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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服201713257 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 特29条特許要件(新規)  A23L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1287010
審判番号 無効2012-800072  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-05-02 
確定日 2014-05-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第4111382号発明「餅」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯の概要
本件特許第4111382号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成14年10月31日:出願
平成20年 4月18日:特許権の設定登録
平成24年 5月 2日:審判請求書及び甲第1ないし35号証提出
5月 7日:請求人上申(証拠説明ないし技術説明の機会の申請)
7月30日:答弁書及び乙第1ないし24号証提出
平成24年 9月24日:口頭審理審理事項通知
10月 4日:請求人上申書(侵害事件無効抗弁の証拠提出)
平成24年11月 8日:請求人口頭審理陳述要領書,
甲第36ないし65号証,及び弁駁書提出
平成24年11月 8日:被請求人口頭審理陳述要領書及び
乙第25,26号証出
平成24年11月20日:請求人上申書提出(誤記の訂正)
平成24年11月20日:被請求人上申書提出
平成24年11月22日:口頭審理
平成24年12月21日:請求人調書の記載に対する異議申立書提出
同日:請求人上申書,
上申書(技術論)及び上申書(事実論)提出
平成25年 1月11日:請求人上申書提出
平成25年 1月23日:被請求人上申書提出

第2 本件特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲の請求項1及び2(以下,それぞれの請求項に係る発発明を「本件発明1」及び「本件発明2」といい,これらを併せて「本件発明」という。)は,次のとおりである。なお,請求人が付した,AないしHの項目を付記した。

【請求項1】
A 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
B 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,
C この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として,
D 焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した
E ことを特徴とする餅。
【請求項2】
F 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
G 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けた
H ことを特徴とする請求項1記載の餅。

以下,構成B及びCの「切り込み部又は溝部」を,「サイドスリット」という場合がある。

第3 請求人の主張の概要
請求人は,本件発明1及び2について特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,審判請求書と共に甲第1号証ないし甲第35号証,口頭審理陳述要領書と共に甲第36ないし65号証,弁駁書,及び上申書を提出し,本件発明1及び2は,特許法第36条第6項第2号(無効理由1),同第4項第1号(無効理由2の1)の要件を満たしておらず,非発明或いは発明未完成であり産業上利用することができる発明に該当せず特許法第29条第1項柱書(無効理由2の2)の要件を満たしておらず,また,公知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項(無効理由3)の規定により,特許を受けることができないので,本件特許は同法第123条第1項第2号及び第4号に該当し,無効とすべきものであると,以下のように主張している。
なお,甲第1号証ないし甲第65号証を,順に甲1ないし甲65という。

1 無効理由1(発明の明確性)
(1)「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態」の不明確性
本件明細書の記載によれば,本件発明の「膨化」は,水蒸気により膨らむということを考慮に入れておらず,餅自体が膨張し,中身(糊状の餅)が最中やサンドイッチのように挟まっていることを意味している。
餅を焼き上げる際の実態は,中身が空洞であり,上記のような「膨化した中身がサンドされている状態」になっていないから,実態とかけ離れた構成であり,技術的意味が不明確である。

(2)「膨化による外部への噴き出しを抑制」の不明確性
本件発明は「最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態」にすることで膨化を内部に押さえ込むことができ外部へ噴き出さないようにすることができるものであると理解できるが,実態は,サイドスリットの有無にかかわらず,餅内部に空洞ができ,加熱を続ければ,皮膜の破裂により水蒸気と糊状の餅が噴き出すことは必定であり,「膨化による外部への噴き出しを抑制」は技術的意味を有さず不明確である。

(3)「として」の不明確性(構成B,Cと,構成D間の因果関係)
甲1の実験結果から,4側面1本サイドスリットは,サイドスリットなしより劣り,サイドスリットの有無は「膨化による外部への噴き出しを抑制」に影響を及ぼさない。
構成Dは実態とかけ離れたものを発明特定事項としており,構成B,Cのサイドスリットの形成により構成Dとなるといえない。
したがって,構成B,Cと構成D間の因果関係はないから,不明確である。

(4)本件発明の構成Dについて(広義説と狭義説)
本件特許請求の範囲の記載及び本件の出願の経緯からみて,構成Dは,本件発明の特徴的部分であるが,この解釈として,広義説と狭義説が対立している。そして,本件特許請求の範囲の記載及び本件の出願の経緯からみて,構成Dの解釈は,狭義説,つまり餅自体が膨張し,切り込みの上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形し,膨化による外部への噴き出しを抑制するとするのが妥当である。そして,狭義説と広義説の2説あること自体,構成Dは不明確である。
広義説,つまり,餅が膨張し,内部が気泡と水蒸気により空洞になり,その空洞が膨化による噴出力を小さくすることができるので,たれ落ちるほどの噴き出しを抑制できると解釈した場合については,明細書の記載に基づかず,サイドスリット無しの餅と差別化できず,噴き出しを抑制できないという問題点があり,以下のように不明確である。
ア 「膨化した中身がサンドされている状態」につて,「膨化」は,本件明細書に「十分に焼き上げようとすると必ず加熱途中で突然おこる」と記載されているように,十分に焼き上げようとすると突発的に起きることであるから,餅の膨張の経過は,(1)膨張の状態,(2)噴き出しの状態の二つに分けることができ,(1)は中身が空洞,(2)は中身が噴き出した餅であり,「中身がサンドされている状態」は,両者で全く異なり,いずれの状態をいっているのか不明確である。
イ 「膨化による噴き出しを抑制」について,加熱を止めたためや水分が少なかったために噴き出しが生じない場合も含むものであり,これらの場合,サイドスリットは噴き出し抑制と無関係であるから,不明確である。
ウ 「膨化」について,加熱を止めたためや水分が少なかったために膨化が起きない場合も含み,サイドスリットがあって通常の餅と同様に膨張すればすべて本件発明に当たることになり,不明確である。

(5)「載置底面又は平坦上面」,「立直側面である側周表面」の不明確性
「載置底面」は,消費者が焼き網に載せる際に選択する面であり,相対的な概念であるから,「載置底面」,「平坦上面」,「立直側面である側周表面」のいずれも特定できず,いずれの面を意味するか不明であり,サイドスリットを設ける面が特定不可能であるから,不明確である。

2 無効理由2の1(発明の実施可能要件)
(1)本件明細書に具体的な実施の形態の記載がないこと
本件明細書には,サイドスリットを入れて焼くと,直ちに所定の作用効果を奏する旨の記載になっているが,どのような経緯で中身がサンドされた状態になるのか記載がない。
実験の結果から,膨張した中身は空洞で,中身がサンドされている状態に見えるに過ぎないため,本件発明は実施不可能である。

(2)本件明細書記載の効果を奏しないこと
実験の結果から,本件明細書記載の効果と実態との間に齟齬があり,本件明細書の記載は実態が反映されておらず,技術的課題を何ら解決していないから,実施可能要件を満たさない。

(4)構成Dについて,広義説では,サイドスリットを入れることにより,スリットのない餅の場合と何ら変わらず,サイドスリットを入れた餅によって本件発明を実施しようとしても,本件発明を実施することができない。
狭義説では,構成Dの餅をつくることはできないため,実施可能要件を欠く。

3 無効理由2の2(発明未完成)
サイドスリットと構成Dとは無関係であり,実態とかけ離れたものを発明特定事項としており,客観性が無く,技術的思想の創作ではなく,非発明であるか,発明として完成しているとはいえず,特許法第29条第1項柱書の「産業上利用することができる発明」に該当しない。

4 無効理由3(進歩性)
(1)本件発明は,特開平10-165121号公報(甲6)に記載された発明(引用発明1)及び特開平8-140579号公報(甲第7号証)に記載された発明(引用発明2),並びに,平成24年5月2日付け事実実験公正証書(甲8)及び個包装単体餅1個(甲10)に示された公知技術(引用発明3)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)引用発明3の公知性について
甲14ないし65は,甲10を含む切餅「こんがりうまカット」について,平成14年1月に開発を開始してから,開発部での試作を経て平成14年10月に量産及び販売を開始し,そのサンプルとして甲10を保管するまでの経緯を証明する資料であり,これらの証拠から,甲10を含む切餅「こんがりうまカット」は,本件出願前に公然知られた発明である。

