧Vbminに設定し(ステップS340)、前述したステップS360以降の処理を実行する。いま、モータMG2からのパワーを保持しながらアップシフト変速を行なう場合を考える。この場合、回転位置検出センサ43,44などのセンシング遅れやハイブリッド用電子制御ユニット70やモータECU40による演算遅れ,ハイブリッド用電子制御ユニット70とモータECU40との間の通信遅れなどによってモータMG2の実際の消費電力は落ち込む。したがって、変速状態でないときと同様に電圧Vb1を目標上限電圧Vbmaxに設定すると、モータMG2の消費電力の落ち込み分がバッテリ50に供給され、バッテリ50が過充電になるおそれがある。一方、電圧Vb1より低い電圧Vb2を目標上限電圧Vbmaxに設定すれば、モータMG2の電力消費の下限が制限されやすくなるから、バッテリ50への電力供給を抑制することができ、バッテリ50への過充電を抑制することができる。電圧Vb2は、アップシフト変速を行なう際のバッテリ50への過充電が抑制されるような電圧が設定され、バッテリ50の特性などにより定めることができる。
【0066】
ステップS320でアップシフト変速でない、即ち変速機60のギヤの状態をHiギヤの状態からLoギヤの状態に切り替えるダウンシフト変速であると判定されたときには、電圧Vb1を目標上限電圧Vbmaxに設定すると共に電圧Vb3より高い電圧Vb4を目標下限電圧Vbminに設定し(ステップS350)、前述したステップS360以降の処理を実行する。いま、モータMG2からのパワーを保持しながらダウンシフト変速を行なう場合を考える。この場合、前述したセンシング遅れや演算遅れ,通信遅れなどによってモータMG2の実際の消費電力は大きくなる。したがって、変速状態でないときと同様に電圧Vb3を目標下限電圧Vbminに設定すると、モータMG2の消費電力の増加によってバッテリ50が過放電になるおそれがある。一方、電圧Vb3より高い電圧Vb4を目標下限電圧Vbminに設定すれば、ダウンシフト変速を行なう際のモータMG2の電力消費をより制限することができるから、バッテリ50への電力供給をより行なうことができ、バッテリ50の過放電を抑制することができる。電圧Vb4は、ダウンシフト変速を行なう際にバッテリ50の過充電が抑制されるような電圧が設定され、バッテリ50の特性などにより定めることができる。
【0067】
以上説明した第2実施例のハイブリッド自動車20Bによれば、アップシフト変速を行なうときには、変速状態でないときに比して低い電圧を目標上限電圧Vbmaxに設定すると共に変速状態でないときと同様の電圧を目標下限電圧Vbminに設定し、バッテリ50の端子間電圧Vbが設定した目標上下限電圧Vbmax,Vbminの制限範囲内となるようモータMG1,MG2を制御するから、バッテリ50の過充電を抑制することができる。また、第2実施例のハイブリッド自動車20Bによれば、ダウンシフト変速を行なうときには、変速状態でないときに比して高い電圧を目標下限電圧Vbminに設定すると共に変速状態でないときと同様の電圧を目標上限電圧Vbmaxに設定し、バッテリ50の端子間電圧Vbが設定した目標上下限電圧Vbmax,Vbminの制限範囲内となるようモータMG1,MG2を制御するから、バッテリ50の過放電を抑制することができる。」(段落【0065】ないし【0067】)

(2)ここで、上記(1)ア.ないしク.並びに図面から、次のことが分かる。
サ.上記(1)ア.及びイ.並びに図1から、モータMG1は、主として、発電機として動作することが分かり、また、モータMG2は、ハイブリッド自動車の駆動輪39a,39bの回転と同期して回転し、駆動輪39a,39bに動力を加えることが分かる。

シ.上記(1)ウ.及び図1から、充電可能なバッテリ50が、直流電源部の一部を構成することが分かり、インバータ41,42は、バッテリ50とモータMG1およびモータMG2との間に接続され、モータMG1およびモータMG2とバッテリ50との間で双方向の電力変換を行うことが分かる。

