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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M |
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管理番号 | 1286252 |
審判番号 | 不服2012-10016 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-05-30 |
確定日 | 2014-03-24 |
事件の表示 | 特願2001-545497「バイメタル清浄剤系を含む潤滑剤およびそれを使用してNOx排気を少なくする方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月21日国際公開、WO01/44419、平成15年 5月20日国内公表、特表2003-517094〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2000年12月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年12月15日,米国)を国際出願日とする出願であって、平成14年6月11日に翻訳文が提出され、平成23年3月1日付け拒絶理由通知に対して、同年5月18日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出され、平成24年2月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年10月29日付けで審尋され、平成25年1月29日に回答書が提出され、同年5月24日付け拒絶理由通知に対して、同年8月27日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出されたものである。 2 本願発明 本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成24年5月30日手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものである。 「主要量の潤滑粘性のあるオイルおよび添加剤系を含有する、内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするための潤滑油組成物であって、該添加剤系は、以下を含有する: (A)0.1?5重量%の清浄剤組成物であって、該清浄剤組成物は、少なくとも2種の金属オーバーベース化組成物を含有し、ここで、該清浄剤組成物は、以下からなる: (A-1)少なくとも1種のアルカリ金属オーバーベース化清浄剤および (A-2)少なくとも1種のカルシウムオーバーベース化清浄剤、 ここで、該アルカリ金属清浄剤が寄与する100あたりTBNおよび希釈剤なし基準での全塩基価と該カルシウム清浄剤が寄与する全塩基価との比は、(99.5?20):(0.5?80)の範囲である; (B)1?10重量%のスクシンイミド分散剤;および (C)0.1?5重量%の次式のジヒドロカルビルジチオリン酸金属: 【化1】 ここで、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、3個?13個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、Mは、金属であり、そしてnは、Mの原子価に等しい整数である、潤滑油組成物。」 3 拒絶査定の理由 平成24年2月7日付け拒絶査定は、「この出願については、平成23年3月1日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、理由1は、平成23年3月1日付け拒絶理由通知によれば、以下の理由を含むものである。 「理 由 1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 … 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) 理由1、2について … ・請求項 1?4、6、8?9 ・引用文献等 2 ・備考 … 引 用 文 献 等 一 覧 … 2.米国特許第5804537号明細書 …」 4 当審の判断 本願発明に対する平成24年2月7日付け拒絶査定の米国特許第5804537号明細書を引用刊行物とする理由1の適否について検討する。 (1)引用刊行物に記載された事項 原査定で引用された、「本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第5804537号明細書」(以下「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(事項の摘記にあたっては、引用例の邦文のファミリー文献である特表2001-524580号の記載を利用した。なお、摘記箇所の記載において、[ ]の欄及び行は引用例のものであり、【 】の段落番号は特表2001-524580号公報のものである。下線は審決で付した。)。 a.「【0002】 … TEOSTは非常に熱い排気タービン過給機部品と接触されるAPI SF品質エンジンオイルの付着物形成傾向を評価するために当初開発され、エンジンのその他の高温領域中の付着物をコントロールする潤滑剤の能力を探求するためのGF-2評価に含まれた。