• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1286948
審判番号 不服2013-10201  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-04 
確定日 2014-04-16 
事件の表示 特願2008-532135「移動体駆動システム、パターン形成装置、及び露光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月 6日国際公開、WO2008/026732〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年8月31日(優先権主張2006年8月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月1日付けで手続補正がなされたが、同年3月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
そして、平成25年6月20日付けで審査官により作成された前置報告書について、同年7月18日付けで審尋を行ったところ、審判請求人は同年9月4日付けで回答書を提出した。

第2 平成25年6月4日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年6月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成25年6月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1を以下のとおりの請求項1に補正することを含むものである。
「所定平面内の3自由度方向を含む6自由度方向に移動体を駆動する移動体駆動システムであって、
前記所定平面に実質的に平行な前記移動体の一面に配置され且つ前記所定平面に平行な所定方向を周期方向とする格子を有するスケールに検出光を照射し、前記スケールに対向可能に前記移動体の外部に配置され且つ前記スケールからの反射光を受光するヘッドを有し、前記移動体の前記所定方向の位置情報を計測するエンコーダと;
前記移動体が前記所定平面に直交する第1方向、前記所定平面に平行な面内における回転方向である第2方向、及び前記第1方向に直交する、前記所定平面に平行な面内の軸回りの回転方向である第3方向のうちの少なくとも一方向に移動した場合の前記エンコーダの計測値を、その計測時の前記移動体の前記第1及び第2方向、又は前記第1及び第3方向、あるいは前記第1?第3方向の全ての方向の位置情報に応じた補正情報を用いて補正しつつ、該補正後の前記エンコーダの計測値に基づいて、前記移動体を前記所定方向に駆動する駆動装置と;を備える移動体駆動システム。」

2.補正の目的
請求項1に係る本件補正は、補正前の請求項1の「前記移動体の前記第1?第3方向の位置情報に応じた補正情報」を限定したものであるので、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3.独立特許要件
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

(1)引用例
ア 原査定の拒絶理由において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物特開2002-151405号公報(以下「引用例1」という。)には下記の記載がある。(下線は摘記箇所を示すために当審において付した。また、段落間に関係する図面を適宜挿入した。)

(ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、放射線投影ビームを供給する放射装置と、所望のパターンにしたがって投影ビームにパターンを付与する作用を果たすパターン付与手段を支える支持構造体と、基板を保持する基板テーブルと、基板のターゲット部に、パターンが付与されたビームを投影する投影装置とを含むリトグラフィー投影装置に関する。
・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】集積回路およびリトグラフィー液晶デイスプレーパネルの製造のためのマイクロリトグラフィーの最も挑戦的な条件の一つが、テーブルの位置決めである。例えば、100nm未満のリトグラフィーは、最高2ms^(-1)までの速度で、全6自由度(DOF)において最高1nmまでのオーダーでの動的精度および機械間の整合を基板およびマスクの位置決めステージに要求する。
【0007】この位置決め条件の要求に対する一般的なアプローチは、ステージ位置決めアーキテクチャーを、マイクロメートル精度であるが、全動作範囲にわたって移動し、微細位置決めモジュールが縦列される粗位置決めモジュール(例えば、X-Yテーブルあるいはガントリーテーブル)に再分割することである。微細位置決めモジュールは、粗い位置決めモジュールの残留誤差を最後の数ナノメートルに訂正するためのものであるが、非常に限られた範囲の移動を収容するだけでよい。このナノメートル位置決めに対して一般的に使用されるアクチュエータは、圧電アクチュエータあるいは音声コイル型形電磁アクチュエータを含む。微細モジュールでの位置決めは通常の場合、全6DOFにおいて実施されるが、大きな範囲での移動は、2DOFを超えてほとんど必要とされず、したがって、粗モジュール設計をかなり容易にする。
【0008】粗位置決めに必要なマイクロメートル精度は、光学あるいは磁性インクリメンタルエンコーダーのような比較的簡単な位置センサを使用して容易に達成することができる。これらは、1DOF(自由度1)での測定を可能とする単軸デバイス、あるいは、1996年、米国、カリフォルニア、Proc. ASPE Annual Meeting でのSchaeffel 他著「 Integrated electro-dynamic multi-coordinate drives」、第456?461頁に記載されている、より最近のマルチDOF(自由度最高3)デバイスであってもよい。同様なエンコーダ(例えば、Dr. J. Heidenhain GmbHによって製造されている位置測定装置型式PP281R)も商業的に利用可能である。これらのセンサは、サブマイクロメートルレベル(マイクロメートル未満の水準)の分解能を難なく提供することが可能である。しかしながら、絶対的精度、および、特に、長い移動範囲にわたる熱安定性は、容易に達成できない。
【0009】他方で、微細位置決めモジュールの端部でのマスクおよび基板テーブルの位置測定は、全動作範囲にわたるナノメートル精度および安定性を有しつつ、全6DOFにおいてサブナノメートル分解能(ナノメートル未満の分解能)で行う必要がある。これは、一般に、追加の較正機能(例えば、基板テーブル上での干渉計ミラーの平面度の較正)のための余分な軸を有する多軸干渉計を使用して全6DOFにおける変位を測定して達成される。・・・
【0016】この干渉法をベースとするシステムは、技術的に実行可能であり、実施されているが、簡単、頑丈かつ経済的ではない。
【0017】干渉計に代わる、長距離変位測定のためのマイクロメートルまたはナノメートルの分解能を有する最も明白な代替手段は、光学式インクリメンタルエンコーダー(incremental encoder)である。サブナノメートルの分解能を有する光学式エンコーダーが、ここ数年利用可能になり、単軸干渉法の実行可能な代替手段として奨励されている。サブナノメートルの分解能は、(4096xまでの)補間技術との組合せで(最高512nmまでの)微細ピッチ格子を使用することによって達成される。しかし、このエンコーダーの大部分は、1DOFにおいてのみ、長さを測定する。このように、このエンコーダーの大部分は、全6DOFにおける同時ナノ測定に容易に適合しない。困難の1は、他の5DOFにおける寄生移動に対する変位信号のクロストークのレベルが高いということである。
【0018】本発明の目的は、リトグラフィー投影装置で使用される改良された変位測定装置(システム)、特に、既存装置の有する問題が解決または改善された装置を提供することである。」