請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:実験結果報告書 2012年3月16日佐藤食品工業(株)開発部 丸山雅岳
甲第2号証:餅の焼き調理実験についての見解 平成24年5月1日 技術士 江川和徳
甲第3号証:江川和徳編集「つくってあそぼう「4」もちの絵本」2010年4月30日第6刷発行 (社)農山漁村文化協会 第2?7,12?21,24?25,28?29,32?36頁
甲第4号証:おいしい餅と製餅方法 平成24年4月2日 佐藤食品工業(株)
甲第5号証:大辞林 第二版 新装版 1999年10月1日 第1718,1830頁
甲第6号証:特開平10-165121号公報
甲第7号証:特開平8-140579号公報
甲第8号証:平成24年第70号 切り餅「こんがりうまカット」の表面加工スリットの状況等確認に関する事実実験公正証書 平成24年5月2日 公証人 久保内卓亜
甲第9号証:平成21年第97号 事実実験公正証書 平成21年6月30日 公証人 川島貴志郎
甲第10号証:甲8の事実実験で封緘された「A-18」と記載された付箋が付された個包装餅
甲第11号証:餅の製造時期に関する鑑定書 平成24年5月1日 技術士 江川和徳
甲第12号証:餅の弾性率測定結果に関する報告書 2012年4月27日 佐藤食品工業(株) 開発部 町知晃
甲第13号証:報告書 平成23年12月25日 西村あさひ法律事務所 弁護士 矢嶋雅子 早川皓太郎
甲第14号証:陳述書 平成23年12月22日 佐藤食品工業(株)生産本部開発部開発課課長 渡辺今日子
甲第15号証:陳述書 平成23年12月22日 佐藤食品工業(株)生産本部副本部長兼開発部部長 赤塚昌一
甲第16号証:「イトーヨーカドーへの餅新商品提案-開発中間報告-」平成14年2月28日
甲第17号証:スリット餅 トースター適性とスリット深さの試験 2002/07/05 研究室 柳沢
甲第18号証:開発部打合せ・会議記録シート 14年7月18日 記入者 柳沢貴之,14年7月15日 記入者 大野晴生
甲第19号証:開発部打合せ・会議記録シート 13年7月23日 記入者 渡邊今日子,14年7月23日 記入者 白井篤博
甲第20号証:スリット餅 スリットの深さについて 2002/08/08 研究室 柳沢
甲第21号証:スリット餅 スリットの深さについて(追試験) 2002/08/19 研究室 柳沢
甲第22号証:スリット餅 スリットの深さについて(追試験2) 2002/08/26 研究室 柳沢
甲第23号証:スリット餅 スリットの深さに関する傾向のまとめ 2002/08/26 研究室 柳沢
甲第24号証:陳述書 平成23年12月17日 (株)山由製作所 渡辺幸雄,添付資料1ないし6
甲第25号証:稟議書 起案日平成14年7月23日 白井篤博
甲第26号証:平成15年度 償却資産報告書(償却資産課税台帳)
甲第27号証:報告書 平成23年12月26日 西村あさひ法律事務所 弁護士 宍戸充 矢嶋雅子 早川皓太郎
甲第28号証:生産依頼書
甲第29号証:資材 製品 変更記録 平成14年度
甲第30号証:陳述書 倉田恵子,添付資料:不休労災記録14年10月18日等
甲第31ないし33号証:売り場写真
甲第34号証:陳述書 平成23年12月14日 (株)きむら食品 代表取締役社長 木村金也
甲第35号証:陳述書 平成23年12月21日 たいまつ食品(株)代表取締役社長 樋口元剛
甲第36号証:手続補正書(本件審査段階で提出されたもの)
甲第37号証:回答書(本件審判段階で提出されたもの)
甲第38号証:東京書籍編集部編 ビジュアルワイド 中学理科資料集 120-121頁
甲第39号証:浜島書店編集部編 ニューステージ 新訂 化学図表 2002年10月1日 86-87頁
甲第40号証:切り餅の仕様を比較した文書 2003.4.23 研究室
甲第41号証:象印ET-RU25で餅を焼いたときの温度履歴測定結果 2012年10月23日 佐藤食品工業(株)開発部 渡邊今日子
甲第42号証:象印オーブントースターET-RU25の分解写真 2012年10月23日 佐藤食品工業(株)開発部 丸山雅岳
甲第43号証:松原望ら編 統計応用の百科事典 丸善出版(株) 平成23年10月31日 462-463頁
甲第44号証:陳述書 平成23年12月21日 佐藤食品工業(株)開発部開発課課長 白井篤博
甲第45号証:稟議書 起案日平成14年5月13日 津野潤一郎
甲第46号証:「サトウの切り餅」新規開発のご案内-新しいスタイルの餅- 2005年5月17日 佐藤食品工業(株)
甲第47号証:稟議書 起案日平成14年7月18日 津野潤一郎
甲第48号証:報告書 2002年8月5日 津野潤一郎
甲第49号証:情報連絡書 津野潤一郎 10月4日確認
甲第50号証:報告書 2002年10月8日 津野潤一郎
甲第51号証:製造管理表(日報) 平成14年10月18日
甲第52号証:報告書 2001年10月30日 津野潤一郎
甲第53号証:報告書 2003年8月19日 津野潤一郎
甲第54号証:商品連絡表(変更用) 津野潤一郎
甲第55号証:平成14年3月22日FAXの再FAX送信票 平成14年6月22日 弁理士牛木護から佐藤食品工業(株)開発部技術係五十嵐義文宛 特許願書,明細書及び図面添付
甲第56号証:佐藤食品工業(株)開発部五十嵐義文から弁理士牛木護へのFAX 02/07/17送信,特許出願の申請書訂正箇所添付
甲第57号証:FAX送信票 弁理士牛木護から佐藤食品工業(株)開発部技術係五十嵐義文宛 平成14年7月23日,訂正願書,明細書及び図面添付
甲第58号証:平成14年7月23日のFAXに対する,佐藤食品工業(株)開発部五十嵐義文から弁理士牛木護宛への返信FAX 02/09/06送信
甲第59号証:「手で割る事が出来,きれいに焼ける餅」と題する文書 平成15年6月4日
甲第60号証:陳述書 平成23年12月22日 佐藤食品工業(株)開発部開発課技術係 五十嵐義文
甲第61号証:弁護士 矢嶋雅子 早川皓太郎から,弁理士牛木護 高橋知之宛の照会書 平成23年12月14日
甲第62号証:弁理士 牛木護 高橋知之から弁護士矢嶋雅子 早川皓太郎宛の回答書 平成23年12月14日
甲第63号証:陳述書 平成23年12月22日 佐藤食品工業(株)代表取締役社長 佐藤充
甲第64号証:日本食糧新聞記事 平成15年9月17日
甲第65号証:日本食糧新聞記事 平成15年10月17日

第4 被請求人の主張の概要
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判の費用は請求人の負担とするとの審決を求め,答弁書と共に乙第1号証ないし乙第24号証の20,口頭審理陳述要領書と共に乙第25,26号証,及び上申書を提出し,請求人の主張する理由及び証拠によっては本件発明を無効とすることはできないと以下のように主張している。
なお,乙第1号証ないし乙第26号証を,順に乙1ないし乙26という。

1 無効理由1(発明の明確性)に対して
(1)「膨化した中身がサンドされている状態」は,本件明細書段落【0018】,【0027】,【図2】の記載から理解でき,「膨化した中身」は,上下の焼板状部の間に挟まれた餅の部分と理解でき,明確である。

(2)「膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制」は,本件明細書の記載から理解でき明確である。また,追加実験(乙2)による作用効果の検証の結果により裏付けられた。さらに商業的成功(乙3?13)からみても,噴き出し抑制効果を発揮していることが明らかである。
甲1の実験結果報告書は,判定基準が不明であり,膨化部位が特定されず証拠となり得ない。また,江川見解書は,江川氏独自の考え方であり妥当性を欠き,見解書の餅の膨張の原理に従って論じる理由はない。

(3)「として」については,「切り込み部又は溝部」により作用効果を奏することは上記(2)のとおりであり,明確である。

(4)「載置底面又は平坦正面」,「立直側面である側周表面」は,焼き網に載置して焼き上げることを前提として,「載置底面」,「平坦上面」を特定した上で,これらでない「側周表面」を特定したものであり,明確である。

2 無効理由2の1(実施可能要件)に対して
本件明細書段落【0014】,【0027】には,課題を解決するための原理が明確に記載されている。
「膨化した中身」は,本件明細書の記載から,外観が,上下の焼板状部の間に挟まれた餅の部分と理解でき,その中身がいかなる状態かを問わない。
切り込みにない餅と本件発明を追試した結果から,作用効果が裏付けられることは上記1(2)のとおりである。

3 無効理由2の2(発明未完成)に対して
実施可能要件についてと同様の理由で,発明未完成ではない。

4 無効理由3(進歩性)に対して
(1)請求人の引用発明1の認定及び一致点・相違点に誤りがある。
(2)引用発明1及び2の組合せにより本件発明は容易想到といえない。
(3)引用発明3について
ア 引用発明3基づく無効審判請求は一事不再理に該当する。
イ 引用発明3は,本件出願前に公知となっていない。
(ア)「こんがりうまカット」パッケージ写真及び個装図面(甲9)に,サイドスリットは存在せず,個装の表示と中身が異なることはありえず,「こんがりうまカット」にサイドスリットがないことが裏付けられている。
(イ)「こんがりうまカット」の開発に携わっていた赤塚昌一氏を発明者として,上下面スリットのみのものが平成14年9月6日に特許出願(乙19)され,上下面及びサイドスリットあるものが平成15年7月17日に特許出願(乙20の1))されて,早期審理に関する事情説明書(乙20の2)で平成15年9月1日より販売開始している実施関連出願であるとしていることから,平成14年10月21日に発売された「こんがりうまカット」にサイドスリットがあったら,自ら公然実地した事実を秘匿して後者の特許出願をしたことになるから,上記「こんがりうまカット」にはサイドスリットがなかったことが裏付けられる。
(エ)新聞報道等(乙6の1?15,乙21,22)から,サイドスリットを入れた餅を発売したのは,平成15年9月であり,平成14年発売の「こんがりうまカット」は,上下面にのみ十字スリットである。

被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:特許4111382号公報
乙第2号証:切餅に付す側面切り込みの有無による効果を比較した試験結果 平成24年6月25日 越後製菓(株)総合研究所 食品研究室 取締役食品研究室長 小林篤
乙第3号証の1ないし22:ふっくら名人アンケート回答結果
乙第4号証の1及び2:2004/09/27及び2005/10/17付日本食糧新聞社記事
乙第5号証:2006/10/16付日本食糧新聞社記事
乙第6号証の1ないし4:2003年9月22日及び29日フードウイークリー記事
乙第6号証の5:平成15年9月16日付商経アドバイス記事
乙第7号証:ケンコーコムウェブサイト
乙第8号証:平成17年9月14日付食品新聞記事
乙第9号証:2006/10/16付日本食糧新聞社記事
乙第10号証:2008/10/16付日本食糧新聞社記事
乙第11号証:2010/10/06付日本食糧新聞社記事
乙第12号証:平成18年10月2日付商経アドバイス記事
乙第13号証:平成22年9月8日付食品新聞記事
乙第14号証:平成24年5月25日発行 無効2009-800168号 特許審決公報
乙第15号証:平成22年(行ケ)第10225号 判決
乙第16号証:最高裁判所の平成23年(行ツ)第376号及び(行ヒ)第416号上告棄却及び上告不受理の決定
乙第17号証:東京地方裁判所 平成21年(ワ)第7718号事件における佐藤食品工業(株)社員津野潤一郎の証人尋問調書
乙第18号証:東京地方裁判所 平成21年(ワ)第7718号事件における元イトーヨーカドー社員福井智昭の証人尋問調書
乙第19号証:特開2004-97063号公報
乙第20号証の1:特開2005-34079号公報
乙第20号証の2:特願2003-275876号 早期審査に関する事情説明書
乙第21号証:平成15年9月24日 新潟日報記事
乙第22号証: 総合食品9月号 47頁
乙第23号証:陳述書 佐藤食品工業(株) 平成21年7月27日 津野潤一郎(乙24の2と同じ)
乙第24号証の1ないし20:無効2009-800168号に添付された甲第1号証ないし甲第20号証

第5 当審の判断
本件発明1及び本件発明2についての各無効理由は同じであるため,両発明をまとめて本件発明として,以下検討する。

1 無効理由1(発明の明確性)について
(1)本件特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲の請求項1は,以下のように記載されている。

A 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
B 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,
C この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として,
D 焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した
E ことを特徴とする餅。
(なお,AないしEは請求人が付した項目をそのまま付した。)