TEOST(これはSAE 932837、SAE 962038及びSAE 962039に更に充分に記載されている)は、候補オイルを酸化反応器及び外部管と軸方向に並べられたデポジッターロッドからつくられた付着ゾーン中を循環することにより行なわれる高温付着物ベンチ・テストである。反応器及びデポジッターロッドの温度は独立に調節される。 【0003】 … TEOSTに関する現在のISLAC GF-2合格/不合格限界は60mgの合計付着物重量である。 … 【0006】 … 潤滑油配合分野でなされた進歩の全てにかかわらず、油性能を特別に悪化しないで、現在のTEOST及びその他のエンジン付着物性能要件を超える潤滑油に対する要望がある。」[第1欄第26行?第3欄第5行] b.「【0008】 カルシウム含有過塩基化清浄剤、マグネシウム含有過塩基化清浄剤及びナトリウム含有過塩基化清浄剤は約100(mg KOH、ASTM D2896により測定)を超え、典型的には約200を超え、好ましくは約300を超え、例えば、400の全アルカリ価(TBN)を有するあらゆる油溶性酸の夫々の金属塩を含んでもよい。本発明の一局面において、カルシウム含有過塩基化清浄剤、マグネシウム含有過塩基化清浄剤及びナトリウム含有過塩基化清浄剤の夫々は100を超えるTBNを有する金属スルホネートを含む。別の局面において、カルシウム含有過塩基化清浄剤、マグネシウム含有過塩基化清浄剤及びナトリウム含有過塩基化清浄剤の夫々は100を超えるTBNを有する金属フェネートを含む。更に別の局面において、カルシウム含有過塩基化清浄剤、マグネシウム含有過塩基化清浄剤及びナトリウム含有過塩基化清浄剤の夫々は100を超えるTBNを有する金属カルボキシレートを含む。更に別の局面において、カルシウム含有過塩基化清浄剤、マグネシウム含有過塩基化清浄剤及び/又はナトリウム含有過塩基化清浄剤の少なくとも一種が100を超えるTBNを有する金属スルホネートを含み、またカルシウム含有過塩基化清浄剤、マグネシウム含有過塩基化清浄剤及び/又はナトリウム含有過塩基化清浄剤の少なくとも一種の別の清浄剤が100を超えるTBNを有する金属フェネート及び/又は金属カルボキシレートを含む。典型的には、本発明の潤滑油組成物に添加される中性石鹸は約100未満、例えば、約50未満、好ましくは約25未満のTBNを有する、金属のスルホネート、フェネート及び/カルボキシレート、例えば、カルシウム又はナトリウムのスルホネート、フェネート又はカルボキシレートである。 【0009】 カルシウム、マグネシウム及びナトリウムを含む過塩基化3金属清浄剤混合物は、完全配合油に寄与される全TBNが約2 mg KOHから約10 mg KOHまでであるように潤滑油組成物に添加される。典型的には、3金属過塩基化清浄剤混合物は完全配合油の約0.1重量%から約10重量%までを構成し、カルシウム過塩基化清浄剤、マグネシウム過塩基化清浄剤及びナトリウム過塩基化清浄剤の相対量はカルシウム過塩基化清浄剤が完全配合油の全TBNの約8%から約42%までに寄与し、一方、マグネシウム過塩基化清浄剤及びナトリウム過塩基化清浄剤が夫々全TBNの約29%から約60%まで及び約15%から約64%までに寄与するような量である。」[第3欄第25?63行] c.「【0016】 …ベース潤滑油及び過塩基化清浄剤の3金属混合物(これらは必須成分である)、並びに中性石鹸(これは好ましい成分である)に加えて、本発明の潤滑油組成物は典型的には一種以上の任意成分、例えば、無灰窒素含有分散剤、無灰窒素含有分散剤粘度改良剤、耐磨耗剤及び酸化防止剤、補充分散剤、安定剤、…、摩擦改良剤、防錆剤、消泡剤、解乳化剤、及び流動点降下剤等を含む。」[第6欄第62行?第7欄第6行] 」 d.「【0021】 窒素含有無灰分散剤の好ましいグループは無水コハク酸基で置換され、ポリエチレンアミン(例えば、テトラエチレンペンタミン)又はアミノアルコール及び必要により付加的な反応体、例えば、アルコールと反応させられたポリイソブチレンから誘導されたものを含む。 窒素含有分散剤は種々の通常の後処理、例えば、一般に米国特許第3,087,936号及び同第3,254,025号に教示されているようなボレーションにより更に後処理し得る。これはアシル窒素含有分散剤を酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸及びホウ酸のエステルからなる群から選ばれたホウ素化合物でアシル窒素組成物の窒素の夫々の原子部分についてホウ素の約0.1原子部分からアシル窒素組成物の窒素の夫々の原子部分についてホウ素の約20原子部分を与える量で処理することにより容易に行なわれる。 ボレーションは約0.05?4重量%、例えば、1?3重量%(アシル窒素化合物の重量を基準とする)のホウ素化合物、好ましくはホウ酸を通常スラリーとしてアシル窒素化合物に添加し、135℃から190℃まで、例えば、140℃-170℃で1?5時間にわたって攪拌しながら加熱し、続いて窒素ストリッピングすることにより容易に行なわれる。」[第8欄第66行?第9欄第22行] e.