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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1286292
審判番号 不服2012-20563  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-19 
確定日 2014-03-26 
事件の表示 特願2007- 3159「研究の形式による自動的な検出器選出」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月26日出願公開、特開2007-185512〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年1月11日(パリ条約による優先権主張2006年1月13日,(US)米国)を出願日とする出願であって,平成24年7月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けにて手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。
さらに,平成25年5月14日付けで審尋がなされ,回答書が同年7月10日付けで請求人より提出されたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明(下線は補正箇所を示す。)
本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1は,
「 【請求項1】
X線システム(20)において無線検出器を選択する方法であって,前記X線システムがコンピュータ・システム(24)と,該コンピュータシステムと無線通信する一群(22)の様々なサイズの検出器の貯蔵装置(34)とを含んでおり,
前記方法が,
前記コンピュータ・システムに患者識別パラメータを入力する段階と,
前記コンピュータ・システムに,識別された前記患者について遂行すべきX線撮影の形式を入力する段階と,
前記コンピュータ・システムが,前記X線撮影の形式に基づいて前記一群の検出器からどの検出器を使用するかを関心のある領域全体を取得するほどに充分大きく,しかも患者の放射線被爆量を制限するほどに充分小さいものとなるように,1つの検出器を自動的に決定する段階と,
前記コンピュータ・システムが,選出された1つの選出検出器に作動信号を送信する段階と,
前記選出検出器が,前記コンピュータ・システムから前記作動信号を受け取る段階と,
前記選出検出器が,インジケータを作動する段階と,
を有している方法。」
と補正された。

本件補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記一群の検出器からどの検出器を使用するかを自動的に決定する段階」について「前記一群の検出器からどの検出器を使用するかを関心のある領域全体を取得するほどに充分大きく,しかも患者の放射線被爆量を制限するほどに充分小さいものとなるように,1つの検出器を自動的に決定する段階」と自動的に決定する検出器を限定した補正を含むものである。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年法改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物およびその記載事項(下線は当審で付与した。)
(1)本願の優先権主張日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2002-191586号(以下,「刊行物1」という。)には,「X線撮像装置及びこれらの通信方法」について,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
(1-ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,画像作成の複数画素から構成される固体撮像素子を使用し,特にケーブルレス撮像部を用いたX線撮像装置及びこれらの通信方法に関するものである。」

(1-イ) 「【0008】本発明の目的は,複数又は複数種のケーブルレスディジタルX線検出手段を使用する際の同期の取り方や,X線撮像システムとの通信の仕方を容易にするX線撮像装置及びこれらの通信方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明に係るX線撮像装置は,複数又は複数種の二次元放射線検出手段と,ワイヤレス通信可能な通信制御手段と,前記検出手段と前記通信制御手段との通信に必要な個別IDキーを割り付けるID付与手段とを有し,前記検出手段と前記通信制御手段とは機械的に接続可能であり,該接続の際に前記ID付与手段は前記個別IDキーを付与することを特徴とする。
【0010】また,本発明に係るX線撮像装置の通信方法は,複数又は複数種の二次元放射線検出手段と,ワイヤレス通信可能な通信制御手段とを備えたX線撮像装置において,前記検出手段と前記通信制御手段とが物理的に接続することにより前記検出手段と前記通信制御手段との間のワイヤレス通信のための個別IDキーを決定する第1ステップと,前記検出手段と前記通信制御手段とが物理的に未接続になることにより前記個別IDキーに基づいて前記検出手段と前記通信制御手段との間のワイヤレス通信を開始する第2ステップとを有することを特徴とする。」