(2)本件明細書の記載
本件明細書には以下の記載がある。
【発明の属する技術分野】として
「【0001】本発明は,例えば個包装されるなどして販売される角形の切餅に関するものである。」(段落【0001】)
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】として
「【0002】餅を焼いて食べる場合,加熱時の膨化によって内部の餅が外部へ突然膨れ出て下方へ流れ落ち,焼き網に付着してしまうことが多い。
【0003】そのためこの膨化による噴き出しを恐れるために十分に餅を焼き上げることができなかったり,付きっきりで頻繁に餅をひっくり返しながら焼かなければならなかった。古来のように火鉢で餅を手元に見ながら焼く場合と異なりオーブントースターや電子レンジなどで焼くことが多い今日では,このように頻繁にひっくり返すことは現実なかなかできず,結局この突然の噴き出しによって焼き網を汚してしまっていた。
【0004】このような膨化現象は焼き網を汚すだけでなく,焼いた餅を引き上げずらく,また食べにくい。更にこの膨化のため餅全体を均一に焼くことができないなど様々な問題を有する。
【0005】しかし,このような膨化は水分の多い餅では防ぐことはできず,十分に焼き上げようとすれば必ず加熱途中で突然起こるものであり,この膨化による噴き出し部位も特定できず,これを制御することはできなかった。」(段落【0002】?【0005】)
「【0008】切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき,しかも切り込みの設定によっては,焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく,逆に自動的に従来にない非常に食べ易く,また食欲をそそり,また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり,また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅を提供することを目的としている。」(段落【0008】)
【発明の実施の形態】として
「【0014】即ち,従来は加熱途中で突然どこからか内部の膨化した餅が噴き出し(膨れ出し),焼き網に付着してしまうが,切り込み3を設けていることで,先ずこれまで制御不能だったこの噴き出し位置を特定することができ,しかもこの切り込み3を長さを有するものとしたり,短くても数箇所設けることで,膨化による噴出力(噴出圧)を小さくすることができるため,焼き網へ垂れ落ちるほど噴き出し(膨れ出)たりすることを確実に抑制できることとなる。」(段落【0014】),
「【0016】即ち,例えば,側周表面2Aに切り込み3を周方向に沿って形成することで,この切り込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成する場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく,オーブン天火による火力が弱い位置に切り込み3が位置するため忌避すべき焼き形状とならない場合が多い。
【0017】また,この側周表面2Aに形成することで,膨化によってこの切り込み3の上側が下側に対して持ち上がり,この切り込み部位はこの持ち上がりによって忌避すべき焼き上がり状態とならないという画期的な作用・効果を生じる。
【0018】即ち,この持ち上がりにより,図2に示すように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態,あるいは焼きはまぐりができあがりつつあるようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状に自動的に膨化変形し,自動的に従来にない非常に食べ易く,また食欲をそそり,また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。またほぼ均一に焼き上げることが可能となる。
【0019】本発明の方形(直方形)の切餅の場合,立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで,たとえ側周表面2Aの四面全てに連続して角環状に切り込み3をめぐらし形成しなくても,少なくとも対向側面に所定長さ以上連続して切り込み3を形成することで,膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく,この切り込み3に対して上側が持ち上がり,前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態,あるいは焼きはまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状となり,自動的に従来にない非常に食べ易く,また食欲をそそり,また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。
【0020】特にこの切り込み3を側周表面2Aに,小片餅体1の輪郭縁に沿った周方向に連続してほぼ四角環状に形成すれば,一層前記作用・効果が確実に発揮され,極めて画期的な餅となる。」(段落【0016】?【0020】)
【実施例】として
「【0022】本実施例は,つき立ての餅を急冷して個包装パックし袋詰めして市販する餅(例えばオーブントースターで焼いたり,電子レンジで加熱したりして食する餅)に本発明を適用したもので,切餅に適用した実施例である。
【0023】切餅における小片餅体1は,長方体状で輪郭形状は四角形である。
【0024】本実施例では,この直方形状の小片餅体1の上側表面部2の立直側面である側周表面2Aに,この立直側面2Aに沿う方向を周方向としてこの周方向に連続させてほぼ角環状とした切り込み部3を設けている。
【0025】 即ち,外側四面の側周表面2Aに切り込み3を連続してこれに沿ってめぐらすことで四角環状の切り込み3を形成している。
【0026】 この四面の立直側面(側周表面2A)に切り込み3を形成することで丸餅における実施例より更に前記作用・効果は顕著に発揮される。
【0027】 即ち,立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで,図2に示すように,この切り込み3に対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり,前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)となり,自動的に従来にない非常に食べ易く,また食欲をそそり,また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。
【0028】従って,例えば図3に示すように対向二側面の側周表面2Aに刃板5によって切り込み3を形成することで,(前後に切り込み3を殆ど形成せず環状に切り込み3を形成しないが)四面に全てに連続させて形成して四角環状とする場合に比して十分ではないが持ち上がり現象は生じ,前記作用・効果は十分に発揮される。
【0029】即ち,刃板5に対して小片餅体1を相対移動するだけで小片餅体1の両側の側周表面2Aに周方向に十分な長さを有する切り込み3を簡単に形成でき,前記作用・効果が十分に発揮されると共に,量産性に一層秀れる。」(段落【0022】?【0029】)
【発明の効果】として
「【0032】切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき,しかも切り込みの設定によっては,焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく,逆に自動的に従来にない非常に食べ易く,また食欲をそそり,また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり,また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅となる。
【0033】しかも本発明は,この切り込みを単なる餅の平坦上面に直線状に数本形成したり,X状や+状に交差形成したり,あるいは格子状に多数形成したりするのではなく,周方向に形成,例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり,あるいは側周表面に周方向に沿って対向位置に形成すれば一層この切り込みよって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に,焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわず,しかも確実に焼き上がった餅は自動的に従来にない非常に食べ易く,また食欲をそそり,また美味しく食することができる焼き上がり形状となり,それ故今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができこととなる画期的な餅となる。
【0034】また,切り込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成する場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく,オーブン天火による火力が弱い位置に切り込みが位置するため忌避すべき焼き形状とならない場合が多く,膨化によってこの切り込みの上側が下側に対して持ち上がり,この切り込み部位はこの持ち上がりによって忌避すべき焼き上がり状態とならないという画期的な作用・効果を生じる。
【0035】特に本発明においては,方形(直方形)の切餅の場合で,立直側面たる側周表面に切り込みをこの立直側面に沿って形成することで,たとえ側周面の周面全てに連続して角環状に切り込みを形成しなくても,少なくとも対向側面に所定長さ以上連続して切り込みを形成することで,この切り込みに対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり,しかも完全に側面に切り込みは位置し,オーブン天火の火力が弱いことなどもあり,忌避すべき形状とはならず,また前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部で膨化した中身がサンドされている状態,あるいは焼きはまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状となり,自動的に従来にない非常に食べ易く,また食欲をそそり,また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。」(段落【0032】?【0035】)
【図面の簡単な説明】及び【図面】として
「【図1】第一実施例(切餅に適した一実施例)を示す斜視図である。
【図2】第一実施例(切餅に適した一実施例)を示す焼き上がり状態の斜視図である。」
【図1】


【図2】



(3)「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した」(構成D)との記載の明確性について

ア 「膨化」について
請求人は,本件発明の「膨化」は,水蒸気により膨らむということを考慮に入れておらず,餅自体が膨張し,中身(糊状の餅)が最中やサンドイッチのように挟まっていることを意味している(請求人のいう「狭義説」)旨主張する。
本件明細書の記載をみると,従来「餅を焼いて食べる場合,加熱時の膨化によって内部の餅が外部へ突然膨れ出て下方へ流れ落ち,焼き網に付着してしまうことが多い。そのためこの膨化による噴き出しを恐れるために十分に餅を焼き上げることができなかった」(段落【0002】,【0003】)こと,本件発明は「切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できる」(段落【0008】)ことを目的としたこと,「本実施例は,つき立ての餅を急冷して個包装パックし袋詰めして市販する餅(例えばオーブントースターで焼いたり,電子レンジで加熱したりして食する餅)に本発明を適用したもので,切餅に適用した実施例である。」(段落【0022】)ことが記載されており,特許請求の範囲に記載された「膨化」は,市販の切り餅にサイドスリットを適用し,オーブントースター等で普通に焼き上げた際に餅が膨らむ状態,つまり,内部に空洞を生じた状態を意味しているといえ,請求人が「狭義説」として主張するような,空洞を含まないような特異な状態を意味しているものとすることはできない。

イ 「膨化した中身がサンドされている状態」について
請求人の「狭義説」は,上記イに記載したとおり採用することができないから,これを前提とする主張は採用できない。
そして,本件明細書の記載をみると,「膨化によってこの切り込み3の上側が下側に対して持ち上がり」(段落【0017】),「この持ち上がりにより,図2に示すように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態,あるいは焼きはまぐりができあがりつつあるようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状に自動的に膨化変形」すること(段落【0018】),「立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで,図2に示すように,この切り込み3に対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり,前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)」となること(段落【0027)が記載されており,「膨化した中身がサンドされている状態」は,側面に切り込みを設けた餅を焼き上げた際に,「膨化」して,内部に空洞を生じ,外見上見える状態であり,その一実施例として,図2が示されており,「膨化した中身がサンドされている状態」との記載は,不明確とはいえない。

ウ 「膨化による外部への噴き出しを抑制」について
請求人の「狭義説」は,上記イに記載したとおり採用することができないから,これを前提とする主張は採用できない。
そして,本件明細書の記載をみると,「従来は加熱途中で突然どこからか内部の膨化した餅が噴き出し(膨れ出し),焼き網に付着してしまうが,切り込み3を設けていることで,先ずこれまで制御不能だったこの噴き出し位置を特定することができ,しかもこの切り込み3を長さを有するものとしたり,短くても数箇所設けることで,膨化による噴出力(噴出圧)を小さくすることができるため,焼き網へ垂れ落ちるほど噴き出し(膨れ出)たりすることを確実に抑制できることとなる。」(段落【0014】),「立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで,図2に示すように,この切り込み3に対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり,前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)」となること(段落【0027】),「この切り込みに対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり,しかも完全に側面に切り込みは位置し,オーブン天火の火力が弱いことなどもあり,忌避すべき形状とはならず,また前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部で膨化した中身がサンドされている状態」となること(段落【0035】)が記載されている。
そして,「膨化による外部への噴き出しを抑制」のメカニズムについて考察すると,側面に切り込みを設けた本件発明の餅は,主として上下方向から加熱するのが通常であるオーブントースターで焼き上げた際に,直接放射熱が当たる上面及び底面に比べて,放射熱が直接当たりにくく火力が弱い側面にスリットが設けられており,加熱に伴い餅内部の水が水蒸気となりかつ空気が膨張して,餅を膨らませ,内部の圧力に餅の表面が耐えられなくなると,上下面よりも火力が弱い側面に設けられたスリットが,割れの契機となって,そこから割れ,上側が下側に対して持ち上がり,内部に空洞が生じ,結果的に外部への噴出力が減少して,焼き網に垂れ落ちるほどの餅の噴き出しが抑制されることは,本件明細書の記載及び自然法則から極自然に考えられることである。
したがって,「膨化による外部への噴き出しを抑制」との記載は不明確とはいえない。

