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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1286771
審判番号 不服2012-10466  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-06 
確定日 2014-04-11 
事件の表示 特願2004-282917「デジタル・ビデオに電子透かしを入れる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-110270〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年9月29日の出願(優先権主張2003年9月29日、米国)であって、平成22年10月27日付(起案日)で拒絶の理由が通知され、平成23年4月28日付で意見書及び手続補正書が提出されたものの、平成24年1月30日付(起案日)で拒絶査定がなされたものである。
本件は、上記拒絶査定を不服として平成24年6月6日に請求された拒絶査定不服審判であって、当審において、平成25年4月15日付(起案日)で拒絶の理由が通知され、平成25年10月18日付で意見書及び手続補正書が提出されている。

2.本願発明
本願の請求項1?33に係る発明は、平成23年4月28日付、及び、平成25年10月18日付手続補正書で補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?33に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は請求項1に記載された次のとおりである。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】
ビデオ信号に電子透かしを入れてそこに追加情報を含める方法であって、追加情報を含むビデオ信号において、前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均から導き出した値の少なくとも1つの選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより、前記ビデオ信号のクロミナンス部分に前記追加情報の少なくとも一部を刻印する工程を備える方法。」

3.引用刊行物
3.1.引用例1
3.1.1.引用例1の記載事項
当審における平成25年4月15日付の拒絶の理由で引用した『松井甲子雄「電子透かしの基礎 -マルチメディアのニュープロテクト技術-」1998.08.21発行、森北出版、第1版第1刷、p.13?15, 57?60, 100?113, 132?145』(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

「1.4 電子透かしの分類
ステガノグラフィに関する研究論文を分類してみると,大きく分けて代入法,選択法,構成法の3種類になる.電子透かしも本質的にはステガノグラフィと同じであるのでその分類に従って,それぞれの概要を述べる.

(1)代入法
電子透かしの基本は,デジタルメディアのノイズ成分を,秘密の符号やロゴマークなどの識別可能な情報でおきかえることである。すなわち,代入法(substitute steganography)はこのノイズレベルに透かし情報を代替として設定する方法である.このためには,受け皿としての電子メディアは十分に冗長性に富み,かつある程度のノイズ性をもつデータからなることが必要である.通常,メディアを画像とした場合,各画素の最下位のビットプレーンはランダム性を示すデータからなっているので,この代入法を容易に適用できる.
しかし,画像や音声の量子化データは,一般にそのまま利用されず,データ圧縮されることが多い.このとき,ノイズ成分に相当する下位ビット情報は,圧縮操作の対象となり,そこに埋め込まれている透かし情報は必然的に消去される可能性が生まれてくる.これが代入法の弱点である.
この弱点を補うために,量子化データの中間層のビットプレーンに透かし情報を埋め込む方法も考えられている.この場合,データ圧縮の処理によって透かし情報が消失するのを防ぐことができるが,画質や音質に与える影響も増大する.したがって,透かしビットの埋込み位置とその量をよく考慮してその場所を決定することが大切であろう.

(2)選択法
マルチメディアを扱うコンテンツは多量のデータから構成されている.しかも,同じような画像フレームが連続して現れたり,また音声波形も類似したものが続くことが多い.このような連続的に類似現象が出現するコンテンツに対して,透かし情報を密かに紛れ込ませても,ユーザーには気づかれにくい.そこで,できるだけ自然な形に沿うように紛れこませる方法が考えられている.1枚の画像フレームに対しても類似した走査画素の中に透かしビットを挿入する方法も提案されている. これらの方法は,前後左右のフレームや周囲画素ととくに目立たないように離散的に選んだ特定位置にのみ透かし情報を埋め込むもので選択法(selective steganography)と呼ばれている.
この選択法のポイントは, どこに埋め込むかを鍵で指定することにある.復号時に埋込み位置を確定できないと透かし情報を得られず,役に立たなくなる.一方,あまりに幼稚な隠匿工作では,第三者の攻撃を受けることにもなる.そこで,必然的に公開鍵暗号のように一方通行関数の性質を用いた鍵で分散配置することが考えられている.また,マルチメディアに直交関数系の変換を施し,その周波数スペクトルに選択法の考え方を適用する例も多く見られる.透かし情報を選択的に埋込み後,逆変換を施すと,前述の代入法のように,ノイズレベルに擬装した透かしビットが画面全域に拡散される効果が得られるからである.

