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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01H
管理番号 1286758
審判番号 不服2013-10606  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-06 
確定日 2014-04-07 
事件の表示 特願2008-96387号「感温ペレット型温度ヒュ-ズ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月29日出願公開、特開2009-252415号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年4月2日の出願であって、平成24年7月27日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成24年9月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年3月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成25年6月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

第2 平成25年6月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年6月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】
筒型金属ケース(1)と、この金属ケースの一端側にかしめ固定したリード(2)および他端側に開口閉塞用絶縁ブッシング(9)を貫通し先端に固定接点(11)を有するリード(10)を含む導出リード部材と、前記金属ケース(1)に収容する感温ペレット(3)、ケース内壁面と接触する可動接点体(7)、この可動接点体に係留される圧縮ばね部材(6、8)、および圧縮ばね押圧力を感温ペレット(3)に伝達する金属押板(4、5)を具備し、前記感温ペレットは高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により変質を生じない樹脂材である熱可塑性樹脂材の低密度ポリエチレンであり、かつ、前記金属押板は高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により前記感温ペレットとの当接面で変質を生じない所定の機械的強度を有するステンレス材であり、それにより前記導出リード部材間を遮断する動作温度の経過時間的な変動をミニマム化したことを特徴とする感温ペレット型温度ヒューズ。」

2.補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「感温ペレット」の限定事項である「熱可塑性樹脂材のオレフィン系樹脂」を、「熱可塑性樹脂材の低密度ポリエチレン」と限定して補正をするものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明とは、その産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変わるところがないと認められるので、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1.引用刊行物の記載事項
(引用文献1)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である特開2005-158681号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
加熱過程で熱変形する感温材をペレット状に成形した感温ペレットが収容される筒型外囲器と、前記外囲器の一端開口側に取付けた第1電極を形成する第1リード部材と、前記外囲器の他端開口側に取付けた第2電極を形成する第2リード部材と、前記外囲器に収容して前記感温ペレットに係留する可動導電部材と、前記外囲器に収容して前記可動導電部材に押圧力を作用させるスプリング部材とを具備し、前記感温材は加温により可塑性を有する高分子物質からなり、前記スプリング部材の押圧力が付与される前記感温ペレットは加熱時に所望する動作温度で軟化または融解して熱的変形を生じさせ、前記所望する動作温度は熱的変形の度合いを調整するための温度設定手段が利用され、それにより前記感温ペレットが前記所望する動作温度に加熱された際に、前記第1電極および前記第2電極間の電気回路を切換えることを特徴とする感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項2】
前記高分子物質は非晶性の熱可塑性樹脂であり、前記温度設定手段が前記熱可塑性樹脂の軟化点(Tg)温度よりも高温域における動作温度の調整であることを特徴とする請求項1に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項3】
前記高分子物質は結晶性の熱可塑性樹脂であり、前記温度設定手段が前記熱可塑性樹脂の有する補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)との温度差を利用した熱変形温度の調整であることを特徴とする請求項1に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。」(【特許請求の範囲】【請求項1】?【請求項3】)

(イ)「【請求項7】
前記高分子物質はスチレン系、オレフィン系、ポリアミド系、ウレタン系およびポリエステル系の樹脂群から選ばれることを特徴とする請求項1または3に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項8】
前記オレフィン系高分子物質がポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。」(【特許請求の範囲】【請求項7】、【請求項8】)

(ウ)「本発明は感温ペレット型温度ヒューズおよびそれに用いる感温ペレットの製造方法に関し、特に、感温材に熱可塑性樹脂を使用した感温ペレット型温度ヒューズに関するものである。」(段落【0001】)

(エ)「上述の感温ペレットを用いる温度ヒューズは、感温材に比較的純粋な化学薬品が使用されており、この物質を造粒し所定の形状に成形加工してペレットとするのであるが、ペレット化後の軟化、変形、昇華、潮解性など環境条件の影響を受けやすく、製造上の各処理工程や製品後の保管条件などの観点で多くの問題点があった。たとえば、ペレット成形加工では材質自体に潮解性があるものでは外気に触れることで変形したり溶け出したりするため外気遮断のための厳しいシール管理が要求される。また、粉体成形加工品のため機械的強度が弱く温度ヒューズの組立て時、スプリング圧により変形して不具合となることがある。さらには、製品後の温度ヒューズに対して、高温高湿の保管条件ではペレットの昇華、潮解など製品寿命に影響を受けることがあり、またこれらは電気的特性の低下にもつながる。化学薬品、特に低分子量の化学薬品を使用する従来の感温ペレットでは、高温高湿下での軟化変形が顕著で徐々に縮小化して接点が解離する不具合を招く。それゆえ、使用環境や経時的変化の影響を受け難くて、周囲の厳しい保管雰囲気に曝され高温高湿や有害ガスを浴びる環境下においても感温ペレット自体に欠陥を生じさせない感温ペレット型温度ヒューズの提案が望まれていた。」(段落【0006】)