ス.上記(1)ウ.ないしオ.及び図1から、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、モータMG1およびモータMG2のトルク指令Tm1,Tm2を生成することが分かり、また、モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70との間で互いに情報を授受可能に構成され、トルク指令Tm1,Tm2に従ってモータMG1およびモータMG2が作動するようにインバータ41,42を制御することが分かる。

セ.上記(1)ウ.及び図1から、モータECU40は、モータMG1およびモータMG2にそれぞれ設けられた回転位置検出センサ43,44の出力に基づいて、モータMG1およびモータMG2の回転数を計算するものであるから、モータECU40は速度検出部を有することは明らかである。

ソ.上記(1)オ.ないしク.及び図1からハイブリッド用電子制御ユニット70は、ハイブリッド自動車の状態を考慮して、モータMG1およびモータMG2の回転数に基づいて算出されるモータMG1およびモータMG2の電力の消費の大小を制限し、バッテリ50の過充電や過放電を防止するために、モータMG1およびモータMG2を駆動する際の目標上限電圧Vbmaxや目標下限電圧Vbminの値を変更するものであることが分かる。そして、前述のモータMG1およびモータMG2を駆動する際の目標上限電圧Vbmaxや目標下限電圧Vbminの値の変更は、モータMG1およびモータMG2全体での入出力電力が、バッテリ50の充電電力上限値および放電電力制限値を超えないように充電および放電を制限するためになされていることは明らかであり、また、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、バッテリ50の充電電力上限値および放電電力制限値を超えないようにトルク指令Tm1,Tm2を生成する駆動指令生成部を有することは明らかである。

(3)上記(1)及び(2)より、引用文献1には、次の発明が記載されている。
「主として発電機として動作するモータMG1と、
ハイブリッド自動車の駆動輪39a,39bの回転と同期して回転し、前記駆動輪39a,39bに動力を加えるためのモータMG2と、
充電可能なバッテリ50を含む直流電源部と、
前記直流電源部と前記モータMG1および前記モータMG2との間に接続され、前記モータMG1および前記モータMG2と前記直流電源部との間で双方向の電力変換を行うインバータ41,42と、
前記モータMG1および前記モータMG2のトルク指令Tm1,Tm2を生成するハイブリッド用電子制御ユニット70と、
前記ハイブリッド用電子制御ユニット70との間で互いに情報を授受可能に構成され、前記トルク指令Tm1,Tm2に従って前記モータMG1および前記モータMG2が作動するように前記インバータ41,42を制御するためのモータECU40とを備え、
前記モータECU40は、
前記モータMG1および前記モータMG2にそれぞれ設けられた回転位置検出センサ43,44の出力に基づいて、前記モータMG1および前記モータMG2の回転数を検出する速度検出部を含み、
前記ハイブリッド用電子制御ユニット70は、
前記ハイブリッド自動車の状態と、前記速度検出部によって検出された前記モータMG1および前記モータMG2の回転数に基づく前記モータMG1および前記モータMG2の全体での入出力電力に従って、前記入出力電力が前記バッテリ50の充電電力上限値および放電電力制限値を超えないように充電および放電を制限して前記トルク指令Tm1,Tm2を生成する駆動指令生成部を含む、ハイブリッド自動車。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

(4)原査定の拒絶の理由で引用された本件出願日前に頒布された刊行物である特開2007-168637号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
タ.「【0018】
図1は、本発明の一実施例である動力出力装置を搭載したハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、動力出力装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。」(段落【0018】)

チ.「【0021】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。」(段落【0021】)

