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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1286289
審判番号 不服2012-19573  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-05 
確定日 2014-03-26 
事件の表示 特願2004-363776「希土類及び第IIIB族金属の酸化物を含む改善したユーロピウム活性化蛍光体及びそれを作る方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 2日出願公開、特開2005-232436〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成16年12月16日(パリ条約による優先権主張 2004年2月17日 米国(US))の出願であって、平成23年2月28日付けで拒絶理由が通知され、同年9月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年5月31日に拒絶査定がされ、これに対し、同年10月5日に審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成25年2月15日付けで審尋がされたが、回答書は提出されなかったものである。

第2 本願発明
この出願の特許を受けようとする発明は、平成24年10月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」といい、特定事項を(A)?(D)に分説した。)。
「(A):(Gd_(1-x-y)Y_(x)La_(y))(Al_(1-z-v)Ga_(z)In_(v))O_(3):Eu^(3+)の化学式を有し、ここで、0≦x,y≦1、0≦x+y≦1、0≦z<1の場合0<v<1及び0≦v<1の場合0<z<1であってz及びvの各々が1未満、かつ1-z-vとzとvとの少なくとも2つがゼロよりも大である化合物を含み、
(B):UV線を吸収しかつ580nm?770nmの可視波長域で発光することができるユーロピウム活性化酸化物蛍光体であって、
(C):ユーロピウムが0.0005?20モルパーセントの量で存在し、
(D):該蛍光体が254nmの波長における励起UV線の少なくとも80パーセントを吸収することができる、蛍光体。」

第3 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成23年 5月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?3によって、拒絶をすべきものである。」というものであり、その理由3の概要は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものである。

第4 当審の判断
1 特許請求の範囲に記載された発明
特許請求の範囲の請求項1に記載された発明、すなわち、本願発明は、上記「第2」に示すとおりのものであるから、特定の式を満たす化合物(以下、「ホスト化合物」という。)を含み(特定事項A)、ユーロピウム(以下、「賦活体」ともいう。)が特定量で存在する(特定事項C)物質であって、UV線を吸収しかつ特定範囲の可視波長域で発光することができ(特定事項B)、254nmの波長における励起UV線の少なくとも80パーセントを吸収することができる(特定事項D)という特性を有する、「ユーロピウム活性化酸化物蛍光体」の発明であるといえる。

2 発明の詳細な説明の記載
この出願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、三価ユーロピウムにより活性化され、改善した量子効率を有する希土類及び第IIIB族金属の酸化物を含む蛍光体に関する。具体的には、本発明は、紫外波長において改善した吸収性を有する蛍光体に関する。本発明はさらに、このような蛍光体を含む蛍光ランプに関する。」
「【0005】
通常は、低圧水銀蛍光ランプは、254nmに近い紫外域で吸収しかつ青色、緑色及び赤色の領域で発光する3種の蛍光体のブレンドを用いる。発光色はブレンドされて、白色光になる。通常用いられる赤色発光蛍光体は、Y_(2)O_(3):Eu^(3+)であり、100%に近い量子効率を有する。しかしながら、この蛍光体は、高価である非常に高い純度のY_(2)O_(3)を必要とする。