(オ)「また、本発明の温度ヒューズ用感温ペレットとして使用できる結晶性の熱可塑性樹脂は、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(超高分子量PE)や超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のポリエチレン(PE)のほかに・・(中略)・・である。」(段落【0020】)

(カ)「図1および図2は本発明に係る感温ペレット型温度ヒューズでそれぞれ常温の平常時と異常加熱した動作時の温度ヒューズの部分断面図を示す。この構成は、感温材の使用材料を除く基本的構造でエヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社製の感温ペレット型温度ヒューズ「SEFUSE」(登録商標)と同様である。図において、外囲器の円筒状金属ケース1は、銅、黄銅などの熱伝導性良好な導体で作られ、その一方の開口側にかしめ固定した第1リード部材2が取付けられる。この金属ケース1内には本発明の特徴である感温ペレット3と共に一対の押圧板4、5、スプリング部材の強圧縮ばね6と弱圧縮ばね8、良導電性で適度の弾性を有する銀合金の可動接点体7を含むスイッチ機能部品が収容される。そして、金属ケース1の他方の開口に挿入された絶縁ブッシング9と、この絶縁ブッシング9を貫通して金属ケース1から絶縁配置されて先端に固定電極11を有する第2リード部材10とを装着して気密封着されて構成される。金属ケース1の他方の開口部分はエポキシ樹脂等の封着樹脂12が使用され、第2リード部材上に被管した絶縁碍管13と共に互いに強固に固着される。ここで本発明の特徴とする感温ペレット3は、任意の温度下で押圧によって生じる熱変形温度を有する熱可塑性樹脂を主材料として成形加工され、所望する動作温度を調整するための温度設定手段が適用されており、温度ヒューズの所定の動作温度で熱変形する材料を選択して用いられる。図1は、第1および第2リード部材2、10が導通状態にある常温時状態の感温ペレット型温度ヒューズAを示し、図2は、動作温度を越える異常温度状態で両リード部材間が遮断状態にある感温ペレット型温度ヒューズBを示している。
次に、本発明の温度ヒューズに使用する感温ペレット3について、本発明に係る9種類の熱可塑性樹脂と従来品に使用されている感温材料についてのペレット単体での比較試験を行ない問題点に関する評価を行なった。具体的項目としては、潮解性および昇華性に関するものであり、それぞれの評価結果は表3および4に○×方式で示した。なお、9種類の熱可塑性樹脂の名称(区分名称)、市販品名(商品名)とグレードおよび製造社名とカタログ仕様は次の通りである。
1・LDPEまたはLLDPE(商品名:ジェイレクスLDPE-JM910NまたはジェイレックスLLDPE-AM830A、日本ポリオレフィン株式会社製、カタログ融点108℃または122℃)
・・(以下略)・・」(段落【0036】?【0037】)

(キ)「次に、図3(d)、(e)及び(f)では異なる熱可塑性樹脂部からなる感温ペレットの一例を示す。図3(d)及び(e)は感温ペレット36、38の表面の一部が動作温度に寄与する感温ペレット36、38と異なる熱可塑性樹脂35、37からなる例であり、図3(f)は動作温度に寄与する感温ペレット40の全表面を覆うように形成された感温ペレット40と異なる熱可塑性樹脂39からなる感温ペレットについて説明する。(d)は、積層シートの打ち抜き等によって得ることができ、この構造は、選択した熱可塑性樹脂材料が、金属による影響、特に押圧板4が銅材である場合、熱可塑性樹脂3は、銅害を受ける場合があり、その保護層35を介することで感温ペレット3への影響を防ぐことができる。(e)は、保護層36が側面に形成されている場合であり、これは、押出し成形等によって得ることができる。これは、側面の金属の影響が問題となる場合や、PAのように吸湿性の高い材料を吸湿性の低い材料である例えばPET等のポリエステル系材料にて保護層を形成することができる。(f)では、全面に感温ペレット3と異なる材料にて保護層を設けた形状であり、これは、射出成形等によって得ることができる。これも(d)及び(e)と同様に金属、吸湿等から生じる樹脂劣化から感温ペレットを保護する効果が期待できる。特に(e)では、側面のみの保護層であったため耐吸湿等の効果も限定的であったが、(f)では全面を覆っているためその効果は大きい。」(段落【0046】)

