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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1287040
審判番号 不服2013-10440  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-05 
確定日 2014-04-24 
事件の表示 特願2008-301702「物理的システムで生ずる波動伝播を評価する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月11日出願公開、特開2009-129465〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 経緯
1.手続
本願は、2008年(平成20年)11月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年11月27日、英国)を出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成24年 9月13日(起案日)
手続補正 :平成24年11月26日
拒絶査定 :平成25年 2月26日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年 6月 5日
手続補正 :平成25年 6月 5日
前置審査報告 :平成25年 7月16日
審尋 :平成25年 9月13日(起案日)
回答書 :平成25年11月18日

2.査定
原査定の理由は、概略、以下のとおりである。

理 由
本願の請求項1ないし6に係る発明(平成24年11月26日付け手続補正書による)は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1.特開2006-053908号公報
刊行物2.PRESCOTT, D.T. et al. ,A method for incorporating different sized cells into the finite-difference time-domain analysis technique,IEEE Microwave and Guided Wave Letters,1992年11月,Volume 2, Issue 11,Pages 434 - 436

第2 補正却下の決定
平成25年6月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」ともいう。)について次のとおり決定する。

《結論》
平成25年6月5日付けの手続補正を却下する。

《理由》
1.本件補正の内容
平成25年6月5日付けの手続補正は、本件補正前、平成24年11月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項6について、補正前の請求項6を、補正後の請求項5とし、以下のとおり補正する補正事項を含むものである。

【請求項6】(補正前)
シミュレーションされる物理的システムの数値近似を得ることによって前記物理的システムで生ずる波動伝播を評価する装置であって、
少なくとも2つの次元及び複数の第1グリッドセルを有する第1グリッドと、少なくとも2つの次元及び複数の第2グリッドセルを有する第2グリッドを有する計算領域を定義するよう構成される領域回路と、
所与の時間段階で全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得るように更新プロシージャを実行するよう構成される更新回路と
を有し、
前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり、
前記第1グリッドセル及び前記第2グリッドセルの夫々は、シミュレーションされる前記物理的システムの物理量を表す値が得られる1又はそれ以上の解点を有し、
前記領域回路は、
前記少なくとも2つの次元のうちの一方で前記第1グリッドと比較される第1リファインメント係数を有し且つ前記少なくとも2つの次元のうちの他方で前記第1グリッドと比較される第2リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義するよう構成され、
前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う、装置。

【請求項5】(補正後)
シミュレーションされる物理的システムの数値近似を得ることによって前記物理的システムで生ずる3次元的な波動伝播を評価する装置であって、
少なくとも2つの次元及び複数の第1グリッドセルを有する第1グリッドと、少なくとも2つの次元及び複数の第2グリッドセルを有する第2グリッドを有する計算領域を定義するよう構成される領域回路と、
所与の時間段階で全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得るように更新プロシージャを実行するよう構成される更新回路と
を有し、
前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり、
前記第1グリッドセル及び前記第2グリッドセルの夫々は、シミュレーションされる前記物理的システムの物理量を表す値が得られる1又はそれ以上の解点を有し、
前記領域回路は、
前記少なくとも2つの次元のうちの一方で前記第1グリッドと比較される第1リファインメント係数を有し且つ前記少なくとも2つの次元のうちの他方で前記第1グリッドと比較される第2リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義し、
第3の次元を有するよう前記第1グリッド及び前記第2グリッドの夫々を定義し、
前記第3の次元で前記第1グリッドと比較される第3リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第1リファインメント係数及び前記第2リファインメント係数のうちの少なくとも1つと異なるよう前記第3リファインメント係数を定義するよう構成され、
前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う、装置。

2.補正の適合性
(1)補正の範囲
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載に基づくものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする補正である。

(2)補正の目的
上記補正により、グリッドセルについて、補正前は、少なくとも2つの次元を有し、当該2つの次元の一方と他方についてのリファインメント係数の定義について特定する構成であったのに対し、補正後は、上記少なくとも2つの次元が、第3の次元も有するものであって、上記一方と他方の次元に加えて、第3の次元のリファインメント係数についても、請求の範囲に記載したような特定がなされる構成となったといえる。
すなわち、当該補正により、補正前は第3の次元について格別の特定がなされない構成であったのに対し、補正後は第3の次元についても特定された構成となったということができ、本件補正の当該補正事項は、特許請求の範囲の減縮に該当する補正事項であると認められる。

(3)独立特許要件
本件補正は、上記のとおり、特許請求項の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、以下、独立特許要件について検討する。

ア.補正後発明
補正後の請求項1ないし請求項5に係る発明のうち請求項5に係る発明(以下「補正後発明」という。)は、補正後の特許請求項の範囲の請求項5に記載された下記のとおりである。

記(補正後発明)
シミュレーションされる物理的システムの数値近似を得ることによって前記物理的システムで生ずる3次元的な波動伝播を評価する装置であって、
少なくとも2つの次元及び複数の第1グリッドセルを有する第1グリッドと、少なくとも2つの次元及び複数の第2グリッドセルを有する第2グリッドを有する計算領域を定義するよう構成される領域回路と、
所与の時間段階で全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得るように更新プロシージャを実行するよう構成される更新回路と
を有し、
前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり、
前記第1グリッドセル及び前記第2グリッドセルの夫々は、シミュレーションされる前記物理的システムの物理量を表す値が得られる1又はそれ以上の解点を有し、
前記領域回路は、
前記少なくとも2つの次元のうちの一方で前記第1グリッドと比較される第1リファインメント係数を有し且つ前記少なくとも2つの次元のうちの他方で前記第1グリッドと比較される第2リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義し、
第3の次元を有するよう前記第1グリッド及び前記第2グリッドの夫々を定義し、
前記第3の次元で前記第1グリッドと比較される第3リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第1リファインメント係数及び前記第2リファインメント係数のうちの少なくとも1つと異なるよう前記第3リファインメント係数を定義するよう構成され、
前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う、装置。

イ.刊行物1の記載

原査定の拒絶の理由で引用された特開2006-053908号公報(以下「刊行物1」という)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

【請求項1】
シミュレートする対象の物理システムの数値近似を得て該物理システムにおいて生じる波伝搬を評価する、コンピュータにより実施される方法であって、複数の粗いグリッドのセルを有する粗いグリッドと、精緻化整数kの複数の1次レベルの細かいグリッドのセルを有する2つ以上の隣接する1次レベルの細かいグリッドを備える1次レベルの細かいグリッドの領域とを備える計算領域を利用し、該粗いグリッドのセルと該細かいグリッドのセルとの各々が、シミュレートする対象の該物理システムの物理的数量を表す値を取得し得る1つ又は複数の解の点を有し、時間における所定の段階でのセル全ての少なくとも1つの解の点の値を得るために計算手順が行われ、該計算手順中に、隣接する細かいグリッドに共通の、該粗いグリッドと該1次レベルの細かいグリッドとの間のインタフェースでの1次レベルの細かいグリッドのセルの解の点での新たな値が該共通のインタフェースに隣接した1次レベルの細かいグリッドのセルの解の点での先行値から得られることを特徴とする方法。