(1-ウ) 「【0011】
【発明の実施の形態】以下に,本発明を図示の実施の形態を基に詳細に説明する。図1は実施の形態を示すX線撮像システムの構成図を示し,1はX線室,2はX線制御室,3は診断・操作室である。
【0012】X線室1には,X線を発生するX線発生器11が置かれ,このX線発生器11はX線を発生するX線管球12,X線管球12を駆動する高圧発生電源13,X線管球12により発生されたX線ビームを所望の撮像領域に絞り込むX線絞り14から成っている。撮影用寝台15の下には,被検体S及び撮影用寝台15を透過したX線ビームを検出するX線検出器16が配置されている。・・・
【0016】また,四肢等の撮影のために別に薄型X線検出器22が配置され,この薄型X線検出器22は中継器23を介してX線制御室2に接続されている。図1では,薄型X線検出器22は複数種のセンサの代表として1つを図示してあるが,空間分解能が異なったり,薄型X線検出器22の大きさ,つまり撮像領域の大きさが異なるもの等を交換して使用することが可能である。X線検出器16と薄型X線検出器22との相違点は,第1には薄型X線検出器22の厚さが,フィルムスクリーン系カセッテに匹敵する程度の約20mm以下である点が最も大きく異なっている。薄型X線検出器22には,グリッド17が内蔵されていない点,簡易電源,10画像?20画像の大容量メモリを内蔵している点,中継器23とケーブルレスで画像信号及び制御のやり取りが可能である点に特長がある。
【0017】薄型X線検出器22と中継器23を接続するケーブル24はあってもなくても動作可能であり,ケーブル24を使用した場合には画像転送が高速に行えるため,X線撮像後の画像取得,処理,確認の動作がより短い時間で達成され,更に充電の必要がないため長時間撮影を続けることが可能である。なお,ケーブル24を使用する場合には着脱容易かつ高信頼性のコネクタを使用する必要がある。中継器23は薄型X線検出器22との通信を中継する他に,自動ID割付や充電器更には未使用時ホルダとしての機能を有する。
【0018】X線制御室2には,本X線撮像システムの全体的な動作を制御するシステム制御器31,操作者インタフェース32,ディスプレイモニタ33が配置されている。システム制御器31には,前述の撮影制御器34,例えばRAID等のハードディスクアレーから成る画像処理器35,処理された基本画像データを記憶する大容量高速の記憶装置36,モニタ33を制御して種々の文字及び画像を表示させる表示制御器37,例えば光磁気ディスク等の大容量の外部記憶装置38,X線制御室2の装置と診断・操作室3の装置を接続し,X線室1での撮影画像等を診断・操作室3の装置に転送するLANボード39が内蔵されている。
【0019】インタフェース32は,X線曝射要求スイッチ,タッチパネル,マウス,キーボード,ジョイスティック及びフットスイッチ等から成り,操作者21が種々の指令をシステム制御器31に入力するために使用される。操作者Oの指示内容は,例えば静止画/動画,X線管電圧,管電流及びX線照射時間等の撮影条件,撮影タイミング,画像処理条件,被検者ID及び取込画像の処理方法等がある。撮像制御器34はX線室1に置かれたX線発生器11,撮影用寝台15,駆動器21,中継器23に接続され,画像処理器35はX線室1の駆動器21,中継器23と接続され,X線撮像系による画像を画像処理する。画像処理器35における画像処理は,例えば画像データの補正,空間フィルタリング,リカーシブ処理,階調処理,散乱線補正及びダイナミックレンジ(DR)圧縮処理等が挙げられる。」

(1-エ)「【0049】図5はX線検出器16の撮像動作を含むタイミングチャート図である。操作者インタフェース32に対する撮像要求信号(f),レディ信号(g),実X線曝射状態(h),操作者Oの指示に基づいた撮像制御器34から駆動器21への撮影要求信号(i),X線検出器16の撮影レディ信号(j),グリッド17の駆動信号(k),X線検出器16内のパワー制御信号(l),X線検出器16の駆動状態,特に光検出器アレー19からの電荷読出動作(m),画像データの転送状態や,画像処理や表示の状態(n)を表している。
【0050】操作者Oからの検出器準備要求又は撮影要求があるまで,駆動器21は(l)に示すようにパワー制御をオフ状態で待機する。具体的には,図3において行選択線Lr,列信号線Lc,バイアス配線Lbの電位を図示しないスイッチにより同電位特に接地電位に保ち,光検出器アレー19にバイアスを印加しない。更には,信号読出回路71,ラインセレクタ61,バイアス電源54を含む電源を遮断することにより,行選択線Lr,列信号線Lc,バイアス配線Lbの電位を接地電位に保つようにしてもよい。
【0051】操作者Oの操作者インタフェース32に対する撮影準備のための通常の管球のロータアップ等が開始する第1スイッチによる撮像要求信号(f)により,撮像制御器34はX線発生器11を(g)の撮影レディ状態に遷移させると共に,X線検出器16に対して撮影準備状態へ移行させる指示を出力する。指示を受けた駆動器21は光検出器アレー19にバイアスを印加すると共に,空読みFiを繰り返す。要求指示は例えばX線発生装置への曝射要求スイッチの第1スイッチや,X線検出器16が撮影準備のために数秒以上の所定時間を要する場合等には,X線検出器16の準備を開始するための指示である。
【0052】この場合に,操作者OがX線検出器16に対すして意識的に撮影準備の要求指示を出さなくてもよい。即ち,操作者インタフェース32に対して被検体情報,撮影情報等が入力されたことにより,撮像制御器34は検出器準備の要求指示と解釈して,X線検出器16を検出器準備状態に移行させてもよい。」

