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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10L
管理番号 1286354
審判番号 不服2012-17475  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-07 
確定日 2014-04-02 
事件の表示 特願2008-127500「BTSCエンコーダ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 9日出願公開、特開2008-242476〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年6月2日(パリ条約による優先権主張 1996年6月7日 米国)に出願した特願平10-500762号の一部を平成20年5月14日に新たな特許出願としたものであって、原審において平成24年4月27日付けで拒絶査定となり、これに対し同年9月7日に審判請求がなされたものであるところ、
本件出願に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年9月7日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて特許請求の範囲の請求項23に記載された次のとおりのものである。

(本願発明)
「【請求項23】
BTSC規格に従い左及び右チャンネル音声信号をデジタル的にエンコードする方法であって、
左及び右チャンネルのデジタル音声信号を提供し、
前記左及び右チャンネルのデジタル音声信号を結合してデジタル和信号及びデジタル差信号を形成し、
前記デジタル和信号及びデジタル差信号をBTSC規格に従いエンコードしてデジタルBTSC信号を生成することを含む方法。」

なお、上記手続補正において、本請求項23は補正がなかった。


2.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、
"BTSC TV MULTICHANNEL SOUND DECODER INCLUDING DIGITAL EXPANDER"(邦訳:デジタルエキスパンダーを含むBTSC方式TVのマルチチャンネルサウンドデコーダ),Werner Reich,IEEE Transactions on Consumer Electronics,Vol.34,No.3(1988-08),p.634-641(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の記載がある。

イ.「ABSTRACT
An already available system consisting of 2 integrated circuits performs all functions behind the main FM demodulator in a BTSC multichannel television sound receiver. Most of the systems, especially the expander, are realized by using digital signal processing techniques.

1. INTRODUCTION
In the USA the multichannel television sound(MTS) system conforming to the Broadcasting Television System Committee's (BTSC) standard is used [l]. It is similar to the well-known FM stereosystem used in radio broadcasting. There is a multiplex signal consisting of the sum channel, a pilot tone and the difference channel AM-modulated at twice the pilot frequency.」(p.634 左欄1?20行)

(イ.邦訳:
概要
BTSCマルチチャンネルテレビサウンド受信機の、主FM復調器の全機能を遂行する2個の集積回路から構成されるシステムが、既に入手可能である。エキスパンダーは別としてシステムの大半は、デジタル信号処理技術を使用することによって実現されている。

1.序
米国では、BTSC (Broadcasting Television System Committee)規格に準拠したマルチチャンネルテレビサウンド(MTS)システムが使用されている[1]。それは、ラジオ放送に使用される、よく知られたFMステレオシステムに類似している。その多重化信号は、和チャンネル、パイロットトーンおよびパイロット周波数の2倍でAM変調された差チャンネルから構成される。)

ロ.「Our company has already offered a system consisting of 2 ICs which digitally processed most of the functions behind the main FM demodulator in the BTSC system except for the expander. But that is exactly where digital signal processing techniques are superior to conventional systems:

- No external components
- No alignment
- No long-term stability problems

In contrast to [2] where the feasibility of a complete implementation of the BTSC MTS standard has been investigated our system still includes few analog subsystems. But it is inexpensive and already commercially available. The most critical system, the formerly analog expander, has been replaced by a digital signal processor.」(p.634 右欄3?23行)

(ロ.邦訳:
当社は既に、2個のICから構成されるシステムであって、エキスパンダーを除き、BTSCシステムの主FM復調器の大部分の機能をデジタル処理するものを提供している。しかしそれは正に、次の点において、デジタル信号処理技術が従来のシステムより優れている事を示すものである。

- 外部コンポーネントが無い
- 調整が不要
- 長期安定性の問題が無い

BTSCのMTS規格を完全に実現する可能性が研究された[2]と対照的に、当社のシステムには未だ少数のアナログサブシステムが含まれている。しかしそれは安価であり、既に商業ベースで入手可能である。以前はアナログエキスパンダーであった最もクリティカルなシステムは、デジタル信号処理装置で置き換えられた。)

ハ.「Figure 3 shows a block diagram of an idealized stereophonic transmission. At the transmitter site the L and R signals are combined into a sum signal S and a difference signal D. These signals are subject to a preemphasis and a compression, respectively. The modulation, transmission and demodulation are assumed to be ideal. In the receiver the signals are subject to a deemphasis and an expansion, respectively. Finally the received sum and difference signals are again combined in order to recover estimates of the original signals. If the 2 corresponding systems in transmitter and receiver are mutually complementary, the separation of the left and right channel is perfect.」(p.635 左欄33?末行)

(ハ.邦訳:
図3は理想化されたステレオ送信のブロック図を示す。送信側では、LおよびRの信号が組み合わせられて、和信号Sおよび差信号Dが生成される。これら信号は夫々、プリエンファシスおよび圧縮にかけられる。変調、送信および復調は理想的であると仮定されている。受信機では、これら信号は夫々、ディエンファシスおよび伸張にかけられる。最後に、受信された和信号および差信号は、再び組み合わせられてオリジナル信号の推定値を復元する。送信機および受信機にある2つの対応システムが相互に補完的であるならば、左チャンネルおよび右チャンネルの分離は完璧に行われる。)


上記引用例の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、「デジタルエキスパンダーを含むBTSC方式TVのマルチチャンネルサウンドデコーダ」という引用例のタイトル、および上記イ.の記載によれば、引用例は「BTSC(Broadcasting Television System Committee)規格」に準拠した「マルチチャンネルテレビサウンド(MTS)システム」に関するものであり、上記ハ.図3にはその「ステレオ送信のブロック図」が開示されているから、引用例には『BTSC 規格に準拠したステレオ送信の方法』が開示されている。
また、上記「ブロック図」の「送信側」(引用例図3の左側部分)では、左端の端子より「LおよびRの信号」が提供されており、
上記ハ.には「LおよびRの信号が組み合わせられて、和信号Sおよび差信号Dが生成される」とあり、更に「これら信号は夫々、プリエンファシスおよび圧縮にかけられる」とあるから、生成された「和信号Sおよび差信号D」は更に「BTSC規格」に従い処理されて『BTSC信号』を生成するということができる。

