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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1286377
審判番号 不服2012-16526  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-24 
確定日 2014-03-31 
事件の表示 特願2006-128332「エバスチンを含有する錠剤」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月15日出願公開、特開2007-297348〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2006年5月2日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成24年3月27日受付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成24年6月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年8月24日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年3月27日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
エバスチンを、塩化メチレン:エタノールが0.1?0.5:1の比率となる混合有機溶剤であって、エバスチン1重量部に対して塩化メチレンを0.5?2重量部となる混合有機溶剤に溶解し、乳糖又はマンニトールの粉体粒子に噴霧吸着させて得られたエバスチン吸着粉体粒子を用いてなる、エバスチンを有効成分として含有する細粒剤、顆粒剤、カプセル剤或いは錠剤。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特表2003-518038号公報(以下「引用例1」という。)及び特許第3518601号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

[引用例1]
(ア)「【請求項1】 水溶性が著しく低いか実質的に非水溶性の化合物及びキャリヤ付形剤のナノ粒子の混合物を製造する方法であって、非水溶性か水溶性が著しく低い化合物を少なくとも1つの有機溶媒に溶解させた溶液を、該溶液から有機溶媒の実質量が除去される条件のもとでキャリヤ付形剤粒子の流動床に噴霧して、容積で重み付けした平均直径が3000nm以下である化合物のナノ粒子とキャリヤ付形剤との混合物を得ることからなる方法。」(請求項1)

(イ)「【請求項9】 前記化合物が、鎮痛剤、抗炎症剤、駆虫薬、抗不整脈剤、抗生物質、抗凝血剤、抗鬱剤、糖尿病薬、抗癲癇剤、抗ヒスタミン剤、降圧剤、抗ムスカリン剤、抗ミコバクテリア症剤、抗腫瘍剤、免疫抑制剤、抗甲状腺薬、抗ウィルス剤、抗不安鎮静剤、収れん剤、ベータアドレナリン受容体遮断剤、造影剤、コルチコステロイド、咳止め薬、診断薬、診断造影剤、利尿剤、ドーパミン作用剤、止血薬、免疫薬、脂質調整剤、筋弛緩剤、副交感神経様作用剤、副甲状腺カルシトニン、プロスタグランジン、放射線製剤、性ホルモン、抗アレルギー剤、興奮剤、交感神経様作用剤、甲状腺薬、血管拡張剤及びキサンチンから選択される、請求項1に記載の方法。」(請求項9)

(ウ)「 【0004】
化合物の有効性を促進するために、粒子の大きさをナノメートルの範囲にすることがしばしば有効である。特に、化合物が実質的に非水溶性であるか、殆ど水に溶けない時に有効である。ナノ粒子は比表面積が大きく、薬品物質の溶解速度と生物学的利用能、食品成分の消化率及び化粧品成分の機能的有効性を向上させる。特に、実質的に非水溶性か、殆ど水に溶けない薬剤に関して、粒子を小さくすることにより溶解速度が上昇し、結果として物質の生物学的利用性も向上することが分かっている。」( 【0004】)

(エ)「 【0034】
キャリヤ付形剤として使用される糖及び糖アルコールには、分子量が500未満で、水に容易に分散又は溶解することで活性剤の溶解速度を高める糖又は糖アルコールが含まれる。本発明に使用できる糖及び糖アルコールの例としては、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、アラビノース、リボース、キシロース、ブドウ糖、マンノース、ガラクトース、スクロース、乳糖等が挙げられる。それらは単体でも、これら化合物の2つ以上の混合物でも使用できる。最適な糖は、粒子の大きさが約10μmから約3mmの範囲の、噴霧乾燥した乳糖である。」(【0034】)