(3)構成法
透かしの対象となるマルチメディアの量子化ノイズに注目し,その統計的な性質を調べると新しいノイズモデルを作為的に構成することができる.そのような擬似ノイズモデルを利用して透かしのサインを埋め込む方法を構成法(constructive steganography)とよんでいる.ノイズモデルをつくるためには,多くのコンテンツに対してデータを詳細に検討し,ソースデータとノイズ分布に関する正確な知識を得なければならない.この作業は労多くして果報の少ないことが多く,たいへんに難しい仕事である.より多くのデータと時間を費やして,初めてデータに見合うノイズモデルを開発することができる.しかし,実際に透かし情報を埋め込んでみると,モデルのバランスが崩れ,秘匿したはずのものがわずかの処理で簡単に浮上して見えてしまいセキュリティの向上につながらないことがある.また,ノイズモデルをつくることは透かしのアルゴリズムの一環であり,アルゴリズムを秘密にすると幅広い運用に支障をきたし,公開すれば第三者に簡単に攻撃の糸口を与えてしまう.このように構成法には多くの問題点があるが,代入法や選択法と異なってコンテンツの全域にわたって透かし情報を分散配置できるためコンテンツの部分的な切り抜き(clipping)などにも頑健に耐えることができる特徴がある.
一方,マルチメディアの符号化に当たり,画像フレームから絵を構成する概形を切り出してデータ圧縮する研究が始まっている.この方法はモデルに基づく符号化法(model-based coding)とよばれ, MPEG-4に採用されている.この画像フレームから抽出したコンテンツの一部分を透かし信号に従って削除,変形,追加などの再編集を行なうことが提案されている114).このモデルそのものを偽造する企図も動画像を対象とした構成法的な電子透かしの分類に入るものであろう.」(第13?15頁)
『3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用
予測符号化における予測誤差信号を量子化する際に情報が非保存となる性質を利用して,圧縮された画像データに透かし情報を埋込み可能であることを述べた.これは実画像領域における処理であるが,それによく似た方法が画像の周波数領域においてもデータの圧縮の際に実行できることを紹介しよう.

(1) 離散コサイン変換の考え方
離散コサイン変換(discrete cosine transform : DCT)は画像信号を空間周波数に直交変換する一つの方法である.その基本的な処理の流れを図3.17に示す.まず,入力画像を8×8画素のP(m,n) m,n=0,1,・・・,7の小ブロックに分ける.そして,この画素値集合P(m,n)に対してつぎの変換を行う.

この変換を二次元DCTという.ここに,

である.このDCTを画像の各ブロックに適用する.その結果,ブロックごとに(u,v)平面上8×8画素の出力S(u,v)が得られる. とくにS(0,0)を直流(DC)成分,それ以外の63個のS(u,v)を交流(AC)成分とよんでいる.DC成分は画像の明るさを表しており,また,AC成分は画像の変化模様を表し,uまたはvの値が大きいほど高い空間周波数成分になっている.
図3.17からわかるように二次元DCTで得られた空間周波数成分S(u,v)は広い範囲に広がって分布しているため,そのまま保存(または伝送)したのではデータ量を削減できない.そこで,通常,量子化操作によってデータを圧縮する.各DCT係数S(u,v)が表3.2の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)の何倍であるかを四捨五入した整数値で求める.その値をもって量子化データR(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)とするのである.すなわち,まるめ(round)関数を用いて

この方法は,DCT係数の大小に依存せず一定のステップサイズを用いているので,一様量子化ともよんでいる.表3.2より量子化ステップサイズは空間周波数が高いほど大きくなり粗い量子化となっている.これは高い空間周波数(すなわち,微細にわたる画像の変化分)のひずみほど人間の目には知覚されにくいという視覚特性を利用している.このデータ圧縮方式では量子化誤差が導入されるので,原画像と同一の再生画像を復元することはできない.いわゆる情報非保存型の変換であることに注目する.

(2)透かし情報の埋込み
round関数は式(3.13)におけるS(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを四捨五入則によって近隣の整数値にまるめている.このとき,Q(u,v)のステップサイズによってはかなり大きな誤差が導入されることになる.これが情報非保存性の誘因の一つになる.しかし,それでも再生画像に対して人間はあまり違和感を覚えないでいられる.そこで,この四捨五入則を拡張して,透かし情報から得たビット系列でround関数を制御することを考えよう.

(a) 直接制御方式^(35))
埋め込む透かしビットが0ならば,round関数の出力を除算値の最近傍の偶数値に設定し,透かしビットが1ならば,その出力を最近傍の奇数値に設定する.きわめて単純な発想であるが,R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定する.このときブロック当たり1ビットの埋込みでも,1画面(256×256画素)では約1Kビットの透かし情報を保有できることになる.この方式のポイントは,透かしを埋め込む周波数成分を少なくし,その他をすべて四捨五入則によって量子化するならば秘匿性を十分に保持できることにある.