【0006】
従って、製造するのが安価なUV吸収の赤色発光蛍光体を得ることに対する必要性が引き続き存在する。さらに、高い量子効率を有するUV吸収赤色発光蛍光体を得ることが非常に望ましい。」
「【0007】
本発明は、約200nm?約400nmの範囲の波長を有する電磁(「EM」)放射線により励起可能な三価ユーロピウムで活性化された周期律表における希土類及び第IIIB族金属の酸化物を含み、約580nm?約770nmの波長域の可視光を効率的に放出する蛍光体を提供する。本発明の酸化物蛍光体は、改善した量子効率が得られる方法によって製造される。」
「【0008】
本発明の1つの態様によると、酸化物蛍光体は、(Gd_(1-x-y)Y_(x)La_(y))(Al_(1-z-v)Ga_(z)In_(v))O_(3):Eu^(3+)の化学式を有し、ここで、0≦x,y,z,v≦1、0≦x+y≦1及び0≦z+v≦1である。
【0009】
本発明の別の態様によると、酸化物蛍光体は、(Gd_(1-x-y)Y_(x)La_(y))(Al_(1-z-v)Ga_(z)In_(v))O_(3):Eu^(3+)の化学式を有し、ここで、0≦x,y≦1、0≦x+y≦1、0≦z<1の場合0<v<1及び0≦v<1の場合0<z<1の前提でz及びvの各々が1未満、かつ1-z-vとzとvとの少なくとも2つがゼロよりも大である。」
「【0016】
本発明の別の態様によれば、この酸化物蛍光体は、(Gd_(1-x-y)Y_(x)La_(y))(Al_(1-z-v)Ga_(z)In_(v))O_(3):Eu^(3+)、ここで、0≦x,y≦1、0≦x+y≦1、0≦z<1の場合0<v<1及び0≦v<1の場合0<z<1の前提でz及びvの各々が1未満、かつ1-z-vとzとvとの少なくとも2つがゼロよりも大である化学式を有する。ユーロピウム活性化剤は、約0.0005?約20モルパーセント、好ましくは約0.0005?約10モルパーセント、より好ましくは約0.001?約5モルパーセントの量で存在する。」
「【0024】

実施例
Gd_(2)O_(3)(37.11g)、Eu_(2)O_(3)(1.90g)、Al_(2)O_(3)(9.89g)、及びAlF_(3)(1.81g)の量を、ZrO_(2)媒質を用いて約4時間の間密に混合した。このAlF_(3)の量により、全アルミニウムは10原子パーセントとなった。この混合物を、箱形炉のアルミナ製るつぼ内で1250℃において5時間空気中で焼成した。蛍光体は、Gd_(0.95)Eu_(0.05)AlO_(3)の化学式を有していた。この蛍光体は、標準的な蛍光体(Y_(2)O_(3):Eu^(3+))の量子効率の約85?90パーセントの量子効率又は約75?80パーセントの絶対量子効率と、254nmにおける励起放射線の85パーセントの吸収性とを示した。比較すると、AlF_(3)がない状態での同じ化学式を有する蛍光体は、標準的な蛍光体の約70パーセントの量子効率と254nmにおける励起放射線の約70パーセントの吸収性とを示した。」
「【0025】
YAlO_(3):Eu^(3+)、LaPO_(4):Ce^(3+),Tb^(3+)、Sr_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)及びSr_(4)Al_(14)O_(25):Eu^(2+)からなる蛍光体ブレンドについてのスペクトル分光分布のシミュレーションが図4に示されており、蛍光体による複合スペクトルに対する寄与度は、それぞれ52.3%、26.5%、5.3%及び15.9%である。この蛍光体ブレンドにより、(0.38,0.38)のCIE色座標と、4000KのCCTと、278.4lpw(光点)の発光出力と、92.7のCRIとが得られる。」
「【0027】
【図1】本発明の方法によって製造された5パーセントの三価ユーロピウムにより活性化されたガドリニウムアルミニウム酸化物蛍光体の、254nmの励起の下での発光スペクトルを示す図。
【図2】10パーセントの三価ユーロピウムにより活性化されたイットリウムアルミニウム酸化物蛍光体の、254nmの励起の下での発光スペクトルを示す図。
【図3】イットリウムアルミニウム酸化物蛍光体のX線回折スペクトルを示す図。
【図4】YAlO_(3):Eu^(3+)、LaPO_(4):Ce^(3+),Tb^(3+)、Sr_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)及びSr_(4)Al_(14)O_(25):Eu^(2+)からなる蛍光体ブレンドのスペクトル分光分布を示す図。」

3 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・判断
ア 本願発明は、上記のとおり、特定事項Aの化学式を満たすホスト化合物、すなわち、Al、Ga、InよりなるIIIB属元素が少なくとも2種類以上であるホスト化合物と、特定事項Cの量を満たす賦活体よりなる蛍光体であって、特定事項B及び特定事項Dの特性を有する、すなわち、UV線を吸収しかつ特定範囲の可視波長域で発光することができ、254nmの波長における励起UV線の少なくとも80パーセントを吸収することができる、ユーロピウム活性化酸化物蛍光体に係る発明である。