(オ)「 【0040】
水溶性が著しく低いか実質的に非水溶性の薬品の好適な分類はステロイドであり、・・・。最適なステロイドは、3α-ヒドロキシ-3β-メチル-5α-プレグナン-20-オン(ガナクソロン(ganaxolone))、・・・である。・・・本発明に従って処理される化合物は、非水性溶媒の混合物及び非水溶性溶媒と水溶性溶媒の混合物を含め、非水性の溶媒又は混合溶媒に溶解可能である。有用な非水性溶媒には、アルコール、ハロゲン化アルカン、ジアルキルケトン及び芳香性の溶媒がある。有用な溶媒の例としては、エタノール、好適には95%エタノール、イソプロピルアルコール、メチレンクロライド、クロロフォルム、アセトン、メチルエチルケトン及びトルエンが挙げられる。
【0041】
複数の非水性溶媒の混合を使用し、物質の溶解性を高めるか、又は低い沸点を有する溶媒の揮発性を低下させることができる。」(【0040】?【0041】)

(カ)「 【0053】
本発明により得られた微粉薬品は、1つ以上の製薬的に使用可能な付形剤及び/又は揮発剤を使用して、粉末、錠剤、顆粒、カプセル・・等にすることができる。」(【0053】)

(キ)「 【0058】
最適な実施形態においては、薬品物質の溶液、つまりエタノール(アルコールUSP)にガナクソロン(ganaxolone)を混ぜたものを、加熱し流動化した噴霧乾燥した乳糖NFからなる床に噴霧する。ガナクソロンはナノ粒子の大きさで乳糖に堆積する。」(【0058】)

[引用例2]
(ク)「 これらの組成物、およびさらにより詳細には以下の化合物は式が


式(I)
であり、国際的に承認されている名前はエバスタイム(ebastime)、または4-ジフェニルメトキシ-1-[3-(4-tert-ブチルベンゾイル)プロピル]ピペリジンであり、固体剤形中に配合された時にはきわめて平凡なバイオアベイラビリティーを表す。この不十分なバイオアベイラビリティーは一部水溶性の悪さに関連している。従って上記の特許に記載されている粗出発材料からは人が使用でき、かつ正しいバイオアベイラビリティーを表し、そして最終的には正しい生物活性を表す固体剤形中への配合は困難である。式(I)の化合物は塩の形で、およびより具体的には乳酸塩の形で、pH2において至適な溶解性を有し、これは0.8mg/mlに等しいが、塩基性の塩をつくっていない形の式(I)の化合物はさらに溶解性が低い。
これらの化合物は抗ヒスタミンH1活性を有し、呼吸、アレルギー性または心臓血管疾患を治療するために有効である。すなわちそれらはインビボおよびインビトロで血管および気管支平滑筋を弛緩させる。」(第4欄28行?42行)

4.引用発明
引用例1には、上記「3.」の「引用例1」の摘示の記載、特に、
非水溶性か水溶性が著しく低い化合物を少なくとも1つの有機溶媒に溶解させた溶液を、該溶液から有機溶媒の実質量が除去される条件のもとでキャリヤ付形剤粒子の流動床に噴霧して、容積で重み付けした平均直径が3000nm以下である化合物のナノ粒子とキャリヤ付形剤との混合物を得ること(摘示(ア)参照)、
該キャリヤ付形剤粒子として乳糖を使用できること(摘示(エ)参照)、
得られた微粉薬品(即ち、前記の混合物)を錠剤、顆粒、カプセルなどとすること(摘示(カ)参照)、
水溶性が著しく低いか実質的に非水溶性の薬品(化合物)としてガナクソロンを例にとり、噴霧乾燥により、薬品(化合物)のエタノール溶液を、流動化した乳糖に噴霧し乾燥することにより薬品(化合物)が乳糖に堆積すること(摘示(オ)、(キ)参照;なお、この実施例の例は、摘示(ア)に従った実施例である)
が記載されていることに鑑み、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

「非水溶性か水溶性が著しく低い化合物を少なくとも1つの有機溶媒に溶解させた溶液を、該溶液から有機溶媒の実質量が除去される条件のもとで乳糖の流動床に噴霧し、堆積させ、容積で重み付けした平均直径が3000nm以下である化合物のナノ粒子とキャリヤ付形剤との混合物(微粉薬品)を得て、それを、付形剤及び/又は揮発剤を使用し、顆粒、カプセル、錠剤としたもの。」