(b) 変換テーブル方式^(36))
四捨五入則の代わりに,新しい変換テーブルを設けるものである.これは,すでに述べた予測誤差信号に対する透かし情報の埋込みと同じ発想である.

(c) 再量子化方式^(37))
まず透かし情報の埋込み座標(u,v)を(a)と同様に秘密鍵系列で指定し,対象周波数成分R(u_(0),v_(0))を取り出す.特別に設定した秘密の埋込み強度パラメータhでその値を再量子化する.すなわち,

とする.
もし,透かしビットbが0ならば, R(u_(0),v_(0))に最も近いつぎのような整数値を選び,R(u_(0),v_(0))の代替とする.

ここに,tは最近傍を採択するための自然数である.一方,もしb=1ならば、

とする.この方法は,乱数系列で埋込み位置を秘匿するとともに,hによる再量子化という誤差成分を導入することによって秘匿効果を高めかつ復号率を向上させている.
復号に際しては,透かし情報を含有する周波数成分R(u_(0),v_(0))を取り出し,それを秘密に所有するパラメータhで式(3.14)により再量子化する.その結果qとR(u_(0),v_(0))との差分p(mod h)を求めてつぎの判定を行う.
0≦p<h/2 ならば b←0
h/2≦p<h ならば b←1
中村^(37))らは,この方法でシミュレーション実験を試みている.その報告によると,256×256画素256階調のgirlに8×8画素の2次元DCTをかけて,埋込み対象周波数(u_(0),v_(0))を8組選んで実験し,表3.3の結果を公表している.再量子化パラメータhが10を超えると著しくSN比が降下することがわかる.画像品質保持の立場からすると低周波成分に透かしビットを入れるのでこのあたりが利用限界ではないかと推定される.逆に,hを小さくしすぎると透かし情報の復号率が低減することにも注意する.

』(第57?60頁)
「(2) 色差成分への埋込み
人間の視覚は,白黒濃淡画像に対してはおよそ100階調,カラー画像では2000色の範囲で識別する能力をもっているといわれる.しかし,平素から色彩に興味を抱き,注意深く観察している人を除いては,それほどの鑑識能力を保有していない.
たとえば,図4.5に見られるように人間の視力限界曲線の示すところによれば,周波数が高くなるほど階調の識別能力は低下していく.この特性を利用したカラー画像の記録方式として多値誤差拡散法がある^(56)).この方法を用いると視力限界曲線に近い記録が可能となる.一方,視覚特性からみると,輝度情報は画像のエネルギー成分からなるので人間の目に最も多くの刺激をもたらす.

したがって,その階調を識別するのは比較的容易である.しかし,色相や彩度に関する情報は,画像の位相成分に相当するので,人間の目に反映する力が弱い.それゆえに,色差情報などの識別能力は輝度レベルに比較し著しく劣っている.
図4.5には青-黄間の色差と彩度での周波数に対する識別階調数の変化が示されている^(57)).プリンタとしては,輝度の視力限界曲線に沿ってカラー画像の輝度成分に見合う出力の再現性を求められるが,色差や彩度情報の識別限界は,図4.5に示すようにどの周波数域においても輝度レベルより低位にある.したがって, このとき色差情報はオーバースペック状態になってしまい,この輝度との差の部分に見えない記録が可能となる領域が存在する.
図4.5を観察すると,この領域は低い周波数帯域よりも高い帯域のほうが大きい.すなわち,高周波色差情報を用いることにより画質劣化を招くことなく,透かし情報を埋め込むことができるのである.
この原理に基づいて,関沢^(57))は図4.6に示す実験システムを構築してカラー画像の色差信号に透かし情報を埋め込むことを試みている.まず,透かし情報を色差信号で作成し,プリンタの記録信号に変換する.ただし,電子写真式のカラープリンタを仮定しているからシアン(C),マゼンダ(M),イエロー(Y)のトナーの重ね合せでカラーを実現する.表現能力の高いフルカラーにするため各色について300ドット/インチの8階調という多値誤差拡散記録方式を採用している.

