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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1286371
審判番号 不服2013-12762  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-04 
確定日 2014-04-02 
事件の表示 特願2009-553593「受動RFID素子、および受動RFID素子を含むコンポーネントならびに通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月18日国際公開、WO2008/112171、平成22年 6月17日国内公表、特表2010-521032〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年3月7日を出願日とする出願であって、平成24年10月12日付けの拒絶理由通知に対して、平成25年2月8日に手続補正書及び意見書が提出されたが、同年3月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月4日に審判請求がされたものである。

第2 本願発明に対する判断
1 本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成25年2月8日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであって、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
光信号を伝送できる光ファイバとともに用いるためのコンポーネントにおいて、前記コンポーネントが、
光タップ、
前記光タップと通じる変換器、及び
筐体に取り付けられた受動RFID素子、
を有し、
前記光タップが前記光ファイバから前記光信号の一部を導き、
前記変換器が前記光信号の前記一部に応答して電気信号を発生し、
前記受動RFID素子が前記変換器と電気的に通じる集積回路を有し、
前記光ファイバが前記光信号を伝送するときに、前記光タップが前記光ファイバから前記光信号の前記一部を導き、前記変換器が前記電気信号を発生して、前記受動RFID素子の前記集積回路に送る、
ことを特徴とするコンポーネント。」

2 引用例1の記載と引用発明
(1)原査定の根拠となった平成24年10月12日付けの拒絶の理由において引用文献1として引用された、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である、特表2005-538649号公報(以下「引用例1」という。)には、「光/ワイヤレス・ハイブリッド通信を提供する通信システム及び方法」(発明の名称)に関して、図1?図6とともに、次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。以下同様。)。

(発明が解決しようとする課題)
ア 「【0003】
ワイヤによるネットワークの使用にはいくつかの欠点が伴う可能性がある。例えば、電力がワイヤを通じて送信されているため、ワイヤの敷設は、電気コードの影響を受けやすく、敷設をより困難に、或いは、コスト高にさえし得る。さらに、典型的な金属製ワイヤ(例えば、銅線)を用いたときに利用可能な帯域幅は、用途によっては、所望の帯域幅に満たない可能性もある。
【0004】
このような制限の結果として、「銅線無しの」ネットワークを提供するために、他の種類の相互接続の利用が試みられている。例えば、光ファイバラインは、電気信号に相当する光信号をコンピュータ又は他の機器間で非常に高速且つ広帯域幅で送信することを可能にする。しかし、光ファイバ通信は、ワイヤより高価であることが多いため、光ファイバラインを数多くの壁コネクタへ延ばすことは、状況によっては、法外なコストが掛かる可能性がある。
【0005】
さらに、光ファイバケーブルは、ワイヤよりも信号を抽出するのが難しい。結果として、光ファイバからの信号抽出の困難性を解決する様々な手法が開発されている。このような手法の1つは、米国特許第6,265,710号に開示されている。この手法によれば、光ファイバから出現した光は、光検出器又は別のガラスファイバの入力面において、集光素子によって方向付けされる。別の手法は、特定の波長の光を捕獲するように物理的に構成された格子を用いることである。この手法の一例は、Pattersonらの米国特許第6,304,696号に開示されている。
【0006】
LANにおいて1以上の機器を相互接続する別の方法は、ワイヤレス通信リンクを用いることである。例えば、LAN内の各機器が、1以上の指定された周波数を用いて、データ信号を他の機器へ送受信するワイヤレス無線周波数(RF)送受信機を有する。この手法は、ワイヤによるネットワーク又は光ファイバによるネットワークに比べて、(もしあれば)壁コネクタがより少なくて済むという利点を有するが、ワイヤレス通信リンクは、機器が様々な場所を移動させられると、干渉や、信号歪みや、信号損失を受ける可能性がある。
【0007】
以上の背景から、本発明の目的は、光ファイバ通信の利点とワイヤレス通信の利点とを効果的に用いる通信システムを提供することである。」