(イ)「【0042】本発明の第1実施形態によれば、マスクテーブルの変位測定手段は、ゼロダーから形成されたテーブルを有する6DOF非干渉式ナノ測定系を備え、テーブルの下側で2つのグリッド格子が露光される。これらの格子の各々(Y方向に沿うテーブルのいずれかの側の1つ)は、例えば、10mmx500mmの測定範囲を有する。レンズ上部のいずれかの側に装着された2つの2座標読取りヘッドは、レンズに対するX、Y、Rzにおけるマスクテーブルの変位を測定し、Xに対する余分な情報を有する。2次元格子は、ゼロダーの略ゼロ熱膨張率(CCTE)のために、合理的温度範囲にわたってナノメートルレベルに対して寸法的に安定し、したがって、寸法基準の「永続的」フレームを提供する。ピッチおよびロールによるアッベ誤差を最小とするために、格子は、マスクのパターンが付与された面と同一平面であるのが好ましい。X、Y_(1)およびY_(2)における追加の指標チャネルも実施して、レンズに対するゼロ基準を形成することができる。
【0043】他の3つの自由度(Z、Rx、Ry)における変位は、最小3つのナノ高さゲージによって測定することができる。特に透過マスクの場合、レンズおよびマスクテーブルの中央部を鮮明に維持する必要がある。このように、実施に際しては、4センサ配置が好都合である。
・・・
【0050】従来のシステムにおいては、3つの干渉計が、3つの自由度、すなわち、X、YおよびRz(ヨー)において、マスクテーブルの変位を測定する。他の3自由度、すなわち、Z、Rx(ピッチ)およびRy(ロール)における位置は、マスクテーブルMTの底部で離隔した3点の垂直位置を測定する3つのハイトセンサHSからの出力を適切に処理することによって提供される。
【0051】比較のために、本発明の第1実施形態の装置が図3に示されている。干渉計Y1-IF、Y2-IFおよびX-IFの代わりに、本発明は、各グリッド格子12,13の変位を測定する2つの光学式読取りヘッド10,11を使用する。グリッド格子12,13は、マスクMAのいずれかの側に1つが設けられ、マスクテーブルMTの、2方向の矢印で示した全移動範囲の走査に十分に適応する長さをY方向に有する。グリッド格子12,13は、切取り部に配置され、マスクMA上のパターンと実質的に同一平面上である。エンコーダー読取りヘッド10,11および3つの高さセンサHSが、図3の点線の楕円によって示すように、投影装置の上部部材に装着されるか、あるいは、固定される。

