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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1287057
審判番号 不服2011-2139  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-28 
確定日 2014-04-23 
事件の表示 特願2005-115271「低濃度システアミン含有毛髪処理剤および該毛髪処理剤を使用した毛髪処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 2日出願公開、特開2005-330267〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年4月13日(優先権主張 平成16年4月19日)の出願であって、拒絶理由通知に応答し平成22年10月1日受付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成22年10月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月28日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判請求と同時に手続補正がなされたものであり、
その後、前置報告書を用いた審尋に応答し平成24年6月12日受付けで回答書が提出され、当審からの平成25年3月11日付けの拒絶理由通知に応答し平成25年5月17日受付けで意見書が提出され、再度の平成25年9月18日付けの拒絶理由通知に応答し平成25年11月6日受付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?5に係る発明は、平成23年1月28日に審判の請求と同時に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
システアミン濃度が0.5?3重量%でpHが8.0?10であり、かつデザイン形成、におい、毛髪柔軟化、毛髪浸透促進性、アルカリカラーの色落ち、ヘアマニキュアの色落ち、ダメージ等の評価が、カール形成効果の評価方法、においの評価方法、毛髪柔軟化の評価方法、アルカリカラーの濃染の評価方法、アルカリカラーの色落ちの評価方法、ヘアマニキュアの色落ちの評価方法、あるいはダメージの評価方法による評価において、評価基準が◎あるいは○という特性を有することを特徴とする毛髪処理剤。」

3.当審の拒絶理由の概要
当審の1回目の拒絶理由通知(平成25年3月11日付け)は、本件出願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-40741号公報(以下、「引用例1」)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、との理由を含むものである。
これに対し、審判請求人は、その反論の根拠として追加のデータを提示して同一ではない旨の主張を行ったものであり、その追加データは、後述検討するように(2回目の拒絶理由1の記A及び後記「4-3.(2)」を参照)、引用例1の実施例6の毛髪変形剤(毛髪処理剤)では、システアミン濃度とpHが本願発明で特定する数値範囲を満たすにもかかわらず、本願発明と異なる結果(特性)が得られるとするものである。
そこで、当審1回目の拒絶理由の判断を留保しつつ、当審の2回目の拒絶理由を通知した(平成25年9月18日付け)ものであり、その2回目の拒絶理由は、記載不備を指摘するものであって次のとおりである。

「理由1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記Aの点で、特許法第36条第4項第1号及び同第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記Bの点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