(実施例)
イ 「【0018】
最初に図1を参照する。本発明に係る通信システム10は、一例として、光ファイバ11と、光ファイバの縦側面に沿って1以上のポイントに接続された少なくとも1つの光ワイヤレス機器12とを有する。例えばLANの場合、光ファイバ11は、PDA13、携帯電話14、及び/又は、パソコン15などの電子機器がアクセスを必要とするサーバ16又は他の中央データソース/ノードへ接続される。当然、当業者には明らかなように、本発明に係る通信システム10は、LAN以外の数多くの用途に用いることが可能であり、また、上記以外の種類の電子機器と共に用いることも可能である。
【0019】
したがって、当業者には明らかなように、通信システム10は、特に、銅線無しのネットワークに適用できる。このような実施形態において、複数の光ワイヤレス機器12a、12b、12cは、例えば、光ファイバの縦側面に沿って間隔を空けて光ファイバ11に接続される。光ワイヤレス機器12a、12b、12cは、PDA13、携帯電話14、及び、パソコン15とそれぞれワイヤレス通信を行うのに用いられる。後により完全に説明するように、光ワイヤレス機器12は、有益的なことに、光ファイバ11上で(例えばサーバ16によって)送信された光信号をワイヤレス信号へ変換して、それを個々の電子機器へ送信するのに用いることができる。逆に、光ワイヤレス機器12は、図1に矢印で例示するように、個々の電子機器から送信されたワイヤレス信号を対応する光信号へ変換してそれを光ファイバ11上で(例えばサーバ16へ)送信することもできる。」

ウ 「【0022】
次に、図2?4を参照する。ここでは、光ワイヤレス機器12についてより詳細に説明する。光ファイバ11は、一例として、当業者には明らかなように、コア23と、コアを囲むクラッド24とを有する。光ワイヤレス機器12は、一例として、コア23に接続され、後述するように光パワを電力に変換する光ファイバパワユニット20を有する。
【0023】
さらに、ワイヤレス通信ユニット25も、光ファイバ11のコア23に接続され、光ファイバパワユニット20から電力供給を受けることができる。図2に示すような実施形態などでは、光ファイバパワユニット20の一部とワイヤレス通信ユニット25の一部とが単体の機器として具現化されてもよい。よって、図2の破線は、1つの光ワイヤレス機器12において2つの別々の機能が実行される場合を示すためのものであって、様々な回路構成要素の特段の細分化又は配置は必要ない。
【0024】
光ファイバパワユニット20は、一例として、1以上の光起電装置21と、光ファイバ11のコア23から発電に用いられる光を特に抽出するように指定された個別の光格子22とを有する。したがって、パワ光格子22は、ワイヤレス通信機器25用の電力へ変換される特定の光波長λ1を有する光をコア23から抽出するように「チューニングされる」ことが好ましい。当業者には明らかなように、発電用の光を抽出するためのミクロ光学構造は、特定の波長、極性、モード等に「チューニングする」ことができる。当業者には明らかなように、光ファイバパワユニット20は、図5及び6に概略的に示すように、必要に応じてパワ調整回路が追加されてもよい。
【0025】
光起電装置21として用いることが可能な具体的な種類の一例は、感光性表面上に広帯域反射防止コーティングが施された比較的広域に平面拡散したInGaAs光ダイオードである。このようなダイオードは、当業者には既知である。いくつかのこのような光起電装置21は、(例えば図5及び6に示すように)直列につなげて、ワイヤレス通信ユニット25に電力を供給し、その光信号検出器26(後述)を逆バイアスするのに必要な電圧を生成することができる。光ダイオード21は、照射効率が最適化されるように、個々の格子22上に配置されることが好ましい。」

エ 「【0029】
光ダイオードの照射を最適化することに加えて、パッケージ化することによって電気的相互接続に導入された寄生インピーダンスが最小限に保たれることが好ましい。(・・・以下省略・・・)
【0031】
エポキシを多機能に用いることにより、パッケージの複雑さ、サイズ、組立に必要な処理工程数、及び、コストを減らすことができる。ワイヤボンディングを用いることがより適切な場合、それに関連する寄生は最小限に保たれることが好ましい。ワイヤボンディングは、注意しなければ、ナノヘンリー(nano-Henry)レベルのインダクタンスを容易にパッケージ内に導入する可能性がある。ワイヤボンディングの寄生を減らす方法の1つは、パッケージ19又は基板43(図4)へ向けてボンドを平らに押圧することである。これは、ワイヤが曲がるのを制限して磁束鎖交を減らし、ワイヤをグランド面に近づけて、より制御されたインピーダンスを有する送信ラインとして機能させる。」

