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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) B60G
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録(定型) B60G
管理番号 1286223
審判番号 不服2013-11157  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-13 
確定日 2014-04-15 
事件の表示 特願2011-109668号「サスペンション構造、サスペンション特性調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月10日出願公開、特開2012-240461号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年5月16日の出願であって,平成25年4月2日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成25年6月13日付けで拒絶査定不服審判の請求がされ,同時に補正されたものである。
そして,当審において,平成25年7月8日付けで審査官により作成された前置報告書について,平成25年8月28日付けで審尋を行ったところ,審判請求人は平成25年10月24日付けで回答書を提出した。

第2 平成25年6月13日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1及び請求項4を,
「【請求項1】
車体前後方向に並び,夫々が車輪と車体とを揺動可能に連結する前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクと,
前記車輪及び前記車体の夫々を前記後側サスペンションリンクの連結先部材とし,前記各連結先部材と前記後側サスペンションリンクとの夫々の間に設けたリンク用ブッシュと,を備え,
前記リンク用ブッシュは,
車体前後方向に沿った軸を有し,前記連結先部材及び前記後側サスペンションリンクの一方に連結したリンク用内筒と,
前記リンク用内筒の外周面に対向する内周面を有し,前記連結先部材及び前記後側サスペンションリンクの他方に連結したリンク用外筒と,
前記リンク用内筒及び前記リンク用外筒の間に設けたリンク用弾性体と,
前記リンク用内筒の外周面における軸方向の中央を径方向外側に隆起させた隆起部と,を備え,
前記リンク用ブッシュは,
前記リンク用内筒の外周面における軸方向の両端を径方向外側に拡径させた拡径部を有し,
前記隆起部及び前記拡径部は,ブッシュ軸からの距離を同一とし,
前記リンク用外筒の内周面に,前記隆起部の稜線に沿って径方向内側に曲げた曲部を形成することにより前記隆起部に対向する凹面を形成し,
前記リンク用内筒の外周面のうち,軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に,前記リンク用弾性体を設け,
前記リンク用弾性体は,
前記リンク用外筒との接触側では,軸方向における一端側の前記曲部を含む位置から他端側の前記曲部を含む位置までの範囲に設けられたことを特徴とするサスペンション構造。」
「【請求項4】
車体前後方向に並ぶ前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクによって車輪と車体とを揺動可能に連結し,
前記車輪及び前記車体の夫々を前記後側サスペンションリンクの連結先部材とし,前記各連結先部材と前記後側サスペンションリンクとの夫々の間にリンク用ブッシュを設け,
前記リンク用ブッシュを,車体前後方向に沿った軸を有するリンク用内筒と,前記リンク用内筒の外周面に対向する内周面を有するリンク用外筒と,前記リンク用内筒及び前記リンク用外筒の間に設けたリンク用弾性体と,で形成し,
前記前側サスペンションリンク及び前記後側サスペンションリンクの一方に前記リンク用内筒を連結すると共に,他方に前記リンク用外筒を連結し,
前記リンク用内筒の外周面における軸方向の中央に,径方向外側に隆起する隆起部を形成し,
前記リンク用ブッシュは,
前記リンク用内筒の外周面における軸方向の両端を径方向外側に拡径させた拡径部を有し,
前記隆起部及び前記拡径部は,ブッシュ軸からの距離を同一とし,
前記リンク用外筒の内周面に,前記隆起部の稜線に沿って径方向内側に曲げた曲部を形成することにより前記隆起部に対向する凹面を形成し,
前記リンク用内筒の外周面のうち,軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に,前記リンク用弾性体を設け,
前記リンク用弾性体は,
前記リンク用外筒との接触側では,軸方向における一端側の前記曲部を含む位置から他端側の前記曲部を含む位置までの範囲に設けられたことを特徴とする特徴とするサスペンション特性調整方法。」
と補正するものである。