【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、シミュレートする対象のシステムの数値近似の、コンピュータにより実施される手法に関し、特に、そのような手法を用いた電磁界の解析に関する。本発明は、マクスウェル方程式を解き、よって、所定の環境及び条件に対する電磁波伝搬の力学のシミュレートし、予測するよう、FD-TD(有限差分時間領域)法を用いた電磁界の解析に、排他的ではないが、特に、適用される。
【背景技術】
【0002】
種々の環境において生じる、電磁波伝搬などの各種の波動現象の影響のシミュレートし、検討する必要性が一層増大している。例えば、液体の伝搬、熱伝導や電磁波の照射の力学をシミュレートできることは、いくつかの産業において大いに効果的である。特に、電磁界のシミュレーションは、電子製品の設計及び開発において重要な役割を演じる。このように急速に変化している技術においては、製品を市場に投入するのに要する時間は、商業上の優位性を維持するうえで重大なものとなり得る。この点で、電磁気のシミュレーションは機器の開発を進めるうえで設計技術者によって大いに効果的なツールを備え得る。電磁気のシミュレーションは、例えば、複雑な電子的物体において発生する表面電流や内部フィールドを近似化するのに用い得る。電磁シミュレーションは、電子機器、特に移動体通信機器によって放出される電磁波の照射を解析してこのような機器に関する健康上や安全上の問題を評価するのに用いられる。更に、電磁散乱の研究は、構造表面の設計及び形状を最適化するために、飛行機などの多くの複雑な構造の設計における中心的な役割を演じている。対流熱伝導のシミュレーションは、電子機器において用いられているものなどの換気(冷却及び/又は暖房)システムの解析及び開発において手助けとなる有用なものとなっている。対流熱伝導のシミュレーションは、電子産業やその他の産業において発生している潜在的な火災危険度を検討しようとする火災シミュレーション手法において用いるのに適したツールも備える。
【0003】
一般的に言えば、何れかのモデリング手法が包含する主要工程は:
1) 有限グリッド上に境界条件を課す必要性を考慮した、構造化グリッド上での当該システム(すなわち、構造又は環境)の幾何構造、更には、材料特性(例えば、電磁モデリングの場合、誘電率ε、透磁率μ及び導電率σを規定することとする。)を規定する工程;
2) 所定の時点でのグリッド内の各ノードでの当該物理現象に対する数値解を計算する工程;及び
3) 計算の各タイムステップで得られる解を視覚化し、潜在的に操作する手段を備える工程である。
【0004】
そのようなモデリング手法における使い道を得る周知の手法はFD-TD法である。これは最初に、西暦1966年にYeeによって提案されており、1次元領域内、2次元領域内又は3次元領域内での電磁伝搬の特性を解析する、いくつかの計算シミュレーション・ツールにおいて用いられている。概括的に言えば、この手法は、マクスウェル方程式の微分形式を離散化する、有限差分及び有限時間領域の手法を用いる。この手法によって、マクスウェル方程式が必要とする電界変数の微分と磁界変数の微分が空間的な有限差分によって近似化され、計算は次に、一連のタイムステップにおいて進められる。
【0005】
FD-TD法によって、シミュレーションが行われることになる、計算領域すなわち「スペース」は、1次元、2次元又は3次元において複数のセルを備える、時間においても空間においても離散化されているデカルト・グリッドによって表す。図4は、3次元のセルを示し、このセルの各点は、整数群(i,j,k)によって表され、i、j及びkは各々、x軸方向、y軸方向及びz軸方向におけるグリッド座標の数字である。セルの各々は、所定の時点での電界及び磁界に対する、いくつかの解の点又はノードを備える。この図では、電界成分は、セル面上で規定され、磁界成分はセル・エッジ上で規定される。FD-TDの原理によれば、電界は、よって、磁界からは空間的にも時間的にもずれている。

【0016】
本発明の第1特徴によれば、シミュレートする対象の物理システムの数値近似を得る、コンピュータにより実施される方法を備え、該方法は、複数の粗いグリッドのセルを有する粗いグリッドと、精緻化整数kの複数の1次レベルの細かいグリッドのセルを有する2つ以上の隣接する1次レベルの細かいグリッドとを備える計算領域を利用し、粗いグリッドのセルと細かいグリッドのセルとの各々は、シミュレートする対象の物理システムの物理的数量を表す値を取得し得る1つ又は複数の解の点を有し、時間上の所定の段階で全てのセルの少なくとも1つの解の点の値を得るために計算手順が行われ、計算手順中に、隣接する細かいグリッドに共通の、粗いグリッドと一次レベルの細かいグリッドとの間のインタフェースでの1次レベルの細かいグリッドのセルの解の点での新たな値が、その共通のインタフェースに隣接する1次レベルの細かいグリッドのセルの解の点での先行値から得られる。

【0020】
精緻化整数kは、(3次元グリッド構造の場合)x方向、y方向及びz方向の各々にセルが分割された整数である。これは、したがって、粗いグリッドのセルの寸法と細かいグリッドのセルの寸法との比率である。よって、粗いセルが精緻化レベルkの細かいグリッドのセルをその中に組み込ませている場合、各方向にkの細かいグリッドのセルが存在することになる。高レベルの精緻化が低レベルの精緻化を有する細かいグリッド中に埋め込まれている場合がある、いくつかの精緻化レベルを有する領域が想定されるということが分かる。例えば、1次レベルの細かいグリッドが、1つ又は複数の1次レベルの細かいグリッドのセルの中に組み込まれている少なくとも1つの2次レベルの細かいグリッドを有する場合があり、2次レベルの細かいグリッドは精緻化整数lを有し、l>kである(kは1次レベルの細かいグリッドの精緻化整数である。)。すなわち、2次レベルの細かいグリッドは、1次レベルの細かいグリッドに対して精緻化整数l1を有する。よって、非均一性の特定の特徴又はソースを分析するために、粗いグリッドのかなりの精緻化が必要である場合、精緻化の所要レベルは、一連の精緻化段階において効果的に達成することが可能である。このようにして、粗いグリッドと、所要精緻化レベルの究極のグリッドとの間の不連続性がより漸進的にもたらされ、それによって計算手順により大きな安定レベルがもたらされる。