5.対比
本願発明と引用発明を対比する。
(a)引用発明の「有機溶媒」は、本願発明の「有機溶剤」に相当する。
(b)引用発明で用いる化合物として、「鎮痛剤、抗炎症剤、駆虫薬、抗不整脈剤、抗生物質、抗凝血剤、抗鬱剤、糖尿病薬、抗癲癇剤、抗ヒスタミン剤、・・・」などが例示されており(摘示(イ)参照)、これらは「有効成分」といえることは明らかである。
(c)本願発明に用いる「エバスチン」は「水に対する溶解性が低い」(本願【0003】参照)ことから、該「エバスチン」と引用発明の「非水溶性か水溶性が著しく低い化合物」は、「水溶性が低い化合物」で共通する。
(d)引用発明において、「糖は、粒子の大きさが約10μmから約3mmの範囲の、噴霧乾燥した乳糖」(摘示(エ))と記載されているところ、噴霧乾燥された特定粒径の乳糖の粒子とは、乳糖の「粉体粒子」であるといえる。
(e)引用発明において乳糖に化合物を「噴霧し、堆積させ」ることは、化学反応などを伴わずに乳糖表面に化合物が配置されている状態であり、本願発明の「噴霧吸着」と同じ意味であると解される。そうであるから、「混合物(微粉薬品)」は、「化合物吸着粉体粒子」といえる。
ところで、引用発明では「乳糖の流動床」を用い、有機溶媒の実質量が除去される条件のもとで噴霧を行うことが特定されているが、本願発明では、具体的態様として「流動層造粒乾燥機」を用い、「粉体粒子」を得るのであるから(請求項2等参照)、その点で、両発明に、実質的な相違があるとは認められない。
(f)引用発明では「容積で重み付けした平均直径が3000nm以下である化合物のナノ粒子とキャリヤ付形剤との混合物(微粉薬品)」と特定されているところ、本願発明にはそもそも粒径についての特定はされておらず、任意の大きさを取り得ると解するのが相当であるから、その特定は、本願発明との相違点であるとは認められない。後記「6.」における、「(審判請求人の主張について)」も参照できる。

そうすると、両発明は、
「水溶性が低い化合物を有機溶剤に溶解し、乳糖の粉体粒子に噴霧吸着させて得られた化合物吸着粉体粒子を用いてなる、前記化合物を有効成分として含有する顆粒剤、カプセル剤、或いは錠剤」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
1.「水溶性の低い化合物」について、本願発明では、「エバスチン」と特定されているのに対し、引用発明では、「非水溶性か水溶性が著しく低い化合物」であるとされている点(以下、「相違点1」という)
2.「有機溶剤」について、本願発明では、「塩化メチレン:エタノールが0.1?0.5:1の比率となる混合有機溶剤であって、エバスチン1重量部に対して塩化メチレンを0.5?2重量部となる混合有機溶剤」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点(以下、「相違点2」という)

6.判断
上記相違点1、2について検討する。
(相違点1について)
「非水溶性か水溶性が著しく低い化合物」の例として、引用例1には、抗ヒスタミン剤が挙げられている(摘示(イ))。
ところで、引用例2には式(I)化合物であるエバスタイムが記載されているところ(摘示(ク))、該構造式は本願発明のエバスチンと同一の構造式であり(必要であれば特表2001-526232号公報(【0010】、【0011】参照)、エバスタイムとは即ち本願発明のエバスチンと同一の化合物を意味していると認められる(なお、その化合物エバスタイムの構造式名称と、本願発明に用いるエバスチンの構造式名称は異なっているが、単に表記上の差異にすぎない。)。そして、引用例2には、エバスタイム、即ち、「エバスチン」が抗ヒスタミンH1活性を有し、呼吸、アレルギー性または心臓血管疾患を治療するために有効であること、即ち、抗ヒスタミン剤として用いられることや、一般に知られている医薬であることが記載され、また、エバスチンは水溶性が悪いことも記載されている。即ち、「エバスチン」が抗ヒスタミン剤として周知であり、「水溶性が低い」ことが理解できる。ところで、「エバスチン」がエタノールなどの有機溶媒に溶けることは引用例2に明示されていないけれども、一般に水に溶けない薬であっても、有機溶媒に溶ける場合が多いことが知られているし、それよりも、「エバスチン」が、氷酢酸、エーテル、アセトニトリル、メタノール、エタノールなどの溶剤に溶けることは、本願出願時に周知の事項である(必要であれば、医療薬日本医薬品集、株式会社じほう、2001年、p.398?399「エバスチン」の欄参照)。
そうすると、引用発明において、「非水溶性か水溶性が著しく低い化合物として「エバスチン」を採用することは、当業者が容易になし得たことに過ぎない。ここで、水溶性について、引用例2の「低い」と引用例1の「著しく低い」は、単なる表現上の差異に過ぎないと認める。