2.補正の適否
本件補正は,請求項1及び4に記載した発明を特定するために必要な事項である「リンク用外筒」及び「リンク用弾性体」について,「リンク用外筒の内周面に,前記隆起部の稜線に沿って径方向内側に曲げた曲部を形成することにより前記隆起部に対向する凹面を形成し,前記リンク用内筒の外周面のうち,軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に,前記リンク用弾性体を設け,前記リンク用弾性体は,前記リンク用外筒との接触側では,軸方向における一端側の前記曲部を含む位置から他端側の前記曲部を含む位置までの範囲に設けられた」との限定を付加するものであって,補正前の請求項1及び4に記載された発明と補正後の請求項1及び4に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,特許法第17条の2第3項,第4項に違反するところはない。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明1」という。)?請求項4に記載された発明(以下,「本願補正発明4」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
(1-1) 原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願日前に頒布された刊行物である特開2009-179250号公報には,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0007】
次に,本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は,本実施形態の後輪用サスペンション装置を示す上面図である。図2は車両前方からみたリンクの配置を説明する概要図である。図3は,後述するコネクトブッシュによる連結構造及び成型部の構成を説明する断面図である。
(構成)
本実施形態のサスペンション装置は,2本のロアリンク4,5と,アッパリンク8とを備える。
上記2本のロアリンク4,5は,アクスル2の下部領域とサスペンションメンバ3との間を連結する。アクスル2は,車輪1を回転自在に支持する。また,サスペンションメンバは車体側部材を構成し,車体フレーム(不図示)に弾性支持される。
アッパリンク8は,アクスル2の上部領域とサスペンションメンバ3とを連結する。
【0008】
上記2本のロアリンク4,5の車輪側端部は,それぞれ1つの弾性ブッシュ9,10によって,アクスル2に対し,上下揺動可能な状態に連結する。また,2本のロアリンク4,5の車輪側端部は,サスペンションメンバ3に対し,それぞれ1つの弾性ブッシュ11,12によって,上下揺動可能な状態に連結している。アッパリンク8も,アクスル2に対し,1つの弾性ブッシュ13によって上下揺動可能な状態で連結すると共に,サスペンションメンバ3に対しても1つの弾性ブッシュ14によって上下揺動可能な状態に連結している。
【0009】
上記2本のロアリンク4,5は,車両前後方向で並ぶように配置する。ここで,この2本のロアリンク4,5を区別して説明する場合には,車両前後方向前側のロアリンク4,を前側ロアリンク4と呼ぶ。また,車両前後方向後側のロアリンク5を後側ロアリンク5と呼ぶことにする。
上記各弾性ブッシュ9?14は,入れ子状に配置した外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装して構成する。本実施形態では,外筒側を,リンク4,5,8の端部に固定すると共に,内筒側を,ボルトを介してサスペンションメンバ3若しくはアクスル2に取り付けている。なお,内筒は外筒よりも長い。」

イ 図1?8を参照すると,ブッシュ10及びブッシュ12は,車体前後方向に沿った軸を有しているといえる。

上記の記載事項及び図面の記載を総合すると,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が実質的に記載されている。
「ロアリンク4,5は,アクスル2の下部領域とサスペンションメンバ3との間を連結し,アクスル2は,車輪1を回転自在に支持し,サスペンションメンバは車体側部材を構成し,車体フレームに弾性支持され,ロアリンク5は,弾性ブッシュ10によって,アクスル2に対し,上下揺動可能な状態に連結し,また,ロアリンク5は,サスペンションメンバ3に対し,弾性ブッシュ12によって,上下揺動可能な状態に連結しており,2本のロアリンク4,5は,車両前後方向で並ぶように配置されており,
各弾性ブッシュは,入れ子状に配置した外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装しており,外筒側を,リンク5の端部に固定すると共に,内筒側を,ボルトを介してサスペンションメンバ3若しくはアクスル2に取り付けており,ブッシュ10及びブッシュ12は,車体前後方向に沿った軸を有しているサスペンション装置。」