透かし情報をこのように色差記録信号に変換したのち画像信号に付加し,カラープリンタで出力すると,画質劣化を受けずにフルカラー画像を再現できる.カラー自然画像には色差の高域成分が少ないために高周波の透かしを埋め込むと高いS/N比で復号可能であることが報告されている^(57)).
一方,谷垣ら^(95))は人間の色覚モデルにおける(R,G,B)成分から(Cr,Cg,Y)成分への中枢神経系の変換過程に注目し,さらに中間的な人工色覚モデルを導入して透かし情報を埋め込む方法を提案している.その原理は,まず,入力画像の三次元カラー画像空間を多数の部分カラー平面で近似させて,媒介的な量子化画像を作成する.その部分カラー平面上の点に拘束条件を設けて,透かしビット情報を埋め込むのである.すなわち,この中間画像の各画素の成分のうち,2成分を拘束し,他の1成分を透かし情報で変調させていると解釈できる.通常の色覚系では識別できない領域で変調をかけているため,出力画像のS/N比は良好であるが,近似カラー平面への分割と埋込み操作に処理負担が大きい.詳細は煩雑にわたるので,文献^(95))を参照されたい.」(第106?108頁)
「(2) 空間軸方向の冗長性の利用
マクロブロックの動き補償によって得られたフレーム間の差分情報は,そのまま伝送されることなく,図6.4のブロック単位で離散コサイン変換(DCT)により圧縮される.DCTは情報量非保存型の高能率符号化方式であるから,やはり空間軸方向の冗長性を利用して透かし情報を埋め込む機会を得ることができる・その具体的な方法については,すでにJPEGにおける電子透かし(第4章参照)で述べたようにいくつかのアプローチが開発されている.」(第136頁)
「(2) 空間軸方向の冗長性利用
すでに指摘したように, MPEG 2における空間軸方向の冗長性の圧縮方式はMPEG 1と本質的に同じで,DCT処理となっている.したがって,DCTに対する電子透かしのテクニックはほとんどMPEG 2においても利用可能である^(65)).」(第144頁)

3.1.2.引用例1記載の発明
引用例1の上記記載について検討する。

第一に、上記「表3.2 量子化テーブルの例」(第58頁)には「(b) 色差成分用量子化テーブル」という記載があるところから、引用例1の「3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用」(第57?60頁)には、圧縮された画像データの色差成分に透かし情報を埋め込むことが記載されているといえる。
第二に、上記「(1) 離散コサイン変換の考え方」(第57?59頁)には「画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化」し「量子化データR(u,v)を求める」ことが記載されている。
第三に、上記「(2)透かし情報の埋込み」「(a) 直接制御方式」(第59頁)に記載される「埋め込む透かしビットが0ならば, round関数の出力を除算値の最近傍の偶数値に設定し,透かしビットが1ならば,その出力を最近傍の奇数値に設定する.」とは、結局、透かしビットが0ならばround関数の出力の最下位ビットを0とし、透かしビットが1ならばround関数の出力の最下位ビットを1とするものである。
第四に、上記「(2)透かし情報の埋込み」「(a) 直接制御方式」(第59頁)には「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定する」ことが記載されている。
第五に、上記「3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用」(第57?60頁)には、これが静止画像に適用するものなのか、動画像に適用するものなのか明示されていないが、上記「(2) 空間軸方向の冗長性の利用」(第136頁)、「(2) 空間軸方向の冗長性利用」(第144頁)の記載にもみられるように、DCT係数に対して透かしを埋め込む手法は、DCT変換を行うJPEG符号化、MPEG符号化のいずれにもそのまま適用できるものであって、上記「3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用」(第57?60頁)に記載されるものもDCT変換を行うものであることを考えると、上記「3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用」に記載されるものも動画像を対象としたものと認めることができる。

したがって、引用例1の「3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用」(第57?60頁)には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「圧縮された動画像データの色差成分に透かし情報を埋込む方法として、画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し量子化データR(u,v)を求めるときに、R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定し、埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む、圧縮された画像データに透かし情報を埋込む方法。」

3.2.引用例2
3.2.1.引用例2の記載事項
当審における平成25年4月15日付の拒絶の理由で引用した『上野義人、村上健自「動きベクトル参照型動画像電子透かし方式」情報処理学会論文誌、情報処理学会、2002.08.15発行、第43巻第8号、p.2511?2518』(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

「2.動きベクトル参照型動画像電子透かし方式の構成
後述する透かし情報埋め込みアルゴリズムを実現する方式構成は,MPEG符号化方式の構成図を一部変更して,図1のように構成できる.
動き補償回路で検出された動きベクトルを参照して,動きベクトルが存在する参照元I-フレームのマクロブロックの画素に透かし情報を直接,画素の輝度成分(Y)や色差成分(CbまたはCr)に埋め込む.
透かし情報の埋め込み方法として,奇数,偶数値制御方式,すなわち,

(1)透かし情報が“1”のとき,たとえば,I-フレームにおける動きベクトル参照元マクロブロックの画素の輝度信号レベル(Y)の値を偶数とする.
(2)透かし情報が“0”のとき,I-フレームにおける動きベクトル参照元マクロブロックの画素の輝度信号レベル(Y)の値を奇数とする.

