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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1286786 |
審判番号 | 不服2013-15321 |
総通号数 | 174 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-08-08 |
確定日 | 2014-04-30 |
事件の表示 | 特願2009- 64278「熱伝導性複合シート及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月30日出願公開、特開2010-219290、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年3月17日に出願したものであって、手続きの概要は以下のとおりである。 拒絶理由通知 :平成25年 1月11日(起案日) 意見書 :平成25年 2月28日 手続補正 :平成25年 2月28日 拒絶査定 :平成25年 7月 1日(起案日) 拒絶査定不服審判請求 :平成25年 8月 8日 第2 本願発明 本願の請求項1、2に係る発明は、平成25年2月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 「 【請求項1】 (a)面方向への熱伝導率が20?2,000W/(m・K)のグラファイトシートからなる熱伝導層、 (b)熱軟化性を有するシリコーン樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層、並びに (c)(a)より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)のアルミニウムシート又は銅シート の順に積層した3層構造を持つ熱伝導性複合シート。 【請求項2】 (a)面方向への熱伝導率が20?2,000W/(m・K)のグラファイトシートからなる熱伝導層、(b)熱軟化性を有するシリコーン樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層、並びに(c)(a)より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)のアルミニウムシート又は銅シートをこの順に積層した状態で、室温圧着もしくは熱圧着することを特徴とする熱伝導性複合シートの製造方法。」 第3 原査定の理由の概要 この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1:特開2004-311577号公報 刊行物2:特開2002-305271号公報 本願の請求項1、2に係る発明と刊行物1に記載の発明(特に【0014】-【0023】、【0030】-【0031】を参照)とを比較すると、両者は以下の点で相違する。 本願の請求項1、2に係る発明では「(a)より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)の金属シート」を積層しているのに対し、刊行物1に記載の発明では熱伝導性シリコーンゴム層を積層している点。 上記相違点について検討する。 刊行物2(特に【0014】-【0023】、図1-2を参照)には、粘着性を有し熱軟化する熱伝導性部材1-aを電子部品2から取り外すことができるようにするために、熱伝導性部材の一面に金属シート1-bを設ける発明が記載されている。刊行物1に記載の熱伝導性シリコーンゴム層と刊行物2に記載の金属シートとは、リワーク性を与えるという同一の機能を付与するものであるから、刊行物1に記載の熱伝導性シリコーンゴム層に代えて刊行物2に記載の金属シートを採用することは当業者が容易になしえたものである。 第4 当審の判断 1.引用例 刊行物1には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (1)「【請求項1】 (a)熱伝導性充填剤を含有するシリコーンゴムからなる熱伝導性シリコーンゴム層と、 (b)シリコーン樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導層と、 (c)面方向への熱伝導率が20?500W/(m・K)の熱伝導層と をこの順で積層した構造を有することを特徴とする熱伝導性複合シート。」 (2)「【請求項4】 前記熱伝導性シリコーンゴム層、前記熱軟化性熱伝導層、及び前記熱伝導層又は前記第2の熱伝導性シリコーンゴム層をこの順に積層した状態で、室温圧着又は熱圧着することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の熱伝導性複合シートの製造方法。」 (3)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、発熱性電子部品等の放熱シートとして用いられる熱伝導性複合シートおよびその製造方法に関する。」 (4)「【0008】 本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討した結果、リワーク性を確保するため外層の少なくとも一方にシリコーンゴム層を設け、内層には対象物との追随性を向上させる熱軟化性の中間層を設ける3層構造により、熱伝導性とリワーク性をともに向上させることに成功した。又、本発明者らは、この中間層として熱伝導性充填剤を含有しない材料を用いると放熱性能が極端に低下することも見出した。従って、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、熱伝導性とリワーク性をともに向上させることができる熱伝導性複合シートおよびその製造方法の提供を目的とする。 【0009】 【課題を解決するための手段】 上記した目的を達成するために、本発明によれば、(a)熱伝導性充填剤を含有するシリコーンゴムからなる熱伝導性シリコーンゴム層と、(b)シリコーン樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導層と、(c)面方向への熱伝導率が20?500W/(m・K)の熱伝導層とをこの順で積層した構造を有することを特徴とする熱伝導性複合シートが提供される。 