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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1286267
審判番号 不服2013-17628  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-11 
確定日 2014-04-15 
事件の表示 特願2008- 94008「固体電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月22日出願公開、特開2009-246289、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年3月31日に出願したものであって、手続きの概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成24年 8月28日(起案日)
意見書 :平成24年11月 5日
手続補正 :平成24年11月 5日
拒絶査定 :平成25年 6月 5日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年 9月11日

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明は、平成24年11月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「 【請求項1】
陽極電極箔と陰極電極箔とを、合成繊維を主体とする不織布からなるセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、重合性モノマーと酸化剤とを含浸して化学重合反応により生成した固体電解質を前記セパレータで保持した固体電解コンデンサにおいて、
前記コンデンサ素子に含まれる硫酸イオンの濃度が150ppm以下である固体電解コンデンサ。」

第3 原査定の理由の概要

この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開平10-340829号公報
刊行物2:特開2002-43181号公報

刊行物2には、固体電解コンデンサについては明記されていないものの、硫酸イオンが電極箔を腐食して漏れ電流を増加させる問題は、電解液を用いた電解コンデンサに特有のものではなく、固体電解コンデンサにおいても同様な課題を有するものであると認められこと(例えば、特開2004-303940号公報(以下「刊行物3」という。)(第13段落)には、固体電解コンデンサにおいて、残留イオンにより漏れ電流が増加する点が記載されている)から、刊行物1の発明と刊行物2の発明とを組み合わせることは、容易になし得ることと認められる。
そして、刊行物1の固体電解コンデンサに用いられるセパレータは、マニラ紙等の紙繊維を混抄した不織布に代表される合成繊維を主体としたセパレータ(第24段落)で、紙繊維が混抄されたものであるから、硫酸イオンを低減させる刊行物2記載の技術を採用して、本願発明とすることは、容易になし得ることにすぎない。

第4 当審の判断

1.引用例

刊行物1には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【請求項1】 陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを含浸して化学重合反応により生成したポリエチレンジオキシチオフェンをセパレータで保持した固体電解コンデンサにおいて、セパレータに、合成繊維を主体とする不織布を用いた固体電解コンデンサ。」

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、固体電解コンデンサおよびその製造方法にかかり、特に導電性高分子を電解質に用いた固体電解コンデンサに関する。」

(3)「【0020】そこでこの発明は、巻回型のコンデンサ素子の内部に、緻密で均一な導電性高分子からなる固体電解質層を生成し、電気的特性に優れかつ大容量の固体電解コンデンサを得ることを目的としている。
【0021】
【課題を解決するための手段】この発明は、陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを含浸して化学重合反応により生成したポリエチレンジオキシチオフェンをセパレータで保持した固体電解コンデンサにおいて、セパレータに、合成繊維を主体とする不織布を用いたことを特徴としている。」

上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを含浸して化学重合反応により生成したポリエチレンジオキシチオフェンをセパレータで保持した固体電解コンデンサにおいて、セパレータに、合成繊維を主体とする不織布を用いた固体電解コンデンサ。」

刊行物2には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(4)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は陽極箔と陰極箔との間に電解紙を介在させて構成した電解コンデンサに関し、特には不純物が非常に少ない新規な電解紙を使用することにより、長時間使用しても電解液への不純物成分の溶出量を少なくして特性が劣化せず、信頼性及び寿命特性に優れた電解コンデンサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に電解コンデンサ、特にアルミ電解コンデンサは陽極アルミ箔と陰極アルミ箔との間に電解紙を巻付け形成してコンデンサ素子を作成し、このコンデンサ素子を液状の電解液中に浸漬して電解質を含浸させ、封口して製作している。電解液としては通常エチレングリコール(EG)、ジメチルホルムアミド(DMF)又はγ-ブチロラクトン(GBL)等を溶媒とし、これらの溶媒に硼酸やアジピン酸アンモニウム、マレイン酸水素アンモニウム等の有機酸塩を溶解した電解液を用いてコンデンサ素子の両端から浸透させて製作している。」