オ 「【0033】
ワイヤレス通信ユニット25は、一例として、無線周波数(RF)送信器27と、ファイバ11から光データ信号を抽出するのに最適化された光信号格子28とを有する。当然、光信号格子28及びパワ格子22は、それぞれに異なって最適化されてもよい。本発明の重要な態様の1つにおいて、RF送信器27は、超広帯域(UWB)送信器である。UWBは、非常に広い周波数帯域にわたった非常に低電力のスペクトル密度に拡散されたワイヤレス通信を提供する。データは、RFエネルギの離散パルスを変調し、放射することによって、送信される。結果として、UWBは、通信システム10において使用すると特に有益的となる。なぜなら、UWBは、多くの既存の持続波挟帯域システムと干渉無しで共存できるからである。さらに、UWBパルスの広スペクトル性質及び/又は低周波含有により、UWBパルスは、他の既存の技術よりも壁及び障害物を貫通するのにより良く適している。当然、当業者には明らかなように、他の形のワイヤレス通信も本発明において用いることができる。
【0034】
図3に一例を示すように、超広帯域送信器27は、例えば、信号光格子(図2)に連結された入力を備えた光信号検出器26を有する。また、信号検出器26は、例えば、上述のInGaAs光ダイオードなどの光ダイオードである。上述の光ダイオード21の配置や効率等に関する考察は、光ダイオード26にも適用可能であるため、光ダイオード26は複数個用いることもできるが、信号を検出するのには通常1つだけで十分であることに注意する以外については、説明を省略する。さらに、ワイヤレス通信ユニット25が半導体技術を用いて実現された実施形態には、半導体技術を用いて実現することが可能な信号調整回路(図示せず)が更に含まれてもよい。
【0035】
増幅器30は、光検出器26の出力に接続された入力を有する。送信器は、更に、擬似ランダムコード生成器31と、増幅器30及び擬似ランダムコード生成器31の出力に接続された入力を備えたマルチプレクサ32と、マルチプレクサの出力に接続された入力を備えたパルス発生器33とを有する。当業者には明らかなように、他のUWB送信器回路構成も可能である。
【0036】
また、超広帯域送信器27は、パルス発生器33の出力に接続されたアンテナ34も有する。一例として、アンテナ34は、超広帯域送信器27(又は他の適切なRF機器)にワイヤボンド42a、42b(図1)によって接続されたダイポールアンテナである。特にコンパクトで効率的な構造のために、ダイポールアンテナ34は、図2に一例を示すように、光ファイバ11の縦側面に沿って反対方向に延びる第一の部分34aおよび第二の部分34bを有することが好ましい。」

カ 「【0041】
上述のように、本発明の一態様によれば、パワ光格子22を用いてコア23からワイヤレス通信ユニット25へ光が抽出されると共に、光信号格子28を用いてコアから光を抽出する(ワイヤレス通信からの信号送信の場合)又はコアへ光を案内する(すなわち、ワイヤレス通信ユニットによる信号受信の場合)。当然、当業者には明らかなように、消散結合(evanescent coupling)や、パワ分離や、さらには複数のファイバなど、光ファイバ11から光を抽出する他の手法も存在する。これらの手法及び当業者には既知の他の適切な手法も、本発明の範囲内に含まれる。
【0042】
光ワイヤレス機器12における電力供給及び信号送出には様々な光波長が用いられることが好ましい。特に、ワイヤレス通信ユニット25は、光信号発生源35(図5)によって(ワイヤレス通信ユニットによる送信の場合に)供給された光波長λ2の光で作動可能である。この場合、光信号格子28は、後述するように、λ2に「チューニング」される。さらに、通信システム10は、光ファイバ、特にコア23に接続され、上述のように、波長λ1の光を用いて光ファイバパワユニット20に電力を供給する光パワ発生源36を有することができる。当然、実施形態によっては、同じ波長の光の単一の発生源から信号と電力の双方を抽出することが可能となり得る。光パワ発生源36及び光信号発生源35は、例えばサーバ16の内部回路であってもよい。」