(1-2) 前置報告書の拒絶の理由に引用され,本願出願日前に頒布された刊行物である特開2008-95861公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

ウ 「【請求項1】
軸部材と,該軸部材の外側に間隔をおいて配置された外筒と,前記軸部材と外筒との間に介設されたゴム状弾性体とを備える防振ブッシュであって,
前記軸部材は,軸方向の中央部に軸直角方向に膨出する第1膨出部を有し,該第1膨出部の外周面が凸状球面に形成され,
前記外筒は,前記凸状球面を取り囲む部分が軸直角方向外方に膨出した第2膨出部に形成されて,該第2膨出部の内周面が前記凸状球面と同心状の凹状球面に形成された
ことを特徴とする防振ブッシュ。」

エ 「【0012】
この構成によれば,外筒に第2膨出部を設けて,その内周面を内筒の第1膨出部の凸状球面と同心状の凹状球面としたことにより,こじり方向における変位時,凸状球面と凹状球面との間に介設されたゴム状弾性体は実質的に剪断変形を受けるのみとなり,内筒と外筒との間でゴム状弾性体が圧縮されることを極力回避することができるので,こじり方向におけるバネ定数を効果的に低減することができる。また,軸方向における変位時には,凸状球面と凹状球面との間でゴム状弾性体が剪断変形だけでなく圧縮変形も受けるようになるので,軸方向におけるバネ定数を上げることができる。」

(1-3) 原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願日前に頒布された刊行物である特表2005-505734号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

オ 「【請求項3】
前記外側補強体および内側補強体の軸線の相対傾動時に,弾性変形可能な第二要素に周方向膨出部間の剪断応力を発生させるべく,第一補強体(3)および中間補強体(2)の各々が,表面(26,25)のレベルで前記弾性変形可能な第二要素(24)に接着しているそれぞれの周方向膨出部(42,43)を有し,第二要素(24)は第一補強体にも接着されていることを特徴とする請求項2記載の流体弾性ジョイント。」

カ 「【0029】
変形可能要素24は2つの補強体2,3に接着されているので,変形可能要素24は軸線方向捩り時に作動することもできる。変形可能要素24はまた,ジョイントの半径方向剛性とその軸線方向剛性との比を維持するか,増大させることができる。この比の値(例えば5?9)について,セルの半径方向に対応する最小値および垂直な半径方向に対応する最大値が得られる。従って,変形可能要素24は,或る軸線方向可撓性が設けられた弾性ボール機能を満たすことができる。従って,変形可能要素24は振動の一部を吸収する。
中間補強体2は,変形可能要素6,24の弾性材料により完全に覆われている。実際に,中間補強体2の軸線方向長さ(この軸線方向長さは,変形可能要素6の軸線方向に実質的に等しい)より短い軸線方向長さに亘って中間補強体2と内側補強体3との間で変形可能要素24により形成されたスリーブ27は,中間補強体2の両端部のレベルで,内面25の残余の部分を覆う薄膜36の部分により,変形可能要素6との連続的結合部分まで延長されている。材料の膜36は,例えば,2つの変形可能要素6,24を単一モールディング工程により得られる。従って,中間補強体2が外部環境および腐食から保護される。
同様に,変形可能要素24は,内側補強体3の両端部34,35のレベルで,該内側補強体3の周囲を覆う薄膜37の部分により,前記端部34,35まで延長されている。
【0030】
内側補強体3は,中央軸線方向空間33を有し,該空間33は,内側補強体3を或る部品に固定するためのねじと係合できる。内側補強体3の壁は,ねじおよび/または部品との接触面を拡大すべく,両端部34,35のレベルで拡げられかつ厚くなっており,これにより,頑丈で軸線方向回転応力に耐える固定が確保される。補強体3の両端部のこのような変形は,ジョイントの弾性要素のモールディング後,冷えたときに,最初は均一チューブの形状を有する補強体3のブランクの端部に回転工具を係合させることにより得られる。この成形技術は,上記特許文献2に開示されている。
内側補強体3の両端部の厚さは,ジョイントの空間的条件,重量および価格に関して長所を与える。実際に,厚い両端部34,35の直径に等しい実質的に一定の直径をもつ内側補強体に比べて,この内側補強体3は補強体の中央部分のレベルで小さい直径および質量を有する一方,内側補強体の固定作業は両場合に実質的に同じである。所与の固定作業では,補強体の中央部分の直径が小さいことは,変形可能要素24の体積の低減をもたらし,これによりジョイント組立体の体積が低減されると同時に,円錐変形の同様な許容速度を維持できる。」

