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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1286435
審判番号 不服2011-9156  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-28 
確定日 2014-04-03 
事件の表示 特願2001-106905「エストロゲンレセプター遺伝子およびその利用」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月25日出願公開、特開2001-352992〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成13年4月5日(優先日 平成12年4月7日、特願2000-106253号)の出願であって、平成22年12月15日付けで手続補正書が提出されたが、平成23年1月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年4月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年4月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成23年4月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)により、本件補正前の請求項1は、補正後、以下のとおり補正された。

本件補正前:
「【請求項1】
以下の(a)?(c)のいずれかのエストロゲンレセプターをコードする遺伝子。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちのアミノ酸番号153?602で表されるアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプター。
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプター。
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちのアミノ酸番号153?602で表されるアミノ酸配列に対して95%以上のアミノ酸同一性を示すアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプター。」

本件補正後:
「【請求項1】
以下の(a)または(b)のエストロゲンレセプターをコードする遺伝子。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちのアミノ酸番号153?602で表されるアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプター。
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプター。」

2.補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1に択一的に記載された(a)?(c)のエストロゲンレセプターの選択肢の中から、「(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちのアミノ酸番号153?602で表されるアミノ酸配列に対して95%以上のアミノ酸同一性を示すアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプター」を削除するものであり、択一的記載の要素の削除に該当するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶理由に引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるComp.Biochem.Physiol.B Biochem.Mol.Biol.,Vol.125,No.3(2000.Mar.)p.379-385(以下、「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する)。

ア.「大西洋サケ(Salmo salar)エストロゲンレセプター(ER)の大部分をコードするcDNAクローンが肝cDNAライブラリーから得られ、遺伝子のコード配列の残りは、ゲノムライブラリーから単離された。コードされた遺伝子がER-αに相当することが配列比較により示された。」(第379頁第1行?第3行、要約)

イ.「クラスタルWアルゴリズム(Thompsonら、1994)が、大西洋サケER-αの予想されるアミノ酸配列と、ニジマス(Pakdelら、1990)、マダイ(Touhataら、1997)、ティラピア(Tanら、1996)、メダカ(Genbankアクセッション番号P50241)、アフリカツメガエル(Weilerら、1987)、ニワトリ(Krustら、1986)及びヒト(Greenら、1986)由来のER-α配列、ヒト(Ogawaら、1998)、ニホンウナギ(Todoら、1996)由来のER-β配列とのアライメント(図2)を作るために用いられた。・・・・・・・・・・・・予想されたように、すべてのER配列のDNA結合ドメインは、非常によく保存されていた。」(第381頁右欄第5行?第23行)

ウ.「

図1.サケER-αのヌクレオチド配列及び予想されるアミノ酸配列。・・・・・・」(第382頁、図1)

エ.「

図2.大西洋サケ(sERα)、ニジマス(rtERα)、マダイ(rsbERα)、ティラピア(tERα)、メダカ(mERα)、アフリカツメガエル(xERα)、ニワトリ(cERα)及びヒト(hERα)由来のER-αのアミノ酸配列、ヒト(hERβ)、ニホンウナギ(jeERβ)由来のER-βのアミノ酸配列のアライメント。・・・・・・サケER-α配列と同一の残基は、アスタリスク(*)で表される。」(第383頁、図2)

上記ア.?エ.の記載によれば、引用例1には、大西洋サケ由来の、引用例1の図1で示されるアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプターをコードする遺伝子の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

また、原査定の拒絶理由に引用文献2として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるChemosphere,Vol.38,No.15(1999)p.3579-3596(以下、「引用例2」という)には、以下の事項が記載されている。

オ.「雄のファットヘッドミノー(Pimephales promelas)が、連続フロー系においてエストラジオール-3-グルクロニドに連続的にさらされた場合に、本来のエストロゲン活性を示さなかった。しかし、魚が汚水処理工程の研究室模擬実験から生じた汚水(エストラジオール-3-グルクロニドが追加された)にさらされた場合に、エストロゲン活性が観察された。このことは、微生物活性がステロイド代謝物をより強力なエストロゲンに分解できることを示唆している。」(第3579頁第4行?第8行、要約)