エ 審査・審判手続で構成Dが付加された経緯について
請求人は,甲36,37からみて,構成Dは,先願(特願2002-261947号)との差別化を図るために追加され,これにより特許査定されたものであり,構成Dは,これにより先願発明と同一でないとされたのだから,本件発明の特徴的な部分である旨主張する(口頭審理陳述要領書11?14頁)。構成Dが,特徴的部分かどうかにかかわらず,その明確性,実施可能要件は求められるが,請求人の主張する狭義説に関係していると解されるため検討する。
甲36の審判請求の理由には,拒絶査定の審査官の指摘を「(1)審査官は,切餅タイプの請求項4,5については,特願2002-261947号(特開2004-97063号)をご引用の上,同一発明が開示されているとして第29条の2に該当する旨のご見解を示されその理由は,引用例には,上下面に切り込みを入れた切餅が開示されており,この上下面に切り込みを入れた切餅を焼き網に載置させて焼くに際して,餅のどの面を載置底面にしても焼くことができるのだから,この引用例の餅の上下面は,焼くに際しての側面にもなり得るので,引用例と本願発明とは同一発明であるとの理由です。」とした上で,「この点,先ずもって本願発明は単に方形の小片餅体ではなく,焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体であって,しかも此度の別紙手続補正書において切餅であることを明確にクレームに特定致しました。」,「即ち,切り込みによって,その下側に対して上側が持ち上がるが,上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされた最中やサンドウィッチのような状態となる側面位置に切り込み部を形成する点を明確にクレームに特定致しました。」,「従って,このクレーム特定によって,仮にもし想定不可能といえども上下面に切り込みを入れた引用例の切餅を焼き網上に立てて広い上下面が側面となるように焼き上がることはたとえ常識外れと言えどもできないことはないのではないかと,審査官がもしお考えになったとしても,このクレーム特定によってこのような立てた場合切餅の広い側面に切り込みがあったとしても,網の上に立てたこの切餅が,切り込みを堺に下側に対して上側が持ち上がることはなく,たとえわずかに切り込みの下側に対して上側が持ち上がっても,焼板状部間に膨化した中身がサンドされた最中やサンドウィッチのようには決して焼きあがることはありません。」としており,構成Dを付加した経緯は,側面が載置底面になり得る旨の審査官の指摘は想定不可能とした上で,拒絶の理由を回避するために,請求項4,5について,小片餅体が「切餅」であることを特定し,さらに,構成Dを付加して,側面を載置底面とした場合,構成Dの焼き上がりにならないとして,側面が載置底面とならないことを,規定しようとしたものといえる。
また,甲37の回答書には,審査官が前置報告書で,構成Dの付加が,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的としたものでない旨指摘したことに対して,「切り込みが切餅の側面,即ち,偏平方形状の角餅の立ち上がり側面に,その周方向に十分な長さを有することを明確にする目的で,明りょうでない記載を明りょうにしつつ,この切り込みは単なる膨化による噴き出し抑制のための切り込みでなく,前述のような所定位置・所定長さの切り込みであってこの切り込みによって「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成し」た点を構成限定した補正です。従って,構成を具体化したのですから,特許請求の範囲の減縮補正です。」としている。上記のように甲36の記載から,側面が載置底面とならないことを規定しようとしていることを考慮すれば,,甲37の記載は,構成Dの付加により,側面が載置底面にならないことを明りょうにしたこと,所定位置,つまり載置底面とならない側面の切り込みによって,側面を載置底面とした場合には生じない焼き上がりを特定したと解すのが相当である。
以上のとおり,構成Dは,これにより先願との差別化を積極的に図るための特異な構成ではなく,審査官が指摘した切餅の側面を載置底面とするという,通常でない焼き方をすることを排除しようとして付加した構成であるといえる。

オ 以上のとおり,構成Dの「膨化」は,内部に空洞が生じている状態であるから,請求人の構成Dは「狭義説」であるべきであるとする主張,及びこれに基づいた主張は採用できない。
そして,本件明細書及び図面の記載からみて,構成Dは,焼き上げた際に,内部に空洞ができ外部への噴出力が減少して,つまり,餅は最中やサンドウイッチ(やや片持ち状態に持ち上がる場合が多い)のように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形し,焼き網に付着するほどの餅の噴出しを抑制できるものであることが理解でき不明確とはいえない。

(4)特許請求の範囲の構成B及びCと,構成Dとの間の因果関係について
請求人は,構成B,Cと構成D間の因果関係はない旨主張する。
上記(3)ウで記載したとおり,側面に設けられたスリットが,割れの契機となって,そこから割れ,上側が下側に対して持ち上がり,内部に空洞が生じ,結果的に外部への噴出力が減少して,焼き網に垂れ落ちるほどの餅の噴き出しが抑制されることは,本件明細書の記載及び自然法則から極自然に考えられることである。
また,甲1及び乙2の実験結果から,構成B及びCと,構成Dとの間の因果関係があることが裏付けられることは,以下の「2 無効理由2の1(実施可能要件)について」の検討で記載するとおりである。
したがって,構成B及びCと,構成Dとの間には一定の因果関係があるといえ,不明確とはいえいない。

(5)特許請求の範囲の「載置底面又は平坦上面」,「立直側面である側周表面」との記載の明確性
請求人は,「載置底面」は,消費者が焼き網に載せる際に選択する面であり,相対的な概念であるから,いずれの面を意味するか不明であり,サイドスリットを設ける面が特定不可能である旨主張する。
本件特許請求の範囲には,「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅」と記載され,「載置」は,焼き網上に載置することであるから,「載置底面」は,餅の面の内,焼き網に接する面といえる。そして,本件明細書には,「本発明は,例えば個包装されるなどして販売される角形の切餅に関するものである。」(段落【0001】)と記載されており,通常,切り餅を焼く際には,面積の広い面を焼き網に載せることから,「載置底面」は,この面積の広い面とするのが相当である。そして,「平坦上面」が,「載置底面」の対向面であることは明らかである。また,「立直側面である側周表面」は,図1の2Aで示される,「載置底面」及び「平坦上面」以外の面であるといえるから,「載置底面又は平坦上面」,「立直側面である側周表面」が不明確とはいえない。
また,請求人は,切り込みを設ける面が特定不可能である旨主張するが,本件発明の餅を製造する際に,通常,消費者が焼き網に載せる,面積の広い面を載置底面として側周表面を決定し,そこに切り込みを入れることができるから,請求人の主張は採用できない。

(6)明確性のまとめ
以上のとおり,本件特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているから,特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきもの,とすることはできない。

2 無効理由2の1(実施可能要件)について
請求人は,本件明細書に具体的な実施の形態の記載がないこと,本件明細書記載の効果を奏しないこと,また,実験の結果から,本件明細書の記載は実態が反映されていないこと,スリットの有無で何ら変わらず,サイドスリットを入れた餅によって本件発明を実施しようとしても,本件発明を実施することができないことを主張する。

(1)本件明細書及び図面の記載事項の検討
本件発明は,餅を焼いて食べる場合,加熱時の膨化によって内部の餅が外部へ突然膨れ出て下方へ流れ落ち,焼き網に付着することが多く,餅をオーブントースターや電子レンジなどで焼く場合,突然の噴き出しによって焼き網を汚す等の問題が有ったこと,また,この膨化による噴き出し部位は特定できず制御することはできなかったことを課題として認識し,切り込みの設定によって,噴き出し位置を特定でき,しかも焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず,食べ易く美味しく食することができる焼き上がり形状となる餅を提供することを目的とするものであって,課題を解決するための手段として,本件発明の構成を有する餅を創作したものであるといえる。
そして,本件明細書には,具体的な実施例として,「つき立ての餅を急冷して個包装パックし袋詰めして市販する餅(例えばオーブントースターで焼いたり,電子レンジで加熱したりして食する餅)」に適用し,直方形状の小片餅体1の上側表面部2の立直側面である側周表面2Aに,この立直側面2Aに沿う方向を周方向としてこの周方向に連続させてほぼ角環状とした切り込み部3を設けたものが,一実施例として図1に示されている。そして,この餅の焼き上がり形状が,図2に一実施例として示され,切り込み3に対して上側が,膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり,「最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)」の焼き上がり形状となることが記載されている。
本件発明の効果は,明細書の記載から,切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に,食べ易い焼き上がり形状となること,切り込みが側面に位置し,側面はオーブン天火の火力が弱いことなどにより,忌避すべき形状とはならず,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部で膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)となることであるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載からみて,本件発明の餅は,例えば市販の方形の切餅の側面に,スリットを入れたものであり,焼き上げる際は,オーブントースターを切餅を焼くに適した条件で用いればよく,焼き上げられた形状や餅内部の状態は,上記のとおり焼き上げた際に自然に得られるものであるとするのが相当といえる。
さらに,本件発明で,焼き網に垂れ落ちるほどの噴き出しが抑制できるメカニズムを考察すると,側面にスリットを設けた本件発明の餅は,主として上下方向から加熱するのが通常であるオーブントースターで焼き上げた際に,直接放射熱が当たる上面及び底面に比べて,放射熱が直接当たりにくく火力が弱い側面にスリットが設けられているため,加熱に伴い餅内部の水が水蒸気となりかつ空気が膨張して,餅を膨らませ,内部の圧力に餅の表面が耐えられなくなると,上下面よりも火力が弱い側面に設けられたスリットが,割れの契機となって,そこから割れ,上側が下側に対して持ち上がり,内部に空洞が生じ,結果的に外部への噴出力が減少して,焼き網に垂れ落ちるほどの餅の噴き出しが抑制されることは,本件明細書の記載及び自然法則から極自然に考えられることである。
以上のとおり,本件明細書及び図面の記載および自然法則から,本件発明の餅は,焼き上げた際に,内部に空洞ができ外部への噴出力が減少して,つまり,餅は最中やサンドウイッチ(やや片持ち状態に持ち上がる場合が多い)のように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形し,焼き網に付着するほどの餅の噴出しを抑制できるものであることが理解できる。

(2)請求人及び被請求人の実験結果の検討
ア 請求人の実験結果(甲1)
2機種6台のオーブントースター(いずれもマイコン制御でない)で焼いた際の焼きあがり状態の判定基準について,「× 側面からの飛び出しが大きく,形が大きく崩れている」については,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを抑制できていないため,本件発明の目的及び効果に沿わないため妥当といえる。
一方,「×× 餅が上下方向に大きく開く」については,軟化した餅が噴出しているわけではなく,「○」及び「△」とともに,本件発明の目的及び効果に沿うものといえる。
上記観点で,結果をみると,「×」の割合は,サイドスリット無し62%,四側面スリット55%,長側面スリット42%となり,サイドスリットのあるものが,側面からの大きな飛び出しが起こる割合が低くなっている。