A.請求人は、平成25年5月17日受付の意見書において、追加実験結果として引用例1(特開平2003-40741号公報)の実施例6と、引用例2(特開平6-24946号公報)の実施例1との毛髪処理剤を用いたデータを提示しているところ、システアミン濃度とpH値が同一であっても、ヘアマニュキュアの色落ちが「◎」(本願の実施例47,42)と「△」(引用例1の実施例6,引用例2の実施例1)と記載されている。
そうすると、システアミン濃度とpH値が本願各請求項に特定された組合せを満たすだけでは、本願発明で特定する評価基準を満たさない場合があることを、出願人自ら明らかにして、主張しているものと言える。
しかし、本願明細書を検討しても、システアミン濃度とpH値を特定しさえすれば、本願発明で特定する評価基準を満たすように説明されているだけで、どのような毛髪組成物の組成の差異があってその評価基準を満たさない場合があるのかについて何等説明されていない。
よって、本願請求項1?5において、「カール形成効果の評価方法、においの評価方法、毛髪柔軟化の評価方法、アルカリカラーの濃染の評価方法、アルカリカラーの色落ちの評価方法、ヘアマニキュアの色落ちの評価方法、あるいはダメージの評価方法による評価において、評価基準が◎あるいは○という特性を有する」、または、「・・・評価基準が◎という特性を有する」ことは、システアミン濃度とpH値の特定以外のどのような発明特定事項によって達成されるのかが特定されていない(なお、自明な技術事項とも認められない。)というしかなく、具体的にどのような技術的手段(発明特定事項)によりその評価基準◎○を達成できるのかを、当業者が理解できない。
そして、○△の評価が分かれる原因となる発明特定事項が不明である以上、「カール形成効果の評価方法、においの評価方法、毛髪柔軟化の評価方法、アルカリカラーの濃染の評価方法、アルカリカラーの色落ちの評価方法、ヘアマニキュアの色落ちの評価方法、あるいはダメージの評価方法による評価において、評価基準が◎あるいは○という特性を有する」との特定は、単なる希望が記載されていると解する他ない。
本願明細書の実施例において用いられた、「還元剤[システアミンを50重量%含むシステアミン塩酸塩水溶液を所望量配合]、金属封鎖剤[純分88重量%のジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムを毛髪処理剤全重量に対して0.2重量%配合]、pH調整剤(純分28重量%のアンモニア水を所望量配合)、およびイオン交換水で構成される」(それら以外の成分を含まない)毛髪処理剤について、その評価結果を否定するものではないが、それ以外の場合にまでどのような発明特定事項によって達成されるのか明らかであるとは言えない。
なお、引用例1の実施例6や引用例2の実施例1に記載された成分(システアミン以外の成分)を除くとしたところで、上記記載不備は解消しないし、しかも、当初明細書に認識されていなかった新たな技術事項の導入であるとして、そのような除く記載は新規事項に当ると解さざるを得ないことにも、留意されたい。
B.請求項1?5における「・・・評価基準が◎あるいは○という特性を有する」や「・・・評価基準が全て◎という特性を有する」は、各評価基準が◎○とそれ以外(△×)、または◎とそれ以外(○△×)を区別する判断基準(例えば、○と△を分ける境界線)が不明であるから、判断する人によって同一の効果であっても○と△(または◎と○)に別れる場合があり、本願発明は不明確である。
補足すると、作用効果の評価判断として、発明の詳細な説明において◎や○が△や×に対して相対的に優れるとの意味で用いられることが許される場合があるとしても、特許請求の範囲に特定される発明特定事項であると解するのであれば、その絶対的に区別する判断基準(境界線)が不明確であることにより発明を特定する範囲が定まらず、そのような発明は不明確であると言う外ないのである。
なるほど、本願明細書には、評価する手法の記載や、処理を行わなかったものを標準品として比較したとの記載はあるが(回答書おいてトレーニングを積んだスペシャリストが評価したとの主張は、根拠が示めされていないが、仮にそれを受けいれたとしても)、多いとか少ないとかを区別する判断基準(◎○△×に振り分ける判断基準、換言すると境界線、標準品に比べて優れている程度(絶対値))が特定されていない(発明の詳細な説明においても同様である)のであるから、「・・・評価基準が◎あるいは○という特性を有する」や「・・・評価基準が全て◎という特性を有する」ことを発明特定事項と解するのであれば、単なる効果の評価としての相対的評価では足りず、誰しもが評価する結果が同じでないと権利範囲が変動することになり、評価する人によって(スペシャリストであってさえ)◎○△×の評価基準が別れる可能性が大きいと言え、それゆえ、本願発明は不明確であるという他ない。(なお。発明の詳細な説明における表1?9の結果が、効果の相対的な意味において無意味であると言っているわけではないし、相対的な意味において官能評価が無意味であると言っているわけでもないことに留意して下ださい。) 」
なお、上記理由1において、「特許請求の範囲が」とされているのが「特許請求の範囲及び発明の詳細な説明が」の誤記(下線箇所の脱落)であることは、36条第4項第1号の条文も引用していること及び記Aで指摘されている内容から明らかであり、請求人は、意見書において36条第4項第1号の違反について実質的に反論している。

ところで、1回目の拒絶理由通知において、優先権主張は適法でなく認められないことを次の様に指摘しているところ、この点について、審判請求人からの反論はなされていない。
国内優先権主張の基礎とされている特願2004-123560号の明細書には、本件出願の請求項1?5に係る発明の発明特定事項の「毛髪柔軟化の評価方法」及び「アルカリカラーの濃染の評価方法」については記載されておらず、また、各実施例におけるそれらの評価方法に基づく評価結果についても記載されていない。また、本件出願の請求項1,2に係る発明の発明特定事項の「システアミン濃度0.5?3重量%でpHが8.0?10」,「システアミン濃度2?3重量%でpHが7.5?10」についても、前記優先権主張の出願には、pHについて「?11」と記載されているだけである。
したがって、本件出願の請求項1?5に係る発明について、上記出願を基礎とした優先権主張は認められない。」(注:下線は、原文のとおり。)

4.当審の判断
4-1.明確性の記載不備(36条6項2号違反)について
前記摘示した2回目の拒絶理由通知の「記B」に指摘したとおり、請求項1における「・・・評価基準が◎あるいは○という特性を有する」は、各評価基準が◎○とそれ以外(△×)を区別する判断基準(例えば、○と△を分ける境界線)が不明であるから、判断する人によって同一の効果であっても○と△に別れる場合があり、本願発明は不明確である。