(5)「【0012】そこで本発明は、電解紙の原料として無塩素法によって漂白されたパルプを配合することによって硫酸イオン及び塩素イオンなどの腐食性イオンを低減し、白色度を高めるとともに安価で高信頼性かつ寿命特性の良好な電解コンデンサを得ることを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を達成するために、陽極箔と陰極箔との間に電解紙を介在させてなる電解コンデンサにおいて、該電解紙の原料として、無塩素法による漂白によって腐食性イオンを低減させたパルプを使用することを基本手段とする。また、電解紙の原料として、無塩素法による漂白と、漂白後の洗浄によって腐食性イオンである硫酸イオンを低減させたパルプを使用する。」

刊行物3には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(6)「【発明の属する技術分野】
本発明は各種電子機器に利用される巻回形の電解コンデンサに関するものである。」

(7)「【0013】
また、脱ドープしにくいp-トルエンスルホン酸第二鉄などの金属イオンの酸化-還元作用を有する遷移金属系酸化剤兼ドーパント剤を用いて3,4-エチレンジオキシチオフェンなどを化学酸化重合して固体電解コンデンサを得る方法も知られているが、この構成のコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸させて電解コンデンサを構成した場合、残留する金属イオン成分が駆動用電解液中での電気化学反応により溶解-析出し、電解コンデンサの漏れ電流を増大させるなどの不具合があり、また、この駆動用電解液を含浸しないで固体電解コンデンサを構成したとしても、高湿度の雰囲気下で使用した場合、封口部より進入する水分の影響により、残留する金属イオン成分が水中での電気化学反応により溶解-析出して、やはり固体電解コンデンサの漏れ電流を増大させてなるなどの不具合がある。」

2.対比

そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)重合性モノマー
引用発明の「3,4-エチレンジオキシチオフェン」は、「重合性モノマー」に含まれる。

(2)固体電解質
引用発明の「ポリエチレンジオキシチオフェン」は、「固体電解質」に含まれる。

(3)コンデンサ素子に含まれる硫酸イオンの濃度
引用発明の「コンデンサ素子」は、合成繊維を主体とする不織布を用いたセパレータの製造工程に由来する硫酸イオンを含有すると考えられるものの、引用発明は、その濃度について特定がない。
したがって、本願発明と引用発明とは、「コンデンサ素子に含まれる硫酸イオンの濃度」について、本願発明は、「150ppm以下である」のに対し、引用発明は、特定がない点で相違する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「陽極電極箔と陰極電極箔とを、合成繊維を主体とする不織布からなるセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、重合性モノマーと酸化剤とを含浸して化学重合反応により生成した固体電解質を前記セパレータで保持した固体電解コンデンサ。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

「コンデンサ素子に含まれる硫酸イオンの濃度」について、本願発明は、「150ppm以下である」のに対し、引用発明は、特定がない点。

3.判断

そこで、上記相違点について検討する。

刊行物2には、電解液を用いる電解コンデンサにおいて、電解紙の原料として、無塩素法による漂白によって腐食性イオンである硫酸イオンを低減させたパルプを使用することが記載されている(摘示事項(4)、(5))。
しかしながら、刊行物2に記載された上記技術的事項は、電解液を用いる電解コンデンサにおける電解紙の原料であるパルプに含まれる硫酸イオンを低減させるものであるから、合成繊維を主体とする不織布からなるセパレータを用いる固体電解コンデンサである引用発明に適用することができない。

刊行物3には、脱ドープしにくいp-トルエンスルホン酸第二鉄などの金属イオンの酸化-還元作用を有する遷移金属系酸化剤兼ドーパント剤を用いて3,4-エチレンジオキシチオフェンなどを化学酸化重合して得た固体電解コンデンサを、高湿度の雰囲気下で使用した場合、封口部より進入する水分の影響により、残留する金属イオン成分が水中での電気化学反応により溶解-析出して、固体電解コンデンサの漏れ電流を増大させてなるなどの不具合があることが記載されている(摘示事項(7))。
しかしながら、刊行物3に記載された上記技術的事項は、p-トルエンスルホン酸第二鉄などの金属イオンの酸化-還元作用を有する遷移金属系酸化剤兼ドーパント剤に由来する金属イオンがもたらす不具合を指摘するものであるから、引用発明において、「コンデンサ素子に含まれる硫酸イオンの濃度」を低く抑える動機付けにはならない。

したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2、3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2、3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-04-02 
出願番号 特願2008-94008(P2008-94008)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小山 和俊  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 萩原 義則
関谷 隆一
発明の名称 固体電解コンデンサ  
代理人 木内 光春  

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