ツ.「【0036】
こうしてデータを入力すると、モータMG1,MG2から出力されるトルクの急変を抑制するために入力したトルク指令Tm1*,Tm2*に対してなまし処理を施し(ステップS310)、なまし処理後のトルク指令Tm1*,Tm2*に回転数Nm1,Nm2を乗じることによりモータMG1,MG2により消費あるいは発電される電力としてのモータ電力Pm1,Pm2を計算し(ステップS320)、計算したモータ電力Pm1,Pm2の和に損失Lsetを加えてバッテリ50の出力電力Poを計算し(ステップS330)、エンジン22を始動(クランキング)している最中にあるか否かを判定し(ステップS340)、エンジン22を始動している最中にないと判定されると、計算した出力電力Poと入力した送信用出力制限Woutmg(ここでは、出力制限Woutと同一の値)とを比較する(ステップS350)。ここで、トルク指令Tm1*,Tm2*は、ハイブリッド用電子制御ユニット70によりバッテリ50の出力制限Woutの範囲内となるよう設定されたものであるから、ハイブリッド用電子制御ユニット70からモータECU40への通信に要する時間に基づく通信遅れなどを考慮しなければ、計算したバッテリ50の出力電力Poは送信用出力制限Woutmgの範囲内となる。しかし、通信遅れを考えると、ハイブリッド用電子制御ユニット70によりトルク指令Tm1*,Tm2*を設定したときのモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2とモータECU40によりモータMG1,MG2を制御するときのモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2とが異なる場合が生じる。実施例では、ハイブリッド用電子制御ユニット70により設定されたトルク指令Tm1*,Tm2*に対してなまし処理が施されるから、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2の変化が小さいときには通信遅れを考えても計算したバッテリ50の出力電力Poは送信用出力制限Woutmgの範囲内となるが、回転数Nm1,Nm2の変化が大きいときには計算したバッテリ50の出力電力Poが送信用出力制限Woutmgを超える場合がある。バッテリ50の出力電力Poが送信用出力制限Woutmg以下のときには、バッテリ50から過大な電力による放電は行なわれないと判断し、ハイブリッド用電子制御ユニット70により設定されなまし処理されたトルク指令Tm1*,Tm2*が出力されるようインバータ41,42のスイッチング素子をスイッチング制御し(ステップS390)、バッテリ50の出力電力Poが送信用出力制限Woutmgよりも大きいときには、バッテリ50の過大な電力による放電が行なわれると判断し、バッテリ50の送信用出力制限Woutmgの範囲内となるよう次式(3)によりモータMG2のトルク指令Tm2*を再設定して(ステップS360)、ハイブリッド用電子制御ユニット70により設定されなまし処理されたトルク指令Tm1*がモータMG1から出力されると共に再設定したトルク指令Tm2*がモータMG2から出力されるようインバータ41,42のスイッチング素子をスイッチング制御して(ステップS390)、本ルーチンを終了する。なお、実施例では、バッテリ50の出力電力Poが送信用出力制限Woutmgよりも大きいときには、バッテリ50の出力制限Woutの範囲内となるようモータMG2のトルク指令Tm2*を再設定したが、モータMG1のトルク指令Tm1*を再設定するものとしても構わない。」(段落【0036】)

(5)ここで、上記(4)タ.ないしツ.及び図面から、次のことが分かる。
ナ.上記(4)タ.及びチ.並びに図1から、ハイブリッド自動車における、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、モータMG1およびモータMG2のトルク指令Tm1,Tm2を生成することが分かり、また、モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70との間で互いに情報を授受可能に構成され、トルク指令Tm1,Tm2に従ってモータMG1およびモータMG2が作動するようにインバータ41,42を制御することが分かる。

ニ.上記(4)ツ.及び図1から、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、出力電力がバッテリ50の送信用出力制限Woutmgを超えないように放電を制限していることが分かり、また、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、送信用出力制限Woutmgを超えないようにトルク指令Tm2を生成する駆動指令生成部を有することは明らかである。

(6)上記(4)及び(5)より、引用文献2には、次の発明が記載されている。
「モータMG1およびモータMG2のトルク指令Tm1,Tm2を生成するハイブリッド用電子制御ユニット70と、
前記ハイブリッド用電子制御ユニット70との間で互いに情報を授受可能に構成され、前記トルク指令Tm1,Tm2に従って前記モータMG1および前記モータMG2が作動するようにインバータ41,42を制御するためのモータECU40とを備え、
前記ハイブリッド用電子制御ユニット70は、
出力電力がバッテリ50の送信用出力制限Woutmgを超えないように放電を制限してトルク指令Tm2を生成する駆動指令生成部を含む、ハイブリッド自動車。」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