これに対し、審判請求人は、2回目の意見書において次の様に反論する。
「本願発明の特性に関する前記発明特定事項は、カール形成効果の評価において、ウエーブ効率(%)を採用する(本願明細書の0019段落)以外は、視覚、触感あるいは臭覚による相対的な官能試験によるものです。ただ、前記のような相対的な官能試験は化粧品や食料品のような技術分野で広く採用されている慣用の商品の評価方法ですが、本願拒絶理由でもご指摘のように、前記のような官能試験の評価において個人差の生じることは避けることはできません。従って、毛髪処理剤の分野での前記官能試験の評価は、毛髪処理剤の分野におけるトレーニング、特に相対的評価の観点からトレーニングを積んだ感覚の鋭敏なスペシャリストである複数人の官能パネラーが、その感覚を活用して評価することが通常行われており、本願発明の毛髪処理剤における前記発明特定事項の官能試験の評価も、同様の評価方法によって行われたものです。さらに、本願発明の前記特性に関する発明特定事項に関する◎、○、△、及び×という相対的評価における、◎と○という区分、及び△と×という区分は基準品に対する単に2段階の区別に過ぎず、かつこの2段階の内容も、上述のような毛髪処理剤の分野の相対的評価に習熟した複数人の官能パネラーによる官能評価によれば、本願発明の実施品の毛髪処理剤が、◎と○のどちらに属するかという区別、及び△と×のどちらに属するかという区別は、客観的に集約して行うことができる内容のものです。また、本願発明の実施品の毛髪処理剤が、○と△のどちらに属するかという区別は実施品をはさんでの区別である○と△の評価内容は、前記官能パネラーによれば勿論、官能パネラーによらなくても当業者が客観的に集約して行うことができるものです。」

しかし、カール形成効果については、「ウェーブ効率の値も参考にし評価した。」(本願明細書段落【0019】参照)とされているが、
「◎ 非常にしっかりとした弾力のあるカールを形成し、ウエーブ効率が非常に高い。
○ しっかりとしたカールを形成し、ウエーブ効率が高い。
△ ゆるやかなカールを形成し、ウエーブ効率が低い。
× ほとんどカールが形成されず、ウエーブ効率が非常に低い。」(同書段落【0021】)との判断であり、評価者の主観に基づく感覚的な相対評価にすぎず、作用効果の優劣としての相対的な評価として意味があり得るとしても、権利範囲に入るか否かの判断として捉えた場合に、たとえ熟練した官能パネラーであったとてしても、「○」と「△」の間を切り分ける客観的な基準が特定されていない状況では、「しっかり」と「ゆるやかな」とを明確に切り分けることはできないし、ウェーブ効率が「高い」と「低い」とを明確に切り分けることはできないと言う他無く、第三者であればなおさら区別することはできないと解するのが相当である。
そして、「ダメージ」についても、
「◎ ダメージが非常に少ない。
○ ダメージが少ない。
△ ダメージが多い。
× ダメージが非常に多い。」
との判断であり、評価者の主観に基づく感覚的な相対評価にすぎず、作用効果の優劣としての相対的な評価として意味があり得るとしても、権利範囲に入るか否かの判断として捉えた場合に、たとえ熟練した官能パネラーであったとしても、「○」と「△」の間を切り分ける客観的な基準が特定されていない状況では、「ダメージが少ない」と「ダメージが多い」とを明確に切り分けることはできないと言う他無く、第三者であればなおさら区別することはできないと解するのが相当である。
同様に、「におい」についても、
「 ◎ においが非常に少ない。
○ においが少ない。
△ におう。
× 非常ににおう。」(同書段落【0025】)
との判断であり、評価者の主観に基づく感覚的な相対評価にすぎず、作用効果の優劣としての相対的な評価として意味があり得るとしても、権利範囲に入るか否かの判断として捉えた場合に、たとえ熟練した官能パネラーであったとしても、「○」と「△」の間を切り分ける客観的な基準が特定されていない状況では、「においが少ない」と「におう」とを明確に切り分けることはできないと言う他無く、第三者であればなおさら区別することはできないと解するのが相当である。

次に、「アルカリカラーの色落ち」と「ヘアマニュキュアの色落ち」については、いずれも、「本発明の毛髪処理剤による処理を行わなかったものを標準品(この標準品を色落ちしていないものとする)とし、色落ちの評価は前記の標準品と比較して行った。」(同書段落【0022】,【0023】)とされていて、その標準品を比較対象として明らかにしている点で前述の特性の場合と違いがあるものの、いずれも、
「◎ 色落ちが非常に少ない。
○ 色落ちが少ない。
△ 色落ちが多い。
× 色落ちが非常に多い。」
との判断であり、評価者の主観に基づく感覚的な相対評価にすぎず、作用効果の優劣としての相対的な評価として意味があり得るとしても、権利範囲に入るか否かの判断として捉えた場合に、たとえ熟練した官能パネラーであったとしても、「○」と「△」の間を切り分ける客観的な基準が特定されていない状況で、「色落ちが少ない」と「色落ちが多い」との間の程度の差(換言すると、標準品に対する色落ちの程度)を切り分けることはできないと言う他無く、第三者であればなおさら区別することはできないと解するのが相当である。
同様に、「毛髪柔軟化」と「アルカリカラーの濃染」についても、前記色落ちの場合と同様に、「本発明の毛髪処理剤による処理を行わなかったものを標準品」として比較を行っているが、
「◎ 標準品と比べ、毛髪に非常に柔軟性が出、手触りが非常に良い
○ 標準品と比べ、毛髪に柔軟性が出、手触りがよい
△ 標準品と同等の手触り
× 標準品と比べ、毛髪が硬く、手触りが悪い」、
「◎ 標準品と比べ、色が非常に濃く染まる
○ 標準品と比べ、色が濃く染まる
△ 標準品と同等に染まる
× 標準品と比べ、色が薄く染まる」
との判断であり、評価者の主観に基づく感覚的な相対評価にすぎず、作用効果の優劣としての相対的な評価として意味があり得るとしても、権利範囲に入るか否かの判断として捉えた場合に、たとえ熟練した官能パネラーであったとしても、「○」と「△」の間を切り分ける客観的な基準が特定されていない状況で、どの程度の幅で「同等」といえ、どの程度の差であれば「手触りが良い」、「色が濃く染まる」と判断できるものではないし、第三者であればなおさら区別することはできないと解するのが相当である。
したがって、前記審判請求人の主張は採用できない。