・・・
【0054】絶対的に正確ではないが繰返し性が高い本発明のエンコーダーシステムは、直接走査(Y)方向において真空干渉計のような長さ基準系に対して較正することができることは重要である。較正は、長時間のドリフトを監視するために、理想的には、オフライン較正プラットフォームにおいてだけでなく、機械内のその場でも実施されるべきである。
【0055】オフライン較正のために、エンコーダー格子は、読取りヘッドと共に、直接走査(Y)方向において、真空干渉計のような長さ基準系に対して較正することができる。これは、1回測定であり、制御された状態で機械外において実施することができる。このようにして得られた誤差マップは、ルックアップ誤差表に、あるいは、機械で実施された誤差訂正ルーチンにおける多項式の係数として記憶することができる。誤差マップは、X変位依存性を除去するために、Y方向においてだけでなく、X方向においても較正することができる。横(X)方向における較正は、Yにおける長移動範囲のために、基準フラットミラーに対して基準平面ミラー干渉計システムを使用して実施される。」
上記(ア)ないし(イ)から、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「リトグラフィ装置のマスクを全6自由度において位置決めをするために、マスクテーブルの下側の2つのグリッド格子(12、13)とレンズ上部のいずれかの側に装着された2つの光学式2座標エンコーダ読取りヘッド(10、11)で、レンズに対するX、Y、Rzにおけるマスクテーブルの変位を測定し、他の3つの自由度(Z、Rx、Ry)における変位は、最小3つのナノ高さゲージ(高さセンサHS)によって測定し、、エンコーダー格子は、読取りヘッドと共に、直接走査(Y)方向において、真空干渉計のような長さ基準系に対して較正することができ、較正はオフライン較正だけではなく、機械内のその場でも実施され、このようにして得られた誤差マップは、ルックアップ誤差表として記憶することができ、誤差マップは、X変位依存性を除去するために、Y方向においてだけでなく、X方向においても較正することができる、リトグラフィー装置。」

イ 原査定の拒絶理由において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物特開昭63-292005号公報(以下「引用例2」という。)には下記の記載がある。(下線は摘記箇所を示すために当審において付した。また、段落間に関係する図面を適宜挿入した。)
(ア)「3.発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本発明は直線移動部材における走り誤差の補正をなした移動量検出装置に関するものであり、測定機用の載物台の移動量検出装置として用いるに最適のものである。
〔従来の技術〕
従来の移動量検出の補正は、(1)載物台の測定誤差をレーザ測長機等によってあらかじめ精密に測定しておきその測定誤差値から誤差曲線を作る、(2)一般に誤差曲線は測定長にほぼ比例するので、得られた誤差曲線から比例係数を求める、(3)測定にあたってはカウンター内にこの比例係数をメモリーさせておき、自動的に補正計算させた値(座標値)を表示させる、ことによって行なわれていた。これにより誤差曲線が測定長にほぼ比例する状態での測定精度はかなり良くなるが、それと異る状態(例えば被検物の重量やバランスの変化等で載物台がヨーイングやピッチングを行ない、誤差曲線が測定長に比例しない状態)では、必ずしも同じ比例係数とはなり得す、誤差発生の要因となっている。
〔発明が解決しようとする問題点〕
上記の如き従来の技術に於ては、いわゆる固定補正方式である為、補正測定状態以外での使用では正しい測定値が得られない恐れがあるという問題点があった。本発明はこの様な問題点を解決する為に行なわれるもので、どの様な測定中でもリアルタイムに誤差を検出して補正を行う装置を得る事を目的とする。
〔問題点を解決する為の手段]
上記目的の為本発明では相対移動する第1部材と第2部材の一方に2軸の光電オートコリメータを組み込み、他方に前記オートコリメータからの測定光束を前記オートコリメータに反射する反射部材を固設し、測定誤差の原因となる移動時の傾き量(ピッチング、ヨーイング)を測定し、この測定値に基づいて前記相対移動量を検出する検出手段の値を演算手段で補正するようにした。
〔作 用〕
本発明では移動部材の移動による傾きをリアルタイムで検知し、その値によって補正をかけているので、従来の如き比例係数による定数補正で、ある定まった状態においてのみしか正しい補正がかからないような不都合は無い。」
(イ)「〔実施例]
第1図(a)、(b)、(c)は本発明の実施例で、基板l上の移動板2は第1図(c)に示したように、基板1に移動板2の移動方向に設けたガイドレール3a、3a’と、移動板2にレール3a、3a’とそれぞれ並設させたガイドレール3b、3b’と、ガイドレール3aと3b、3a’と3b’の間におのおの挟持せしめた転動ボール4a、4a’によって、基板1との間をスムーズに動く事が出来る。移動板2の側面には、第1図(a)に示したように駆動ナット5が取付けられており、基板1に取付けられている軸受7、8によって回転可能に設けられる移動用雄ねじ6が駆動ナット5に螺合し、雄ねじ6の回転によってナット5が移動する。9は雄ねじ6の回転駆動用モーターである。移動板2下面には固定ミラー10が移動方向に直交する方向に反射面がくるように取付けられており、基板1上部には、固定ミラー10の反射面に対向するように小型の2軸光電オートコリメータ11が取付けてある。移動読取用エンコーダスケール12は基板1の側面に固定され、移動板2の側面には、エンコーダスケール12の目盛を光電的に読取るエンコーダ読取部13が取付けられ、その結果、基板Iに対する移動板2の移動量を読取ることができる。14は被検物を示す。2軸光電オートコリメータ11からのヨーイングとピッチングに応じた電気信号、移動量読取エンコーダ13からの移動量信号は演算器15に出力される。演算器15はエンコーダ読取部13による移動量をオートコリメータ11からの信号に応じて補正し、この補正された移動量が移動板2の移動量として表示器16により表示されるように構成されている。