「【0023】 潤滑油組成物に混入し得る耐磨耗剤及び酸化防止剤として、例えば、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩が挙げられ、その金属はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、又は亜鉛、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルもしくは銅であってもよい。亜鉛塩が潤滑油組成物の合計重量を基準として約0.1重量%から約10重量%、好ましくは0.2?2重量%の量で潤滑油中に最も普通に使用される。これらの塩は既知技術に従って通常一種以上のアルコールまたはフェノールとP_(2)S_(5)の反応により最初にジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を生成し、次いで生成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することにより調製し得る。亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートは混合DDPAからつくられ、これは順に混合アルコールからつくられてもよい。また、多種亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートがつくられ、続いて混合し得る。 【0024】 本発明に有益な好ましい亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートはジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、そのヒドロカルビル部分は1個から18個まで、好ましくは2個から12個までの炭素原子を含む同じ又は異なるヒドロカルビル基であってもよく、またアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルカリール基及び脂環式基を含んでもよい。特に好ましいヒドロカルビル基は2個から8個までの炭素原子のアルキル基であり、例えば、エチル、n-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、アミル、n-ヘキシル、n-オクチル、及び2-エチルヘキシルを含む。油溶性を得るために、ジチオリン酸中の炭素原子の合計数は一般に約5個以上であろう。本発明の組成物中に使用される場合、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩の量は完全配合モーターオイルが約0.1重量%未満のリン、好ましくは約0.08重量%のリン、更に好ましくは約0.06重量%未満のリンを含むように制限されるべきである。」[第9欄第48行?第10欄第15行] f.「【0032】 (実施例) 実施例1 一連のクランクケース潤滑剤配合物(候補油)を表1に示された添加剤を潤滑粘度のベースオイルとブレンドすることにより調製した。種々の候補油は一種以上の金属清浄剤を除いて同じであった。候補油の夫々のリン含量は完全配合油の重量を基準として約0.09重量%から0.1重量%までであった。 候補油の夫々をSAE 932837に記載されたように熱酸化エンジンオイルシミュレーション試験(TEOST)にかけた。約2時間の試験中に、夫々の油を116mlの反応器から約0.8mlの充填デポジター容積を有するデポジターロッドの環中に0.49ml/分の速度で循環した。反応器を全試験期間中に100℃に保ち、デポジターロッドを下記のプログラムスケジュールに従って12サイクル中に加熱した。 【0033】 サイクル1は工程0-5を1回経過し、サイクル2-12は工程1-5を11回経過した。夫々のサイクルは9.5分を要し、合計試験時間は114分であった。 TEOSTに使用した装置は候補油、ギヤポンプ、高温(デポジター)ゾーン、及びディスク型油フィルターを保持する反応器を含んでいた。反応器中の油を連続攪拌し、温度を熱伝対により監視した。デポジターロッドは微細に仕上げられた表面を有する1018鋼製であった。デポジターロッド及びケーシング/ロッド環中の候補油への熱の主要源はデポジターロッドの端部に適用される低電圧、高アンペアの抵抗加熱であった。夫々の試験実験に使用される材料は候補油、候補油に添加された100ppmの鉄ナフテネート酸化触媒、空気(水中を3.6ml/分の速度で反応器に流入された)及びN_(2)0(水中を3.6ml/分の速度で反応器に流入された)であった。夫々12サイクル試験実験の完結後に、デポジターロッド上に形成された付着物を計量したところ、0.1mg以内であった。形成されたが、デポジターロッドに接着しなかった付着物、又は夫々の試験実験中に遊離した付着物を油フィルターでトラップした。また、トラップしたフィルター付着物を計量したところ、0.1mg以内であった。TEOSTに合格する所定の試験実験について、回収した付着物の合計重量は60mg未満である必要がある。夫々の試験実験について、ロッド付着物の重量、フィルター付着物の重量、及びロッドデポジター付着物+フィルター付着物の合計重量を表1に示す。 【0034】 【表1】 【0035】 表1中のデータからわかるように、全ての候補油が合計60mg未満の付着物を生じた。それ故、全ての油が許容される(合格)TEOST結果を達成した。しかしながら、Mg-Ca-Na3金属清浄剤混合物を含む候補油(実験番号7)は最小のロッド付着物、最小のフィルター付着物、及び最小の合計付着物をもたらすことがわかった。