(相違点2について)
引用例1には、溶媒として複数の非水性溶媒の混合物を使用することができること、及び、溶剤の例としてエタノール、メチレンクロライド(塩化メチレンの別称)が記載されている(摘示(オ))。そして、上記記載のとおり、エバスチンがエタノールに溶解することは知られており、塩化メチレンも有機物質の溶剤として知られている(必要であればマグローヒル科学技術用語大辞典第3版、1996年、株式会社日刊工業新聞社発行 p.183「塩化メチレン」の欄参照)。そうすると、引用発明において、溶剤としてエタノールと塩化メチレンの混合有機溶剤を用いることは、当業者が容易に採用しうる態様の1つに過ぎず、それら溶剤の混合比や化合物との量比は、通常検討し、設定する事項に過ぎない。
よって、有機溶剤として塩化メチレン:エタノールが0.1?0.5:1の比率となる混合有機溶剤であって、エバスチン1重量部に対して塩化メチレンを0.5?2重量部となる混合有機溶剤を用いてみることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、そのような混合溶剤系を採用したことによって、他の有機溶剤系を採用した場合に比べ、格別に優れたものが得られているとは認められない。
そして、噴霧乾燥段階において溶媒が全て揮発することからすると、エバスチンを溶解できる溶剤にエバスチンを溶かし、乳糖に噴霧し乾燥したものは、溶媒如何にかかわらず、「塩化メチレン:エタノールが0.1?0.5:1の比率となる混合有機溶剤であって、エバスチン1重量部に対して塩化メチレンを0.5?2重量部となる混合有機溶剤」に溶かして乳糖に噴霧乾燥して得られるものと、最終目的物である「物」として区別できる理由を見いだせない。

(審判請求人の主張について)
審判請求人は、審判請求理由において、引用例1記載の発明において得られるものは粒径が3000nm以下であり、本願実施例の28μm、30μmとは大きく異なるため、「物」として異なる旨主張している。
しかし、そもそも本願発明に粒径の規定はなく、28μm、30μmとの粒径は実施例に記載されている例に過ぎず、他の粒径であることを何ら妨げるものではないため、請求人の主張には理由がない。仮に、検討したところで、28μm、30μmの粒径は、エバスチンが吸着された粉体粒子の平均粒子径であるところ、請求人の主張する引用例1における「3000nm以下」(即ち、3μm以下)とは「水溶性の著しく低い化合物」の粒径であり、乳糖などのキャリヤに吸着された粒子の粒径ではないから、請求人の主張は前提において誤っている。そして、引用例1には、乳糖などのキャリヤの粒径は10μm?3mmであることが記載されているところ(摘示(エ))、そのような乳糖に3000nm以下の化合物を吸着させたものは、28μm、30μm程度を包含すると認められ、両者に差異があるとはいえない。

以上の通りであるから、引用発明において、水溶性が著しく低い化合物としてエバスチンを選択し、更に有機溶剤として塩化メチレン:エタノールが0.1?0.5:1の比率となる混合有機溶剤であって、エバスチン1重量部に対して塩化メチレンを0.5?2重量部となる混合有機溶剤を用いてみることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、その効果も格別なものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用例2の記載を勘案し、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


7.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-29 
結審通知日 2014-02-05 
審決日 2014-02-18 
出願番号 特願2006-128332(P2006-128332)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 浩平  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 渕野 留香
増山 淳子
発明の名称 エバスチンを含有する錠剤  
代理人 草間 攻  

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