以下、第1図(a)、(b)、(c)の動作について説明する。被検物14を計測する為、モーター9によってねじ6を回転させてナット5をねじ6の軸方向に移動させ、それによって移動板2を移動する。移動板2の移動に応じてエンコーダ読取部13も移動し、スケール部12(基板1)との相対移動量に応じた数の移動パルスがエンコーダ読取部13から発生する。一方、移動板2の傾き(ヨーイング、ピッチング)は固定ミラー10を介して2軸オートコリメータ11にてモニターしている。2軸オートコリメータ11は固定ミラー10に射出した反射光の振れ角を直交する2方向で測定するもので、それによって、第2図(a)に示したヨーイングによる傾き角θ_(1)、第2図(b)に示したピッチングによる傾き角θ_(2)を測定することができる。傾き角θ_(1)、θ_(2)に応じた信号は共に演算器15に送られる。演算器15内では送られた傾き角θ_(1)、θ_(2)とあらかじめ与えられるヨーイング係数H_(1)(H_(1)はコリメータ11の測定光軸l_(1)とスケール12との距離)、ピッチング係数H_(2)(H_(2)はコリメータ11の測定光軸l_(1)と被検物14の測定点(上面)との距離)、(第2図(a)、(b)参照)から誤差ΔL_(1)、ΔL_(2)(ΔL_(1)=H_(1)θ_(1)、ΔL_(2)=H_(2)θ_(2)であり、ΔL_(1)はヨーイングによる移動方向での位置ずれ、ΔL_(2)はピッチングによる移動方向での位置ずれである)を算出し、エンコーダより送られて来た移動板2の移動量にリアルタイムに加減算されその値が表示器16に表示される。

