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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1286819
審判番号 不服2013-4700  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-11 
確定日 2014-04-10 
事件の表示 特願2007-276373「直流モータのアーマチュア及び直流モータ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月12日出願公開、特開2008-136343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年10月24日(優先権主張平成18年10月30日)の出願であって、平成24年8月14日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成24年8月21日)、これに対し、平成24年10月22日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年12月6日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成24年12月11日)、これに対し、平成25年3月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
平成25年3月11日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
複数の磁極を有するヨークに軸支される回転軸と、前記回転軸に取り付けられ径方向に向かって放射状に延びる複数のティースと、前記ティース間に形成され軸方向に沿って延びる複数のスロットを有するアーマチュアコアと、前記回転軸に前記アーマチュアコアと隣接して設けられ複数のセグメントを周方向に配置したコンミテータとから成り、8極10スロット20セグメント、又は12極15スロット30セグメントの何れかの直流モータのアーマチュアであって、
前記セグメントの前記アーマチュアコア側の端部に、外側に折り返す形で折り曲げられたライザを一体成形し、
該ライザに、同電位となるセグメント同士を短絡する接続線が掛け回され、且つ、前記コンミテータよりも径方向外側に位置するように前記接続線が配線されると共に、
前記ライザに、巻線(審決注:「前記巻線」は誤記と認める。)が掛け回され、且つ、該巻線が前記ティースに集中巻方式により巻装されてコイルを形成していることを特徴とする直流モータのアーマチュア。
【請求項2】
同じ相に相当するティース同士に前記巻線が連続して巻装されていることを特徴とする請求項1に記載の直流モータのアーマチュア。
【請求項3】
前記隣接するセグメント間に前記巻線が電気的に接続され、前記ティース毎にそれぞれ別体の前記巻線が巻装されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の直流モータのアーマチュア。
【請求項4】
請求項1?請求項3の何れかに記載の直流モータのアーマチュアを用いたことを特徴とする直流モータ。」
と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する本件補正前の請求項2を本件補正後の請求項1とし、本件補正前の請求項1を削除し、本件補正前の請求項3?5を本件補正後の請求項2?4に繰り上げる補正であって、実質的に各請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を変更するものではないから、本件補正前の請求項1を削除する補正であって、特許法第17条の2第5項第1号の請求項を削除するものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)が特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。


3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-79121号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

1-a「【請求項1】 磁極数2p(極対数pは4以上の偶数)である複数磁極を備えた固定子を有する多極直列波巻回転電機に於いて、コイル数が〔2p±p/2〕個である回転子であって、前記各磁極毎に等しい電磁作用を受ける〔p/2〕個の回転子コイル相互の巻き終わり端及び巻き始め端を互いに直列接続したコイル組として形成し、これらの直列接続されたコイル組の巻き始め端及び巻き終わり端を磁気的対称位置に配置された整流子片にそれぞれ接続し、更に巻線数が〔p-1〕個の場合は、前記整流子片の全てを相互に3番目毎に、巻線数が〔p+1〕個の場合は、前記整流子片の全てを相互に5番目毎に、それぞれ短絡することによって形成された多巻線直列波巻回転子と、前記整流子片に接触する一対のブラシ機構と、を備えた多極直列波巻回転電機。」

1-b「【請求項3】 円周を等分する位置に形成されたp本の接続舌片を有する導体製短絡リングを該接続舌片が円周上に等角度間隔で配位されるように〔p+1〕枚重ね合わせ、かつそれらの隣接する導体製短絡リング相互間に絶縁ワッシャを介在させて短絡リング組立体を構成し、かつ該短絡リング組立体を回転子コイルと整流子片との間の軸上に配設し、
前記コイル数が〔p+1〕個の場合の整流子片の全てを相互に5番目毎に短絡する接続を、上記短絡リング組立体を構成する各導体製短絡リング毎にその接続舌片に対して行うことで構成した請求項1の多極直列波巻回転電機。」

1-c「この図に於ける配置は、大別すれば、上から固定子磁極群M、コイル及びコア(図示していない)の回転子主要部R、整流子群Cであり、最下部には短絡導体の接続部を図示している。」(【0017】)

1-d「上述の整流子片短絡を行うために、各整流子片間に短絡導線をはんだ付けやカシメ等で取り付けることも可能であるが、微妙なバランス調整が必要となる。そこで、図2に示すように、短絡リング組立体10を整流子組立体Cに付随させて利用すると都合が良い。」(【0021】)

