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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正する C08J
管理番号 1286727
審判番号 訂正2013-390230  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2013-12-25 
確定日 2014-02-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4962643号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4962643号に係る明細書及び特許請求の範囲を審判請求書に添付された明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1.手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第4962643号(以下、「本件特許」という。)は、平成23年9月28日にした出願(特願2011-212067号)の請求項1?13に係る発明について、平成24年4月6日に特許権の設定登録がなされたものである。そして、本件審判は、平成25年12月25日に請求されたものである。

第2.請求の趣旨
本件審判の請求の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書と特許請求の範囲(以下、まとめて「本件特許明細書」という。)を、平成26年2月5日付けの手続補正書により補正された審判請求書に添付した明細書と特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものである。

第3.訂正の内容
本件審判の請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。)

本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び明細書段落[0016]において、
「極大波長(b)」とあるのを、「極大波数(b)」と訂正する。

第4.当審の判断
1.訂正の目的、及び、新規事項の追加と特許請求の範囲の拡張/変更の有無について
本件特許明細書には、「波数」及び「波長」に関して、以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。
ア. 「・・・多孔体であって、前記多孔体の孔径の10倍以上100倍以下の長さを一辺とする正方形の視野で撮影された顕微鏡画像をフーリエ変換して得られる、横軸が波数、縦軸が強度からなるグラフの曲線において、ピーク半値幅(a)、該ピークの極大波長(b)とするとき0<(a)/(b)≦1.2である多孔体。」(請求項1、【0016】)

イ. 「得られた電子顕微鏡画像をフーリエ変換し、波数を横軸に強度を縦軸にプロットした際の極大値波数を求め、その逆数から孔径を得るものとする。」(【0022】)

ウ. 「多孔体中の連続孔の孔径は均一であることが好ましく、大小さまざまな孔径があるような不均一な場合は分離特性が低下するおそれがあり好ましくない。孔径の均一性は横軸に孔径、縦軸にその孔径を有する連続孔の数をプロットした曲線のピーク半値幅で判断できる。すなわち、孔径が均一な膜の場合、曲線はシャープなピークを形成し、半値幅は狭くなる。一方、孔径が不均一な場合には曲線はブロードなピークを形成し、半値幅は広くなる。この、横軸に孔径、縦軸に孔数をプロットしたグラフのピーク半値幅による孔径均一性評価は、横軸である孔径の逆数、すなわち波数としても同様の評価が可能であることから、多孔体の電子顕微鏡画像をフーリエ変換したグラフを用いて評価するものとする。ここで、フーリエ変換に用いる電子顕微鏡画像は、上記の孔径測定に用いた画像を用いることとする。また、ピークの半値幅はピーク極大波数の増加に伴い増大する傾向にあるので、ピークの半値幅(a)、ピーク極大波数(b)とから計算される(a)/(b)の値を孔径の均一性評価の指標とした。優れた分離特性を発現するためには、孔径均一性は高い方が好ましく、前記(a)/(b)の値においては1.2以下であることが好ましく、1.1以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。また、ポリマーアロイの構造は均一である程良いので、(a)/(b)の下限値は特に限定されない。」(【0023】)

エ. 「波数を横軸に強度を縦軸にプロットしたグラフのピーク波数と半値幅から孔径と均一性の指標である(a)/(b)を求めた。」(【0068】、【0073】、【0075】、【0078】)

摘示ア.?エ.には、本件特許の多孔体を特定するためのグラフとして、波数を横軸、強度を縦軸とするグラフを用い、当該グラフの極大値(ピーク)を用いることが記載されている。波数を横軸、強度を縦軸とするグラフである以上、当該グラフにおけるピークは、波数と強度とを用いて表すのが通常である。また、摘示ア.(本件訂正)の「極大波長」との記載以外は、全て「極大波数」あるいは極大波数を意味する語が用いられている(「極大値波数」(摘示イ.)、「ピーク極大波数」(摘示ウ.)、「ピーク波数」(摘示エ.))。よって、本件特許明細書における「極大波長」との記載が「極大波数」の誤記であることは明らかである。
また、本件訂正は、本件特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当し(特許法第126条第1項ただし書第2号)、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

2.独立特許要件について
以上のとおり、本件訂正は、誤記の訂正を目的とするものであるから、訂正後の請求項1に係る発明、及び、請求項1を直接または間接的に引用する請求項2?13が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)訂正後の請求項1に係る発明
訂正後の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「連続孔を有し、該連続孔の孔径が0.001μm以上500μm以下であり、少なくとも一つの表面の開孔率が10%以上80%以下であるポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体であって、前記ポリメチルメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合が10重量%未満であり、前記多孔体の孔径の10倍以上100倍以下の長さを一辺とする正方形の視野で撮影された顕微鏡画像をフーリエ変換して得られる、横軸が波数、縦軸が強度からなるグラフの曲線において、ピーク半値幅(a)、該ピークの極大波数(b)とするとき0<(a)/(b)≦1.2である多孔体。」(以下、「訂正発明」という。)

(2)引用文献及び引用文献の記載
本件特許公報には参考文献として5つの刊行物が挙げられ、本件の審査における平成24年1月6日付け拒絶理由通知にも同じ刊行物が先行技術文献として記載されている。そこで、参考文献として挙げられた刊行物のうち、筆頭にあげられた刊行物(下記引用文献)について、訂正発明が特許法第29条第1項及び同法第29条第2項に規定する特許要件を満たすかを検討する。
引用文献:特開昭63-248405号公報

引用文献には、下記の記載がある。
オ. 「(1)少なくとも一方の表面において膜面に対して実質的に垂直に開孔した孔が、平均孔径を0.01?100μm、長径/短径の比を1.0?2.0、孔径変動係数を0?50%として開孔率20?80%の割合で存在し、多孔質膜全体の空孔率が20?90%であることを特徴とするフィルム成形可能な重合体からなる多孔質膜。
(8)フィルム成形可能な重合体が(メタ)アクリル酸エステル系重合体、又は(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含む重合体ブレンド物である特許請求の範囲第1?6項記載の多孔質膜。」(特許請求の範囲 請求項1及び8)

カ. 「本発明の多孔質膜において、ストレート孔層の表面に存在する孔(以下「表面孔」という)は、形状が円形又は楕円形であって長径/短径の比は1.0?2.0であり、その孔径変動係数は0?50%である。またその平均孔径は0.01?100μmの範囲である。ここに、各々の表面孔についての長径と短径の相加平均値をその表面孔の孔径といい、表面孔の平均孔径とはN個の表面孔の孔径の相加平均値をいう。通常Nの値は100が採用される。また、孔径変動係数とは表面孔の孔径について以下の式で示される値をいう。
(標準偏差/平均孔径)×100(%)
長径/短径の比が2.0より太きいと、ろ過物質(当審注:「ろ」の引用文献の表記は、さんずいに「戸」の漢字。以下、同じ。)が球状でない場合やろ過時にろ過物質が形状変化する場合に分画特性が低下するので好ましくなく、また、孔径変動係数が50%より大きいと分画特性が低下するので好ましくない。平均孔径が0.01μmより小さいものは充分な透過率が得られないので好ましくなく、100μmより大きいものは実用的でない。
孔径変動係数は0?40%であることがより好ましい。」(第3頁右上欄第8行?左下欄第10行)

