ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01B 審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 取り消して特許、登録 H01B |
---|---|
管理番号 | 1286193 |
審判番号 | 不服2013-3746 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-02-27 |
確定日 | 2014-04-16 |
事件の表示 | 特願2008-526300「ナノワイヤに基づく透明導電体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月22日国際公開、WO2007/022226、平成21年 2月 5日国内公表、特表2009-505358、請求項の数(69)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年8月14日(優先権主張 2005年8月12日、2006年4月28日、同年5月8日 いずれも米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成24年6月6日付けで拒絶理由が通知され、同年10月4日付けで手続補正がされ、同年10月25日付けで拒絶査定がされた。 これに対し、平成25年2月27日に本件審判の請求がされるとともに、同日付けで手続補正がされ、その後、同年7月16日付けの審尋に対して、同年10月17日付けで回答書が提出され、同年12月25日付けの当審の拒絶理由通知に対して、平成26年1月14日付けで手続補正がされたものである。 第2 本願発明 この出願の発明は、平成26年1月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?69に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、独立形式で記載された請求項に係る発明(以下、「独立発明」という。)は、以下のとおりであり、請求項1に係る発明を、以下、「本願発明」という。 【請求項1】 透明導電体であって、 柔軟性を有する基板と、 該基板上の導電層を備え、 該導電層が、複数の金属ナノワイヤーを含み、 該導電層が、10?1000Ω/□の抵抗率および85%より高い光透過率を有し、 該導電層がマトリクスを含み、 該透明導電体の表面の第一の領域が導電性であり、該透明導電体の表面の第二の領域が非導電性であるように、該導電層はパターン化されており、 該金属ナノワイヤーは、複数のナノワイヤー交差点を含む導電網を形成し、該複数のナノワイヤー交差点の少なくとも一部のうち、交差するワイヤーの少なくとも一つは平坦な交差部分を有する、 透明導電体。 【請求項20】 透明導電体を作製する方法であって、 複数の金属ナノワイヤーを柔軟性を有する基板の表面上に蒸着するステップであって、該金属ナノワイヤーは液体に分散されるステップと、 該液体を乾燥させることによって、金属ナノワイヤー網層を該基板上に形成するステップであって、該金属ナノワイヤー網層が、10?1000Ω/□の抵抗率および85%より高い光透過率を有するステップと、 該金属ナノワイヤー網層上にマトリクス材を蒸着するステップと、 マトリクスを形成するために、該マトリクス材を硬化するステップであって、そこに埋め込まれる該マトリクスおよび該金属ナノワイヤーは、導電層を形成するステップと、 を含み、 該透明導電体の表面の第一の領域が導電性であり、該透明導電体の表面の第二の領域が非導電性であるように、該導電層はパターン化され、 該金属ナノワイヤーは、複数のナノワイヤー交差点を含む導電網を形成し、該複数のナノワイヤー交差点の少なくとも一部のうち、交差するワイヤーの少なくとも一つは平坦な交差部分を有する、 方法。 【請求項57】 積層構造物であって、 柔軟性を有するドナー基板と、 複数の金属ナノワイヤーに埋め込まれるマトリクスを含む導電層と、 を含み、該導電層が、10?1000Ω/□の抵抗率および85%より高い光透過率を有し、 該透明導電体の表面の第一の領域が導電性であり、該透明導電体の表面の第二の領域が非導電性であるように、該導電層はパターン化されており、 該金属ナノワイヤーは、複数のナノワイヤー交差点を含む導電網を形成し、該複数のナノワイヤー交差点の少なくとも一部のうち、交差するワイヤーの少なくとも一つは平坦な交差部分を有する、 積層構造物。 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 原査定に示された拒絶理由の概要は、以下の理由1?3のとおりである。 理由1 この出願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。 