当審は、明細書に記載された実施例と比較例との間の評価として、熟練された官能パネラーの「○」と「△」を用いた相対評価を否定するものではないが、上記検討のとおり、それはあくまでも主観的なものであって、「○」と「△」の間を切り分ける客観的な基準が特定されていない状況では、特許請求の範囲に特定された「・・・評価基準が◎あるいは○という特性を有する」こと、即ち○△の区別は、例えば第三者が権利範囲に該当するか否かを判断するに際し、同じ組成物であっても、常に同じ結果が得られるとは言えず、それを覆す格別の事情も見いだせないことから、発明特定事項である「・・・評価基準が◎あるいは○との特性を有する」との評価が本願発明では明確に定められていないと言う他ない。
よって、本願発明は、不明確と言える。

4-2.実施可能要件の記載不備(36条4項1号)について
前記摘示した2回目の拒絶理由通知の「記A」に指摘したとおり、「本願明細書を検討しても、システアミン濃度とpH値を特定しさえすれば、本願発明で特定する評価基準を満たすように説明されているだけで、どのような毛髪組成物の組成の差異があってその評価基準を満たさない場合があるのかについて何等説明されていない。」、言い換えると、その評価基準の特定は、「単なる希望が記載されていると解する他ない。」ものと言う他なく、本願明細書の実施例で用いられた組成物がその評価基準を満たすとしても、それ以外の組成の場合に、「システアミン濃度とpH値」の特定以外のどのような技術的手段によってその評価基準を満たすのか明らかであるとは言えない。

かかる記載不備の判断は、同一の発明があるとの拒絶理由(引用例1の実施例6)に対し、単に、システアミンの濃度とpHが本願発明と同一であっても、評価結果が異なるとの主張を審判請求人(出願人)が行ったことに端を発している。
「デザイン形成、におい、毛髪柔軟化、毛髪浸透促進性、アルカリカラーの色落ち、ヘアマニキュアの色落ち、ダメージ等の評価が、カール形成効果の評価方法、においの評価方法、毛髪柔軟化の評価方法、アルカリカラーの濃染の評価方法、アルカリカラーの色落ちの評価方法、ヘアマニキュアの色落ちの評価方法、あるいはダメージの評価方法による評価において、評価基準が◎あるいは○という特性を有する」(以下、単に「評価基準が◎あるいは○という特性を有する」ともいう。)との作用効果と認められる事項が、本願発明で特定されている「システアミン濃度が0.5?3重量%でpHが8.0?10であり」との発明特定事項だけでは達成し得ないことを、出願人自ら明らかにし、且つ主張しているのである。
しかし、本願発明は、一部の成分とpHが特定されているにすぎないものであり、組成が全て特定されている訳ではなく、多種多様な態様を採り得るものであるにもかかわらず、「評価基準が◎あるいは○という特性を有する」ために、「システアミン濃度が0.5?3重量%でpHが8.0?10であり」との発明特定事項以外のどのような技術事項(他の成分を含有しないこと?、各成分の成分比?など)を満たせば良いのかは、本願明細書を検討しても記載されていないし、自明なこととも認められないことからすると、その必要な技術事項を理解するのに過度の試行錯誤が必要であると言う他無い。あえて言えば、「評価基準が◎あるいは○という特性を有する」ことは、必要な実現手段を欠くものである点で、単に希望が記載されているに等しいものと言わざるを得ない。
なるほど、本願明細書にその特性を満たす実施例が記載されている。しかし、本願発明で任意に採用し得る(組成物の成分としてシステアミンを必須とし、pHが特定されているだけで、他の成分や他の物性は任意である)成分として、特殊な成分や条件を採用しているならいざ知らず、通常採用し得る成分や成分比率などを採用しても、所期の特性を満たし得ない場合がある(意見書でデータを用いての審判請求人の主張による)のであれば、組成物について特定された特性が○か△かその都度評価しなければならないとの過度の試行錯誤が必要となることに変わりは無いから、本願明細書の記載は当業者が容易に実施できる程度に記載されていないと判断するのが相当である。

