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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1286180
審判番号 不服2010-20839  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-15 
確定日 2014-03-28 
事件の表示 特願2004-154260「ミトコンドリア局在型DsRed2及びECFP発現ベクター」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 8日出願公開、特開2005-333845〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年5月25日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成25年9月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という)。
「赤色蛍光タンパク質(DsRed2)をコードする遺伝子及びミトコンドリアへの移行シグナル配列をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターであって当該DsRed2がミトコンドリアで局在的に発現するミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクターが導入されたトランスジェニック非ヒト動物。」

2.当審における拒絶理由
一方、当審において平成25年7月18日付けで通知した拒絶理由の概要は、補正前の本願請求項1?8に係る発明は、本願出願日前に頒布された刊行物1?2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用例の記載事項
当審の拒絶理由で引用例2として引用した、本願出願日前に頒布された刊行物である国際公開第02/079480号(以下、「引用例2」という)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による)。

ア.「1.緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を含むpCAGGS発現ベクターであって、該GFPがミトコンドリアで局在的に発現することを特徴とする、ミトコンドリア局在型GFP発現ベクター。
2.ミトコンドリアへの移行シグナル配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の発現ベクター。
3.移行シグナル配列がシトクロムcオキシダーゼサブユニットVIIIのシグナル配列であることを特徴とする、請求項2に記載の発現ベクター。
4.GFP遺伝子を含む発現ベクターであって、該GFPがマウスのミトコンドリアで局在的に発現することを特徴とする、ミトコンドリア局在型GFP発現ベクター。
5.請求項1から4のいずれか1項に記載の発現ベクターが導入されたトランスジェニック動物。」(請求項1?5)

イ.「生体染色色素の代わりに、非侵襲性化学発光リポーター分子として広く利用されている緑色蛍光タンパク質(GFP)を用い、目的のタンパク質の細胞内区画における局在及び/または移動を可視化することができる。GFPはまた、細胞内器官のリアルタイムの可視化のためにも利用することが可能である。特に、Rizzutoら(・・・・・・)は、ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼのサブユニットVIII前駆体タンパク質のN末端をコードするポリヌクレオチドにGFP cDNAクローンをつないで(mtGFP)トランスフェクションすることによって、GFPがHeLa細胞のミトコンドリア内のみに蓄積することを報告している。蛍光はミトコンドリアで典型的なロッド様の形状として観察され、GFPの蓄積がミトコンドリアで生じていることを示している。・・・・・・・・・
このように、細胞内器官への移送シグナルと連結したGFPは、細胞内器官をリアルタイムで観察するために広範な応用を有することが期待された。
しかしながら、上記の方法では、株化培養細胞やプライマリーカルチャー可能な組織の細胞等、利用できる細胞が限定され、また個体発生の際のミトコンドリアの挙動や病態形成時の病巣におけるミトコンドリアの動態を観察することは不可能である。
動物個体のあらゆる組織でミトコンドリアに局在化したGFPを発現させるためには、適切なベクターを選択しなければならない。・・・・・・・・・
発明の開示
本発明者等は、上記課題を解決するために種々検討した結果、発現ベクターとしてあらゆる組織において外来遺伝子の強い発現を可能にするpCAGGS発現ベクターを選択した。そして、GFPを用いてミトコンドリアを標識するために、ミトコンドリア局在型GFP発現ベクターを作製すると共に、GFPによってミトコンドリアが可視化されたトランスジェニック(Tg)動物を作製した。」(第2頁第2行?第3頁第8行)