このようにすると、外層側にリワーク性の優れた熱伝導性シリコーンゴム層が存在し、その熱は熱軟化性熱伝導層を介して反対側の熱伝導層から効率よく放熱されるので、熱伝導性、放熱性、及びリワーク性をともに満足できる。」 (5)「【0012】 さらに、本発明によれば、前記熱伝導性シリコーンゴム層、前記熱軟化性熱伝導層、及び前記熱伝導層又は前記第2の熱伝導性シリコーンゴム層をこの順に積層した状態で、室温圧着又は熱圧着することを特徴とする熱伝導性複合シートの製造方法が提供される。」 (6)「【0015】 熱伝導性シリコーンゴム層の硬度は、シート生産時の取り扱い性、形状保持性を確保すべく、好ましくはアスカーC硬度で10?60、より好ましくはアスカーC硬度で20?50とする。ここでアスカーC硬度とは、SRIS 0101(日本ゴム協会規格)及びJIS-S 6050に基づき、スプリング式硬さ試験機アスカーC型を使用して測定した硬さである。熱伝導性シリコーンゴム層のアスカーC硬度が10未満であると、シートが軟らかくなり過ぎて形状保持が困難となり、補強性が不十分となって生産性が低下する。逆に大きすぎると、電子部品等との密着性が低下し、追随性が悪くなって放熱性能の低下を招く。又、JIS-K6253に規定されるデュロメータタイプA硬度を指標とした場合、好ましくは30?100、より好ましくは40?90とする。なお、一般に、アスカーC硬度は、デュロメータタイプA硬度では測定が困難な柔らかい材料の硬度を測定する指標である。」 (7)「【0020】 熱軟化性熱伝導層に用いることができる、市販されている熱軟化性熱伝導性シートとしては、PCS-TC-10、PCS-TC-11、PCS-TC-20(いずれも信越化学工業株式会社製;商品名)が挙げられる。 【0021】 [熱伝導層] この層は、シートの反対側の外層にあってヒートシンク等の放熱部材等に接触し、中間層を介して伝導された熱を放熱する機能を有するとともに、面方向の熱伝導性が高いために放熱性能が高くなっている。そして、熱伝導層の面方向の熱伝導性率を20?500W/(m・K)とすることで、面方向へ熱が伝導され易くなる。熱伝導性が20W/(m・K)未満であると、面方向の熱伝導性が充分でなく、500W/(m・K)を超えても熱伝導性の効果が飽和する。熱伝導層としては、グラファイトシート、アルミホイル等が使用できる。」 上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。 (a)刊行物1には、 「(a)熱伝導性充填剤を含有するシリコーンゴムからなる熱伝導性シリコーンゴム層と、 (b)シリコーン樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導層と、 (c)面方向への熱伝導率が20?500W/(m・K)の熱伝導層と をこの順で積層した構造を有することを特徴とする熱伝導性複合シート。」 が記載されている(摘示事項(1))。 (b)熱軟化性熱伝導性シートを熱軟化性熱伝導層に用いることができる(摘示事項(7))。 (c)熱伝導層としては、グラファイトシートが使用できる(摘示事項(7))。 以上を総合勘案すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「(a)熱伝導性充填剤を含有するシリコーンゴムからなる熱伝導性シリコーンゴム層と、 (b)シリコーン樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層と、 (c)面方向への熱伝導率が20?500W/(m・K)のグラファイトシートからなる熱伝導層と をこの順で積層した構造を有することを特徴とする熱伝導性複合シート。」 刊行物2には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (8)「【請求項1】 発熱性電子部品と熱放散部材との間に金属シートと粘着性を有する熱伝導性部材が積層された放熱シートを含有する放熱構造体であって、金属シートが発熱性電子部品に接続され、粘着性を有する熱伝導性部材が熱放散部材に接続されていることを特徴とする電子部品の放熱構造体。 【請求項2】 金属シートがアルミニウムシート又は銅シートである請求項1記載の電子部品の放熱構造体。」 (9)「【請求項4】 粘着性を有する熱伝導性部材が相転移材又は熱軟化材を含有する請求項1?3のいずれか1項に記載の電子部品の放熱構造体。 【請求項5】 発熱性電子部品と熱放散部材との間に介装される放熱シートであって、上記発熱性電子部品側に配置される金属シートと、この金属シートに積層され、上記熱放散部材側に配置される粘着性を有する熱伝導性部材とを備え、この粘着性を有する熱伝導性部材が樹脂成分としてシロキサン系重合体、アクリル系重合体、ポリオレフィン系重合体から選択される1種以上の成分と熱伝導性充填剤とを含有してなり、電子部品の動作熱により相変化又は軟化する熱伝導性組成物から形成されたものであることを特徴とする放熱シート。」 (10)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、トランジスター、コンピューターのCPU等の発熱性電子部品から発生する熱をヒートシンク等の熱放散部材に効率的に熱を伝導することのできる電子部品の放熱構造体及びそれに用いる放熱シートに関する。」 (11)「【0011】本発明は、上記事情を改善したもので、電子部品から発生する熱をヒートシンク等の熱放散部材に効率的に熱を伝導することができ、かつ品質チェックのために実施されるバーンイン試験やヒートサイクル試験後も電子部品と熱放散部材を放熱シートの構造を破壊することなく、また、電子部品も破壊することなく取り外しができる電子部品の放熱構造体及びそれに用いる放熱シートを提供することを目的とする。 【0012】 【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】本発明は、上記目的を達成するため、発熱性電子部品と熱放散部材の間に金属シートと粘着性を有する熱伝導性部材が積層された放熱シートを含有する放熱構造体であって、金属シートが発熱性電子部品と接続され、粘着性を有する熱伝導性部材が熱放散部材に接続されていることを特徴とする電子部品の放熱構造体を提供する。