これに対し、審判請求人は、2回目の意見書において、次の様な主張もしている。
(イ)「上述のように本願明細書に記載の実施例1?53の実験結果を見れば、前記特性に関連した発明特定事項を満足した本願発明の毛髪処理剤を得ることは出来ることは容易に理解できます(なお、付言しますに、本願発明は特許法第2条第3項でいう「方法」の発明ではなく「物」のカテゴリーに属する発明です)。
本願発明の毛髪処理剤は、毛髪還元剤としてはシステアミンのみを含有し、かつ該毛髪処理剤のpHをシステアミン濃度に応じて特定の範囲としたものを基本的な構成とし、該構成を満足するものは、上述のように本願明細書の実施例の記載からその実施が可能です。ただ、本願発明の毛髪処理剤は前記の基本的な構成のものに限定されず、その実施態様として、例えば毛髪処理剤の慣用の配合成分として公知のもの、あるいは還元剤としてシステアミン以外の他の公知の還元剤を配合したもの等もその範囲に含むことがあります。ただ、そのような実施態様として実施した毛髪処理剤が、本願発明の前記の特性に関連した発明特定事項を満足しないものである場合には、該毛髪処理剤は本願発明の毛髪処理剤の範囲に含まれないだけでなく、そのような毛髪処理剤を排除して、本願発明の毛髪処理剤を実施することは当業者がなんらの発明力を要することなく行うことができるものです。従って、前記のような事例が存在することは、本願が第36条第4項第1号の要件(実施可能要件)を満足しないと言う判断の根拠にならないと考えます。」
(ロ)「本願拒絶理由では、本願発明の毛髪処理剤の前記特性に関する発明特定事項は「そして、○△の評価が分かれる原因となる発明特定事項が不明である以上・・・・・・・・・単なる希望が記載されていると解する他ない」(本願拒絶理由通知書第2頁第7行?12行)とご判断されている。しかしながら、前記(2)-1で述べたように前記特性に関する発明特定事項は、本願明細書に記載の実施例1?53によって現実に達成された新規な発明特定事項であって希望的発明特定事項というようなものではなく、かつ上述のように平成25年5月17日付意見書において提示した引用例1(特開平2003-40741号公報)の実施例6と引用例2(特開平6-24946号公報)の実施例1の毛髪処理剤の実験結果は、本願発明の毛髪処理剤の前記特性に関する発明特定事項を不明とするものではない以上、前記のご判断も当たらないと考えます。」

しかし、次のとおり、これらの審判請求人の主張は失当であり、採用できない。
(イ)の主張について: 引用例1の実施例6は、通常採用し得る態様と認められ、通常採り得ない様な特殊な条件を採用したものではないので、そのような態様を対象外とするための発明特定事項が明確にされることが必要となるのであり、ある組成物が、本願発明で特定された評価特性を満たすものであるかは直ちには分からず、満たすか否かを判断するのに過度の試行錯誤が必要となると言う外ない。まして、前記「4-1.」で検討したように、○と△を区別する基準が不明確であるから、満たすか否かの判断も、不明確で事実上極めて困難であると言わざるを得ないものであり、なおさら過度の試行錯誤が必要となる。
(ロ)の主張について: 意見書の新規性を回避するために提示された追加データによって、本願発明の特性限定は、その特性が実現するための構成が特定されていないため、根拠無く単に希望が記載されていると解する外無く、所期の特性を達成するための必要な構成(発明特定事項)が不明であることが明らかにされている。

よって、本願発明は、実施可能要件を満たしていない。

4-3.新規性欠如(29条1項3号違反)について
(1)引用例
当審の1回目の拒絶理由に引用された本願出願前の刊行物である引用例1(特開2003-40741号公報)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線と表5中の「←」は、当審で付した。