(1-オ)「【0064】図7は薄型X線検出器22と中継器23のブロック回路構成図を示し,薄型X線検出器22内にはMPU91,データ駆動制御部92,画像メモリ93,無線通信モジュール94,外部接続コネクタ95,電源96が設けられている。MPU91は薄型X線検出器22内の様々な動作,状態を制御し,MPU91の内部には後述する個別通信キーを唯一つ記憶する個別通信キーレジスタ96やその個別IDキーの有効期間を監視する有効期間カウンタ97がソフトウェアにより構成されている。
【0065】データ駆動制御部92の機能は,物理層レベルの通信制御等のロジックレベル制御を行うほか,MPU91の指示に基づいて光検出器アレー19を駆動し,それに基づく光検出器アレー19からのアナログ出力を図示しないAD変換部によりディジタル変換された画像を取り込み,取り込まれたディジタル画像を画像メモリ93に書き込む。更に,縮小画像データを無線通信モジュール94を介して中継器23に出力し,機械的に接続されている場合には,全画像データをコネクタ95を介して中継器23に出力する。なお,撮影間隔等に余裕がある場合には無線通信を用いて全画像データを転送してもよいが,撮影動作のための通信のほうが画像転送動作よりも優先されるため,画像転送は屡々中断される。このため,画像分割送信,画像再送機能等を有する必要がある。」

(1-カ)「【0071】図8は操作者インタフェース32の表示画面の例を示し,表示画面111内には,取得画像の縮小簡易画像表示領域112,各X線検出器16又は薄型X線検出器22に応じた撮影対象部位113,有効X線検出器表示エリア114が存在する。薄型X線検出器22を使用した場合に,先の無線通信により転送する画像を基に再処理を行って画像表示を行う。有効X線検出器表示エリア114には,システム制御器31が制御可能状態にあるX線検出器16又は薄型X線検出器22を表すアイコンが表示される。
【0072】図9は有効X線検出器表示エリア114の例を示し,各アイコン121中で最上段はX線検出器の種類,中段は撮影エリア,下段は画素サイズをそれぞれ表している。・・・」

