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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 D05B
管理番号 1286865
審判番号 不服2013-4493  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-07 
確定日 2014-05-07 
事件の表示 特願2007-270717「ミシンの糸切り装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年5月7日出願公開、特開2009-95501、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年10月17日の出願であって、平成24年6月5日付けで拒絶理由が通知され、平成24年7月20日付けで意見書と手続補正書が提出されたが、平成25年1月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成25年3月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出された。その後、前置審査において平成25年4月22日付けで拒絶理由が通知され、平成25年6月11日付けで意見書と手続補正書が提出され、平成25年8月20日付けで審尋を行ったところ、平成25年10月25日付けで回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成25年6月11日付けで補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される発明と認める(以下、「本願発明」という。)。請求項1の記載は、次のとおりである。また、本願の特許請求の範囲に記載された請求項は、請求項1のみである。
《本願発明》
縫針の移動経路にほぼ垂直な仮想一平面と平行に上面および下面が配置される板状の長手部材の一端部に先細状の先端部分が形成され、該先端部分よりも縫製物の送り方向上流側に近接する箇所にルーパ糸を捕捉するルーパ糸捕捉部および針糸を捕捉する針糸捕捉部が形成され、そのルーパ糸捕捉部および針糸捕捉部が針板とルーパとの間に進入した前進位置と、この前進位置から退避した後退位置との間にわたって往復移動する可動メスであって、当該可動メスが前記後退位置から前記前進位置へ移動するとき、針板の針落ち部からルーパにわたって張架されるルーパ糸および針糸の各張架部分を、前記先端部分から縫製物の送り方向下流側に連なって湾曲して形成されている案内面によって前記ルーパ糸捕捉部および針糸捕捉部に案内するように構成されている可動メスと、
前記可動メスの針糸捕捉部およびルーパ糸捕捉部に捕捉された針糸およびルーパ糸を、前記可動メスの前進位置から後退位置への移動によって、縫製時の張架位置から退避させて前記可動メスと協働して切断する固定メスとを含むミシンの糸切り装置において、
前記可動メスの前記先端部分の先端部に、ルーパ糸の張架部分を前記案内面に案内する糸分け案内部が形成され、
前記糸分け案内部は、可動メスの軸線を含みかつ可動メスの上面または下面に垂直な仮想一平面に関して前記針糸捕捉部およびルーパ糸捕捉部が形成される側とは反対側に予め定める距離だけ偏心した位置において前記軸線に沿って延びるように、前記後退位置から前進位置に向かう前進方向下流側に突出して形成されていることを特徴とするミシンの糸切り装置。

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、大要、次のとおりである。
《原査定の拒絶の理由》
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である特公昭46-31298号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