キ 「【0033】
次に,図4を参照して本発明の第三実施例を説明する。第一実施例の構成要素と同じ構成要素は同じ参照番号で示し,再度の説明は省略する。図4では,上半部は図1と同様な態様で断面したものであり,一方,下半部は図1の断面に対して垂直な長手方向平面で断面したものである。
このジョイントは,次の相違点,すなわち内側補強体3の中央セクションに凸状膨出外面部42が設けられている点を除き,第一実施例と同様に設計されている。中間ジョイント2は,その中央部に,前記部分42に対向する凸状平行膨出部43が設けられた設計になっている。膨出部42,43は,実質的に球状であるのが好ましい。従って,変形可能要素24も同様な形状を有し,この形状は,回転により,平行面25,26に倣った中央膨出部44として創成されかつこれらの平行面に接着される。変形可能要素24は,ジョイントの円錐変形時に,補強体2,3の間で剪断応力を受ける。
流体チャンバのベースは,ジョイントの中央で外部に向かって半径方向にオフセットしており,外側ジョイントは,充分な量の減衰流体を維持するため,対向する内側補強体の部分42および大きい直径をもつ中央部41を有している。外側補強体1はまた,その軸線方向端部に,内部に向かって折曲げられた縁部45を有し,変形可能要素6を外側補強体内で軸線方向に保持している。」

ク 上記記載事項及びFIG.1,4を参照すると,変形可能要素24の薄膜37の部分は,内側補強体3の両端部34,35まで延長しているものの,内側補強体3の拡げられかつ厚くなっている部分では設けられていないといえる。

(2)本願補正発明1について
(2-1)対比
本願補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ロアリンク4」は本願補正発明1の「前側サスペンションリンク」に相当する。
以下,同様に「ロアリンク5」は「後側サスペンションリンク」に,「弾性ブッシュ」は「リンク用ブッシュ」に,「内筒」は「リンク用内筒」に,「外筒」は「リンク用外筒」に,「ゴム体」は「リンク用弾性体」に,「サスペンション装置」は「サスペンション構造」に,それぞれ相当する。
引用発明では,「ロアリンク4,5は,アクスル2の下部領域とサスペンションメンバ3との間を連結し,アクスル2は,車輪1を回転自在に支持し,サスペンションメンバは車体側部材を構成し,車体フレームに弾性支持され」ており,「2本のロアリンク4,5は,車両前後方向で並ぶように配置されて」いるから,引用発明は本願補正発明1の「車体前後方向に並び,夫々が車輪と車体とを揺動可能に連結する前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクと,前記車輪及び前記車体の夫々を前記後側サスペンションリンクの連結先部材」との構成を備える。
引用発明では,「ロアリンク5は,弾性ブッシュ10によって,アクスル2に対し,上下揺動可能な状態に連結し,また,ロアリンク5は,サスペンションメンバ3に対し,弾性ブッシュ12によって,上下揺動可能な状態に連結して」,「各弾性ブッシュは,入れ子状に配置した外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装しており,外筒側を,リンク5の端部に固定すると共に,内筒側を,ボルトを介してサスペンションメンバ3若しくはアクスル2に取り付けており,ブッシュ10及びブッシュ12は,車体前後方向に沿った軸を有している」から,引用発明は本願補正発明1の「各連結先部材と前記後側サスペンションリンクとの夫々の間に設けたリンク用ブッシュと,を備え,前記リンク用ブッシュは,車体前後方向に沿った軸を有し,前記連結先部材及び前記後側サスペンションリンクの一方に連結したリンク用内筒と,前記リンク用内筒の外周面に対向する内周面を有し,前記連結先部材及び前記後側サスペンションリンクの他方に連結したリンク用外筒と,前記リンク用内筒及び前記リンク用外筒の間に設けたリンク用弾性体」との構成を備える
以上のことから,本願補正発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「車体前後方向に並び,夫々が車輪と車体とを揺動可能に連結する前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクと,
前記車輪及び前記車体の夫々を前記後側サスペンションリンクの連結先部材とし,前記各連結先部材と前記後側サスペンションリンクとの夫々の間に設けたリンク用ブッシュと,を備え,
前記リンク用ブッシュは,
車体前後方向に沿った軸を有し,前記連結先部材及び前記後側サスペンションリンクの一方に連結したリンク用内筒と,
前記リンク用内筒の外周面に対向する内周面を有し,前記連結先部材及び前記後側サスペンションリンクの他方に連結したリンク用外筒と,
前記リンク用内筒及び前記リンク用外筒の間に設けたリンク用弾性体と,
を備えたサスペンション構造。」