イ 被請求人の試験結果(乙2)
(ア)請求人は,乙2は,マイコン制御のオーブントースターを用いているが,マイコン制御のオーブントースタは,本件発明の想定していない機器である旨主張する。
本件明細書には,従来,膨化による噴き出しを恐れ「付きっきりで頻繁に餅をひっくり返しながら焼かなければならなかった。」こと,「古来のように火鉢で餅を手元に見ながら焼く場合と異なりオーブントースターや電子レンジなどで焼くことが多い今日では,このように頻繁にひっくり返すことは現実なかなかできず,結局この突然の噴き出しによって焼き網を汚してしまっていた。」(段落【0003】)ことが記載されている。オーブントースターは,マイコン制御,非制御を問わず,上下面にヒーターを備えており,餅は上下面から同時に加熱されることから,ひっくり返す必要がないものであり,本件発明が,マイコン制御のオーブントースターを想定していないとすることはできない。
また,甲1の図3のガスコンロで焦げないようにひっくり返しながら焼いた場合と,甲41の図1のマイコン制御のオーブントースターを用いた場合の餅の表面温度の変化を比べると,両者は,温度が上下に振れている点で似ているが,ガスコンロで焼いた場合は,ひっくり返した直後に表面温度が高く,次にひっくり返すまで温度が下がることを示しているものであり,一方,マイコン制御のオーブントースターで焼いた場合は,庫内温度が設定した温度(230℃)になるように,ヒーターが自動的に制御されたことを示しているものであり,単に,似たような温度変化であるから,マイコン制御により,ひっくり返しながら焼いた状態となり,噴き出しが抑制されるとすることはできない。

(イ)乙2は,マイコン制御のオーブントースターの説明書に従い230℃,4分30秒,餅を横置きして,サイドスリット餅及びサイドスリット無し餅を焼き上げた実験結果を示したものであり,餅はいずれも製造から約2ヶ月経過したものを用いている。
そして,上下方向の膨化量の平均は,サイドスリット無し餅が16.18mm,サイドスリット餅が18.75mm(4頁表1),上下方向からみた餅の投影面積の平均は,上面からの場合,サイドスリット餅が29.1cm^(2),サイドスリット無し餅が31.34cm^(2),底面からみた場合,サイドスリット餅が30.05cm^(2),サイドスリット無し餅が31.31cm^(2)(5頁表2)であることが示されている。
この結果から,サイドスリット餅はサイドスリット無し餅より,上下方向の膨化が約2mm大きく,投影面積の平均は,上面からみた場合サイドスリット無し餅が,サイドスリット餅より約2cm^(2)大きく,底面からみた場合サイドスリット無し餅が,サイドスリット餅より約1.3cm^(2)大きいことから,サイドスリットにより,上下方向の膨化が高まり,横方向の膨化は抑制されているといえる。
また,審理事項通知に合議体の見解として記載した,乙2の「実験写真集」の餅について,餅が焼き網へ垂れ落ちるほど噴き出しているものを,餅の辺部分(角とみえる部分を結んだ直線)から,上面又は底面の写真のいずれかに2cm以上の飛び出しがみられるものとして(なお,2cmという基準については,具体的な根拠はないが,写真を見て,噴き出した餅が焼き網へ垂れ落ちるであろうと見えるものと,おおよそ一致する。),その数を数えた結果は,スリット餅が21個に対して,サイドスリット無餅は51個であり,サイドスリット餅の方が噴き出しが抑制されることを示す結果となった。このことは,被請求人が示した,横方向の膨化は抑制されるという結果と矛盾するものではない。
(なお,乙2の写真から2cm以上の飛び出しがみられたとしたものは,以下のとおりである。
スリット餅:A7,A14,A30,A32,A43,A65,A66,A79,A97,A116,A122,A128,A139,A140,A143,A147,A153,A158,A163,A179A198の計21個
スリット無し餅:B2,B3,B6,B7,B14,B16,B17,B19,B21,B28,B37,B40,B42,B47,B50,B54,B58,B59,B64,B66,B68,B71,B74,B78,B79,B85,B89,B91,B93,B100,B101,B102,B117,B131,B139,B140,B143,B148,B150,B151,B152,B157,B160,B167,B168,B171,B172,B174,B182,B194,B200の計51個)

そして,市販の餅の品質及び家庭における保存状態や,焼き上げる際に用いる機器の種類にバラツキが大きいことが避けがたいことを考慮すると,焼き上げた際の効果にある程度のバラツキが生じることを許容するのが相当といえ,以上の実験結果は,スリット餅は,上下方向に膨化し,横方向への膨化が少なく噴き出しが抑制されることを示しているといえるから,上記(1)に記載した,本件明細書から理解できる本件発明の構成と目的とする作用効果の関係に,一定の具体性と客観性があることを裏付けているといえる。

ウ 以上のことから,本件発明の,切り込みを設けることで,切り込みの上側が下側に対して持ち上がって,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に,膨化した中身が,サンドされている状態に膨化変形することで,膨化による外部への噴出しを抑制するという構成は,発明の詳細な説明に当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(6)実施可能要件のまとめ
以上のとおり,本件特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから,特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきもの,とすることはできない。

3 無効理由2の2(発明未完成)について
上記「2 無効理由2の1(実施可能要件)について」に記載したとおり,切り込みと構成Dとの間には,一定の因果関係が有り,構成Dは餅を焼いた際の実態に即したものであるから,自然法則を利用した技術思想の創作である発明といえ,本件発明を「非発明」であるか,発明として完成していないとすることはできない。
したがって,本件発明は,特許法第29条第1項柱書の発明に該当しないから,特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきもの,とすることはできない。

4 無効理由3(進歩性)について
(1)引用発明1及び引用発明2からの容易相当性について
ア 甲6記載の発明(引用発明1)
特開平6-165121号公報(甲6)には,以下の事項が記載されている。
(ア)「切り餅(1)の切り込み部(2)に切り込みを入れ,残存部(4)を設けた事を特徴とする手欠き切り餅。」(【請求項1】)であり,
「本発明は,切り餅を食べる用途に応じて,刃物を用いず手で簡単に小割する事が出来る様に,あらかじめ刃物で切り込みを入れた切り餅に関する物である。」(【0001】)こと,
(イ)「従来,切り餅1個の形状は標準的に4cm×7cmの長方形で厚さは.1.5cm程度」(【0002】)であること,
(ウ)「本発明は切り餅(1)に残存部(4)を設けて,切り込み部(2)に切り込みを入れた事によって,接続断面が減少して,残存部(4)が残存面(5)の形状となり,手で簡単に小割する事が出来る上に,切り餅(1)の大きさでも良い。最小形態は,小割餅サイコロ(7)で小割餅スティック(8)の形状にも出来,食べる用途に応じて小割する事が出来る。」(【0005】)こと,
(エ)「残存面(5)がかけた状態を示すのが,切り欠き面(6)」(【0010】,【0011】)であることが記載されている。
(オ)また,図4の側面の周方向に一周連続した「切り欠き面(6)」,図5の側面の対向した長辺の「切り欠き面(6)」は,いずれも「残存面(5)がかけた状態」であり,図2の「残存面(5)」の形状,及び図4,5の「切り欠き面(6)」の形状から,帯状の粗面をなしているといえる。
(カ)
【図1】手欠き切り餅斜視図


【図2】切り込みの断面図


【図4】小割餅サイコロの斜視図


【図5】小割餅ステイックの斜視図



(キ)そして,切り込み部のどこで切り欠くかは任意であるから,小割餅体の形状は,サイコロやステイックに限られない。

以上のことから,甲6には,以下の引用発明1が記載されていると認められる。
「焼き上げて食する輪郭形状が方形の切餅を切り込みに沿って欠いた小片餅体であり,この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面には,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一の切り欠き面が一周連続して形成された小割餅体」及び
「焼き上げて食する輪郭形状が方形の切餅を切り込みに沿って欠いた小片餅体であり,この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面の対向二側面に切り欠き面をが形成された小割餅体」

ウ 甲7記載の発明(引用発明2)
特開平8-140579号公報(甲7)には,以下の事項が記載されている。
(ア)「膨らみ防止手段を設けた背中部分と膨らんだ腹部分とからなる魚を模したおかき」(【請求項1】)であって,
(イ)「餅米を主原料とし」(【0002】),
(ウ)「膨らみ防止手段を設けた背中部分形成用素地を拵えるのであるが,この膨らみ防止手段は・・・後述する型抜き時に切れ目を入れたりして行うのである。」(【0007】)こと,
(エ)「こうして形成されたおかき素材を焼き上げると,膨らみ防止手段を設けてある背中部分は賞味物のため膨れが少なく,また切れ目を入れたものでは水蒸気等が切れ目から放出されるために膨らみが少なく,一方,膨らみ防止手段を設けてない腹部分形成用素地はふっくらと膨らみ,その形状はフグのように腹の部分が大きく膨れた状態に焼き上がる。」(【0009】)こと,
(オ)「膨らみ防止手段3としてこうした賞味物に代えて・・・フグの型抜きをする際に図2中符号11で示すように複数の切れ目をつけて膨らみ防止手段3を形成することもできるのである。即ち,切れ目を付けた場合には膨らもうとする空気をこの切れ目11から外方に放出することにより当該部分が膨らむのを防止することができるのである。」(【0014】)ことが記載され,
(カ)図2には,帯状の素地1の両側に,賞味物5,6による膨らみ防止手段3,切れ目11を設け,魚の形に型抜きしたものが記載されている。
【図2】




これらの記載事項から,甲7には以下の引用発明2が記載されていると認められる。
「餅米を主原料とする魚を模したおかきにおいて,餅を魚の形に型抜きをする際に,魚の背中部分に複数の切れ目を付け膨らみ防止手段としたおかき」

オ 対比・判断
本件発明1と引用発明1とを比較すると,本件発明1の「一若しくは複数の切り込み部又は溝部」と,引用発明1の「切り欠き面」は,側周表面にある部分である点で共通するとして,両者は,焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体の載置底面又は平坦上面ではなく,この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する部分であって,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した部分を有する餅である点で一致し,以下の相違点がある。

(相違点1)
小片餅体が,本件発明1は「切餅」であるのに対して,引用発明1は,切餅を切り込みに沿って欠いた小割餅体である点。
(相違点2)
焼き上げる方法が,本件発明1では,「焼き網に載置して」行うのに対して,引用発明1では,焼き網を用いることを規定していない点。
(相違点3)
側周面に,本件発明1では,「切り込み又は溝部」が設けられているのに対して,引用発明1では,「切り欠き面」を有する点。
(相違点4)
本件発明1が,「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した」ものであるのに対して,引用発明1は,このような構成を規定しない点。

そこで,上記相違点について検討する。
(相違点1について)
引用発明1は,切り餅を欠いた小割餅体であり,これを欠く前の元の切り餅とする動機付けはなく,引用発明1の小割餅体を欠く前の切り餅とすることが,当業者が容易になし得たとはいえない。

(相違点2について)
餅を焼く際に,焼き網を用いることは,本件出願前より,ごく普通に行われていたことであるから,引用発明1を焼き上げる際に,焼き網に載置することに何ら困難性はない。