(7)原査定の拒絶の理由で引用された本件出願日前に頒布された刊行物である特開2007-331646号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ハ.「【0030】
モータジェネレータMG1,MG2の各々は、発電機としても電動機としても機能し得るが、モータジェネレータMG1は概ね発電機として機能することが多いため「発電機」と呼ばれることがあり、モータジェネレータMG2は主として電動機として動作するため「電動機」と呼ばれることがある。
【0031】
モータジェネレータMG1は、動力分割機構PSDを介して伝達されたエンジンENGからの駆動力によって回転されて発電する。モータジェネレータMG1による発電電力は、インバータ10に供給され、バッテリ20の充電電力として、あるいはモータジェネレータMG2の駆動電力として用いられる。回転数センサ30は、モータジェネレータMG1のモータ回転数MRN1を検出してMGECU200へ出力する。」(段落【0030】及び【0031】)

ヒ.「【0034】
エンジンECU300は、エンジンENGの動作状態を制御する。バッテリECU400は、バッテリ20の充放電状態を管理制御する。MGECU200は、ハイブリッド車両の状態に応じてモータジェネレータMG1,MG2、インバータ10およびバッテリECU400等を制御する。HVECU100は、バッテリECU400、エンジンECU300およびMGECU200等を相互に管理制御して、ハイブリッド車両が最も効率良く運行できるようにハイブリッドシステム全体を制御する。」(段落【0034】)

フ.「【0046】
モータ主制御部210は、HVECU100からモータジェネレータMG1の要求トルクT1reqを受け、回転数センサ30からモータ回転数MRN1を受ける。そして、モータ主制御部210は、要求トルクT1reqをモータジェネレータMG1が要求される出力トルクの目標値(トルク指令値TR1)に設定してMG1制御部220へ出力する。」(段落【0046】)

ヘ.「【0104】
以上に述べたように、HVECU100とMGECU200との間には通信遅れがあるため、HVECU100が自己の認識しているモータ回転数MRN1に基づいて、先の実施の形態1で述べた要求トルクT1reqの制限を行なうことにより、実際にモータ駆動制御を行なうMGECU200では、エンジン始動不良や出力トルクに段付き部分が発生するといった不具合が生じてしまう。
【0105】
そこで、本実施の形態によるモータ駆動装置は、かかる通信遅れによる不具合を解消する手段として、HVECU100で行なわれていた要求トルクT1reqの制限を、MGECU200が実行する構成とする。
【0106】
詳細には、図8に示すように、HVECU100が予め所有しているモータジェネレータMG1の最大トルクT_maxとモータ回転数MRN1との関係を示すマップからは、図3で述べた要求トルクT1reqの設定が禁止される領域を除外しないこととする。すなわち、HVECU100が要求トルクT1reqを決定するのに用いるマップ(以下、単に指令用マップとも称する)は、モータジェネレータMG1の本来の最大トルクT_maxとモータ回転数MRN1との関係を示したものとなる。したがって、低回転領域においても、HVECU100は、最大トルクT_maxを上限として要求トルクT1reqを決定することになる。
【0107】
これに対し、MGECU200では、モータ主制御部210がモータジェネレータMG1の駆動制御に用いるマップ(以下、単に制御用マップとも称する)を、図3のように、最大トルクT_maxとモータ回転数MRN1との関係からトルク指令値TR1の設定が禁止される領域(図中の領域RGE1に相当)を除外したものとする。なお、この領域は、図3で述べたのと同様に、モータ回転数MRN1が所定の閾値N_stdよりも低く、かつ、出力トルクが許容トルクT_limを上回る領域に該当する。
【0108】
このように、モータ主制御部210が所有する制御用マップに制限を設けておくことにより、モータ主制御部210は、HVECU100から入力される要求トルクT1reqに対してモータ回転数MRN1に応じた制限を課したものをトルク指令値TR1として出力する。すなわち、モータ主制御部210は、回転数センサ30から受けるモータ回転数MRN1が所定の閾値N_std以下となるとき、要求トルクT1reqが最大トルクT_maxであっても、これを許容トルクT_lim以下となるように制限してトルク指令値TR1として設定する。」(段落【0104】ないし【0108】)

