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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1286976
審判番号 不服2012-3397  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-22 
確定日 2014-04-10 
事件の表示 特願2004-316960「高分子化合物、該高分子化合物を含有するフォトレジスト組成物、およびレジストパターン形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年4月13日出願公開、特開2006-96965〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年10月29日(優先権主張 平成16年2月20日、同年4月28日、同年6月17日、同年8月31日)の出願であって、平成23年3月22日付けで拒絶理由が通知され、同年5月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月29日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年10月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月30日付けで、同年10月31日付け手続補正が決定をもって却下され、同日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成24年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、前置審査により、同年3月30日付けで拒絶理由が通知され、同年5月30日に意見書が提出され、同年6月18日付けで前置報告がなされ、当審において同年12月13日付けで審尋がなされ、平成25年2月18日に回答書が提出されたものである。



第2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成24年2月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、並びに、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「酸の作用によりアルカリ溶解性が変化し得る高分子化合物であって、
少なくとも下記一般式(2)
【化1】

(式中、R_(1)はアダマンタン骨格を有する炭素数20以下の脂肪族環式基(但し、カルボニル基を有する基を除く。)であり、nは0または1?5の整数を表し、R_(2)は水素原子、又は炭素数20以下の低級アルキル基を表す。)
で示される化合物から誘導される構成単位(a1)を含有することを特徴とする高分子化合物。」



第3 前置審査における拒絶理由の概要
前置審査における平成24年3月30日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
「この出願の請求項1乃至請求項5及び請求項7乃至請求項9に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

1.特願2004-28595号(特開2005-220059号公報)」



第4 当審の判断
1.先願及び先願明細書
特願2004-28595号は、本願の優先日前の平成16年2月4日に、発明者小山裕、井上慶三及び岩浜隆裕とし、出願人ダイセル化学工業株式会社としてなされた出願であって、本願の優先日後である平成17年8月18日に特開2005-220059号として出願公開がされたものである。
該先願の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲を、併せて「先願明細書」という。

2.先願明細書の記載事項
先願明細書には、次の事項が記載されている。
なお、以下の摘示は、先願に対応する公開公報である特開2005-220059号公報に拠った。

ア 「下記式(1)
【化1】

(式中、R^(a)は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?6のアルキル基又は炭素数1?6のハロアルキル基を示し、R^(b)は1位に水素原子を有する炭化水素基を示し、R^(c)は水素原子又は炭化水素基を示し、R^(d)は環式骨格を含む有機基を示す)
で表される不飽和カルボン酸ヘミアセタールエステル。」(特許請求の範囲、請求項1)

イ 「前記R^(a)におけるハロゲン原子には、・・・などが含まれる。炭素数1?6のアルキル基としては、例えば、メチル、・・・などが挙げられる。これらの中でも、・・・特にメチル基が好ましい。・・・」(段落0017)

ウ 「R^(d)の環式骨格を含む有機基における環式骨格を構成する「環」には、単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環が含まれる。・・・多環の非芳香族性環としては、例えば、アダマンタン環・・・などが挙げられる。・・・」(段落0020)

エ 「式(1)で表される不飽和カルボン酸ヘミアセタールエステルの代表的な例として以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
[1-1]1-(アダマンタン-1-イルオキシ)エチル(メタ)アクリレート
・・・」(段落0024)

オ 「なお、式(1)で表される不飽和カルボン酸ヘミアセタールエステルのほか、式(1)においてR^(b)及びR^(c)が何れも水素原子である化合物もフォトレジスト用の高分子化合物の単量体として有用である。この化合物に対応する繰り返し単位は、高分子化合物において、酸脱離性機能や親水性機能を発揮する。このような化合物としては、前記式(1)で表される不飽和カルボン酸ヘミアセタールエステルの例に対応する化合物(R^(b)=R^(c)=Hである化合物)などが挙げられる。
式(1)においてR^(b)及びR^(c)が何れも水素原子である化合物[式(B)で表される化合物]は、例えば、下記反応式に示されるように、式(3)で表される不飽和カルボン酸と式(A)で表されるハロメチルエーテル化合物とを塩基の存在下で反応させることにより製造することができる。
【化5】