(相違点3について)
引用発明1の「切り欠き面」は,切餅の残存部を,切り込み部に沿って手で欠いた際に,自ずと生じる切り欠き面であるから,これを,例えば切り刃等により,積極的に設ける「切り込み又は溝部」に代える動機付けは,技術常識を考慮してもない。
そして,本件発明は,噴き出しを抑制する効果が奏されるように,切り込みの長さ等を調整することができるものであるが,引用発明1は,欠いた際に自ずと生じる切り欠き面であるから,切り欠き面の性状を人為的に調整することは不可能であり,噴き出しを制御する効果を奏するように調整することもできない。
請求人は,引用発明2について,切れ込みを側周表面に設けたものであり,引用発明1の切り欠き面を切り込み部に置換することが容易であると主張するが,引用発明2は,上記図2にあるように,魚の型抜きと同時に帯状の餅素地(1)の両側に切れ目(11)を設けたものであり,切れ目は上下面に設けられており,請求人が主張するように,側周表面に設けたものでない。さらに,引用発明2は,切れ目を設けた部分が膨らむのを防止し,切れ目を設けない部分を膨らませ,魚の形に似せるものであり,引用発明1とは目的を異にしており,引用発明2からも,引用発明1の「切り欠き面」を,「切れ目」(「切り込み又は溝部」)に代える動機付けは,技術常識を考慮してもない。
したがって,引用発明1の「切り欠き面」を「切り込み又は溝部」に代えることを,当業者が容易になし得たとすることはできない。

(相違点4について)
引用発明1は,「切り欠き面」を有するが,「切り込み部又は溝部」を有さないから,焼き上げた際に,切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がることはない。
そして,上記相違点3について検討したように,「切り欠き面」を,「切り込み部又は溝部」とすることが容易想到でない以上,相違点4に係る構成が,引用発明1から容易に想到し得たとすることはできない。
以上のとおり,本件発明は,引用発明1及び2に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(請求人の主張について)
請求人は,口頭審理陳述要領書(55頁)で,引用発明1の認定に,「切り餅を手で欠いた」といった構成を加えることは許されないとするが,甲6には,「本発明は,切り餅を食べる用途に応じて,刃物を用いず手で簡単に小割する事が出来る様に,あらかじめ刃物で切り込みを入れた切り餅に関する物である。」(【0001】)と記載されており,手で欠く前の餅が「切り餅」であり,引用発明1は,手で欠いた後の餅を認定したものであり,「切り欠き面」が,刃物を用いず手で欠いた際に生じる面であることを特定するために,「切り餅を手で欠いた」という構成は,甲6に記載の発明を認定するのに必要なものであるから,請求人の主張は採用できない。
また,引用発明1の小片餅体は,大小を問わない旨主張するが,引用発明1の小片餅体は「切り餅」を割ったものであるから,少なくとも,切り餅よりも小さいことは明らかであり,引用発明1の小片餅体とは,切り餅を割ったものである点で,本件発明の「切餅」と相違することは,上記相違点1に記載したとおりである。
また,引用発明2の認定について,甲7には,切れ目(11)を,素地(1)の両端に入れることが図2に示されているだけであり,側周面に切れ目を入れることは記載も示唆もなく,さらに,切れ目を入れた部分は膨らまないことが記載されていることから,切り込みから膨化する本件発明とは異なるものであり,請求人の主張(口頭審理陳述要領書58?59頁)は採用できない。

(2)引用発明1及び引用発明3からの容易相当性について
ア 被請求人は,引用発明3に基づく無効審判請求は,確定した審決において請求人が主張した同一の事実及び同一の証拠に基づいたものであり,一事不再理に該当する旨主張するが,確定審決では,引用発明3に相当するものを主引例とした請求理由に対する判断が示されたものであるのに対して,本件では,引用発明3を副引例としたものである。
したがって,本件無効審判請求が,一事不再理に該当するとすることはできない。

イ 引用発明3
甲8の事実実験の対象物Aの切り餅「こんがりうまカット」(以下,「餅A」)は,原事実実験(甲9)の対象となった,20個の切り餅のうち,原事実実験で個包装を開封したものでかびの増殖が激しくスリットを確認できない1個を除く19個の「切り餅」と認められ,そのうち1個が甲10として提出されている。
「餅A」(引用発明3)は,甲8の記載及び甲10からみて,
「直方体の切餅であって,その最も広い面であり上側及び下側に位置する上面及び下面に,十文字の切り込みが施され,上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部の上下方向のほぼ中央あたりに,長辺部の全長にわたり切り込みが施された切餅」と認められる。

ウ 対比・判断
引用発明3が,請求人が提出した証拠に基づいて,本件出願前に公然知られたものとすることができないことは,下記(3)で記載するとおりである。
また,仮に,引用発明3の公知性が認められることがあったとしても,上記(1)オに記載したとおり,引用発明1の切り欠き面を切り込み部に代える動機付けはない。
そして,引用発明3は,側周表面に切り込みを設けたものではあるが,引用発明1とは,発明の目的を全く異にするものであるから,引用発明1の切り欠き面を引用発明3の切り込みに代える動機付けはなく,引用発明1の「切り欠き面」を,引用発明3の「切り込み」に代えることは,当業者が容易になし得たとすることはできない。

したがって,本件発明は,引用発明1及び3に基づき,或いは引用発明1ないし3に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)「餅A」(引用発明3)の公知性について
ア 「餅A」の製造時期について
甲8の事実実験公正証書には,対象物Aが,甲9の事実実験で開封し,実験後,袋に封緘したものであり,その外袋に「賞味期限2003.10.17」と示されていることが記載され,写真11,19は,対象物Aの外袋の下部に,2003.10.17と印字されていることを示している。
また,甲8には,対象物Bは,「賞味期限2003.10.17」と外袋に印字された「こんがりうまカット」,対象物Cは,「賞味期限2007.11.23」,「2006.11.24製造」と外袋に印字された「ユーコープ切り餅」,対象物Dは,「賞味期限2010.3.17」,「2009.3.18製造」と外袋に印字された「ユーコープ切り餅」,対象物Eは,2012年4月17日購入で「賞味期限2013年5月CN」と記載された切り餅であることが記載されている。
また,甲8(別表I,II)には,対象物A,CないしEの重量及び色の測定を行った結果,対象物Aの色差の値が最も大きく,CないしEとなるに従って,値が小さくなること,重量は,対象物Aが最も軽く,CないしEとなるに従って重くなることが示されている。
甲11は対象物Aの切り餅である「餅A」の製造時期についての鑑定書,甲12は鑑定に使用した餅の弾性率の測定結果報告書であり,鑑定書は,甲8事実実験の対象物Aと同一のものと認められる「餅A」,対象物CないしEの切り餅である餅CないしEについて,外観,色,臭い,触覚的しなやかさ,包丁入り具合,断面,及び弾性率を比較し,「餅A」は,最速でも2年経過,保管条件が温度変化と高温を避けた場合,経験的に5倍以上遅延するので,餅Aは製造から少なくとも10年経過した餅であるとの結論が記載されている。
甲13は,外袋が未開封の製造年月日が異なる切り餅について,保管期間による餅の色調及び重量変化について,外袋を開封しないで調査した結果が記載され,保管期間が長くなると,色調が濃くなり,重量が軽くなる傾向が示されている。賞味期限2003年10月17日(製造年月日2002年10月18日)と表示された「こんがりうまカット」が,製造年月日2002年5月31日と表示されたのものと,同2003年8月20日と表示されたのものの間の色調と重量であることが記載されている。
上記の甲8ないし13の記載を総合すると,餅の色調及び重量から賞味期限2003年10月17日(製造年月日2002年10月18日)と表示された「餅A」が,製造年月日2002年5月31日と2003年8月20日の間に製造されたものであるとするのが相当であり,「餅A」の賞味期限の表示が誤っているという特段の証拠はなく,この賞味期限から,「餅A」の製造年月日が2002年10月18日とするのが相当といえる。なお,賞味期限が,製造年月日から1年ということについて争いはない。

イ 甲8の事実実験公正証書のレシートについて
(ア)甲8には,平成14年10月21日イトーヨーカドー新潟木戸店において対象物A及びBを購入した当時のものとするレシートの原本が提示されたことが記載され,レシートには「2002年10月21日(月)10:25」,「サトウ 切餅(2ヶ×@798)」「小計/2点 ¥1,596」等と記載され,台紙の右側スペースに「試食サンプル商品購入代金」と手書きされていることが記載され,そのコピーが添付されている(別紙IV)。
しかしながら,上記レシートで購入した餅と,対象物A及びBとの関係を直接的に証明する証拠,すなわち,購入したものを10年近くにおよび保管していたことを示す証拠やその保管したものを持ち出した証拠(例えば,購入した餅の保管状況を示す日付等の記載された帳簿や写真,公証人役場に持ち込む前の保管された場所における現状保存等)はないため,甲8から,直接的に「餅A」の公知日を特定することはできない。

(イ)対象物A及びBの保管について,佐藤食品工業(株)開発課課長渡辺今日子氏の陳述書(甲14)を検討する。
a サンプルの保管について,研究室が賞味期限印字済みの商品をサンプルとして抜き取ることはほとんどなく,賞味期限内のものは,クレーム対応のため工場でサンプルを残し,廃盤商品についてはその時点で研究室が保管していたが,平成14年ころまでは,廃盤品が整理された形で保管されていなかったため,スリットを入れた餅という,これまでにない餅の表面に加工を加えるというもので,これを機に,商品の記録として,整理して保管しておこう,ということになったことが記載されている。
b 平成14年10月21日に「こんがりうまカット」を購入したことについて,餅の表面に加工を加えたこれまでにない商品なので,自ら最寄りのイトーヨーカドー購入したこと,購入の理由は,流通過程で餅が割れていないか,「割れ」の確認のためで,外装を開けずに割れのないことを確認でき,買ったままの状態で保管したこと,「試食サンプル商品購入代金」として経理に申請したのは,商品購入は通常他社製品の購入の場合であり,これと同様に記載したことが記載されている。
c 購入した「こんがりうまカット」の保管の経緯について,サイドスリットが一旦中止され,サイドスリットが2本にバージョンアップされることとなったので,1本サイドスリットの「こんがりうまカット」が廃盤となり,記録として保管するのであれば,実際に販売された賞味期限の表示のあるものがよいということで,購入した2袋の「こんがりうまカット」が保存されたことが記載されている。
d 以上の記載から,「こんがりうまカット」購入の目的は,割れの確認であるとしながら,外袋を開封して確認していないことは,甲8の写真17,18から,対象物A及びBの外袋が,両面とも比較的透明部分が多く中が見やすいとしても,外袋内で重なり合った餅の全ての面を確認する事は難しいといえ,購入の目的を考えると,敢えて2袋とも開封しないというのは不自然である。また,長期保管の理由は,1本サイドスリットの「こんがりうまカット」が廃盤となり,記録として保管したというものであるが,保管状況を示す日付等の記載された帳簿すらなく(企業内でサンプルを保管する際に,記録を残さずに置いておくと言うことは考え難い),「餅A」と,上記レシートから購入したとされる餅との関係は明らかでない。
したがって,甲14を考慮しても,「餅A」が,2002年10月21日に販売されたものであるとすることはできず,その公知日は特定できない。