一種の金属清浄剤(実験番号1-3)又はいずれの2金属清浄剤混合物(実験番号4-6)のみを含む候補油について観察された結果と較べた場合、3金属清浄剤混合物について観察されたはるかに優れた結果は全く予期されなかった。」[第12欄第57行?第14欄第58行] (2)引用例に記載された発明 引用例には、TEOST等のエンジン付着物性能要件(摘記a)を満たす潤滑油組成物として、カルシウム含有過塩基化清浄剤、マグネシウム含有過塩基化清浄剤及びナトリウム含有過塩基化清浄剤を含み(摘記b)、無灰窒素含有分散剤、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート等の耐摩耗剤及び酸化防止剤を含んでよい(摘記c?e)潤滑油組成物が記載されており、当該潤滑油組成物程にTEOSTエンジン付着物性能において優れたものではないが、許容される(合格)TEOSTエンジン付着物性能を有する潤滑油組成物として、カルシウム含有過塩基化清浄剤、ナトリウム含有過塩基化清浄剤等を含む潤滑油組成物が記載されている(摘記fの【表1】の実験番号6等参照。)。 よって、摘記fの【表1】の実験番号6の記載等からみて、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「400TBN Caスルホネート清浄剤 0.31重量% 400TBN Naスルホネート清浄剤 0.31重量% ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤 2.8 重量% 希釈油 10.61重量% 24TBN 中性石鹸 0.14重量% シリコーン消泡剤 0.002重量% 摩擦改良剤 0.15重量% 酸化防止剤 0.85重量% 亜鉛ジアルキルジチオホスフェート 0.86重量% 流動点降下剤 0.08重量% 解乳化剤 0.004重量% 粘度指数改良剤 0.5重量% 原料鉱油 82.65重量% からなる潤滑油組成物」 (3)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「原料鉱油 82.65重量%」は、潤滑油組成物に用いられていることからみて潤滑粘性を有するものと認められるから、本願発明の「主要量の潤滑粘性のあるオイル」に相当する。 イ 引用発明の「 400TBN Caスルホネート清浄剤 0.31重量% 400TBN Naスルホネート清浄剤 0.31重量% ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤 2.8 重量% 希釈油 10.61重量% 24TBN 中性石鹸 0.14重量% シリコーン消泡剤 0.002重量% 摩擦改良剤 0.15重量% 酸化防止剤 0.85重量% 亜鉛ジアルキルジチオホスフェート 0.86重量% 流動点降下剤 0.08重量% 解乳化剤 0.004重量% 粘度指数改良剤 0.5重量%」 は、本願発明の「添加剤系」に相当する。 そして、引用発明の「 400TBN Caスルホネート清浄剤 0.31重量% 400TBN Naスルホネート清浄剤 0.31重量% ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤 2.8 重量% 希釈油 10.61重量% 24TBN 中性石鹸 0.14重量% シリコーン消泡剤 0.002重量% 摩擦改良剤 0.15重量% 酸化防止剤 0.85重量% 亜鉛ジアルキルジチオホスフェート 0.86重量% 流動点降下剤 0.08重量% 解乳化剤 0.004重量% 粘度指数改良剤 0.5重量%」 に含有される、「400TBN Caスルホネート清浄剤」、「400TBN Naスルホネート清浄剤」は、本願発明の「(A-1)少なくとも1種のカルシウムオーバーベース化清浄剤」、「(A-2)少なくとも1種のアルカリ金属オーバーベース化清浄剤」に相当し、その全塩基価の比は、400TBNのスルホン酸ナトリウム及び400TBNのスルホン酸カルシウムを、それぞれ、0.31重量%及び0.31重量%含有し、該400TBNのスルホン酸ナトリウムアルカリ金属清浄剤が寄与する100あたりTBNおよび希釈剤なし基準での全塩基価と該400TBNのスルホン酸カルシウムとの比は、400TBN×(0.31重量%)=1.24TBN:400TBN×(0.31重量%)=1.24TBN、すなわち、50:50と認められるから、引用発明の「 400TBN Caスルホネート清浄剤 0.31重量% 400TBN Naスルホネート清浄剤 0.31重量%」は、本願発明の 「(A-1)少なくとも1種のアルカリ金属オーバーベース化清浄剤および (A-2)少なくとも1種のカルシウムオーバーベース化清浄剤、 ここで、該アルカリ金属清浄剤が寄与する100あたりTBNおよび希釈剤なし基準での全塩基価と該カルシウム清浄剤が寄与する全塩基価との比は、(99.5?20):(0.5?80)の範囲である」と 「(A-1)少なくとも1種のアルカリ金属オーバーベース化清浄剤および (A-2)少なくとも1種のカルシウムオーバーベース化清浄剤、 ここで、該アルカリ金属清浄剤が寄与する100あたりTBNおよび希釈剤なし基準での全塩基価と該カルシウム清浄剤が寄与する全塩基価との比は、50:50である」において重複する。 