(1-キ)「【0074】図9,図10,図11を用いて,複数種の薄型X線検出器22と中継器23とのデータ及び制御の取り交わし方法について説明する。図10の手順1のように複数の薄型X線検出器22A(カセッテ/大四つ/□100μm),22B(カセッテ/半切/□160μm)等が存在する場合に,ケーブルレスでX線撮影を行おうとすると,どの薄型X線検出器22を使用してX線撮影を行うか否かが薄型X線検出器22側で分からなくなる。予め,固有のX線検出器情報を中継器23を含むシステム制御器31に薄型X線検出器22のIDを全て記憶させ,そのIDを用いてシステム制御器31側から一方的に使用する薄型X線検出器22のIDを出力するようにしてもよいが,その場合には例えば複数のX線室1を有する病院で,多くの薄型カセッテを共通で使用する場合等は,操作者Oが使用する薄型X線検出器22の番号等を調べて入力する必要が生ずる。
【0075】本実施の形態では,使用すべき薄型X線検出器22Aを,撮影前に図10の手順1のように中継器23にセットする。有効X線検出器表示エリア114の状態は,手順1の時点では,図9(h)の状態つまり1台の臥位タイプX線検出器16と1台のカセッテタイプの薄型X線検出器22Bとが制御可能状態である。図10の手順2の時点で,先ず中継器23は薄型X線検出器22Aの固有情報を取得し,図9(c)に示すようにシステム制御器31に伝達して,操作者インタフェース32にその存在を表示する。
【0076】次に,中継器23中のMPU101は,薄型X線検出器22Aに予め定められたルールに基づいて互いの通信キーを割り振る。即ち,MPU101は先ず通信キーを作成し,2つのMPU101及び1001中の通信キーレジスタ105に作成した通信キーを記憶させ,同時に通信キーに対応する有効期間カウンタ106を初期化する。通信キーは例えばX線発生器11又は単に中継器23のID番号と薄型X線検出器22を識別するためのシリアルIDを通信キーとして割り振ってもよい。時として,X線室1には複数のX線発生器11が設置されているが,この場合でも何れか1つのX線発生器11からしか同時にはX線は発生されないため,X線発生器11のシリアルIDよりもそれら複数又は複数のX線発生器11を制御するシステム制御器31又は中継器23のID番号を基に通信キーを作成することが望ましい。
【0077】図12はシリアルIDの例であり,図12(h)中の通信キー用カウンタ107は通信キーが割り振られるごとに,+1インクリメントされるMPU101中のカウンタである。また,このID割付時に念のため重複がないかどうかをケーブルレス通信を試みて,応答がないことをチェックしておく。勿論,このチェックの際には,まだ割り付られる薄型X線検出器22Aはチェック用問いかけには応じない。仮に重複があるようであれば,次のIDを割り付けて上述の割付作業を問題がなくなるまで繰り返す。通信キーは薄型X線検出器22と中継器23との間のみで使用するように構成することが可能であり,その割付タイミングは薄型X線検出器22を中継器23にセットしたときをトリガとして開始する。
【0078】また,図10の手順2ではID割付の他に,薄型X線検出器22の充電も行う。前述のように,複数の薄型X線検出器22を使用する場合等は,撮影中以外も中継器23に接続されるとは限らないため,放電状態で放置されている可能性も高い。そのため,急速な充電が要求されることも十分に考えられ,二次電池よりも電気二重層コンデンサのような急速充電可能な電源が望ましい。
【0079】実際にX線撮影を行う際には,図10の手順3のように,操作者Oは薄型X線検出器22を中継器23から取り外して撮影すべき状態に,X線発生器11,被検体S,薄型X線検出器22のそれぞれの位置を調整する。操作者Oは操作者インタフェース32に表示された薄型X線検出器22Aを選択することにより,中継器23は無線で薄型X線検出器22Aにその情報を伝達する。この際に,先に割り当てた通信キーを使用することにより,薄型X線検出器22Bや隣室の薄型X線検出器22等を作動状態にすることなく,薄型X線検出器22Aのみを作動状態にすることができる。通信キーのようなIDを用いた通信技術そのものはごく一般的であり,例えば単に通信相手を通信キーを用いて指定した後に,所定ビット長又は所定デリミタまでのパケット通信を行う。
【0080】さて,作動状態になる際には,薄型X線検出器22は選択表示LED等が点灯すると同時にブザー音を発する。また,操作者Oの所望のタイミングでアイコン121を選択することで,薄型X線検出器22はブザー音等を発し,操作者Oが使用している薄型X線検出器22が間違っていないことを確認することもできる。更には,薄型X線検出器22には図示しない選択用スイッチが用意されており,その選択スイッチを押すことにより,そのスイッチが押された薄型X線検出器22を強制的に作動状態にすることも可能である。」

(1-ク)「【0085】それ以上の撮影の際には,薄型X線検出器22を交換する。これは,通常では1被検体当りの撮像枚数は20枚以下であることと,撮像された画像データ収集を迅速に行うためである。即ち,図10に示す手順3の状態はあまり長く続けさせず,被検体Sが代わる度に手順1から繰り返す。より作業を迅速に進めるためには,薄型X線検出器22Bを薄型X線検出器22Aと同じ仕様のものを用意して,交互に使用することにより時間の損失が殆どない状態で,次の被検体Sの撮像に移ることができる。図10では,中継器23には薄型X線検出器22を2個までセットしてあるが,この数を増やすように構成してもよいことは勿論である。」

