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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1286363
審判番号 不服2013-1891  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-01 
確定日 2014-04-02 
事件の表示 特願2007-552274「樹脂結合吸着剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月27日国際公開、WO2006/078855、平成20年12月18日国内公表、特表2008-545809〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成18年1月20日(パリ条約による優先権主張 平成17年1月21日(アメリカ合衆国),平成18年1月19日(アメリカ合衆国))を出願日とする特許出願であって,平成19年9月3日に特許法184条の4第1項の規定による翻訳文が提出され(なお,同日に184条の8第1項の規定による翻訳文も提出されたが,当該翻訳文に係る手続は,平成20年10月31日付けで却下されている。以下,184条の6第2項の規定により明細書並びに図面とみなされたものを併せて「本願明細書」という。),平成20年7月17日に特許請求の範囲が補正され,平成23年8月25日付けで拒絶理由が通知され,平成24年3月19日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され,同年8月29日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成25年2月1日に拒絶査定不服審判が請求された(なお,同年4月4日に審判請求書の請求の理由の欄が補正されている。)。

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成24年3月19日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び本願明細書の記載からみて,その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「多機能性成形組成物であって,前記成形組成物が少なくとも水分を吸着する量の吸着剤を樹脂と組み合わせて含むことを特徴とし,前記吸着剤と樹脂との組み合わせが,該樹脂及び吸着剤間で結合又はカップリングが起こる樹脂結合吸着剤として前記組成物中に含まれ,前記吸着剤が混和可能な方式で前記樹脂中に混合される複数の粒子を含み,前記成形組成物がさらに樹脂系成形組成物から製造された製品を強化するとして一般的に認められた有用性を有する添加剤の不在下において,強化された機械的特性を特徴とし,前記添加剤がガラス繊維,ガラスビーズ及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである,前記多機能性成形組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献3に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,という理由を含むものである。
引用文献3:特開2002-226715号公報

第4 本願が拒絶されるべき理由
1 引用発明
(1) 査定の理由で引用された上記引用文献3には,次の記載がある。(下線は本審決による。以下同じ。)
「【請求項1】 粉末状の乾燥剤を樹脂に混練した混練樹脂を射出成形してなることを特徴とする乾燥剤混入成形品。…
【請求項3】 前記乾燥剤がモレキュラーシーブであり,前記モレキュラーシーブの細孔径が3Åまたは4Åであることを特徴とする請求項1又は2に記載の乾燥剤混入成形品。…」(【特許請求の範囲】)
「…本発明は,乾燥剤が混入する包装材料として利用し得る乾燥剤混入成形品…に関するものである。」(【0001】)
「本発明は,上記のような問題点に鑑みなされたものであり,吸湿性を有する包装材料として利用可能な乾燥剤混入成形品を提供するとともに,その乾燥剤混入成形品の製造方法を提供することを目的とするものである。」(【0005】)
「…本実施形態の乾燥剤混入成形品6は,図1に示すように,樹脂シート7に粉末状の乾燥剤8を分散させたものである。乾燥剤8としては,シリカゲル,活性アルミナまたはモレキュラーシーブが使用できる。特に,乾燥剤としては,モレキュラーシーブが好ましい。…」(【0017】)
「一方,樹脂シート7の樹脂材料は,高メルトフローレート(以下,MFRと称する)であり,かつ低融点(低軟化点),低温ドローダウン性に優れた樹脂であることが望ましい。高MFR樹脂であれば,モレキュラーシーブや顔料を添加することによるMFRが低下しても,ある程度の流れ特性を確保することができる。また,低融点であれば,樹脂が低温で軟化することで,低温射出の目安となり,発泡のおそれを回避できる。低温ドローダウン性に優れた樹脂であれば,モレキュラーシーブや顔料を添加したとしても射出成形機による射出成形が容易である。
このような観点から,例えばLDPE(低密度ポリエチレン),LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン),PP(ポリプロピレン),各種共重合体(コポリマー)として,アイオノマー,EAA,EMAA,EVA,EEA,EMA,EMMAが用いられ,このような樹脂の中から高MFR,好ましくはMFRが10以上のものを適宜選んで使用する。…」(【0021】?【0022】)
「さらに,本実施形態の乾燥剤混入シートは,モレキュラーシーブが混入した粒状樹脂を溶融して射出成形機で金型内に押出して,シートの厚みが0.5?3.0mmに引き出しており,その成形には,粒状樹脂の溶融状態での流れ特性が重要な要素となる。粒状樹脂のメルトフローレート(以下,MFRと称する)が高い数値であることが重要である。MFRは,JISK7210に規定される条件のもとで,溶融した樹脂を射出し,一定時間あたりに押出される熱可塑性樹脂の量であり,具体的には試験温度190℃,試験荷重21.18Nの条件のもとで測定された値である。乾燥剤混入フィルムは,そのベース樹脂のMFRが5以上であることが望ましい。
また,モレキュラーシーブを樹脂に混練した混練樹脂のMFRは,金型のキャビティー部への注入は,種々の射出における要件,例えば混練樹脂を溶融するための加工温度,乾燥剤濃度(重量比),キャビティー部の形状(成形品の形状)等を考慮して,混練樹脂のMFRが5以上であれば,成膜が可能である。なお,乾燥剤混入フィルムの樹脂材料が樹脂を混合したものであれば,その一つの樹脂のMFRが10以上であれば,射出成形機による乾燥剤混入シートの成形が可能である。」(【0031】?【0032】)
「なお,本発明の乾燥材混入成形品は,シート状に限らず,射出成形によって得られる包装形態の成形品とすることができる。この成形品には,例えば容器の内蓋,カップ,トレー,ボトル等の形態とすることができる。…」(【0034】)