カ.「本研究では、代表的な複合体化したエストロゲン代謝物として、エストラジオール-3-グルクロニド(E2-3-glu)の魚に対するエストロゲン効果を調べた。」(第3580頁下から第7行?第6行)

(3)対比
本願補正発明の「配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプター」とは、本願明細書の段落【0003】の「水生動物のモデル動物であるファットヘッドミノーからエストロゲンレセプター遺伝子を単離することに成功し、本発明に至った。 すなわち、本発明は、1)以下の(a)?(c)のいずれかのエストロゲンレセプターをコードする遺伝子(以下、本発明遺伝子と記す。)、(a)・・・・・・(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプター。」という記載から、ファットヘッドミノー由来のものであるから、本願補正発明は、ファットヘッドミノー由来の、「配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプターをコードする遺伝子」を一つの態様とするものであると認められる。
そうすると、本願補正発明(以下、「前者」という)と引用発明(以下、「後者」という)とを対比すると、両者は、「エストロゲンレセプターをコードする遺伝子」である点で一致し、エストロゲンレセプターが、前者では、ファットヘッドミノー由来の、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するものであるのに対し、後者では、大西洋サケ由来の、引用例1の図1で示されるアミノ酸配列を有するものである点で相違する。

(4)当審の判断
あるタンパク質をコードする遺伝子が複数の生物からクローニングされている場合に、上記遺伝子間で保存性が高い領域のアミノ酸配列に基づいて設計したプライマーを用いて、上記タンパク質と対応する別の生物由来のタンパク質をコードする遺伝子をクローニングすることは本願優先日前周知技術である(必要ならば、中山広樹編「バイオ実験イラストレイテッド 本当にふえるPCR」(株)秀潤社、1999年発行、「degenerate PCR法」、第121頁?第125頁(以下、「周知例」という)参照)。
引用例2には、ファットヘッドミノーを用いてエストロゲン活性を調べることが記載されており(上記記載事項オ.、カ.)、また、引用例1には、大西洋サケ、ニジマス、マダイ、ティラピア、メダカという複数の魚にエストロゲンレセプターをコードする遺伝子が存在することが示されている(上記記載事項イ.)から、文献2に記載されているファットヘッドミノーにも、エストロゲンレセプターをコードする遺伝子が存在することは、当業者であれば予想することができる。
そうすると、引用例1に記載されている魚のエストロゲンレセプターの保存性が高い領域のアミノ酸配列及び大西洋サケのエストロゲンレセプター遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いて、ファットヘッドミノーから調製したcDNAライブラリーから、ファットヘッドミノー由来の、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエストロゲンレセプターをコードする遺伝子をクローニングすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願明細書の記載をみても、本願補正発明が、引用例1?2の記載から当業者が予測出来ない程の格別顕著な効果を奏するとは認められない。

(5)審判請求人の主張
審判請求人は、平成23年4月28日付けの審判請求書において、以下のア.?ウ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア.文献1の図2には、5種類の魚のERαのアミノ酸配列が記載されており、それらの間で保存性の高い領域を把握することはできるものの、5種類の魚のERαの塩基配列が具体的に記載されていないので、図2のアライメント表をもとに対応する塩基配列を決定できないから、保存領域の配列をもとにプライマーを設計することは、当業者といえども容易なことではない、PCRにより目的遺伝子を取得するには、プライマーが結合可能な長さに渡って、大西洋サケの塩基配列とファットヘッドミノーの塩基配列とが完全に一致することが必要なところ、両者のアミノ酸配列が保存されている領域においてさえ、本願実施例1で用いた27塩基のプライマーが結合可能な長さに渡って完全に一致した領域は全く存在しないから、上記保存領域から塩基配列が連続して完全一致した領域を選択するには、当業者といえども過度の試行錯誤を要するものである。

イ.エストロゲンレセプターには哺乳動物では2種類(ERαおよびERβ)、魚類では3種類(ERα、ERβ、ERβ2(γ))の分子種の存在が知られているところ、文献2に記載された方法は、個別のER分子種の影響を調べた測定方法ではなく、文献2では、ファットヘッドミノーのERα遺伝子およびERαについての記載は何ら存在していないから、文献2の記載から、ERα遺伝子および本発明のファットヘッドミノーのERαを取得することが、必ずしも公知の課題とはいえない。