ウ 「ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤」は「スクシンイミド分散剤」と認められるから、引用発明の「 ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤 2.8 重量%」は、本願発明の「(B)1?10重量%のスクシンイミド分散剤」と「(B)2.8重量%のスクシンイミド分散剤」において重複する。 エ 「亜鉛ジアルキルジチオホスフェート」が、本願発明の【化1】の化学式で表されることは技術常識である(摘記e参照。摘記eの【0024】には、亜鉛ジアルキルジチオホスフェートのヒドロカルビル(アルキル)部分、すなわち、本願発明の【化1】(略)の化学式のR^(1)、R^(2)に相当する部分が1?18の炭素原子を有することも記載されている。そのほかに、「亜鉛ジアルキルジチオホスフェート」が本願発明の【化1】(略)の化学式で表されることについて、例えば、「トライボロジー叢書1 新版 潤滑の物理化学」桜井俊男著(幸書房)昭和58年4月15日発行、第249頁の表13.4の「ジアルキルジチオリン酸塩」参照。)から、引用発明の「亜鉛ジアルキルジチオホスフェート 0.86重量%」は、本願発明の「(C)0.1?5重量%の次式のジヒドロカルビルジチオリン酸金属: 【化1】(略) ここで、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、3個?13個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、Mは、金属であり、そしてnは、Mの原子価に等しい整数である」と、 「(C)0.86重量%の次式のジヒドロカルビルジチオリン酸金属: 【化1】(略) ここで、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、3個?13個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、Mは、金属であり、そしてnは、Mの原子価に等しい整数である」において重複する。 オ 本願発明の潤滑油組成物は「…含有する…潤滑油組成物であって」との発明特定事項からみて、ほかの成分が含有されることを許容するものであるから、引用発明の「 希釈油 10.61重量% 24TBN 中性石鹸 0.14重量% シリコーン消泡剤 0.002重量% 摩擦改良剤 0.15重量% 酸化防止剤 0.85重量% 流動点降下剤 0.08重量% 解乳化剤 0.004重量% 粘度指数改良剤 0.5重量%」は、本願発明と引用発明との相違点とならないものである。 カ 以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、 「主要量の潤滑粘性のあるオイルおよび添加剤系を含有する、潤滑油組成物であって、該添加剤系は、以下を含有する: (A)0.62重量%の清浄剤組成物であって、該清浄剤組成物は、2種の金属オーバーベース化組成物を含有し、 ここで、該清浄剤組成物は、以下からなる: (A-1)アルカリ金属オーバーベース化清浄剤および (A-2)カルシウムオーバーベース化清浄剤、 ここで、該アルカリ金属清浄剤が寄与する100あたりTBNおよび希釈剤なし基準での全塩基価と該カルシウム清浄剤が寄与する全塩基価との比は、50:50の範囲である; (B)2.8重量%のスクシンイミド分散剤;および (C)0.86重量%の上記式のジヒドロカルビルジチオリン酸金属である、潤滑油組成物」 である点で一致し、次の点で一応相違する。 相違点: 本願発明は、潤滑油組成物が、「内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするための」ものであるのに対して、引用発明は、そのようなものであるか否か明らかでない点。 (4)相違点の検討 引用発明は、内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくすることを発明特定事項とするものではないが、引用発明は、本願発明の潤滑油組成物の組成についての発明特定事項を満たすものであって(上記(3)参照。)、潤滑油組成物自体としては同様のものと認められることを考慮すると、引用発明と同様の属性、すなわち、内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするという属性、を有するものと認められる。 また、本願発明の「内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするための」ものであるという属性は、アルカリ金属オーバーベース化清浄剤、カルシウムオーバーベース化清浄剤等の過塩基性清浄剤に窒素酸化物を中和除去する属性があることが技術常識と認められること(例えば、「トライボロジー叢書2 新版 潤滑剤の実用性能」桜井俊男監修(幸書房)昭和55年12月25日発行、第53?57頁「4.4.4 清浄分散剤」には、「清浄分散剤の役割は次のように分類することができる。…3.中和作用…窒素酸化物の中和…」と記載ている。)を考慮すると、アルカリ金属オーバーベース化清浄剤、カルシウムオーバーベース化清浄剤を併用したものについても、窒素酸化物の排出量を少なくする属性があることは、当業者が技術常識から予測し得たことであり、未知の属性といえるものとは認められない。 