キ. 「本発明におけるフィルム成形可能な重合体とは、有機溶剤に可溶で水に不溶な重合体であってその溶液が流延可能なものをいう。その例として・・・、ポリメチルメタクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、・・・、あるいはこれらの共重合体を挙げることができ、耐熱性、耐薬品性等を考慮してそれぞれの目的にかなった重合体を適宜選択使用することができる。
又本発明においては重合体(共重合体も含む)は単独系のみならず互に相溶性のある2種以上の重合体のブレンド物を用いることができる。」(第4頁右上欄第6行?左下欄第10行)

ク. 「本発明の多孔質膜の製造方法について述べる。製膜方法として種々の方法を採用しうるが好ましい方法として以下に掲げる蒸気凝固法を挙げることができる。
ここで蒸気凝固法とは、フィルム成形可能な重合体を良溶媒に溶解した重合体溶液からなる薄膜状物の少なくとも一方の表面に、前記良溶媒と相溶性があり前記重合体を溶解しない貧溶媒の飽和蒸気又はミストを含む蒸気を強制的に供給する製膜方法をいう。」(第4頁右下欄第3?12行)

ケ. 「実施例1
テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデンが20/80(mol/mol)からなる共重合体60部をメチルメタクリレート40部に溶解させ窒素雰囲気中85℃で15分間保持することによってメチルメメクリレートを重合し重合体組成物を得た。この重合体組成物100部をメチルエチルケトン1900部に溶解することによって重合体溶液を調整し、続いてフィルム作製用アプリケーターを用いてガラス板上に厚み254μmに流延し、重合体溶液の薄膜状物を形成した。
次いで3kg/cm^(2)の飽和水蒸気を有する配管のバルブを開き、該薄膜状物の表面に飽和水蒸気に20秒間接触させて重合体を凝固させた。・・・
走査型電子顕微鏡を用いて該多孔質膜の表面及び膜面に垂直な断面を観察した。
蒸気に接触された表面には孔径がそろった長径/短径の比が2.0以下の円形又は楕円形の微細孔がみられ、該表面側の膜面に垂直な断面には孔径変化が殆んどないストレート孔が観察された。また膜の内部から他方の表面にかけてはボイド層が観察され、表面におけるボイドの孔径は10?50μmであった。
ストレート孔の曲路比、変化比を測定し、ストレート孔層の表面に存在する孔について長径/短径の比、平均孔径、孔径変動係数、開孔率を測定し、又多孔質膜全体の空孔率を測定した。これらの結果を第1表に示した。
・・・
実施例4及び5
ポリメチルメタクリレート100部とメチルエチルケトン900部からなる重合体溶液を用い、実施例1と同様にして薄膜状物を形成させた。
・・・多孔質膜を得、第1表の結果を得た。
実施例6
ポリフッ化ビニリデン60部及びポリメチルメタクリレート60部、メチルエチルケトン880部からなる混合物を85℃に加熱して重合体溶液を調製し、実施例1と同様にして薄膜状物を形成させた。・・・多孔質膜の性能を評価し、第1表の結果を得た。
実施例7
テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデンが20/80(mol/moL)からなる共重合体40部をメチルメタクリレート60部に溶解させ窒素雰囲気中85℃で15分間保持することによってメチルメタクリレ-トを重合し重合体組成物を得た。この重合体組成物100部をメチルエチルケトン1900部に溶解することによって重合体溶液を調整し、続いて実施例1と同様にして薄膜状物を形成させた。
・・・
このようにして得られた多孔質膜の構造等を評価し、第1表に示した。
実施例8?12
それぞれ第2表の組成の重合体溶液を用い、・・・多孔質膜を製造し、その構造等を測定して第1表に示した。
・・・
実施例13
重合体溶液としてはテトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデンが20/80(mol/mol)からなる共重合体40部とポリメチルメタクリレート60部をメチルエチルケトン1565部に溶解したものを用いた。
このようにして得られた膜の構造等を測定しその結果を第1表に示した。」(第7頁右下欄第2行?第9頁右上欄第4行)

コ. 「

」(第1表)

サ. 「

」(第2表)

(3)引用文献に記載された発明
摘示オ.の記載から、引用文献には、
「少なくとも一方の表面において膜面に対して実質的に垂直に開孔した孔が、平均孔径を0.01?100μm、長径/短径の比を1.0?2.0、孔径変動係数を0?50%として開孔率20?80%の割合で存在し、多孔質膜全体の空孔率が20?90%であるフィルム成形可能な重合体からなる多孔質膜であって、フィルム成形可能な重合体が(メタ)アクリル酸エステル系重合体、又は(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含む重合体ブレンド物である多孔質膜。」(以下、「引用発明」という。)
の発明が記載されている。

(4)対比
引用発明の「(メタ)アクリル酸エステル系重合体、又は(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含む重合体ブレンド物」について、摘示キ.には、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、あるいはこれらの共重合体を用いることができることが記載されており、摘示ケ.には、具体的に、ポリメチルメタクリレートからなる多孔質膜(実施例4及び5)、ポリメチルメタクリレートを50%以上含有する共重合体からなる多孔質膜(実施例6、7、8、13)が記載されている。また、「多孔質膜」が「多孔体」であることは明らかである。よって、引用発明の「フィルム成形可能な重合体が(メタ)アクリル酸エステル系重合体、又は(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含む重合体ブレンド物である多孔質膜」は、訂正発明の「ポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体」に相当している。
引用発明における「少なくとも一方の表面において膜面に対して実質的に垂直に開孔した孔」は、摘示カ.の記載からみて、訂正発明における「連続孔」に相当し、その「孔径平均孔径」「0.01?100μm」は、訂正発明における「連続孔の孔径が0.001μm以上500μm以下」と重複一致している。
引用発明の「開孔率20?80%」は、「少なくとも一方の表面において膜面に対して実質的に垂直に開孔した孔」についての特定であるので、訂正発明における「少なくとも一つの表面の開孔率が10%以上80%以下」と重複一致している。
したがって、両者は、
「連続孔を有し、該連続孔の孔径が0.001μm以上500μm以下であり、少なくとも一つの表面の開孔率が10%以上80%以下であるポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体である多孔体。」
である点で一致し、以下の相違点1及び2で相違している。

相違点1 訂正発明は、「ポリメチルメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合が10重量%未満」と特定されているのに対し、引用発明にはそのような特定がなされていない点。