1-e「即ち、相互に3番目毎の一組の整流子片1、4、7、10を一つの短絡リング12の4個の接続舌片14の各々に接続し、相互に3番目毎の他の一組の整流子片2、5、8、11を他の一つの短絡リング12の4個の接続舌片14の各々に接続し、相互に3番目毎の更に他の一組の整流子片3、6、9、12を残りの一つの短絡リング12の4個の接続舌片14の各々に接続するものとする。」(【0022】)

1-f「<実施例2>次に図3を参照しつつ本発明の実施例2を開示する。図3(a)は、磁極数(2p)8に於いて、コイル数10(=8+2)とした場合の直流波巻回転電機の回転子コイル部における構成例を示す、実施例1の図1と同様に示す展開図である。
図3に於ける配置では、固定子磁極群Mは、N1、S1;N2、S2;N1’、S1’;N2’、S2’で図1と同様であるが、コイル数は10となっており、整流子片Cは20となっている。そして短絡導体Sは、S1、S2、S3、S4、S5のようになる。
この場合にも、「整流子片1→コイル1→コイル1’→整流子片12→短絡導体S2→(整流子片2、7)→コイル4→コイル4’→整流子片18→短絡導体S3→整流子片3→コイル2→コイル2’→整流子片14→短絡導体S4→(整流子片4、9)→コイル5→コイル5’→整流子片20→短絡導体S5→整流子片5→コイル3…」のように直列接続されたコイル1→コイル1’、コイル4→コイル4’、コイル2→コイル2’、コイル5→コイル5’、コイル3→コイル3’のような各コイル組を巻線要素とする実質上波巻回転子に構成される。
図3(b)は、図3(a)の構成を書き換えたものであり、相互に短絡された整流子片を方形で、そして磁気的対称位置にあって相互に直列接続されるコイルを丸印でそれぞれ示すものである。なお、この場合の整流子片の短絡リング組立体は、実施例1で説明し、図2に示した4つの接続舌片14を有する短絡リング12を隣接する相互の間に絶縁ワッシャ16を介在させつつ5枚組み合わせて、整流子片数に等しい合計20の接続舌片14を定角度間隔で有する短絡リング組立体として構成し、前述のように短絡が必要となる整流子片相互を短絡するように構成する。
即ち、相互に5番目毎の一組の整流子片1、6、11、16を一つの短絡リング12の4個の接続舌片14の各々に接続し、相互に5番目毎の他の一組の整流子片2、7、12、17を他の一つの短絡リング12の4個の接続舌片14の各々に接続し、更に他の相互に5番目毎の3組の整流子片3、8、13、18;4、9、14、19;5、10、15、20についても、同様に、各組の整流子片毎に、それぞれ他の一つの短絡リングの4個の接続舌片14の各々に接続するものとする。短絡リング組立体10の各短絡リング12を短絡導体Sとして利用してこのように接続することにより、不平衡の生じ難い接続を実現することができる。」(【0023】-【0027】)

1-g「以上の実施例1、2、3、4のように構成される多極直列波巻回転電機によれば、複数の磁極対の磁気的に対称的な位置にある回転子コイルを直列接続し、対応する整流子片を短絡する結果、並列巻でありながら波巻と同様に作用する。したがって、多極化及び小スロットとなる。また、集中巻として1ターンの長さを小さくしながら、所期の出力特性を得ることができる。1ターンの長さを低減することから、回転子重量を低減することができ、小形軽量高出力の直流電動機が得られる。」(【0036】)

