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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J |
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管理番号 | 1286935 |
審判番号 | 不服2012-25064 |
総通号数 | 174 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-12-18 |
確定日 | 2014-04-17 |
事件の表示 | 特願2007- 2509「光学用易接着性ポリエステルフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月24日出願公開、特開2008-169277〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成19年1月10日の出願であって、平成23年9月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月5日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成24年9月10日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成24年12月18日に拒絶査定に対する審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成25年2月13日付けで前置報告がなされ、当審において同年6月3日付けで審尋がなされ、同年8月2日に回答書が提出されたものである。 第2.補正の却下の決定 [結論] 平成24年12月18日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.手続補正の内容 平成24年12月18日付け手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、平成23年12月5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、補正前の特許請求の範囲の 「 【請求項1】 ポリエステルフィルムおよびそのうえに設けられた塗布層からなる光学用易接着性ポリエステルフィルムであって、塗布層が高分子バインダーおよび酸化チタン微粒子を含有し、該酸化チタン微粒子の平均一次粒子径が4?25nm、塗布層における酸化チタン微粒子の含有量が塗布層の全重量100重量%に対して10?50重量%であり、塗布層の塗膜厚さが8?220nmであることを特徴とする、光学用易接着性ポリエステルフィルム。 【請求項2】 反射防止フィルムの基材として使用される請求項1記載の光学用易接着性ポリエステルフィルム。」 との記載を、 「 【請求項1】 ポリエステルフィルムおよびそのうえに設けられた塗布層からなる光学用易接着性ポリエステルフィルムであって、塗布層が高分子バインダーおよび酸化チタン微粒子を含有し、該酸化チタン微粒子の平均一次粒子径が4?25nm、塗布層における酸化チタン微粒子の含有量が塗布層の全重量100重量%に対して10?40重量%であり、塗布層の塗膜厚さが8?220nmであることを特徴とする、光学用易接着性ポリエステルフィルム。 【請求項2】 反射防止フィルムの基材として使用される請求項1記載の光学用易接着性ポリエステルフィルム。」 とする補正事項を含むものである。 2.本件手続補正の目的の適否について 本件補正事項は、請求項1の酸化チタン微粒子の含有量を、補正前の10?50重量%から補正後の10?40重量%に限定するものであり、願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、補正前の特許請求の範囲に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものである。 したがって、本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 3.独立特許要件について そこで、本件手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)を満足するか否かについて、以下に検討する。 (1)補正発明について 補正発明は、本件手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される前記1.に記載のとおりのものである。 (2)引用文献及び引用文献の記載事項 本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-123498号公報(以下、「引用文献」という。