理由2 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物Aに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由3 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物Aに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物A 国際公開第2004/097466号 (請求項1に係る発明は、刊行物Aに記載された発明であり、また、刊行物Aに記載された発明に基いて想到容易であって、特別な技術的特徴を有しない。) 2 原査定の理由の判断 原審の査定の理由1は、理由2を前提とするものであるから、まず刊行物Aを引用刊行物とする理由2、及び理由3について検討する。 (1)刊行物Aの記載事項 刊行物Aには、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様)。 (ア)「請求の範囲 1. 光拡散シート本体の少なくとも片面に、10^(5)Ω/□以下の表面抵抗率を有する透光性導電層を積層したことを特徴とする電磁波シールド性光拡散シート。」 (イ)「透光性導電層3に使用される極細導電繊維3aとしては、カーボンナノチューブやカーボンナノホーン、カーボンナノワイヤ、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリルなどの極細長炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンなどの金属ナノチューブ、ナノワイヤなどの極細長金属繊維、酸化亜鉛などの金属酸化物ナノチューブ、ナノワイヤなどの極細長金属酸化物繊維などの、直径が0.3?100nmである導電性極細繊維が好ましく用いられる。そして、これらの導電性極細繊維の長さは0.1?20μm、好ましくは0.1?10μmのものが望ましい。これらの極細導電繊維3aは、これが凝集することなく1本づつ或は1束づつ分散することにより、該透光性導電層3の表面抵抗率が10^(0)?10^(2)Ω/□である時にはその光線透過率が50%以上であるものが得られるし、表面抵抗率が10^(2)?10^(3)Ω/□である時には光線透過率が75%以上のものが得られるし、表面抵抗率が10^(3)?10^(5)Ω/□である時には光線透過率が88%以上のものが得られる。なお、上記光線透過率は分光光度計による550nmの波長の光の透過率を示す。」(第15頁第17行?第16頁第7行) (ウ)「これらの極細導電繊維3aの中でも、カーボンナノチューブは、直径が極めて細く0.3?80nmであるので、1本或は1束づつ分散することで該カーボンナノチューブが光透過を阻害することが少なくなり、光線透過率が50%以上の透光性導電層3を得るうえで特に好ましいのである。このカーボンナノチューブも、透光性導電層3の内部に或は表面に、凝集することなく、1本づつ或は複数本が束になつた状態で1束づつ分散し、互いに接触して導通性を確保している。そのため、該カーボンナノチューブ3aを透光性導電層3に20?450mg/m^(2)の目付け量に相当する量を含有させることで、その表面抵抗率を10^(5)Ω/□以下に自由にコントロールすることができる。」(第16頁第8?15行) (エ)「カーボンナノチューブを含んだ透光性導電層3は,カーボンナノチューブだけの層であってもよいが、バインダー樹脂中に分散含有させたり、バインダー樹脂でカーボンナノチューブを固定することが好ましい。このバインダー樹脂としては、前述した光拡散シート本体2と同種の透光性熱可塑性樹脂、又は、相溶性のある異種の透光性熱可塑性樹脂などの熱可塑性樹脂や透光性硬化性樹脂が用いられる。」(第19頁第2?6行) (2)刊行物Aに記載された発明 刊行物Aには、(ア)に記載の光拡散シート本体上に10^(5)Ω/□以下の表面抵抗率を有する透光性導電層を備えた電磁波シールド性光拡散シートについて、(イ)には、透光性導電層として、カーボンナノチューブなどの極細長炭素繊維が使用されること、透光性導電層の表面抵抗率が10^(0)?10^(2)Ω/□である時にはその光線透過率が50%以上であるものが得られ、表面抵抗率が10^(2)?10^(3)Ω/□である時には光線透過率が75%以上のものが得られ、表面抵抗率が10^(3)?10^(5)Ω/□である時には光線透過率が88%以上のものが得られること、(ウ)には、このカーボンナノチューブは、凝集することなく分散し、互いに接触して導通性を確保している、すなわちカーボンナノチューブは複数であること、(エ)には、カーボンナノチューブを含んだ透光性導電層は、カーボンナノチューブをバインダー樹脂中に分散含有させた層であってよいことが記載されている。 以上によると刊行物Aには、以下の発明が記載されているといえる。 