相違点2 訂正発明は、「多孔体の孔径の10倍以上100倍以下の長さを一辺とする正方形の視野で撮影された顕微鏡画像をフーリエ変換して得られる、横軸が波数、縦軸が強度からなるグラフの曲線において、ピーク半値幅(a)、該ピークの極大波数(b)とするとき0<(a)/(b)≦1.2である」点(以下、「極大ピーク事項」という。)が特定されているのに対し、引用発明にはそのような特定がなされていない点。

(5)相違点についての判断
相違点1に関して、引用文献には、ポリメチルメタクリレート、あるいは、ポリメチルメタクリレートの共重合体に関して、アイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合を特定する点について、あるいは、ポリメチルメタクリレートの立体配置に関して、記載も示唆もなされていない。
一方、訂正発明は、アイソタクチックポリメチルメタクリレートとシンジオタクチックポリメチルメタクリレートとを混合するとステレオコンプレックスが生成し、溶融混練が困難となり、部分的に未溶融部分が発生し、均一な溶融混練アロイが得られず、均一な多孔体を得ることができない点に着目し(【0007】、【0013】、【0030】?【0032】)、孔径が制御され、微細かつ均一な多孔構造を有する多孔体を得るという訂正発明の課題(【0010】?【0015】)を解決すべく、アイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合を特定したものである。
ポリメチルメタクリレートの立体配置と微細かつ均一な多孔構造との関係について、引用文献には記載も示唆もなく、上記関係が当業者における技術常識であるとも認められないことから、相違点1に係る訂正発明の構成は、引用発明から想到容易とはいえない。
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、訂正発明は引用発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。
また、実質的な相違点である相違点1が存在することから、訂正発明は引用文献に記載された発明ではない。

(6)小括
以上のとおりであるから、訂正発明は引用文献に記載されておらず、また、訂正発明は引用発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。また、他に訂正発明について特許を受けることができないとする理由を発見しない。
訂正発明を直接または間接的に引用する訂正後の請求項2?13についても同様である。
このため、訂正後の請求項1?13に係る発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明であるとすることはできない。
したがって、本件訂正は特許法第126条第7項の規定に適合する。