(2) 上記(1)の摘記,特に特許請求の範囲の記載から,引用文献3には,次の発明(引用発明)が記載されていると認める。
「モレキュラーシーブからなる粉末状の乾燥剤を樹脂に混練した混練樹脂を射出成形してなる乾燥剤混入成形品」

2 対比
本願発明と引用発明を対比すると,まず引用発明の「乾燥剤」が本願発明の「吸着剤」に相当するのは明らかである。
また,引用発明の「乾燥剤混入成形品」は,引用文献3の記載によれば,射出成形法により成形された成形品であり,しかも乾燥剤を含むことで水分吸着性能を備えていることから,本願発明の「多機能性成形組成物」に相当するといえる(あるいは,射出成形は加熱溶融された樹脂を金型のキャビティへ射出して行われるものであるから,引用発明の射出成形するに際し加熱溶融される「混練樹脂」が,本願発明の「多機能性成形組成物」に相当するともいえる。)。
そうすると,本願発明と引用発明とは,少なくとも次の点で一致し(一致点),次の点で一応相違する(相違点1?2)。
・ 一致点
多機能性成形組成物であって,前記成形組成物が少なくとも水分を吸着する量の吸着剤を樹脂と組み合わせて含むことを特徴とする,前記多機能性成形組成物。
・ 相違点1
本願発明は「前記吸着剤と樹脂との組み合わせが,該樹脂及び吸着剤間で結合又はカップリングが起こる樹脂結合吸着剤として前記組成物中に含まれ,前記吸着剤が混和可能な方式で前記樹脂中に混合される複数の粒子を含」むとの特定を有するものであるのに対し,引用発明はそのような特定事項を有さない点。
・ 相違点2
本願発明は「前記成形組成物がさらに樹脂系成形組成物から製造された製品を強化するとして一般的に認められた有用性を有する添加剤の不在下において,強化された機械的特性を特徴とし,前記添加剤がガラス繊維,ガラスビーズ及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである」との特定を有するものであるのに対し,引用発明はそのような特定事項を有さない点。

3 相違点についての判断
(1) 相違点1について
ア 樹脂及び吸着剤間で結合又はカップリングが起こる樹脂結合吸着剤は,本願明細書の記載(例えば,【0009】,【0021】)によれば,吸着剤が混和された樹脂を結晶性が消失するまで加熱することで調製される(加熱を介して生じうる)ものであり,それにより,成形組成物は吸着剤が混和可能な方式で樹脂中に混合される複数の粒子を含むこととなる。
イ そして,上記2でも述べたように,射出成形は加熱溶融された樹脂を金型のキャビティへ射出して行われるものであるところ,通常,射出成形は樹脂を結晶性が消失するまで加熱し溶融してからキャビティに射出して行われるものであることから,引用発明の「乾燥剤混入成形品」もしくは加熱溶融された「混練樹脂」は,本願発明と同様に,樹脂及び吸着剤(乾燥剤)間で結合又はカップリングが起こる樹脂結合吸着剤としての吸着剤と樹脂との組み合わせを含み,吸着剤が混和可能な方式で樹脂中に混合される複数の粒子を含むものであるといえる。
ウ 以上のとおりであるから,相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。

(2) 相違点2について
ア 引用発明は,上記1(2)で認定のとおりのものであり,ガラス繊維やガラスビーズといった樹脂系成形組成物から製造された製品を強化するとして一般的に認められた有用性を有する添加剤を含むものではない。また,引用文献3には,そのような添加剤についての開示も示唆もない。
イ ところで,本願発明の成形組成物はガラス繊維などの添加剤の不在下においても「強化された機械的特性」を奏するものであるところ,そのような特性は,本願明細書の記載(例えば,【0012】?【0014】)によれば,成形組成物中に樹脂結合吸着剤としての吸着剤と樹脂との組み合わせを含むことにより発現するものである。
ウ そして,上記(1)で述べたように,引用発明は成形組成物中に樹脂結合吸着剤としての吸着剤と樹脂との組み合わせを含むものであるから,引用文献3に明示はないものの,上記イの見地からみて,引用発明は,本願発明と同様に「強化された機械的特性」を奏するものであるといえる。
エ 以上のとおりであるから,相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。

(3) 請求人の主張に対し
請求人は,引用文献3には,機械的特性を向上させるための添加剤がなくても成形品の強度が増大し,これにより機械的特性を低下させることなく水分吸着性を向上させた成形品を提供できるといった本願発明の効果について開示も示唆もない旨主張する(審判請求書の手続補正書4頁)。
しかし,上述のとおり,引用発明と本願発明とはその構成において何ら異なるものでない以上,引用発明は本願発明と同様の効果を奏するものであるといえる。請求人の主張に係る効果は,引用発明の奏する作用効果であって引用文献3に記載されていないものを単に挙げたにすぎない。

4 小活
以上のとおり,本願発明は引用発明と同一であり,したがって,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物(引用文献3)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
そうすると,本願の請求項2?19に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

第5 むすび
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-10 
結審通知日 2013-11-05 
審決日 2013-11-20 
出願番号 特願2007-552274(P2007-552274)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一宮 里枝  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 須藤 康洋
塩見 篤史
発明の名称 樹脂結合吸着剤  
代理人 石川 徹  

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