(1-i)「【請求項1】 非イオン界面活性剤であるA成分と、
非イオン界面活性剤であるB成分と、
溶剤であるC成分と、
還元剤であるD成分と、
を含有する毛髪変形剤であって、
前記A成分のHLBと、前記B成分のHLBとが異なることを特徴とする毛髪変形剤。
【請求項2】?【請求項7】 ・・・・
【請求項8】 PHが6?10であることを特徴とする前記請求項1?7のいずれかに記載の毛髪変形剤。】 」(【特許請求の範囲】の【請求項1】、【請求項8】)
(1-ii)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、毛髪に対するパーマネントウェーブ効果又はストレート効果が高く、更に、それら効果の持続性があり、加えて、毛髪に良好な感触を付与する毛髪変形剤、パーマネントウェーブ用剤、縮毛矯正剤、パーマネントウェーブ用品、及び縮毛矯正用品に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、還元剤やアルカリ剤を含む毛髪変形剤(パーマネントウェーブ用剤、縮毛矯正剤)が用いられてきた。この毛髪変形剤は、以下のようにして、パーマネントウェーブ処理または縮毛矯正処理を行うことができる。」(段落【0001】?【0002】)
(1-iii)「【0007】本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、使用後における毛髪の感触が良好であり、パーマネントウェーブ効果やストレート効果に優れ、それら効果が長く持続し、更に、刺激臭や不快臭が少ない毛髪変形剤、パーマネントウェーブ用剤、縮毛矯正剤、パーマネントウェーブ用品、及び縮毛矯正用品を提供することを目的とする。」(段落【0007】)
(1-iv)「【0009】本発明の毛髪変形剤は、例えば、パーマネントウェーブ用剤や縮毛矯正剤として用いることができる。特に、本発明の毛髪変形剤は、HLBの値が互いに異なる非イオン性界面活性剤であるA成分とB成分とを含有することにより、パーマネントウェーブ処理や縮毛矯正処理を行った後でも、毛髪が損傷せず、毛髪の感触が良好であるという特長を有する。」(段落【0009】)
(1-v)「【0039】本発明の毛髪変形剤は、pHが6以上であることによって、パーマネントウェーブ効果や縮毛矯正効果が一層高く、尚かつ、pHが10以下であることによって、毛髪の損傷が一層起こりにくいという特長を有する。本発明の毛髪変形剤のpHは、例えば、アルカリ剤を配合することにより調整することができる。」(段落【0039】参照)
(1-vi)「【0048】本発明の縮毛矯正用品は、例えば、第1剤を塗布して可塑性のある状態とした毛髪をコームスルーすることにより真っ直ぐに伸ばし、次に、第2剤を塗布して毛髪を復元性のある状態に戻すことによって、縮毛矯正処理をするものである。この縮毛矯正用品は、処理後における毛髪の感触が良好であり、縮毛矯正効果が高く、尚かつ、その効果が長く持続し、更に、刺激臭や不快臭が少ないという特長を有する。」(段落【0048】参照)
(1-vii)「【0062】(実施例6)本実施例6では、下記表5に記載の各成分を、それぞれ対応する配合比(重量%濃度)で含む縮毛矯正剤(毛髪変形剤)を一般的な乳化方法にて調製した。
【0063】 【表5】

【0064】また、前記実施例1の酸化剤と同様に、酸化剤を調製した。そして、これら縮毛矯正剤(第1剤)と酸化剤(第2剤)との組み合わせを、縮毛矯正用品とした。尚、本実施例6の縮毛矯正剤は、請求項1?8及び10に記載の発明の範囲内の例であり、縮毛矯正用品は、請求項12に記載の発明の範囲内の例である。・・・(後略)。」(段落【0062】?【0064】参照)
(1-viii)「【0072】b)次に、本実施例1?8の縮毛矯正剤、縮毛矯正用品、パーマネントウェーブ用剤及びパーマネントウェーブ用品の効果を説明する。
本実施例1?8の縮毛矯正剤、縮毛矯正用品、パーマネントウェーブ用剤及びパーマネントウェーブ用品は、HLBの値が互いに異なる2種の非イオン性界面活性剤(A成分とB成分)を含有することにより、縮毛矯正処理やパーマネントウェーブ処理を行った後でも、毛髪が損傷せず、毛髪の感触が良好であるという長所を有する。
【0073】これらの縮毛矯正剤、縮毛矯正用品、パーマネントウェーブ用剤及びパーマネントウェーブ用品は、縮毛矯正効果やパーマネントウェーブ効果が高く、尚かつそれらの効果が長時間持続する。
これらの縮毛矯正剤、縮毛矯正用品、パーマネントウェーブ用剤及びパーマネントウェーブ用品は、刺激臭や不快臭が少ないという長所を有する。
【0074】これらの縮毛矯正剤、縮毛矯正用品、パーマネントウェーブ用剤及びパーマネントウェーブ用品は、A成分のHLBが3以上9以下の範囲にあり、B成分のHLBが3より小さい範囲、または、9より大きい範囲にあると共に、A成分とB成分の配合比が40/60?95/50の範囲にある場合には、上記?の効果が一層高い。
【0075】これらの縮毛矯正剤及びパーマネントウェーブ用剤は、pHが6以上である場合には、パーマネントウェーブ効果や縮毛矯正効果が一層高く、また、pHが10以下である場合には、毛髪の損傷が一層起こりにくい。
c)次に、実施例1、2、3、5、6、7、8及び比較例1?3の縮毛矯正剤及び縮毛矯正用品の効果を確かめるために行った試験について説明する。
【0076】ストレート処理(縮毛矯正処理)
実施例1で調製した縮毛矯正用品を用いて、以下のようにストレート処理を行った。まず、パネラーの毛髪に、縮毛矯正剤を塗布し、コームスルーを行った後、20分間室温で放置した。
【0077】次に、40℃の温湯で毛髪を充分洗浄してから、酸化剤を塗布し、コームスルーを行った。その後20分間放置してから、40℃の温湯で毛髪を洗浄し、乾燥させた。尚、パネラーの毛髪は、頭頂部で左右半分に分け、片側のみに上記処理を行い、処理を行わなかった反対側の毛髪は、比較対照に用いた。
【0078】また、実施例2、3、5、6、7、8及び比較例1?3で調製した縮毛矯正用品についても上と同様にストレート処理を行った。
処理後の毛髪の状態の評価
前記で処理した毛髪について、毛髪の仕上がり(毛髪の損傷程度、感触)、ストレート効果(縮毛矯正効果)、及びストレート持続力(前記の処理から一ヶ月経過した時点での、ストレート効果の持続力)を、以下の基準で評価した。
【0079】尚、毛髪の仕上がり、ストレート効果については、前記の処理の直後に評価した。
(毛髪の仕上がり)
◎:毛髪の損傷が少なく、しなやかで非常に櫛通りがよい。
【0080】
○:毛髪の損傷が少なく、しなやかで櫛通りがよい
△:毛髪がやや損傷し、ややしなやかさや櫛通りが劣る
×:毛髪が損傷し、しなやかさや櫛通りが劣る。
(ストレート効果)
◎:全体に均一でくせ毛がよく伸び、ボリュームもよく抑えられている。
【0081】○:全体に均一でくせ毛が伸び、ボリュームも抑えられている。
△:全体にややムラで、くせ毛の伸びがやや悪く、ボリュームも抑えられていない。
×:全体的にムラで、くせ毛の伸びが悪く、ボリュームも抑えられていない。
【0082】(ストレート持続力)
◎:殆どくせがなく、ボリュームも抑えられている。
○:くせがややあるが、ボリュームが抑えられている。
△:くせがあり、ボリュームもややある。
【0083】×:くせがあり、ボリュームもある。
臭いの評価
前記の処理を行った際の臭いを、以下の基準で評価した。
◎:刺激臭や不快臭が非常に少ない。
【0084】
○:刺激臭や不快臭が少ない。
△:刺激臭や不快臭がややある。
×:刺激臭や不快臭がかなりある。
評価結果を表8に示す。
【0085】 【表8】