キ 「【0055】
図4に示した1つの考えられるミクロパッケージング手法は、様々なハードウェア部分をモジュール化することを含む。特に、光ダイオード21、26の行が、セラミック基板43の前面に固定される。基板43の背面には、上述のUWB無線ハードウェアが設けられている。電気的相互接続は、同じく上述のように、導電性抵抗エポキシ、セラミック基板の金属製軌跡、及び、ワイヤボンドによって提供される。この構成において、例えば、セラミック基板及びシリコン基板を一体に「スナップ」させてもよい。
【0056】
これも上述したように、光ワイヤレスユニット12は、ワイヤレス信号を送信も受信もすることができる。ワイヤレス通信ユニット12がワイヤレス送信器27を有する実施形態において、通信システム10は、更に、一例を図5に示すように、ワイヤレス送信器から離間し、ワイヤレス送信器から信号を受信する少なくとも1つのワイヤレス受信器37(及びそのアンテナ38)を有する。逆に、ワイヤレス通信ユニット12がワイヤレス受信器を有する実施形態においては、本システムは、ワイヤレス受信器から離間し、ワイヤレス受信器へ信号を送信する少なくとも1つのワイヤレス送信器60’(及びそのアンテナ61’)を有する。当然、更に別の実施形態として、双方向通信も可能である。すなわち、ワイヤレス通信ユニット12が例えば送受信機を有する。」

ク 摘記した上記【0034】及び【0035】の記載を参照すると、図3から、光ファイバから信号光格子によって光波長λ2の光が抽出され、光信号検出器26によって抽出された光波長λ2から信号が検出され、前記検出された信号がUWB送信器回路を構成する増幅器30に入力されることが見て取れる。

ケ 摘記した上記【0031】及び【0055】の記載を参照すると、図4から、セラミック基板43の前面に複数の光起電装置21及び光信号検出器26が実装(固定)され、セラミック基板43の背面にパワーユニット20と通信ユニット25が実装(固定)されており、上記パワーユニット20と通信ユニット25はそれぞれパッケージ19として形成されていることが見て取れる。また、パワ光格子22及び光信号格子28がそれぞれ光起電装置21及び光信号検出器26に接続されることが見て取れる。

(2)引用発明
上記摘記事項を総合すれば、引用例1には、第1の実施形態として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「光ファイバ11の縦側面に接続されることにより、光ファイバ11上で送信された光信号をワイヤレス信号へ変換して、それを個々の電子機器へ送信したり、個々の電子機器から送信されたワイヤレス信号を対応する光信号へ変換してそれを光ファイバ11上に送信することを可能とする光ワイヤレス機器12において、
前記光ワイヤレス機器12が、光ファイバパワユニット20とワイヤレス通信ユニット25を有し、
前記光ファイバパワユニット20は、
光ファイバから発電用の光波長λ1の光を抽出するパワ光格子22と、
前記パワ光格子22と接続された光起電装置21とを有し、
前記ワイヤレス通信ユニット25に電力を供給し、
前記ワイヤレス通信ユニット25は、
光ファイバ11から信号用の光波長λ2の光を抽出する光信号格子28と、
前記光信号格子28と接続された光信号検出器26とを有し、
パッケージとして基板43に実装されており、
前記光信号格子28が、光ファイバ11から光波長λ2の光を抽出し、
前記光信号検出器26が、上記抽出した光から信号を検出し、
前記ワイヤレス通信ユニット25が、前記光信号検出器26が接続された増幅器30を含むUWB送信器回路を有し、
光信号発生源35によって供給された光波長λ2の光が光ファイバ11に送信されるときに、前記光信号格子28が前記光波長λ2の光を抽出し、前記光信号検出器26が前記抽出された光から信号を検出して、前記信号を前記UWB送信器回路を構成する増幅器30に出力する、
ことを特徴とする光ワイヤレス機器12」

3 対比
(1)次に、引用発明と本願発明とを対比する。
ア 引用発明の「光信号」を「送信」できる「光ファイバ11」は、本願発明の「光信号を伝送できる光ファイバ」に相当する。

イ 引用発明の「光ワイヤレス機器12」は、「光信号」を「送信」できる「光ファイバ11」とともに用いられる装置であり、本願発明の「コンポーネント」は、「光信号を伝送できる光ファイバとともに用いるため」の装置であるから、引用発明の「光ワイヤレス機器12」は本願発明の「コンポーネント」に相当する。