ウ.「[実施例1]発現ベクターの構築
シトクロムcオキシダーゼサブユニットVIII(COX8、GeneBank U15541)のシグナル配列を、5’-GCA GAA TTC TGC AGC GCC ACC ATG CCA AGG CTC CCC CC-3’(配列番号1)及び5’-GGC GGA TCC TAA GCT TGC ATA ATC AGG AAC ATC ATA ATG GGC TTT GGG AAC C-3’(配列番号2)をプライマーとして使用し、C57BL/6J(B6)由来のゲノムDNAを鋳型としてPCR反応によって増幅した。この場合、配列番号2のプライマーにはHA1の塩基配列(TAA GCT TGC ATA ATC AGG AAC ATC ATA:配列番号2の10?36番の塩基)が含まれており、従ってPCR反応によって得られた増幅産物にはHA1の塩基配列が組み込まれている。EGFP(配列番号10)のコード領域は、5’-GAT GGA TCC ATC GCC ACC ATG GTG AGC AAG-3’(配列番号3)及び5’-CGG AAT TCT TAC TTG TAC AGC TCG TCC ATC CG-3’(配列番号4)をプライマーとし、組み換えプラスミドpEGFP-N3(Clontech,CA)を鋳型としてPCR反応によって増幅した。双方のPCR産物をEcoRI及びBamHIによって切断し、EcoRIで切断したpCAGGS発現ベクター(Niwa,B.ら,(1991)Gene 108,193-200)中にライゲートした。」(第8頁第16行?第9頁第2行)

エ.「[実施例2]トランスジェニックマウスの作製
トランスジェニック動物作製のために用いるDNA断片を、SalI及びStuIによる二重切断によって取得し(図1)、クローニングベクターからアガロースゲル電気泳動によって分離し、これを次いでQIAEX II(QIAGEN,CA)によって精製した。精製したDNA断片を受精したマウス(B6)卵細胞の前核中に標準的手法(・・・・・・)に従って注入した。トランスジェニックマウスの同定のために、耳穿孔片(ear-punched pieces)からゲノムDNAを調製した。すなわち、穿孔片をPCR緩衝液/非イオン性界面活性剤及びプロテイナーゼK(50mM KCl、10mM Tris-HCl、(pH8)、1.5mM MgCl2、0.1% ゼラチン、0.45% NP-40、0.45% Tween-20、及び100μg/mlプロテイナーゼK)中に入れ、37℃で一晩インキュベートした。プロテインキナーゼKを失活させるために、95℃で15分間インキュベートし、得られた溶液をDNA試料とした。
次いで、調製したゲノムDNAを鋳型として、合成した2対のプライマーペア(A)5’-GCT CTA GAG CCT CTG CTA ACC-3’(配列番号5),5’-TGA ACA GCT CCT CGC CCT TGC TC-3’(配列番号6)及びB)5’-TGA GCA AAG ACC CCA ACG AGA AGC-3’(配列番号7),5’-TTA GCC AGA AGT CAG ATG CTC AAG-3’(配列番号8))を用い、導入遺伝子配列に特異的なPCR断片(258bp)を増幅した(図2)。」(第9頁第5行?第24行)

上記記載事項エ.の「トランスジェニックマウス」の記載から、上記記載事項ア.中の「トランスジェニック動物」が「トランスジェニック非ヒト動物」に該当することは明らかであるから、上記記載事項ア.?エ.によると、引用例2には、「緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子及びミトコンドリアへの移行シグナル配列をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターであって当該GFPがミトコンドリアで局在的に発現するミトコンドリア局在型GFP発現ベクターが導入されたトランスジェニック非ヒト動物。」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