(ク)また、「低密度ポリエチレン」は熱可塑性樹脂であることは自明である。

上記記載事項及び【図1】?【図3】からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「金属ケース1と、この金属ケース1の一端側にかしめ固定した第1リード部材2および他端側に開口閉塞用絶縁ブッシング9を貫通し先端に固定接点11を有するリードを含む第2リード部材10と、金属ケース1に収容する感温ペレット3、ケース内壁面と接触する可動接点体7、この可動接点体に係留されるスプリング部材、およびスプリング部材の押圧力を感温ペレット3に伝達する押圧板4、5を具備し、感温ペレット3は熱可塑性樹脂材の低密度ポリエチレンである、感温ペレット型温度ヒューズ。」

(引用文献2)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である特開2003-317590号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ケ)「【産業上の利用分野】この発明は金属ケースの筒型外囲器内に感温ペレット、圧縮ばねおよび可動接点体を収容して所定温度で回路を遮断または導通する感温ペレット型温度ヒューズ、特に感温ペレットに当接する押圧板に用いる材料選定により保管等の環境条件に対して耐久性を付与した感温ペレット型温度ヒューズに関する。」(段落【0001】)

(コ)「したがって、本発明の目的は、上述する押圧板の変色・変質の欠点を解消するため、少なくとも感温ペレットと当接する押圧板の化学的特性に着目して提案されたものであり、感温ペレットあるいは可動接点体と常時押圧状態で接触する押圧板に関し、環境条件に耐える材質から選定使用する新規かつ改良された感温ペレット型温度ヒューズを提供することにある。」(段落【0005】)

(サ)「・・(前略)・・
ここで注目すべきことは、押圧板4に非変質材を選ぶと、従来の銅材円板の場合に生じていたような変色・変質は全く認められず、感温ペレットも所定の動作温度で安定して機能する。本実施例では、押圧板にステンレス材の円板を用いたら、何らの変色・変質も認められなかった。
・・(以下略)・・」(段落【0009】)

(シ)「【発明の効果】この発明によれば、押圧板の材質として非変質材のステンレスやセラミック、プラスチックの絶縁物、あるいはそのような材質の被膜を選択して用いた温度ヒューズを提供し、従来、銅材押圧板の使用時に認められた変色・変質による生成物の形成とそれに伴う動作温度の変化などの不具合発生が解消される。本発明の温度ヒューズは、その保管並びに使用中の経時変化において、高湿度や有害ガスの雰囲気中に置かれても長期にわたり安定化が図られる。したがって、押圧板の材質に伴う感温ペレットや可動接点体との化学的反応による腐食や特性の変化が阻止され、温度ヒューズの電気的特性を含めた性能低下を防止し、経年変化も抑止されて常に所定の動作温度で正確に作動する精度の安定性と信頼性に役立つ。」(段落【0011】)

3-2.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、その構成及び機能からみて、後者の「金属ケース1」は前者の「筒型金属ケース」に相当する。以下同様に、後者の「第1リード部材2」は前者の「リード」に、「絶縁ブッシング9」は「絶縁ブッシング」に、「固定接点11」は「固定接点」に、「第2リード部材10」は「導出リード部材」に、「感温ペレット3」は「感温ペレット」に、「可動接点体7」は「可動接点体」に、「感温ペレット型温度ヒューズ」は「感温ペレット型温度ヒューズ」に相当する。
また、「押圧板4、5」と「金属押板」とは、「押板」という限りにおいて一致し、また、両者ともその機能上、所定の強度を有する点で一致する。
したがって、両者は次の点で一致する。

(一致点)
「筒型金属ケースと、この金属ケースの一端側にかしめ固定したリードおよび他端側に開口閉塞用絶縁ブッシングを貫通し先端に固定接点を有するリードを含む導出リード部材と、前記金属ケースに収容する感温ペレット、ケース内壁面と接触する可動接点体、この可動接点体に係留される圧縮ばね部材、および圧縮ばね押圧力を感温ペレットに伝達する押板を具備し、前記感温ペレットは熱可塑性樹脂材の低密度ポリエチレンであり、かつ、前記押板は所定の機械的強度を有する、感温ペレット型温度ヒューズ。」

そして、両者は次の点で相違する。

(相違点)
本願補正発明の感温ペレットを構成する熱可塑性樹脂材の低密度ポリエチレンは、「高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により変質を生じない樹脂材」との限定を有し、本願補正発明の金属押板が、「高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により前記感温ペレットとの当接面で変質を生じない所定の機械的強度を有するステンレス材」との限定を有し、これらの限定により、本願補正発明は、導出リード部材間を遮断する動作温度の経過時間的な変動をミニマム化したとの限定を有するのに対し、引用発明の感温ペレットは、熱可塑性樹脂材の低密度ポリエチレンであるものの、「高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により変質を生じない樹脂材」との限定を有さず、引用発明の押圧板は、「高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により前記感温ペレットとの当接面で変質を生じない所定の機械的強度を有するステンレス材」との限定を有さず、引用発明は、導出リード部材間を遮断する動作温度の経過時間的な変動をミニマム化したとの限定を有さない点。