【0052】
図1Aは、2次元で、粗いグリッド20を備え、細かいグリッド21をその中に組み込ませた計算領域の部分を示す。9つの粗いグリッドのセルの部分内に組み込まれている細かいグリッドの周囲は、粗いグリッドと細かいグリッドとの間のインタフェースを形成する。図1Bは、3次元で、粗いグリッド22と、細かいグリッド23をその中に組み込ませた細かいグリッド23とを備える計算領域の部分を示す。
【0053】
計算領域の部分は図2にも示す。この領域は2つの隣接する細かいグリッド24及び25を備える。線Mによって表す、各グリッドの周囲は、粗いグリッドと、細かいグリッドの各々との間のインタフェースを形成する。したがって、共通のインタフェース26が2つのグリッド間に存在する。本発明の第1特徴の実施例及び第2特徴の実施例によれば、情報がこの共通のインタフェースの両端を伝達される。2つの細かいグリッド24及び25によって形成される細かいグリッドの領域の周りの線Nによって表す周囲を形成する全ての他のインタフェースでは、粗いグリッドから細かいグリッドに値をマッピングするために空間的補間及び時間的補間を行う必要がある。1次レベルの細かいグリッドの解の点が粗いグリッド上に存在するいくつかの共同配置されたエッジが存在することになるということが分かり得る。共同配置されたエッジでもある、粗いグリッドと細かいグリッドとの間のインタフェース・エッジの全てに加えて、27及び28は細かいグリッド24及び25の各々の中に共同配置されたエッジを備える。本発明の第3特徴及び第4特徴によれば、細かいグリッドの領域における粗いグリッドの更新中に、これらの共同配置されたエッジでのフィールド値は合計され、FD-TD更新ステンシルを用いた電磁シミュレーションに必要な勾配項の近似化に用いられる。
【0054】
図3Aは、精緻化整数k=4の細かいグリッドの領域2を有する粗いグリッド1を備える2次元の領域を示し、細かいグリッドの領域は6つの隣接する細かいグリッドS1乃至S6から成り、細かいグリッドの各々は単一の粗いグリッド・セル中に組み込まれている。Pは細かいグリッドの領域の周囲を規定し、粗いグリッドと細かいグリッドの領域との間の外部インタフェースeから成る。1次レベルの領域のセルのエッジ又は面が粗いグリッドの領域のセルのエッジ又は面と一致する、細かいグリッド領域2内の各点で共通のインタフェースiが存在する。各グリッド点は、整数対(i,j)によって表す場合があり、i及びjはx軸方向とy軸方向との各々におけるグリッド座標の数字である。セルの各々は、所定の時点で求められる数値近似のいくつかの解の点を備える。よって、グリッド上の数学的な解からシミュレートされるピクチャは、所定の時点nでシミュレートされる物理システムを表す。この図では、細かいグリッドS4について表すように、セル・エッジとセル面との各々で解の点が備えられている。
【0055】
解の点の各々での値を更新するために、解が所定の時点で、先行する時点での値を参照しながら得られる、いわゆる陽的時間進行解手順が行われる。解はまず、このようにして粗いグリッドについて得られる。通常、計算手順の間に、更には、細かいグリッドの各々の解の点を更新するために、細かいグリッドの領域2内の共通のインタフェースの各々での細かいグリッドの値を、空間的補間及び時間的補間によってその共通のインタフェースで粗いグリッドの解から得たことになる。

ウ.刊行物1に記載された発明
(ウ-1)電磁波伝搬のシミュレーション手法
刊行物1の請求項1には、「シミュレートする対象の物理システムの数値近似を得て該物理システムにおいて生じる波伝搬を評価する、コンピュータにより実施される方法」と記載されているから、刊行物1に記載されたコンピュータは、シミュレートする対象の物理システムの数値近似を得て該物理システムにおいて生じる波伝搬の評価を実施する装置といえるから、刊行物1に記載された発明は、シミュレートする対象の物理システムの数値近似を得て該物理システムにおいて生じる波伝搬の評価を実施する装置に関する発明であるといえる。

(ウ-2)粗いグリッド、細かいグリッド
【0052】には「図1Aは、2次元で、粗いグリッド20を備え、細かいグリッド21をその中に組み込ませた計算領域の部分を示す。9つの粗いグリッドのセルの部分内に組み込まれている細かいグリッドの周囲は、粗いグリッドと細かいグリッドとの間のインタフェースを形成する。図1Bは、3次元で、粗いグリッド22と、細かいグリッド23をその中に組み込ませた細かいグリッド23とを備える計算領域の部分を示す。」とあるから、計算領域は3次元で、粗いグリッドのセルと、粗いグリッドのセルの中に組み込ませた細かいグリッドのセルとを備えているといえる。また、図1Bを見ると、3次元の粗いグリッドのセル(横3個*縦4個*奥行3個)に分割された空間中に、さらに3次元で構成された複数の細かいグリッドのセルに分割された部分を有する構成を見て取ることができる。したがって、計算領域は、3次元及び複数の粗いグリッドのセルを有する粗いグリッドの部分と、3次元及び複数の細かいグリッドのセルを有する細かいグリッドの領域からなっているといえる。そして、【0096】には「シミュレーションを行う対象の領域は通常、コンピュータ上で実施されるコンピュータ・プログラムによって作成される。」とあるから、コンピュータは、上記領域を作成する手段といえる。
以上まとめると、刊行物1には「3次元及び複数の粗いグリッドのセルを有する粗いグリッドの部分と、3次元及び複数の細かいグリッドのセルを有する細かいグリッドの領域からなる計算領域を作成する手段」が開示されているといえる。

(ウ-3)解の値を得る
刊行物1の請求項1には、「該粗いグリッドのセルと該細かいグリッドのセルとの各々が、シミュレートする対象の該物理システムの物理的数量を表す値を取得し得る1つ又は複数の解の点を有し、時間における所定の段階でのセル全ての少なくとも1つの解の点の値を得るために計算手順が行われ」とあるから、当該時間手順を行う手段を有することは明らかであり、刊行物1は「該粗いグリッドのセルと該細かいグリッドのセルとの各々が、シミュレートする対象の該物理システムの物理的数量を表す値を取得し得る1つ又は複数の解の点を有し、時間における所定の段階でのセル全ての少なくとも1つの解の点の値を得るために計算手順を行う手段」を有しているといえる。

(ウ-4)精緻化整数
刊行物1の【0020】には「精緻化整数kは、(3次元グリッド構造の場合)x方向、y方向及びz方向の各々にセルが分割された整数である。これは、したがって、粗いグリッドのセルの寸法と細かいグリッドのセルの寸法との比率である。よって、粗いセルが精緻化レベルkの細かいグリッドのセルをその中に組み込ませている場合、各方向にkの細かいグリッドのセルが存在することになる。高レベルの精緻化が低レベルの精緻化を有する細かいグリッド中に埋め込まれている場合がある、いくつかの精緻化レベルを有する領域が想定されるということが分かる。例えば、1次レベルの細かいグリッドが、1つ又は複数の1次レベルの細かいグリッドのセルの中に組み込まれている少なくとも1つの2次レベルの細かいグリッドを有する場合があり、2次レベルの細かいグリッドは精緻化整数lを有し、l>kである(kは1次レベルの細かいグリッドの精緻化整数である。)。すなわち、2次レベルの細かいグリッドは、1次レベルの細かいグリッドに対して精緻化整数l1を有する。よって、非均一性の特定の特徴又はソースを分析するために、粗いグリッドのかなりの精緻化が必要である場合、精緻化の所要レベルは、一連の精緻化段階において効果的に達成することが可能である。このようにして、粗いグリッドと、所要精緻化レベルの究極のグリッドとの間の不連続性がより漸進的にもたらされ、それによって計算手順により大きな安定レベルがもたらされる。」との記載がある。
上記記載によれば、粗いグリッド(3次元グリッド構造の場合)のセルをx方向、y方向及びz方向の各々に精緻化整数で分割したものが細かいセルといえるから、細かいグリッド(のセル)は粗いグリッド(のセル)を、x方向、y方向及びz方向の各々に精緻化整数で分割したものといえる。