また、前置審査において通知した拒絶の理由も、その大要は、原査定の拒絶の理由と同じである。

4.引用例の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特公昭46-31298号公報(以下、「引用例」という。)には、次の記載がある。
a「本発明は、特願昭41-28509号による糸切断装置であつて特に数本の針が唯1つのフツクと協働するようなつている二重鎖縫いミシンのための糸切断装置に関する。
数本の針と唯1つのフツクとを有するこの種の二重鎖縫いミシンにおいては、フツクがほぼその前進終点位置にある時に、針が離脱して後に、糸掴みの運動軌道の高さのところで下糸がフツクの先端に最も近い上糸の糸輪と交叉する。糸掴みがその前進運動の際に上糸の糸輪および下糸のそばを通過する時には、糸の選別をそれらの交叉域において行なつて、糸掴みの後退運動の際に上糸の糸輪を1つの鈎手によつて捉えそして下糸を他の鈎手によつて捉えることが困難である。
本発明の目的は、鈎手が個々の糸を申し分なく選別し後退運動中にこれらをそれぞれ捉え、1つの鈎手が上糸の糸輪を、そして他の鈎手が下糸を別々に切断ナイフと糸押さえとに導くように、特願昭41-28509号による糸切断装置を作ることにある。
この課題は、フツクがほぼ前進終点位置にある際に糸掴みの運動軌道がフツクのブレードの上にかけられた上糸の糸輪の中を貫通して該フツクのブレードの上方を走るようにすることによつて実質的に解決される。」(1欄27行?2欄13行)
b「フツクのブレードの周囲にかかつている上糸の糸輪の中を糸掴みの運動軌道が走つていることにより、鈎手が前進運動をする際に上糸の糸輪が広げられそして道糸が側方に押しやられる。上糸の糸輪は、鈎手かそこを通過した後にその最初の位置に跳ね帰るので、後退運動中に鈎手によつて捉えられることかできる。他方、下糸は鈎手によつて上方に押され、そして1つの鈎手によつてフツクの針穴の近くまで押された時に側方に動く。このため、下糸は、鈎手が上糸の糸輪を通過し終つた時に該鈎手の脊後に跳ぶ。この際鈎手が対応する距離をもつているならば、下糸は、これに付属する鈎手が該下糸を通過した後に、下糸用の鈎手と上糸用の鈎手との間の欠損部に入り、そして上糸の糸輪に付属する鈎手の上に来る。」(2欄17?31行)
c「図面には本発明の実施例が示されている。
図示の実施例において、ほぼ前進終点位置にあるフツク4のブレード3の周囲に上糸1,2の糸輪1a,2aがかけられている。下糸5の道糸5aが公知のやり方でフツクの針穴6から上糸の糸輪1a,2aを貫通して先行する縫い目に走つている。
本発明によれば、糸掴み7の運動軌道は、鈎手8,9が第1図の位置から第2図の位置まで上糸の糸輪1a,2aを貫通して運動するよう設定されている。この際に鈎手8,9がその運動中に上糸の糸輪を側方に押しやり、そして各々の糸輪の鈎手8,9に面する方の道糸が鈎手の通過後に最初の位置にはじき帰る。この結果、第2図に示された位置が得られて上糸の糸輪1a,2aの道糸が再び鈎手8,9の運動軌道の中に来、そして糸掴み7の後退行程の際に鈎手9によつて捉えられる。鈎于8はその前進運動の際に下糸の道糸5aを持ち上げ且つ同伴する。しかし、第2図に示された位置が得られる少し前に下糸のこの道糸5aは引つ張られ、そしてフツクの針穴に対するその下方角が大きくなることにより道糸5aはこの鈎手8から滑離する。下糸が引つ張られていることにより道糸5aは鈎手8,9の間の欠損部の中に入つて鈎手9の上に来る。糸掴みの後退行程の際に下糸の道糸5aは鈎手9によつては捉えられることができない。鈎手9によつて捉えられる上糸の糸輪とは別個に該道糸5aは切断ナイフ10および糸押さえ11に導びかれる。糸の切断および糸の押さえ過程は特願昭41-28509号に記載されたやり方で行なわれる。」(2欄32行?3欄23行)
d 「針」の移動経路が、第1図(Fig.1)、第2図(Fig.2)において符号1、2が付された付近の上糸1、2に沿った方向、すなわち、図の上下方向であることは、当業者に自明である。そして、「糸掴み7」が「板状の長手部材の一端部に先細状の先端部分が形成」された形状であること、及び「糸掴み7」は、前記「針の移動経路」に「ほぼ垂直な仮想一平面と平行に上面および下面が配置」されていることが、第1図及び第2図から読み取れる。
e 引用例には、「針板」について記載されていないが、第1図、第2図で下糸5の縫製後の状態として示されている部分(符号「5a」が付されている道糸部分とは異なり、「縫製後の状態」として示されているこの部分には、符号が付されていない。)の直下に「針板」が設けられており、「フツク4」と「糸掴み7」は「針板」の下方に位置する構成となっていることは、当業者に自明である。したがって、第2図に示された「糸掴み7」の位置は、「糸掴み7」の「鈎手8,9」が「針板とフツク4の間に進入した」「前進終点位置」であることが、当業者に明らかである。
f 上記aの「本発明は……二重鎖縫いミシンのための糸切断装置に関する。」、上記cの「道糸5aは鈎手8,9の間の欠損部の中に入つて……。鈎手9によつて捉えられる上糸の糸輪とは別個に該道糸5aは切断ナイフ10および糸押さえ11に導びかれる。糸の切断および糸の押さえ過程は特願昭41-28509号に記載されたやり方で行なわれる。」並びに第1図及び第2図から、「糸掴み7」は、第1図に示された「糸掴み7」の位置よりやや後退側(図示右斜め上方側)に移動した位置で、「鈎手8,9」よって捉えられた「下糸5」及び「上糸1,2」を「糸掴み7」と「切断ナイフ10」との協働によって切断する動作を行うものであることが了知できる。この切断動作を行う「糸掴み7」の位置は、「前進終点位置」から「退避した」「後退位置」と称することができる。また、「糸掴み7」は、この「前進終点位置」と「退避した後退位置」との間にわたって往復移動(前進運動及び後退運動)すること、及び、「糸掴み7」が「前進終点位置」から「退避した後退位置」へ移動するときは、「鈎手8,9」よって捉えられた「下糸5」及び「上糸1,2」を縫製時の張架位置から、「退避した後退位置」へ退避させていることが、当業者に明らかである。
g 上記b、cの記載並びに第1図及び第2図から、「糸掴み7」には、「下糸の道糸5a」および「フツクのブレードの周囲にかかっている上糸の糸輪」を、「鈎手8,9」に案内するように構成されている「案内面」であって、「糸掴み7の先端部分」から「縫製物の送り方向下流側(第1図、第2図で左斜め上方の側)」に「連なって湾曲して形成されている案内面」が設けられていることが、読み取れる。