ホ.「【0116】
また、図示は省略するが、HVECU100は、モータジェネレータMG1の最大トルクT_maxとモータ回転数MRN1との関係を示す指令用マップからHVECU認識モータ回転数MRN1_hに応じた要求トルクT1reqの上限値を設定し、その設定した上限値を超えないように要求トルクT1reqを決定してMGECU200へ出力する。
【0117】
図10を参照して、MGECU200において、モータ主制御部210は、HVECU100からの要求トルクT1reqの入力の有無を判定し(ステップS10)、要求トルクT1reqの入力有りと判定されたときには、回転数センサ30によりモータ回転数MRN1を検出する(ステップS101)。そして、モータ主制御部210は、制御用マップに基づいて要求トルクT1reqにモータ回転数MRN1に応じた制限を課したものをトルク指令値TR1に設定してMG1制御部220へ出力する(ステップS102)。」(段落【0116】及び【0117】)

(8)ここで、上記(7)ハ.ないしホ.及び図面から、次のことが分かる。
マ.上記(8)ハ.ないしフ.並びに図1及び図8から、ハイブリッド車両における、HVECU100は、モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2のトルク指令を生成することが分かり、また、MGECU200は、HVECU100との間で互いに情報を授受可能に構成され、トルク指令値に従ってモータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2が作動するようにインバータ10を制御することが分かる。

ミ.上記(8)ヘ.及びホ.並びに図8から、MGECU200は、HVECU100からのトルク指令値を修正したものをトルク指令値として設定して、モータジェネレータMG1を駆動制御することが分かり、このことから、MGECU200は、駆動制御部を含み、駆動制御部は、HVECU100からの前記トルク指令値を修正する指令修正部を有することは明らかである。

(9)上記(7)及び(8)より、引用文献3には、次の発明が記載されている。
「モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2のトルク指令値を生成するHVECU100と、
前記HVECU100との間で互いに情報を授受可能に構成され、前記トルク指令値に従って前記モータジェネレータMG1および前記モータジェネレータMG2が作動するようにインバータ10を制御するためのMGECU200とを備え、
前記MGECU200は、駆動制御部を含み、
前記駆動制御部は、HVECU100からの前記トルク指令値を修正する指令修正部を有する、ハイブリッド車両。」(以下、「引用文献3記載の発明」という。)