ウ 引用発明の「光信号格子28」は、「光ファイバ11から信号用の光波長λ2の光を抽出する」ものであるから、本願発明の「前記光ファイバから前記光信号の一部を導」く「光タップ」に相当する。

エ 引用発明の「光信号検出器26」は、光信号格子28が「抽出した光から信号を検出」するものであるから、本願発明の「前記光信号の前記一部に応答して電気信号を発生」する「変換器」に相当する。

オ 引用発明において、「光ワイヤレス機器12」を構成する「ワイヤレス通信ユニット25」は「UWB送信器回路」を有するものであって、「光ファイバ11上で送信された光信号をワイヤレス信号へ変換して、それを個々の電子機器へ送信」する機能を有するものである。そして、摘記した上記段落【0018】及び図1には、光ワイヤレス機器12が、パソコン等の電子機器と、ワイヤレス通信を行う、LAN用途に使用されることが記載されており、光ワイヤレス機器12と電子機器の間でワイヤレス通信を行う際には、通信相手を特定する必要があることは技術常識であるから、引用例1には明記されていないけれども、引用発明の「ワイヤレス通信ユニット25」が、例えば周知のMACアドレスを用いて、無線による個体識別が可能となるように構成されているものと認められる。
一方、本願発明において、「受動RFID素子」の「RFID」とは「Radio Frequency Identification」即ち「無線固体識別」を意味しており、「受動RFID素子」は、当該素子に記憶された識別情報を無線で読み出すことにより固体識別を行うことができるものであるとともに、光信号をRFID素子のアンテナによって直接送信することができるもの(本願明細書段落【0028】参照)である。
したがって、引用発明の「ワイヤレス通信ユニット25」と本願発明の「受動RFID素子」は、無線によって、光信号を送信し、個体識別が可能な素子(以下「RFID素子」という。)である点で共通している。

カ 引用発明において「前記光信号格子28が、光ファイバ11から光波長λ2の光を抽出」することは、本願発明において「前記光タップが前記光ファイバから前記光信号の一部を導」くことに相当する。

キ 引用発明において「前記光信号検出器26が、上記抽出した光から信号を検出」することは、本願発明において「前記変換器が前記光信号の前記一部に応答して電気信号を発生」することに相当する。

ク 上記エで検討したように、引用発明の「光信号検出器26」が本願発明の「変換器」に相当するものであり、引用発明の「増幅器30を含むUWB送信器回路」と本願発明の「集積回路」は、いずれも、「回路」である点で共通しているから、引用発明の「前記光信号検出器26が接続された増幅器30を含むUWB送信器回路」と、本願発明の「前記変換器と電気的に通じる集積回路」は、いずれも、「前記変換器と電気的に通じる回路」である点で共通する。
そして、上記オで検討したように、引用発明の「ワイヤレス通信ユニット25」と本願発明の「受動RFID素子」は、「RFID素子」である点で共通している。
したがって、引用発明において「前記ワイヤレス通信ユニット25が、前記光信号検出器26が接続された増幅器30を含むUWB送信器回路を有」することと、本願発明において「前記受動RFID素子が前記変換器と電気的に通じる集積回路を有」することは、いずれも、「前記RFID素子が前記変換器と電気的に通じる回路を有」する点で共通している。

ケ 上記ア、ウ、エの検討に基づくと、引用発明において「光信号発生源35によって供給された光波長λ2の光が光ファイバ11に送信されるときに、前記光信号格子28が前記光波長λ2の光を抽出し、前記光信号検出器26が前記抽出された光から信号を検出」することは、本願発明において「前記光ファイバが前記光信号を伝送するときに、前記光タップが前記光ファイバから前記光信号の前記一部を導き、前記変換器が前記電気信号を発生」することに相当する。

コ 上記クの前半で検討したように、引用発明の「増幅器30を含むUWB送信器回路」と本願発明の「集積回路」は、いずれも「回路」である点で共通しているから、引用発明において「前記信号を前記UWB送信器回路を構成する増幅器30に出力する」ことと、本願発明の(変換器が発生した電気信号を)「前記受動RFID素子の前記集積回路に送る」こととは、(変換器が発生した電気信号を)「前記RFID素子の前記回路に送る」点で共通している。