第4 むすび
本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多孔体とその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた構造均一性および高い表面開孔率を活かして、分離膜や吸着体として有用に用いることができるナノメーターオーダーからマイクロメーターオーダーに構造制御可能なポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体とその製造方法、該多孔体からなる分離膜および該多孔体からなる吸着体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔体は分離膜、吸着体、燃料電池セパレータ、低誘電率材料、触媒担体等に利用されている。このうち分離膜は人工腎臓や血漿分離膜などの医療分野、水処理や炭酸ガス分離などの環境エネルギー分野をはじめとして幅広い用途で利用されている。また、膜分離プロセスは液体から気体などの相転移を伴わないため、蒸留等と比較してエネルギー負荷が小さい分離プロセスとして注目されている。また吸着体に関しても血液浄化カラム等の医療材料、水処理、石油精製、脱臭、脱色など幅広い分野で利用されている。
【0003】
ポリメチルメタクリレートは、その高い光線透過率から光学デバイスに好適に用いることができる。一方、高い生体適合性とタンパク質の特異吸着性を利用してポリメチルメタクリレート中空糸膜からなる人工腎臓として分離膜としても好適に用いることができる。この、ポリメチルメタクリレートの分離膜はポリメチルメタクリレートのステレオコンプレックスを利用して作製される。
【0004】
例えば、特許文献1には、ジメチルスルホキシドやジメチルホルムアミド等のステレオコンプレックスを形成しうる有機溶媒にアイソタクチックポリメチルメタクリレートとシンジオタクチックポリメチルメタクリレートを溶解した原液を適当な形状の口金から貧溶媒中に吐出することで得ることができる技術が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、ポリエチレンなどの結晶性ポリマーを加熱溶融し、口金から吐出して延伸する溶融製膜方法が記載されている。この溶融製膜方法は、ポリマーの非晶部分を引き裂き開孔する方法であり、延伸開孔法とも呼ばれ、製膜速度を上げることが可能である。
【0006】
特許文献3には、別の溶融製膜法として、2種類以上のポリマーを溶融混練して得られたポリマーアロイから部分的にポリマーを除去して多孔化し分離膜とする方法が記載されている。
【0007】
非特許文献1には、ポリメチルメタクリレートは溶融混練時にもステレオコンプレックスを形成し、その融点が200℃以上となることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭49-37879号公報
【特許文献2】特開昭58-163490号公報
【特許文献3】特開2003-64214号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】E.L.Feitsma.,A.de.Boer.,G.Challa.,1975,Polymer Vol.16,pp.515-519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1記載の方法はいわゆる溶液製膜と言われるものであり、膜表面の開孔率が膜内部の空孔率と比較して低くなり、その結果膜表面が物質透過のボトルネックとなるため物質透過効率の向上に限界があった。この溶液製膜における開孔率低下は、溶液中のポリマー分子の易動度が溶融ポリマー中の易動度と比較して極めて高いことに起因している。すなわち、紡糸口金から吐出されたポリメチルメタクリレート溶液(原液)は、空気などの気体や凝固液等の液体との界面から相分離が開始する。この際、界面近傍では相分離が急速に進行するため、易動度が高いポリメチルメタクリレート分子は凝集し、スキン層と呼ばれるポリメチルメタクリレートリッチな層が膜表面に形成される。このスキン層は膜内部と比較して空孔率が低ため、溶液製膜で作製した分離膜の表面開孔率は膜内部の空孔率と比較して低くなる傾向にあった。膜表面の開孔率をアップさせるため、スキン層を除去することも考えられるが、スキン層の厚さは数ミクロン以下であり、スキン層のみを除去することは技術的に難易度が高く、ましてや溶液製膜といった連続生産においてスキン層を除去することは現実的ではなかった。
【0011】
また、特許文献2の溶融製膜方法は、溶液製膜と比較して製膜速度を上げることが可能であり、製膜速度を溶液製膜の100倍近くにまで上げることが可能となる。ただし、延伸開孔法が適用できるポリマーはポリエチレンやポリプロピレンなどの結晶性ポリマーの中でも一部に限られており、ポリメチルメタクリレートなどの非晶性ポリマーには適用することが困難であった。また、引き裂きにより開孔するため、孔径を制御することが困難であり、微細かつ均一な開孔が困難であった。
【0012】
特許文献3の別の溶融製膜法では、スピノーダル分解により得られた微細かつ均一な連続構造を有するアロイから多孔体を得る方法であり、微細かつ均一な開孔が可能な上、溶融樹脂を用いていることから製膜速度も速いという特徴がある。ただし、スピノーダル分解による溶融混練ポリマーアロイはポリマーアロイ系の選択、すなわちポリマーの組み合わせが重要である。特に多孔体を作製するにあたっては、ポリマーの除去も考慮してポリマーアロイ系を選択する必要があり、例えば溶媒を用いてポリマーを除去する場合、多孔体の基材ポリマーは溶解せず除去対象ポリマーのみ選択的に溶解する溶媒が必要となり、ポリマーアロイ系の選択幅が非常に狭くなる。特許文献3にはポリメチルメタクリレートのアロイ系としていくつかの組み合わせが記載されているが、容易なポリマー除去なアロイ系は記載されていない。
【0013】
また、非特許文献1には、前記のとおり、ポリメチルメタクリレートは溶融混練時にもステレオコンプレックスを形成し、その融点が200℃以上となることが報告されており、そのため、ステレオコンプレックスが形成されると、溶融混練が困難となるばかりでなく部分的に未溶融部分が発生し、均一な溶融混練アロイが得られないといった問題が生じる。このような不均一なアロイからは均一な多孔体を得ることができないのは言うまでもない。
【0014】
かかる状況から、表面開孔率が高く、かつ生産性が高いポリメチルメタクリレート多孔体を得る方法が要望されていた。
【0015】
本発明は、高い表面開孔率と微細かつ均一な多孔構造を活かして、人工腎臓等の血液成分分離膜や血液浄化カラムなどの吸着剤として有用に用いることができる、ナノメーターオーダーからマイクロメーターオーダーに孔径制御可能なポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体およびその製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の多孔体は、上記課題を解決するため、次の構成を有するものである。
1.連続孔を有し、該連続孔の孔径が0.001μm以上500μm以下であり、少なくとも一つの表面の開孔率が10%以上80%以下であるポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体であって、前記ポリメチルメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合が10重量%未満であり、前記多孔体の孔径の10倍以上100倍以下の長さを一辺とする正方形の視野で撮影された顕微鏡画像をフーリエ変換して得られる、横軸が波数、縦軸が強度からなるグラフの曲線において、ピーク半値幅(a)、該ピークの極大波数(b)とするとき0<(a)/(b)≦1.2である多孔体。
2.多孔体の形状が厚さ1μm以上5mm以下のシート状、または厚さ1μm以上5mm以下の中空糸状、または外径1μm以上5mm以下の繊維状、または直径10μm以上5mm以下の粒子状である1に記載の多孔体。
3.1から2のいずれかに記載の多孔体からなる分離膜。
4.分離対象物質が生体成分である3に記載の分離膜。
5.生体成分が血液またはその一部である4に記載の分離膜。
6.1から2のいずれかに記載の多孔体からなる吸着体。
7.吸着対称物質が生体成分である6に記載の吸着体。
8.生体成分が血液またはその一部である7に記載の吸着体。
9.アイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合が10重量%未満であるポリメチルメタクリレートと脂肪族ポリエステルから得られるポリマーアロイ成形品から脂肪族ポリエステルを除去する1から3のいずれかに記載の多孔体の製造方法。
10.脂肪族ポリエステルがポリ乳酸である9に記載の多孔体の製造方法。
11.脂肪族ポリエステルの除去を加水分解により行う9から10のいずれかに記載の多孔体の製造方法。
12.ポリマーアロイが溶融混練により得られる9から11のいずれかに記載の多孔体の製造方法。