2-2.本件補正発明1について
2-2-1.本件補正発明1と引用文献1記載の発明との対比
本件補正発明1と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「モータMG1」は、その技術的意義及び機能からみて、本件補正発明1における「第1の回転電機」に相当し、以下同様に、それぞれの技術的意義及び機能からみて、引用文献1記載の発明における「ハイブリッド自動車」は「車両」及び「ハイブリッド車両」のそれぞれに、「駆動輪39a,39b」は「駆動輪」に、「モータMG2」は「第2の回転電機」に、「バッテリ50」は[蓄電装置」に、「インバータ41,42」は「電力変換装置」に、「トルク指令Tm1,Tm2」は「駆動指令」に、「ハイブリッド用電子制御ユニット70」は「第1の制御装置」に、「モータECU40」は「第2の制御装置」に、「回転位置検出センサ43,44」は「センサ」に、それぞれ相当する。
したがって、本件補正発明1と引用文献1記載の発明は、
「主として発電機として動作する第1の回転電機と、
車両の駆動輪の回転と同期して回転し、前記駆動輪に動力を加えるための第2の回転電機と、
充電可能な蓄電装置を含む直流電源部と、
前記直流電源部と前記第1および前記第2の回転電機との間に接続され、前記第1および前記第2の回転電機と前記直流電源部との間で双方向の電力変換を行う電力変換装置と、
前記第1および前記第2の回転電機の駆動指令を生成する第1の制御装置と、
前記第1の制御装置との間で互いに情報を授受可能に構成され、前記駆動指令に従って前記第1および前記第2の回転電機が作動するように前記電力変換装置を制御するための第2の制御装置とを備え、
前記第2の制御装置は、
前記第1および前記第2の回転電機にそれぞれ設けられたセンサの出力に基づいて、前記第1および前記第2の回転電機の回転数を検出する速度検出部を含み、
前記第1の制御装置は、
前記車両の状態と、前記速度検出部によって検出された前記第1および前記第2の回転電機の回転数に基づく前記第1および前記第2の回転電機の全体での入出力電力に従って、前記入出力電力が前記蓄電装置の充電電力上限値および放電電力制限値を超えないように充電および放電を制限して前記トルク指令Tm1,Tm2を生成する駆動指令生成部を含む、ハイブリッド車両。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本件補正発明1においては、「第2の制御装置は、第1の制御装置からの駆動指令と、速度検出部によって検出された回転数とに基づいて算出された第1および第2の回転電機の入出力電力に従って、蓄電装置の充放電電力を算出する充放電電力算出部と、前記第1の制御装置からの前記駆動指令と、前記充放電電力算出部によって算出された前記充放電電力とに従って、前記電力変換装置により、前記第1および前記第2の回転電機を制御する駆動制御部とをさらに含み、前記駆動制御部は、駆動指令生成部での充電制限と共通の充電制限が適用されるように、前記充放電電力算出部によって算出された前記蓄電装置の充電電力が、前記駆動指令生成部での充電制限に用いられたのと共通の前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力が当該充電電力上限値以下となるように前記第1の制御装置からの前記駆動指令を修正する指令修正部を有する」のに対して、引用文献1記載の発明においては、「モータECU40(本件補正発明1における「第2の制御装置」に相当。)は、バッテリ50(本件補正発明1における「蓄電装置」に相当。)の充放電電力を算出する充放電電力算出部」を含むかどうかが明らかでなく、「モータECU40」が「充放電電力算出部」を含むかどうかが明らかでないから、「モータECU40」は、「第1の制御装置からの前記駆動指令と、充放電電力算出部によって算出された前記充放電電力とに従って、前記電力変換装置により、前記第1および前記第2の回転電機を制御する駆動制御部」とを含むかどうかが明らかでなく、「駆動制御部」は、駆動指令生成部での充電制限と共通の充電制限が適用されるように、前記充放電電力算出部によって算出された前記蓄電装置の充電電力が、前記駆動指令生成部での充電制限に用いられたのと共通の前記充電電力上限値を超えるときには、前記充電電力が当該充電電力上限値以下となるように前記第1の制御装置からの前記駆動指令を修正する指令修正部を有するかどうかが明らかでない点(以下、「相違点」という。)。

2-2-2.当審の判断
上記相違点について検討する。
本件補正発明1と引用文献2記載の発明とを対比すると、引用文献2記載の発明における「モータMG1」は、その技術的意義及び機能からみて、本件補正発明1における「第1の回転電機」に相当し、以下同様に、それぞれの技術的意義及び機能からみて、引用文献2記載の発明における「モータMG2」は「第2の回転電機」に、「トルク指令Tm1,Tm2」は「駆動指令」に、「ハイブリッド用電子制御ユニット70」は「第1の制御装置」に、「インバータ41,42」は[電力変換装置」に、「モータECU40」は「第2の制御装置」に、「バッテリ50」は「蓄電装置」に、「送信用出力制限Woutmg」は「放電電力制限値」に、「ハイブリッド自動車」は「ハイブリッド車両」に、それぞれ相当する。