(ウ-5)解点
刊行物1の【0001】には「本発明は、一般的に、シミュレートする対象のシステムの数値近似の、コンピュータにより実施される手法に関し、特に、そのような手法を用いた電磁界の解析に関する。本発明は、マクスウェル方程式を解き、よって、所定の環境及び条件に対する電磁波伝搬の力学のシミュレートし、予測するよう、FD-TD(有限差分時間領域)法を用いた電磁界の解析に、排他的ではないが、特に、適用される。」、とあるから、刊行物1に記載された発明は、FD-TD(有限差分時間領域)法に特に適用されるものであることが理解でき、
【0005】には「FD-TD法によって、シミュレーションが行われることになる、計算領域すなわち「スペース」は、1次元、2次元又は3次元において複数のセルを備える、時間においても空間においても離散化されているデカルト・グリッドによって表す。図4は、3次元のセルを示し、このセルの各点は、整数群(i,j,k)によって表され、i、j及びkは各々、x軸方向、y軸方向及びz軸方向におけるグリッド座標の数字である。セルの各々は、所定の時点での電界及び磁界に対する、いくつかの解の点又はノードを備える。この図では、電界成分は、セル面上で規定され、磁界成分はセル・エッジ上で規定される。FD-TDの原理によれば、電界は、よって、磁界からは空間的にも時間的にもずれている。」
とあるから、(刊行物1に記載された発明が適用される)FD-TD(有限差分時間領域)法を用いたシミュレーションでは、計算領域は、1次元、2次元又は3次元において複数のセルを備え、セルの各々は、所定の時点での電界及び磁界に対する、いくつかの解の点又はノードを備えるものであって、刊行物1に記載された発明は、当該FD-TD(有限差分時間領域)法に特に適用されるのであるから、刊行物1に記載された発明は、「複数のセルを備え、セルの各々は、所定の時点での電界及び磁界に対する、いくつかの解の点又はノードを備える」構成を有していることは明らかであり、このことは、刊行物1の【0016】(課題を解決するための手段)の「本発明の第1特徴によれば、シミュレートする対象の物理システムの数値近似を得る、コンピュータにより実施される方法を備え、該方法は、複数の粗いグリッドのセルを有する粗いグリッドと、精緻化整数kの複数の1次レベルの細かいグリッドのセルを有する2つ以上の隣接する1次レベルの細かいグリッドとを備える計算領域を利用し、粗いグリッドのセルと細かいグリッドのセルとの各々は、シミュレートする対象の物理システムの物理的数量を表す値を取得し得る1つ又は複数の解の点を有し、時間上の所定の段階で全てのセルの少なくとも1つの解の点の値を得るために計算手順が行われ」の記載からも理解できる。
したがって、刊行物1に記載された発明は、「複数のセルを備え、セルの各々は、所定の時点での電界及び磁界に対する、いくつかの解の点又はノードを備え」ているといえる。

(ウ-6)まとめ
以上(ウ-1)ないし(ウ-5)の記載によれば、刊行物1には、以下の発明(以下、刊行物1発明という。)が記載されているといえる。

シミュレートする対象の物理システムの数値近似を得て該物理システムにおいて生じる波伝搬の評価を実施する装置に関する発明であって、
3次元及び複数の粗いグリッドのセルを有する粗いグリッドの部分と、3次元及び複数の細かいグリッドのセルを有する細かいグリッドの領域からなる計算領域を作成する手段と、
該粗いグリッドのセルと該細かいグリッドのセルとの各々が、シミュレートする対象の該物理システムの物理的数量を表す値を取得し得る1つ又は複数の解の点を有し、時間における所定の段階でのセル全ての少なくとも1つの解の点の値を得るために計算手順を行う手段と、
細かいグリッド(のセル)は粗いグリッド(のセル)を、x方向、y方向及びz方向の各々に精緻化整数で分割し、
複数のセルを備え、セルの各々は、所定の時点での電界及び磁界に対する、いくつかの解の点又はノードを備える構成を有する、装置。

エ.対比
補正後発明と刊行物1発明とを対比する。

(エ-1)「シミュレーションされる物理的システムの数値近似を得ることによって前記物理的システムで生ずる3次元的な波動伝播を評価する装置であって・・・装置」
刊行物1発明は「シミュレートする対象の物理システムの数値近似を得て該物理システムにおいて生じる波伝搬の評価を実施する装置に関する発明」であるから、刊行物1発明の装置は、いいかえると、「シミュレーションされる物理的システムの数値近似を得ることによって前記物理的システムで生ずる波動伝播を評価する装置」といえる。
刊行物1発明の装置は、【0020】にも「精緻化整数kは、(3次元グリッド構造の場合)x方向、y方向及びz方向の各々にセルが分割された整数である。これは、したがって、粗いグリッドのセルの寸法と細かいグリッドのセルの寸法との比率である。」とあるように、3次元でシミュレーションをおこなっていることはあきらかである。
したがって、上記いいかえた、刊行物1発明の装置は「シミュレーションされる物理的システムの数値近似を得ることによって前記物理的システムで生ずる3次元的な波動伝播を評価する装置」といえることは明らかである。
したがって、刊行物1発明は「シミュレーションされる物理的システムの数値近似を得ることによって前記物理的システムで生ずる3次元的な波動伝播を評価する装置であって・・装置」である点で、補正後発明と相違がない。

(エ-2)「少なくとも2つの次元及び複数の第1グリッドセルを有する第1グリッドと、少なくとも2つの次元及び複数の第2グリッドセルを有する第2グリッドを有する計算領域を定義するよう構成される領域回路と、
前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり、
前記領域回路は、
前記少なくとも2つの次元のうちの一方で前記第1グリッドと比較される第1リファインメント係数を有し且つ前記少なくとも2つの次元のうちの他方で前記第1グリッドと比較される第2リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義し、
第3の次元を有するよう前記第1グリッド及び前記第2グリッドの夫々を定義し、
前記第3の次元で前記第1グリッドと比較される第3リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第1リファインメント係数及び前記第2リファインメント係数のうちの少なくとも1つと異なるよう前記第3リファインメント係数を定義するよう構成され、
前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う」

まず補正後発明について、その構成を以下のとおり分けて検討する。

「a:少なくとも2つの次元及び複数の第1グリッドセルを有する第1グリッドと、少なくとも2つの次元及び複数の第2グリッドセルを有する第2グリッドを有する計算領域を定義するよう構成される領域回路と、」
「b:前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり、」
前記領域回路は、
「c:前記少なくとも2つの次元のうちの一方で前記第1グリッドと比較される第1リファインメント係数を有し且つ前記少なくとも2つの次元のうちの他方で前記第1グリッドと比較される第2リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義し、」
「d:第3の次元を有するよう前記第1グリッド及び前記第2グリッドの夫々を定義し、
前記第3の次元で前記第1グリッドと比較される第3リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第1リファインメント係数及び前記第2リファインメント係数のうちの少なくとも1つと異なるよう前記第3リファインメント係数を定義するよう構成され、」
「e:前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う」