13.ポリマーアロイがスピノーダル分解による相分離で得られる9から12のいずれかに記載の多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリメチルメタクリレートと脂肪族ポリエステルからスピノーダル分解による相分離により得られるポリマーアロイから脂肪族ポリエステルを加水分解などにより除去することで、表面開孔率が10%以上80%以下であり、孔径が0.001μm以上500μm以下に制御された連続孔を有する多孔体を得ることができる。
【0018】
本発明の方法で得られる多孔体は、ナノメーターオーダーからマイクロメーターオーダーに孔径制御可能な微細かつ均一な多孔構造を有することから、人工腎臓等の血液成分分離膜などの分離膜や吸着体として有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例1の多孔質シート表面の電子顕微鏡画像である。
【図2】図2は図1の画像を画像解析ソフトで二値化した画像である。
【図3】図3は実施例2の多孔質シート表面の電子顕微鏡画像である。
【図4】図4は図3の画像を画像解析ソフトで二値化した画像である。
【図5】図5は比較例3の中空糸内表面の電子顕微鏡画像である。
【図6】図6は図5の画像を画像解析ソフトで二値化した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明における多孔体とは、連続孔を有する多孔体のことを指し、この連続孔を篩いとして活用することで分離膜として利用することが可能である。連続孔とは連続的に貫通した孔のことであり、本発明においては、孔径の5倍以上の長さを有する孔を連続孔とする。分離膜は連続孔の径、すなわち孔径は分離対象物質のサイズにより所望のサイズを設定できるが、本発明の多孔体においては連続孔の孔径を0.001μm以上500μm以下とするものである。連続孔の孔径が0.001μmに満たないと、分離に必要な圧力が高くなるだけでなく、分離に長時間要する等の問題があり、500μmを越えると多孔体の強度が低下し、分離膜として使用が困難となる等の問題がある。
【0022】
連続孔の孔径は0.002μm以上100μm以下が好ましく、0.003μm以上50μm以下がより好ましい。孔径の測定方法は次の通りである。まず、多孔体を液体窒素で冷却し、応力を加え割断する。次に該断面を電子顕微鏡で観察し、得られた電子顕微鏡画像をフーリエ変換し、波数を横軸に強度を縦軸にプロットした際の極大値波数を求め、その逆数から孔径を得るものとする。このとき、電子顕微鏡画像の画像サイズは孔径の5倍以上100倍以下の長さを一辺とする正方形とする。
【0023】
多孔体中の連続孔の孔径は均一であることが好ましく、大小さまざまな孔径があるような不均一な場合は分離特性が低下するおそれがあり好ましくない。孔径の均一性は横軸に孔径、縦軸にその孔径を有する連続孔の数をプロットした曲線のピーク半値幅で判断できる。すなわち、孔径が均一な膜の場合、曲線はシャープなピークを形成し、半値幅は狭くなる。一方、孔径が不均一な場合には曲線はブロードなピークを形成し、半値幅は広くなる。この、横軸に孔径、縦軸に孔数をプロットしたグラフのピーク半値幅による孔径均一性評価は、横軸である孔径の逆数、すなわち波数としても同様の評価が可能であることから、多孔体の電子顕微鏡画像をフーリエ変換したグラフを用いて評価するものとする。ここで、フーリエ変換に用いる電子顕微鏡画像は、上記の孔径測定に用いた画像を用いることとする。また、ピークの半値幅はピーク極大波数の増加に伴い増大する傾向にあるので、ピークの半値幅(a)、ピーク極大波数(b)とから計算される(a)/(b)の値を孔径の均一性評価の指標とした。優れた分離特性を発現するためには、孔径均一性は高い方が好ましく、前記(a)/(b)の値においては1.2以下であることが好ましく、1.1以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。また、ポリマーアロイの構造は均一である程良いので、(a)/(b)の下限値は特に限定されない。本発明におけるピークの半値幅とは、ピークの頂点(点A)からグラフ縦軸に平行な直線を引き、該直線とスペクトルのベースラインとの交点(点B)としたとき、(点A)と(点B)を結ぶ線分の中点(点C)におけるピークの幅である。なお、ここで言うピークの幅とは、ベースラインに平行で、かつ(点C)を通る直線上の幅のことである。
【0024】
多孔体を分離膜として使用する際は、表面の開孔率が物質透過等の分離特性に大きな影響を与えるため、特に重要である。したがって、本発明の多孔体において、少なくとも一つの表面の開孔率は10%以上80%以下とするものである。開孔率が10%に満たないと多孔体内部の空孔率が高くても、表面が物質透過におけるボトルネックとなり、所望の特性が得られないという問題があり、開孔率が80%を越えると多孔体の強度が低下し、最終的には構造を維持できなくなる危険性があるという問題がある。
【0025】
開孔率は12%以上70%以下が好ましく、15%以上60%以下がより好ましい。従来の溶液製膜では、膜表面の開孔率は5%前後であり、10%以上とすることは困難であった。これは、前述の通り溶液中のポリマー分子の易動度が溶融ポリマー中の易動度と比較して極めて高いことに起因している。すなわち、相分離が開始する原液と空気などの気体との気-液界面および原液と凝固液との液-液界面において、ポリメチルメタクリレート分子が急速に析出、凝集するため、ポリメチルメタクリレートリッチな開孔率の低いスキン相を形成するためと考えられている。かかる表面開孔率の問題に対し鋭意検討した結果、ポリメチルメタクリレートと脂肪族ポリエステルからスピノーダル分解による相分離により得られるポリマーアロイから脂肪族ポリエステルを加水分解などにより除去することで、表面開孔率が10%以上80%以下であり、孔径が0.001μm以上500μm以下に制御された多孔体を得ることに成功した。これは、ポリメチルメタクリレートを溶融状態で相分離させることで、溶液状態における相分離と比較してポリメチルメタクリレート分子の易動度が抑制でき、その結果空孔率が低いスキン相が形成されず、表面開孔率を10%以上とすることができるものである。
【0026】
本発明における表面開孔率とは、多孔体の少なくとも一つの表面における単位面積あたりの開孔部の面積の割合のことを指す。この表面開孔率は多孔体表面の電子顕微鏡画像を解析することで行うこととする。すなわち、多孔体表面における孔径の5?100倍の長さを一辺とする正方形の視野で観察した電子顕微鏡画像を画像解析ソフト(ScionImage(Scion Corporation社)、MatroxInspector(Matrox社)など)で開口部と非開口部を二値化で区別し、開孔部分の面積を算出することで開孔率が得られる。また、本発明における空孔率とは、多孔体の単位体積あたりの空孔部分の体積の割合のことを指す。
【0027】
多孔体は分離膜の他に、その表面積の大きさを利用して吸着体として利用することもできる。特にポリメチルメタクリレートは血液適合性が高く、タンパク質などを特異的に吸着する特徴を有しており、本発明の多孔体は血液浄化カラムなどに好適である。
【0028】
多孔体の形状としては特に限定されるものではないが、分離膜として用いる場合は中空糸膜として利用できる中空糸状や、平膜やコイル膜として利用できるシート状が好ましい。このうち中空糸膜は分離膜の面積を大きくとることができるため特に好ましい。また、吸着体として用いる場合はシート状や中空糸状の他に、編み地や不織布として使用できる繊維状やビーズなどの粒子状であることが好ましい。
【0029】
多孔体を分離膜として用いる場合、その厚さが薄すぎると分離特性が低下するだけでなく強度が不十分となり、使用時に破壊する可能性があり好ましくない。逆に厚すぎると分離に長時間を要するため好ましくない。したがって、多孔体の形状がシート状または中空糸状の場合、多孔体の厚さは1μm以上5mm以下が好ましく、5μm以上2mm以下がより好ましく、10μm以上1mm以下がさらに好ましい。一方、吸着体として用いる場合、繊維や粒子のサイズが大きいと該繊維や該粒子をケースに充填する際の充填率が低くなり、単位体積あたりの吸着面積が低くなるため好ましくない。逆に繊維や粒子のサイズが小さすぎると繊維が切れたり、粒子が処理液にリークするなどの危険性があるため好ましくない。したがって、多孔体の形状が繊維状の場合、外径は1μm以上5mm以下が好ましく、5μm以上1mm以下がより好ましく、10μm以上500μm以下がさらに好ましい。また、多孔体の形状が粒子状の場合、粒子径は10μm以上5mm以下が好ましく、25μm以上1mm以下がより好ましく、50μm以上500μm以下がさらに好ましい。
【0030】
かかる構造を有するポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体を得る好ましい方法としては、アイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合が10重量%未満のポリメチルメタクリレートと脂肪族ポリエステルからスピノーダル分解による相分離により得られるポリマーアロイから脂肪族ポリエステルを加水分解などにより除去することで得ることができる。
【0031】
本発明において、ポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体とは、脂肪族ポリエステルを除去した後の多孔体全重量の50重量%以上がポリメチルメタクリレートで構成されていることを指す。