したがって、引用文献2記載の発明を本件補正発明1の用語を用いて表現すると、引用文献2記載の発明は、
「第1および第2の回転電機の駆動指令を生成する第1の制御装置と、
前記第1の制御装置との間で互いに情報を授受可能に構成され、前記駆動指令に従って前記第1および前記第2の回転電機が作動するように電力変換装置を制御するための第2の制御装置とを備え、
前記第1の制御装置は、
出力電力が蓄電装置の放電電力制限値を超えないように放電を制限して駆動指令を生成する駆動指令生成部を含む
、ハイブリッド車両。」
といえる。
ここで、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用する場合を検討するに、引用文献2記載の発明における「第2の制御装置」は、蓄電装置の充放電電力を算出する充放電電力算出部を含むものではないから、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用したとしても相違点に係る本件補正発明1の発明特定事項とすることはできない。

次に、本件補正発明1と引用文献3記載の発明を対比すると、引用文献3記載の発明における「モータジェネレータMG1」は、その技術的意義及び機能からみて、本件補正発明3における「第1の回転電機」に相当し、以下同様に、それぞれの技術的意義及び機能からみて、引用文献2記載の発明における「モータジェネレータMG2」は「第2の回転電機」に、「トルク指令値」は「駆動指令」に、「HVECU100」は「第1の制御装置」に、「インバータ10」は[電力変換装置」に、「MGECU200」は「第2の制御装置」に、「バッテリ50」は「蓄電装置」に、それぞれ相当する。

したがって、引用文献3記載の発明を本件補正発明1の用語を用いて表現すると、引用文献3記載の発明は、
「第1および第2の回転電機の駆動指令を生成する第1の制御装置と、
前記第1の制御装置との間で互いに情報を授受可能に構成され、前記駆動指令に従って前記第1および前記第2の回転電機が作動するように電力変換装置を制御するための第2の制御装置とを備え、
前記第2の制御装置は、駆動制御部を含み、
前記駆動制御部は、第1の制御装置からの前記駆動指令を修正する指令修正部を有する、
ハイブリッド車両。」
といえる。

ここで、引用文献1記載の発明に引用文献3記載の発明を適用する場合を検討するに、引用文献3記載の発明における「第2の制御装置」は、駆動制御部を含み、前記駆動制御部は、第1の制御装置からの前記駆動指令を修正する指令修正部を有するものではあるが、当該「第2の制御装置」が、そもそも蓄電装置の充放電電力を算出する充放電電力算出部を含むものではないから、引用文献1記載の発明に引用文献3記載の発明を適用したとしても相違点に係る本件補正発明1の発明特定事項とすることはできない。

そして、本件補正発明1は、「第2の制御装置」が「充放電電力算出部」を含むという相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を有することにより、明細書の段落【0029】に記載されるような「本発明によれば、回転電機の駆動指令を生成する制御装置と電力変換装置および回転電機を制御する制御装置とが個別に設けられているハイブリッド車両において、制御装置間の伝送遅れによる駆動指令変更遅れに起因する蓄電装置の過充電発生を抑制することができる。」という効果を奏するものである。
したがって、本件補正発明1は、引用文献1ないし3記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、請求項1における本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に適合する。

2-3.本件補正発明2について
本件補正発明2は、物(ハイブリッド車両)の発明である本件補正発明1を、物(ハイブリッド車両)の制御方法という方法の発明としたものであって、本件補正発明2も上記2-2.で検討したことと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、請求項8における本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に適合する。

2-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3.本件出願の請求項1ないし14に係る発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本件出願の請求項1ないし14に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される上記第2.の1.Bのとおりのものである。
そして、上記のとおりであるから、本件出願の請求項1及び8に係る発明については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、本件出願の請求項2ないし7に係る発明については、いずれも本件出願の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含むものであり、また、本件出願の請求項9ないし14に係る発明については、いずれも本件出願の請求項8に係る発明の発明特定事項を全て含むものであるから、本件出願の請求項2ないし7及び9ないし14に係る発明も、上記で検討したことと同じ理由により拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-24 
出願番号 特願2008-266566(P2008-266566)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
P 1 8・ 575- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 中川 隆司
加藤 友也
発明の名称 ハイブリッド車両およびその制御方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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