原審での引用文献1に同じ。)には、以下の記載がされている。 ア. 「【請求項1】 ポリエチレンテレフタレート基材の上に、接着層を介してハードコート層を備えてなる光学積層体であって、 前記接着層が、樹脂と、分散液とにより形成されてなり、 前記分散液が、1nm以上30nm以下の一次粒子径を有する金属酸化物微粒子と、電離放射線硬化型樹脂と、アニオン性の極性基を有する分散剤と、有機溶剤と、チタネート系又はアルミニウム系のカップリング剤とを含んでなるものである、光学積層体。 【請求項2】 前記金属酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化セリウム、酸化アンチモン、インジウム錫混合酸化物とアンチモン錫の混合酸化物からなる群から選択されてなる一種または二種以上の混合物である、請求項1に記載の光学積層体。 【請求項8】 反射防止積層体として利用される、請求項1?7のいずれか一項に記載の光学積層体。」(特許請求の範囲 請求項1、2及び8) イ. 「【技術分野】 本発明は、界面反射と干渉縞を防止した光学積層体に関する。 【背景技術】 ・・・屈折率の差が大きい層を積層させた光学積層体にあっては、互いに重なり合った層の界面において、界面反射および干渉縞が生じることがしばしば見受けられた。特に、画面表示装置の画像表示面において黒色を再現した際に、干渉縞が顕著に発生し、その結果、画像の視認性を低下させ、また画像表示面の美観を損ねるとの指摘がしばしばなされていた。特に、光透過性基材の屈折率とハードコート層の屈折率が相違する場合、干渉縞の発生が生じやすいとされている。 ・・・本発明者らが確認したところ、ポリエチレンテレフタレート基材の上にハードコート層を形成する際に、特定の組成物を含んでなる接着層を介在させることにより、ポリエチレンテレフタレート基材とハードコート層との界面状態を改善し、反射界面と干渉縞を有効に防止することができたとする提案は未だなされていない。・・・ 本発明者等は、本発明時において、ポリエチレンテレフタレート基材の上に、ハードコート層を形成する際に、特定の組成物を含んでなる接着層を介在させることにより、界面反射と干渉縞の発生を有効に防止することができるとの知見を得た。よって、本発明はポリエチレンテレフタレート基材とハードコート層の界面における界面反射と干渉縞の発生を有効に防止し、機械的強度と、視認性とを向上させた光学積層体の提供を目的とするものである。」(【0001】?【0006】) ウ. 「【発明を実施するための最良の形態】 光学積層体 接着層 接着層は、樹脂と、分散液とを含んでなる組成物により形成されてなる。樹脂と、分散液との混合比は適宜定めることができるが、好ましくは75:25以上92:8以下である。また、接着層全体の好ましい屈折率は、1.67以上1.69以下であり、接着層の膜厚は、好ましくは50nm以上150nm以下である。 1)樹脂 樹脂は、それが乾燥硬化した際の屈折率が1.50以上1.53以下であるものが好ましくは用いられる。樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂またはウレタン系樹脂が主要樹脂が好ましくは挙げられる。」(【0007】?【0009】) エ. 「2)分散液 分散液は、1?30nmの範囲の一次粒子径を有する金属酸化物微粒子、電離放射線硬化型樹脂と、アニオン性の極性基を有する分散剤と、有機溶剤と、チタネート系又はアルミニウム系のカップリング剤とを含んでなるものである。分散液は、それが乾燥硬化した際の屈折率が1.72以上1.80以下であるように調製されるのが好ましい。 金属酸化物微粒子 金属酸化物微粒子はその屈折率が中屈折率?高屈折率(1.90?2.55)と高く、且つ、無色又は不着色のものであり、またその形状はいずれのものであってもよい。本発明における金属酸化物微粒子の一次粒子径は1?30nmである。好ましくは30nm以下のものを用いる。金属酸化物微粒子の一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等により目視計測してもよいし、動的光散乱法や静的光散乱法等を利用する粒度分布計等により機械計測してもよい。 金属酸化物微粒子の具体例としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化セリウム、酸化アンチモン、インジウム錫混合酸化物とアンチモン錫混合酸化物からなる群から選択される一種または二種以上の混合物が挙げられ、好ましくは酸化チタンが挙げられる。酸化チタンの具体例としては、ルチル型、アナターゼ型、アモルファス型が挙げられ、好ましくは、高屈折率であるルチル型酸化チタンが好ましく使用できる。」(【0015】?【0017】) オ. 