【0032】
ポリメチルメタクリレートは、その側鎖の立体配置の違いから、アイソタクチックポリメチルメタクリレート、シンジオタクチックポリメチルメタクリレート、アタクチックポリメチルメタクリレートの3種がある。このうち、アイソタクチックポリメチルメタクリレートとシンジオタクチックポリメチルメタクリレートを混合すると融点200℃以上のステレオコンプレックスを形成する。このステレオコンプレックスが形成されると、溶融混練が困難となるばかりでなく部分的に未溶融部分が発生し、均一な溶融混練アロイが得られないといった問題が生じる。このような不均一なアロイからは均一な多孔体を得ることができないのは言うまでもない。また、アイソタクチックポリメチルメタクリレートは通常のラジカル重合で合成することが困難であることから比較的高価であるため特別な理由がない限り、経済的にも多量に使用することは好ましくない。そこで、本発明の多孔体においてはポリメチルメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合を10重量%未満にすることが好ましく、9重量%以下がより好ましく、8重量%以下がさらに好ましい。
【0033】
本発明におけるポリメチルメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合はプロトン核磁気共鳴スペクトルにより測定する。多孔体を重クロロホルムに溶解し、内部標準物質としてテトラメチルシランを加え、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定する。ここで、テトラメチルシランのシグナルを基準としたケミカルシフトにおいて、α-メチルプロトンのシグナルとして1.33ppm、1.21ppm、1.10ppmの3種類ピークのうち1.33ppmのシグナルがアイソタクチックポリメチルメタクリレート由来のものである。したがって、ポリメチルメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合は次式により求められる。
W=X/(X+Y+Z)×100
【0034】
ここで、W、X、Y、Zは次を意味する。
W:ポリメチルメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの重量%
X:プロトン核磁気共鳴スペクトルにおける1.33ppmのピーク面積
Y:プロトン核磁気共鳴スペクトルにおける1.21ppmのピーク面積
Z:プロトン核磁気共鳴スペクトルにおける1.10ppmのピーク面積。
【0035】
ポリメチルメタクリレートの分子量については特に限定はないが、低すぎると多孔体の強度が低く、分離膜に用いることができなくなるため好ましくない。逆に分子量が高すぎると溶融時の粘度が高くなり溶融製膜が困難となるため、重量平均分子量は1万以上200万以下が好ましく、2万以上150万以下がより好ましく、3万以上100万以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明のポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体は、ポリメチルメタクリレートと脂肪族ポリエステルからなるポリマーアロイ(多孔体の前駆体)から脂肪族ポリエステルを除去することで得られる。したがって、微細かつ均一な連続孔を形成されるためには該ポリマーアロイの構造も微細かつ均一であることが必要である。微細かつ均一なポリマーアロイを得るためにはスピノーダル分解による相分離によるアロイ化が有効である。
【0037】
次に、スピノーダル分解について説明する。
【0038】
一般に、2成分の樹脂からなるポリマーアロイには、これらの組成に対して、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な全領域において相溶する相溶系や、逆に全領域で非相溶となる非相溶系や、ある領域で相溶し、別の領域で相分離状態となる部分相溶系があり、さらにこの部分相溶系には、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離するものと、核生成と成長によって相分離するものがある。
【0039】
スピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図においてスピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指し、また核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
【0040】
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶した場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことであり、またスピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
【0041】
またかかるバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶する領域と相分離する領域の境界の曲線のことである。
【0042】
ここで本発明における相溶する場合とは、分子レベルで均一に混合している状態のことであり、具体的には異なる2成分の樹脂を主成分とする相がいずれも0.001μm以上の相構造を形成していない場合を指し、また、非相溶の場合とは、相溶状態でない場合のことであり、すなわち異なる2成分の樹脂を主成分とする相が互いに0.001μm以上の相構造を形成している状態のことを指す。相溶するか否かは、例えばLeszek A Utracki,1990,“Polymer Alloys and Blends”,Municn:Carl Hanser Publications,pp-64に記載のように、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
【0043】
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速にした場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際、濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
【0044】
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm?[|Ts-T|/Ts]^(-1/2)
(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
【0045】
ここで本発明でいうところの両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ 基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
【0046】
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行するが、本発明においては、最終的に巨視的な2相に分離する前の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。
【0047】
スピノーダル分解を実現させるためには、2成分以上からなる樹脂を相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。
【0048】
まず、この2成分以上からなる樹脂で相溶状態を実現する方法としては、共通溶媒に溶解後、この溶液から噴霧乾燥、凍結乾燥、非溶媒物質中の凝固、溶媒蒸発によるフィルム生成等の方法により得られる溶媒キャスト法や、部分相溶系を、相溶条件下で溶融混練することによる溶融混練法が挙げられる。本発明では、溶液製膜と比較して、高速な製膜プロセスである溶融製膜に適用可能な溶融混練による相溶化が好ましい。
【0049】
溶融混練により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。相溶化のための温度は、部分相溶系の樹脂が相溶する条件である必要がある。
【0050】
次に溶融混練により相溶状態としたポリマーアロイをスピノーダル曲線の内側の不安定状態として、スピノーダル分解せしめるに際し、不安定状態とするための温度、その他の条件は樹脂の組み合わせによっても異なり、一概にはいえないが、相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより設定することができる。本発明においては、前記の如く、初期過程の構造周期を特定の範囲に制御した後、中期過程以降でさらに構造発展させて本発明で規定する特定の両相連続構造とすることが好ましい。
【0051】
この初期過程において本発明で規定する特定の構造周期に制御する方法に関しては、特に制限はないが、ポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で、かつ上述の熱力学的に規定される構造周期を小さくなるような温度で熱処理することが好ましい。ここでガラス転移温度とは、示差走査熱量計(DSC)にて、室温から20℃/分の昇温速度で昇温時に生じる変曲点から求めることができる。