(式中、R^(a)、R^(d)は前記に同じ。Yはハロゲン原子を示す)
Yにおけるハロゲン原子として、塩素、臭素、ヨウ素原子などが挙げられる。反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては前記の溶媒を使用できる。塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基、又は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩基を使用できる。式(3)で表される不飽和カルボン酸の使用量は、式(A)で表されるハロメチルエーテル化合物1モルに対して、例えば0.5?10モル程度、好ましくは0.8?2モル程度である。塩基の使用量は、式(3)で表される不飽和カルボン酸1モルに対して、例えば1?5モル程度であり、大過剰量用いてもよい。式(A)で表されるハロメチルエーテル化合物や反応生成物の重合を抑制するため、系内に4-メトキシフェノールなどの重合禁止剤を少量添加してもよい。反応温度は、通常-10℃?100℃、好ましくは0?60℃程度である。反応終了後、反応生成物は、液性調節、抽出、濃縮、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段により分離精製できる。
前記式(A)で表されるハロメチルエーテル化合物は、例えば、下記反応式に示されるように、式(C)で表されるヒドロキシ化合物にホルムアルデヒド又はその等価物(パラホルムアルデヒド、1,3,5-トリオキサン等)と式(D)で表されるハロゲン化水素とを反応させることにより製造することができる。
【化6】

(式中、R^(d)、Yは前記に同じ)
式(D)で表されるハロゲン化水素としては、例えば、塩化水素、臭化水素などが挙げられる。反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては前記の溶媒を使用できる。ホルムアルデヒド又はその等価物の使用量は、ホルムアルデヒド換算で、式(C)で表されるヒドロキシ化合物1モルに対して、例えば0.8?10モル程度、好ましくは1?1.5モル程度である。式(D)で表されるハロゲン化水素の使用量は、式(C)で表されるヒドロキシ化合物1モルに対して、例えば1?5モル程度であり、大過剰量用いてもよい。反応温度は、通常-10℃?100℃、好ましくは0?60℃程度である。反応終了後、反応生成物は、液性調節、抽出、濃縮、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段により分離精製できる。」(段落0032?0036)

カ 「製造例1
アダマンタンエタノール43.2g、プロピオン酸ビニル48.1g、炭酸ナトリウム15.3g、トルエン120ml、ジ-μ-クロロビス(1,5-シクロオクタジエン)二イリジウム(I)1.62gの混合物を4つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、100℃で加熱しつつ、4時間撹拌した。反応液中の沈殿を濾別し、濾液を減圧濃縮した。濃縮物を減圧蒸留精製し、下記式(8)で表される2-(アダマンタン-1-イル)エチルビニルエーテル34.8gを得た。
【化9】

[2-(アダマンタン-1-イル)エチルビニルエーテルのスペクトルデータ]
^(1)H-NMR(CDCl_(3)) δ:1.46(t, 2H), 1.53(d, 6H), 1.62-1.72(m, 6H), 1.95(m, 3H), 3.73(t, 2H), 3.96(m, 1H), 4.16(m, 1H), 6.46(m, 1H)
製造例2
2-(アダマンタン-1-イル)エチルビニルエーテル32.8g、メタクリル酸68.4g、リン酸0.16g、4-メトキシフェノール0.164g、トルエン290mlの混合物を4つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、20℃で6時間撹拌した。反応終了後、反応液を10重量%炭酸ナトリウム水溶液500mlで2回、10重量%食塩水500mlで1回洗浄し、有機層を減圧濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記式(9)で表される1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]エチル(メタ)アクリレート38.6gを得た。
【化10】

[1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]エチル(メタ)アクリレートのスペクトルデータ]
^(1)H-NMR(CDCl_(3)) δ:1.37-1.41(m, 2H), 1.43(d, 3H), 1.50(d, 6H), 1.60-1.71(m, 6H), 1.93(m, 3H), 1.96(m, 3H), 3.53(m, 1H), 3.72(m, 1H), 5.60(m, 1H), 5.97(m, 1H), 6.16(m, 1H)」(段落0075?0076)