上記記載及び図面を参照すると、電動機であるから、固定子磁極群はヨークに設けられ、且つ、コイルが集中巻される回転子コアは軸に取り付けられて、径方向に向かって放射状に延びる複数のティースと、前記ティース間に形成され軸方向に沿って延びる複数のスロットを有し、且つ、整流子は軸に取り付けられて回転子コアと隣接して設けられ複数の整流子片が周方向に配置されていることは自明のことである。
上記記載及び図面を参照すると、整流子片の回転子コア側の端部に、外側に折り返す形で折り曲げられたライザが一体成形されて、該ライザに、同電位となるセグメント同士を短絡する短絡リングが接続されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「固定子磁極群を有するヨークと、軸に取り付けられ径方向に向かって放射状に延びる複数のティースと、前記ティース間に形成され軸方向に沿って延びる複数のスロットを有する回転子コアと、前記軸に前記回転子コアと隣接して設けられ複数の整流子片を周方向に配置した整流子とから成り、8極10スロット20セグメントの直流電動機の回転子であって、
前記整流子片の前記回転子コア側の端部に、外側に折り返す形で折り曲げられたライザを一体成形し、
該ライザに、同電位となるセグメント同士を短絡する短絡リングが接続され、
前記整流子片に、コイル組の巻き始め端及び巻き終わり端を接続し、且つ、コイルが集中巻により巻装されて実質上波巻回転子を形成している直流電動機の回転子。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「固定子磁極群」、「軸」、「回転子コア」、「整流子片」、「整流子」、「直流電動機の回転子」、「集中巻」は、それぞれ本願発明の「複数の磁極」、「回転軸」、「アーマチュアコア」、「セグメント」、「コンミテータ」、「直流モータのアーマチュア」、「集中巻方式」に相当する。

本願発明の「8極10スロット20セグメント、又は12極15スロット30セグメントの何れか」は、「又は」の前後のいずれかの構成の回転子が存在すれば良いから、引用発明の「8極10スロット20セグメント」は、本願発明の「8極10スロット20セグメント、又は12極15スロット30セグメントの何れか」に相当する。
直流電動機の巻線とコンミテータの接続のために、通常巻線をライザに掛け回すから、引用発明の「前記整流子片に、コイル組の巻き始め端及び巻き終わり端を接続し」は、本願発明の「前記ライザに、巻線が掛け回され」に相当する。
引用発明の「コイルが集中巻により巻装されて実質上波巻回転子を形成している」は、本願発明の「該巻線が前記ティースに集中巻方式により巻装されてコイルを形成している」に相当する。

したがって、両者は、
「複数の磁極を有するヨークと、回転軸に取り付けられ径方向に向かって放射状に延びる複数のティースと、前記ティース間に形成され軸方向に沿って延びる複数のスロットを有するアーマチュアコアと、前記回転軸に前記アーマチュアコアと隣接して設けられ複数のセグメントを周方向に配置したコンミテータとから成り、8極10スロット20セグメント、又は12極15スロット30セグメントの何れかの直流モータのアーマチュアであって、
前記セグメントの前記アーマチュアコア側の端部に、外側に折り返す形で折り曲げられたライザを一体成形し、
前記ライザに、巻線が掛け回され、且つ、該巻線が前記ティースに集中巻方式により巻装されてコイルを形成している直流モータのアーマチュア。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
回転軸に関し、本願発明は、ヨークに軸支されているのに対し、引用発明は、軸が何に支持されているか特定されていない点。
〔相違点2〕
本願発明は、ライザに同電位となるセグメント同士を短絡する接続線が掛け回され、且つ、コンミテータよりも径方向外側に位置するように前記接続線が配線されるのに対し、引用発明は、ライザに同電位となるセグメント同士を短絡する短絡リングが接続される点。


5.判断
相違点1について
直流電動機において、回転軸をヨークに軸支させることは慣用手段(必要があれば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-88916号公報、【0027】、【図1】等参照)であるから、直流電動機である引用発明において、回転軸をヨークに軸支させることは当業者が適宜なし得ることと認められる。

相違点2について
1-dにあるように、引用発明においても、短絡リングに代えて接続線とすることは可能であるから、引用発明において、ライザに同電位となるセグメント同士を短絡するために、短絡リングを用いる代わりに接続線を用いることは、当業者が容易に考えられることと認められる。その際、直流電動機の巻線とコンミテータの接続のために、通常巻線をライザに掛け回すから、ライザと接続線の接続のために接続線をライザに掛け回すことは当業者が適宜なし得ることと認められ、また、接続線を配置するには、配置可能な箇所が、コンミテータの外周かコンミテータとアーマチュアコイルの間(本願図1参照)となるから、接続線の配置可能な箇所のうちコンミテータよりも径方向外側に位置するように接続線を配線することは当業者が適宜なし得ることと認められる。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-05 
結審通知日 2014-02-12 
審決日 2014-02-26 
出願番号 特願2007-276373(P2007-276373)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 健山村 和人  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 槙原 進
新海 岳
発明の名称 直流モータのアーマチュア及び直流モータ  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 鈴木 慎吾  

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