【0052】
またこの初期過程から構造発展させる方法に関しては、特に制限はないが、ポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられる。さらにはポリマーアロイが相溶化状態で単一のガラス転移温度を有する場合や、相分解が進行しつつある状態でポリマーアロイ中でのガラス転移温度がポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度間にある場合には、そのポリマーアロイ中のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理することがより好ましい。またポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分として結晶性樹脂を用いる場合、該熱処理温度を結晶性樹脂の結晶融解温度以上とすることは、熱処理による構造発展が効果的に得られるため好ましく、また該熱処理温度を結晶性樹脂の結晶融解温度±20℃以内とすることは上記構造発展の制御を容易にするために好ましく、さらには結晶融解温度±10℃以内とすることがより好ましい。ここで樹脂成分として2種以上の結晶性樹脂を用いる場合、該熱処理温度は、結晶性樹脂の結晶融解温度のうち最も高い温度を基準として、かかる結晶融解温度±20℃以内とすることが好ましく、さらにはかかる結晶融解温度±10℃以内とすることがより好ましい。但し、シートの延伸時に熱処理する際には、該熱処理温度を結晶性樹脂の昇温結晶化温度以下とすることが好ましい。ここで結晶性樹脂の結晶融解温度とは、示差走査熱量計(DSC)にて、室温から20℃/分の昇温速度で昇温時に生じる融解曲線のピーク温度から求めることができ、また結晶化樹脂の昇温結晶化温度とは、結晶融解温度以上で融解したサンプルを急冷し得られたサンプルを用いて、示差走査熱量計(DSC)にて、室温から20℃/分の昇温速度で昇温時に生じる結晶化曲線のピーク温度から求めることができる。またスピノーダル分解による構造生成物を固定化する方法としては、急冷等による短時間での相分離相の一方または両方の成分の構造固定が挙げられる。
【0053】
また本発明でポリメチルメタクリレートとのアロイ化に用いられる樹脂としては、ポリメチルメタクリレート相溶性と多孔化のための除去工程を考慮すると脂肪族ポリエステルが好ましく、特にポリ乳酸を用いることがポリメチルメタクリレートとの相溶性に優れる観点から好適である。
【0054】
ポリメチルメタクリレートアロイにおける脂肪族ポリエステル比率はスピノーダル分解における連続構造の形成を容易にする観点から、5重量%以上95重量%以下が好ましく、10重量%以上90重量%以下がより好ましく、20重量%以上80重量%以下がさらに好ましい。
【0055】
本発明の多孔体の前駆体であるポリマーアロイを成形する際には、通常、ポリマーアロイを形成すると同時または形成した後であってかつ、多孔を形成する前に成形し、その後脂肪族ポリエステルを除去して多孔を形成する方法が採用される。成形形状は、任意の形状が可能であるが、前記の通り分離膜や吸着剤として用いる場合、中空糸状、シート状、繊維状、粒子状が好ましい。
【0056】
ポリマーアロイを成形する際の成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形などを挙げることができるが、中でも押出成形は、押出時に相溶解させ、吐出後、スピノーダル分解しシート延伸時に熱処理し、その後の巻き取り前の自然冷却時に構造固定ができること、さらに様々な形状の口金を活用して中空糸状、シート状、繊維状に成形でき、その後中空糸分離膜や平膜とすることができるため好ましい。また、射出成形も射出時の可塑化工程で相溶解させ、射出後、スピノーダル分解し金型内で熱処理と構造固定化が同時にできることから好ましい。
【0057】
ポリメチルメタクリレートと脂肪族ポリエステルのポリマーアロイからの脂肪族ポリエステルの除去方法としては、溶媒を用いて脂肪族ポリエステルを溶解させて除去する方法や、脂肪族ポリエステルを分解させて除去する方法がある。このうち、脂肪族ポリエステルの分解による方法は、低分子量物質へ分解して除去するため、孔径が小さい場合でも効率的に除去できるため好ましい。脂肪族ポリエステルは、加水分解により容易に分解除去できることからも好ましい。ポリメチルメタクリレートはアルカリに対する耐性が高いことから、アルカリ水溶液によって脂肪族ポリエステルを加水分解するのが好適である。アルカリ水溶液で脂肪族ポリエステルを加水分解する際に、加熱することで分解速度を早めることも可能である。また、中空糸分離膜のような連続生産の場合、アルカリ水溶液漕を通過させることによりオンラインで多孔化することも可能である。アルカリの例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。
【0058】
本発明の多孔体は、その微細かつ均一な連続多孔を活かして分離膜として利用でき、その用途の一例として、医療やバイオツールなどの生体成分処理用途、水処理用途、果汁濃縮などの食品用途、蒸留などの代替としてケミカルプロセス用途、ガス分離用途、燃料電池セパレータなどの電子情報材料用途などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本発明の多孔体は吸着体としても利用でき、その用途に一例として、分離膜と同様、医療やバイオツールなどの生体成分処理用途や水処理用途の他に、脱臭、脱色用途などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に生体成分処理用としては、ポリメチルメタクリレートの優れた血液適合性を活かし、血液浄化用モジュールに好適に利用できる。血液浄化用モジュールとは、血液を体外に循環させる際に、吸着、濾過、透析および拡散等によって血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいう。そのような血液浄化用モジュールとして、人工腎臓や血漿分離膜、毒素吸着カラムなどがある。特にポリメチルメタクリレートのタンパク質特異吸着性を利用して、透析や濾過では除去できない血液中の不要タンパク質を除去も期待できる。
【0059】
多孔体の分離膜、吸着体以外に低誘電率材料としてプリント回路基材および積層板に利用できるほか、インバーターやスイッチング電源から高周波成分の漏洩電流を防ぐカバーやシール部材などにも利用できる。また、広い表面積を活かして吸着体、触媒担体等にも利用可能である。
【0060】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
ポリメチルメタクリレートに三菱レイヨン(株)製「UT300」、脂肪族ポリエステルとして、D体量が1.4%であり、GPC測定によるPMMA換算の重量平均分子量が26万であるポリ乳酸樹脂を重量比50/50で使用し、リップ間隔0.2mmに調整したT-ダイ付き二軸溶融混練機HK-25D((株)パーカーコーポレーション製)に供し、240℃で溶融製膜を実施した。ドラム温度を60℃とし、巻き取り速度を調整することにより、約150μm厚のアロイシートを作製した。
【0062】
該シートを10cm角に切り出し、20重量%濃度の水酸化カリウム水溶液100mLに3日間浸漬させポリ乳酸を加水分解除去し、多孔化した。超純水500mLに1時間浸漬し、さらに超純水200mLでリンスした後、凍結乾燥することでポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔質シートを得た。
【0063】
該多孔質シートの断面を透過型電子顕微鏡を用い、倍率10,000倍で観察して得られた一片3μmの正方形の画像をフーリエ変換し、波数を横軸に強度を縦軸にプロットしたグラフのピーク波数と半値幅から孔径と均一性の指標である(a)/(b)を求めた。また、該シートを重クロロホルムに溶解し、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定し、ポリメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合(重量%)を求めた。
【0064】
また、該多孔質シートの表面開孔率は走査型電子顕微鏡S-5500型((株)日立製作所製)を用い倍率10万倍で観察することで実施した。なお、観察の前処理として、観察試料は白金でスパッタリングを行った。得られた観察画像は一辺500nmの正方形にトリミングし、画像解析ソフトScionImage(Scion Corporation社製)で二値化(Thereshhold)および面積計算(Analyze Particles)を実行し、表面開孔率を求めた。顕微鏡観察画像、画像解析ソフトで二値化した画像(開孔部分を黒色で表示)を図1、2に示す。
【0065】
表1に示すとおり、実施例1で得られた多孔質シートは、表面開孔率が15.61%と高く、かつ均一な多孔構造を有するポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体からなる膜であった。
【0066】
【表1】