「分散液の調製法 金属酸化物微粒子は全固形分に対し、30?65重量%が望ましい。カップリング剤は、全固形分に対して1?15重量%含まれることが望ましく、さらに好ましくは3?10重量%である。分散液は、全固形分0.5?50重量部に対して、有機溶剤が50?99.5重量部の割合で配合されていることが望ましい。分散剤は全固形分に対し、10?20重量%が望ましい。樹脂は全固形分に対し、20?60重量%が望ましい。」(【0032】?【0033】) カ. 「光透過性基材 本発明による光学積層体は、光透過性基材としてポリエチレンテレフタレート基材(屈折率が1.60?1.65)を用いる。」(【0034】) キ. 「光学積層体の製造方法 液体組成物の調整 帯電防止層、薄層、ハードコート層等用の各液体組成物は、一般的な調製法に従って、先に説明した成分を混合し分散処理することにより調整されてよい。混合分散には、ペイントシェーカー又はビーズミル等で適切に分散処理することが可能となる。 塗工 光透過性基材表面、帯電防止層の表面への各液体組成物の塗布法の具体例としては、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、ダイコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ピードコーター法等の各種方法を用いることができる。」(【0071】?【0072】) ク. 「【実施例】 実施例1 接着層用組成物の調製 1)樹脂の組成 樹脂として、バイロン280(東洋紡製) 溶剤として、トルエンとメチルエチルケトン:メチルエチルケトン(1:1) 2)分散液の組成 ルチル型酸化チタン:MT-01(テイカ製) 10重量部 分散剤 2重量部 ディスパービック163(ビックケミー・ジャパン社製) 光硬化性樹脂:PET30(日本化薬製) 4重量部 チタネートカップリング剤:TA-25(松本交商製)1.28重量部 光開始剤:Irgacure184 0.2重量部 (日本チバガイギー製) メチルイソブチルケトン 17.48重量部 ハードコート層用組成物の調製 DPHAとアクリルポリマーとIrgacure184を80:20:6で混合したハードコート樹脂をトルエンで希釈して調製した。 光学積層体の調製 接着層用組成物の調製に示す配合により混合し、接着層用組成物を調製し、トルエンとメチルエチルケトンを1:1とした溶剤により希釈した後、グラビアコーティングにて膜厚100nmでポリエチレンテレフタレート基材(188μm:「PET A4100」:東洋紡社製)の片面に塗工し、70℃で1分乾燥した。その後、この接着層の上にハードコート層用組成物をグラビアコーターで6μmの膜厚で塗工後し、70℃で1分乾燥し、136mjUV照射により硬化し、PET基材に接着層およびハードコート層を設けた。この時に作製した接着層の屈折率は1.57であり、干渉縞は発生しなかった。 実施例2 実施例1において、1)接着層用樹脂の組成の樹脂を二液熱硬化型ウレタン系接着剤、であるLX660とKW75(4:3)[大日本インキ社]に変更し、表1に示す配合比、かつ、塗工膜厚を50nmに変えた以外は同じにして、光学積層体を得た。なお、接着層用組成物は、熱硬化が必要であるため、40℃で4日間エージング処理を施した。この時に作製した接着層の屈折率は1.59であり、干渉縞が発生しなかった。 実施例3 実施例1において、1)接着層用樹脂の組成の樹脂を二液熱硬化型ウレタン系接着剤とポリエステル樹脂であるLX660(大日本インキ社製)とKW75(大日本インキ社製)とバイロン300(東洋紡社製)(10:1:1)に変更し、表1に示す配合比、かつ、膜厚を150nmに変えた以外は同じにして、光学積層体を得た。この時に作製した接着層の屈折率は1.58であり、干渉縞がみえない良好な光学積層体であった。接着層用組成物は、熱硬化が必要であるため、40℃で4日間エージング処理を施した。 比較例1 実施例1の接着層は設けずに、既に両面易接着処理(屈折率1.56)が施された市販品のPET基材(188μm:A4300[東洋紡社製])に変更し、実施例1と同様にしてハードコート層を形成した光学積層体を得た。この光学積層体は、強い干渉縞が発生した。 評価試験 実施例および比較例の光学積層体について以下の評価試験を行い、その結果を表1に記載した。 評価1:強度(硬さ)評価 光学積層体の硬さについて鉛筆硬度を用いた。測定方法としては、JIS-K-5400に準拠して測定し、下記の基準でた。 評価基準 評価◎:3H以上の強度があった。 評価×:H未満の強度であった。 評価2:密着性評価試験 JIS-K-5400(クロスカット密着試験方法)に準じて光学積層体の最表面の塗膜の剥がれの有無を目視し下記の基準にて評価した。 評価基準 評価◎:塗膜の剥がれが全くなかった。 評価○:塗膜の全てではないが剥がれ存在した。 