ウ 賞味期限が2003年10月17日と表示された「餅A」が製造されるに至る経緯について
(ア)「こんがりうまカット」の研究開発に関する証拠
平成14年2月28日の佐藤食品工業社内プレゼン資料(甲16)には,「焼き調理性に優れた餅→餅に切り込みを入れる」,「食べやすさを高めた餅→餅に切り込みを入れる」と記載されているが,この時点で,切り込みを入れる部位については提案されていない。
開発初期のスリットの部位について,2002年5月17日のイトーヨーカドー食品加工部に対するプレゼン資料(甲46)の写真から上下面に十字の切り込みがあることが見て取れるが,サイドスリットは確認できない。
サイドスリットを入れることになった経緯について,赤塚昌一陳述書(甲15)には,サイドスリットを入れることが検討され始めたのが6月下旬で,工場で実機を使って十字の切り込みを入れたサンプルを作るようになってから,うまく焼けなかったことから,研究所に,補助的にサイドスリットを入れることを指示し,その装置の作成と効果の検証を指示したことが記載されている。そして,効果の検証について,7月5日のスリット深さの試験についての報告書(甲17)では,スリットは上下面十字であり,その深さを変えて試験を行っており,サイドスリットの効果の検証が行われたのは,甲20ないし22に示されるように8月8日以降である。
サイドスリットについて最初に記載された証拠は,7月18日の開発部打合せ・会議記録シート(甲18)であり,7/29のIY鈴木社長(大森事業部長)へのスリット餅のプレゼン用サンプルにサイドスリットが必要か,7/23に実演試食し社長に判断してもらうことが記載されている。平成13年7月23日(当審注:甲18の記載内容から,平成14年の誤記といえる。)の開発部打合せ・会議記録シート(甲19)には,社長が参加し,サイドスリット入り餅の調理実演をした記載があり,決定事項欄として「ボールフィーダ後にサイドスリット工程を追加する。(追って,稟議書を出す)」,「微生物制御に問題がなければ,絵入で説明するのが好ましい(社長)→上面に「スリット入り」の文字と絵,プラマークを入れる,下面は無地」と記載されている。そして,甲24の添付資料3として,サイドスリット装置1台の見積書(山由製作所,7月22日付け),甲25として,7月23日起案のサイドスリット装置設置の稟議書がある。
8月8日,19日,26日のサイドスリットの試験報告書(甲20ないし22)は,十字スリット及びサイドスリットの深さを変えて実験しており,甲22には,十字スリットとサイドスリットのばらつきと,餅の厚みと幅のばらつきについて,落下試験使用サンプルとして8月30日に製造されるスリット餅で測定するとされている(なお,8月30日製造の餅を測定した証拠は提出されていない)。

(イ)「こんがりうまカット」の生産設備・生産についての証拠の検討
サイドスリットカッターの発注,設計・製作,納品について,渡辺幸雄((株)山田製作所社員)陳述書(甲24)には,佐藤食品工業(株)から,2002年7月19日に発注を受け(甲24添付資料2),図面(添付資料1,日付H14.7.19,H14.7.30,H14.8.12)を作成したこと,7月22日に見積書(甲24添付資料3)を提出したことが記載されている。納品書(同添付資料5)には9月30日に10台納品したことが示されているが,白井篤博陳述書(甲44)によるとこの納品日は必ずしも実際の納品日でない。
そして,上記(ア)に記載したとおり,甲19の7月23日の会議議事録には,決定事項として,「ボールフィーダ後にサイドスリット工程を追加する。(追って,稟議書を出す)」と記載され,甲25のサイドスリット装置設置のための7月23日起案の稟議書がある。
甲26は,取得年月を14年9月とするサイドスリット装置10台が記載された新発田工場の償却資産申告書である。甲27は,平成23年12月5日に佐藤食品工業(株)新発田第二工場における,サイドスリット装置の検分の報告書であって,サイドスリット装置が,ボールフィーダの後に設置されていること,取得年月日:平成14年9月1日のサイドスリット装置No.1?No.10,取得年月日:平成15年9月1日のサイドスリット装置No.1?No.10と印字された固定資産シールが示されている。
一方,白井篤博陳述書(甲44)には,サイドスリット装置10台が,サイドスリット餅の製造を開始したとされる10月16日より前に,設置され,サイドスリット餅を製造可能な状態であったかについて,2002年8月10日頃サイドスリット装置1台を先行納品し,残り9台はお盆休みにベース溶接し順次設置,先行納品の1台で試行すると不具合で試行錯誤したこと,9月25日に取り付け用ステーを設置し10台そろった装置を設置しようとしたが持ち帰り調整したこと,10月11日に最終型が納品され,電気配線をして設置し,10月16日の初回生産にこぎつけ,3日間製造したこと,その後も手直し必要で,10月中に浮き上がり防止ガイド設置したことが記載されている。
渡辺幸雄陳述書(甲24)の添付資料4には,製造No.別(加工明細書) 受注No.K07245 品名No.K072450101 サイドスリットカッターテスト機 数量1として,8/20,9/25に現地加工,9/26に段取り,加工(その他),タップ加工,フライス加工,修正加工,旋盤加工,10/07に組立(機器)を行ったことが示されている。
白井篤博陳述書(甲44)でいうように,9月25日に持ち帰り,9月26日に調整,10月7日に組立を行い,10月11日に最終型が納品されたとしても,その後10台について設置され,大量のサイドスリット餅の製造が可能な状態に調整されたことを示す証拠はなく,3日間(10月16日?18日)の製造後も手直し必要で,10月中に浮き上がり防止ガイド設置したとされていることを考えると,浮き上がり防止ガイドが設置されない状態の10月16日?18日の製造において,サンプル程度の生産であればともかく,生産依頼書(甲28)に記載されたこの3日間の出来高合計8249ケースもの,商品としてIYで販売することが可能なサイドスリット入りの餅が製造できたとは考え難い。
また,倉田恵子(佐藤食品工業(株)の派遣社員)の陳述書(甲30)には,平成14年8月から12月まで新発田第2工場で働き,平成14年10月18日に,サイドスリット装置の清掃中に丸刃で指に切り傷をしたことについて,不休災害記録,タイムカード等とともに示されており,10月18日に1台のサイドスリット装置が清掃される状態にあったことが認められ,これ以前にそのサイドスリット装置が使用され,餅が製造されたといえるが,浮き上がり防止ガイドなしに,商品となる大量のサイドスリット餅の製造が可能とは考え難いことは,上記のとおりである。
同陳述書には,当時新発田工場では,切り込みの入った餅を製造するときと,切り込みの入っていない餅を製造するときの両方があり,切り込みの入った餅を製造するときは,フィーダーのコンベア上に側面に切り込みを入れる装置が取り付けられていたとし,自分が出勤した日のうち何日間か,サイドスリット装置で側面に切り込みを入れた餅を作ったとしているが,サイドスリット装置を取り付けたり外したりして,サイドスリット有り及び無しの餅の両方が製造されていたとされており,勤務した平成14年8月から12月までの間に,「こんがりうまカット」が製造された期間は,赤塚昌一陳述書(甲15)から,10月16日?18日,10月29日?30日,11月6日?7日,11月15日?16日であることから,サイドスリット装置を取り付けた状態で生産をしていた時期が,上記製造期間のいつであるかは定かでない。

(ウ)イトーヨーカドーとの関係に関する証拠についての検討
平成14年5月17日のイトーヨーカドー食品加工部に対するプレゼン資料(甲46)には,スリット或いは切り込みと言った記載はないが,「焼き調理性に優れた餅」として餅を焼いた写真が示され,上面に十字の切り込みが見え,「食べやすさを追求した餅」として,焼いた餅を手でひっぱった写真が示され,切り込みから分割していることが見て取れ,「使用用途を追求した餅」として,焼く前の切り餅を手で4つに割ったことが見て取れる。これらのことから,上下面に十字の切り込みがあるといえ,この日にイトーヨーカドー(以下,「IY」という。)に提案した餅は,上下面にのみ十字の切り込みのあるものといえる。
平成14年7月18日起案の稟議書(甲47)は,起案者津野潤一郎となっており,7月17日に,IY大森食品事業部長,福井食品加工部BY(餅担当)らに「新NB切り餅(スリット入り)」の試食試験を実施したことが報告されている。試食結果として,提案内容を十分理解してもらえたこと,新NB切り餅の評価が高かったことが記載され,今後の対応として,IY食品事業部としては新提案NB切り餅採用の方向であること,IY鈴木社長の了解を得る方向で動くことが記載されている。また,7月29日に実サンプル,商品デザイン内容,商品説明提案書のIY鈴木社長への提出の要請を受けたことが記載されている。
そして,7月17日の試食試験のサンプル「新NB切り餅(スリット入り)」の「スリット」は,上記(ア)に記載のとおり,甲19から,佐藤食品工業でサイドスリットを入れることを決定したのが7月23日であることから,サイドスリットが入っていないとするのが相当である。
平成14年8月5日の報告書(甲48)に,7月29日にIY大森部長へ,実サンプル,商品デザイン内容,商品説明提案書の提出がなされたとされている。このサンプルにサイドスリットが入っていたかについて,上記のとおり,甲47から,7月17日時点でIYが認識したと考えられるのは十字スリットのみであるといえることから,IYが了承した内容が,サイドスリットがないものであること,7月29日にIYに提出された商品説明提案書にサイドスリットの説明があったことは確認できないことから,サイドスリット入りの商品試作サンプルを提出するとは考え難く,甲47で,IYが十分理解したとされる提案内容に,十字スリットだけでなく,サイドスリットについて含まれるとするに足る証拠はない。
さらに,甲48報告書には,IY大森食品事業部長以下食品事業部内の了承は得ており(甲47から7/17の試食プレゼンに基づく了承であり,サイドスリットが入っていないといえることは上記のとおりである),7月29日にIY側へ,当社提案書・商品試作サンプル・デザイン内容を提出しており,当社提出内容と別紙IY社内文書をIY鈴木社長に提出し最終承認をもらう方向であることが記載されている。そして,別紙のIY社内文書には,佐藤食品工業(株)提案内容として,「・機能性の向上。*真中からふっくらと,きつね色の焼くことが可能。*食べやすさの向上(バランス良く分割可能)*様々の調理に合わせられる機能を持つ」と記載され,甲46のプレゼン資料に上下面十字スリットと見える写真とともに記載された内容と合致するものであるが,サイドスリットについては記載がない。
平成14年10月8日の報告書(甲50)には,IY大森食品事業部長よりの要請として,今回発売の正式販売サンプル(こんがりうまカット)を21日発売前に用意してほしいこと,大森氏が販売前にIY鈴木社長へ本サンプルを提出と合わせて販売の最終報告を行うこと等の目的であること,大森氏は鈴木社長が販売否定の指示を出さなかったことは承認であるとの見解ととらえていることが記載され,本サンプルを鈴木社長に提出し,実質的な最終承認となるものと考えていることが記載されている。また,IY岩垂シニアの「大森事業部長の指示はあったが,鈴木社長の最終承認はまだとの意識」があり,チラシ掲載が見送られたことが記載されている。
2001年10月31日(当審注:記載された内容からみて,2002年の誤記といえる。)の報告書の販売速報(甲52)に,「良報! イトーヨーカド堂 鈴木社長 当社「こんがりうまカット」を承認される。10月31日福井BYより確認。 イトーヨーカドー新店(千葉・八千代店)の10月29日オープン前に,鈴木社長の店内視察が行われたとのこと。この際,食品売場エンドで当社「こんがりうまカット」を手に持ち,自ら回りにいた社内広報担当に商品説明を行い「みなもすぐに買って食べてみるように」との指示を出したとのことでありました。福井BYは,間違いなく承認しており問題はないとの見解でありました。」と記載されている。
以上を整理すると,5月7日のIYへのプレゼン(甲46)は十字スリットが提示されただけであり,7月17日に提出したサンプルにサイドスリットが入っていたとは考えられず,7月29日にIYに提出したサンプルにサイドスリットが入っていたとする証拠はなく,その他,佐藤食品工業の説明等により,IY側がサイドスリットについて認識をしたとするに足る証拠はない。そのうえ,佐藤食品工業(株)が,IY鈴木社長が承認したことを知ったのは,「こんがりうまカット」販売初日10月21日より10日遅い,10月31日であった。
また,個包装のデザインについて,赤塚昌一陳述書(甲15)には,IYから指摘,修正依頼がなく,十字スリットのみの包装フィルムを使用したことが記載されている。IYから修正依頼がなかったことは,上記のようにIYが,十字スリットについては,プレゼン(甲46)や試食サンプル(甲47)で認識しているものの,サイドスリットについては提案を受けたことを示す証拠がなく,認識していなかったとすれば納得できる。また,佐藤食品工業(株)社長 佐藤充氏(平成14年当時は経営企画室長,営業担当)の陳述書(甲63)開発部の人から,サイドスリットは補助的なものという説明を受け,開発部が製造工程を増やすため非常に否定的な見解を述べていたこともあり,重視していなかったことが記載されている。
しかしながら,サイドスリットが,佐藤食品工業社内で重視されなかったしても,商品の表示と内容が異なることは,消費者を欺くこととなるし,表示にないスリットは傷ともとられかねず,製造者及び販売者にとって大きなリスクとなりかねないことであり,常識的に考えられない。(なお,前訴のIY福井バイヤー証言(乙18,8頁)で,フィルムの図にサイドスリットがなく,中身の切餅がサイドスリットが入ったものであることはあり得ないとしている。)