以上の記載によれば、まずa:にて、領域回路が、少なくとも2つの次元(ただし、以下のd:で特定されるように、第3の次元も有するから、3つの次元といいかえてもよいことは明らかである。)について、計算領域を、第1のグリッドセルを有する第1グリッドと、第2のグリッドセルを有する第2のグリッドと定義する処理を行うことを特定し、b:ないしe:では、第1の次元、第2の次元、第3の次元について、それぞれ定義される第1グリッド(セル)、第2グリッド(セル)の関係について特定しているといえる。
b:による特定事項は、「前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメント」とあるから、第2グリッドは、第1グリッドを細分化した構成であることを特定している。
c:による特定事項は、第1の次元(一方)、第2の次元(他方)のそれぞれが、(第1グリッドと比較される)第1リファインメント係数、第2リファインメント係数を有し、かつ、第1リファインメント係数と、第2リファインメント係数が異なる、と特定しているから、第1の次元と第2の次元とで、第1グリッドを(第2グリッドに)細分化する度合いが異なることを特定しているといえる。
d:による特定事項は、第3の次元についても、上記c:と同様、第1グリッドと比較される第3リファインメント係数を有し、前記第3リファインメント係数は、「前記第1リファインメント係数及び前記第2リファインメント係数のうちの少なくとも1つと異なる」と特定されている。
以上b:、c:、d:の特定事項をまとめると、第1の次元、第2の次元、第3の次元は、それぞれ、第1グリッドと(第1グリッドを細分化した)第2グリッドを有していること、および、上記細分化の度合いが、第1の次元、第2の次元、第3の次元のうち、少なくとも一つの次元の細分化の度合いが、他の次元の細分化の度合いと異なることを特定しているといえる。
さらに、上記e:の特定事項について検討する。
上記特定事項e:の「前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う」と同じ記載は、発明の詳細な説明にない。
当該特定事項は、平成24年11月26日付けで提出された手続補正書に記載された特許請求の範囲に新たに付加された構成であって、上記手続補正書と同日付け意見書を参酌すると、当該補正事項の補正の根拠として、「(2)請求項1にした補正は出願当初明細書の段落0073-0075、図8-9等に基づくものであり、新規事項の追加には該当しません。請求項6も同様に補正しました。」と主張しているから、当該明細書及び図面の記載を参酌して検討する。なお、図8に対応する発明の詳細な説明は、【0072】にあるから、当該記載も参酌する。
【0072】には以下のとおりの記載がある。
「図8は、第1グリッド80と、第2グリッド82と、第3グリッド84とを有するマルチグリッド領域を示す。第2グリッド82及び第3グリッド84は、夫々、不均等なセルを有する。図示されるように、第2グリッド82は、リファインメント係数[kxky]=[21]による第1グリッド80のリファインメントであり、第3グリッド84は、リファインメント係数[kxky]=[21]による第2グリッド72のリファインメントである。言い換えると、リファインメントは、1つの次元、すなわちx次元でのみ行われる。図2乃至6を参照して上述された更新プロシージャ並びに空間的及び時間的補間の議論は、図8に示されるグリッドにも同じように適用可能であることが分かる。」
以上の記載を参酌しながら、図8をみると、第1のグリッド80は4*4のグリッドからなり、そのうちの中央の2*2部分から、第2のグリッド82に向かって矢印が記載されていることから見て、上記第1のグリッドの2*2の頂点の部分が第2のグリッド頂点の部分に対応していることが見て取れる。
このときの、第1のグリッドと第2のグリッドとを比べると、第1のグリッドは、x軸方向、y軸方向ともに2分割された4つのセルからなるのに対し、第2のグリッドは、x軸方向は4分割されy軸方向は2分割された(すなわち、第1のグリッドと同じ分割数である。)8つのセルからなることが理解できる。
すなわち、第1のグリッドから第2のグリッドになるように細分化するとき、x軸方向には1/2の長さとなるように(2つに)細分化し、y軸方向には第1のグリッドと同じ分割数で細分化しているといえる。
そのような分割の状態を、【0072】では「図示されるように、第2グリッド82は、リファインメント係数[kxky]=[21]による第1グリッド80のリファインメントであり」と記載し、kx(x軸方向の分割数)は第1のグリッドに比べて2倍であるから2となり、ky(y軸方向の分割数)は第1のグリッドと同じ分割数であるから1と記載しているものと理解できる。
このy軸方向の分割数が第1のグリッドと第2のグリッドとで同じということは、分割する線(3次元の場合面)は第1のグリッド、第2のグリッドとも同じ分割線(面)を利用しているといえ、このことを「前記第1グリッド(の少なくとも一部)は前記第2グリッドと重なり合う」と記載しているといえる。
すなわち、e:の特定事項「前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う」とは、3つの次元でそれぞれ、第1のグリッドと第1のグリッドをリファインメント係数で分割した、第2のグリッドを有するとき、少なくとも一つの次元では、第1のグリッドと第2のグリッドとで、同じ分割を行うことを特定しているといえる。

以上の点を踏まえて、補正後発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明は、
「3次元及び複数の粗いグリッドのセルを有する粗いグリッドの部分と、3次元及び複数の細かいグリッドのセルを有する細かいグリッドの領域からなる計算領域を作成する手段、
細かいグリッド(のセル)は粗いグリッド(のセル)を、x方向、y方向及びz方向の各々に精緻化整数で分割し」の構成を有している。
刊行物1発明の「3次元」は、補正後発明の少なくとも2つの次元と対応していることは明らかであり、刊行物1発明では、上記3つの次元それぞれについて、粗いグリッドのセル、細かいグリッドのセルを有する、粗いグリッド、細かいグリッドを有するように計算領域を作成(定義)する手段を有しており、補正後発明の「前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり」の特定事項から、第2のグリッドは、第1のグリッドを細分化したグリッドであるといえるから、刊行物1発明の粗いグリッド、細かいグリッドが、それぞれ、補正後発明の第1のグリッド、第2のグリッドに相当するといえる。
したがって、刊行物1発明は、補正後発明の
「a:少なくとも2つの次元及び複数の第1グリッドセルを有する第1グリッドと、少なくとも2つの次元及び複数の第2グリッドセルを有する第2グリッドを有する計算領域を定義するよう構成される領域回路と、」
「b:前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり、」
の構成を有しているといえる。
刊行物1発明では、「粗いグリッド(のセル)を、x方向、y方向及びz方向の各々に精緻化整数で分割し」ている。
x方向、y方向及びz方向は、それぞれ、第1の次元(一方)、第2の次元(他方)、第3の次元と対応しているといえ、それぞれの方向において、精緻化整数で分割(細分化)しているから、精緻化整数は、それぞれの方向(x方向、y方向及びz方向)で、第1のグリッドを第2のグリッドに細分化するための係数といえるから、リファインメント係数(x方向の精緻化整数は第1のリファインメント係数、y方向の精緻化整数は第2のリファインメント係数、z方向の精緻化整数は第3のリファインメント係数)と対応している。
したがって、刊行物1発明は
「c:前記少なくとも2つの次元のうちの一方で前記第1グリッドと比較される第1リファインメント係数を有し且つ前記少なくとも2つの次元のうちの他方で前記第1グリッドと比較される第2リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し」
「d:第3の次元を有するよう前記第1グリッド及び前記第2グリッドの夫々を定義し、
前記第3の次元で前記第1グリッドと比較される第3リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し」
の構成を有しているといえる。
もっとも、刊行物1の発明の詳細な説明、および、図面を見れば、上記精緻化整数は、x方向、y方向、z方向で共通であり、したがって、刊行物1発明は
「前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義し」
「前記第1リファインメント係数及び前記第2リファインメント係数のうちの少なくとも1つと異なるよう前記第3リファインメント係数を定義するよう構成され」
の構成を有していない。
また、上記のとおり、刊行物1発明では精緻化整数が、x方向、y方向、z方向で共通であるから、一部の次元について、細分化を行わない、e:の特定事項を有していないことは明らかである。
以上まとめると、刊行物1発明は、
「少なくとも2つの次元及び複数の第1グリッドセルを有する第1グリッドと、少なくとも2つの次元及び複数の第2グリッドセルを有する第2グリッドを有する計算領域を定義するよう構成される領域回路と、
前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり、
前記領域回路は、
前記少なくとも2つの次元のうちの一方で前記第1グリッドと比較される第1リファインメント係数を有し且つ前記少なくとも2つの次元のうちの他方で前記第1グリッドと比較される第2リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
第3の次元を有するよう前記第1グリッド及び前記第2グリッドの夫々を定義し、
前記第3の次元で前記第1グリッドと比較される第3リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し」
の構成を有している点で補正後発明と相違はない。
もっとも、補正後発明は、
「前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義し」
「前記第1リファインメント係数及び前記第2リファインメント係数のうちの少なくとも1つと異なるよう前記第3リファインメント係数を定義するよう構成され」
「前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う」
の構成を有しているのに対し、刊行物1発明では、(第1、第2、第3の)リファインメント係数がいずれも同じである点で相違し、したがって、「前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う」の構成を有していない点で相違する。