したがって、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「BTSC規格に準拠したステレオ送信の方法であって、
LおよびRの信号が提供され、
LおよびRの信号が組み合わせられて、和信号Sおよび差信号Dが生成され、
前記和信号Sおよび差信号DをBTSC規格に従い処理してBTSC信号を生成する方法。」


3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
するとまず、引用発明と本願発明の「BTSC規格」は、いずれも「Broadcasting Television System Committee」の規格であるから、この点で一致し、この規格に「準拠」するとは「従う」ことである。
また、引用発明の「LおよびR」は、本願発明の「左及び右チャンネル」にあたり、
引用発明の「LおよびRの信号」は、「マルチチャンネルテレビサウンド(MTS)システム」に使用される信号であるから、「サウンド」すなわち「音声」信号であることは明らかであり、本願発明の「左及び右チャンネル音声信号」、「左及び右チャンネルの」「音声信号」に相当する。
また、引用発明の「組み合わせ」るとは、本願発明の「結合」するにあたり、引用発明の「和信号S」「差信号D」は、本願発明の「和信号」「差信号」にあたる。
また、引用発明の「ステレオ送信の方法」は、上記のように「LおよびRの信号」(左及び右チャンネル音声信号)を処理する方法であって、本願発明の「エンコード」も信号処理の一種であるから、両者は「BTSC規格に従い左及び右チャンネル音声信号を処理する方法」の点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。

〈一致点〉
「 BTSC規格に従い左及び右チャンネル音声信号を処理する方法であって、
左及び右チャンネルの音声信号を提供し、
前記左及び右チャンネルの音声信号を結合して和信号及び差信号を形成し、
前記和信号及び差信号をBTSC規格に従い処理してBTSC信号を生成することを含む方法。」

〈相違点〉
信号の「処理」方法および処理対象の「信号」に関し、
本願発明は「デジタル的にエンコード」する方法であって、「音声信号」「差信号」「和信号」「BTSC信号」が、それぞれ「デジタル音声信号」「デジタル差信号」「デジタル和信号」「デジタルBTSC信号」であるのに対して、
引用例発明は単に「ステレオ送信の方法」であって、信号を「処理」する方法であり、各信号は「デジタル」ではない点。


4.判断
一般に、デジタル技術の発達に伴って、従来アナログの回路で行われていた(アナログ信号の)信号処理を、(アナログ信号を変換して得たデジタル信号に対する)「デジタル信号処理」に置き換えることは、本願出願日前既に広く行われていた技術の趨勢であって、ステレオ放送の「信号処理」を「デジタル信号処理」で行うことも周知である。
(例えば、原審拒絶査定において例示した、
特開平7-162383号公報「FMステレオ放送装置」の、
「【0041】つぎに動作を説明する。ステレオのディジタル音声信号は、入力回路1において左右の信号に分離されるとともに、標本化周波数も入力のディジタル音声信号と異なる標本化周波数に変換され、複合音声信号生成回路2へ出力される。・・・(省略)・・・」、
「【0042】ディジタル複合音声信号生成回路2では、入力回路1から入力したLおよびR音声信号から発生させたL+R音声信号およびL-R音声信号と、パイロット信号とを多重して複合音声信号とし、プリエンファシス処理をする。・・・(省略)・・・」 の記載や、
特開平5-218992号公報「デジタルFMステレオ変調方法」の、
「【0007】図1に本発明方法を達成するためのデジタルFMステレオ変調器系統ブロック線図の一実施例を示す。ステレオ音声L(左)およびR(右)信号はLPF1および2により15kHz 以上の信号成分が取り除かれ、A/Dコンバータ3および4によりデジタル信号に変換され、・・・(省略)・・・次にそれら出力の一方は加算器5により主信号(L+R)/2となり、もう一方の出力はビット反転器6と加算器7により差信号(L-R)/2となる。・・・(省略)・・・」等の記載を参照されたい。)
また、上記2.引用例のロ.にも、BTSCシステムの主FM復調器の大部分の機能をデジタル処理するものが提供されていること、デジタル信号処理技術が従来のシステムより優れて(外部コンポーネントが無い、調整が不要、長期安定性の問題が無い等)いること、安価であることが記載されている。
したがって、引用発明の「BTSC規格に準拠したステレオ送信の方法」において、送信側の「LおよびRの信号」の処理方法を、周知のデジタル信号処理による処理方法となし、
「音声信号」「差信号」「和信号」「BTSC信号」を、それぞれ「デジタル音声信号」「デジタル差信号」「デジタル和信号」「デジタルBTSC信号」として、
特に送信側におけるデジタル信号処理であるから、受信側におけるデジタル信号処理の総称としての「デコード」(decode:復号化)に対して、これを「デジタル的」に「エンコード」(encode:符号化)とすることは、上記周知技術の適用により、当業者であれば容易になし得ることに過ぎず、格別のことではない。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-01 
結審通知日 2013-11-05 
審決日 2013-11-21 
出願番号 特願2008-127500(P2008-127500)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 剛史  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 萩原 義則
関谷 隆一
発明の名称 BTSCエンコーダ  
代理人 高橋 誠一郎  
代理人 越智 隆夫  
代理人 松井 孝夫  
代理人 岡部 讓  
代理人 内田 浩輔  

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