(2)そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「光信号を伝送できる光ファイバとともに用いるためのコンポーネントにおいて、前記コンポーネントが、
光タップ、
前記光タップと通じる変換器、及び
RFID素子、
を有し、
前記光タップが前記光ファイバから前記光信号の一部を導き、
前記変換器が前記光信号の前記一部に応答して電気信号を発生し、
前記RFID素子が前記変換器と電気的に通じる回路を有し、
前記光ファイバが前記光信号を伝送するときに、前記光タップが前記光ファイバから前記光信号の前記一部を導き、前記変換器が前記電気信号を発生して、前記RFID素子の前記回路に送る、
ことを特徴とするコンポーネント。」

《相違点》
《相違点1》
本願発明と引用発明は、いずれも、「RFID素子」を備えているものであるが、本願発明において、「RFID素子」である「受動RFID素子」は、「筐体に取り付けられ」ているのに対して、引用発明において、「RFID素子」である「ワイヤレス通信ユニット25」は、「パッケージとして基板43に実装され」ているものである点。

《相違点2》
本願発明と引用発明は、いずれも、「RFID素子」を備えているものであるが、本願発明において、「RFID素子」である「受動RFID素子」は、「受動」素子であるのに対して、引用発明において、「RFID素子」である「ワイヤレス通信ユニット25」は、「受動」装置であることが明らかでない点。

《相違点3》
本願発明と引用発明は、いずれも、「RFID素子」が「回路」を有しているものであるが、本願発明では、「RFID素子」である「受動RFID素子」が有する「回路」が、「集積回路」であるのに対して、引用発明では、「RFID素子」である「ワイヤレス通信ユニット25」が有する「回路」が、「前記光信号検出器26が接続された増幅器30を含むUWB送信器回路」であって、「集積回路」と特定されていない点。

4 当審の判断
(1)相違点1についての検討
本願明細書には、筺体についてその詳細は記載されていないが、半導体装置の実装技術においては、筺体とは、半導体集積回路をその中に収容して保護するための容器やケース等を意味するものと認められる。
引用発明においては、「RFID素子」である「ワイヤレス通信ユニット25」は、「パッケージとして基板43に実装され」ているものであり、引用例1には、基板に実装されたワイヤレス通信ユニット25を、さらに筺体で覆うことは記載されていない。
しかしながら、基板に実装された素子を、衝撃による破壊や水分による腐蝕等から保護するために、金属や樹脂等の筺部材に収容することは、半導体装置の実装技術の分野において周知の技術であるから、引用発明においても、基板に実装されたワイヤレス通信ユニット25を筺部材に収容すること、つまり、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。
よって、相違点1は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(2)相違点2についての検討
ア 引用例1における電源について
引用発明では、信号用の光波長λ2の光を光信号発生源35から光ファイバ11に供給するとともに、発電用の光波長λ1の光も光パワ発生源36から上記光ファイバ11に供給し、光ファイバパワユニット20によって、上記光ファイバ11から上記光波長λ1の光を抽出して得られた電力を、ワイヤレス通信ユニット25に供給している。
しかしながら、上記2(1)カにおいて摘記した引用例1の段落【0042】には、「実施形態によっては、同じ波長の光の単一の発生源から信号と電力の双方を抽出することが可能となり得る。」と記載されており、信号用光と発電用の光を単一の発生源によって同一の波長として供給することが記載されている。この場合、単一の発生源が、信号用の光信号発生源と発電用の光パワ発生源を兼ねることになるとので、電力供給専用の光パワ発生源36は不要となるとともに、信号用の光を抽出する光信号格子28がパワ光格子22を兼ねることになるものと認められる。