一方で,両者は次の点で相違する。
[相違点]
リンク用ブッシュに関して,本願補正発明1では,「リンク用内筒の外周面における軸方向の中央を径方向外側に隆起させた隆起部」を備え,「前記リンク用内筒の外周面における軸方向の両端を径方向外側に拡径させた拡径部を有し,前記隆起部及び前記拡径部は,ブッシュ軸からの距離を同一とし,前記リンク用外筒の内周面に,前記隆起部の稜線に沿って径方向内側に曲げた曲部を形成することにより前記隆起部に対向する凹面を形成し,前記リンク用内筒の外周面のうち,軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に,前記リンク用弾性体を設け,前記リンク用弾性体は,前記リンク用外筒との接触側では,軸方向における一端側の前記曲部を含む位置から他端側の前記曲部を含む位置までの範囲に設けられ」ているのに対して,引用発明では,内筒の外周面の形状,リンク用外筒の内周面の形状,及び,ゴム体の設けられている範囲については,明らかではない点。

(2-2)判断
上記相違点について検討する。
引用例2には,軸部材(本願補正発明1の「リンク用内筒」に相当。),外筒(本願補正発明1の「リンク用外筒」に相当。)及びゴム状弾性体(本願補正発明1の「リンク用弾性体」に相当。)を備え,軸部材は凸状球面に形成された第1膨出部(本願補正発明1の「隆起部」に相当。)を有し,外筒は凹状球面に形成された第2膨出部(本願補正発明1の「凹面」に相当。)を有する防振ブッシュであって,こじり方向における変位時,凸状球面と凹状球面との間のゴム状弾性体は剪断変形を受け,こじり方向におけるバネ定数を効果的に低減することができ,また,軸方向における変位時には,凸状球面と凹状球面との間でゴム状弾性体が圧縮変形を受け,軸方向におけるバネ定数を上げることができることが記載されている。(記載事項ウ?エを参照。)
しかし,引用例2の軸部材は拡径部を備えていないことから,引用例2には,本願補正発明1の上記相違点に係る構成の一部である「隆起部及び前記拡径部は,ブッシュ軸からの距離を同一」とする点,及び,「リンク用内筒の外周面のうち,軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に,前記リンク用弾性体を設け」た点については,記載も示唆もされていない。