「電磁波シールド性光拡散シートであって、 光拡散シート本体と、 光拡散シート本体上の透光性導電層を備え、 該透光性導電層が、複数のカーボンナノチューブなどの極細炭素繊維を含み、 該透光性導電層が、10^(0)?10^(2)Ω/□の表面抵抗率及び50%以上の光線透過率、10^(2)?10^(3)Ω/□の表面抵抗率及び75%以上の光線透過率、又は10^(3)?10^(5)Ωの表面抵抗率及び88%以上の光線透過率を有し、 該透光性導電層が、該カーボンナノチューブを分散含有させるバインダー樹脂を含み、 該カーボンナノチューブは、複数のカーボンナノチューブが凝集することなく分散し、互いに接触して導電性を確保している 電磁波シールド性光拡散シート」 (以下、「引用発明A」という。) (3)対比 本願発明と、引用発明Aとを対比すると、引用発明Aの「電磁波シールド性光拡散シート」、「光拡散シート本体」、「透光性導電層」、「極細…繊維」、「バインダー樹脂」は、それぞれ、本願発明の「透明導電体」、「基板」、「導電層」「ナノワイヤー」、「マトリクス」に相当し、引用発明Aの「複数の…ナノチューブが凝集することなく分散し、互いに接触して導電性を確保している」ことは、本願発明の「複数のナノワイヤー交差点を含む導電網を形成」することに相当するから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 [一致点] 「透明導電体であって、 基板と、 該基板上の導電層を備え、 該導電層が、複数のナノワイヤーを含み、 該導電層がマトリクスを含み、 該ナノワイヤーは、複数のナノワイヤー交差点を含む導電網を形成している 透明導電体。」 [相違点] 相違点A1:本願発明は、基板が柔軟性を有するのに対して、引用発明Aは、基板が柔軟性を有するか不明である点 相違点A2:本願発明は、導電層に含むナノワイヤーが金属ナノワイヤーであるのに対して、引用発明Aはカーボンナノチューブである点 相違点A3:本願発明は、導電層が、10?1000Ω/□の抵抗率および85%より高い光透過率を有するのに対して、引用発明Aは、10^(0)?10^(2)Ω/□の表面抵抗率及び50%以上の光線透過率、10^(2)?10^(3)Ω/□の表面抵抗率及び75%以上の光線透過率、又は10^(3)?10^(5)Ω/□の表面抵抗率及び88%以上の光線透過率を有する点 相違点A4:本願発明は、該透明導電体の表面の第一の領域が導電性であり、該透明導電体の表面の第二の領域が非導電性であるように、該導電層はパターン化されているのに対して、引用発明Aは、導電層がパターン化されているか不明である点 相違点A5:本願発明は、導電網を形成する該複数のナノワイヤー交差点の少なくとも一部のうち、交差するワイヤーの少なくとも一つは平坦な交差部分を有するのに対して、引用発明Aは、導電網における交差部分の構成について不明である点 (4)相違点についての判断 相違点A3について、検討する。 引用発明Aにおける透光性導電層は、(ウ)の記載によると、導電性を複数のカーボンナノチューブなどの極細炭素繊維(以下「ナノワイヤー」という。)の接触により確保するものであるから、ナノワイヤーの量が多いと接触点が増えて導電性は高まる(抵抗率は低下する)が、ナノワイヤーの光吸収により光透過率は低下するものと認められる。 そうすると、引用発明Aにおける「10^(2)?10^(3)Ω/□の表面抵抗率及び75%以上の光線透過率…を有する」とは、10^(3)(1000)Ω/□の抵抗率の場合に光透過率が75%以上であることを示し、「10^(3)?10^(5)Ω/□の表面抵抗率及び88%以上の光線透過率を有する」とは、10^(5)(100000Ω/□)の抵抗率の場合に88%以上の光透過率であることを示していることは明らかであるが、本願発明の特定事項である10?10^(3)(1000)Ω/□の抵抗率の場合に光透過率が85%以上であることを示しているかは必ずしも明らかでない。 そこで、刊行物Aに記載の実施例を見ると、10?1000Ω/□の抵抗率で85%以上の光透過率を達成したものは見あたらないし、上記の範囲で抵抗率と光透過率の両立を達成する手段についての示唆もない。 そして、上記のとおり、導電性と光透過率は相反する特性であるから、刊行物Aには、10?1000Ω/□の抵抗率であって、85%より高い光透過率を有する導電層について、実質的に記載されているとはいえないし、そのような導電層を得ることが当業者に容易になし得る設計的事項であるともいえない。 したがって、相違点A3に係る特定事項を有する本願発明について、刊行物Aに記載された発明である、又は当業者が引用発明Aに基いて容易になし得た発明であるとすることはできない。 また、他の独立発明についても、相違点A3に係る特定事項を有する発明であり、独立発明に従属するその他の発明についても、相違点A3に係る特定事項を有する発明であるから、本願発明と同様の理由により、本願発明以外の各請求項に係る発明も、刊行物Aに記載された発明である、又は当業者が引用発明Aに基いて容易になし得た発明であるとすることはできない。 (5)小括 以上のとおりであるから、原査定の理由2,3、及び理由2,3を前提とする理由1により本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、以下の理由1,2のとおりである。 