イ 本願明細書における「受動」の意味について
本願明細書には、本願発明における「受動」の意味は明確に定義されていないが、本願明細書の【背景技術】の欄において、段落【0004】の「RFIDチップはRF送信のための情報を格納する。一般に、そのようなRFID素子は、能動ではなく、受動であるように提案され、したがって、RFID素子アンテナで受信されたRF信号による呼掛けに応答して格納情報を送る。」との記載によれば、「受動」は「能動」に対比される概念として使用されており、「能動」とは素子内部に有する電池等を電源として、RFID素子が格納情報を送ることを意味するものと認められるところ、本願明細書においては、以下引用する段落【0025】の記載から、「受動」であるRFID素子とは、外部から受信された信号を電源として、RFID素子が格納情報を送ることを意味するものと認められる。
本願明細書の【発明を実施するための形態】の欄において、段落【0025】の前半には、「変換器18で発生される電気信号は、1つないしさらに多くの目的のために集積回路14に送ることができる。例えば、電気信号は、光ファイバ26がそれを伝搬している光パワーを有しているか(すなわち活性であるか)否か、作動時刻または光信号に関係付けられるその他のパラメータに関するデータを含む、データを集積回路14に書き込むために用いることができる。したがって、RFID素子10が外部RF信号24を受信すると、RFID素子は、応答して、既に書き込まれているデータをRF信号によって送信することができる。そのようなデータ書込はRF信号24の受信時にも行うことができるであろう。あるいは、外部RF信号24ではなく、変換器18によって発生された電気信号自体を、RFID素子10によって送信されるRF信号に電力を供給するために用いることができる。そのような場合、RFID素子が信号を送信するために、外部RF信号または外部電源は必要ではない。」と記載されており、上記下線部の記載によれば、本願実施例のRFID素子10が、既に書き込まれているデータをRF信号によって送信するための電源としては、「外部RF信号24」あるいは「変換器18によって発生された電気信号」のいずれか一方を使用することができるものである。
さらに、本願明細書の段落【0025】の後半には、上記前半の記載に続いて、「望ましければ、変換器18からの電気信号及び外部RF信号24のいずれもがRFID素子10に電力を供給して、RFID読取器との交信を可能にすることができるであろう。」とも記載されており、変換器18によって発生された電気信号によって得られる電力と、外部RF信号によって得られる電力の両者を供給して交信を行うことも可能である。
つまり、本願明細書においては、外部から受信された信号であるところの、「外部RF信号」又は「変換器18によって発生された電気信号」のいずれか一方又は両者を、送信用の電源として使用することが記載されており、いずれの電源を用いる場合であっても、素子内部の電池等によって電源を供給していないという意味で「受動」であるものと認められる。
したがって、本願の請求項1に記載された「受動RFID素子」とは、本願明細書の実施例に記載された「RFID素子10」に対応するものであると認められるところ、上記「RFID素子10」に対応する、本願の請求項1に記載された「受動RFID素子」は、受信された外部RF信号を電源として、素子に格納された情報を送信するもののみならず、光ファイバで伝送された光信号から変換器18によって発生された電気信号を電源として、素子に格納された情報を送信するものも含むものと解釈できる。

ウ 引用発明において光信号を電源とすることについて
上記アに記載したとおり、引用発明において、信号用と発電用の光を単一の発生源によって供給するものとすることにより、ワイヤレス通信ユニット25は、光ファイバ11で送信された信号用の光のみから電力が供給されるものとなるので、ワイヤレス通信ユニット25は「受動」の「RFID素子」となる。
つまり、引用発明において、「光ファイバパワユニット20」によって、光パワ発生源36から供給された光を電力源とし、「ワイヤレス通信ユニット25」に電力を供給することに代えて、光信号発生源35から供給された光を電力源として電力を供給するものとすることにより、「ワイヤレス通信ユニット25」を「受動」の「RFID素子」とすること、即ち、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。
よって、相違点2は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(3)相違点3についての検討
引用例1において摘記した段落【0034】には、「ワイヤレス通信ユニット25が半導体技術を用いて実現された実施形態には、半導体技術を用いて実現することが可能な信号調整回路(図示せず)が更に含まれてもよい。」と、ワイヤレス通信ユニット25が半導体技術を用いて実現されることが記載されており、また、上記3(1)ケに記載したように、通信ユニット25はパッケージとして実装されているものであるから、ワイヤレス通信ユニット25は集積回路として形成されているものと認められる。仮に、そうではないとしても、「ワイヤレス通信ユニット25」を集積回路とすることは当業者が容易になし得た事項である。
したがって、相違点3については、実質的な相違とは認められないか、仮にそうではなくても、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(4)したがって、上記(1)?(3)で検討したとおり、引用発明において、上記相違点1?3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

第3 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明と周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-29 
結審通知日 2013-11-05 
審決日 2013-11-21 
出願番号 特願2009-553593(P2009-553593)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 毅  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 近藤 幸浩
西脇 博志
発明の名称 受動RFID素子、および受動RFID素子を含むコンポーネントならびに通信システム  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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