当審の拒絶理由で引用例1として引用した、本願出願日前に頒布された刊行物であるクロンテクニーク2002年1月号(2002.Jan.)p.18-19(以下、「引用例1」という)には、赤色蛍光タンパク質(DsRed2)をコードする遺伝子及びミトコンドリアを標的とするヒトのシトクロムcオキシダーゼ第VIIIサブユニットの局在化配列をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターであって、当該DsRed2がミトコンドリアで局在的に発現するミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)が記載されている(表1)。そして、該ミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)をHeLa細胞にトランスフェクションし、ミトコンドリアへのDsRed2の細胞内局在化を示したDsRed2発現の顕微鏡写真の実験結果(図1)が記載されており、また、哺乳類細胞中の細胞内構造(ミトコンドリア)を蛍光顕微鏡を用いてリアルタイムあるいはコマ撮りで可視化することが可能である(図1)と記載されている(第18頁第18行?第21行)。
また、引用例1には、DsRed2は赤色蛍光タンパク質DsRed1の改良型変異体であり、DsRed2 Vectorが加わることにより、利用可能な蛍光の範囲は緑色、黄色、シアン、さらには赤色へと広がり、これらの蛍光タンパク質を用いて二重、三重に標識し、異なる細胞内構造の相互作用を観察することが可能なこと(第18頁第4行?第12行)、上記DsRed2発現ベクターを用れば、異なる色の標識蛍光タンパク質を使用して、複数のオルガネラの動態を一度に観察することができること(図2参照)、試験対象のタンパク質を蛍光タンパク質に融合させ、細胞内局在化ベクターと同時に発現させて、目的タンパク質とオルガネラとの関係を調査することができることが記載されており(第18頁第33行?第38行)、また、「DsRed2の利点」として、「DsRed2赤色蛍光タンパク質は独特なスペクトル特性を有しており、細胞内構造の蛍光トラッキングに理想的なものとなっています。このDsRed2は数ヶ所の点変異導入によって可溶性を改善したベクターで、トランスフェクションから検出までの時間も短縮されています。そのため、正確かつ安定した結果をわずか24時間で検出可能です。また、DsRed2の発現は哺乳類細胞にもよく発現します(10)。また、DsRed2は優れたS/N比や多色標識実験に有用な明瞭なスペクトル特性といった赤色蛍光タンパク質の利点は保持しています(11)。DsRed2の蛍光スペクトルは赤色方にシフトしており、EGFP、EYFP、ECFPなど、Aequoria victoria(12)に由来するEnhanced Green FluorescentProtein(EGFP)バリアントとの識別も容易です。なお、赤色蛍光タンパク質は自家蛍光により正確なGFPの読み取りを妨害するような、ある種の発現系においてはより良い選択肢であると言えるでしょう(2)。」と記載されている(第19頁)。

4.対比
次に、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、「蛍光タンパク質をコードする遺伝子及びミトコンドリアへの移行シグナル配列をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターであって当該蛍光タンパク質がミトコンドリアで局在的に発現するミトコンドリア局在型蛍光タンパク質発現ベクターが導入されたトランスジェニック非ヒト動物。」である点で一致し、蛍光タンパク質が、本願発明は、赤色蛍光タンパク質(DsRed2)であるのに対し、引用発明は、緑色蛍光タンパク質(GFP)である点で相違する。

5.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
引用例1には、ミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)を用れば、ミトコンドリアで局在的にDsRed2を発現することができることが、該ミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)を哺乳動物細胞であるHeLa細胞にトランスフェクションし、ミトコンドリアへのDsRed2の細胞内局在化を示した実験結果(図1)とともに記載されており、また、DsRed2の発現は哺乳動物細胞でもよく発現することなどのDsRed2の利点が記載されているから、ミトコンドリアをDsRed2で標識することを目的として、引用発明のトランスジェニック非ヒト動物において、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子の代わりに、赤色蛍光タンパク質(DsRed2)をコードする遺伝子を用いて、ミトコンドリア局在型の発現ベクターを製造し、該発現ベクターをマウスなどの哺乳動物に導入して、ミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクターが導入されたトランスジェニック非ヒト動物を製造することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明が、引用例1?2の記載から当業者が予測出来ない程の格別顕著な効果を奏するとは認められない。
したがって、本願発明は、引用例1?2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年9月24日付け意見書において、以下のア.?オ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア.引用文献1には、ミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクターが導入されたトランスジェニック非ヒト動物を製造することについて記載も示唆もされておらず、また動機づけとなる記載もない、引用文献2の「GFPは、上記したように非侵襲性であり、また紫外線照射等による退色が見られないという優れた特徴を有するものである。」(第4頁第16-21行)との記載はGFPの有利な点を示すとともに、引用文献2に記載の発明に使用される蛍光タンパク質はGFPのみに限定され、それ以外の蛍光タンパク質の使用は想定されないことを意味しており、引用文献2には、GFP以外の蛍光タンパク質の使用については一切記載されておらず示唆もされていない。