(エ-3)「所与の時間段階で全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得るように更新プロシージャを実行するよう構成される更新回路と」
刊行物1発明は、「該粗いグリッドのセルと該細かいグリッドのセルとの各々が、シミュレートする対象の該物理システムの物理的数量を表す値を取得し得る1つ又は複数の解の点を有し、時間における所定の段階でのセル全ての少なくとも1つの解の点の値を得るために計算手順を行う手段」を有している。
補正後発明の「プロシージャ」とは(処理の)手順といった意味であるから、刊行物1発明の更新回路は「・・・値を得るように更新手順を実行するよう構成される更新回路」といえる。
この点、刊行物1発明も「・・・値を得るために計算手順を行う手段」であり、刊行物1発明の計算手順は、時間における所定の段階で繰り返し値を得ていることは、発明の詳細な説明を見れば明らかであるから、計算手順を更新しながら値を得ているといえ、「・・・値を得るように更新プロシージャを実行するよう構成される更新回路」の点で相違がない。
補正後発明は、「所与の時間段階で全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得る」構成であるが、この点については、刊行物1発明では、「時間における所定の段階でのセル全ての少なくとも1つの解の点の値を得る」構成であり、刊行物1発明の「時間における所定の段階で」、「セル全ての少なくとも1つの解の点の値を得る」は、それぞれ、「所与の時間段階で」、「全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得る」、といいかえることができるから、刊行物1発明は「所与の時間段階で全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得る」構成を有しているといえる。
以上のことから、刊行物1発明は、「所与の時間段階で全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得るように更新プロシージャを実行するよう構成される更新回路」を有しているといえる。

(エ-4)「前記第1グリッドセル及び前記第2グリッドセルの夫々は、シミュレーションされる前記物理的システムの物理量を表す値が得られる1又はそれ以上の解点を有し」
刊行物1発明は「複数のセルを備え、セルの各々は、所定の時点での電界及び磁界に対する、いくつかの解の点又はノードを備える」構成を有している。
刊行物1発明の複数のセルは、先に検討したように、粗いグリッドのセル、細かいグリッドのセルであって、上記粗いグリッドのセル、細かいグリッドのセルは、補正後発明の第1のグリッド、第2のグリッドに対応している。
刊行物1発明の「所定の時点での電解及び磁界」は(エ-3)で検討した「該粗いグリッドのセルと該細かいグリッドのセルとの各々が、シミュレートする対象の該物理システムの物理的数量」であることは明らかであるから、「シミュレーションされる前記物理的システムの物理量」であるといえ、「電界及び磁界に対する、いくつかの解の点又はノードを備える」のであるから、「シミュレーションされる前記物理的システムの物理量に対する、いくつかの解の点又はノードを備える」といえ、このことは、補正後発明の「シミュレーションされる前記物理的システムの物理量を表す値が得られる1又はそれ以上の解点を有し」に相当するといえる。
したがって、刊行物1発明は、「前記第1グリッドセル及び前記第2グリッドセルの夫々は、シミュレーションされる前記物理的システムの物理量を表す値が得られる1又はそれ以上の解点を有し」の構成を有しているといえる。

(エ-5)まとめ(一致点、相違点)
以上まとめると、補正後発明と引用発明1とは以下の一致点で一致し相違点で相違する。

(一致点)
シミュレーションされる物理的システムの数値近似を得ることによって前記物理的システムで生ずる3次元的な波動伝播を評価する装置であって、
少なくとも2つの次元及び複数の第1グリッドセルを有する第1グリッドと、少なくとも2つの次元及び複数の第2グリッドセルを有する第2グリッドを有する計算領域を定義するよう構成される領域回路と、
所与の時間段階で全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得るように更新プロシージャを実行するよう構成される更新回路と、
を有し、
前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり、
前記第1グリッドセル及び前記第2グリッドセルの夫々は、シミュレーションされる前記物理的システムの物理量を表す値が得られる1又はそれ以上の解点を有し、
前記領域回路は、
前記少なくとも2つの次元のうちの一方で前記第1グリッドと比較される第1リファインメント係数を有し且つ前記少なくとも2つの次元のうちの他方で前記第1グリッドと比較される第2リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
第3の次元を有するよう前記第1グリッド及び前記第2グリッドの夫々を定義し、
前記第3の次元で前記第1グリッドと比較される第3リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義するよう構成された、装置

(相違点)
a.相違点
補正後発明は、
「前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義し」
「前記第1リファインメント係数及び前記第2リファインメント係数のうちの少なくとも1つと異なるよう前記第3リファインメント係数を定義するよう構成され」
「前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う」
の構成を有しているのに対し、刊行物1発明では、(第1、第2、第3の)リファインメント係数がいずれも同じである点で相違し、したがって、「前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う」の構成を有していない点。

オ.判断
上記相違点について検討する。
(オ-1)相違点1について
原査定の理由で審査官が提示した、刊行物2は「有限差分時間領域法の分析技術に異なるサイズのセルを取り入れる方法」と題した論文であって、以下のとおりの記載がある。

I. INTRODUCTION
USE OF the finite-difference time-domain (FDTD) method as a technique for modeling electromagnetic wave propagation was first proposed by Yee [I] in 1966. Since then the FDTD has been successfully used to analyze the properties of both guiding and radiating structures.

(訳)
I. イントロダクション
電磁波の増殖をモデリングするための技術として有限差分時間領域法(FDTD)を用いることは、1966年にYeeによって最初に提唱された。それから、FDTDは誘導と放射両者の構造の特性について分析するためにうまく利用されてきた。

II. THE MESH REFINEMENT TECHNIQUE
When implementing a FDTD algorithm that contains multiple cell sizes, the only field values that cannot be calculated by using the standard FDTD are the tangential electric fields at the interface between the coarse and fine meshes. ・・・
For simplicity, the mesh refinement algorithm will be presented for the two-dimensional case, with Δx=Δz and assuming TE-wave propagation (Ey, Hx, Hz only). A mesh reduction factor of 4 will be used as depicted in Fig.1. The time increments used in the FDTD algorithm for the coarse and fine mesh regions will be symbolized by Δtc and Δtf respectively, where Δtc = 4Δtf.