以上の実施例によれば、この種の載物台の測定誤差の原因となる被検物の測定移動時の傾き量(ピッチング、ヨーイング)を移動状態においてリアルタイムに検知し、演算器が誤差を求め、エンコーダ読取部13からの測定値をリアルタイムに補正しているので、被検物の重量や大きさ、設定位置が変化しても、精度の良い移動量を得ることのできる誤差補正装置を得ることができる。
なお、以上の説明では、載物台は移動板2が一方向にのみ移動するものを例に上げたが、移動板2が直交する2方向へ移動するいわゆるX-Y載物台でも同様に本発明を採用することができる。
この場合は、移動板2としての上板と中板との一方に反射鏡(固定ミラー)を、他方に2軸オートコリメータを設け、中板と下板(基板)との一方に反射鏡(固定ミラー)を他方に2軸オートコリメータを設ければよい。この場合、それぞれの反射鏡はそれぞれの板(上板と中板、もしくは中板と下板)の相対移動方向に直交する方向に反射面を有し、それぞれのオートコリメータの光軸は反射鏡の移動方向に一致するように反射鏡及びオートコリメータの向きが調整されている。
さらに、以上の説明では、載物台を例に上げたが、移動方向が水平面とは異なる面内にあっても構わないことは勿論で、本発明の走り誤差補正装置は、直線移動部材であればその移動方向、使用態様にかかわらずに用いることができる。
また、移動量検出器としてのエンコーダ12、13は、移動板2の移動方向での座標がわかるものであれば何でも良い。
なお、第2図(a)、(b)から明らかなように、ヨーイング(第2図(a))はあらかじめ固定のヨーイング係数H_(1)を用いているので問題はないが、ピッチング(第2図(b))は被検物14の高さが変わるとピッチング係数H_(2)が変化するから、より正確な測定を行なうためには、被検物14の高さに応じてピッチング係数を作業者が演算器15に導入できるようになせばよい。」
上記(ア)ないし(イ)から、引用例2には、以下の技術事項(以下「引用例2記載の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「移動板2の移動に応じてエンコーダ読取部13も移動し、スケール部12(基板1)との相対移動量に応じた数の移動パルスがエンコーダ読取部13から発生するエンコーダにおいて、移動板2の傾き(ヨーイング、ピッチング)をモニターして、ヨーイングによる傾き角θ_(1)、ピッチングによる傾き角θ_(2)とあらかじめ与えられるヨーイング係数H_(1)(H_(1)はコリメータ11の測定光軸l_(1)とスケール12との距離)、ピッチング係数H_(2)(H_(2)はコリメータ11の測定光軸l_(1)と被検物14の測定点(上面)との距離)から誤差ΔL_(1)、ΔL_(2)(ΔL_(1)=H_(1)θ_(1)、ΔL_(2)=H_(2)θ_(2)であり、ΔL_(1)はヨーイングによる移動方向での位置ずれ、ΔL_(2)はピッチングによる移動方向での位置ずれである)を算出し、エンコーダより送られて来た移動板2の移動量にリアルタイムに加減算されその値が補正され、ピッチング(第2図(b))は被検物14の高さが変わるとピッチング係数H_(2)が変化するから、より正確な測定を行なうためには、被検物14の高さに応じてピッチング係数H_(2)を作業者が演算器15に導入できるようになせばよいこと。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「リトグラフィー装置」は、「マスクを全6自由度において位置決めをするために、・・・、レンズに対するX、Y、Rzにおけるマスクテーブルの変位を測定し、他の3つの自由度(Z、Rx、Ry)における変位は、最小3つのナノ高さゲージ(高さセンサHS)によって測定する」ものであるので、本願補正発明の「所定平面内の3自由度方向を含む6自由度方向に移動体を駆動する移動体駆動システム」を具備する。

イ 引用発明の 「マスクテーブルの下側の2つのグリッド格子(12、13)とレンズ上部のいずれかの側に装着された2つの光学式2座標エンコーダ読取りヘッド(10、11)」は、本願補正発明の「前記所定平面に実質的に平行な前記移動体の一面に配置され且つ前記所定平面に平行な所定方向を周期方向とする格子を有するスケールに検出光を照射し、前記スケールに対向可能に前記移動体の外部に配置され且つ前記スケールからの反射光を受光するヘッドを有し、前記移動体の前記所定方向の位置情報を計測するエンコーダ」に相当する。

ウ 引用発明において、「エンコーダー格子は、読取りヘッドと共に、直接走査(Y)方向において、真空干渉計のような長さ基準系に対して較正することができ、較正はオフライン較正だけではなく、機械内のその場でも実施され、このようにして得られた誤差マップは、ルックアップ誤差表として記憶することができ、誤差マップは、X変位依存性を除去するために、Y方向においてだけでなく、X方向においても較正することができる」ものであるから、引用発明の移動体駆動システムと本願補正発明とは「前記エンコーダの計測値を、その計測時の前記移動体の位置情報に応じた補正情報を用いて補正しつつ、該補正後の前記エンコーダの計測値に基づいて、前記移動体を前記所定方向に駆動する駆動装置と;を備える移動体駆動システム」である点で一致する。