理由1 本願発明は、下記の刊行物B1に記載された発明に基いて、又は刊行物B1に記載された発明に刊行物B2?B4に記載の公知技術を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由2 本願は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 刊行物B1 特開2004-196923号公報 刊行物B2 特表2005-536061号公報 刊行物B3 特開2001-166120号公報 刊行物B4 特開2004-58049号公報 2 当審拒絶理由の判断 2-1 理由1について (1)刊行物B1の記載事項 刊行物B1には、以下の事項が記載されている。 (カ)「【請求項1】 長軸が400nm以上であって短軸が50nm以下であるワイヤー状の金属(以下、金属ナノワイヤーと云う)を含有する電磁波遮蔽機能を有することを特徴とする金属ナノワイヤー含有組成物。 【請求項2】 金属ナノワイヤーを樹脂に分散させた請求項1の組成物。 【請求項3】 金属ナノワイヤーのアスペクト比が20以上である請求項1または2の組成物。 【請求項4】 請求項1、2または3の組成物によって形成された電磁波遮蔽フィルター。」 (キ)「【0012】 上記金属ナノワイヤーを樹脂に分散させた組成物によって透明な電磁波遮蔽フィルターを得ることができる。…また、透明な樹脂フィルムや透明なガラス板などの基板表面に上記金属ナノワイヤーを含有する塗料組成物をコーティングして被膜を形成することによって透明な電磁波遮蔽フィルターを形成することができる。…」 (ク)【0013】 一般に、フィルター表面の表面抵抗値が2.5Ω/□以下であって可視光域の透過率が70%以上であるものはプラズマディスプレーパネル(PDP)用の電磁波遮蔽フィルターとして用いることができるが、本発明の透明電磁波遮蔽フィルターは可視光域の透過率が70%以上であってフィルター表面の表面抵抗値が1.0Ω/□以下であるので、PDP用の電磁波遮蔽フィルターとして好適である。また、本発明の金属ナノワイヤーは細長い繊維状のものが互いに絡み合った状態で分散されているので、比較的少ない分散量でも優れた導電性と電磁波遮蔽効果が得られる。従って、PDP画像の鮮明性が保たれる。また、本発明の透明電磁波遮蔽フィルターは可視域の透光性と低い表面抵抗を有するため、透明導電膜としても使用することができる。」 (ケ)「【0015】 〔実施例1〕 アミノ基含有高分子系分散剤(ソルスハ゜ース24000SC)で表面を保護した銀ナノワイヤー(長軸平均長さ1μm、短軸平均長さ10nm)のトルエン分散液2g(銀ナノワイヤー1.0g含有)をエポキシ樹脂溶液(固形分40質量%)0.625gと混合して塗料化した。この塗料を透明な基材(PETシート)に塗布し(厚さ2μm)、乾燥して被膜を形成した。この被膜に400nm?800nmの可視光を照射し、分光光度計(日本分光社製品:V-570)によって透過率を測定したところ、この全波長域にわたって透過率は80%であった。また、この被膜表面の表面抵抗を4端針法に基づき抵抗率計(三菱化学社製品:ロレスタGP)を用いて測定したところ1.9Ω/□であった。…」 (2)刊行物B1に記載された発明 刊行物B1には、(カ)に記載の金属ナノワイヤーを樹脂に分散させた組成物によって形成された電磁波遮蔽フィルターについて、(キ)によると、この電磁波遮蔽フィルターは、透明な基板上に上記金属ナノワイヤーを含有する塗料組成物をコーティングして被膜を形成することによって得ることができ、(ク)によると、この電磁波遮蔽フィルターは、透明導電膜として使用することができ、この金属ナノワイヤーは細長い繊維状のものが互いに絡み合った状態で分散されており、(ケ)には、実施例として、銀ナノワイヤーとエポキシ樹脂溶液とを混合した塗料を透明な基材(PET)に塗布して乾燥して形成した被膜を有し、この被膜が透光率80%、表面抵抗1.9Ω/□の表面抵抗を有するものが記載されている。 したがって、刊行物B1には、以下の発明が記載されているといえる。 「電磁波遮蔽フィルターであって、 透明な基板と、 該基板上の被膜を備え、 該被膜が複数の金属ナノワイヤーを含み、該被膜が、1.9Ω/□の表面抵抗、及び80%の光透過率を有し、 該被膜が該金属ナノワイヤーをエポキシ樹脂溶液と混合した塗料を基材に塗布し、乾燥したものであり、 該金属ナノワイヤーは、複数の金属ナノワイヤーが互いに絡み合った状態で分散されている 電磁波遮蔽フィルター」 (以下、「引用発明B」という。) (3)対比 本願発明と、引用発明Bとを対比すると、引用発明Bの「電磁波遮蔽フィルター」、「金属ナノワイヤー」は、それぞれ、本願発明の「透明導電体」、「ナノワイヤー」に相当し、引用発明Bの「金属ナノワイヤーを含み」、「エポキシ樹脂溶液…を基材に塗布し、乾燥したもの」である「被膜」は、「導電性」であって、「マトリクスを含む」ことが明らかであるから、本願発明の「導電層」に相当し、引用発明Bの「複数の金属ナノワイヤーが互いに絡み合った状態で分散されている」ことは、本願発明の「複数のナノワイヤー交差点を含む導電網を形成」することに相当するから、両者は、以下の点で一致し、以下のB1?B4の点で相違する。 [一致点] 「透明導電体であって、 基板と、 該基板上の導電層を備え、 該導電層が、複数のナノワイヤーを含み、 該導電層がマトリクスを含み、 該ナノワイヤーは、複数のナノワイヤー交差点を含む導電網を形成している 透明導電体。」 [相違点] 相違点B1:本願発明は、基板が柔軟性を有するのに対して、引用発明Bは、基板が柔軟性を有するか不明である点 相違点B2:本願発明は、導電層が、10?1000Ω/□の抵抗率および85%より高い光透過率を有するのに対して、引用発明Bは、1.9Ω/□の表面抵抗、及び80%の光透過率を有する点 相違点B3:本願発明は、該透明導電体の表面の第一の領域が導電性であり、該透明導電体の表面の第二の領域が非導電性であるように、該導電層はパターン化されているのに対して、引用発明Bは、導電層がパターン化されているか不明である点 相違点B4:本願発明は、導電網を形成する該複数のナノワイヤー交差点の少なくとも一部のうち、交差するワイヤーの少なくとも一つは平坦な交差部分を有するのに対して、引用発明Bは、導電網における交差部分の構成について不明である点 (4)相違点についての判断 相違点B4について検討する。 刊行物B1?B4には、導電網を形成する複数のナノワイヤー交差点の少なくとも一部のうち、交差するワイヤーの少なくとも一つは平坦な交差部分とすることについて、記載されていないし示唆もない。 これに対して、本願発明は、本願明細書【0219】?【0226】の記載によると、複数の金属ナノワイヤーの導電網を形成した後、加圧処理を施して交差するワイヤーの交差部分を平坦にすることにより、光透過率をほぼ維持しつつ導電性を増加させる(抵抗率を下げる)という顕著な効果を奏するものである。 したがって、相違点B4に係る特定事項を有する本願発明について、刊行物B1?B4に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができたということはできない。 (5)刊行物提出書について なお、平成26年2月28日付けの刊行物等提出書において、相違点4Bに対して、以下の刊行物が提示された。 C1 国際公開第2004-069737号(特表2006-517485号公報) C2 J.Am.Chem.Soc.2000,122,p10232-10233 そこで検討したところ、C1の特表公報には、【0036】、【0037】に、極細導電繊維をバインダーに分散した塗液を固化、又は乾燥して得た導電層を熱プレスすることにより、導電層中に分散する繊維間の距離が縮まり、表面抵抗が低下することが記載されているが、極細繊維の周囲にはバインダーが存在しているから、極細繊維の交差部分が熱プレスにより平坦になっているとまでは把握することができない。 また、C2には、整列方向の異なるナノワイヤー層同士の多層構造では、低抵抗のナノワイヤー交差部分により優れた電気接続が得られることが記載されているが(p10232 左欄7-20行、lFig.2(a))、この交差部分が平坦であるとまでは把握することができない。 したがって、C1,C2に記載された事項を参酌しても、上記(4)に示す相違点B4に係る判断は覆らない。 (6)小括 以上のとおりであり、他の独立発明についても、相違点B4に係る特定事項を有する発明であり、独立発明に従属するその他の発明についても、相違点B4に係る特定事項を有する発明であるから、本願発明と同様の理由により、本願発明以外の各請求項に係る発明も刊行物B1?B4、及びC1,C2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 2-2 理由2について 理由2(明確性欠如)は、平成26年1月14日付けの手続補正により解消した。 なお、刊行物等提出書において、本願発明の特定事項である「平坦な交差部分」について、平坦の程度が明確でない旨の指摘がされた。 しかし、本願明細書【00134】、【00135】、【0220】?【0223】、図15Bの記載によれば、その平坦の程度は、基板上にナノワイヤー網層を形成し、マトリクス材を適用しない状態で1000psiから2000psi程度で加圧して得られる程度のものと把握することができるから、明確でないとまではいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-04-04 |
出願番号 | 特願2008-526300(P2008-526300) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H01B)
P 1 8・ 121- WY (H01B) P 1 8・ 65- WY (H01B) P 1 8・ 537- WY (H01B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 太田 一平 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
中澤 登 真々田 忠博 |
発明の名称 | ナノワイヤに基づく透明導電体 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 山本 健策 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 石川 大輔 |
代理人 | 飯田 貴敏 |