(訳)
II.メッシュ生成テクニック
多数のセルサイズを含むFDTDアルゴリズムを実行するとき、標準的なFDTDを用いて計算することができない唯一のフィールド値は、粗いメッシュと細かいメッシュの間の接触面におけるタンジェント方向の電界である。・・・
単純化するために、メッシュ生成アルゴリズムは、2次元のケースの場合で表現される。Δx=Δzであって、TE波の増殖を想定する。メッシュ減少係数が4の場合について図1に描かれている。粗いメッシュ領域、細かいメッシュ領域を利用するためにFDTDアルゴリズムを利用する時間の増加は、 Δtc = 4Δtfの場合、ΔtcとΔtfのそれぞれによって象徴される。

III. APPLICATION AND RESULTS
The waveguide structure was modeled in two dimensions and excited with a Gaussian pulsed TE10 mode.The analysis was carried out twice, firstly with the reduced mesh included half way along the guide, then without. Field values were recorded through time for each to obtain the incident and reflected fields. These were Fourier transformed to calculate the frequency-domain reflection coefficient.
Three different arrangements of the fine mesh were investigated. These involved mesh subgridding in the transverse direction, Fig. 2(a), the longitudinal direction, Fig. 2(b), and in both directions, Fig. 2( c). These three different fine mesh cell shapes were used since they represent the different configurations found in FDTD algorithms.
Both the technique outlined in this letter (MRA) and that published by Zivanovic et al.[4]. (VSSM), were applied to find the percentage reflection from the coarse/fine mesh boundary. The results are demonstrated in Fig. 2(a)-(c) for comparison.
Fig. 2(a) and Fig. 2(c) show that the MRA performs as well as the VSSM for the meshes that are subdivided transversely and transverse-longitudinally. This is because the error produced by the second-order differencing in the modified algorithm is equivalent to that produced by the two-dimensional interpolation in the original VSSM. It can be seen that for both subgridding methods that reflection errors of less than 1% are achievable. In the longitudinally subdivided case, Fig. 2(b), the error is greater since the VSSM algorithm only has a one-dimensional interpolation; fortunately, a mesh of this shape is of little advantage.

(訳)
ウェイブガイドの構造は、2次元でモデル化され、TE10モードのガウシアンパルスで励起される。まず、最初はガイドに沿って半分に減少されたメッシュを含むもので、その後それを含まないもので、分析は2度実行された。入射の場と反射の場の両方を得るために一定の時間の間フィールドの値は記録された。これらは、周波数領域の係数で計算されるようフーリエ変換された。
細かいメッシュの3つの異なるアレンジについて調査された。これらのアレンジは、メッシュを、横方向にサブグリッドとして分割する図2(a)、縦方向にサブグリッドとして分割する図2(b)、両方向にサブグリッドとして分割する図2(c)、を含んでいる。 これら3つの異なる細かいメッシュのセルの形状はFDTDアルゴリズムに見られる構成が異なることを意味する故に利用される。この文書で概説された技法(MRA)、Zivanovic et alによって発表されたテクニック(VSSM)は共に、粗いメッシュと細かいメッシュとの境界からの反射のパーセンテージを見つけ出すために応用された。結果は図2(a)-(c)を比較することで明らかになる。
Fig. 2(a)とFig. 2(c)をみると、横方向に細分化したものと、縦横の両方向に細分化したメッシュの間で、MRAの成績とVSSMの成績は同等であることが理解できる。修正されたアルゴリズムにある第2の命令の差分によって生じたエラーは、オリジナルのVSSMにある2次元補間によって生じるそれと等しいからである。いずれのサブグリッド化の技術を用いても、反射のエラーは1パーセント以下に押さえることができることが見て取れる。縦方向にサブグリッドを細分化した場合、図2(b)、エラーは、1次元補間のみを行うVSSMアルゴリズムよりも大きい;幸いにも、この形状のメッシュはほとんど何の利益もない。

そして、図1ないし図2(a)?図2(c)を参酌すると、まず、図1では、左右方向にz軸が、上下方向にx軸が定義され、メッシュが描かれた中央(coarse/fine mesh boundary)よりも左側が粗いメッシュ領域、右側が細かいメッシュ領域であることが理解でき、当該関係は、図2においても同様であることは、当業者であれば普通に理解することができ、図2(a)では、グラフの中に描かれたメッシュ領域の図が、左半分が粗いメッシュ領域、右半分が上記粗いメッシュ領域を横方向のみにさらに細分化した細かいメッシュ領域であることを表し、
図2(b)では、グラフの中に描かれたメッシュ領域の図が、左半分が粗いメッシュ領域、右半分が上記粗いメッシュ領域を縦方向のみにさらに細分化した細かいメッシュ領域であることを表し、
図2(c)では、グラフの中に描かれたメッシュ領域の図が、左半分が粗いメッシュ領域、右半分が上記粗いメッシュ領域を縦・横方向の両方向にさらに細分化した細かいメッシュ領域であることを表し、
ていることが見て取れる。

以上の記載を見ると、刊行物2には、以下の技術事項が記載されているといえる。

i)タイトルが「有限差分時間領域法の分析技術に異なるサイズのセルを取り入れる方法」であるから、有限差分時間領域法(FDTD)のセルのサイズに関する技術であって、当該有限差分時間領域法(FDTD)を用いて分析するのは、イントロダクションを見ると「電磁波の増殖をモデリングする」ことであるといえる。

ii)刊行物2では、上記有限差分時間領域法(FDTD)のセルのサイズを、図1に記載されるように粗いメッシュ領域、細かいメッシュ領域とすることを前提とし、図2(a)ないし図2(c)のように細分化することで、反射のエラーについての考察を行っているから、有限差分時間領域法(FDTD)のセルを粗いメッシュ領域と細かいメッシュ領域とに細分化するとき、図2(a)ないし図2(c)のように細分化する技術が開示されているといえる。
例えば、図2(a)についてみると、粗いメッシュ領域と細かいメッシュ領域とでは、縦方向(x軸)に伸びる分割線は同じ分割状態であるのに対し、横方向(z軸)に伸びる分割線は、粗いメッシュ領域では2分割であるのに対し、細かいメッシュ領域では8分割されていて、このことは「II.メッシュ生成テクニック」の説明にある、メッシュ減少係数がx軸方向のみ4(z軸方向は1)としていることであるといえる。

iii)また、上記図2(a)において、縦方向に伸びる分割線は、粗いメッシュ領域、細かいメッシュ領域ともに同じである。

iv)刊行物2の図2に記載された構成は、x軸方向、z軸方向の2次元に関する具体的な分割状態のみが記載されているといえるが、刊行物2は、そもそも「電磁波の増殖をモデリングする」ためのものであり、電磁波の放射(反射)は、3次元空間になされるものであり、3次元空間におけるモデリングを前提としていることは、当業者であれば普通に理解でき、このことは、刊行物2の「II.メッシュ生成テクニック」に記載された「単純化するために、メッシュ生成アルゴリズムは、2次元のケースの場合で表現される。」の記載からも明らかである。
すなわち、刊行物2の図2では、x軸方向、z軸方向についてのみ粗いメッシュ領域と細かいメッシュ領域とで、異なる減少係数を用いて細分化を行う構成を開示しているが、当該構成は、3次元の構成においても適用できることは当業者であれば普通に想起しうることであって、このとき、3つの次元で少なくとも一つの次元の減少係数を異ならせて細分化を行うようにすることは、当業者が適宜採用し得た構成であるといえる。

v)刊行物2の図2(c)についてみると、x軸方向、z軸方向で細かいメッシュ領域の分割数が同じであるから、これを3次元に適用すれば、x軸方向、y軸方向、z軸方向で同じ分割数で細分化することを表していることは明らかである。

vi)刊行物2では、図2(a)ないし図2(c)の構成をそれぞれ採用し、それぞれの成績について検討していることから見て、図2(a)ないし図2(c)の構成は、それぞれ適宜選択可能な構成であって、何らかの成績により、最適なものを適宜選択できる構成であることが理解できる。