上記(1-ア)?(1-ク)の記載と第1?6図を参照すると,上記刊行物1には, 次の発明が記載されていると認められる。
「X線室1,X線制御室2,診断・操作室3を備えるX線撮像システムの使用方法であって,
X線室1には,大きさが異なる薄型X線検出器22等を交換して使用することが可能であり,MPU91,データ駆動制御部92,画像メモリ93,無線通信モジュール94,外部接続コネクタ95,電源96が設けられ,上記MPU91の内部には個別通信キーを唯一つ記憶する個別通信キーレジスタ96がソフトウェアにより構成されている上記薄型X線検出器22が,自動ID割付や充電器更には未使用時ホルダとしての機能を有する中継器23を介してX線制御室2に接続されて配置され,
X線制御室2には,本X線撮像システムの全体的な動作を制御するシステム制御器31,操作者インタフェース32が配置され,
インタフェース32を使用して操作者Oの撮影条件,撮影タイミング,画像処理条件,被検者ID等の指示が入力され,
予め,固有のX線検出器情報を中継器23を含むシステム制御器31に薄型X線検出器22のIDを全て記憶させ,そのIDを用いてシステム制御器31側から一方的に使用する薄型X線検出器22のIDを出力するステップと,
操作者Oは薄型X線検出器22を複数セットしてある中継器23から取り外して撮影すべき状態にし,
先に割り当てた通信キーを使用することにより,薄型X線検出器22Aのみを作動状態にし,作動状態になる際には,選択表示LED等が点灯するステップを有する方法。」(以下,「引用発明」という。)

3 対比・判断
補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「X線撮像システムX」,「薄型X線検出器22」,および「被検者ID」は,それぞれ補正発明の「X線システム(20)」,「無線検出器」,および「患者識別パラメータ」,に相当することは明らかである。
そして,引用発明の「薄型X線検出器22のIDを出力する方法」は,補正発明の「無線検出器を選択する方法」に相当する。

イ 引用発明の「中継器23」は「薄型X線検出器22」の「未使用時ホルダとしての機能を有する」ものであり,「大きさが異なる薄型X線検出器22等を交換して使用することが可能であ」り,操作者Oは薄型X線検出器22を複数セットしてある中継器23から取り外」すのであるから,補正発明の「貯蔵装置(34)」に相当する。

ウ 引用発明の「薄型X線検出器22」は大きさが異なるものが複数あるから,撮影条件には薄型X線検出器22の大きさに対応したものが含まれるのであり,その大きさは,患者を適切に撮像するために選択されることは明らかであり,本願明細書には「【0016】 検出器は幾つかの異なる因子に基づいて選出される。1つの因子は,遂行すべきX線撮影の形式に関して検出器のサイズを考慮する」と形式とサイズが関係することが記載されているのであるから,引用発明の,「インタフェース32を使用して操作者Oの撮影条件,撮影タイミング,画像処理条件,被検者ID等の指示が入力され,」は,補正発明の「前記コンピュータ・システムに患者識別パラメータを入力する段階と,
前記コンピュータ・システムに,識別された前記患者について遂行すべきX線撮影の形式を入力する段階」に相当する。

エ 引用発明の「予め,固有のX線検出器情報を中継器23を含むシステム制御器31に薄型X線検出器22のIDを全て記憶させ,そのIDを用いてシステム制御器31側から一方的に使用する薄型X線検出器22のIDを出力するステップ」は,「システム制御器31側から一方的」行うのであるから,補正発明の「どの検出器を使用するか」「1つの検出器を自動的に決定する段階」に相当することは明らかであるから,結局,引用発明の「予め,固有のX線検出器情報を中継器23を含むシステム制御器31に薄型X線検出器22のIDを全て記憶させ,そのIDを用いてシステム制御器31側から一方的に使用する薄型X線検出器22のIDを出力するステップ」と補正発明の「前記コンピュータ・システムが,前記X線撮影の形式に基づいて前記一群の検出器からどの検出器を使用するかを関心のある領域全体を取得するほどに充分大きく,しかも患者の放射線被爆量を制限するほどに充分小さいものとなるように,1つの検出器を自動的に決定する段階」とは,
「前記コンピュータ・システムが,前記X線撮影の形式に基づいて前記一群の検出器からどの検出器を使用するか,1つの検出器を自動的に決定する段階」の点で共通する。