このような奇数,偶数値制御方式で,透かし情報の埋め込み制御を行うことができる.
また,透かし情報のフラグビット埋め込み場所として,図1の点線で示すように,どのような動画像フレームにも必ず存在するDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を埋め込むこともできる.もちろん,DCT変換後の量子化値の低周波成分に埋め込む方法も考えられるが,どの低周波数成分に埋め込むかを指定する情報が必要となり,回路構成が複雑になる.
このため,画素の輝度成分(Y)と色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を奇数,偶数値制御方式を用いて埋め込むことができる.
したがって,透かし情報の埋め込み場所として,I-フレームの動きベクトル参照元マクロブロックの画素の

(1)輝度成分(Y)
(2)色差成分(CbまたはCr)輝度成分
(3)(Y)の量子化値のD.C成分
(4)色差成分(CbまたはCr)の量子化値のD.C成分

などが採用できる.
このように,透かし埋め込み処理を行ったI-フレームをI,B,B,P-バッファで埋め込み前のI-フレームと入れ替えた後,可変長符号化して出力符号化ストリームを得る方式が構成できる.これらの方法は,ソフトウエア的にリアルタイム処理が可能である.」(第2512頁左欄?右欄)


3.2.2.引用例2記載の発明
引用例2の記載について検討する。

引用例2の上記摘記した以外の部分、すなわち、「3.チェインコードを用いた電子透かし法」「4.2分木アルゴリズムを用いた電子透かし法」「5.実験結果」には、動きベクトルに透かし情報を埋め込むもののみが具体的に記載されているが、上記摘記したように引用例2には「また,透かし情報のフラグビット埋め込み場所として,図1の点線で示すように,どのような動画像フレームにも必ず存在するDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を埋め込むこともできる.」「このため,画素の輝度成分(Y)と色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を奇数,偶数値制御方式を用いて埋め込むことができる.」との記載があり、それら動きベクトルに透かし情報を埋め込むものを、色差成分(CbまたはCr)の量子化値のD.C成分に埋め込むものと読み替えることができるから、引用例2全体としてみても、動画像フレームの色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を埋め込むことも記載されていると認めることができる。すなわち、引用例2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「動画像フレームの色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を、透かし情報が“1”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を偶数とし、透かし情報が“0”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を奇数とする、奇数偶数値制御方式を用いて埋め込む、MPEG符号化方式を一部変更した、透かし情報埋め込みアルゴリズム。」

4.対比
本願発明と引用発明1を比較する。

4.1.「ビデオ信号に電子透かしを入れてそこに追加情報を含める方法であって・・・備える方法」
引用発明1は「圧縮された動画像データの色差成分に透かし情報を埋込む方法」であって、透かし情報を埋込むことによって、圧縮された動画像データに情報を追加するものということができるから、引用発明1と本願発明は「ビデオ信号に電子透かしを入れてそこに追加情報を含める方法・・・備える方法」である点で一致している。

4.2.「追加情報を含むビデオ信号において」
引用発明1は「圧縮された動画像データの色差成分に透かし情報を埋込む方法」であって、色差成分に透かし情報を含む圧縮された動画像データが生成されるものであって、この色差成分に透かし情報を含む圧縮された動画像データは、追加情報を含むビデオ信号ということができるから、引用発明1と本願発明は「追加情報を含むビデオ信号において」という点で一致している。

4.3.「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均から導き出した値の少なくとも1つの選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより、前記ビデオ信号のクロミナンス部分に前記追加情報の少なくとも一部を刻印する工程」
まず、本願発明の「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均」「ビット位置」「選択されたビット位置」「選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより・・・前記追加情報の少なくとも一部を刻印する」が、それぞれ、どのような意味なのか、本願明細書の記載を参照して検討する。