イ これに対して、発明の詳細な説明には、本願発明の特定事項A、特定事項Cを満たす蛍光体について、一応の記載がされている(【0009】、【0016】)。
また、具体的な蛍光体として、本願発明の特定事項Cを満たすが、IIIB族元素が1種類である点で特定事項Aを満たさないGd_(0.95)Eu_(0.05)AlO_(3)含む蛍光体について、記載されている。
そして、この具体的な蛍光体のAl原料の一部をAlF_(3)とした場合の製造例、及び、その製造例によって得られたものが「標準的な蛍光体(Y_(2)O_(3):Eu^(3+))の量子効率の約85?90パーセントの量子効率又は約75?80パーセントの絶対量子効率」と「254nmにおける励起放射線の85パーセントの吸収性」を有し、原料の一部をAlF_(3)としない同じGd_(0.95)Eu_(0.05)AlO_(3)蛍光体が「標準的な蛍光体の約70パーセントの量子効率」と「254nmにおける励起放射線の約70パーセントの吸収性」を有することが記載され(【0025】)、さらに、図1には、「本発明の方法によって製造された5パーセントの三価ユーロピウムにより活性化されたガドリニウムアルミニウム酸化物蛍光体の、254nmの励起の下での発光スペクトル」が示されており(【0027】)、595nmや615nm、695nm付近に発光のピークが存在することが見て取れる。
そうすると、この具体的な蛍光体が、UV線を吸収しかつ特定範囲の可視波長域で発光することができることは明らかである。

ウ 本願発明は、この具体例の蛍光体と、蛍光活性を有するユーロピウムを含む物質である点で共通するから、本願発明も、UV線を吸収しかつ580nm?770nm程度の可視波長域で発光することができるものであること、すなわち、特定事項Bを満たすことについては、発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できる事項であると認められる。
しかし、この具体例の蛍光体は、その製造法によっては、254nmにおける励起放射線の吸収性が85パーセントであったり、70パーセントであったりするから、ホスト化合物において相違し、しかも、製造法について特定されない本願発明の蛍光体が、特定事項D、すなわち「254nmの波長における励起UV線の少なくとも80パーセントを吸収することができる」ことを満たすかは、発明の詳細な説明の記載、及び技術常識を参酌しても、当業者が認識できる事項とは認められない。

エ また、発明の詳細な説明には、化学式YAlO_(3):Eu^(3+)で表される化合物を含み、10パーセントの三価ユーロピウムにより活性化された蛍光体、すなわち、特定事項Cを満たす蛍光体についても記載されており(【0025】、図2?図4)、図2によると、この蛍光体も、254nmのUV線を吸収しかつ580nm?770nmの可視波長域で発光することができるものであることが理解できる。
しかし、この蛍光体も、IIIB族元素が1種類である点で特定事項Aを満たさないから、本願発明の具体例ではないし、発明の詳細な説明には、この蛍光体について、254nmの波長における励起放射線の吸収性が何%であるかについて、記載も示唆もないから、この具体例から本願発明の254nmにおける励起放射線の吸収性を窺い知ることもできない。

オ 以上によると、発明の詳細な説明に具体的に記載された蛍光体は、いずれも、本願発明の実施例ではないし、これらの具体例を含む発明の詳細な説明の全ての記載を参酌し、技術常識に照らしても、特定事項A?Dすべてを満たす発明、すなわち本願発明は記載されていない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載に記載した発明でないというべきである。

4 まとめ
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定は妥当であり、この出願は、同法第49条第1項第4号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-25 
結審通知日 2013-10-29 
審決日 2013-11-12 
出願番号 特願2004-363776(P2004-363776)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水島 英一郎  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 真々田 忠博
川端 修
発明の名称 希土類及び第IIIB族金属の酸化物を含む改善したユーロピウム活性化蛍光体及びそれを作る方法  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  

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