エ 上記アないしウから、本願補正発明と引用発明の移動体駆動システムとは、
「所定平面内の3自由度方向を含む6自由度方向に移動体を駆動する移動体駆動システムであって、
前記所定平面に実質的に平行な前記移動体の一面に配置され且つ前記所定平面に平行な所定方向を周期方向とする格子を有するスケールに検出光を照射し、前記スケールに対向可能に前記移動体の外部に配置され且つ前記スケールからの反射光を受光するヘッドを有し、前記移動体の前記所定方向の位置情報を計測するエンコーダと;
前記エンコーダの計測値を、その計測時の前記移動体の位置情報に応じた補正情報を用いて補正しつつ、該補正後の前記エンコーダの計測値に基づいて、前記移動体を前記所定方向に駆動する駆動装置と;を備える移動体駆動システム」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:
本願補正発明は、「前記移動体が前記所定平面に直交する第1方向、前記所定平面に平行な面内における回転方向である第2方向、及び前記第1方向に直交する、前記所定平面に平行な面内の軸回りの回転方向である第3方向のうちの少なくとも一方向に移動した場合の前記エンコーダの計測値を前記移動体の前記第1及び第2方向、又は前記第1及び第3方向、あるいは前記第1?第3方向の全ての方向の位置情報に応じた補正情報を用いて補正」するのに対し、引用発明の移動体駆動システムはそのような構成を有していない点。

(3)判断
相違点について
前記引用例2記載の技術事項によれば、エンコーダのスケールと読取部との位置関係の変動により測定誤差が生じるので、エンコーダのスケールと読取部との間のヨーイングによる傾き角θ_(1)、ピッチングによる傾き角θ_(2)に応じて補正をすべきことが理解できる。さらに、ピッチングの補正係数H_(2)(コリメータ11の測定光軸l_(1)と被検物14の測定点(上面)との距離)が被検物14の高さが変わると変化するから、より正確な測定を行なうためには、被検物14の高さに応じてピッチング係数H_(2)も補正をすべきことが記載されているから、スケールと読取部との高さに応じても補正をすべきことが理解できる。
そして、スケールと読取部との間の「ヨーイングによる傾き角θ_(1)」、「ピッチングによる傾き角θ_(2)」およびスケールと読取部との「高さ」はそれぞれ、本願補正発明の「前記所定平面に平行な面内における回転方向である第2方向」、「前記第1方向に直交する、前記所定平面に平行な面内の軸回りの回転方向である第3方向」および「前記所定平面に直交する第1方向」に相当するから、引用発明に前記引用例2記載の技術事項を適用して、引用発明を本願補正発明の相違点に係る構成を有するようにすることは当業者が容易に想到できたことである。
よって、本願補正発明は、引用発明および引用例2記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明
平成25年6月4日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願特許請求の範囲は、平成25年2月1日付け手続補正書に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は次のものである。
「所定平面内の3自由度方向を含む6自由度方向に移動体を駆動する移動体駆動システムであって、
前記所定平面に実質的に平行な前記移動体の一面に配置され且つ前記所定平面に平行な所定方向を周期方向とする格子を有するスケールに検出光を照射し、前記スケールに対向可能に前記移動体の外部に配置され且つ前記スケールからの反射光を受光するヘッドを有し、前記移動体の前記所定方向の位置情報を計測するエンコーダと;
前記移動体が前記所定平面に直交する第1方向、前記所定平面に平行な面内における回転方向である第2方向、及び前記所定平面に平行な面内で前記所定方向に直交する方向の軸回りの回転方向である第3方向のうちの少なくとも一方向に移動した場合の前記エンコーダの計測値を、その計測時の前記移動体の前記第1?第3方向の位置情報に応じた補正情報を用いて補正しつつ、該補正後の前記エンコーダの計測値に基づいて、前記移動体を前記所定方向に駆動する駆動装置と;を備える移動体駆動システム。」(以下「本願発明」という。)

2.引用例
上記「第2 [理由] 3.(1) 」に記載のとおりのものである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明において、「前記移動体の前記第1?第3方向の位置情報に応じた補正情報」を限定する発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 [理由] 3.(3)」で検討したとおり、引用発明および引用例2記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明および引用例2記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用発明および引用例2記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-19 
結審通知日 2014-02-20 
審決日 2014-03-04 
出願番号 特願2008-532135(P2008-532135)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 伊藤 昌哉
田部 元史
発明の名称 移動体駆動システム、パターン形成装置、及び露光装置  
代理人 立石 篤司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