引用例3には,内側補強体(本願補正発明1の「リンク用内筒」に相当。)に周方向膨出部(本願補正発明1の「隆起部」に相当。)を設け,外側補強体(本願補正発明1の「リンク用外筒」に相当。)および内側補強体の軸線の相対傾動時に,弾性変形可能な第二要素(本願補正発明1の「リンク用弾性体」に相当。)に剪断応力を発生させること,内側補強体3の両端部34,35は,部品との接触面を拡大すべく,拡げられかつ厚くなっている部分(本願補正発明1の「拡径部」に相当。)を備えていること,及び,変形可能要素24の薄膜37の部分は,内側補強体3の両端部34,35まで延長していることが記載されている。(記載事項オ?クを参照。)
しかし,引用例3記載のものでは,内側補強体3の周方向膨出部の軸線からの距離と,内側補強体3の拡げられかつ厚くなっている部分の軸線からの距離とは同一ではない。
また,引用例3記載のものでは,内側補強体3の周方向膨出部と,内側補強体3の拡げられかつ厚くなっている部分とは,上記のように,前者は剪断応力を発生させ,後者は接触面を拡大させるという,それぞれ異なった役割のために設けられていることから,引用例3に,内側補強体3の周方向膨出部の軸線からの距離と,内側補強体3の拡げられかつ厚くなっている部分の軸線からの距離とを同一とすることについて示唆があるとも認められない。
また,引用例3記載のものでは,変形可能要素24の薄膜37の部分は,内側補強体3の拡げられかつ厚くなっている部分には設けられていない。
このように,引用例3には,本願補正発明1の上記相違点に係る構成の一部である「隆起部及び前記拡径部は,ブッシュ軸からの距離を同一」とする点,及び,「リンク用内筒の外周面のうち,軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に,前記リンク用弾性体を設け」た点については,記載も示唆もされていない。

また,本願補正発明1の上記相違点に係る構成の一部である「隆起部及び前記拡径部は,ブッシュ軸からの距離を同一」とする点,及び,「リンク用内筒の外周面のうち,軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に,前記リンク用弾性体を設け」た点について,原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願日前に頒布された刊行物である実願昭63-56382号(実開平1-166146号)のマイクロフィルム(以下,「引用例4」という。)または特開2008-155702号公報(以下,「引用例5」という。)に,記載または示唆があるものでもない。

以上のことから,上記本願補正発明1の上記相違点に係る構成の一部である「隆起部及び前記拡径部は,ブッシュ軸からの距離を同一」とする点,及び,「リンク用内筒の外周面のうち,軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に,前記リンク用弾性体を設け」た点については,いずれの引用例にも記載も示唆もされていないから,当業者が引用発明に引用例2?5に記載された事項を組み合わせて,本願補正発明1における上記相違点に係る構成に至るのが容易であるとは認められない。

したがって,本願補正発明1は,引用発明及び引用例2?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願補正発明2?3について
本願補正発明2?3は本願補正発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから,上記(2)と同様の理由により,引用発明及び引用例2?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本願補正発明4について
(4-1)対比
本願補正発明4と引用発明とを対比すると,両者は前記「2(2-1)」で示した[相違点]の点で相違する。

(4-2)判断
相違点についての判断は,前記「2(2-2)」で示したのと同様であり,当業者が引用発明に引用例2?5に記載された事項を組み合わせて,本願補正発明4における上記相違点に係る構成に至るのが容易であるとは認められない。
したがって,本願補正発明4は,引用発明及び引用例2?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)小括
以上のことから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3.むすび
本件補正は,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから,本願の請求項1に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-04-02 
出願番号 特願2011-109668(P2011-109668)
審決分類 P 1 8・ 575- WYF (B60G)
P 1 8・ 121- WYF (B60G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤平野 貴也  
特許庁審判長 大熊 雄治
特許庁審判官 山口 直
小関 峰夫
発明の名称 サスペンション構造、サスペンション特性調整方法  
代理人 森 哲也  
代理人 宮坂 徹  
代理人 小西 恵  
代理人 田中 秀▲てつ▼  

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