第一に、本願発明の「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均」について、本願明細書段落【0010】に「本発明の別の実施形態では、動画像符号化専門家会合(MPEG)-1、MPEG-2、MPEG-4など、MPEG標準の1つのような、ビデオのブロック・ベースの周波数領域の符号化を使用する場合、電子透かしを入れたデータのビットの代入は、ブロックのクロミナンス・マトリックスの少なくとも1つの、平均値に対応する、DC係数の値を調整することにより達成することができる。」との記載があり、この「MPEG標準の1つのような、ビデオのブロック・ベースの周波数領域の符号化」として二次元DCT変換を利用するものが良く知られていることからみて、本願発明の「前記ビデオ信号のブロック」とはMPEG符号化におけるマクロブロックを指し、また、本願発明の「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均」とは、MPEG符号化におけるマクロブロックのクロミナンス成分に対して二次元DCT変換をおこなったときのDC成分、すなわち、(0,0)成分を指すものと認めることができる。
第二に、本願発明の「ビット位置」について、本願明細書段落【0044】に「例えば、電子透かしデータがブロックの選択されたクロミナンス部分の平均の整数部分の最下位ビットで伝えられるべき場合、平均値に加算される必要のある値は0または1である。平均値の整数部分の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットと既に同じである場合は0が加算され、平均値の整数部分の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットの補数である場合は1が加算される。電子透かしデータが、ブロックの選択されたクロミナンス部分の平均の整数位置の2番目の最下位ビットで伝えられるべき場合、当該ピクセルに加算されるべきデータの値は-1、0、または1である。平均値の整数部分の2番目の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットと既に同じである場合は0が加算され、平均値の整数部分の2番目の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットの補数である場合は1または-1が加算される。1が加算されるか-1が加算されるかは、平均値の整数部分の2番目の最下位ビットをその補数に変更しながら、平均値に対して最小の変更の原因となるのはどちらかによって異なる。2番目の最下位ビットを使用すると、埋め込まれるべきデータが、MPEGまたは類似の処理による符号化に耐える可能性が高まる。ブロックの選択されたクロミナンス部分の平均の整数部分の3番目の最下位ビットにデータが入れられるべき場合、当該ピクセルに加算されるべきデータの値は-2、-1、0、1、または2である。平均値の整数部分の3番目の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットと既に同じである場合は0が加算され、平均値の整数部分の3番目の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットの補数である場合は、-2、-1、1、または2が加算される。-2、-1、1、または2のどれが加算されるかは、平均値の整数部分の3番目の最下位ビットをその補数に変更しながら、平均値に対して最小の変更の原因となるのはどれかによって異なる。3番目の最下位ビットを使用すると、埋め込まれるべきデータが、適切な結果を達成するために、MPEGまたは類似の処理による符号化に耐える可能性が高まる。上記の説明から、当業者は、ユーザまたはシステムにより決定される、さらに上位のビット位置に対して加算されるべき値を容易に決定することができる。」との記載があり、この記載からみて、本願発明の「ビット位置」とは「導き出した値」の中の最下位から最上位のどの「ビット位置」であってもよいものと認めることができる。
第三に、本願発明の「選択されたビット位置」について、本願明細書段落【0046】の「当該ブロックに対するクロミナンス部分の値の特定ビット平均、例えば、ビット・マッパー123により供給されたデータが刻印される、当該クロミナンス部分に対するDC係数は、ビット・マッパー123によって決定される。本発明の実施形態例では、ブロックに対するDC係数の2番目の最下位ビットは、当該ブロックに刻印されることが望まれる特定値で置き換えられる。本発明の別の実施形態では、DC係数のどのビットが置き換えられるかは、当該ブロックのテクスチャ変動により異なる。」との記載からみて、本願発明の「選択されたビット位置」とは「導き出した値」の「ビット位置」、すなわち、上記「第二に」で述べたように、「導き出した値」の中の最下位から最上位のどの「ビット位置」の中から、「2番目の最下位ビット」のように固定した位置のビットが選択されるものと、「当該ブロックのテクスチャ変動」に基づいた位置のビットが選択されるものの、いずれであっても良いものであって、上記「第二に」と合わせて考えると、審判請求人が平成25年10月18日意見書で主張するように、本願発明の「選択されたビット位置」とは、単に『ある一つの「選択されたビット位置」がある』にすぎないものと認めることができる。
第四に、本願発明の「選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより・・・前記追加情報の少なくとも一部を刻印する」について、本願明細書段落【0008】の「本発明の一実施形態では、必要に応じ、電子透かしデータを伝えるべきブロックの選択されたクロミナンス部分の平均値のビットが、電子透かしデータ・ビットの値と同じになるようにするために、ブロックの個々のピクセルの選択されたクロミナンス部分の値を調整することができる。」、段落【0009】の「本発明の一態様により、電子透かしデータを含むべき平均値のビット位置の値が既に電子透かしデータ・ビットの値と同じ場合、当該ブロックのどのピクセルにも変更は行われない。しかし、電子透かしデータを含むべき平均値のビットの値が、当該ブロックで伝えられるべき電子透かしデータ・ビットの値の補数である場合、ビットを電子透かしデータ・ビットの値に変更する平均値に対する少なくとも最小限の変更が、平均値に行われる。」、段落【0043】の「本発明の原理により、ビット・マッパー123は、各ブロックの複数のクロミナンス部分のうち選択された1つのクロミナンス部分の平均値のビット位置の1つへの電子透かしデータの挿入を制御する。データはそこに刻印され、したがって、そのビット位置のビットと効果的に置き換えられる。」、段落【0046】の「当該ブロックに対するクロミナンス部分の値の特定ビット平均、例えば、ビット・マッパー123により供給されたデータが刻印される、当該クロミナンス部分に対するDC係数は、ビット・マッパー123によって決定される。本発明の実施形態例では、ブロックに対するDC係数の2番目の最下位ビットは、当該ブロックに刻印されることが望まれる特定値で置き換えられる。」との記載からみて、本願発明の「選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより・・・前記追加情報の少なくとも一部を刻印する」とは、選択されたビット位置のビットが追加情報の少なくとも一部と同じになるように、選択されたビット位置のビットを追加情報の少なくとも一部と置き換えるものであって、審判請求人が、平成23年4月28日付、平成25年10月18日意見書、および、平成24年6月6日付審判請求書で主張するような、当初の平均値が「1100」であり、電子透かしデータ部分が「1」であり、電子透かしデータ部分が2番目の最下位ビットに入れられる場合、結果としての新しい値は「1110」となり、一方で、もし、電子透かしデータ部分が3番目の最下位ビットに入れられる場合、結果としての新しい値は「1100」となるような処理を指すものと認めることができる。