【0086】表8に示す様に、実施例1、2、3、5、6、7、8については、毛髪の仕上がり、ストレート効果、及びストレート持続力、及び、臭いのいずれの項目についても、△以上の結果であった。特に、A成分とB成分との配合比が、40/60?95/5の範囲内にある実施例1、2、3、5、6については、いずれの項目についても、○又は◎の結果であった。」(段落【0072】?【0086】参照)

(2)対比、判断
引用例1には、上記「4-3.」の(1)の摘示記載からみて、特に、実施例6に着目すると、システアミン濃度が3.0重量%で、pHが8.0である毛髪変形剤(摘示(1-vii)の表5参照)である次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されていると認めることができる。
<引用例1発明>
「システアミン濃度が3.0重量%でpHが8.0である毛髪変形剤。」

そこで、本願発明と引用例1発明を対比する。
(a)引用例1発明の「毛髪変形剤」は、本願発明の「毛髪処理剤」が毛髪変形剤(デザイン形成剤)をその態様の一つとすることが明らかにされていること(当初の請求項8、段落【0011】参照)から、本願発明の「毛髪処理剤」に相当する。
(b)引用例1発明の「システアミン濃度が3.0重量%でpHが8.0」は、本願発明の「システアミン濃度が0.5?3重量%でpHが8.0?10であり」に包含された範囲であり、両者は一致する。

してみると、両発明は、
「システアミン濃度が3.0重量%でpHが8.0である毛髪処理剤(毛髪変形剤)。」
で一致し、本願発明では、更に、
「デザイン形成、におい、毛髪柔軟化、毛髪浸透促進性、アルカリカラーの色落ち、ヘアマニキュアの色落ち、ダメージ等の評価が、カール形成効果の評価方法、においの評価方法、毛髪柔軟化の評価方法、アルカリカラーの濃染の評価方法、アルカリカラーの色落ちの評価方法、ヘアマニキュアの色落ちの評価方法、あるいはダメージの評価方法による評価において、評価基準が◎あるいは○という特性を有する」
との点を発明特定事項としている。