以上,IYへサイドスリットの提案がなされてたとすることができず,IYは,十字スリットについては認識していたといえるが,さらにサイドスリットが入ることを認識していたとすることができない状態の下,IY鈴木社長の承認が必要である事案とIY及び佐藤食品工業が認める中,10月31日に佐藤食品工業が承認を確認する前の10月16日から18日に,IYで販売に当てる商品として,IYが認識している十字スリットのみの餅を生産するのであればともかく,IYが認識していたとはいえないサイドスリット入りの餅を大量に製造したとは考え難い。

(エ)「こんがりうまカット」の出荷・販売についての証拠の検討
上記のとおり,10月18日に製造され,IYで販売された「こんがりうまカット」にサイドスリットが入っていたとすることができないが,出荷・販売についての証拠も一応検討する。
甲51は,製造管理表(日報)であり,平成14年10月18日に,こんがりうまカットの出来高が2849ケースと9袋,出荷が2689ケース,前日算247ケース,本日残が2394ケースと9袋であることが記載されている。一方,甲28の生産依頼書には,出来高報告の欄に,賞味15日:2566ケース,16日:2920ケース,17日:2763ケース 日無:81ケースであることが記載され,賞味期限17日が,製造日18日に対応することから,甲51で,18日の出来高が2849ケースと9袋とするのに,甲28では,2763ケースとなっていて一致していない。仮に、日無を18日に製造したとしても,合計2844ケースであり一致しない。そして,18日出荷高については,主に前日残のものを出荷したのか,18日製造のものを出荷したのか明らかでない。そして,サイドスリットについては,一切記載がない。
甲52は,2001年10月31日(当審注:記載された内容からみて,2002年の誤記といえる。)の津野潤一郎の報告書であって,IYで10月21日より販売された「こんがりうまカット」の,21?27日の販売個数や金額等の結果についての報告が記載されているが,サイドスリットについては,一切言及されていない。
甲31?33は,「サトウの切り餅」と包装に記載された商品が,イトーヨーカドー横浜別所店の店頭に置かれている写真('02.10.25とされる)であるが,これらの商品にサイドスリットが入っているかは確認できない。
甲34は,木村金也氏((株)きむら食品)の陳述書であって,平成14年10月にイトーヨーカ堂で新商品を出してまもなく,社員が新商品を購入し,送ってきた実物に,切り込みが,上下面の十字と,側面のうち長手面に1本ずつ入っていたと記載しているが,10月に購入したかどうかすら判然とせず,購入月日は不明である。
甲35は,樋口元剛(たいまつ食品(株))の陳述書であり,上下面に縦横の切り込みがあり,側面の長辺にも切り込みがあった餅について記載しているが,この餅の購入月日は不明である。
そして,「こんがりうまカット」の製造期間が,10月16日?18日,10月29日?30日,11月6日?7日,11月15日?16日あることから,甲34,35で購入したとする餅が,どの期間に製造されたか不明である。

(オ)平成14年9月6日の特許出願(上下面十字スリット)及び平成15年7月17日の特許出願(上下面十字スリット及びサイドスリット)の出願に至る経緯について
被請求人は,両出願がいずれも,「こんがりうまカット」の開発に携わったを赤塚昌一氏を発明者とするものであり,「餅A」が販売されたとされる平成14年10月21日より前の9月6日の特許出願にサイドスリットがなく,平成15年9月1日の上下面及び側面にスリットのある「パリッとスリット」の発売前の同年7月17日の特許出願にサイドスリットが有り,この出願について9月1日より販売する実施関連出願として早期審査に事情説明書を提出しているということから,2002年10月21日に発売された「餅A」は,上下面スリットのみでサイドスリットがなかったとするのが自然である旨主張する。
甲55,甲56,甲57の,平成14年3月22日から同年9月6日の弁理士牛木護と佐藤食品工業(株)の五十嵐義文とのやりとりに,サイドスリットについての記載はなく,佐藤食品工業で遅くとも7月18日(甲18)にサイドスリットについて検討されていたことを考えると,特許出願を行ってきた会社の特許管理としては,通常では考えられないことといえる。
これについて,五十嵐義文の陳述書(甲60)では,平成14年に特許申請時に,「当社の販売する餅に,サイドスリットがどういう理由で,いつ入ったかにつき,私がどういう認識であったか,今となっては全く思い出せません。」としており,五十嵐氏にサイドスリットについて,十分に情報が伝わっていなかったと考えられる。
また,五十嵐陳述書(甲60)には,平成15年に「パリッとスリット」を販売することになって,牛木弁理士らに相談に行き,サイドにもスリットが2本あることを説明したことが記載され,「当時の私は,平成14年10月から11月にかけて当社がサイドスリット入りの餅を販売していたということが,特許申請にあたって問題となる,ということは思いもよりませんでした。」,「サイドスリットは,入れたこともあったが,途中で一時止めていたこともあり,先ほど述べましたとおり,平成14年にサイドスリット入り餅を販売したことがあったという事実を私自身がどこまで認識していたか,定かでありません。」としている。
甲61の照会に対する甲62の牛木弁理士の回答書には,平成14年出願より前の時点で,側面に切り込みが入った切餅を販売した事実がないかにつき,やりとりがなかったこと,平成15年出願より前の時点で,側面に切り込みが入った切餅を販売した事実がないかにつき,やりとりがなかったこと,平成16年6月1日の会議の際,五十嵐氏から文書(添付資料1,2)を受領し,佐藤食品が,平成14年10月に側面に切り込みが入った切餅を販売していたとの事実を初めて知ったこと,同会議は,越後製菓の特許出願が公開されたため,佐藤食品の切餅との関係で問題が生じないかの相談であったこと,将来の無効審判請求に備えて,上記販売の事実を証明するための証拠を収集するように助言したこと,平成15年出願の早期審査に関する事情説明書の販売時期について,この会議で販売が平成15年9月であることを聴取し,五十嵐氏の訂正で9月1日として,事務的に提出したものと思われることが回答されており,出願の代理人である弁理士が,サイドスリット餅の販売について両出願時に認識していなかったことが示されている。
また,佐藤食品工業(株)社長 佐藤充氏(平成14年当時は経営企画室長,営業担当)の陳述書(甲63)には,平成14年当時経緯について報告を受け,大きなところで意見があれば言う立場であったとし,開発部の人から,サイドスリットは補助的なものという説明を受け,特に反対はしなかったが,開発部が製造工程を増やすため非常に否定的な見解を述べていたこともあり,重視していなかったことが記載されている。
両出願の時期と内容から,10月21日にサイドスリット餅を販売し公知とすることは不自然であるが,上記の陳述書から,佐藤食品工業社内で情報共有が十分でなく,サイドスリットについての認識にずれがあったことは否定できず,両出願の経緯から,10月21日にサイドスリット餅が販売され公知になったか否かは不明と言わざるを得ない。

エ 公知性のまとめ
以上(ア)?(オ)を総合しても,平成14年10月18日に製造され,同月21日以降に,イトーヨーカドーにおいて販売された「こんがりうまカット」にサイドスリットが入っていたとすることはできず,「餅A」が,上記「こんがりうまカット」と同一であるとすることはできない。
したがって,引用発明3は,本件特許出願前に公然知られた又は公然実施されたものとすることはできない。

(4)まとめ
以上のとおり,本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反するものでなく,特許法第123条第2項第号に該当し無効とすべきもの,とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本件請求項1及び2に係る発明についての特許は,特許法第36条第4項,第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしており,第29条第1項柱書きの規定に違反してなされたものでなく,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものでないから,特許法第123条第1項第2号または第4号に該当し無効とすべきもの,とすることはできない。
また,審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-08 
結審通知日 2013-02-14 
審決日 2013-03-06 
出願番号 特願2002-318601(P2002-318601)
審決分類 P 1 113・ 1- Y (A23L)
P 1 113・ 536- Y (A23L)
P 1 113・ 121- Y (A23L)
P 1 113・ 537- Y (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 騎見高  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
鵜飼 健
登録日 2008-04-18 
登録番号 特許第4111382号(P4111382)
発明の名称 餅  
代理人 末吉 亙  
代理人 ▲高▼木 楓子  
代理人 花田 吉秋  
代理人 清武 史郎  
代理人 岩瀬 ひとみ  
代理人 紋谷 崇俊  
代理人 高橋 元弘  
代理人 小田 富士雄  
代理人 早川 皓太郎  
代理人 坂手 英博  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 矢嶋 雅子  
代理人 中島 淳  
代理人 宍戸 充  
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