次に、これらを前提として、本願発明の「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均から導き出した値の少なくとも1つの選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより、前記ビデオ信号のクロミナンス部分に前記追加情報の少なくとも一部を刻印する工程」と、引用発明1の「画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し量子化データR(u,v)を求めるときに、R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定し、埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む」を対比する。

第一に、引用発明1は「画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し量子化データR(u,v)を求める」ものであって、上記したように、本願発明の「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均」とは、MPEG符号化におけるマクロブロックのクロミナンス成分に対して二次元DCT変換をおこなったときのDC成分、すなわち、(0,0)成分を指すものであるから、引用発明1の「画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)」の「(0,0)成分」と、本願発明の本願発明の「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均」が一致する。
第二に、引用発明1は「DCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し」たものであって、この「DCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し」た結果は「DCT係数S(u,v)」から導き出されたものということができるから、引用発明1の「DCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し」た結果の「(0,0)成分」と本願発明の「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均から導き出した値」が一致する。
第三に、上記したように、本願発明の「ビット位置」とは「導き出した値」の中の最下位から最上位のどの「ビット位置」であってもよく、また、本願発明の「選択されたビット位置」とは「導き出した値」の「ビット位置」の中から、「2番目の最下位ビット」のように固定した位置のビットが選択されるものであってもよいと解釈すべきものである。これに対し、引用発明1は「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定し、埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む」ものであって、この「round関数の出力の最下位ビット」とは、「round関数の出力」の中から「最下位ビット」という固定した位置のビットが選択されたものということができるから、引用発明1の「最下位ビット」は本願発明の「選択されたビット位置」であるということができる。更に、本願発明の「選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れる」とは、選択されたビット位置のビットが追加情報の少なくとも一部と同じになるように、選択されたビット位置のビットを追加情報の少なくとも一部と置き換えるものであって、審判請求人が、平成23年4月28日付、平成25年10月18日意見書、および、平成24年6月6日付審判請求書で主張するような、当初の平均値が「1100」であり、電子透かしデータ部分が「1」であり、電子透かしデータ部分が2番目の最下位ビットに入れられる場合、結果としての新しい値は「1110」となり、一方で、もし、電子透かしデータ部分が3番目の最下位ビットに入れられる場合、結果としての新しい値は「1100」となるような処理を指すものであって、引用発明1の「埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力する」とは、結局、round関数の出力の最下位ビットを埋め込む透かしビットで置き換えているということができるから、引用発明1の「埋め込む透かしビット」と本願発明の「追加情報の少なくとも一部」が対応し、全体として、引用発明1の「埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む」と本願発明の「選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより・・・前記追加情報の少なくとも一部を刻印する」が一致している。
第四に、本願発明は、引用発明1の「鍵」に相当するものを有していないのに対し、引用発明1は「鍵」を有し「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定」するものであるが、この引用発明1の「鍵」をR(0,0)に「透かしデータを秘匿」するように指定した場合、すなわち、引用発明1における「DCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し」た結果の「(0,0)成分」に対して透かしデータを秘匿するように設定した場合は、引用発明1は「DCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し」た結果の「(0,0)成分」に対して「埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む」処理を行うものとなる。そして、上記「第二に」で述べたように、引用発明1の「DCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し」た結果の「(0,0)成分」と本願発明の「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均から導き出した値」が一致し、上記「第三に」で述べたように、引用発明1の「埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む」と本願発明の「選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより・・・前記追加情報の少なくとも一部を刻印する」が一致しているから、結局、引用発明1の「鍵」をR(0,0)に「透かしデータを秘匿」するように指定した場合は、引用発明1の「DCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し量子化データR(u,v)を求めるときに、R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定し、埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む」と本願発明の「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均から導き出した値の少なくとも1つの選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより、前記ビデオ信号のクロミナンス部分に前記追加情報の少なくとも一部を刻印する」が一致しているということができるが、引用発明1の「鍵」をR(0,0)以外の成分に対して透かしデータを秘匿するように設定した場合は、本願発明は「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均から導き出した値の少なくとも1つの選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより、前記ビデオ信号のクロミナンス部分に前記追加情報の少なくとも一部を刻印する」のに対し、引用発明1は、そのような処理を行っていない点で相違する。
第五に、引用発明1の「画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し量子化データR(u,v)を求めるときに、R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定し、埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む」処理は「工程」であるということができるから、引用発明1と本願発明は、そのような処理を行う「工程」を有している点で一致している。