以上i)ないしvi)の刊行物2の記載に基づき、当業者が普通に想起し得た構成と、上記相違点の構成とについて検討すると、
刊行物2の上記ii)の構成は、異なるメッシュ減少係数でx軸とz軸とを細分化しているから、補正後発明の「前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義し」に相当するといえ、
刊行物2の上記iii)の構成は、縦方向に伸びる分割線が、粗いメッシュ領域、細かいメッシュ領域で共通であるから、補正後発明の「前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う」の構成に相当することは当業者であれば普通に理解できるものであり、
刊行物2の記載から普通に想起し得た上記iv)の構成は、補正後発明の「前記第1リファインメント係数及び前記第2リファインメント係数のうちの少なくとも1つと異なるよう前記第3リファインメント係数を定義するよう構成され」
の構成に相当するといえることは明らかである。

すなわち、上記ii)ないしiv)の記載から、刊行物2の記載(2次元の構成)に基づき、当該構成を3次元に適用した構成は、補正後発明と刊行物1発明との相違点に相当する構成であるといえる。

また、刊行物2に記載された構成を刊行物1発明に適用する点について検討すると、まず、刊行物2の上記i)の記載と、刊行物1の【0001】の「FD-TD(有限差分時間領域)法を用いた電磁界の解析に、排他的ではないが、特に、適用される。」の記載からみて、刊行物1発明と刊行物2に記載された技術事項とは「FD-TD(有限差分時間領域)法を用いて電磁界の解析を行う」という同じ技術分野に属する技術であるといえる。
さらに、上記v)に記載される、刊行物2の図2(c)の構成を3次元化したx軸方向、y軸方向、z軸方向で同じ分割数で細分化することは、刊行物1発明の細分化と同様の構成であることが理解できる。
別の細分化として、図2(a)の構成を3次元化した構成は、補正後発明と刊行物1発明との相違点の構成に相当することは、先に検討したとおりであり、上記vi)の記載によれば、図2(c)の構成と図2(a)の構成は、適宜選択可能であるといえるのであるから、刊行物1発明および刊行物2の記載を見た当業者であれば、刊行物1発明のx軸方向、y軸方向、z軸方向で同じ分割数で細分化する構成(刊行物2の図2(c)の構成を3次元化した構成)を、図2(a)に記載される構成を3次元化した構成と比較し、必要に応じて、図2(a)の構成を3次元化した構成とすることは、刊行物2において、図2(a)の構成と図2(c)の構成とを比較し適宜選択するのと同様の技術思想であって、当業者が容易になしえたことであるといえる。

したがって、刊行物1発明に刊行物2に記載された構成を適用し補正後発明とすることは、当業者が容易になしえたことであるといえる。

カ.効果
以上のように、上記相違点は当業者が容易に想到し得たものと認められ、補正後発明全体としてみても格別のものはなく、その作用効果も、上記構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。

キ.まとめ(独立特許要件)
以上によれば、補正後発明は、刊行物1および刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年6月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年11月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明のとおりであるところ、そのうち、請求項6に係る発明(以下「本願発明」という)は、平成24年11月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項6】(補正前)
シミュレーションされる物理的システムの数値近似を得ることによって前記物理的システムで生ずる波動伝播を評価する装置であって、
少なくとも2つの次元及び複数の第1グリッドセルを有する第1グリッドと、少なくとも2つの次元及び複数の第2グリッドセルを有する第2グリッドを有する計算領域を定義するよう構成される領域回路と、
所与の時間段階で全てのセルの少なくとも1つの解点について値を得るように更新プロシージャを実行するよう構成される更新回路と
を有し、
前記第2グリッドは、前記第1グリッドの少なくとも一部のリファインメントであり、
前記第1グリッドセル及び前記第2グリッドセルの夫々は、シミュレーションされる前記物理的システムの物理量を表す値が得られる1又はそれ以上の解点を有し、
前記領域回路は、
前記少なくとも2つの次元のうちの一方で前記第1グリッドと比較される第1リファインメント係数を有し且つ前記少なくとも2つの次元のうちの他方で前記第1グリッドと比較される第2リファインメント係数を有するよう前記第2グリッドを定義し、
前記第2リファインメント係数とは異なるよう前記第1リファインメント係数を定義するよう構成され、
前記第1グリッドの少なくとも一部は前記第2グリッドと重なり合う、装置。

2.引用例に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-053908号公報(上記刊行物1に同じ)には、前記「第2 2.(3)イ.」に摘記したとおりの事項が記載されており、刊行物1に記載された発明として、前記「第2 2.(3)ウ.」の刊行物1発明を認定することができる。

3.対比・判断
本願発明は、前記補正後の発明〔前記第2 2.(3)ア.に示した〈補正後の請求項5〉に係る発明〕との対応でみると、前記第2 2.(2)での認定から明らかなように、補正前の発明では、処理の対象が少なくとも2つの次元を有するものであって、上記2つの次元(一方の次元、他方の次元)について、(第1のグリッドから第2のグリッドに微細化を行うための)リファインメント係数を請求の範囲にあるような特定をする構成であったのに対し、補正後発明では、処理の対象が3つの次元(一方の次元、他方の次元、第3の次元)を有するものであって、上記一方と他方の次元に加えて、第3の次元のリファインメント係数についても、請求の範囲に記載したような特定がなされる構成なったものであって、補正前の発明(本願発明)では、2つの次元についてのみリファインメント係数を特定しているのに対し、補正後発明では、上記2つの次元に加えて、第3の次元についてもさらに、発明を特定する事項を付加したものといえ、当該付加した事項の点で異なり、その余の点で、補正後の発明(補正後発明)と本願発明とは一致するといえる。
してみると、上記一方と他方の次元に加えて、第3の次元のリファインメント係数についても特定される補正後発明が、上記刊行物1、刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記特定事項がない、本願発明についても、上記刊行物1、刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえることは明らかである。
よって、本願発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件出願の請求項6に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願の他の請求項1から5に係る各発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-17 
結審通知日 2014-02-25 
審決日 2014-03-10 
出願番号 特願2008-301702(P2008-301702)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 功  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 松尾 淳一
渡辺 努
発明の名称 物理的システムで生ずる波動伝播を評価する方法及び装置  
代理人 山口 昭則  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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