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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L |
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管理番号 | 1286100 |
審判番号 | 不服2013-18622 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-09-26 |
確定日 | 2014-04-14 |
事件の表示 | 特願2006-122052「水分及び酸素バリヤー性樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日出願公開、特開2007-291271、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成18年4月26日の出願であって、平成23年6月3日付けで拒絶理由が通知され、同年8月9日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成24年5月29日付けで拒絶理由が通知され、同年8月2日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成25年5月29日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成25年9月26日に拒絶査定に対する審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年10月18日付けで前置報告がなされ、当審において同年11月21日付けで審尋がなされ、平成26年1月22日に回答書が提出されたものである。 第2.平成25年9月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、本件補正前の 「オレフィンと環状オレフィンの共重合体(A)と、エチレンビニルアルコール共重合体である酸素バリヤー樹脂(B)とを含み、共重合体(A)と樹脂(B)との配合比率が60/40?40/60であり、共重合体(A)と樹脂(B)とが層状構造を形成し、前記層状構造がミクロ相分離構造を示す、水分及び酸素バリヤー性樹脂層。」 から 「オレフィンと環状オレフィンの共重合体(A)と、エチレンビニルアルコール共重合体である酸素バリヤー樹脂(B)とを含み、共重合体(A)と樹脂(B)との配合比率が60/40?40/60であり、共重合体(A)と樹脂(B)とが層状構造を形成し、前記層状構造がミクロな鱗片状の相分離構造を示す、水分及び酸素バリヤー性樹脂層。」 とする補正(以下、「補正事項」という。)である。 2.補正の目的 本件補正の補正事項は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ミクロ相分離構造」を「ミクロな鱗片状の相分離構造」とすることで、相分離構造が「鱗片状」である限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、特許法第17条の2第3項に違反するところはない。 3.独立特許要件について 本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 (1)引用文献及び引用文献の記載 原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-268167号公報(以下、「引用文献」という。平成24年5月29日付け拒絶理由通知書における「引用文献1」に同じ。)には、以下の記載がある。 ア. 「【請求項1】 オレフィン系樹脂とオレフィン系樹脂とは独立して分子内又は分子間で極性官能基が集合した凝集構造を形成することができる樹脂とを含有することを特徴とする透明樹脂組成物。 ・・・ 【請求項4】 請求項1、2又は3記載の透明樹脂組成物からなることを特徴とする透明フィルム。」(特許請求の範囲) イ. 「【発明の属する技術分野】本発明は、力学的性質と耐熱性、ガスバリア性、透湿性等の特性とを兼ね備えた透明樹脂組成物及び透明フィルムに関する。 【従来の技術】 ・・・ 特願2000-036952号公報には・・・不透水性と優れた透湿性を兼ね備えたシートが開示されている。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記現状に鑑み、力学的性質と耐熱性、ガスバリア性、透湿性等の特性とを兼ね備えた透明樹脂組成物及び透明フィルムを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】本発明者らは、驚くべきことに、オレフィン系樹脂とオレフィン系樹脂とは独立して分子内又は分子間で極性官能基が集合した凝集構造を形成することができる樹脂を混合することにより透明な組成物が得られ、この透明組成物を用いれば、混合される樹脂を選択することにより、力学的性質とガスバリア性や適度な透湿性等の特性とを兼ね備えた透明なフィルムを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0001】?【0007】) ウ. 「オレフィン樹脂としては、炭化水素樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、1,3-ブタジエン、ノルボルネン系樹脂等が挙げられる。なかでも、力学的強度、耐熱性等からノルボルネン系樹脂が好適である。」(【0009】) エ. 「オレフィン系樹脂とは独立して分子内又は分子間で極性官能基が集合した凝集構造を形成することができる樹脂としては、・・・例えば、エチレンとポリビニルアルコールとの共重合体、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。」(【0010】) オ. 「【実施例】以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。 (実施例1)ノルボルネン系樹脂として「ZEONOR 1600R」(日本ゼオン社製)75重量部と、ポリビニルアルコール(クラレ社製、重合度1700)25重量部を、溶融押出機を用いて280℃で溶融混合し、押出成形して40μmの透明フィルムを得た。なお、280℃はポリビニルアルコール樹脂にとっては直ちに分解が引き起こされると予想される温度であることから、溶融はポリビニルアルコールの変性を防ぐため、1分間以内に溶融混合が完了するようにした。得られたフィルムは透明であり、また、JIS Z 0208に準ずる方法により60℃95%RHの環境条件下での透湿度を測定したところ、90g/m^(2)/24hrであった。 (実施例2)ノルボルネン系樹脂として「ZEONOR 1420R」(日本ゼオン社製)70重量部と、ポリビニルアルコール(クラレ社製、重合度1700)30重量部を、溶融押出機を用いて240℃で溶融混合し、押出成形して40μmの透明フィルムを得た。なお、溶融混合時間は5分間とした。得られた透明フィルムは透明であり、また、JIS Z 0208に準ずる方法により60℃95%RHの環境条件下での透湿度を測定したところ、180g/m^(2)/24hrであった。」(【0020】?【0022】) (2)引用文献に記載された発明 摘示ア.には、オレフィン系樹脂とオレフィン系樹脂とは独立して分子内又は分子間で極性官能基が集合した凝集構造を形成することができる樹脂とを含有することを特徴とする透明樹脂組成物からなる透明フィルムが記載され、摘示ウ.及びオ.には、上記オレフィン系樹脂としてノルボルネン系樹脂が記載され、摘示エ.には、上記オレフィン系樹脂とは独立して分子内又は分子間で極性官能基が集合した凝集構造を形成することができる樹脂として、エチレンとポリビニルアルコールとの共重合体が記載されている。 したがって、引用文献には、 「ノルボルネン系樹脂と 上記オレフィン系樹脂とは独立して分子内又は分子間で極性官能基が集合した凝集構造を形成することができるエチレンとポリビニルアルコールとの共重合体と を含有することを特徴とする透明樹脂組成物からなる透明フィルム」(以下、「引用発明」という。) の発明が記載されている。 (3)対比 補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「エチレンとポリビニルアルコールとの共重合体」は、補正発明の「エチレンビニルアルコール共重合体である酸素バリヤー樹脂(B)」に相当している。エチレンとポリビニルアルコールとの共重合体が酸素バリヤー性を有することは、補正発明の分野における技術常識であることと、引用発明の「透明フィルム」は「樹脂層」といえることとから、引用発明の「透明フィルム」は、補正発明の「酸素バリヤー性樹脂層」に相当している。また、補正発明の「オレフィンと環状オレフィンの共重合体(A)」、引用発明の「ノルボルネン系樹脂」は、いずれも、環状オレフィン系樹脂である。 したがって、両者は、 「環状オレフィン系樹脂と、エチレンビニルアルコール共重合体である酸素バリヤー樹脂(B)とを含む、酸素バリヤー性樹脂層。」 である点で一致し、以下の相違点1?4で相違している。 相違点1 環状オレフィン系樹脂について、補正発明は「オレフィンと環状オレフィンの共重合体(A)」と特定されているのに対し、引用発明は、環状オレフィンの重合体である「ノルボルネン系樹脂」について、オレフィンとの共重合体であるとの特定がなされていない点。 相違点2 補正発明は、共重合体(A)と樹脂(B)との配合比率を60/40?40/60と特定しているのに対し、引用発明にはノルボルネン系樹脂とエチレンとポリビニルアルコールとの共重合体との配合比率について特定がなされていない点。 相違点3 補正発明は、樹脂層が「水分バリヤー性」であるのに対し、引用発明は樹脂層について、「水分バリアー性」との特定がなされていない点。 相違点4 補正発明は、「共重合体(A)と樹脂(B)とが層状構造を形成し、前記層状構造がミクロな鱗片状の相分離構造を示す」点が特定されているのに対し、引用発明にはそのような特定がなされていない点。 (4)相違点についての判断 事案に鑑み、まず相違点2及び3について検討する。 補正発明は、従来の設備を改造することなく、酸素バリヤー性及び水分バリヤー性に優れ、また透明性に優れた層をもつ樹脂容器を提供することがその課題、目的であり(本願明細書【0005】)、より優れた水分及び酸素バリヤー性(相違点3に係る構成)を有するものとするために、共重合体(A)と樹脂(B)との配合比率を60/40?40/60(相違点2に係る構成)と特定したものである(本願明細書【0005】、【0042】表1)。 一方、引用文献には、従来の不透水性と優れた透湿性を兼ね備えたシートには問題点があったことと、力学的性質とガスバリア性や適度な透湿性等の特性とを兼ね備えた透明なフィルムを得ることが目的であることとが記載され(摘示イ.)、実施例として、透湿性を有するフィルムが得られたことが記載されている(摘示オ.)。 ところで、引用発明のフィルムの目的、課題である「透湿性」とは、所定量の水蒸気が通過可能なことを意味するものである。他方、補正発明は、「水分バリアー性」の樹脂層の発明であるところ、水分バリアー性とは、気体状態を含めて水が通過できないことを意味するものであるといえる。 したがって、透湿性を付与することを課題とする引用発明において、ノルボルネン系樹脂とエチレンとポリビニルアルコールとの共重合体との配合比率を60/40?40/60と特定し、水分バリアー性の樹脂層を得ることは、当業者が想到容易とはいえない。 以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、補正発明は引用発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。 (5)小括 以上のとおりであるから、補正発明は引用発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。また、他に補正発明について特許を受けることができないとする理由を発見しない。 補正発明を直接または間接的に引用する本件補正後の請求項2?4についても同様である。 このため、本件補正後の請求項1?4に係る発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明であるとすることはできない。 よって、本件補正の補正事項は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 第3.本願発明 本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合するから、本願の請求項1?4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-04-02 |
出願番号 | 特願2006-122052(P2006-122052) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C08L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 亨 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
富永 久子 小野寺 務 |
発明の名称 | 水分及び酸素バリヤー性樹脂組成物 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 辻居 幸一 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 市川 さつき |