5.一致点・相違点
ここで、上記「4.対比」で述べたことをまとめると、本願発明と引用発明1は、以下の点で、一致し、また、相違する。

[一致点]
引用発明1の「鍵」をR(0,0)に「透かしデータを秘匿」するように指定した場合は、引用発明1と本願発明はいずれも「ビデオ信号に電子透かしを入れてそこに追加情報を含める方法であって、追加情報を含むビデオ信号において、前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均から導き出した値の少なくとも1つの選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより、前記ビデオ信号のクロミナンス部分に前記追加情報の少なくとも一部を刻印する工程を備える方法」である点。

[相違点]
本願発明は、引用発明1の「鍵」に相当するものを有していないのに対し、引用発明1は「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに可変型式に指定」できる「鍵」を有しており、引用発明1の「鍵」をR(0,0)以外の成分に対して透かしデータを秘匿するように設定した場合は、本願発明は「前記ビデオ信号のブロック全体にわたるクロミナンス部分の平均から導き出した値の少なくとも1つの選択されたビット位置に、前記追加情報の少なくとも一部を入れることにより、前記ビデオ信号のクロミナンス部分に前記追加情報の少なくとも一部を刻印する」のに対し、引用発明1は、そのような処理を行っていない点。

6.当審の判断
引用発明2は「動画像フレームの色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を、透かし情報が“1”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を偶数とし、透かし情報が“0”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を奇数とする、奇数偶数値制御方式を用いて埋め込む、MPEG符号化方式を一部変更した、透かし情報埋め込みアルゴリズム」 であって、引用発明2で透かし情報が埋め込まれる「色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値」は、引用発明1でいう「DCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し」た結果の「(0,0)成分」と対応するものであるが、引用例2には上記摘記したように「また,透かし情報のフラグビット埋め込み場所として,図1の点線で示すように,どのような動画像フレームにも必ず存在するDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を埋め込むこともできる.もちろん,DCT変換後の量子化値の低周波成分に埋め込む方法も考えられるが,どの低周波数成分に埋め込むかを指定する情報が必要となり,回路構成が複雑になる.」と記載されているように、引用発明2において、「色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値」に対して「透かし情報」を埋め込むのは「回路構成が複雑になる」ことを避けるためであって、このように「回路構成が複雑になる」ことを避けるか、それを許容しつつその他の利点を得ることを選ぶかは、本願発明や引用発明1,2が属する技術分野において常に検討しなければならないものであって、その検討の結果、引用発明2と同様の構成、すなわち、引用発明1において、「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに可変型式に指定」できる「鍵」を省き、常にR(0,0)成分に透かしデータを秘匿するように構成することは、当業者が容易になしえたことにすぎない。

また、本願発明は、格別の作用効果を奏するものとも認められない。

したがって、本願発明は、引用発明1,2に基づき当業者が容易に発明できたものである。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、残る請求項2?33に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-14 
結審通知日 2013-11-19 
審決日 2013-12-02 
出願番号 特願2004-282917(P2004-282917)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畑中 高行  
特許庁審判長 松尾 淳一
特許庁審判官 小池 正彦
渡邊 聡
発明の名称 デジタル・ビデオに電子透かしを入れる方法  
代理人 岡部 讓  
代理人 岡部 正夫  
代理人 吉澤 弘司  

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