3.先願明細書に記載された発明
先願明細書には、摘示ア及びオより、下記「式(1)」:

において、「R^(b)及びR^(c)が何れも水素原子である化合物もフォトレジスト用の高分子化合物の単量体として有用である。この化合物に対応する繰り返し単位は、高分子化合物において、酸脱離性機能や親水性機能を発揮する。」と記載され、「このような化合物としては、前記式(1)で表される不飽和カルボン酸ヘミアセタールエステルの例に対応する化合物(R^(b)=R^(c)=Hである化合物)」及び「式(1)においてR^(b)及びR^(c)が何れも水素原子である化合物[式(B)で表される化合物]

」と記載されている。
ここで、摘示ア及びイより、「R^(a)」として、水素原子、メチル基等が記載され、また、摘示ウより、「R^(d)」として「アダマンタン環」等が記載されていることに加え、上記「式(1)」で表される化合物ではあるものの、摘示エのとおり、「1-(アダマンタン-1-イルオキシ)エチル(メタ)アクリレート」が具体的に記載されており、さらに、実施例においても上記「式(1)」で表される化合物ではあるものの、摘示カのとおり、「1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]エチル(メタ)アクリレート」が具体的に記載されているから、「R^(a)」が水素原子又はメチル基であり、かつ、「R^(d)」が「アダマンタン環」(アダマンチル基)または「アダマンチルエチル基」であるものが具体的に記載されている。
そして、摘示オに「式(B)について、式中、R^(a)、R^(d)は前記に同じ。」と明記されているのであるから、先願明細書には、「式(B)で表される化合物」において、「R^(a)」が水素原子又はメチル基であり、「R^(d)」が「アダマンタン環」(アダマンチル基)または「アダマンチルエチル基」である化合物に相当する「(アダマンタン-1-イルオキシ)メチル(メタ)アクリレート」または「1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]メチル(メタ)アクリレート」が記載されているに等しいということができる。
そうすると、摘示オに「式(1)においてR^(b)及びR^(c)が何れも水素原子である化合物もフォトレジスト用の高分子化合物の単量体として有用である。この化合物に対応する繰り返し単位は、高分子化合物において、酸脱離性機能や親水性機能を発揮する。」と記載されていることから、先願明細書には、「(アダマンタン-1-イルオキシ)メチル(メタ)アクリレート」または「1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]メチル(メタ)アクリレート」が「フォトレジスト用の高分子化合物の単量体」として用いられること、前記化合物に対応する「繰り返し単位」は、「高分子化合物において、酸脱離性機能」を有することが記載されていると認めることができる。
してみると、先願明細書には、単量体である「(アダマンタン-1-イルオキシ)メチル(メタ)アクリレート」または「1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]メチル(メタ)アクリレート」を重合して「フォトレジスト用の高分子化合物」を得ること、かつ、前記高分子化合物中に含まれる前記単量体に由来する「繰り返し単位」の構造は、「酸脱離性機能」を有することが記載されている。
したがって、先願明細書には、次の発明(以下、「先願明細書発明」という。)が記載されているといえる。
「単量体である(アダマンタン-1-イルオキシ)メチル(メタ)アクリレートまたは1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]メチル(メタ)アクリレートから誘導され、酸脱離性機能を有する繰り返し単位を含有する高分子化合物。」

4.対比・判断
本願発明と先願明細書発明とを対比する。
先願明細書発明における「(アダマンタン-1-イルオキシ)メチル(メタ)アクリレート」は、本願発明における「下記一般式(2)
【化1】

で示される化合物であって、R_(2)=水素原子又はメチル基、n=0、及びR_(1)=アダマンタン環(アダマンチル基)である化合物(単量体)」に相当する。
また、先願明細書発明における「1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]メチル(メタ)アクリレート」は、本願発明における「下記一般式(2)
【化1】