3-3.相違点の判断
以下、上記相違点について検討する。
本願補正発明の目的は、明細書の記載(段落【0005】、【0006】等)によれば、感温ペレット型温度ヒュ-ズにおいて、金属押板と対向する感温ペレットに生ずる変色・変質・変形の欠点を解消するため、感温ペレットの使用材料および常時押圧状態で接触する金属押板の材質に関し、一方または両者を所定の環境条件に耐える非変質材から選定することで新規かつ改良された感温ペレット型温度ヒュ-ズを提供することにある。
一方、引用文献1には、上記(エ)の記載から、使用環境や経時的変化の影響を受け難くて、周囲の厳しい保管雰囲気に曝され高温高湿や有害ガスを浴びる環境下においても感温ペレット自体に欠陥を生じさせない感温ペレットが求められるという課題があり、感温ペレットについて、使用環境や経時的変化の影響を受け難いペレット材料を選定するということが開示されている。してみると、引用発明の感温ペレットを構成する熱可塑性樹脂材の低密度ポリエチレンも、感温ペレット型温度ヒュ-ズの保管状況、使用状況を考慮して、所望の「高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により変質を生じない樹脂材」との要件を満たすものを選定することは、引用発明に接した当業者であれば、引用発明の課題に鑑みれば、容易に想到し得るというべきである。
また、引用文献1の上記(キ)には、感温ペレット型温度ヒューズの感温ペレットが熱可塑性樹脂材料で、これと接する押圧板が銅材の場合、熱可塑性樹脂が銅害を受けることが記載され、その対策が必要なことも示唆されている。そして、引用文献2には、引用発明と同一の技術分野である感温ペレット型温度ヒューズにおいて、押圧板の変色や変質、及びそれに伴う感温ペレットの変質防止のため、押圧板として高温高湿の環境下でも化学的に反応し難く非活性である非変質材としてステンレスを採用することが記載されており、引用発明並びに引用文献1及び引用文献2に接した当業者であれば、感温ペレット型温度ヒュ-ズに低密度ポリエチレンを採用した引用発明の課題を認識し、その解決手段として押圧板にステンレスを採用すること、その採用に際しても、そのステンレス材が、高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により感温ペレットとの当接面で変質を生じないようなものを選定することは、引用発明並びに引用文献1及び引用文献2に接した当業者であれば、引用発明の課題に鑑みれば、容易に想到し得るというべきである。
そして、上記のような熱可塑性樹脂材の低密度ポリエチレンの感温ペレット及びステンレス材からなる押圧板を採用して、感温ペレット型温度ヒューズの導出リード部材間を遮断する動作温度の経過時間的な変動をミニマム化することも、引用発明及び引用文献2に接した当業者であれば、引用発明の課題に鑑みれば、容易に想到し得るというべきである。

また、本願補正発明による効果も、引用発明、及び、引用文献1及び引用文献2に記載された事項から、当業者が通常予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、並びに、引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成24年9月26日付けの手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「筒型金属ケ-ス(1)と、この金属ケースの一端側にかしめ固定したリ-ド(2)および他端側に開口閉塞用絶縁ブッシング(9)を貫通し先端に固定接点(11)を有するリ-ド(10)を含む導出リード部材と、前記金属ケ-ス(1)に収容する感温ペレット(3)、ケース内壁面と接触する可動接点体(7)、この可動接点体に係留される圧縮ばね部材(6、8)、および圧縮ばね押圧力を感温ペレット(3)に伝達する金属押板(4、5)を具備し、前記感温ペレットは高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により変質を生じない樹脂材である熱可塑性樹脂材のオレフィン系樹脂であり、かつ、前記金属押板は高温保管および/または高湿保管の環境負荷の耐久試験により前記感温ペレットとの当接面で変質を生じない所定の機械的強度を有するステンレス材であり、それにより前記導出リ-ド部材間を遮断する動作温度の経過時間的な変動をミニマム化したことを特徴とする感温ペレット型温度ヒュ-ズ。」

第4 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した引用文献1及び引用文献2、並びに、その記載事項と引用発明は、上記「第2 3-1」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、上記「第2 1」の本願補正発明から、「感温ペレット」の限定事項である「熱可塑性樹脂材の低密度ポリエチレン」について、「熱可塑性樹脂材のオレフィン系樹脂」と上位概念化するものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3-3」に記載したとおり、引用発明、並びに、引用文献1及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明、並びに、引用文献1及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、並びに、引用文献1及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2以下に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-12 
結審通知日 2014-02-13 
審決日 2014-02-25 
出願番号 特願2008-96387(P2008-96387)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01H)
P 1 8・ 575- Z (H01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 吉信  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 大熊 雄治
平田 信勝
発明の名称 感温ペレット型温度ヒュ-ズ  

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