イ.DsRed1(DsRed)についての添付資料1?2を提示して、「DsRedは、大きな欠点、例えば多量体化の傾向が強く、成熟が遅いという欠点を有する」、「DsRedを宿主タンパク質に融合する場合には、多量体化は非常に深刻な問題となるだろう」(添付資料1)、「この四量体化の傾向は、DsRedがタグとして融合したタンパク質の異常な局在及び凝集の形成に重要な役割を果たしていると考えられている」、「DsRed融合タンパク質は、試験された全てのCxアイソタイプにおいて、凝集を形成した」(添付資料2)との記載から、本願出願日当時DsRedが多量体(四量体)を形成することが問題視されており、そのことが技術常識であったことを示すものである、また、GFPに関する添付資料3を提示して、当業者は単量体又は二量体のGFPでさえトランスジェニックマウスにおいて拡張型心筋症などの異常を生じる可能性があるのであるから、四量体を形成するDsRed2はさらに何らかの異常を生じる可能性が高いと予測し、DsRed2を非ヒト動物において発現させることを想起しない。

ウ.本願出願後に公開された添付資料4を提示して、「DsRedタンパク質の初期の改変体群は、タンパク質同士が四量体を形成する理由から融合タンパク質タグとしての有用度は低いものでした。」との記載から、DsRedの販売者でさえDsRedタンパク質の初期の改変体群、すなわちDsRed1、DsRed2及びDsRed-Express等が四量体を形成することを問題視しており、DsRedの有用度は低いものであると認識していたことを示すものであり、DsRedは、四量体を形成することによりDsRedが融合したタンパク質の機能不全等を引き起こすことは出願日当時において当業者の技術常識であった。

エ.本願発明のトランスジェニック非ヒト動物では、ミトコンドリア局在的にDsRed2が発現し、意外にも、本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、DsRed2を使用してもタンパク質の機能不全等を引き起こさないことが確認された(本願実施例3及び4並びに図4B及び5など)こと、また、技術常識を考慮してもDsRed2は四量体を形成するからDsRed2が正常にミトコンドリア局在的に発現するかどうかは予測できないことから、本願発明は当業者が予測できない格別顕著な効果を奏する。

オ.平成22年5月6日付意見書に添付した添付資料2で示したとおり、本願発明に包含されるDsRed2発現トランスジェニックマウスのDsRed2の発現効率は、引用文献2に記載されたGFP発現トランスジェニックマウスのGFPの発現効率と比較して、極めて高いことが明らかとなっているから、このような効果も、引用文献1及び2の記載からは予測できない格別顕著な効果である。

主張ア.について
上述の如く、引用例1には、ミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)を用れば、ミトコンドリアで局在的にDsRed2を発現することができることが、該ミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)を哺乳動物細胞であるHeLa細胞にトランスフェクションし、ミトコンドリアへのDsRed2の細胞内局在化を示した実験結果(図1)とともに記載されており、また、DsRed2の発現は哺乳動物細胞でもよく発現することなどのDsRed2の利点が記載されているから、該記載から哺乳動物内の哺乳動物細胞のミトコンドリアで局在的にDsRed2を発現させるために、ミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクターをマウスなどの哺乳動物に導入する動機づけとなる記載が引用例1にないとはいえない。
また、引用例2には、「生体染色色素の代わりに、非侵襲性化学発光リポーター分子として広く利用されている緑色蛍光タンパク質(GFP)を用い、目的のタンパク質の細胞内区画における局在及び/または移動を可視化することができる。」と記載されている(上記記載事項イ.)ように、GFPは非侵襲性化学発光リポーター分子として広く利用されていることから選択されたものと認められ、該記載をみた当業者であればGFPに限定されず非侵襲性化学発光リポーター分子として広く利用されている蛍光タンパク質(例えば、DsRed2)であれば、それをGFPの代わりに使用することができると想定することは十分に可能である。