(2)以上の記載事項及び第1図、第2図から見て引用例に開示されていると認められる発明を、技術常識を参酌しつつ本願発明の記載に倣って整理すれば、引用例には、次の発明が記載されているといえる。(以下、「引用発明」という。)
《引用発明》
針の移動経路にほぼ垂直な仮想一平面と平行に上面および下面が配置される板状の長手部材の一端部に先細状の先端部分が形成され、さらに、下糸5を捉える鈎手8および上糸1,2を捉える鈎手9が形成され、その鈎手8および鈎手9が針板とフック4との間に進入した前進終点位置と、この前進終点位置から退避した後退位置との間にわたって往復移動する糸掴み7であって、当該糸掴み7が前記後退位置から前記前進終点位置へ移動するとき、下糸の道糸5aおよびフックのブレードの周囲にかかっている上糸の糸輪を、前記先端部分から縫製物の送り方向下流側に連なって湾曲して形成されている案内面によって前記鈎手8および鈎手9に案内するように構成されている糸掴み7と、
前記可動メスの鈎手9および鈎手8に捉えられた上糸1,2および下糸5を、前記糸掴み7の前進終点位置から後退位置への移動によって、縫製時の張架位置から退避させて前記糸掴み7と協働して切断する切断ナイフ10とを備える、二重鎖縫いミシンのための糸切断装置。

5.対比
(1)引用発明の「二重鎖縫いミシンのための糸切断装置」は、本願発明の「ミシンの糸切り装置」に相当し、同様に、
「針」は「縫針」に、
「フック4」は「ルーパ」に、
「下糸5」は「ルーパ糸」に、
「上糸1,2」は「針糸」に、
「捉える」は「捕捉する」に、
「鈎手8」は「ルーパ糸捕捉部」に、
「鈎手9」は「針糸捕捉部」に、
「前進終点位置」は「前進位置」に、
「下糸の道糸5a」は「針板の針落ち部からルーパにわたって張架されるルーパ糸」の「張架部分」に、
「フックのブレードの周囲にかかっている上糸の糸輪」は「針糸」の「張架部分」に、
「糸掴み7」は「可動メス」に、
「切断ナイフ10」は「固定メス」に、それぞれ相当する。