で示される化合物であって、R_(2)=水素原子又はメチル基、n=2、及びR_(1)=アダマンタン環(アダマンチル基)である化合物(単量体)」に相当する。
そして、先願明細書発明の高分子化合物において「酸脱離性機能を有する」ことは、フォトレジストにおいて、遊離のカルボキシル基を生成し、アルカリ溶解性を変化させる機能であると解されるから、本願発明の高分子化合物において「酸の作用によりアルカリ溶解性が変化し得る」に相当する。
そうすると、先願明細書発明における高分子化合物は、本願発明における高分子化合物に相当する。
したがって、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一である。



第5 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年5月30日提出の意見書において、概略、次のとおり主張している。
「確かに、式(1) で表される不飽和カルボン酸ヘミアセタールエステルの代表的な例として具体的に挙げられている化合物[1-1]及び[1-2]に対応する化合物(R^(b)=R^(c)=Hである化合物)は、本願請求項1に係る一般式(2)で表される化合物に相当いたします。
しかしながら、先願明細書には、単に、上記式(B)で表される化合物がフォトレジスト用の高分子化合物の単量体として有用であるとの記載があるにすぎず、実際に当該化合物がフォトレジスト用の高分子化合物の単量体として用いることが可能であることを示す具体的な証拠(すなわち、試験結果等)は全く開示されておりません。
(2)
そもそも、いわゆる化学物質の発明は、新規で、有用、すなわち産業上利用できる化学物質を提供することにその本質がありますから、明細書中に化学物質に係る発明が開示されているというためには、化学物質そのものが確認され、製造可能であり、その有用性が明細書に開示されていることが必要です。そして、一般的に化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験してみなければ判明しないことは、当業者が広く認識しているものであります。以上を鑑みれば、『明細書中に化学物質に係る発明が開示されている』というためには、明細書の記載から、化学物質が特定され、製造できるように記載されていることに加えて、当業者にその有用性が認識できるように、当該化学物質についての実際の試験結果が開示されていることが必要とされるべきです。・・・
一方で、上記式(B)で表される化合物は不飽和カルボン酸アセタールエステルであり、『アセタール構造』を有するものであって、『ヘミアセタール構造』を有しておりません。したがって、1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]エチル(メタ)アクリレートと1-(ボルニルオキシ)エチルメタクリレートの試験結果のみからでは、これらの化合物とは、その有用性に係る重要な部分の構造が全く異なる上記式(B)で表される化合物が、これらの化合物と同様にフォトレジスト用として有用であることを認識できるとはいえません。
(4)
また、先願明細書の段落[0033]?[0036]には、上記式(B)で表される化合物の合成方法が記載されております。
しかしながら、化合物は実際に製造してみないと、その特性はわからないものであります。つまり、先願明細書に記載の方法により上記式(B)で表される化合物が合成可能であったとしても、合成された当該化合物から高分子化合物を合成することが可能かどうかは、実際に試験をしてみなければ分かりません。・・・このように、ある化合物が合成可能であることと、当該化合物から高分子化合物が製造可能であることは、全く別のことであります。この点からも、上記式(B)で表される化合物から実際に高分子化合物が合成可能であることを示す試験結果が開示されていない先願明細書には、上記式(B)で表される化合物が高分子化合物の単量体として有用であることが当業者に認識可能なように記載されているとはいえません。
(5)
以上に述べたように、上記式(B)で表される化合物についての試験結果が一切開示されていない先願明細書の記載からは、たとえ当業者であっても、上記式(B)で表される化合物がフォトレジスト用の高分子化合物の単量体として有用であることは認識できず、よって先願明細書には『上記式(B)で表される化合物』の発明が開示されているとはいえません。」

しかしながら、先願明細書には、摘示オより、
下記反応式:

にしたがって、ヒドロキシ化合物(C)とホルムアルデヒド(又は、パラホルムアルデヒド等)及びハロゲン化水素(D)とを反応させて、ハロメチルエーテル化合物(A)を得ること、次いで、
下記反応式:

にしたがって、不飽和カルボン酸(3)とハロメチルエーテル化合物(A)とを、塩基の存在下で反応させて、「R^(b)及びR^(c)が何れも水素原子である化合物[式(B)で表される化合物]」を得ることが、詳細かつ具体的に記載されている。
そして、「R^(d)」が「アダマンタン環」(アダマンチル基)または「アダマンチルエチル基」である場合に、ヒドロキシ化合物(C)からハロメチルエーテル化合物(A)が製造・合成できないとする特段の理由ないし根拠があるとはいえないし、不飽和カルボン酸(3)であるアクリル酸又はメタクリル酸と「R^(d)」が「アダマンタン環」(アダマンチル基)または「アダマンチルエチル基」であるハロメチルエーテル化合物(A)との反応によって、「式(B)で表される化合物」が製造・合成できないとする特段の理由ないし根拠があるともいえない。
さらに、「式(B)で表される化合物」であって、「R^(a)」が水素原子又はメチル基であり、「R^(d)」が「アダマンタン環」(アダマンチル基)または「アダマンチルエチル基」である「(アダマンタン-1-イルオキシ)メチル(メタ)アクリレート」または「1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]メチル(メタ)アクリレート」が、先願明細書に記載されているに等しいことは、上で述べたとおりである。
また、「(アダマンタン-1-イルオキシ)メチル(メタ)アクリレート」または「1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]メチル(メタ)アクリレート」は、(メタ)アクリル酸エステルに属する化合物であって、例えば、有機パーオキサイド等を用いラジカル重合することにより高分子化合物を製造することができるビニル単量体であると認められるから、先願明細書にいう高分子化合物を与える単量体であると認められる。つまり、先願明細書には、前記単量体の重合体(高分子化合物)が記載されているといえる。
さらに、「式(B)で表される化合物」に対応する「繰り返し単位」は、「高分子化合物において、酸脱離性機能」を有すると記載されているのであるから、「アセタール構造」と「ヘミアセタール構造」との相違によって、仮に、酸脱離性ないしアルカリ溶解性の程度において差異があるとしても、摘示オでも「式(1)においてR^(b)及びR^(c)が何れも水素原子である化合物もフォトレジスト用の高分子化合物の単量体として有用である。この化合物に対応する繰り返し単位は、高分子化合物において、酸脱離性機能や親水性機能を発揮する。」と記載されているとおりであるから、「式(B)で表される化合物」に由来する「アセタール構造」に酸脱離性ないしアルカリ溶解性の機能自体が存在し得ないとはいえない。
そして、上で述べたとおり、先願明細書には、「式(B)で表される化合物」の合成・製造方法について十分に具体的に記載されており、また当該化合物が(メタ)アクリル酸エステルであることも記載され、さらに、「R^(d)」が「アダマンタン環」(アダマンチル基)または「アダマンチルエチル基」である態様についても具体的根拠があるものであるから、実施例がないことのみを根拠として、「(アダマンタン-1-イルオキシ)メチル(メタ)アクリレート」または「1-[2-(アダマンタン-1-イル)エトキシ]メチル(メタ)アクリレート」が先願明細書に記載されていないとすることは適切とはいえない。
したがって、審判請求人の主張を採用することはできない。

なお、審判請求人は、平成25年2月18日提出の回答書においても、縷々主張しているが、上記に加えて、改めて言及・反論すべき点はみあたらない。



第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その優先日前の特許出願であって、その優先日後に出願公開がされた、特願2004-28595号(特開2005-220059号)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその優先日前の特許出願に係る前記の発明をした者と同一ではなく、また、本件出願の時において、その出願人が前記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、前置審査における拒絶理由は妥当なものであるので、本願は、その理由により拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-08 
結審通知日 2013-05-14 
審決日 2013-05-28 
出願番号 特願2004-316960(P2004-316960)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 加賀 直人
蔵野 雅昭
発明の名称 高分子化合物、該高分子化合物を含有するフォトレジスト組成物、およびレジストパターン形成方法  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 鈴木 三義  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 志賀 正武  

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