主張イ.について
引用例1にも記載されているように、DsRed2は赤色蛍光タンパク質DsRed1の改良型変異体であり、また、その改良の結果、DsRed1とは異なり、DsRed2は凝集性が低く、毒性も低いこと、また、成熟も早く、可溶性が高められていることは、本願出願日前周知事項である(例えば、クロンテクニーク2001年7月号(2001.Jul.)p.2-3、Clontech Vector Infomation,Cat.No.632421(2002.Feb.20)p.1-3、国際公開第02/068459号の第45頁第2行?第18行参照)。
引用例1には、ミトコンドリア局在化配列を融合したDsRed2をコードするミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)を哺乳動物細胞であるHeLa細胞に実際にトランスフェクションし、ミトコンドリアへのDsRed2の細胞内局在化を確認した実験結果(図1)が示されている。また、引用例1に示された結果と同様に、pDsRed2-Mitoを哺乳動物細胞にトランスフェクションした報告例(Mol.Vis.,Vol.10(2004.Mar.)p.248-253)やDsRed2を導入したトランスジェニックラットの報告例(Biochem.Biophys.Res.Commun.,Vol.311,No.2(2003)p.478-481)が本願出願日前において知られている。
一方、審判請求人が提示した添付資料1?2はいずれもDsRed1に関するものであり、DsRed2に関するものではなく、また、引用例1の記載及び上記周知事項を考慮すれば、添付資料1?2の記載内容がDsRed2についての技術常識である根拠を示す証拠として採用することはできない。
また、審判請求人が提示した添付資料3もGFPに関するものであり、DsRed2に関するものではなく、また、引用例1の記載、本願出願日前における上記報告例の記載内容を考慮すれば、添付資料3の記載内容がDsRed2が異常を生じる可能性が高いと予測する根拠を示す証拠として採用することはできない。

主張ウ.について
添付資料4の記載をみても、添付資料4にある「初期の改変体群」にDsRed2が含まれることか否か不明であり、仮に含まれているとしても、該記載は蛍光タンパク質を融合タンパク質タグとして使用するベクター系についての記載であり、引用例1に記載されているミトコンドリア局在化配列を融合したDsRed2をコードするミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)を意味しているとは認められない。
また、該記載がDsRed2を融合タンパク質タグとして使用するベクター系についての記載であるとしても、本願出願後に公開されたDsRed2の販売者によるBIO VIEW,No.54(2007.Dec.)p.16-19には、DsRed2は融合タンパク質として利用できることが記載されている(表2)ので、DsRed2を融合タンパク質タグとして使用するベクター系についても有用性はあったものと推認できる。
「主張イ.について」において述べたように、DsRed2は凝集性が低く、毒性も低い蛍光タンパク質であることは本願出願日前周知事項であり、また、引用例1には、ミトコンドリア局在化配列を融合したDsRed2をコードするミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)を哺乳動物細胞であるHeLa細胞に実際にトランスフェクションし、ミトコンドリアへのDsRed2の細胞内局在化を確認した実験結果(図1)が示されているから、「DsRedは、四量体を形成することによりDsRedが融合したタンパク質の機能不全等を引き起こすことは出願日当時において当業者の技術常識であった」という審判請求人の上記主張は採用できない。

主張エ.について
「主張イ.について」において述べたように、DsRed2は凝集性が低く、毒性も低い蛍光タンパク質であることは本願出願日前周知事項であり、また、引用例1には、ミトコンドリア局在化配列を融合したDsRed2をコードするミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクター(pDsRed2-Mito)を哺乳動物細胞であるHeLa細胞に実際にトランスフェクションし、ミトコンドリアへのDsRed2の細胞内局在化を確認した実験結果(図1)が示されているから、ミトコンドリア局在型DsRed2発現ベクターを導入した哺乳動物においても、「DsRed2を使用してもタンパク質の機能不全等を引き起こさないこと」は当業者であれば予測可能なことであり、「DsRed2は四量体を形成するからDsRed2が正常にミトコンドリア局在的に発現するかどうかは予測できない」という審判請求人の上記主張は採用できないから、本願発明が当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するとはいえない。

主張オ.について
審判請求人が主張する「本願発明に包含されるDsRed2発現トランスジェニックマウスのDsRed2の発現効率は、引用文献2に記載されたGFP発現トランスジェニックマウスのGFPの発現効率と比較して、極めて高い」という効果は、本願明細書に何ら開示されていない効果であり、審判請求人の上記主張は、本願明細書の記載に基づく主張でないから、失当である。

したがって、審判請求人の上記主張はいずれも採用できない。

7.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例1?2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-27 
結審通知日 2014-01-07 
審決日 2014-01-20 
出願番号 特願2004-154260(P2004-154260)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 高堀 栄二
田中 晴絵
発明の名称 ミトコンドリア局在型DsRed2及びECFP発現ベクター  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 片山 英二  
代理人 大森 規雄  
代理人 小林 浩  

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