また、本発明は、発熱性電子部品と熱放散部材との間に介装される放熱シートであって、上記発熱性電子部品側に配置される金属シートと、この金属シートに積層され、上記熱放散部材側に配置される粘着性を有する熱伝導性部材とを備え、この粘着性を有する熱伝導性部材が樹脂成分としてシロキサン系重合体、アクリル系重合体、ポリオレフィン系重合体から選択される1種以上の成分と熱伝導性充填剤とを含有してなり、電子部品の動作熱により相変化又は軟化する熱伝導性組成物から形成されたものであることを特徴とする放熱シートを提供する。」 (12)「【0015】ここで上記金属シートとしては、アルミニウムシート、銅シート、ステンレスシート、タングステンシート、金シートなどが好適であるが、コスト的に安いアルミニウムシート、銅シートがより好ましい。また、金属シートの厚みは3?200μmの範囲のものが好ましいが、より好ましくは5?75μmの範囲とされる。3μm未満では、強度が不足する場合があり、200μmを超えると放熱シートの柔軟性が損なわれるので電子部品との密着性が損なわれるおそれがある。」 (13)「【0018】また、上記粘着性を有する熱伝導性部材は、相転移部材又は熱軟化材を含有するものとした場合には、電子部品の動作等の発熱により熱伝導性部材が固体状から液体又は流動性体及び半流動性体へと相変化又は熱軟化することで熱放散部材との接触熱抵抗が低減されることからより好ましい。このような相転移材又は熱軟化材としては、パラフィンワックス、α-オレフィン、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などが使用される。これら相転移部材又は熱軟化材はDSCにより測定される相変化又は熱軟化に伴う熱吸収ピークが35?120℃、特に40?100℃、中でも50?80℃と電子部品の動作温度範囲となることが好ましい。」 2.対比 そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。 (1)熱伝導層 引用発明の「熱伝導層」は、面方向への熱伝導率が20?500W/(m・K)のグラファイトシートからなる熱伝導層であるから、本願発明の「熱伝導層」に含まれる。 (2)熱軟化性熱伝導性シート層 引用発明の「熱軟化性熱伝導性シート層」は、シリコーン樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層であるから、本願発明の「熱軟化性熱伝導性シート層」といえる。 (3)金属シート(アルミニウムシート又は銅シート) 本願発明と引用発明とは、「グラファイトシートからなる熱伝導層とは反対側の外層」について、本願発明は、「グラファイトシートからなる熱伝導層より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)のアルミニウムシート又は銅シート」であるのに対し、引用発明は、「熱伝導性充填剤を含有するシリコーンゴムからなる熱伝導性シリコーンゴム層」である点で相違する。 (4)熱伝導性複合シート 引用発明の「熱伝導性複合シート」は、3層構造を持つから、この点で本願発明の「熱伝導性複合シート」と一致する。 そうすると、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「(a)面方向への熱伝導率が20?2,000W/(m・K)のグラファイトシートからなる熱伝導層、 (b)熱軟化性を有するシリコーン樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層、並びに (c)グラファイトシートからなる熱伝導層とは反対側の外層 の順に積層した3層構造を持つ熱伝導性複合シート。」の点。 そして、次の点で相違する。 <相違点> 「グラファイトシートからなる熱伝導層とは反対側の外層」について、本願発明は、「グラファイトシートからなる熱伝導層より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)のアルミニウムシート又は銅シート」であるのに対し、引用発明は、「熱伝導性充填剤を含有するシリコーンゴムからなる熱伝導性シリコーンゴム層」である点。 3.判断 そこで、上記相違点について検討する。 刊行物2には、アルミニウムシート又は銅シートである金属シートと、この金属シートに積層され、粘着性を有する熱伝導性部材とを備え、この粘着性を有する熱伝導性部材がシリコーン系樹脂と熱伝導性充填剤とを含有してなり、電子部品の動作熱により相変化又は軟化する熱伝導性組成物から形成された放熱シートが記載されている(摘示事項(8)、(9)、(13))。 しかしながら、引用発明における「熱伝導性シリコーンゴム層」は、電子部品等との密着性、追随性を得るために軟らかい材料として採用されたものである(摘示事項(6))から、より硬い材料である「アルミニウムシート又は銅シート」に置換する動機付けがあるとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 請求項2に係る発明は、本願発明の「熱伝導性複合シート」の各層を積層した状態で、室温圧着もしくは熱圧着する「熱伝導性複合シートの製造方法」であるから、本願発明と同様に、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1、2に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-04-16 |
出願番号 | 特願2009-64278(P2009-64278) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 和瀬田 芳正 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
関谷 隆一 井上 信一 |
発明の名称 | 熱伝導性複合シート及びその製造方法 |
代理人 | 小林 克成 |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 石川 武史 |
代理人 | 重松 沙織 |
代理人 | 正木 克彦 |