ウ.参考文献1には、ファットヘッドミノーのERαが、文献1の図2に記載の魚類(大西洋サケ、ニジマス、マダイ、ティラピア又はメダカ)のERαに対して、変異スコア的に最も類似性が低い値を示すことが記載されており、大西洋サケの保存領域の塩基配列を基に、本発明に係る遺伝子を取得することが決して容易とはいえない以上、仮に、他の魚類(ニジマス、マダイ、ティラピア又はメダカ)や、鳥類・哺乳類のERαの保存領域の塩基配列を参酌して、当該配列に基づいてプライマーを設計したとしても、変異スコア的に大西洋サケと同程度の類似性あるいはさらに低類似性を示すことを勘案すると、本発明に係る遺伝子を取得することは、必ずしも容易であるとはいえない。

主張ア.について
ある生物由来のあるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を基に別の生物の対応するタンパク質をコードする遺伝子を取得する場合に、コドンの組合せを考慮した縮重プライマーを用いることも本願優先日前周知技術であり(必要ならば、上記周知例参照)、また、設計したプライマーと標的とする遺伝子の塩基配列が「完全に一致」する必要性はなく、設計したプライマーと標的とする遺伝子がハイブリダイズするのに最適な条件を決定することも本願優先日前周知技術である(必要ならば、上記周知例参照)から、審判請求人の上記主張は採用できない。また、上記(4)で述べたとおり、文献1のアライメント表から把握できる保存領域のアミノ酸配列及び大西洋サケのERα遺伝子の塩基配列の情報から、本願補正発明のファットヘッドミノーのERα遺伝子を取得することは、当業者が容易になし得ることであるが、大西洋サケ以外の魚のERαについても、Genbankのアクセッション番号や参照文献の記載(上記記載事項イ.)から、それらの塩基配列を参照することは可能であるから、それらの塩基配列の情報を参考にしてプライマーを設計することも、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

主張イ.について
文献2に、エストロゲンレセプターの個別のER分子種について記載されていなくても、文献1には、様々な魚類においてERαが存在することが記載されているから、文献2に記載されているファットヘッドミノーに、ERαに相当する遺伝子が存在することを予想することは十分に可能であるから、審判請求人の上記主張は採用することができない。

主張ウ.について
文献1に、ファットヘッドミノーのERαの全長のアミノ酸配列が、文献1の図2に記載の魚類(大西洋サケ、ニジマス、マダイ、ティラピア又はメダカ)のERαの全長のアミノ酸配列に対して変異スコア的に最も類似性が低い値を示すことが記載されていたとしても、PCRにより目的遺伝子を取得するには、文献1のアライメント表から把握できる保存領域のアミノ酸配列の情報を基にプライマーを設計すればよく、必ずしも全長のアミノ酸配列間に高い配列同一性を有することが必要とされないから、審判請求人の上記主張は採用できない。また、大西洋サケのERαのアミノ酸配列と本願補正発明のファットヘッドミノーのERαのアミノ酸配列とは、約67%の配列同一性を有し、上記保存領域のアミノ酸配列間ではそれ以上の極めて高い配列同一性を示すから、上記保存領域の大西洋サケの塩基配列を基に、本願補正発明のファットヘッドミノーのERα遺伝子を取得することに技術的困難性があったとは認められない。

したがって、審判請求人の上記主張はいずれも採用できない。

3.小括
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例1?2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年4月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?22に係る発明は平成22年12月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?22に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記第2 1.に「本件補正前」として記載したとおりのものである。

2.当審の判断
上記第2 2.で述べたとおり、上記補正は、択一的記載の要素の削除に該当するものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものであることは明らかである。
そして、上記第2 3.で述べたとおり、本願補正発明は、引用例1?2及び周知技術に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用例1?2及び周知技術に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例1?2及び周知技術に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-03 
結審通知日 2014-02-04 
審決日 2014-02-17 
出願番号 特願2001-106905(P2001-106905)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 悠美子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 高堀 栄二
田中 晴絵
発明の名称 エストロゲンレセプター遺伝子およびその利用  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

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