評価×:塗膜の全てが剥がれた。 評価3:干渉縞有無試験 光学積層体のハードコート層と反対面に、裏面反射を防止するために黒色テープを貼り、ハードコート層の面から光学積層体を目視しで観察し、下記評価基準にて評価した。 評価基準 評価◎:干渉縞の発生はなかった。 評価○:干渉縞の発生が若干みられたが、製品としては問題なかった。 評価×:干渉縞の発生があった。 表1 接着層用組成物 評価1 評価2 評価3 樹脂:分散液 実施例1 88:12 ◎ ◎ ○ 実施例2 84:16 ◎ ◎ ○ 実施例3 75:25 ◎ ◎ ◎ 比較例1 - ◎ ◎ × 」(【0073】?【0084】) (3)引用文献に記載された発明 摘示ア.の記載から、引用文献には、ポリエチレンテレフタレート基材の上に、接着層を介してハードコート層を備えてなる光学積層体であって、前記接着層が、樹脂と、分散液とにより形成されてなり、前記分散液が、1nm以上30nm以下の一次粒子径を有する金属酸化物微粒子と、電離放射線硬化型樹脂と、アニオン性の極性基を有する分散剤と、有機溶剤と、チタネート系又はアルミニウム系のカップリング剤とを含んでなるものであり、前記金属酸化物微粒子が酸化チタンであり、反射防止積層体として利用される光学積層体が記載されている。 摘示ク.には、上記光学積層体に関して、接着層用組成物を調製し、溶剤により希釈した後、ポリエチレンテレフタレート基材の片面に塗工、乾燥したことと、その後、この接着層の上にハードコート層用組成物を塗工、乾燥、UV硬化させて、PET基材に接着層およびハードコート層を設けたことが記載されている。上記記載から、引用文献には、ハードコート層を有する光学積層体だけでなく、ハードコート層を設ける前の、接着層を基材の片面に設けた積層体についても記載されているといえる。 したがって、引用文献には、 「ポリエチレンテレフタレート基材の上に接着層を備えてなる光学積層体であって、前記接着層が、樹脂と、分散液とにより形成されてなり、前記分散液が、1nm以上30nm以下の一次粒子径を有する金属酸化物微粒子と、電離放射線硬化型樹脂と、アニオン性の極性基を有する分散剤と、有機溶剤と、チタネート系又はアルミニウム系のカップリング剤とを含んでなるものであり、前記金属酸化物微粒子が酸化チタンである積層体」(以下、「引用発明」という。) なる発明が記載されている。 (4)補正発明と引用発明との対比 反射防止積層体の基材としてフィルムを用いることは、補正発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)における技術常識であること、及び、具体的に、厚み188μmのポリエチレンテレフタレート基材(PET基材)を用いる例(摘示ク.)が記載されていることから、引用発明における「ポリエチレンテレフタレート基材」は、補正発明における「ポリエステルフィルム」に相当している。 引用発明における「接着層」は、ポリエチレンテレフタレート基材の上に樹脂と分散液とにより形成されるものであって(摘示ア)、ポリエチレンテレフタレート基材の上に塗布により設けられる層であるから(摘示キ.及びク.)、補正発明における「そのうえに設けられた塗布層」に相当している。 引用発明における積層体は、その上にハードコート層を設けるための接着層を有するものであるから、光学積層体の製造用でもある補正発明における「光学用易接着性ポリエステルフィルム」に相当している。 引用発明における「樹脂」は、接着層を形成するものであるから、補正発明における「塗布層が」「含有」する「高分子バインダー」に相当し、引用発明における「酸化チタン」は、接着層を形成するものであって、「1nm以上30nm以下の一次粒子径を有」し、補正発明における酸化チタンと一次粒子径が重複一致するものであるから、補正発明における「塗布層が」「含有し」「平均一次粒子径が4?25nm」である「酸化チタン微粒子」に相当している。 したがって、補正発明と引用発明とは、 「ポリエステルフィルムおよびそのうえに設けられた塗布層からなる光学用易接着性ポリエステルフィルムであって、塗布層が高分子バインダーおよび酸化チタン微粒子を含有し、該酸化チタン微粒子の平均一次粒子径が4?25nmである、光学用易接着性ポリエステルフィルム。」 である点で一致し、以下の相違点1及び2で相違している。 相違点1 補正発明には「塗布層の塗膜厚さが8?220nmであること」が特定されているのに対し、引用発明にはそのような特定がなされていない点。 相違点2 補正発明には「塗布層における酸化チタン微粒子の含有量が塗布層の全重量100重量%に対して10?40重量%」であることが特定されているのに対し、引用発明にはそのような特定がなされていない点。 (5)相違点に対する判断 (5-1)相違点1について 摘示ウ.