仮に、本願発明の「内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするための」ものである点が、未知の属性を発見したものであったとしても、本願発明の潤滑油組成物も、引用発明の潤滑油組成物も、内燃機関(エンジン)用の潤滑油組成物として利用されるものであって、内燃機関の排気に通常窒素酸化物が量の多寡はあるとしても含有される可能性があるものであることが技術常識であることを考慮すると、本願発明は「内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするための」との発明特定事項を付加しても、引用発明と比べて、潤滑油組成物として新たな用途を提供するものとはいえない。 よって、本願発明において、潤滑油組成物を「内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするための」ものとする点は、実質的な相違点とは認められない。 (5)請求人の主張について 請求人は、平成25年1月29日付け回答書、及び、平成25年8月27日付け意見書において次の点を主張する。 「存在する金属の比のみを見た場合、引用文献2の処方物は、本願の請求項の制限に従います。しかし、本願の請求項1は、「内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするための」潤滑油組成物であることを規定しています。引用文献2は、…本願発明の2つの金属潤滑剤が、有用であることは示唆しません。この違いは請求項に対して新規性を与えるものです。本願発明の予期しない性質を示すことは、平成23年5月18日提出の意見書、平成24年5月30日の審判請求書、平成25年1月29日の回答書に示されています。」(平成25年8月27日付け意見書第3頁) 「本願明細書の段落[0250]([表1])において、本願発明の潤滑剤と比較例の潤滑剤を比較しています。比較例は、実施例(A)-1の生成物6.8部を、マグネシウムオーバーベース化アルキルベンゼンスルホン酸塩の68%オイル溶液5.2部で置き換えたものです。 この表1において、ベースラインに対する燃料消費の低下%の値から、本願発明の潤滑剤Iは、ベースラインと比較して、97.59%の燃料を消費しているのに対して、比較潤滑剤Iは、98.52%消費していることが示されています。本願発明の潤滑剤Iが、比較潤滑剤Iに対して、0.93%分の燃料消費を低下させています。つまり、この表1において、本願発明の潤滑剤Iは、比較潤滑剤Iに対して0.94%(=0.93/98.52)の割合だけ燃料消費を低下させています。このとき、NOx排気の3-Bag Compositeは、本願発明の潤滑剤Iが0.22であり、比較潤滑剤Iでは0.28です。(0.28-0.22)/0.28=0.21であり、本願発明の潤滑剤Iは、比較潤滑剤Iに対してNOxの排気を21%減少させています。単に燃料消費が低下した以上に窒素酸化物の排気を減少させています。このような効果は引用文献から容易に予測できるものではありません。」(平成25年1月29日付け回答書第7頁) 以上の主張は、本願の請求項1は、「内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするための」潤滑油組成物であることを規定しているのに対して、引用文献2は、本願発明の2つの金属潤滑剤が、斯かる有用性を有することを示唆しないから、本願発明は新規性を有するものであり、窒素酸化物の排気を減少させる等の予期しない性質を示すことはこれまでに提出した意見書、審判請求書、回答書に示したとおりであること、等を主張するものと認められる。 そこで、斯かる主張の妥当性について検討する。 上記(4)に記載したとおり、引用発明(上記の請求人の主張における引用文献2に開示された発明である。)は、本願発明と同様の組成を有するものであって、窒素酸化物の排気を減少する機能を有するものと認められるから、「内燃機関の窒素酸化物の排気を少なくするための」ものであることを規定したとしても、それによって潤滑組成物として相違するとは認められない。 なお、平成25年1月29日付け回答書における上記の主張は、本願発明が同様の組成を有する引用発明に比べて予期しない属性を有することを主張するものではないから、新規性の判断を左右するとはいえないものである。 そもそも、上記(4)においても記載したようにアルカリ金属オーバーベース化清浄剤、カルシウムオーバーベース化清浄剤等の過塩基性清浄剤に窒素酸化物を中和除去する作用があることは、技術常識と認められ、過塩基性清浄剤を2種以上併用することも、例えば、引用文献2に記載されるように、周知の技術と認められるから、本願発明の潤滑組成物が窒素酸化物の排気を減少させる等の機能を有するとしても、当業者が予期しない属性を有するとは認められないものである(なお、平成25年8月27日付け誤訳訂正書によって、実施例Iの記載が、「(実施例I) 実施例(B)-13の分散剤57.5%、実施例(C)-10のジチオリン酸亜鉛9.2部、ジ(ノニルフェニル)アミン2.52部、硫化C_(12-18)オレフィン7部、2,6-ジ第三級ブチル-4-(プロピレンテトラマー)フェノール5部、実施例(A)-2の生成物4.6部、実施例(A)-1の生成物6.8部、シリコーン消泡剤の灯油溶液0.09部、および添加剤濃縮物100部を製造するのに十分な鉱油を含有する添加剤濃縮物10部を、ポリメタクリレート流動点降下剤0.13部、エチレン-プロピレン重合体粘度向上剤0.74%および全体で100部の潤滑油組成物を製造するための鉱油ベースストック(Chevron RLOP 100N)と組み合わせることにより、エンジン潤滑油組成物を調製する。」