そこで、その発明特定事項について検討する。
引用例1では、発明特定事項としてではないが、その作用効果の評価として、引用例1発明の毛髪変形剤は、縮毛矯正効果やパーマネントウェーブ効果が高く、かつそれらの効果が長時間持続すること、そして刺激臭や不快臭が少ないことが記載され(摘示(1-viii)の段落【0073】参照)、さらに、毛髪の仕上がりについて、「毛髪の損傷が少なく、しなやかで櫛通りがよい」ことが記載されているので(同段落【0080】【0085】参照)、本願発明の「毛髪処理剤」が有する「デザイン形成、におい、毛髪柔軟化、毛髪浸透促進性、アルカリカラーの色落ち、ヘアマニキュアの色落ち、ダメージ等の評価が、カール形成効果の評価方法、においの評価方法、毛髪柔軟化の評価方法、アルカリカラーの濃染の評価方法、アルカリカラーの色落ちの評価方法、ヘアマニキュアの色落ちの評価方法、あるいはダメージの評価方法による評価において、評価基準が◎あるいは○という特性を有する」の下線の箇所の特性において、両発明が同じ特性を有していることは明らかである。
そして、本願発明では、染毛を伴うことが必須とされていないし、毛髪変形を行なう時に必ず染毛を行なうのが必然であるとも認められないから、染毛を伴わない単なる毛髪変形剤も対象となるのであって、そのような場合に「アルカリカラーの濃染の評価方法、アルカリカラーの色落ちの評価方法、ヘアマニキュアの色落ちの評価方法による評価において、評価基準が◎あるいは○という特性を有する」は、技術的意義を持ち得ない。
さらに、「毛髪浸透促進性」については、そもそも具体的な評価基準が示されておらず、せいぜい他の評価基準(例えばカール形成効果の評価)に含まれていると言えるかも知れないとしても、個別の判断を必要としないものである。
仮に、評価を勘案したところで、1回目の拒絶理由で引用例7として摘示した雑誌「MARCEL 12月号,新美容出版株式会社、2003年、29-31頁 」によれば、本願発明の「毛髪処理剤」が有する他の特性、すなわち「毛髪浸透促進性」に優れ、「アルカリカラーの色落ち、ヘアマニキュアの色落ち」が少ないことについては、システアミンを配合したカーリング剤の有する周知の特性であることが知られている(第29頁中欄7行?11行に、システアミンは髪への浸透性が高く比較的低いpHでもしっかりとしたカールを形成できること、第30頁左欄4行?5行に、かかり上がりの質感に柔らかさがあること、第30頁中欄12行?15行には、システアミンの方が他よりカラー毛の褪色が少ない旨の記載を参照。)のであるから、それらの特性を評価すれば、「毛髪浸透促進性」に優れ、「アルカリカラーの色落ち、ヘアマニキュアの色落ち」が少ないと確認できることに過ぎない。

この点について、審判請求人は、平成25年5月17日受付の意見書において、次の対比データを示している。

この追加実験データによれば、引用例1の実施例6は、「ヘアマニュキュアの色落ち」の点でのみ「△」であることを除き、他の評価は、「◎」または「○」であり本願発明で特定する評価を満たしている。
そして、そもそも引用例1発明は毛髪変形剤の発明であり、引用例1には、髪の染毛に関する言及は何もなく、髪の染毛を行わないヒトに対して使用できることは明らかである。他方、本願発明では、毛髪処理剤として毛髪変形剤(デザイン剤)を選択できるものであり(前記対比の(a)を参照)、染毛をする場合があるとしても、染毛を行わない場合も選択され得るものであり(毛髪処理剤が染毛を必ず伴うものでないことは技術常識であり、本願発明では単に毛髪処理剤とされているだけで、染毛を行うことは限定されていない。)、そのような染毛を行わない場合には「ヘアマニュキュアの色落ち」が技術的意義を持ち得ないから、そのデータを勘案することはできない。なお、補足すると、ある発明に包含される一部の特定の発明について、優れた作用効果があり得たとしても、ある発明に包含される全ての場合に渡っての作用効果ではない場合には、その一部の特定の発明の作用効果をもってある発明に優れた作用効果があると言うべきではない。
しかも、○と△の評価の差は、(一部の特性については比較対象としての標準品が定められているとしても)相対的なものであり、発明特定事項としては不明確なものと言う他ないこと(上記「4-1.」を参照)から、提示された追加データをもってしては、「ヘアマニュキュアの色落ち」の「△」が妥当なものとは直ちには言えず(相対的な差異があることを否定しているわけでない。前述のシステアミンの周知の特性も勘案すれば、第三者が評価した場合に「△」ではなく「○」と評価できる可能性を否定できない。)、この評価の差によって、両発明の毛髪変形剤(毛髪処理剤)が異なるものであるとはできない。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。また、本願請求項1に係る発明は、同法第29条第1項第3号の規定に該当するので、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-17 
結審通知日 2014-02-25 
審決日 2014-03-10 
出願番号 特願2005-115271(P2005-115271)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 113- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 天野 貴子
渕野 留香
発明の名称 低濃度システアミン含有毛髪処理剤および該毛髪処理剤を使用した毛髪処理方法  
代理人 川島 利和  

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