には、接着層の膜厚が好ましくは50nm以上150nm以下であることが記載されており、上記膜厚は、補正発明で特定する塗布層の塗膜厚さ8?220nmと重複一致している。 したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。 (5-2)相違点2について 引用文献には、従来、光学積層体における界面反射および干渉縞が問題であり、特に、光透過性基材の屈折率とハードコート層の屈折率が相違する場合に干渉縞が発生しやすかったこと(摘示イ.)、引用発明は、ポリエチレンテレフタレート基材の上に、ハードコート層を形成する際に、特定の組成物を含んでなる接着層を介在させることにより、ポリエチレンテレフタレート基材とハードコート層の界面における界面反射と干渉縞の発生を有効に防止し、機械的強度と、視認性とを向上させた光学積層体の提供を目的とするものであること(摘示イ.)が記載されている。上記記載から、引用発明における接着層が、接着のためのみではなく、界面反射及び干渉縞を防止するために設けられていることは、明らかである。 ここで、光の干渉が層間の屈折率差及び層の厚みによるものであって、換言すれば、各層の屈折率の大きさの調整、層厚の調整が干渉縞発生防止のために必要であることは、光学積層体の分野における技術常識であることと、上記のとおり、引用発明における接着層が干渉縞防止を目的としており、引用文献に、接着層全体の好ましい屈折率が1.67以上1.69以下であり(摘示ウ.)、分散液は乾燥硬化した際の屈折率が1.72以上1.80以下であるように調製されるのが好ましく、金属酸化物微粒子はその屈折率が中屈折率?高屈折率(1.90?2.55)である(摘示エ.)と記載されていることとから、引用発明における酸化チタンの含有量が、接着層の屈折率を考慮して決定されていることは明らかである。 したがって、干渉縞の防止という課題を解決すべく、接着層の屈折率調整のために、引用発明の接着層における酸化チタンの含有量を設定すること、その際、干渉縞の発生の有無は、上記のとおり、層間の屈折率差、膜厚に影響されるものであるから、基材の屈折率、基材の厚み、接着層の厚みなどの条件に応じて酸化チタンの含有量を設定することは、当業者が当然に行うことである。酸化チタンの含有量を10?40重量%に特定したことによる格別顕著な効果も認められない。 (6)審判請求人の主張について 審判請求人は、平成24年12月18日提出の審判請求書及び平成25年8月2日提出の回答書において、概略、次の主張をしている。 主張i 引用文献1に開示されている接着層における金属酸化物微粒子の含有量の最大範囲は、0.012?9.3重量%である。引用文献1には、補正発明の規定する酸化チタン微粒子の含有量の範囲について記載がなく、補正発明の規定範囲と異なる範囲を好ましい範囲と教示している。(審判請求書6?8頁、回答書3頁) 主張ii 引用文献1に接した当業者は、好ましい範囲として教示された上記範囲を無視して敢えて外れた範囲とはしない。引用文献1には、金属酸化物微粒子濃度を増減させたときの効果の変化傾向について何ら記載がない中で、金属酸化物微粒子を多くさせるには高い困難性がある。(審判請求書8?10頁、回答書3?4頁) 主張iii 実施例6、参考例4、追加実験例である参考例10(酸化チタン微粒子の含有量を、引用文献1における最大濃度と等しい9.3重量としたもの)のデータを示す表2は、補正発明が優れた反射抑制効果を有することを示し、反射抑制効果に優れることで、干渉斑ムラが良化し、透明性も向上する効果を奏する。(回答書4?5頁) 上記請求人の主張について、検討する。 (6-1)主張i、iiについて 上記(5-2)において検討したとおり、引用発明における酸化チタンの含有量が、接着層の屈折率に影響することは明らかであるから、屈折率を調整して干渉縞が発生しないように酸化チタン微粒子の含有量を調整することは、当業者が当然に行うことである。屈折率調整のために酸化チタン微粒子を添加している以上、屈折率が高い(摘示エ.)酸化チタンの含有量を増大すれば接着層の屈折率が増大することは当業者にとって自明であるから、金属酸化物微粒子濃度増減時の効果の変化傾向について記載がなくても、計算により干渉縞の増減を予測することができるのであって、この点についての主張iiも、採用できない。 また、引用文献の摘示ウ.及びオ.において、好ましい範囲、望ましい範囲とされた記載から金属酸化物微粒子の含有量を算出すると、含有量の最大範囲は0.012?9.3重量%となるが、酸化チタン微粒子の含有量の好ましい範囲は、基材、塗布層、ハードコート層のそれぞれの屈折率(各層を構成する樹脂や添加する成分の屈折率、組成比により定まるものである)や、接着層の厚さに応じて異なるものとなるので、補正発明と引用発明とで範囲が異なるとしても当然であるから、主張iについても採用できない。 (6-2)主張iiiについて 回答書の表2に記載の反射率は、参考例4、参考例10、実施例6のいずれも、本願明細書【0035】によれば、○の評価(◎、○、×の3段階評価のうちの○)とされる値である。そして、本願明細書【0046】【表1】によれば、例えば、実施例11、19の反射率も○の評価である。よって、上記回答書の表2において、実施例6が特段に優れた反射率を有している、あるいは、参考例4、参考例10が反射率の点で劣ったものであるとは認められないから、補正発明が優れた反射抑制効果を有することを示すとの主張は採用できない。 加えて、本願明細書【0046】【表1】からみて、反射率と干渉ムラとに関連性を見いだすことはできないから(例えば、反射率が◎であるのに干渉ムラの評価が◎でなく○である実施例8、9、10がある一方、反射率の評価が×であるのに干渉ムラの評価が△である例(比較例1)が存在する)、反射抑制効果の向上により、干渉斑ムラが良化したとの主張についても採用できない。また、反射抑制効果の向上により、透明性が向上したとの主張についても、同様に、本願明細書【表1】のデータからみて、反射率と透明性(ハードコート層形成後のヘーズ)とに相関関係は見いだせず、技術常識からみても、相関関係があるとは認められないから、請求人の主張は採用することができない。 (6-3)小括 したがって、審判請求人の上記主張はいずれも採用できない。 (7)まとめ したがって、補正発明は出願当時の技術水準からみて、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび したがって、本件手続補正は、特許法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 上記第2.のとおり、平成24年12月18日付けの手続補正は、決定をもって却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成23年12月5日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「ポリエステルフィルムおよびそのうえに設けられた塗布層からなる光学用易接着性ポリエステルフィルムであって、塗布層が高分子バインダーおよび酸化チタン微粒子を含有し、該酸化チタン微粒子の平均一次粒子径が4?25nm、塗布層における酸化チタン微粒子の含有量が塗布層の全重量100重量%に対して10?50重量%であり、塗布層の塗膜厚さが8?220nmであることを特徴とする、光学用易接着性ポリエステルフィルム。」 第4.原査定における拒絶の理由の概要 原審において拒絶査定の理由とされた、平成23年9月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由2は、この出願の請求項1?2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、引用文献1として、以下の刊行物が提示されている。 特開2006-123498号公報 第5.当審の判断 1.引用刊行物 引用刊行物:特開2006-123498号公報(以下、「引用文献1」という。) 2.本願発明について 本願発明が出願当時の技術水準からみて、上記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたか否か検討する。 引用文献1は、前記第2.3.(2)の引用文献と同じであるから、引用文献1には、前記第2.3.(2)に記載した事項及び第2.2-2.(3)に記載の発明(引用発明)が記載されている。 そして、前記第2.3.(1)に記載した補正発明は、酸化チタン微粒子の含有量を、本願発明(補正前)の10?50重量%から10?40重量%に限定する限定的減縮を行ったものであるから、本願発明が補正発明を含むことは明らかである。 そうすると、前記第2.3.に記載したとおり、補正発明は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことは明らかである。 3.まとめ よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものである。したがって、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-02-17 |
結審通知日 | 2014-02-18 |
審決日 | 2014-03-03 |
出願番号 | 特願2007-2509(P2007-2509) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 齋藤 行令、福井 美穂 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 富永 久子 |
発明の名称 | 光学用易接着性ポリエステルフィルム |
代理人 | 為山 太郎 |