(下線部は、当審が付したものである。)と訂正されているが、本願の原文(Example I An engine lubricating oil composition is prepared by combining 10 parts of an additive concentrate containing 57.5% of the dispersant of Example (B)-13, 9.2 parts of the zinc dithiophosphate of Example (C)-10, 2.52 parts of di(nonylphenyl) amine, 7 parts sulfurized C _(12- 1 8) olefin, 5 parts 2,6-di tertiary butyl-4-(propylene tetramer) phenol, 4.6 parts of the product of Example (A)-2, 6.8 parts of the product of Example (A)-l, 0.09 parts of a kerosene solution of a silicone antifoam agent, and sufficient mineral oil to make 100 parts additive concentrate, with 0.13 parts of a polymethacrylate pour point depressant, 0.74% of an ethylene-propylene polymer viscosity improver and a mineral oil basestock (Chevron RLOP 100N) to make a total of 100 parts of lubricating oil composition.」(実施例(B)-13の分散剤57.5%を含有する添加剤濃縮物10部、実施例(C)-10のジチオリン酸亜鉛9.2部、ジ(ノニルフェニル)アミン2.52部、硫化C_(12-18)オレフィン7部、2,6-ジ第三級ブチル-4-(プロピレンテトラマー)フェノール5部、実施例(A)-2の生成物4.6部、実施例(A)-1の生成物6.8部、シリコーン消泡剤の灯油溶液0.09部、および添加剤濃縮物100部を製造するのに十分な鉱油を、ポリメタクリレート流動点降下剤0.13部、エチレン-プロピレン重合体粘度向上剤0.74%および全体で100部の潤滑油組成物を製造するための鉱油ベースストック(Chevron RLOP 100N)と組み合わせることにより、エンジン潤滑油組成物を調製する。)(平成14年6月11日付けで提出され翻訳文参照。).下線部は、当審が付したものである。)と比べると、原文では、「添加剤濃縮物10部」が「実施例(B)-13の分散剤57.5%を含有する」のみを修飾するのに対し、平成25年8月27日付け誤訳訂正書では、「添加剤濃縮物10部」が「実施例(B)-13の分散剤57.5%、実施例(C)-10のジチオリン酸亜鉛9.2部、ジ(ノニルフェニル)アミン2.52部、硫化C_(12-18)オレフィン7部、2,6-ジ第三級ブチル-4-(プロピレンテトラマー)フェノール5部、実施例(A)-2の生成物4.6部、実施例(A)-1の生成物6.8部、シリコーン消泡剤の灯油溶液0.09部、および添加剤濃縮物100部を製造するのに十分な鉱油を含有する」全体を修飾するものとなっていると解され、適切な訂正文といえず、実施例Iを本願発明の実施例としてその効果を参酌できるに足りると認められない可能性のあるものである。)。 よって、請求人の主張は妥当なものとは認められない。 (6)まとめ よって、本願発明は、引用発明と同一の発明と認められる。 5 むすび 以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本件出願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-10-28 |
結審通知日 | 2013-10-29 |
審決日 | 2013-11-11 |
出願番号 | 特願2001-545497(P2001-545497) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(C10M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中野 孝一、田名部 拓也 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
小石 真弓 菅野 芳男 |
発明の名称 | バイメタル清浄剤系を含む潤滑剤およびそれを使用してNOx排気を少なくする方法 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 安村 高明 |
代理人 | 山本 秀策 |