オ 引用発明の「システム制御器31側から一方的に使用する薄型X線検出器22のIDを出力する」方法であって,「通信キーを使用することにより,薄型X線検出器22Aのみを作動状態にし,作動状態になる際には,選択表示LED等が点灯する」と,
補正発明の「前記コンピュータ・システムが,選出された1つの選出検出器に作動信号を送信する段階と,
前記選出検出器が,前記コンピュータ・システムから前記作動信号を受け取る段階と,
前記選出検出器が,インジケータを作動する段階」とは,
「検出器がインジケータを備えており,検出器のインジケータを作動させる段階を有している」点で共通する。

そうすると,両者は,
(一致点)
「X線システムにおいて無線検出器を選択する方法であって,前記X線システムがコンピュータ・システムと,該コンピュータシステムと無線通信する一群の様々なサイズの検出器の貯蔵装置と,を含んでおり,
前記検出器がインジケータを備えており,
前記方法が,
前記コンピュータ・システムに患者識別パラメータを入力する段階と,
前記コンピュータ・システムに,識別された前記患者について遂行すべきX線撮影の形式を入力する段階と,
前記コンピュータ・システムが,前記X線撮影の形式に基づいて前記一群の検出器からどの検出器を使用するか,1つの検出器を自動的に決定する段階と,
検出器のインジケータを作動させる段階
を有している方法。」である点で一致し,以下の点で相違するといえる。

(相違点1)
前記コンピュータ・システムが,前記X線撮影の形式に基づいて前記一群の検出器からどの検出器を使用するか,1つの検出器を自動的に決定する段階について,補正発明では「関心のある領域全体を取得するほどに充分大きく,しかも患者の放射線被爆量を制限するほどに充分小さいものとなるように」決定するのに対して,引用発明では,そのような特定をしていない点。

(相違点2)
「検出器がインジケータを備えており,検出器のインジケータを作動させる段階」について,補正発明では,「前記コンピュータ・システムが,選出された1つの選出検出器に作動信号を送信する段階と,
前記選出検出器が,前記コンピュータ・システムから前記作動信号を受け取る段階と,
前記選出検出器が,インジケータを作動する段階」であるのに対して,引用発明では,「システム制御器31側から一方的に使用する薄型X線検出器22のIDを出力する」方法であって,「通信キーを使用することにより,薄型X線検出器22Aのみを作動状態にし,作動状態になる際には,選択表示LED等が点灯する」点。

(1)相違点1についての検討
「関心のある領域全体を取得するほどに充分大きいものを用いること」も,「患者の放射線被爆量を充分小さいものとなるようにすること」も患者のX線撮像において当然に考慮すべき技術常識である。
してみると,引用発明に上記技術常識を適用して,相違点1に記載の補正発明の構成とすることは,十分動機付けがあり,阻害要因もなく,当業者が容易に想到するものといえる。

(2)相違点2についての検討
選択しようとするものを光らせて確実に見つけることは,例えば駐車場等において,車の鍵のスイッチを入れることにより,対象の車へ信号を送信し,多数の車の中から選択する車のウインカーランプを光らせることで見つけるように,日常生活において周知技術である。
そして,検査のため選択した検出器を,確実に用いることは,確実な検査のための当然の要求であり,誤りを全く無い状態にすることは当然の課題である
してみると,引用発明に上記周知技術を付加して,システム制御器31側から出力するIDを使用することにより,薄型X線検出器22Aのみを作動状態にし,選択表示LED等を点灯させて,すなわち,相違点2に記載の補正発明の構成とすることは,十分動機付けがあり,阻害要因もなく,当業者が容易に想到するものといえる。