【0067】
(実施例2)
溶融混練温度を200℃とした他は実施例1と同様の方法でポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔質シートを得た。
【0068】
該多孔質シートの断面を透過型電子顕微鏡を用い、倍率1,000倍で観察して得られた一片2μmの正方形の画像をフーリエ変換し、波数を横軸に強度を縦軸にプロットしたグラフのピーク波数と半値幅から孔径と均一性の指標である(a)/(b)を求めた。また、該シートを重クロロホルムに溶解し、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定し、ポリメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合(重量%)を求めた。
【0069】
また、実施例1と同様に該多孔質シートの表面開孔率は走査型電子顕微鏡S-5500型((株)日立製作所製)を用い倍率1万倍で観察することで実施した。なお、観察の前処理として、観察試料は白金でスパッタリングを行った。得られた観察画像は一辺5000nmの正方形にトリミングし、画像解析ソフトScionImage(Scion Corporation社製)で二値化(Thereshhold)および面積計算(Analyze Particles)を実行し、表面開孔率を求めた。顕微鏡観察画像、画像解析ソフトで二値化した画像(開孔部分を黒色で表示)を図3、4に示す。
【0070】
表1に示すとおり、実施例2で得られた多孔質シートは、表面開孔率が23.63%と高く、かつ均一な多孔構造を有するポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体からなる膜であった。
【0071】
(比較例1)
ポリメチルメタクリレートに三菱レイヨン(株)製「UT300」、グリニャール触媒重合により得た重量平均分子量5万のアイソタクチックポリメチルメタクリレート、脂肪族ポリエステルとして、D体量が1.4%であり、GPC測定によるPMMA換算の重量平均分子量が26万であるポリ乳酸樹脂を、それぞれ重量比30/20/50で使用し、リップ間隔0.2mmに調整したT-ダイ付き二軸溶融混練機HK-25D((株)パーカーコーポレーション製)に供し、240℃で溶融製膜を実施した。ドラム温度を60℃とし、巻き取り速度を調整することにより、約150μm厚のアロイシートを作製した。
【0072】
該シートを10cm角に切り出し、20重量%濃度の水酸化カリウム水溶液100mLに3日間浸漬させポリ乳酸を加水分解除去し、多孔化した。超純水500mLに1時間浸漬し、さらに超純水200mLでリンスした後、凍結乾燥することでポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔質シートを得た。
【0073】
該多孔質シートの断面を透過型電子顕微鏡を用い、倍率1,000倍で観察して得られた一片18μmの正方形の画像をフーリエ変換し、波数を横軸に強度を縦軸にプロットしたグラフのピーク波数と半値幅から孔径と均一性の指標である(a)/(b)を求めた。また、該シートを重クロロホルムに溶解し、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定し、ポリメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合(重量%)を求めた。表1に示すとおり、比較例1で得られた多孔質シートは、アイソタクチックポリメチルメタクリレートの比率が高かったため、均一なアロイが得られず、結果として孔径が不均一な多孔体からなる膜となった。
【0074】
(比較例2)
溶融混練温度を200℃とした他は比較例1と同様の方法でポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔質シートを得た。
【0075】
該多孔質シートの断面を透過型電子顕微鏡を用い、倍率300倍で観察して得られた一片60μmの正方形の画像をフーリエ変換し、波数を横軸に強度を縦軸にプロットしたグラフのピーク波数と半値幅から孔径と均一性の指標である(a)/(b)を求めた。また、該シートを重クロロホルムに溶解し、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定し、ポリメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合(重量%)を求めた。表1に示すとおり、比較例2で得られた多孔質シートは、アイソタクチックポリメチルメタクリレートの比率が高かったため、均一なアロイが得られず、結果として孔径が不均一な多孔体からなる膜となった。
【0076】
(比較例3)
〔溶液製膜による中空糸膜の作製〕
グリニャール触媒重合により得た重量平均分子量5万のアイソタクチックポリメチルメタクリレート3.5重量部、住友化学(株)製シンジオタクチックポリメチルメタクリレート(“スミペックス”AK-150)13.7重量部、三菱レイヨン(株)製シンジオタクチックポリメチルメタクリレート(“ダイヤナール”BR-85)3.8部ジメチルスルホキシド79部に加え、加熱溶解した。この原液を温度110℃の紡糸口金部へ送り、二重スリット管口金から、注入気体である窒素とを同時に吐出させた。この時、口金と凝固浴との距離を190mmとして、40℃の水からなる凝固浴中に浸漬した後、水洗し、50m/minの速度で巻き取り、内径200μm、膜厚30μmの中空糸膜を得た。得られた中空糸膜は凍結乾燥を行った。
【0077】
〔表面開孔率の測定〕
上記凍結乾燥を行った中空糸膜を片刃カミソリで長手方向に半切し中空糸内表面を露出させた。中空糸内表面の開孔率を走査型電子顕微鏡S-5500型((株)日立製作所製)を用い倍率20万倍で観察を実施した。なお、観察の前処理として、観察試料は白金でスパッタリングを行った。得られた観察画像は一辺250nmの正方形にトリミングし、画像解析ソフトScionImage(Scion Corporation社製)で二値化(Thereshhold)および面積計算(Analyze Particles)を実行し、表面開孔率を求めた。比較例3で得られた中空糸膜内表面の表面開孔率は10%以下と低い値であった。顕微鏡観察画像、画像解析ソフトで二値化した画像(開孔部分を黒色で表示)を図5、6に示す。
【0078】
〔孔径および(a)/(b)の測定〕
孔径は、上記凍結乾燥した中空糸膜を液体窒素中で割断し、割断面を走査型電子顕微鏡S-5500型((株)日立製作所製)を用い倍率10万倍で観察を実施した。なお、観察の前処理として、観察試料は白金でスパッタリングを行った。得られた観察画像は一辺500nmの正方形にトリミングし、画像解析ソフトScionImage(Scion Corporation社製)でフーリエ変換し、波数を横軸に強度を縦軸にプロットしたグラフのピーク波数と半値幅から孔径と均一性の指標である(a)/(b)を求めた。
【0079】
これらの評価結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の製造方法で得られる多孔体は、孔径を微細かつ均一に制御することが可能であり、その結果、分離膜や吸着剤などとして用いたときに優れた特性を有するポリメチルメタクリレート多孔体を得ることができる。さらに、微細で均一な連続孔を有することを活かして、低誘電率材料としてプリント回路基材および積層板に利用できるほか、インバーターやスイッチング電源から高周波成分の漏洩電流を防ぐカバーやシール部材などにも利用できる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続孔を有し、該連続孔の孔径が0.001μm以上500μm以下であり、少なくとも一つの表面の開孔率が10%以上80%以下であるポリメチルメタクリレートを主成分とする多孔体であって、前記ポリメチルメタクリレート中のアイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合が10重量%未満であり、前記多孔体の孔径の10倍以上100倍以下の長さを一辺とする正方形の視野で撮影された顕微鏡画像をフーリエ変換して得られる、横軸が波数、縦軸が強度からなるグラフの曲線において、ピーク半値幅(a)、該ピークの極大波数(b)とするとき0<(a)/(b)≦1.2である多孔体。
【請求項2】
多孔体の形状が厚さ1μm以上5mm以下のシート状、または厚さ1μm以上5mm以下の中空糸状、または外径1μm以上5mm以下の繊維状、または直径10μm以上5mm以下の粒子状である請求項1に記載の多孔体。
【請求項3】
請求項1から2のいずれかに記載の多孔体からなる分離膜。
【請求項4】
分離対象物質が生体成分である請求項3に記載の分離膜。
【請求項5】
生体成分が血液またはその一部である請求項4に記載の分離膜。
【請求項6】
請求項1から2のいずれかに記載の多孔体からなる吸着体。
【請求項7】
吸着対称物質が生体成分である請求項6に記載の吸着体。
【請求項8】
生体成分が血液またはその一部である請求項7に記載の吸着体。
【請求項9】
アイソタクチックポリメチルメタクリレートの割合が10重量%未満であるポリメチルメタクリレートと脂肪族ポリエステルから得られるポリマーアロイ成形品から脂肪族ポリエステルを除去する請求項1から2のいずれかに記載の多孔体の製造方法。
【請求項10】
脂肪族ポリエステルがポリ乳酸である請求項9に記載の多孔体の製造方法。
【請求項11】
脂肪族ポリエステルの除去を加水分解により行う請求項9から10のいずれかに記載の多孔体の製造方法。
【請求項12】
ポリマーアロイが溶融混練により得られる請求項9から11のいずれかに記載の多孔体の製造方法。
【請求項13】
ポリマーアロイがスピノーダル分解による相分離で得られる請求項9から12のいずれかに記載の多孔体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2014-02-17 
出願番号 特願2011-212067(P2011-212067)
審決分類 P 1 41・ 121- Y (C08J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 富永 久子
大島 祥吾
登録日 2012-04-06 
登録番号 特許第4962643号(P4962643)
発明の名称 多孔体とその製造方法  

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