(2)本願発明の実施の一形態を示した本願図1では、「縫製物の送り方向B」が図示左斜め上方であり、「ルーパ糸捕捉部26」及び「針糸捕捉部27」は、その先端部が左斜め上方を向いている。一方、引用例の第1図、第2図でも、「縫製物の送り方向」は図示左斜め上方であることは明らかであり、かつ、「鈎手8」及び「鈎手9」は、その先端部が左斜め上方を向いている。このように、本願発明の実施形態の「ルーパ糸捕捉部26」及び「針糸捕捉部27」の先端部と、引用発明の「鈎手8」及び「鈎手9」の先端部が、いずれも「縫製物の送り方向」を向いているという対応関係から見て、引用発明の「鈎手8」及び「鈎手9」は、本願発明の「(可動メスの)先端部分よりも縫製物の送り方向上流側に近接する箇所にルーパ糸を捕捉するルーパ糸捕捉部および針糸を捕捉する針糸捕捉部が形成され」という要件を満たしている。

6.一致点、相違点
すると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。
《一致点》
縫針の移動経路にほぼ垂直な仮想一平面と平行に上面および下面が配置される板状の長手部材の一端部に先細状の先端部分が形成され、該先端部分よりも縫製物の送り方向上流側に近接する箇所にルーパ糸を捕捉するルーパ糸捕捉部および針糸を捕捉する針糸捕捉部が形成され、そのルーパ糸捕捉部および針糸捕捉部が針板とルーパとの間に進入した前進位置と、この前進位置から退避した後退位置との間にわたって往復移動する可動メスであって、当該可動メスが前記後退位置から前記前進位置へ移動するとき、針板の針落ち部からルーパにわたって張架されるルーパ糸および針糸の各張架部分を、前記先端部分から縫製物の送り方向下流側に連なって湾曲して形成されている案内面によって前記ルーパ糸捕捉部および針糸捕捉部に案内するように構成されている可動メスと、
前記可動メスの針糸捕捉部およびルーパ糸捕捉部に捕捉された針糸およびルーパ糸を、前記可動メスの前進位置から後退位置への移動によって、縫製時の張架位置から退避させて前記可動メスと協働して切断する固定メスとを含むミシンの糸切り装置。

《相違点》
本願発明は、「前記可動メスの前記先端部分の先端部に、ルーパ糸の張架部分を前記案内面に案内する糸分け案内部が形成され、
前記糸分け案内部は、可動メスの軸線を含みかつ可動メスの上面または下面に垂直な仮想一平面に関して前記針糸捕捉部およびルーパ糸捕捉部が形成される側とは反対側に予め定める距離だけ偏心した位置において前記軸線に沿って延びるように、前記後退位置から前進位置に向かう前進方向下流側に突出して形成されている」のに対し、
引用例に記載された発明は、そのような「糸分け案内部」を備えていない点。

7.相違点の検討
「糸分け案内部」の有無は、構成上の実質的な相違点であるし、かつ、この「糸分け案内部」を設けたことにより、「可動メスの糸捕捉部よりも先端側に形成された糸分け案内部によって、可動メスが前進方向に移動したとき、ルーパ糸の針板とルーパとの間に張架される張架部分を糸捕捉部側に案内し、確実に糸捕捉部によってルーパ糸を捕捉し、可動メスが後退位置へ変位することによって、捕捉したルーパ糸の張架部分を固定メスと協働して確実に切断することができる。」(本願明細書段落0009)という、本願発明の作用効果が達成できると認められる。
そうすると、上記「糸分け案内部」を備えた本願発明が、引用例に記載された発明であるということはできないし、引用例に記載された発明と実質的に等しいということもできない。

8.むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできないし、前置審査において通知した拒絶の理由によっても、本願を拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-04-14 
出願番号 特願2007-270717(P2007-270717)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (D05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西藤 直人  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 栗林 敏彦
渡邊 真
発明の名称 ミシンの糸切り装置  
代理人 西教 圭一郎  

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