(3)そして,補正発明の作用効果は,引用発明,周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

なお,請求人は,審判請求書において,「引用文献1の第0074段落は『予め,固有のX線検出器情報を中継器23を含むシステム制御器31に薄型X線検出器22のIDを全て記憶させ,そのIDを用いてシステム制御器31側から一方的に使用する薄型X線検出器22のIDを出力するようにしてもよいが,その場合には例えば複数のX線室1を有する病院で,多くの薄型カセッテを共通で使用する場合等は,操作者Oが使用する薄型X線検出器22の番号等を調べて入力する必要が生ずる。』と説明しており,固有のX線検出器情報をシステムに登録する際の手順を説明しておりますが,登録された複数の検出器から,特定の患者の撮影に使用する1つの検出器を選択する説明はなされておりません。
また,『複数のX線室1を有する病院で,多くの薄型カセッテを共通で使用する場合等は,操作者Oが使用する薄型X線検出器22の番号等を調べて入力する必要が生ずる。』との記載は,『操作者によらずとも,コンピュータシステムにより自動的に検出器を決定可能であることが記載されている』とのご指摘と矛盾します。すなわち,特定の患者の撮影に使用する1つの検出器が決定された後に操作者Oが検出器22の番号等を調べて入力する必要性は無く,この点でも,審査官による引用文献1の記載内容の認定が誤っていることを示しております。」と主張する。
しかしながら,上記(1-キ)に摘記したように「・・・ケーブルレスでX線撮影を行おうとすると,どの薄型X線検出器22を使用してX線撮影を行うか否かが薄型X線検出器22側で分からなくなる。」との文を受けて「予め,固有のX線検出器情報を中継器23を含むシステム制御器31に薄型X線検出器22のIDを全て記憶させ,そのIDを用いてシステム制御器31側から一方的に使用する薄型X線検出器22のIDを出力するようにしてもよい・・・」と記載されているのであり,「X線撮影を行う」薄型X線検出器は数台であるから,数台の中から一つを選択する説明がなされており,また,「複数のX線室1を有する病院で,多くの薄型カセッテを共通で使用する場合等は,操作者Oが使用する薄型X線検出器22の番号等を調べて入力する必要が生ずる。」との記載は,その前の「・・・IDを出力するようにしてもよいが,その場合には例えば複数のX線室1を有する病院で,多くの薄型カセッテを共通で使用する場合等は,」との文を受けているのであるから,「例えば複数のX線室1を有する病院で,多くの薄型カセッテを共通で使用する場合等」と,「複数のX線室1を有する病院で,多くの薄型カセッテを共通で使用する場合」に異なる処理が必要になることを記載しているだけであり,請求人の主張する上記矛盾はないので,請求人の上記主張は採用できない。

(4)したがって,補正発明は,引用発明,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項1?10に係る発明は,平成24年6月6日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されたものであって,その請求項1に係る発明は,次のとおりであると認める。
「 【請求項1】
X線システム(20)において無線検出器を選択する方法であって,前記X線システムがコンピュータ・システム(24)と,該コンピュータシステムと無線通信する一群(22)の様々なサイズの検出器の貯蔵装置(34)とを含んでおり,
前記方法が,
前記コンピュータ・システムに患者識別パラメータを入力する段階と,
前記コンピュータ・システムに,識別された前記患者について遂行すべきX線撮影の形式を入力する段階と,
前記コンピュータ・システムが,前記X線撮影の形式に基づいて前記一群の検出器からどの検出器を使用するかを自動的に決定する段階と,
前記コンピュータ・システムが,選出された選出検出器に作動信号を送信する段階と,
前記選出検出器が,前記コンピュータ・システムから前記作動信号を受け取る段階と,
前記選出検出器が,インジケータを作動する段階と,
を有している方法。」(以下,「本願発明」という。)

2 引用刊行物およびその記載事項
本願出願前に頒布された刊行物1,2およびその記載事項は,上記「第2 2」に記載したとおりである。

3 当審の判断
本願発明は,補正発明から「関心のある領域全体を取得するほどに充分大きく,しかも患者の放射線被爆量を制限するほどに充分小さいものとなるように,1つの検出器を」という「前記一群の検出器からどの検出器を使用するかを自動的に決定する段階」の「自動的に決定する検出器」を限定する構成を省いたものに相当する。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含む補正発明が,上記「第2 3」において検討したとおり,引用発明,周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

第4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その他の請求項について言及するまでもなく,本願出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-23 
結審通知日 2013-10-29 
審決日 2013-11-12 
出願番号 特願2007-3159(P2007-3159)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 泉 卓也今浦 陽恵  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
三崎 仁
発明の名称 研究の形式による自動的な検出器選出  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  
代理人 田中 拓人  

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